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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G10L
管理番号 1293963
審判番号 不服2013-20690  
総通号数 181 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-10-24 
確定日 2014-11-12 
事件の表示 特願2012-526186「周波数帯信号エネルギーに基づいた、音声符号化における周波数帯スケール・ファクタ測定」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 3月 3日国際公開、WO2011/024198、平成25年 1月24日国内公表、特表2013-502619〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成22年8月24日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2009年8月24日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、手続の概要は以下のとおりである。

手続補正 :平成24年 4月13日
拒絶理由通知 :平成25年 3月18日(起案日)
意見書 :平成25年 6月13日
手続補正 :平成25年 6月13日
拒絶査定 :平成25年 7月 3日(起案日)
拒絶査定不服審判請求 :平成25年10月24日
手続補正 :平成25年10月24日

第2 平成25年10月24日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成25年10月24日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正

平成25年10月24日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするもので、補正前の請求項11(補正後の請求項8)については、本件補正前に、
「 【請求項9】
量子化された出力信号を生成するための周波数ドメイン音声信号の周波数帯の周波数係数についてのスケール・ファクタを作る方法であって、
所定のレベルを超えない、前記量子化された出力信号に対するビットレートの場合、
前記周波数帯のエネルギーを求めるステップと、
前記周波数帯の前記エネルギーに基づいて、スケール・ファクタを求めるステップとを含み、
前記所定のレベルを超える、前記量子化された出力信号に対するビットレートの場合、
前記周波数帯の最大の周波数係数を求めるステップと、
量子化後の対応する前記係数が0にならないようなスケール・ファクタを選択するステップと
を含み、
前記周波数係数の量子化が、前記スケール・ファクタに基づく、
方法。
【請求項11】
前記周波数帯の前記エネルギーに基づいて前記スケール・ファクタを求めるステップが、
前記周波数帯の前記エネルギーの対数を算出するステップと、
初項を求めるために、前記周波数帯の前記エネルギーの前記対数に定数を加算するステップと、
前記スケール・ファクタを求めるために、前記初項をある乗数で乗算するステップとを含む、
請求項9に記載の方法。」
とあったところを、

本件補正後、
「 【請求項8】
量子化された出力信号を生成するための周波数ドメイン音声信号の周波数帯の周波数係数についてのスケール・ファクタを作る方法であって、
所定のレベルを超えない、前記量子化された出力信号に対するビットレートの場合、
前記周波数帯のエネルギーを求めるステップと、
前記周波数帯の前記エネルギーに基づいて、スケール・ファクタを求めるステップとを含み、
前記周波数帯の前記エネルギーに基づいて前記スケール・ファクタを求めるステップが、前記周波数帯の前記エネルギーの対数を算出するステップと、初項を求めるために前記周波数帯の前記エネルギーの前記対数に定数を加算するステップと、前記初項をある乗数で乗算するステップとを含み、
前記所定のレベルを超える、前記量子化された出力信号に対するビットレートの場合、
前記周波数帯それぞれについて、その周波数帯の前記係数のうち最大の係数を求めるステップと、
前記周波数帯それぞれについて、前記最大の係数に関連する前記量子化された係数が0にならないようなスケール・ファクタを選択するステップと、を含み、
前記周波数係数の量子化が、前記スケール・ファクタに基づく、
方法。」
とするものである。

上記本件補正の内容は、補正前の請求項11(補正後の請求項8)について、発明特定事項である「前記周波数帯の最大の周波数係数を求めるステップ」について「前記周波数帯それぞれについて、その周波数帯の前記係数のうち最大の係数を求めるステップ」と、「量子化後の対応する前記係数が0にならないようなスケール・ファクタを選択するステップ」について「前記周波数帯それぞれについて、前記最大の係数に関連する前記量子化された係数が0にならないようなスケール・ファクタを選択するステップ」と、それぞれ、限定したものである。
本件補正は、発明特定事項を限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項8に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)否かについて、以下検討する。

2.引用例

原査定の拒絶の理由に引用された特開2001-148632号公報(平成13年5月29日公開、以下「引用例」という。)には、図面と共に、以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。)

(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、音声信号や音楽信号などのオーディオ信号に対する符号化装置である。より詳細には直交変換等の手法を用いて時間領域から周波数領域に変換して周波数変換信号を作成し、より少ない符号量でデータ圧縮を行い、且つ高音質に表現するための符号化列を高速で生成する符号化装置、符号化方法、及びその記録媒体に関するものである。」

(2)「【0004】本発明はこのような従来の問題点に鑑みてなされたものであって、可変ビットレートの音声圧縮において、処理量を少なくし高音質と高圧縮とを両立することができる符号化装置、符号化方法、及び符号化方法のプログラムを記録した記録媒体を提供することを目的とするものである。」

(3)「【0026】量子化部11は量子化精度チェック部14で算出された各帯域ごとの絶対的スケールファクタASF(B)を基に、各周波数帯域の周波数情報に対して量子化を行うものである。判定部12は量子化部11によって量子化された周波数情報を符号化するのに必要な情報量(ビットレート)を計数するものである。そして得られた情報量が、符号化部7における符号化で所望される情報量より小さい場合は、絶対的スケールファクタASF(B)の変更のループ処理を終了する。一方符号化部7における符号化で所望される情報量より大きくなる場合は、その後の処理を精度設定部13に出力を与えるものである。精度設定部13は、全帯域量子化精度情報であるコモンスケールファクタCom を変化させるように、量子化精度チェック部14に指示するものである。符号化部7は量子化部11で量子化されたオーディオデータに対して誤り訂正符号を付加し、トランスポートストリーム又はプログラムストリームの形式に変換することにより、符号化するものである。」

(4)「【0033】AAC方式では周波数情報であるMDCT係数を整数値に量子化して符号化する。MDCT係数をMdct(i) (iは0?1023の整数)とする。このMDCT係数を整数値に量子化して符号化する。MDCT係数を整数値に変換するときの変換式は以下の式(1)で与えられる。
Xquant(i) =(int) {Mdct(i) ^((3/4)) ×2^((3・(SF(B)-Com)/16))} ・・・(1)
ここで(int) は次に続く式の値を整数値で返す整数演算子である。又SF(B) は帯域Bにおけるスケールファクタを示す。スケールファクタSF(B) は帯域Bに依存する変数であり、コモンスケールファクタCom は帯域Bにかかわらず共通の変数である。
【0034】さて時間軸上のオーディオ信号を、f0 ?fS の周波数範囲を有する周波数軸上の信号に変換するとき、f0 ?fS をn分割して、その分割点を1,2,・・・,j,j+1,・・・,k,k+1,・・・,nとする。分割点j?kにおける周波数帯域をBとするとき、周波数帯域B(=fj ?fk )に属するMDCT係数はMdct(j) ?Mdct(k) とする。この場合スケールファクタSF(B) は例えば以下の式で示される。
SF(B) =α・log(Max Mdct(B) +1.0) ・・・(2)
ここでαは定数とする。また、MAX演算子は、演算子内の要素の最大値を出力するものとする。Max Mdct(B) は次式で示される。
Max Mdct(B) =Max {Mdct(j) ,Mdct(j+1) ・・・,Mdct(k) }
これによって各周波数帯域B毎に最大値を代表周波数情報とすることができる。
【0035】同様に、次の(3)式を用いてスケールファクタSF(B) を算出してもよい。
【数1】

この場合にはMdct(i)^(2)の総和が代表周波数情報となる。」

(5)「【0038】一方、量子化精度保証値決定部5Aでは、各量子化帯域(B) において、入力値Mdct(k) ?Mdct(j) がすべて0でない場合を除いて、量子化での使用情報量を0としない最小の情報使用量を有する量子化精度情報の保証値K(B)を、各量子化帯域毎に設定する(ステップ102)。こうすれば大幅な情報圧縮をしても再生時に不自然さを緩和することができる。例えば、ある帯域(B) 内の入力が少なくとも1つは0ではない場合、すべての量子化値が0にならないような最小限の量子化精度情報を、この量子化精度保証値決定部5Aで算出する。AACの場合には、MDCT係数の量子化値は整数値になるため、ある帯域の量子化値の少なくとも1つの絶対値が1以上になるような保証値K(B)を算出する。例えばMdct(i) が正の値とすると、Xquant(i) の少なくとも絶対値が1となることが条件となる。Mdct(i) が正の値とすると、次式
(int) {Mdct(i) ^((3/4)) ×2^(3(SF(B)-Com)/16) }=1
となるSF(B) -Com を算出すればよいことになる。これが量子化精度保証値決定部5Aによる保証値K(B)となる。言い換えれば、
(int) {Mdct(i) ^((3/4)) ×2^((3・ K(B)/16))}=1
となる。但し保証値(B) は各帯域Bに1つ設定する値なので、帯域BにおけるMDCT係数のうち最大振幅のMDCT係数Max Mdct(B) を選んで、次式により保証値(B) を算出する。
(int) {Max Mdct(B) ^((3/4)) ×2^((3・ K(B)/16))}=1 ・・・(4)
こうすれば少なくともその帯域Bにおいて、1スペクトルが復号時に0ではなくなることになる。
【0039】次に量子化精度チェック部14では、量子化部11で適用する絶対的量子化精度情報である絶対的スケールファクタASF(B)を、次式(5)等を用いて算出する。
K(B)<SF(B) -Com のとき
ASF(B)=SF(B) -Com
K(B)≧SF(B) -Com のとき
ASF(B)=K(B) ・・・(5)
【0040】こうして絶対的スケールファクタを量子化精度チェックステップ103で出力し、量子化ステップ104で量子化する。これにより図4の模式図に示した状態で量子化が行われることが予想される。図4(a)の状態では、SF(B) -Com を示す曲線21がどの周波数帯においても保証値K(B)の曲線22よりも大きくなっている。図2の判定部12で算出される情報量が所望の情報量より多い場合は、その判定結果により、処理が精度設定部13に移行する。精度設定部13では、コモンスケールファクタCom の値を初期値より例えば1つ大きくするよう全帯域の量子化精度Com を更新する(ステップ107)。その例を図4(b)に示す。ここではある帯域では保証値K(B)の曲線22の方がSF(B) -Com を示す曲線21よりも大きくなっている。従って式(5)から保証値K(B)の大きい領域では、K(B)をASF(B)とする。その結果、量子化精度チェック部14では、再度絶対的スケールファクタASF(B)を算出する(ステップ103)。図中太い曲線23は量子化部11で量子化するための絶対的スケールファクタASF(B)を示す。
【0041】図4の(a)?(c)のいずれの場合も(5)式を用いて、絶対的スケールファクタASF(B)の曲線23を算出する。そして情報量カウントステップ105で算出された情報量が、情報量ループ判定ステップ106の所望の情報量よりも小さくなると判定されるまで計算を行う。そしてステップ106で所望の情報量以下と判定されればステップ108に進んで符号化処理を行って処理を終える。尚、実施の形態1では、量子化ループ判定部106において符号化後の情報量が指数ビット以上となる状態からループを開始し、あらかじめ決められている指標ビット以下となれば全帯域量子化精度更新のループを停止するようにしているが、指標ビット以下の所定範囲内になれば量子化精度更新ループを停止するようにしてもよい。又符号化後の情報量が小さい状態からループを開始し、Com の値を小さくして指標ビット以下の所定範囲に入ればループを停止してもよい。」

上記摘示事項及び図面の記載から以下のことがいえる。

(a)引用例には、「音声信号や音楽信号などのオーディオ信号に対する符号化装置、より詳細には直交変換等の手法を用いて時間領域から周波数領域に変換して周波数変換信号を作成し、より少ない符号量でデータ圧縮を行い、且つ高音質に表現するための符号化列を高速で生成する符号化装置、符号化方法、及びその記録媒体」が記載されている(摘示事項(1))。

(b)MDCT係数Mdct(i) を整数値に量子化するときの変換式は以下の式(1)で与えられる。
Xquant(i) =(int) {Mdct(i) ^((3/4)) ×2^((3・(SF(B)-Com)/16))}
・・・(1)
ここでSF(B) は帯域Bにおけるスケールファクタを示す。スケールファクタSF(B) は帯域Bに依存する変数であり、コモンスケールファクタCom は帯域Bにかかわらず共通の変数である(摘示事項(4))。

(c)周波数帯域B(=fj ?fk )に属するMDCT係数をMdct(j) ?Mdct(k) とする場合、スケールファクタSF(B) は以下の式(3)で示される。
【数1】

(摘示事項(4))

(d)ある帯域(B) 内の入力が少なくとも1つは0ではない場合、その帯域の量子化値の少なくとも1つの絶対値が1以上になるような保証値K(B)を算出する。保証値K(B)は各帯域Bに1つ設定する値なので、帯域BにおけるMDCT係数のうち最大振幅のMDCT係数Max Mdct(B) を選んで、次式により保証値K(B)を算出する。
(int) {Max Mdct(B) ^((3/4)) ×2^((3・ K(B)/16))}=1 ・・・(4)
(摘示事項(5))

(e)絶対的スケールファクタASF(B)を、次式(5)を用いて算出する。
K(B)<SF(B) -Com のとき
ASF(B)=SF(B) -Com
K(B)≧SF(B) -Com のとき
ASF(B)=K(B) ・・・(5)
(摘示事項(5))

(f)算出される量子化されたMDCT係数を符号化するのに必要な情報量(ビットレート)が所望の情報量より多い場合は、コモンスケールファクタCom の値を初期値より1つ大きくするようCom を更新する。そして算出された情報量が、所望の情報量よりも小さくなると判定されるまで計算を行う(摘示事項(3)、(5))。

以上を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

「MDCT係数を整数値に量子化するするための周波数領域に変換された音声信号の帯域BにおけるMDCT係数についての絶対的スケールファクタを算出する方法であって、
MDCT係数Mdct(i) を整数値に量子化するときの変換式は以下の式(1)で与えられ、
Xquant(i) =(int) {Mdct(i) ^((3/4)) ×2^((3・(SF(B)-Com)/16))}
・・・(1)
ここでSF(B) は帯域Bにおけるスケールファクタを示し、Com はコモンスケールファクタを示す。
周波数帯域B(=fj ?fk )に属するMDCT係数をMdct(j) ?Mdct(k) とする場合、スケールファクタSF(B) は以下の式(3)で示され、
【数1】

帯域BにおけるMDCT係数のうち最大振幅のMDCT係数Max Mdct(B) を選んで、次式により保証値K(B)を算出し、
(int) {Max Mdct(B) ^((3/4)) ×2^((3・ K(B)/16))}=1 ・・・(4)
絶対的スケールファクタASF(B)を、次式(5)を用いて算出し、
K(B)<SF(B) -Com のとき
ASF(B)=SF(B) -Com
K(B)≧SF(B) -Com のとき
ASF(B)=K(B) ・・・(5)
算出される量子化されたMDCT係数を符号化するのに必要な情報量(ビットレート)が所望の情報量より多い場合は、コモンスケールファクタCom の値を初期値より1つ大きくするようCom を更新し、算出された情報量が、所望の情報量よりも小さくなると判定されるまで計算を行う方法。」

3.対比

そこで、本件補正発明と引用発明とを対比する。

(1)スケール・ファクタを作る方法
引用発明の「絶対的スケールファクタ」は、MDCT係数を整数値に量子化するするための周波数領域に変換された音声信号の帯域BにおけるMDCT係数についてのスケールファクタであるから、「量子化された出力信号を生成するための周波数ドメイン音声信号の周波数帯の周波数係数についてのスケール・ファクタ」といえる。
したがって、本件補正発明と引用発明とは、「量子化された出力信号を生成するための周波数ドメイン音声信号の周波数帯の周波数係数についてのスケール・ファクタを作る方法」である点で一致する。

(2)周波数帯のエネルギーを求めるステップ
引用発明の式(3)における「Mdct(i)^(2)の総和」は、「周波数帯のエネルギー」といえる。
したがって、本件補正発明と引用発明とは、「前記周波数帯のエネルギーを求めるステップ」を含む点で一致する。

(3)周波数帯のエネルギーに基づいて、スケール・ファクタを求めるステップ
引用発明の式(3)は、帯域Bのエネルギーに基づいてスケールファクタSF(B) を求めることを示している。
したがって、本件補正発明と引用発明とは、「前記周波数帯の前記エネルギーに基づいて、スケール・ファクタを求めるステップ」を含む点で一致する。

(4)周波数帯のエネルギーに基づいて、スケール・ファクタを求めるステップの詳細
引用発明の式(3)は、帯域Bのエネルギーの対数を算出し、乗数αで乗算することを示している。
したがって、本件補正発明と引用発明とは、「前記周波数帯の前記エネルギーに基づいて前記スケール・ファクタを求めるステップ」について、「前記周波数帯の前記エネルギーの対数を算出するステップと、前記周波数帯の前記エネルギーの前記対数をある乗数で乗算するステップと」を含む点で一致する。
もっとも、本件補正発明と引用発明とは、「前記周波数帯の前記エネルギーに基づいて前記スケール・ファクタを求めるステップ」について、本件補正発明は、「初項を求めるために前記周波数帯の前記エネルギーの前記対数に定数を加算するステップと、前記初項をある乗数で乗算するステップと」を含むのに対し、引用発明は、「初項を求めるために前記周波数帯の前記エネルギーの前記対数に定数を加算するステップ」を含まず、「前記周波数帯の前記エネルギーの前記対数のみをある乗数で乗算するステップ」を含む点で相違する。

(5)周波数帯それぞれについて、その周波数帯の係数のうち最大の係数を求めるステップ
引用発明は、帯域BにおけるMDCT係数のうち最大振幅のMDCT係数Max Mdct(B) を選ぶものである。
したがって、本件補正発明と引用発明とは、「前記周波数帯それぞれについて、その周波数帯の前記係数のうち最大の係数を求めるステップ」を含む点で一致する。

(6)周波数帯それぞれについて、最大の係数に関連する量子化された係数が0にならないようなスケール・ファクタを選択するステップ
引用発明の式(4)は、帯域BにおけるMDCT係数のうち最大振幅のMDCT係数Max Mdct(B) を整数値に量子化すると1になる保証値K(B)を算出する式である。
したがって、本件補正発明と引用発明とは、「前記周波数帯それぞれについて、前記最大の係数に関連する前記量子化された係数が0にならないようなスケール・ファクタを選択するステップ」を含む点で一致する。

(7)所定のレベルを超えない、前記量子化された出力信号に対するビットレートの場合
引用発明は、絶対的スケールファクタASF(B)を、式(5)を用いて算出するものであり、式(5)中のスケールファクタSF(B) を、式(3)を用いて算出する際に、帯域Bのエネルギーを求め、帯域Bのエネルギーに基づいてスケールファクタSF(B) を求めるものである。量子化されたMDCT係数を符号化するのに必要な情報量(ビットレート)は、絶対的スケールファクタASF(B)を算出した後で算出されるから、コモンスケールファクタCom の値が初期値であるときに、算出された量子化されたMDCT係数を符号化するのに必要な情報量(ビットレート)が所望の情報量よりも小さいと判定されたとしても、スケールファクタSF(B) を算出する際に、帯域Bのエネルギーを求め、帯域Bのエネルギーに基づいてスケールファクタSF(B) を求めることになる。
したがって、本件補正発明と引用発明とは、
「所定のレベルを超えない、前記量子化された出力信号に対するビットレートの場合、
前記周波数帯のエネルギーを求めるステップと、
前記周波数帯の前記エネルギーに基づいて、スケール・ファクタを求めるステップとを含む」
点で一致する。

(8)所定のレベルを超える、量子化された出力信号に対するビットレートの場合
引用発明は、絶対的スケールファクタASF(B)を、式(5)を用いて算出するものであり、式(5)中の保証値K(B)を、式(4)を用いて算出する際に、帯域BにおけるMDCT係数のうち最大振幅のMDCT係数Max Mdct(B) を選び、帯域BにおけるMDCT係数のうち最大振幅のMDCT係数Max Mdct(B) を整数値に量子化すると1になる保証値K(B)を算出するものである。量子化されたMDCT係数を符号化するのに必要な情報量(ビットレート)は、絶対的スケールファクタASF(B)を算出した後で算出されるから、コモンスケールファクタCom の値が初期値であるときに、算出された量子化されたMDCT係数を符号化するのに必要な情報量(ビットレート)が所望の情報量よりも多いと判定されたとしても、保証値K(B)を算出する際に、帯域BにおけるMDCT係数のうち最大振幅のMDCT係数Max Mdct(B) を選び、帯域BにおけるMDCT係数のうち最大振幅のMDCT係数Max Mdct(B) を整数値に量子化すると1になる保証値K(B)を算出することになる。
したがって、本件補正発明と引用発明とは、
「前記所定のレベルを超える、前記量子化された出力信号に対するビットレートの場合、
前記周波数帯それぞれについて、その周波数帯の前記係数のうち最大の係数を求めるステップと、
前記周波数帯それぞれについて、前記最大の係数に関連する前記量子化された係数が0にならないようなスケール・ファクタを選択するステップと、を含む」
点で一致する。

(9)周波数係数の量子化
引用発明は、MDCT係数Mdct(i) を整数値に量子化するときの変換式がスケールファクタSF(B) -Com を含む式(1)で与えられるものである。
したがって、本件補正発明と引用発明とは、「前記周波数係数の量子化が、前記スケール・ファクタに基づく」点で一致する。

そうすると、本件補正発明と引用発明とは、次の点で一致する。

<一致点>

「量子化された出力信号を生成するための周波数ドメイン音声信号の周波数帯の周波数係数についてのスケール・ファクタを作る方法であって、
所定のレベルを超えない、前記量子化された出力信号に対するビットレートの場合、
前記周波数帯のエネルギーを求めるステップと、
前記周波数帯の前記エネルギーに基づいて、スケール・ファクタを求めるステップとを含み、
前記周波数帯の前記エネルギーに基づいて前記スケール・ファクタを求めるステップが、前記周波数帯の前記エネルギーの対数を算出するステップと、前記周波数帯の前記エネルギーの前記対数をある乗数で乗算するステップとを含み、
前記所定のレベルを超える、前記量子化された出力信号に対するビットレートの場合、
前記周波数帯それぞれについて、その周波数帯の前記係数のうち最大の係数を求めるステップと、
前記周波数帯それぞれについて、前記最大の係数に関連する前記量子化された係数が0にならないようなスケール・ファクタを選択するステップと、を含み、
前記周波数係数の量子化が、前記スケール・ファクタに基づく、
方法。」の点。

そして、次の点で相違する。

<相違点>

「前記周波数帯の前記エネルギーに基づいて前記スケール・ファクタを求めるステップ」について、本件補正発明は、「初項を求めるために前記周波数帯の前記エネルギーの前記対数に定数を加算するステップと、前記初項をある乗数で乗算するステップと」を含むのに対し、引用発明は、「初項を求めるために前記周波数帯の前記エネルギーの前記対数に定数を加算するステップ」を含まず、「前記周波数帯の前記エネルギーの前記対数のみをある乗数で乗算するステップ」を含む点

4.判断

そこで、上記相違点について検討する。

本件補正発明において、「前記周波数帯の前記エネルギーに基づいて前記スケール・ファクタを求めるステップ」が、「初項を求めるために前記周波数帯の前記エネルギーの前記対数に定数を加算するステップと、前記初項をある乗数で乗算するステップと」を含むことは、「前記周波数帯の前記エネルギーの前記対数をある乗数で乗算したもの」と、「定数をある乗数で乗算したもの」とを加算することに帰着する。「定数をある乗数で乗算したもの」は、新たな「定数」といえるから、本件補正発明と引用発明との実質的な相違は、「前記周波数帯の前記エネルギーの前記対数をある乗数で乗算したもの」に、「定数」を加算するか否かである。スケール・ファクタを求める際に、求めたスケール・ファクタが適切な値となるように「定数」を加算する程度のことは当業者が適宜為し得る程度のことに過ぎない。

効果についてみても、上記構成の変更に伴って当然に予測される程度のことであって、格別顕著なものがあるとは認められない。

したがって、本件補正発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.本件補正についてのむすび

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1.本願発明

平成25年10月24日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし18に係る発明は、平成25年6月13日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項11に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2[理由]1.」に本件補正前の請求項11として記載したとおりのものである。

2.引用例

原査定の拒絶の理由で引用された引用例及びその記載事項は、上記「第2[理由]2.」に記載したとおりである。

3.対比・判断

本願発明は、上記「第2[理由]3.及び4.」で検討した本件補正発明から、発明特定事項である「前記周波数帯それぞれについて、その周波数帯の前記係数のうち最大の係数を求めるステップ」について「前記周波数帯それぞれについて」との構成を削除し、「前記周波数帯それぞれについて、前記最大の係数に関連する前記量子化された係数が0にならないようなスケール・ファクタを選択するステップ」について「前記周波数帯それぞれについて」との構成を削除したものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本件補正発明が、上記「第2[理由]3.及び4.」に記載したとおり、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび

以上のとおり、本願の請求項11に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-05-27 
結審通知日 2014-06-03 
審決日 2014-06-27 
出願番号 特願2012-526186(P2012-526186)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G10L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 五貫 昭一  
特許庁審判長 石井 研一
特許庁審判官 関谷 隆一
萩原 義則
発明の名称 周波数帯信号エネルギーに基づいた、音声符号化における周波数帯スケール・ファクタ測定  
代理人 大菅 義之  
代理人 野村 泰久  

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