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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60K
管理番号 1293990
審判番号 不服2013-23879  
総通号数 181 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-12-04 
確定日 2014-11-13 
事件の表示 特願2012-508151「ハイブリッド駆動装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年10月 6日国際公開、WO2011/122193〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年2月28日(優先権主張2010年3月30日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成24年7月13日に国内書面が提出され、平成25年6月5日付けで拒絶理由が通知され、平成25年8月8日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年10月2日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成25年12月4日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、その後、当審において平成26年1月20日付けで書面による審尋がされ、平成26年3月24日に回答書が提出されたものである。

第2 平成25年12月4日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成25年12月4日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
平成25年12月4日に提出された手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、下記Aに示す本件補正前の(すなわち、平成25年8月8日に提出された手続補正書により補正された)請求項1ないし5を、下記Bに示す請求項1ないし5へと補正することを含むものである。
A 「【請求項1】
互いに平行な軸線上に配置されかつ大径側と小径側とが逆になるように配置された円錐形状の入力側摩擦車及び出力側摩擦車と、これら両摩擦車の一方を囲むようにして両摩擦車の対向する傾斜面に挟持されるリングと、該リングを移動して変速操作する変速操作手段と、を有する円錐摩擦車リング式無段変速装置と、
前記入力側摩擦車に連結する入力軸とエンジン出力軸との間に介在するクラッチと、
前記出力側摩擦車に連結する出力軸からの動力を出力部に出力する出力部材と、
前記出力軸に連動する電気モータと、を備えてなるハイブリッド駆動装置において、
前記変速操作手段が、電動アクチュエータを有し、
前記クラッチを操作するクラッチ操作手段が、電動アクチュエータを有し、
前記リングを前記両摩擦車との間で挟持する軸力を、前記両摩擦車との間の伝達トルクに応じて発生するカム機構を備え、
オイルが付着している回転部材の回転により前記リングと前記両摩擦車との接触部にオイルが供給され、
前記電気モータの出力軸及び前記クラッチの出力側が、常に前記出力部に駆動連結された連動状態にある、
ことを特徴とするハイブリッド駆動装置。
【請求項2】
前記電気モータの正回転が、前記出力部に正回転として伝達され、前記電気モータの逆回転が、前記出力部に逆回転として伝達されてなる、
請求項1記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項3】
前記回転部材は、前記リングであり、該リングの一部がオイル溜りに浸って、該リングの回転により前記リングと前記両摩擦車との接触部にオイルが供給されてなる、
請求項1又は2記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項4】
前記電気モータの出力軸及び前記クラッチの出力側は、前記円錐摩擦車リング式無段変速装置と、前記噛合による回転手段から構成されるギヤ伝動装置とのみを介して前記出力部に連動してなり、
前記ギヤ伝動装置の一部の前記回転手段がオイル溜りに浸って、該回転手段の回転により前記ギヤ伝動装置にオイルが供給されてなる、
請求項1ないし3のいずれか1項記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項5】
前記出力部材がディファレンシャル装置であり、
前記電気モータの出力軸の回転を前記出力側摩擦車に連結する前記出力軸に伝達する動力伝達経路の一部を含み、かつ前記出力側摩擦車に連結する前記出力軸の回転を前記ディファレンシャル装置に伝達する、噛合による回転手段から構成されるギヤ伝動装置と、
前記円錐摩擦車リング式無段変速装置を収納しかつトラクション用オイルが充填された第1の空間と、前記ギヤ伝動装置を収納しかつ潤滑用オイルが充填された第2の空間とを少なくとも有し、これら第1の空間と第2の空間とを油密状に区画してなるケースと、を備え、
前記第2の空間において前記ディファレンシャル装置が最下位置にあって、該ディファレンシャル装置の入力部であるリングギヤの少なくとも一部がオイル溜りに浸り、前記ギヤ伝動装置を前記オイル溜りのオイルの掻上げにより潤滑してなる、
請求項1ないし4のいずれか1項記載のハイブリッド駆動装置。」

B 「 【請求項1】
互いに平行な軸線上に配置されかつ大径側と小径側とが逆になるように配置された円錐形状の入力側摩擦車及び出力側摩擦車と、これら両摩擦車の一方を囲むようにして両摩擦車の対向する傾斜面に挟持されるリングと、該リングを移動して変速操作する変速操作手段と、を有する円錐摩擦車リング式無段変速装置と、
前記入力側摩擦車に連結する入力軸とエンジン出力軸との間に介在するクラッチと、
前記出力側摩擦車に連結する出力軸からの動力を左右のアクスル軸である出力部に出力する出力部材と、
前記出力軸に連動する電気モータと、を備えてなるハイブリッド駆動装置において、
前記変速操作手段が、電動アクチュエータを有し、
前記クラッチを操作するクラッチ操作手段が、電動アクチュエータを有し、
前記リングを前記両摩擦車との間で挟持する軸力を、前記両摩擦車との間の伝達トルクに応じて発生するカム機構を備え、
オイルが付着している回転部材の回転により前記リングと前記両摩擦車との接触部にオイルが供給され、
前記電気モータの出力軸及び前記クラッチの出力側が、常に前記出力部に駆動連結された連動状態にある、
ことを特徴とするハイブリッド駆動装置。
【請求項2】
前記電気モータの正回転が、前記出力部に正回転として伝達され、前記電気モータの逆回転が、前記出力部に逆回転として伝達されてなる、
請求項1記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項3】
前記回転部材は、前記リングであり、該リングの一部がオイル溜りに浸って、該リングの回転により前記リングと前記両摩擦車との接触部にオイルが供給されてなる、
請求項1又は2記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項4】
前記電気モータの出力軸及び前記クラッチの出力側は、前記円錐摩擦車リング式無段変速装置と、前記噛合による回転手段から構成されるギヤ伝動装置とのみを介して前記出力部に連動してなり、
前記ギヤ伝動装置の一部の前記回転手段がオイル溜りに浸って、該回転手段の回転により前記ギヤ伝動装置にオイルが供給されてなる、
請求項1ないし3のいずれか1項記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項5】
前記出力部材がディファレンシャル装置であり、
前記電気モータの出力軸の回転を前記出力側摩擦車に連結する前記出力軸に伝達する動力伝達経路の一部を含み、かつ前記出力側摩擦車に連結する前記出力軸の回転を前記ディファレンシャル装置に伝達する、噛合による回転手段から構成されるギヤ伝動装置と、
前記円錐摩擦車リング式無段変速装置を収納しかつトラクション用オイルが充填された第1の空間と、前記ギヤ伝動装置を収納しかつ潤滑用オイルが充填された第2の空間とを少なくとも有し、これら第1の空間と第2の空間とを油密状に区画してなるケースと、を備え、
前記第2の空間において前記ディファレンシャル装置が最下位置にあって、該ディファレンシャル装置の入力部であるリングギヤの少なくとも一部がオイル溜りに浸り、前記ギヤ伝動装置を前記オイル溜りのオイルの掻上げにより潤滑してなる、
請求項1ないし4のいずれか1項記載のハイブリッド駆動装置。」
(下線は、本件補正箇所を示すために、請求人が付したものである。)

2 本件補正の目的要件について
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に関して、本件補正前の請求項1の発明特定事項である「前記出力側摩擦車に連結する出力軸からの動力を出力部に出力する出力部材」を、本件補正後に「前記出力側摩擦車に連結する出力軸からの動力を左右のアクスル軸である出力部に出力する出力部材」として、「出力部」の内容を限定することを含むものである。
そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

3 独立特許要件について
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2009-101729号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、駆動源としてエンジン(ガソリンエンジン・ディーゼルエンジン等の内燃機関)と回転電機(電力の供給を受けて駆動力(回転駆動力)を発生するモータとして働くもの、駆動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータとして働くもの、あるいは、動作状態により択一的にモータ若しくはジェネレータとして働くものを含む)とを備え、エンジンと回転電機とのいずれか一方もしくは両方から駆動力を得、変速機で変速して駆動輪に伝動して走向する構成のハイブリッド駆動装置に関する。」(段落【0001】)

イ 「【0020】
以下、本願に係るハイブリッド駆動装置HVに関して、その実施の形態を、図面に基づいて説明する。
図1、図2は、ハイブリッド駆動装置HVの構成を示す断面図であり、図3は、軸方向視での主要機器の配置構成を示した図であり、図4は、このハイブリッド駆動装置HVが採用している駆動伝動系の模式図である。
【0021】
このハイブリッド駆動装置HVを備えた車両は、駆動源として、エンジンEG及び回転電機MGを備えるとともに、これらから得られる回転駆動を変速機SCで変速し、変速出力を、カウンタギヤCG、ディファレンシャルギヤDGを介して駆動輪Wに伝達して走行する。
【0022】
図4に模式的に示すように、回転電機MGは減速機構RSを介して変速機SCに駆動連結されており、エンジンEGは、ダンパD、クラッチCを介して変速機SCに駆動連結されている。従って、この駆動伝動系にあっては、クラッチCの非係合状態で、回転電気MGがモータとして働いてモータ走行可能に構成されるとともに、制動時には回転電機MGがジェネレータとして働いて、回転電機MGに電気的に接続されているバッテリーBの充電を行うことができる。一方、クラッチCの係合状態にあっては、モータMG及びエンジンEGからの駆動力が変速機SCに伝達され、両方の駆動源から駆動力を得て走行することができる。
【0023】
図1は、本願に係るハイブリッド駆動装置HVの詳細を示したものであり、エンジンEG,回転電機MG、駆動装置入力軸I1、クラッチC,変速機SC、カウンタギヤCGが設けられているカウンタ軸A1、ディファレンシャルギヤDGの配置及び接続関係を示したものである。図2は、回転電機MG及び駆動装置入力軸I1周辺の詳細構造を示す図である。
【0024】
ハイブリッド駆動装置HVは、エンジンEGにダンパDを介して駆動連結された駆動装置入力軸I1と、当該駆動装置入力軸I1とは軸心を異ならせて設けられる回転電機MGと、駆動装置入力軸I1と同心に設けられる変速機SCと、前記回転電機MG及び駆動装置入力軸I1との夫々とは異なった軸心位置に設けられるカウンタ軸A1を備えて構成されている。
【0025】
このハイブリッド駆動装置HVのケースは、装置後側(図1に示す右側であるエンジン側)に配設され、回転電機MGの第2ギヤG2、本願独特の第1ギヤG1、それとともに構成されるクラッチC及びダンパDを収納するためのクラッチ・ダンパケースH1と、装置前側(図1における左側)に配設され、変速機SC及び回転電機MGのほぼ全体を収納するための変速機・回転電機ケースH2と、を備えて構成されている。本例では、図示するように、変速機・回転電機ケースH2のエンジン側にクラッチ・ダンパケースH1がボルト連結される。
【0026】
前記クラッチ・ダンパケースH1及び変速機・回転電機ケースH2の両者が連結された状態で、ケース内に形成される空間は、エンジン側からダンパDが収納される第1空間、後に詳述する第1ギヤG1及び回転電機MGの第2ギヤG2が収納される第2空間、及び変速機SCが配設される第3空間に分割され、これら空間を分割するための隔壁SW及び固定部材Fが設けられている。
【0027】
前記隔壁SWは、図1、図2からも判明するように、クラッチ・ダンパケースH1のエンジン側開口から挿入可能な構成が採用されており、この隔壁SWは、クラッチ・ダンパケースH1の内周面に設けられた段差部eにエンジン開口側からボルト固定されるように構成されている。この隔壁SWには、駆動装置入力軸I1が貫通しており、この隔壁SWにより、駆動装置入力軸I1は、その入力端側(エンジン側)と出力端側(変速機側)とを隔離される。
【0028】
前記固定部材Fは、図1、図2からも判明するように、一対の部材f1,f2が相互にボルト連結されて構成されており、この固定部材Fによりポンプボディが形成されているとともに、その一端側において、回転電機MGの出力軸O2を回転可能に支持するように構成されている。
そして、これら一対の部材であるポンプボディ形成部材f1,f2の一方(駆動装置入力軸側のポンプボディ形成部材f1)が、クラッチ・ダンパケースH1の変速機側開口に嵌込される構成が採用されている。この固定部材Fは、図示は省略するが、一対の部材であるポンプボディ形成部材f1,f2の他方(変速機側のポンプボディ形成部材f2)が、変速機・回転電機ケースH2にボルト連結されることで、ケースHに固定される構造が採用されている。ポンプ室内には、後述する第1ギヤG1と一体に回転するポンプギヤpgが配設される。従って、本願のハイブリッド駆動装置HVでは、この回転電機MGの回転により所定の油圧を得ることができる。
・・・
【0031】
ダンパ
当該ダンパDは、エンジン出力軸O1であるクランク軸に連結されるドライブプレートd1と、このドライブプレートd1の外径端近傍位置に連結される第1ドリブンプレートd2と、駆動装置入力軸I1にボス部d3を介して連結される第2ドリブンプレートd4とを備えて構成されている。前記第1ドリブンプレートd2は、内径側部位に、断面形状が下向きU字状となる二股部d6を備えており、前記第2ドリブンプレートd4が、その二股部d6に嵌込する構成とされている。そして、当該二股部d6と第2ドリブンプレートd4の間に、複数のダンパスプリングd5が周方向で均等に分散介装されており、エンジン出力軸O1から伝達される回転振動を、当該ダンパスプリングd5で吸収しながら、駆動装置入力軸I1に駆動力を伝達できるように構成されている。」(段落【0020】ないし【0031】)

ウ 「【0040】
回転電機及び駆動装置入力軸から変速機入力軸への駆動伝達
本願に係るハイブリッド駆動装置HVにあっては、回転電機MGの出力軸O2と変速機入力軸I2との間には、回転電機MGの回転を減速して変速機入力軸I2に伝達する減速機構RSが備えられている。一方、駆動装置入力軸I1と変速機入力軸I2との間には、両者間で駆動伝動を断続可能とするクラッチCが備えられている。そして、減速機構RSとクラッチCとを構成するのに、本願独特の第1ギヤG1が共用されている。
【0041】
減速機構及び第2ギヤ
本例では、回転電機MGの出力軸O2に備えられる第2ギヤG2と、この第2ギヤG2に噛合するギヤ部gを備えた第1ギヤG1とを設けて減速機構が構成されている。
図2に示すように、第2ギヤG2は、第2軸心周りに回転する構成とされるとともに、そのピッチ径が小さく選択されている。一方、第1ギヤG1は、内径側部位が駆動装置入力軸I1に回転可能に支持され、径方向に伸びる入力軸側径方向延出部g1と、内径側部位が変速機入力軸I2に連結され、径方向に伸びる中間軸側径方向延出部g2とを備えて構成され、これら入力軸側径方向延出部g1と中間軸側径方向延出部g2との外径側を軸方向に接続する接続部g3を備えている。そして、前記第2ギヤG2と噛合するギヤ部gが、当該接続部g3の外径部位に形成されている。従って、このギヤ部gのピッチ径は大きいものとなり、第2ギヤG2とギヤ部gとのピッチ径の関係から、充分な減速が可能となっている。
第1ギヤG1は、駆動装置入力軸I1に対しては相対回転可能とされており、変速機入力軸I2に対してスプライン連結されており、一体回転する構成が採用されている。従って、先に説明した減速機構RSにより減速された回転電機MGの回転が、変速機入力軸I2に伝達される。
【0042】
第1ギヤG1の支持は、駆動装置入力軸I1のエンジン側に関しては、隔壁SWに固定された第1回転軸受けB1により支持されており、駆動装置入力軸I1の変速機側に関しては、固定部材Fに固定された第2回転軸受けB2で支持される構成が採用されている。
【0043】
クラッチ
図2からも判明するように、第1ギヤG1に関して、先に説明した入力軸側径方向延出部g1、中間軸側径方向延出部g2及び接続部g3に囲まれた内部空間に、駆動装置入力軸I1に連結されたクラッチドラムc1が進入されるとともに、第1ギヤG1の中間軸側径方向延出部g2がクラッチハブc2として構成されている。そして、クラッチドラムc1とクラッチハブc1との間にピストンc3が配設されるとともに、クラッチドラムc1に摩擦相手板p1を、クラッチハブc2に摩擦板p2をスプライン嵌合して夫々設け、油圧によりピストンc3を軸方向に移動させて、クラッチCの係合及び係合解除を実現できるように構成している。この例にあっては、係合状態を実現するには、矢印で示すように、ピストンc3の裏面側(エンジン側)に、変速機入力軸I2,駆動装置入力軸I1内に穿たれた油路i2を介して係合用の作動油が供給され、ピストンc3の表面側(変速機側)に残っている油が駆動装置入力軸I1及び変速機入力軸I2の外径部位i3を介して放出される。一方、クラッチCの係合解除は、油が上記とは逆方向に移動されて実現される。」(段落【0040】ないし【0043】)

エ 「【0048】
変速機
変速機SCとしては、公知の有段変速機、無段変速機を採用することができる。本例では、変速機入力部材(これまで説明してきた変速機入力軸I2)から入力される入力回転を6段に変速して変速機出力部材から出力する変速機の例を示している。この例では、変速機出力部材は、変速機SCの軸方向(図1の左右方向)の中間部位に設けられる変速機出力ギヤOGを採用している。この変速機出力ギヤOGはカウンタ軸A1上のカウンタギヤCGと噛合されている。そして、カウンタ軸A1に設けられたピニオンPはディファレンシャルギヤDGのディファレンシャルリングギヤRGと噛合している。この構成を採用することにより、ディファレンシャルギヤDGから車軸DSを介して駆動輪Wに駆動が伝達される。本願にあっては、変速機SCからディファレンシャルギヤDGまでを変速出力機構と呼んでいる。
【0049】
図3に、回転電機MGの出力軸O2、エンジンEGと同心に設けられる駆動装置入力軸I1、カウンタ軸A1及ディファレンシャルギヤDGの位置関係を示した。図1において、左側から見た図である。この図にあっては、これまで説明してきた第1軸心Z1、第2軸心Z2とともに、カウンタ軸A1の軸心を第3軸心Z3、ディファレンシャルリングギヤRGの軸心を第4軸心Z4として示している。図からも判明するように、本願に係るハイブリッド駆動装置HVは、図1,2に示す駆動装置前後方向の他、その上下方向幅もコンパクトに構成されている。
【0050】
〔別実施の形態〕
(1) 上記の実施の形態にあっては、変速機が有断変速機SCである例を示したが、本願構成を変速機として、変速比が連続的に変更される無段変速機を使用する場合にも適用できる。
(2) 先に説明した実施の形態は、本願に係るハイブリッド駆動装置をFF車に採用する例を示したが、FR車に採用することもできる。
(3) 上記の実施の形態にあっては、エンジンと変速機入力軸との間の駆動伝動を断続するクラッチのクラッチハブを、変速機入力軸への入力部材として共通に使用したが、エンジンからクラッチを介した変速機入力軸へのエンジン側の入力系統と、回転電機から減速機構を介した変速機入力軸への入力系統を、変速機入力軸まで別系統としておいてもよい。」(段落【0048】ないし【0050】)

(2)引用文献1に記載された発明
ア 上記(1)イの記載、上記(1)エにおける段落【0050】の「先に説明した実施の形態は、本願に係るハイブリッド駆動装置をFF車に採用する例を示したが、FR車に採用することもできる。」という記載、及び図4におけるディファレンシャルギヤDGに二つの車軸DS及び駆動輪Wが配される態様からみて、動力を左右の車軸DSに出力するディファレンシャルギヤDGを備えていることが分かる。
イ 上記(2)アに加え、上記(1)アないしエの記載、並びに図1、2及び4の記載から、無断変速機の出力軸からの動力を左右の車軸DSに出力するディファレンシャルギヤDGを備えていること、無段変速機の入力軸とエンジン出力軸O1との間にクラッチCが介在すること、無段変速機の出力軸に連動する回転電機MGを備えていること、及び回転電機MGの出力軸及びクラッチCの出力側が、左右の車軸DSに駆動連結された連動状態にあることが分かる。
ウ 上記(1)イにおける段落【0028】の特に「ポンプ室内には、後述する第1ギヤG1と一体に回転するポンプギヤpgが配設される。従って、本願のハイブリッド駆動装置HVでは、この回転電機MGの回転により所定の油圧を得ることができる。」という記載、及び上記(1)ウにおける段落【0043】の特に「油圧によりピストンc3を軸方向に移動させて、クラッチCの係合及び係合解除を実現できるように構成している。」という記載から、クラッチCは、回転電機MGの回転により得られた油圧によりクラッチCの係合及び係合解除を実現できるよう構成されていることが分かる。
エ 上記(2)アないしウ、上記(1)アないしエ、及び図1ないし4の記載を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認める。
「無段変速機と、
無段変速機の入力軸とエンジン出力軸O1との間に介在するクラッチCと、
無断変速機の出力軸からの動力を左右の車軸DSに出力するディファレンシャルギヤDGと、
無断変速機の出力軸に連動する回転電機MGと、を備えてなるハイブリッド駆動装置において、
回転電機MGの回転により得られた油圧によりクラッチCの係合及び係合解除を実現できるよう構成し、
回転電機MGの出力軸及びクラッチCの出力側が、左右の車軸DSに駆動連結された連動状態にある、
ハイブリッド駆動装置。」

(3)引用文献2の記載
原査定の拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特表2009-506279号公報(以下、「引用文献2」という。同公報の特に平成20年5月15日提出の手続補正書における明細書、特許請求の範囲及び図面を参照。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0100】
かかる構成は、とりわけ、トルクを入力コーンから回転摩擦リングを介して出力コーンに伝達する、それ自体既知の円錐摩擦リング変速機に関して使用するのに特に適している。よって、本無段変速機では、該少なくとも2伝動部材をまず入力コーン、次に出力コーンとし、無限に調節可能な結合用リングを、回転摩擦リングで実現する。
【0101】
このために、伝動部材を無限に調節可能な結合部材を用いて連動結合する一般的な無段変速機が、従来技術から既知である。個々の伝動部材の速度を、無限に調節可能な結合部材を用いて調節し、無段変速機の変速比を、それによって決定する。かかる無段変速機の例としては、入力コーンと出力コーンとを、調節可能な摩擦リングを用いて、互いに協働させる円錐摩擦リング変速機がある。この場合、摩擦リングを調節路に沿って無限に調節し、その結果該2コーンの速度を変化させる。この円錐摩擦リング無段変速機の変速比も、従って変化する。円錐摩擦リング変速機の変速比を様々な運転状態、例えば、入力コーンに即座にモータ動力を加えた状態等に、調節可能にするために、調節可能な摩擦リングを、調節装置を介して調節駆動装置を用いて、調節路に沿って転位させる。かかる機構は、円錐摩擦リング変速機の変速比を、無限、迅速、確実に様々な運転条件に適合可能にするよう、極めて良好に機能する。しかしながら、このような変速機は、調節駆動装置の駆動が故障し、それにより調節駆動装置が調節駆動装置を調節不能となり、その結果摩擦リングの位置を、入力シャフト及び出力シャフトと比較して調節不能となった場合、問題がでてくる。故障した場合に、無段変速機はしばしば、例えば、かかる無段変速機を用いて運転する車両が、変速比が不適切に調節された結果、動作しなくなるといった、不所望な状況に陥ってしまう。そのような場合、車両単独では前進できない。これについては、まさに前述の構成によって改善できる。
【0102】
用語“調節装置”を、この点について、無限に調節可能な結合部材又は回転摩擦リングを無限に、伝動部材に関する調節路に沿って移動可能にする任意の構成要素に対する総称として使用する。この手段によって、無段変速機の変速比を、任意の方法で可変とする。
【0103】
用語“調節路”については、無限に調節可能な結合部材を伝動部材に関して移動させる、又は移動可能にする距離として解釈する。
【0104】
この場合では、無段変速機の“調節駆動装置”を、複数の駆動可能体で実現することができる。例えば、これを、モータ駆動装置を用いて、又は、磁気駆動装置を用いて、又は、油圧駆動装置を用いて電気的に達成する。」(段落【0100】ないし【0104】)

イ 「【0148】
同様に図3に示す更なるガイド装置101には、鋼製の調節ブリッジ119を備え、該ブリッジが鋼製円筒状ガイド軸118に沿って並進動作可能に取付ける。円筒状ガイド軸118を、ベアリング135を用いて回転自在にレバー136に取付ける。これに関して、レバー136により運動を規定し、レバー136を、回転1自由度のみとして極めて正確に取付けできると共に、こうしたガイド軸118の取付けによりそれに応じた補正を提供する。
【0149】
回転防止ピン126を、円筒状ガイド軸118とは反対の調節ブリッジ119の片側137に配設し、それにより調節ブリッジ119が円筒状ガイド軸118回りに誤って回転するのを防止する。
【0150】
摩擦リング121を、調節ブリッジ119に第1フリクションコーン138周りに回転自在に取付ける。加えて、第1フリクションコーン138は、それ自体公知の方法で、摩擦リング121を用いて第2フリクションコーン139に連通する。
【0151】
ここで示すガイド装置101についても、剛構造を特徴とするが、これは円筒状ガイド軸118と調節ブリッジ119両方を、特に安定した剛性構成要素としたためである。その結果、摩擦リング121を調節する際の回転時間も、この構造で極めて短くできる。
【0152】
この例では、円筒状ガイド軸118を、特に単純に設計したガイド装置101のケージ102とする。
【0153】
この場合では、図面で分かるように、2フリクションコーン138と139とが互いから固定した所定の間隔140を有しており、それによって摩擦リング121を、調節ブリッジ119を用いて、フリクションコーン138と139との間の離間部140で確実に動作可能にしている。そのため、無段変速比を、構造的に特に単純な方法で提供できる。
【0154】
別の鋼製調節ブリッジ219について図4で説明する。図4では、調節ブリッジ219には、ガイド軸穴242を該ブリッジの下部領域241に有して、ガイド軸(図3と同様だが、図4では図示しない)を受容する。上部領域237には、調節ブリッジ219に回転防止ピン226を有する。摩擦リング221を、調節ブリッジ219に取付ける。このために、調節ブリッジ219には、上部領域237に第1ローラホルダ222を有する。それに応じて、第2ローラホルダ223を、調節ブリッジ219の下部領域241に配置する。
【0155】
この例示的実施形態では、ローラホルダ223の2ローラ243及び244のヘッド側形状を、流体、例えば変速機用流体を渦流させるのに適した形状とする。この渦流により、摩擦リング221と、ここでは詳細に図示しないフリクションコーンとの間の接触間隙で流体を搬送可能にする、又は確実に該接触間隙で濡れ性を確保可能にする。
【0156】
更にこの効果を強化するために、調節ブリッジ219での流体の偏向装置245を、ローラホルダ223前に設ける。偏向装置245を用いて、特に型付きローラ243、244によって渦流させた流体を、摩擦リング221がフリクションコーンと相互作用する接触点246に、特にガイドする。
【0157】
図5及び図6に示すガイド装置310は、実質的に鋼製調節ブリッジ319及び鋼製ケージ302から成る。調節ブリッジ319に摩擦リング321を取付け、該リングにより、平行なローラ体軸350と351上に径方向間隔340で位置する2つのフリクションコーン338と339を連動結合する。フリクションコーン338と339とを、互いに逆方向に配列し、該両フリクションコーンのテーパ角度βを同じにする。フリクションコーン338と339との間に摩擦リング321を配置し、それにより該リングで半径方向間隔340を橋架し、第1フリクションコーン338を囲み、該リングをケージ302に保持する。
【0158】
ケージ302は、2クロスヘッド354と355、及び該ヘッド内に収容する2本の平行なガイド軸356と357により形成するフレームから成る。ガイド軸356、357を、円錐摩擦ホイール軸350と351に平行に配列し、調節ブリッジ319を、互いに向かう2つのピン358(ここでは、例として付番したのみ)で担持するが、該ピンに第1ローラホルダ322又は第2ローラホルダ323を配置する。ローラホルダ322及び323は、摩擦リング321の両側で働き、該リングを必要な軸方向へガイドする。
【0159】
クロスヘッド354の中心を垂直な枢軸311として、該枢軸についてケージ302全体を枢動可能にする。
【0160】
本例示的実施形態では、枢軸311が、平面を成すフリクションコーン338と339のフリクションコーン・ホイール軸350と351とで規定する面329にある。面329を、これと平行な平面に存在させる、或は先の面329と鋭角で交差させることもできる。
【0161】
ケージ302を、数度の角度単位で枢動させると、摩擦駆動が調節ブリッジ319を軸方向に調節するよう作用し、その結果フリクションコーン338と339との変速比を変更する。少量のエネルギー消費がこれに必要となるだけである。
【0162】
図示しない別の車両用前輪駆動部には、円錐摩擦リング変速機を含む。前輪駆動部は、実質的に、液圧変換器又は流体継手、下流スイッチングユニット、円錐摩擦リング変速機及び出力から成る。
【0163】
流体継手の駆動部は、ブレーキディスクにあるシャフトに位置し、該ブレーキディスクは、円錐摩擦リングハウジングで保持するブレーキジョーと協働し、該駆動部を電気的に駆動することができる。ブレーキディスクの直後には、フリーランニング・ギヤホイールがあり、該ホイールは、副変速機と係合し、出力でリバースギヤを達成できる。片面にギヤホイールはクラウンギヤを有し、該ギヤでギヤホイールを、ギヤシフトスリーブと係合及び作動でき、該スリーブをシャフトに保持し、該スリーブは軸方向に変位可能で、内軸歯型構造を備える。
【0164】
回転方向を逆にしたい場合には、ブレーキディスク及びブレーキジョーから成るブレーキを初めに作動させ、それにより次の変速をトルクスラストで妨害しないようにする。ギヤシフトスリーブを、次にそのニュートラル位置から右に移動させて、ピニオンと係合させ、該ピニオンを、円錐摩擦リング変速機の円錐摩擦ホイールの駆動軸に強固に結合する。
【0165】
図5及び図6を参照して記述したように、円錐摩擦リング変速機は、互いから径方向間隔340を隔てて配列する2つの対向する円錐摩擦ホイール338及び339から成り、該ホイールは同じテーパ角度及び平行軸を有する。更にまた、第1円錐摩擦ホイール338(ここでは、上側円錐摩擦ホイール)を、摩擦リング321で包囲し、該リングを、そ
の内周面で第2円錐摩擦ホイール339と摩擦係合状態にし、その外周面で、第1円錐摩擦ホイール338と摩擦係合状態にする。
・・・
【0170】
ケージ302を調節するために、調節用スピンドルをハウジング208に取付けて設けてあり、該スピンドルを、調節用モータ又はモータに接続し、ケージ302に作用させる。
【0171】
ケージ302を緩やかに回動させると、摩擦リング321を枢軸311について回動させ、その結果該リングの円錐摩擦ホイール338及び339に対する相対位置が変化し、それにより摩擦リング321が独立してその位置を移動し、円錐摩擦リング変速機の変速比を変化させる。
【0172】
円錐摩擦ホイール339の従動軸を、その一部分をハウジング208に取付ける押圧装置4134に収容し、該従動軸では従動ピニオンを担持する。
【0173】
押圧装置4134は、従動軸4130と重なる延伸軸から成り、該延伸軸は半径方向に歯型構造を有する円錐摩擦ホイール339と対向するフランジを備えており、該フランジは、円錐摩擦ホイール339の対応する半径方向歯型構造と協働する。この半径方向歯型構造により、円錐摩擦ホイール339に軸方向圧力を印加する。
【0174】
摩擦リング変速機ハウジング208を、区画壁で、駆動部及び出力部を一方側に、円錐摩擦リング変速機を他方側に分離すると、有利である。そうすることで、潤滑性を持たない冷却流体、例えばシリコンオイルが、摩擦リング変速機のハウジング部内で流通可能となり、それにより摩擦係数に影響を与えずに済む。セラミック粉末又はその他の固体粒子を含むトラクション流体又は油も、摩擦リング変速機用冷却流体として適当である。」(段落【0148】ないし【0174】)

ウ「【0185】
図8に示す主伝動部材1100には、第1フリクションコーン538、第2フリクションコーン539及び摩擦リング521を含む。主伝動部材1100を、フリクションコーン型変速機(ここでは詳細に図示しない)のハウジング508に取付ける。受動的流動媒体供給体1101を、ハウジング508に固着する。流動媒体溜め1103を、フリクションコーン型変速機ハウジング508の下側領域1102に設ける。流動媒体1112を、この流動媒体溜め1103に提供する。
【0186】
第1フリクションコーン538を、第1フリクションコーン軸550回りに回転自在に取付けるが、フリクションコーン型変速機のハウジング508に固定する。第1フリクションコーン538は、第1フリクションコーン軸550回りに回転方向1104に従い回転する。第2フリクションコーン539も、本フリクションコーン型変速機のハウジング598に固定するが、回転自在に取付ける。この場合、第2フリクションコーン539は、第2回転方向1105に従い第2フリクションコーン軸551回りに回転する。
【0187】
これら2フリクションコーン538、539を、互いに離間させ、それにより離間部540を、該コーン間に獲得し、そこに摩擦リング521を調節可能に配置する。摩擦リング521が、それによってフリクションコーン軸550、551に沿って、又は離間部540に沿って転位可能となり、該リングは摩擦リング回転方向1106に、第1フリクションコーン538回りに回転する。
【0188】
第1流体間隙部1107を、主伝動部材1100を第1フリクションコーン538と摩擦リング521との間で回転させて、形成する。それに応じて、第2流動媒体間隙部1108を、主伝動部材1100が回転中に、第2フリクションコーン539と摩擦リング521との間で獲得する。
【0189】
流動媒体1112を特に第2流動媒体間隙部1108にガイドするために、流動媒体供給体1101を、まず該供給体をフリクションコーン538、539の外形に概ね沿うようにし、次にフリクションコーン538、539の境界によって形成され、該2フリクションコーン538、539間に位置する容積空間部1109に、延在させてこれを形成する。
【0190】
この場合、容積空隙部1109を、フリクションコーン538、539自体で境界し、次に第1仮想境界線1110及び第2仮想境界線1111で境界する。
【0191】
この例示的実施形態では、流動媒体供給体1101を、フリクションコーン型変速機のハウジング508に固定し、板金構造体として形成する。これを、その頂点1113を第2流動媒体間隙部1108付近まで延在させ、フリクションコーン538、539の全長に亘り延在させる。このようにして、流動媒体1112を、特に効果的には第2流動媒体間隙部1108に入るまで、又は少なくとも第2流動媒体間隙部1108の付近まで、流動媒体供給体1101の板金構造体を用いて、搬送する。
【0192】
摩擦リング521を、2フリクションコーン538、539と比較してかなり幅狭な構成要素にしたため、流動媒体1112も有利には第1流体間隙部1107に、主伝動部材1100の板金構造体によって流入する。
【0193】
図9に示す主伝動部材1200も、第1フリクションコーン638、第2フリクションコーン639及び、これら2フリクションコーン638、639間で対応する摩擦リング621を特徴とする。主伝動部材1200を、フリクションコーン型変速機のハウジング608内に取付け、そこで、第1フリクションコーン638は第1フリクションコーン軸650回りに回転し、第2フリクションコーン639は第2フリクションコーン軸651回りに回転する。板金構造体としての流動媒体供給体1201をまた同様に、流動媒体溜め1203部分でハウジング608に固着する。前に説明した例示的実施形態の場合のように、流動媒体1212を、第1流動媒体間隙部1207及び第2流動媒体間隙部1208に、流動媒体供給体1201を用いてガイドする。更なる流動媒体供給体1220を、主伝動部材1200上方に設ける。該更なる流動媒体供給体1220を用いて、2流動媒体間隙部1207、1208から流れ方向1222に従い搬送する流動媒体1221を、偏向させ、第1フリクションコーン638及び摩擦リング621へと戻るよう、戻り偏向方向1223にガイドする。」(段落【0185】ないし【0193】)

エ 「【0211】
図18に示す例示的実施形態4101では、調節可能な摩擦リング4103を介して互いに協働する入力コーン4127及び出力コーン4128を含む。入力コーン4127を駆動軸4129に連動結合し、出力コーン4128を従動軸4130に連動結合する。この例示的実施形態4101では、入力コーン4127を、まず円筒ころ軸受(ここでは詳細には図示しない)を用いて取付け、次に円錐ころ軸受4131に取付ける。円錐ころ軸受4131は、特に径方向に作用する力だけでなく軸方向に作用する力も吸収するのに適している。出力コーン4128を、単に円筒ころ軸受4132だけを用いて取付け、そこに更に出力コーン4128の従動軸4130を、円錐ころ軸受4133を用いて取付ける。特に、これらの2コーン4127及び4128を、互いに対して軸方向で円錐ころ軸受4133によって振止めするが、必要な押圧力を印加して、トルクを摩擦リング4102を介して入力コーン4127から出力コーン4128に、及び出力コーン4128から入力コーン4127に伝達可能なようにして、これを行う。
【0212】
この押圧のために、又は、必要な押圧力を発生させるために、押圧装置4134を、従動軸4130と出力コーン4128との間に更に設ける一方で、この例示的実施形態では入力シャフト4129を更に直接入力コーン4127に結合させる。
【0213】
押圧装置4134は、出力コーン4128と円錐ころ軸受4133との間の軸方向距離を従動軸4130について変更できる、つまり、振止めした状態で、それに応じて様々な押圧力を発生できる。
【0214】
ここで説明する変速機の変速比を、摩擦リング4103を変位させて選択し、それによって様々な力、特に、様々なトルクをこの仕組み全体に作用させる。この押圧力、ひいては入力コーン4127と出力コーン4128との間の摩擦結合を、様々な運転条件に対して有利に適応させるために、押圧装置4134に、玉4137用ガイドトラックを備えた2つの調節用ディスク4135及び4136を含む。調節用ディスク4135及び4136を、トルクを従動側コーン4128から調節用ディスク4136に、玉4137を介して調節用ディスク4135に、そこから従動軸4130に伝達するように構成する。玉4137用ガイドトラックを、ここでは、増大したトルクにより、2つの調節用ディスク4135及び4136を互いに対して回転させ、次にこの回転の結果玉4137をガイドトラックに沿って変位させ、調節用ディスク4135及び4136を互いから離隔して押圧するように、構成する。理想的には、これら2つの調節用ディスク4135と4136との間の回転運動を、この仕組みを実質的に剛性にした場合には、行わない。この場合、トルクによって直接押圧力が、傾斜したガイドトラックのために、増大する。このように、押圧装置4134により、初期トルクに応じた押圧力が発生する。有利には、ここで機械的装置として記載した仕組みは、極めて応答時間が短く、特に、出力側ドライブトレインの衝撃に対して、良好に応答できる。」(段落【0211】ないし【0214】)

(4)引用文献2に記載された発明
ア 上記(3)ア及びエにおける「入力コーン」及び「出力コーン」に関する記載から、上記(3)イ及びウ並びに図3ないし9における円錐摩擦ホイール(フリクションコーン)においても入力側及び出力側が存在することが分かる。
イ 上記(4)アに加え、上記(3)イの記載、並びに図3、図5ないし7、図12及び図18に示された円錐摩擦ホイール(フリクションコーン)の傾斜した円錐(コーン)態様から、入力側及び出力側の両円錐摩擦ホイールの一方を包囲して両円錐摩擦ホイールの対向する傾斜面に挟持される摩擦リングの配置態様が理解できる。
ウ 上記(3)ア及びイの記載から、摩擦リングを移動して変速比を可変とする調節装置及び調節駆動装置は全体として変速操作手段といえるものであり、上記(3)アの特に段落【0104】における「無段変速機の“調節駆動装置”を、複数の駆動可能体で実現することができる。例えば、これを、モータ駆動装置を用いて、又は、磁気駆動装置を用いて、又は、油圧駆動装置を用いて電気的に達成する。」の記載から、無段変速機の変速操作手段が電動アクチュエータを有するものであることが分かる。
エ 上記(3)エ並びに図18における押圧装置の細部構成から、押圧装置が、摩擦リングを両円錐摩擦ホイールの間で挟持する押圧力を、両円錐摩擦ホイールの伝達トルクに応じて発生する傾斜したガイドトラックを有する調節用ディスク及び玉からなる機構を備えるものであることが分かる。
オ 上記(3)ウ並びに図8及び図9における流動媒体の流通態様、及び上記(3)イ段落【0174】における「例えばシリコンオイル」及び「トラクション流体又は油」の記載から、オイルが付着している回転部材の回転により摩擦リングと両円錐摩擦ホイールとの接触部にオイルが供給されるものであることが分かる。
カ 上記(4)アないしオ、上記(3)アないしエの記載、及び図1ないし図19の記載を総合すると、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認める。
「平行なローラ体軸上に配置されかつ逆方向に配列された入力側円錐摩擦ホイール及び出力側円錐摩擦ホイールと、両円錐摩擦ホイールの一方を包囲して両円錐摩擦ホイールの対向する傾斜面に挟持される摩擦リングと、摩擦リングを移動して変速比を可変とする変速操作手段と、を有する円錐摩擦リング無段変速機と、
変速操作手段が電動アクチュエータを有し、
摩擦リングを両円錐摩擦ホイールの間で挟持する押圧力を、両円錐摩擦ホイールの伝達トルクに応じて発生する傾斜したガイドトラックを有する調節用ディスク及び玉からなる機構を備え、
オイルが付着している回転部材の回転により摩擦リングと両円錐摩擦ホイールとの接触部にオイルが供給される円錐摩擦リング無段変速機。」

(5)対比
ア 本願補正発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1における「エンジン出力軸O1」は、その機能、構造又は技術的意義からみて、本願補正発明における「エンジン出力軸」に相当し、以下同様に、「クラッチC」は、「クラッチ」に、「左右の車軸DS」は「左右のアクスル軸である出力部」及び「出力部」に、「ディファレンシャルギヤDG」は「出力部材」に、「回転電機MG」は「電気モータ」に、「ハイブリッド駆動装置」は「ハイブリッド駆動装置」に、それぞれ相当する。
イ 引用発明1における「無段変速機」、「無段変速機の入力軸」及び「無段変速機の出力軸」は、
「無段変速装置」、「無段変速装置の入力軸」及び「無段変速装置の出力軸」という限りにおいて、
本願補正発明における「互いに平行な軸線上に配置されかつ大径側と小径側とが逆になるように配置された円錐形状の入力側摩擦車及び出力側摩擦車と、これら両摩擦車の一方を囲むようにして両摩擦車の対向する傾斜面に挟持されるリングと、該リングを移動して変速操作する変速操作手段と、を有する円錐摩擦車リング式無段変速装置」であって、「前記変速操作手段が、電動アクチュエータを有し」、「前記リングを前記両摩擦車との間で挟持する軸力を、前記両摩擦車との間の伝達トルクに応じて発生するカム機構を備え、オイルが付着している回転部材の回転により前記リングと前記両摩擦車との接触部にオイルが供給され」る無段変速装置、「前記入力側摩擦車に連結する入力軸」及び「前記出力側摩擦車に連結する出力軸」に相当する。
ウ 引用発明1における「回転電機MGの出力軸及びクラッチCの出力側が、左右の車軸DSに駆動連結された連動状態にある」は、
「電気モータの出力軸及びクラッチの出力側が、出力部に駆動連結された連動状態にある」という限りにおいて、
本願補正発明における「前記電気モータの出力軸及び前記クラッチの出力側が、常に前記出力部に駆動連結された連動状態にある」に相当する。
エ したがって、本願補正発明と引用発明1とは、
「無段変速装置と、
無段変速装置の入力軸とエンジン出力軸との間に介在するクラッチと、
無段変速装置の出力軸からの動力を左右のアクスル軸である出力部に出力する出力部材と、
前記出力軸に連動する電気モータと、を備えてなるハイブリッド駆動装置において、
電気モータの出力軸及びクラッチの出力側が、出力部に駆動連結された連動状態にある、
ハイブリッド駆動装置。」の点で一致し、次の点で相違する。
(相違点1)
「無段変速装置」、「無段変速装置の入力軸」及び「無段変速装置の出力軸」に関して、
本願補正発明においては、「互いに平行な軸線上に配置されかつ大径側と小径側とが逆になるように配置された円錐形状の入力側摩擦車及び出力側摩擦車と、これら両摩擦車の一方を囲むようにして両摩擦車の対向する傾斜面に挟持されるリングと、該リングを移動して変速操作する変速操作手段と、を有する円錐摩擦車リング式無段変速装置」であって、この無段変速装置は、「前記変速操作手段が、電動アクチュエータを有し」、「前記リングを前記両摩擦車との間で挟持する軸力を、前記両摩擦車との間の伝達トルクに応じて発生するカム機構を備え、オイルが付着している回転部材の回転により前記リングと前記両摩擦車との接触部にオイルが供給され」、無段変速装置の入力軸及び出力軸については、「前記入力側摩擦車に連結する入力軸」及び「前記出力側摩擦車に連結する出力軸」であるのに対し、
引用発明1においては、無段変速機の細部構成が明らかでない点(以下、「相違点1」という。)。
(相違点2)
「電気モータの出力軸及びクラッチの出力側が、出力部に駆動連結された連動状態にある」ことに関して、
本願補正発明においては、「前記電気モータの出力軸及び前記クラッチの出力側が、常に前記出力部に駆動連結された連動状態にある」のに対し、
引用発明1においては、「回転電機MGの出力軸及びクラッチCの出力側が、左右の車軸DSに駆動連結された連動状態にある」点(以下、「相違点2」という。)。
(相違点3)
本願補正発明においては、「クラッチを操作するクラッチ操作手段が、電動アクチュエータを有」するものであるのに対し、引用発明1においては、「回転電機MGの回転により得られた油圧によりクラッチCの係合及び係合解除を実現できるよう構成し」ている点(以下、「相違点3」という。)。

(6)判断
・相違点1及び2について
本願補正発明と引用発明2とを対比すると、引用発明2における「平行なローラ体軸上に配置されかつ逆方向に配列された入力側円錐摩擦ホイール及び出力側円錐摩擦ホイール」は、その機能、構造又は技術的意義からみて、本願補正発明における「互いに平行な軸線上に配置されかつ大径側と小径側とが逆になるように配置された円錐形状の入力側摩擦車及び出力側摩擦車」に相当し、以下同様に、「両円錐摩擦ホイールの一方を包囲して両円錐摩擦ホイールの対向する傾斜面に挟持される摩擦リング」は「これら両摩擦車の一方を囲むようにして両摩擦車の対向する傾斜面に挟持されるリング」に、「摩擦リングを移動して変速比を可変とする変速操作手段」は「該リングを移動して変速操作する変速操作手段」に、「円錐摩擦リング無段変速機」は「円錐摩擦車リング式無段変速装置」に、「変速操作手段が電動アクチュエータを有し」は「変速操作手段が、電動アクチュエータを有し」に、「摩擦リングを両円錐摩擦ホイールの間で挟持する押圧力を、両円錐摩擦ホイールの伝達トルクに応じて発生する傾斜したガイドトラックを有する調節用ディスク及び玉からなる機構」は「前記リングを前記両摩擦車との間で挟持する軸力を、前記両摩擦車との間の伝達トルクに応じて発生するカム機構」に、「オイルが付着している回転部材の回転により摩擦リングと両円錐摩擦ホィールとの接触部にオイルが供給される」は「オイルが付着している回転部材の回転により前記リングと前記両摩擦車との接触部にオイルが供給され」にそれぞれ相当する。
そうすると、引用発明2は、次の技術的事項を備える装置を意味するものであることが理解できる。
「互いに平行な軸線上に配置されかつ大径側と小径側とが逆になるように配置された円錐形状の入力側摩擦車及び出力側摩擦車と、これら両摩擦車の一方を囲むようにして両摩擦車の対向する傾斜面に挟持されるリングと、該リングを移動して変速操作する変速操作手段と、を有する円錐摩擦車リング式無段変速装置と、
前記変速操作手段が、電動アクチュエータを有し、
前記リングを前記両摩擦車との間で挟持する軸力を、前記両摩擦車との間の伝達トルクに応じて発生するカム機構を備え、
オイルが付着している回転部材の回転により前記リングと前記両摩擦車との接触部にオイルが供給される円錐摩擦車リング式無段変速装置。」
そこで、相違点1について検討すると、引用発明1において、無段変速機を技術的に具体化する際に、既存の種々の無段変速機を適宜導入すべく試みることは当業者の当然の発意であるから、無段変速機の具体化手段の一つの例である引用発明2を、引用発明1の無段変速機として適用することに何ら困難性はない。特に、引用文献2には、「【0101】・・・例えば、入力コーンに即座にモータ動力を加えた状態等・・・例えば、かかる無段変速機を用いて運転する車両・・・。」(上記(3)ア段落【0101】)、「【0225】・・・例えば自動車の12Vバッテリ5004から電源を供給する。」(段落【0225】)及び「【0233】・・・車両のエンジンを過剰に使用しない・・・。」(段落【0233】)と記載されていることから、引用発明2の無段変速機は、エンジン、バッテリ及びモータを備える車両に用いられるものである。これに対し、無段変速機を備える引用発明1もエンジン及び(バッテリーBに接続される)回転電機MGを備えた車両(上記(1)イ段落【0022】参照。)であるから、引用発明1及び2を組み合わせることの困難性がないことに加え、引用発明1の無段変速機に引用発明2を適用することの示唆はあるというべきである。さらに、引用発明1を含め、ハイブリッド駆動装置において、種々の機械を電動アクチュエータによる駆動とすることは、当業者が通常採用し得る技術的事項であるから、引用発明2の無段変速機における電動アクチュエータを有する変速操作手段を、引用発明1に適用する際に、そのまま電動アクチュエータによるものとして適用することは、当然の帰結である。
次に相違点2について検討すると、引用発明1のように、回転電機MGの出力軸及びクラッチCの出力側が、左右の車軸DSに駆動連結された連動状態にあるハイブリッド駆動装置において、引用発明2を単に適用すること、すなわち適用における簡易な態様としては、引用発明2の「入力側円錐摩擦ホイール」及び「出力側円錐摩擦ホイール」をそれぞれ引用発明1における「無段変速機の入力軸」及び「無断変速機の出力軸」への連結とすることが直ちに想起できるし、その適用により駆動連結された連動状態は、常に出力部(左右の車軸DS)に駆動連結された連動状態であるといえる。
なお、本願補正発明における「前記電気モータの出力軸及び前記クラッチの出力側が、常に前記出力部に駆動連結された連動状態にある」ことに関して、請求人は審判請求書において、「引用文献1は、明細書の「技術分野」([0001])、「目的」([0009])に明記されているように、エンジンと電気モータ(回転電機)の一方若しくは両方から回転駆動を得て、変速機で変速して駆動輪に伝達するハイブリッド駆動装置に係るものであり、例え変速機に無段変速機を適用したとしても、エンジンを駆動源とする場合で後進可能となるように、前後進切換え装置を備える必要があり、該前後進切換え装置にあっては、クラッチ(又はブレーキ)により駆動連結が遮断される状況を生じ、電気モータの出力軸及びクラッチの出力側が、左右のアクスル軸である常に出力部(W)に駆動連結された連動状態にあるものではない。 」(審判請求書「3.本願発明が特許されるべき理由(d)本願発明と引用発明との対比」)と主張している。また、請求人は回答書において、「また、該引用文献1は、明細書の「技術分野」([0001])、「目的」([0009])に明記されているように、エンジンと電気モータ(回転電機)の一方若しくは両方から回転駆動を得て、変速機で変速して駆動輪に伝達するハイブリッド駆動装置に係るものであり、例え変速機に無段変速機を適用したとしても、エンジンを駆動源とする場合で後進可能となるように、前後進切換え装置を備える必要があり、該前後進切換え装置にあっては、クラッチ(又はブレーキ)により駆動連結が遮断される状況を生じ、電気モータの出力軸及びクラッチの出力側が、常に左右のアクスル軸である出力部(W)に駆動連結された連動状態にあるものではない。」(回答書「3.本願発明と引用発明との対比(1)」)と主張している。しかしながら、両主張に係る「前後進切換え装置」を設けないことについては、本願補正発明の発明特定事項として記載された事項ではないし、発明特定事項どおりの「常に出力部に駆動連結された連動状態」については、上述したとおり、引用発明1及び2に基づき、当業者が適宜なし得ることである。
また、本願補正発明の発明特定事項が、請求人が主張するように「前後進切換え装置」を設けないことを、意味するものであるとしても、以下のとおり、それは進歩性を有するものではない。
本願補正発明の「前記電気モータの出力軸及び前記クラッチの出力側が、常に前記出力部に駆動連結された連動状態にある」という発明特定事項に関して、本願明細書には、「【0010】・・・また、電気モータの出力軸及びクラッチの出力側が、常に例えばディファレンシャル装置等の出力部(39l,39r)に駆動連結されるとは、途中に例えば前後進切換え装置が介在することがなく、常に連動状態にあることを意味する。」(段落【0010】)と記載され、該前後進切換え装置によらない後進態様については、「リバース時は、クラッチ4を切断すると共にエンジンを停止し、かつ電気モータ2を逆方向に回転駆動する。これにより、モータ出力軸8の逆回転は、ギヤ16,17,19及び低速状態にあるコーンリング式CVT3を介して出力軸24に伝達される。更に、ギヤ44、41を介してディファレンシャル装置5に伝達され、左右のアクスル軸39l,39rを逆回転して、車輌を後進する。」(段落【0041】)と記載されている。
しかしながら、ハイブリッド車両の技術分野において、前後進切換機構を用いずに、常に出力部に駆動連結された連動状態とすること、及びエンジンに対応するクラッチを開放してモータの逆回転により後進することは、簡易なシステム構成の一つとして技術常識である(以下、「技術常識」という。例として、特開2004-11819号公報の段落【0018】及び図1、又は特開2001-263389号公報の段落【0022】及び【0030】並びに図1参照。)。そうすると、技術常識に基づき、引用発明2の「入力側円錐摩擦ホイール」及び「出力側円錐摩擦ホイール」をそれぞれ引用発明1における「無段変速機の入力軸」及び「無断変速機の出力軸」への連結とすることに、当業者の格別の創意は要しない。
したがって、引用発明1及び引用発明2に基づき、又は、引用発明1、引用発明2及び技術常識に基づき、相違点1及び2に係る本願補正発明の発明特定事項に想到することは、当業者が容易になし得ることである。

・相違点3について
クラッチを操作するクラッチ操作手段が、電動アクチュエータを有するものとすることは、ハイブリッド車両を含め、車両一般において周知の技術(必要であれば、特開2001-263389号公報の段落【0023】参照。以下、「周知技術」という。)であるから、相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項は、引用発明1及び周知技術に基づき、当業者が適宜なし得る設計事項である。

そして、本願補正発明を全体として検討しても、その作用効果は、引用発明1、引用発明2及び周知技術から、又は引用発明1、引用発明2、周知技術及び技術常識から、当業者が予測することができる以上の格別顕著なものではない。

したがって、本願補正発明は引用発明1、引用発明2及び周知技術に基づき、又は引用発明1、引用発明2、周知技術及び技術常識に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである

(7)むすび
よって、本願補正発明は引用発明1、引用発明2及び周知技術に基づき、又は引用発明1、引用発明2、周知技術及び技術常識に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
平成25年12月4日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1Aに示した請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。

1 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である引用文献1及び2の記載、並びに引用発明1及び2については、上記第2[理由]3(1)ないし(4)に記載したとおりである。

2 対比・判断
本願発明は、上記第2で検討した本願補正発明において、「左右のアクスル軸である出力部」を「出力部」に上位概念化したものである。
そうすると、本願発明における発明特定事項をさらに限定したものに相当する本願補正発明が、上記第2[理由]3(5)ないし(7)で述べたとおり、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明1、引用発明2及び周知技術に基づき、又は引用発明1、引用発明2、周知技術及び技術常識に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1、引用発明2及び周知技術に基いて、又は引用発明1、引用発明2、周知技術及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-09-11 
結審通知日 2014-09-16 
審決日 2014-09-29 
出願番号 特願2012-508151(P2012-508151)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B60K)
P 1 8・ 121- Z (B60K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山村 秀政  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 槙原 進
藤原 直欣
発明の名称 ハイブリッド駆動装置  
代理人 近島 一夫  

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