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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F
管理番号 1294048
審判番号 不服2014-2060  
総通号数 181 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-02-04 
確定日 2014-11-14 
事件の表示 特願2008- 25621「非接触電力伝送装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 8月20日出願公開、特開2009-188131〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1. 手続の経緯
本願は、平成20年2月5日の出願であって、平成25年2月27日付けで拒絶理由が通知され、同年4月22日付けで手続補正されたが、同年11月19日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成26年2月4日に拒絶査定不服の審判が請求されたものである。

2. 本願発明
本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成25年4月22日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものであるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】
電磁誘導を用いて1次側コイルから2次側コイルに非接触にて電力を伝送する電力電送装置において、前記1次側コイル及び前記2次側コイルは平面渦巻き型コイルからなりかつ軸方向で互いに対向しており、前記2次側コイルの外径は前記1次側コイルの外径より小さく、前記1次側コイル及び前記2次側コイル間の磁気結合係数は0.1?0.8であり、前記2次側コイルと前記1次側コイルとの少なくとも一方の外側に、軟磁性材料を配置した、ことを特徴とする非接触電力伝送装置。」

3. 引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第99/27603号(平成11年6月3日公開、以下、「引用例1」という。)には、図面と共に以下の技術事項が記載されている(下線は当審で付与した。)。

イ.「技術分野
この発明は、2つの機器の一方から他方へ非接触で充電を行うことができる電子機器、または、2つの機器間で一方向または双方向にデータ転送が可能な電子機器に関し、たとえば、充電可能な2次電池を電源とする電動歯ブラシ、電動ひげそり、コードレス電話、携帯電話、PHS(Personal Handy-phone System;簡易型携帯電話システム)、モバイルパソコン、小型情報機器、電子時計等の機器と、これらに非接触で充電を行う機器とを揺する有する電子機器に関する。
技術背景
近年、携帯端末や電子時計などのような小型携帯電子機器をステーションと呼ばれる充電機器に収容して、当該携帯電子機器への充電とともに、当該携帯電子機器との信号転送などが行われつつある。ここで、充電や信号転送などについて電気的接点を介して行う構成にすると、これら接点が露出するため、防水性の面において問題が発生する。このため、充電や信号転送などは、ステーションと携帯電子機器との双方に配設されたコイルの電磁的な結合によって非接触で行う構成が望ましい。
このような構成において、ステーション側のコイルに高周波信号を印加すると、外部磁界が発生して、携帯電子機器側のコイルに誘起電圧が発生する。そして、この誘起電圧をダイオード等により整流することにより、携帯電子機器に内蔵された二次電池を非接触で充電することが可能となる。また、両者コイルの電磁的な結合により、ステーションから携帯電子機器へ、あるいは、携帯電子機器からステーションへと信号を非接触で双方向に転送することも可能となる。
ところで、ステーション側のコイルおよび携帯電子機器側のコイルには、互いに電磁的に結合することだけではなく、充電や信号転送の効率を高めることも要求される。
そこで、従来では、携帯電子機器がステーションに収容された場合に、両コイルの巻回面が平行であって、それらの中心が一致する位置関係を確保する構成となっていた。
しかしながら、携帯電子機器をステーションに収容するだけで、両コイルを上記位置関係とするのは、例えば、コイルがステーションあるいは携帯電子機器に配設される精度などによって困難である。このため、本質的に、両コイルが多少位置ずれしても、その影響を受けにくい構成が要求されている。」(1頁3行?2頁9行)

ロ.「発明の開示
本発明は上述した背景の下になされたものであり、その主たる目的には以下のものがある。第1の目的は、非接触充電において、充電部から被充電部への電力伝送効率を向上させることにより、2次電池の急速充電を可能にすることにある。」(3頁15?18行)

ハ.「上述した各発明の構成によれば、本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、携帯電子機器やステーションなどのように、互いに分離した2以上の機器間において、互いに対向する位置にそれぞれ配設されたコイルとの電磁的な結合によってデータ転送あるいは電力転送を実行する場合に、両コイルの位置ずれの影響を受けにくい電子機器を提供することにある。」(5頁13?17行)

ニ.「発明を実施するための最良の形態
A.第1実施形態
以下、第1実施形態について説明する。なお、本実施形態にあっては、充電機器としてステーション、被充電機器として電子時計を例にとって説明するが、本発明をこれらに限定する趣旨ではない。
<機械的構成>
図1は、実施形態にかかるステーションおよび電子時計の構成を示す平面図である。この図に示すように、電子時計200は、充電やデータ転送など行う場合、ステーション100の凹部101に収容される。この凹部101は、電子時計200の本体201およびバンド202よりも若干大きめな形状に形成されているため、時計本体201は、ステーション100に対して位置決めされた状態で収容される。
また、ステーション100には、充電の開始を操作入力するための入力部103とともに、各種の表示を行うための表示部104が設けられている。なお、本実施形態にかかる電子時計200は、通常の使用状態ではユーザの腕に装着されて、表示部204において日付時刻等が表示されるのは言うまでもないが、図示しないセンサ等によって、脈拍数や心拍数などの生体情報を一定時間毎に検出・記憶する構成となっている。
図2は、図1におけるA-A線の断面図である。この図に示すように、電子時計の本体201の下面裏蓋212には、データ転送や充電のための時計側コイル210がカバーガラス211を介して設けられている。また、時計本体201には、二次電池220や、時計側コイル210などと接続される回路基板221が設けられる。
一方、ステーション100の凹部101にあって、時計側コイル210と対向する位置には、ステーション側コイル110がカバーガラス111を介して設けられている。また、ステーション100には、コイル110、入力部103、表示部104、一次電源(図示省略)などが接続された回路基板121が設けられている。なお、ステーション側コイル110と時計側コイル210との詳細については後述する。
このように、電子時計200がステーション100に収容された状態において、ステーション側コイル110と、時計側コイル210とは、カバーガラス111、211により物理的には非接触であるが、コイル巻回面が略平行なので電磁的には結合した状態となる。
また、ステーション側コイル110および時計側コイル210とは、それぞれ時計機構部分の着磁を避ける理由や、時計側の重量増加を避ける理由、磁性金属の露出を避ける理由などにより、磁心を有さない空心型となっている。したがって、このようなことが問題とならない電子機器に適用する場合には、磁心を有するコイルを採用しても良い。もっとも、コイルに与える信号周波数が十分に高いのであれば、空心型で十分である。
ここで、本願発明者らは、コイルの特性について各種シミュレートした。そこで、その結果について説明する。
まず、図8(b)は、同一長(3m)の導線を用いて、一次コイルおよび二次コイルとを同一とした場合に、同図(a)に示すように巻回による内径/外径(Din/Dout)の比を変化させたときの相互インダクタンスMの特性をシミュレートした結果である。この図に示すように、相互インダクタンスMは、内径/外径の比がおおよそ0.3?0.7の範囲で高い値を示し、0.5で最大となることが判る。
次に、図9(b)は、一次コイルと二次コイルとの導線長の和を一定(6m)として、同図(a)に示すように両コイルの外径(D1/D2)の比を変化させたときの最大効率値ηmaxと、20W伝送時の最小損失量Wcminとの各特性をシミュレートした結果である。この図に示すように、一次コイルと二次コイルとの外径の比が0.7?1.3の範囲において、ηmaxは高い値を示し、Wcminは小さい値を示す。そして、一次コイルと二次コイルとの外径の比が1.0のとき、すなわち等しいとき、ηmaxは最大となり、Wcminは最小となる。
さらに、本願発明者らは、一次コイルの内径と二次コイルの内径とを同一にした場合と、一次コイルの内径を1mmだけ大きくした場合とにおいて、両コイルの平面的な中心位置が一致しているときと、1mmだけずれたときとで、磁束密度がどのような分布となるかについてシミュレートした。この結果を図10に示す。この図に示すように、コイルの内径が等しい場合に位置ずれすると、磁束密度の高い範囲が狭くなる。これに対し、内径が異なるコイルでは、その内径差(1mm)以内の位置ずれであれば、磁束密度の高い範囲はほとんど変化しない。
このシミュレート結果は、次のような実験でも裏付けられる。すなわち、本願発明者らは、一次コイルの内径と二次コイルの内径とを同一にした場合と、一次コイルの内径を1mmだけ大きくした場合とにおいて、両コイルが中心に対して位置ずれしたときに、二次コイル側で得られる電流が、どのように変化するかについて実測した。この実測結果を図11に示す。この図において、横軸は、両コイルの中心に対するずれ量(mm)であり、縦軸は、ずれ量がゼロの場合における電流値を「1」とした相対値である。この図に示すように、内径が同一であるコイル同士では、ずれ量が大きくなるにつれて二次側で得られる電流値は小さくなる。これに対し、内径が異なるコイル同士では、ずれ量が、内径差(1mm)以内であれば、二次側で得られる電流値はほとんど変化しない。
そこで、本実施形態では、図3に示すように、ステーション側コイル110の内径を時計側コイル210の内径よりも1mmだけ大きくして、その内径差以内での位置ずれの影響をほとんど受けないようにした。さらに、一次コイルとしてのステーション側コイル110と、二次コイルとしての時計側コイル210との内径をともに外径の約半分とするとともに、その外径をともに略同一として、充電や信号転送の効率を高めることとした。
なお、両コイルの内径差は、コイルの取付精度や、ステーション100に対する電子時計200の収容精度などを考慮して、実施形態の値以上、すなわち、1mm以上とするのが望ましいと考える。」(7頁18行?10頁11行)

ホ.「<変形例>
なお、上記実施形態にあっては、次のような変形が可能である。
実施形態にあっては、位置ずれの影響を少なくすることと、データ・電力転送の効率維持とを両立するため、ステーション側コイル110の内径を時計側コイル210の内径よりも1mmだけ大きくするとともに、両コイルの内径を外径の約半分とし、さらに、両コイルの外径を略同一としたが、これらの要件を必ずしもすべて満たさなくても良い。すなわち、ステーション側コイル110の内径を時計側コイル210の内径よりも1mmだけ大きくするとともに、両コイルの内径を外径の約半分とするだけも十分であり、また、ステーション側コイル110の内径を時計側コイル210の内径よりも1mmだけ大きくするとともに、両コイルの外径を略同一とするだけも十分である。」(15頁6?16行)

上記引用例1の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記摘示事項ハ.の「互いに対向する位置にそれぞれ配設されたコイルとの電磁的な結合によってデータ転送あるいは電力転送を実行する場合に、両コイルの位置ずれの影響を受けにくい電子機器を提供することにある。」及び上記摘示事項ニ.の「ステーション側コイル110と、時計側コイル210とは、カバーガラス111、211により物理的には非接触であるが、コイル巻回面が略平行なので電磁的には結合した状態となる。」の記載から、電子機器は、非接触で互いに対向する位置にそれぞれ配設されたコイル巻回面が略平行なコイルとの電磁的な結合によって電力転送するものである。ここで、上記摘示事項ロ.の「非接触充電において、充電部から被充電部への電力伝送効率を向上させる」及び上記摘示事項ハ.の「電力転送を実行する」の記載から、電力伝送と電力転送とは同様の技術的意味を有するものである。
また、上記摘示事項ホ.の「実施形態にあっては、位置ずれの影響を少なくすることと、データ・電力転送の効率維持とを両立するため・・・ステーション側コイル110の内径を時計側コイル210の内径よりも1mmだけ大きくするとともに、両コイルの内径を外径の約半分とする」の記載から、電子機器は、ステーション側コイル110の内径を時計側コイル210の内径よりも大きくするとともに、両コイルの内径を外径の約半分とするものである。
また、上記摘示事項ニ.の「一次コイルとしてのステーション側コイル110と、二次コイルとしての時計側コイル210」の記載から、ステーション側コイル110は一次コイル、時計側コイルは二次コイルである。

したがって、上記引用例1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「非接触で互いに対向する位置にそれぞれ配設されたコイル巻回面が略平行なコイルの電磁的な結合によって電力を伝送する電子機器であって、一次コイルの内径を2次コイルの内径より大きくするとともに、両コイルの内径を外径の約半分とする電子機器。」

同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-231586号公報(平成7年8月29日公開、以下、「引用例2」という。)には、図面と共に以下の技術事項が記載されている(下線は当審で付与した。)。

ヘ.「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、コイル間に生じる電磁誘導作用により非接触で電力を伝送するコードレスパワーステーションに関する。」(2頁2欄)

ト.「【0026】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、空隙を介して対向するコイルを含み、該対向するコイル間に生じる電磁誘導作用を利用して非接触に電力を伝送するコードレスパワーステーションにおいて、対向するコイルは出力側部分及び入力側部分を含み、且つ少なくとも該出力側部分の外側部に軟磁性材部を装着したコードレスパワーステーションが得られる。」(4頁6欄)

チ.「【0035】
【実施例】
以下に実施例を挙げ、本発明のコードレスパワーステーションについて詳細に説明する。最初に、本発明のコードレスパワーステーションの概要について簡単に説明する。
【0036】このコードレスパワーステーションは、空隙を介して対向するコイル間に生じる電磁誘導作用を利用して非接触に電力を伝送するもので、対向するコイルは出力側部分及び入力側部分を含むもので、しかも少なくとも出力側部分の外側部には軟磁性材部が装着されている。この軟磁性材部は、後述するように、磁束漏れを防止する効果がある。このようなコードレスパワーステーションの場合、後述するように伝送電力の増大と変換効率の向上とが顕著になる。
【0037】ここで、対向するコイルについて、電源(信号源)に接続される方のコイルを1次側(入力側)、機器に接続される方のコイルを2次側(出力側)とすれば、伝送電力の増大と変換効率の向上とを一層強化するために、幾つかの異なるコードレスパワーステーションを構成することができる。
【0038】例えば、対向するコイルが出力側部分を含むものとすれば、その出力側部分にコンデンサを挿入する構成(図示せず)が挙げられる。又、図1に示すように銅線L_(c) を用いて空芯を成すと共に、リード線3を有するように形成した平面渦巻型コイル2を用いることにより、対向するコイルを図2に示すように一対の平面渦巻型コイル2a,2bとすると共に、軟磁性材部を軟磁性フェライト板1とした上で、平面渦巻型コイルの出力側部分2aの外側部に軟磁性フェライト板1を装着した構成としたり、或いは図3に示すように一対の平面渦巻型コイル2a,2bにおける入力側部分2b及び出力側部分2aのそれぞれの外側部に軟磁性フェライト板1b,1aを装着した構成が挙げられる。」(5頁8欄?6頁9欄)

リ.「【0041】こうした幾つかのコードレスパワーステーションにおいて、出力側のコイル、又は入力側及び出力側のコイルの外側部に軟磁性材部を装着することによって伝送電力,変換効率等が向上する理由は、コイルより発生した磁束が軟磁性材部を集中して通るようになるため、漏れ磁束の低減を図れるからである。又、装着する軟磁性材部の磁性材料として軟磁性フェライトを使用した理由は、軟磁性フェライトは電気抵抗が高く、交流特性が優れているからである。更に、軟磁性フェライト板の厚さを0.1?5.0[mm]の範囲に限定した理由は、0.1mm以上とすると磁束を捕捉する効果が明らかに認められるが、5.0mm以上になると、薄型化への効果が著しく低下するためである。加えて、対向するコイルを平面渦巻型コイルとした理由は、複数の空芯コイルが同一平面上に密に配置されていると、それに対応して磁束量の増加が生じるので、伝送電力の増加が図れるからである。」(6頁9欄)

上記引用例2の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記摘示事項チ.の「このコードレスパワーステーションは、空隙を介して対向するコイル間に生じる電磁誘導作用を利用して非接触に電力を伝送するもので」(段落【0036】)の記載から、コードレスパワーステーションは、対向するコイル間に生じる電磁誘導作用を利用して非接触に電力を伝送するものである。
また、上記摘示事項ト.の「空隙を介して対向するコイルを含み、該対向するコイル間に生じる電磁誘導作用を利用して非接触に電力を伝送するコードレスパワーステーションにおいて、対向するコイルは出力側部分及び入力側部分を含み」(段落【0026】)及び上記摘示事項チ.の「電源(信号源)に接続される方のコイルを1次側(入力側)、機器に接続される方のコイルを2次側(出力側)」(段落【0037】)の記載から、対向するコイルは1次側(入力側)コイル及び2次側(出力側)コイルを含んでいる。
また、上記摘示事項チ.の「対向するコイルを図2に示すように一対の平面渦巻型コイル2a,2bとする」(段落【0038】)の記載から、対向するコイルは平面渦巻型コイルである。
また、上記摘示事項ト.の「且つ少なくとも該出力側部分の外側部に軟磁性材部を装着したコードレスパワーステーションが得られる。」(段落【0026】)及び上記摘示事項チ.の「平面渦巻型コイルの出力側部分2aの外側部に軟磁性フェライト板1を装着した構成としたり、或いは図3に示すように一対の平面渦巻型コイル2a,2bにおける入力側部分2b及び出力側部分2aのそれぞれの外側部に軟磁性フェライト板1b,1aを装着した構成が挙げられる。」(段落【0038】)の記載から、コードレスパワーステーションは、少なくとも2次側(出力側)コイルの外側部に軟磁性材部を装着している。

したがって、上記引用例2には、以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

「対向するコイル間に生じる電磁誘導作用を利用して非接触に電力を伝送するコードレスパワーステーションにおいて、対向するコイルは1次側(入力側)コイル及び2次側(出力側)コイルを含み、該対向するコイルは平面渦巻型コイルであり、且つ、少なくとも該2次側(出力側)コイルの外側部に軟磁性材部を装着したコードレスパワーステーション。」

4. 対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
(1)引用発明1の「一次コイル」及び「二次コイル」は、本願発明の「1次側コイル」及び「2次側コイル」にそれぞれ相当し、そして、引用発明1は、「非接触で互いに対向する位置にそれぞれ配設されたコイル巻回面が略平行なコイルの電磁的な結合によって電力を伝送する」ものであり、そして、一次コイルから二次コイルに電磁的な結合によって(すなわち、電磁誘導を用いて)電力を伝送することは明らかであるから、引用発明1と本願発明とは、「電磁誘導を用いて1次側コイルから2次側コイルに非接触にて電力を伝送する」点で一致する。
(2)引用発明1の「コイル」(一次コイル及び二次コイル)は、「コイル巻回面が略平行なコイル」であり、コイル巻回面と平行な面に垂直な軸方向に着目すれば、当該軸方向で互いに対向しているといえるから、引用発明1と本願発明とは、「前記1次側コイル及び前記2次側コイルは、軸方向で互いに対向して」いる点で一致する。
(3)引用発明1は、「一次コイルの内径を二次コイルの内径より大きくするとともに、両コイルの内径を外径の約半分とする」ものであり、二次コイルの外径は、一次コイルの外径より小さいといえるから、引用発明1と本願発明とは、「前記2次側コイルの外径は前記1次側コイルの外径より小さく」する点で一致する。
(4)引用発明1の「電子機器」は、非接触でコイルの電磁的な結合(電磁誘導)によって電力を伝送するものであるから、「非接触電力伝送装置」ということができる。

したがって、本願発明と引用発明1は、以下の点で一致ないし相違している。

〈一致点〉
「電磁誘導を用いて1次側コイルから2次側コイルに非接触にて電力を伝送する電力電送装置において、前記1次側コイル及び前記2次側コイルは軸方向で互いに対向しており、前記2次側コイルの外径は前記1次側コイルの外径より小さい非接触電力伝送装置。」

〈相違点1〉
「前記1次側コイル及び前記2次側コイル」について、本願発明は、「平面渦巻き型コイル」からなるものであるのに対し、引用発明1には、コイル形態についての特段の限定がなされていない点。

〈相違点2〉
本願発明は、「前記1次側コイル及び前記2次側コイル間の磁気結合係数は0.1?0.8である」としているのに対し、引用発明1には、磁気結合係数については開示がなされていない点。

〈相違点3〉
本願発明は、「前記2次側コイルと前記1次側コイルとの少なくとも一方の外側に、軟磁性材料を配置した」ものであるのに対し、引用発明1は、そのように軟磁性材料を配置していない点。

5. 判断
(1)まず、上記相違点1及び3について検討する。
引用発明1と引用発明2とは、コイル間に生じる電磁誘導作用により非接触で電力を伝送する装置という共通の技術分野に属し、引用発明2は、対向するコイルとして「平面渦巻型コイル」を用い、そして、少なくとも2次側コイルの外側部に軟磁性材部を装着するものである。なお、引用発明2の「平面渦巻型コイル」「2次側(出力側)コイル」「軟磁性材部」及び「コードレスパワーステーション」は、本願発明の「平面渦巻き型コイル」「2次側コイル」「軟磁性材料」及び「非接触電力伝送装置」にそれぞれ相当する。
さらに、引用例1の上記摘記事項ニ.には、「ステーション側コイル110および時計側コイル210とは、それぞれ時計機構部分の着磁を避ける理由や、時計側の重量増加を避ける理由、磁性金属の露出を避ける理由などにより、磁心を有さない空心型となっている。したがって、このようなことが問題とならない電子機器に適用する場合には、磁心を有するコイルを採用しても良い。」と記載されており、コイル形態として空心型のみに特化したものではないこと、換言すれば、一次コイルや二次コイルを磁心を有する形態とすることで電磁的な結合を向上させる様な構成とすることも示唆されているから、引用発明1に引用発明2を適用することに特段の阻害要因は見当たらない。
そうすると、引用発明2に接した当業者であれば、「前記1次側コイル及び前記2次側コイル」を「平面渦巻き型コイル」とすること(相違点1)、及び「前記2次側コイルと前記1次側コイルとの少なくとも一方の外側に、軟磁性材料を配置した」構成とすること(相違点3)は、容易に想到し得るものである。

(2)上記相違点2について検討する。
引用発明1の目的は、引用例1の上記摘記事項ロ.における「非接触充電において、充電部から被充電部への電力伝送効率を向上させること」であり、そして、引用例1の上記摘記事項ニ.における「巻回による内径/外径(Din/Dout)の比を変化させたときの相互インダクタンスMの特性をシミュレートした結果である。この図に示すように、相互インダクタンスMは、内径/外径の比がおおよそ0.3?0.7の範囲で高い値を示し、0.5で最大となることが判る。」との記載、及び図8(b)のグラフから解るように、電子機器(非接触電力伝送装置)において、電力伝送効率を向上させるためには、コイル間の相互インダクタンス、すなわち、一次コイルに流れる電流により発生した磁束のうちで二次コイルを貫く鎖交磁束を高めることが重要である。ここで、コイル間の相互インダクタンスは、コイル間の磁気結合係数と比例関係にあることは技術常識である。してみると、電力伝送効率を向上させるためには、コイル間の磁気結合係数に着目することが示唆されている。
一方、本願発明の1次側コイル及び2次側コイル間の磁気結合係数は、数値範囲0.1?0.8を有している。しかしながら、当該数値範囲の臨界的意義は、本願明細書段落【0054】、【0058】の記載、図5及び図6のグラフを参酌しても、見いだすことはできない。
そうすると、本願発明のように「前記1次側コイル及び前記2次側コイル間の磁気結合係数が0.1?0.8である」ことは、実験的に選択した好適な磁気結合係数の数値範囲を示したに過ぎず、当業者が必要に応じて適宜なし得るものである。

そして、上記相違点を総合的に勘案しても本願発明の作用効果は引用例1及び2から当業者が予測できる範囲内のものである。

したがって、本願発明は、引用発明1及び2に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。

6. むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-09-16 
結審通知日 2014-09-17 
審決日 2014-09-30 
出願番号 特願2008-25621(P2008-25621)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中野 浩昌  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 萩原 義則
井上 信一
発明の名称 非接触電力伝送装置  
代理人 福田 修一  
代理人 池田 憲保  
代理人 池田 憲保  
代理人 福田 修一  

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