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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G05B
管理番号 1294160
審判番号 不服2013-14340  
総通号数 181 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-07-26 
確定日 2014-11-19 
事件の表示 特願2009-529367「ボイラー管漏洩を検出するカーネルベースの方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 3月27日国際公開、WO2008/036751、平成22年 2月12日国内公表、特表2010-504501〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2007年9月19日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年9月19日、アメリカ合衆国、2007年9月18日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成24年9月13日付けの拒絶理由通知に応答して同年11月9日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成25年3月25日付けで拒絶査定がなされた。
これに対し、平成25年7月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされ、同年9月9日付けの審尋に対して、同年11月5日付けで回答書が提出された。


第2.平成25年7月26日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成25年7月26日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正の内容の概要
本件補正は、平成24年11月9日付けで補正された特許請求の範囲をさらに補正するものであって、特許請求の範囲の請求項1に関する以下の補正を含んでいる。なお、下線部は補正箇所を示す。

(1)本件補正前の請求項1
「 【請求項1】
監視されるシステムの故障を診断する方法であって、前記監視されるシステムはセンサーにより監視され、
前記監視されるシステムの対象構成要素に対する経験的モデルを構築するステップであって、前記経験的モデルを前記センサーの実例観測記録を含む履歴データソースでトレーニングするステップと、
前記経験的モデルと前記対象構成要素に対応する計測データに基づいてほぼリアルタイムの推定値を生成するステップと、
前記ほぼリアルタイムの推定値を前記センサーからの計測値と比較して差分を計算し、残差値を求めるステップと、
前記残差値を分析して前記故障を検出し、前記監視されるシステムの前記故障の位置を判定するステップと、
各入力観測記録の収集から所定の期間の後のみにおいて、前記監視されるシステムの正常な動作を示す入力観測記録をプロセッサが前記経験的モデルに適用するステップと、
を備えることを特徴とする方法。」

(2)本件補正後の請求項1
「 【請求項1】
監視されるシステムの故障を診断する方法であって、前記監視されるシステムはセンサーにより監視され、
前記監視されるシステムの対象構成要素に対する経験的モデルを構築するステップであって、前記経験的モデルを前記センサーの実例観測記録を含む履歴データソースでトレーニングするステップと、
前記経験的モデルと前記対象構成要素に対応する計測データに基づいてほぼリアルタイムの推定値を生成するステップと、
前記ほぼリアルタイムの推定値を前記センサーからの計測値と比較して差分を計算し、残差値を求めるステップと、
前記残差値を前記監視されるシステムの複数の構成要素の物理的位置を定義するデータとマージして分析することにより、前記複数の構成要素のうちの故障した構成要素の位置を推論して判定するステップと、
各入力観測記録の収集から所定の期間の後のみにおいて、前記監視されるシステムの正常な動作を示す入力観測記録をプロセッサが前記経験的モデルに適用するステップと、
を備えることを特徴とする方法。」


2.補正の適否
本件補正のうち特許請求の範囲の請求項1についてする補正は、補正前の請求項1の発明特定事項である「残差値を分析して故障を検出し、監視されるシステムの故障の位置を判定するステップ」について、「残差値を監視されるシステムの複数の構成要素の物理的位置を定義するデータとマージして分析することにより、複数の構成要素のうちの故障した構成要素の位置を推論して判定するステップ」と限定したものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
なお、補正前の請求項1の「判定ステップ」には、「故障を検出」することの明記がある一方、補正後の請求項1の「判定ステップ」には、当該「故障を検出」することの明示的な記載はないが、補正後の請求項1の「判定ステップ」には「故障した構成要素の位置を推論」することの特定がある以上、補正後の請求項1の「判定ステップ」には「故障を検出」することが当然に含まれていると解される。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか。)について以下に検討する。

(1)引用刊行物の記載事項及び引用刊行物記載の発明
本願優先日前に日本国内において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2005-149137号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項及び発明が記載されている。なお、記載事項における下線は、理解を容易にするために当審で付したものである。

ア.第2ページ第39行ないし第3ページ第10行
「【請求項5】
各々が複数のセンサを備える複数の設備を遠隔監視する遠隔監視システム における遠隔監視方法であって、
前記遠隔監視システムが、前記設備から送信される、前記複数のセンサで検知された実測センサ値を、随時取得する第1の工程と、
前記遠隔監視システムが、前記設備が正常運転をしている際に、前記複数のセンサで検知され取得した実測センサ値に基づいて、前記複数のセンサで検知される複数の実測センサ値間の相関関係を求め、当該相関関係を予測モデルとして格納する第2の工程と、
前記遠隔監視システムが、前記複数のセンサの実測センサ値を取得した際に、当該取得した実測センサ値と前記格納した予測モデルとから当該複数のセンサの予測センサ値を求め、当該実測センサ値と予測センサ値との差異に基づいて、当該設備の故障兆候を検知する第3の工程とを有する
ことを特徴とする遠隔監視方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記遠隔監視システムが、前記設備の故障発生時における前記実測センサ値と予測センサ値との差異の傾向である故障モデルを、故障の種別毎に予め記憶しており、
更に、前記遠隔監視システムが、前記第3の工程で故障兆候を検知した際に、当該検知に用いられた前記実測センサ値と予測センサ値との差異の傾向と、前記記憶した故障モデルとに基づいて、故障の種別を決定する工程を有する
ことを特徴とする遠隔監視方法。」

イ.第3ページ第35ないし37行
「本発明は、空調機、発電機などの複数の設備を遠隔監視するシステム等に関し、特に、監視対象設備の故障兆候を早期に発見でき、故障部位等を正しく特定することのできる遠隔監視システム等に関する。」

ウ.第6ページ第33ないし35行
「次に、予測モデル構築部12とは、動力設備2が正常運転をしている際に取得された前記複数のセンサ21の値から、当該複数のセンサ21の値の相関関係を構築して保持する部分である。なお、構築された前記相関関係を予測モデルと呼ぶこととする。」

エ.第7ページ第4ないし8行
「次に、故障種別特定部14は、前記故障兆候検知部13が故障兆候を検知した際に、その故障の種別を特定する部分である。具体的には、後述する故障モデル記憶部15に記憶された故障モデルと、前記故障兆候検知部13が求めた予測センサ値と実測センサ値との差異を比較することにより、故障の種別を特定する。特定方法の詳細は後述するが、故障種別とは、故障部位、故障現象等、故障の内容を識別するための情報である。」

オ.第7ページ第26行ないし第9ページ第6行
「【0025】
まず、監視対象の動力設備2を起動し、試運転を行って正常運転であることを確認する。その後、動力設備2に取付けられた複数のセンサ21で定期的(例えば、1時間毎)に検知を行い、検知されたセンサ値を通信回線3を介して遠隔監視システム1に順次送信する。
【0026】
遠隔監視システム1では、センサ情報取得部11が、上記送信されるセンサ値を順次受信して、格納する(図2のステップS11)。図3は、センサ情報取得部11が取得、格納したセンサ値と予測モデルを説明するための図である。図3の(a)は、センサ情報取得部11が取得したセンサ値を時系列で例示しており、ここでは、一つの動力設備2が備える3つのセンサ21a、21b、21cのセンサ値a、b、cを示している。「データ取得No.」は、前記動力設備2の起動後、何回目に検知されたセンサ値かを示すものであり、例えば、“1”の右側の値“60、20、35”は、それぞれ起動後1回目(1時間後)に検知されたセンサ21a、21b、21cのセンサ値である。
【0027】
センサ情報取得部11は、継続してセンサ値の受信、格納を行うが、予め定めた数(回数)のセンサ値を取得した時点で、前述した予測モデル構築部12が予測モデルの構築処理を開始する(図2のステップS12及び13)。なお、上記予め定めた数とは、予測モデルを構築するのに必要な数、即ち、後述する統計的な処理を実施し所謂学習を行うのに十分な数のことであり、例えば、50という値に定められる。
【0028】
予測モデルの構築とは、前述の通り、複数のセンサ21における値の相関関係を定めることであり、予測モデル構築部12は、前記取得され格納された、予め定めた回数分のセンサ値を用いて、所謂統計的解析手法により、センサ値間の相関関係を定める数式等を求める。例えば、図3の(a)に示した例では、50回分のセンサ値a、b、c(図のAに示す部分のデータ)を用いて、例えば、主成分分析の手法によりセンサ値a、b、c間の関係を下記(1)式のように表す。
【0029】
t=ap_(1)+bp_(2)+cp_(3) (1)
ここで、tは、センサ値a、b、cからなる3次元空間で、前記使用した(取得した)センサ値から成る点が分布する空間の主成分方向を表す軸上の値である。また、p_(1)、p_(2)、p_(3)は、その主成分方向を表す軸を規定する定数であり、予測モデル構築部12が行うモデル構築処理とは、例えば、これらp_(1)、p_(2)、p_(3)の値を決定する処理である。図3の(b)は、上記(1)式に基づく予測モデルを例示した図である。図中のxで表される点など黒点が、前記取得されたセンサ値から成る点であり、(a,b,c)という成分を有している。例えば、図3の(a)におけるデータ取得No.“1”のセンサ値は、図3の(b)における3次元空間において(60,20,35)という点として表される。このように、予測モデル構築に使用する全てのデータについてa、b、cからなる3次元空間に点をプロットすると、通常、それらの点の分布にはある傾向が見られ、例えば、図3の(b)に示すような空間(図のs)を形成する。かかる空間sの長手方向を示す軸が前述した主成分方向を表す軸tである。前記(1)式に基づくモデル化とは、センサ21a、21b、21cで検知されるセンサ値a、b、cから成る点xは、a、b、cからなる3次元空間において、主成分方向を表す軸t上にプロットされる、と予測することである。
【0030】
このように予測モデル構築部12は、動力設備2の正常運転時に取得されたセンサ値を用いて予測モデルを構築し、その構築した予測モデルを格納しておく。なお、前述の例では、予測モデル構築に採用した主成分分析において、tという1次元の軸でモデル化したが、2次元平面でモデル化してもよい。また、前記例では、3つのセンサ21の値を用いたが、センサ21の数は3つに限定されているものではなく、その数に応じて、上記主成分分析におけるモデル化の次数を変更してもよい。更に、複数のセンサ21間の相関関係を求められるものであれば、主成分分析に限らず回帰分析など他の手法を用いても良い。
【0031】
以上説明した処理が、本遠隔監視システム1における学習フェーズ(図2のS10)であり、次に、実際の監視処理である故障兆候検知フェーズ(図2のS20)に入る。前述のように、センサ情報取得部11は、順次動力設備2から送信されるセンサ値を受信、格納している(図2のステップS21)。図3の(a)に示す例では、Bに示す部分のデータを順次取得する。ここで、故障兆候検知部13は、センサ情報取得部11が新たなセンサ値を受信する度に、その受信したセンサ値について異常な値であるか否かを判断する。具体的には、前記予測モデル構築部12が構築した予測モデルと前記受信したセンサ値によりセンサ値の予測値を求め、当該予測値と前記受信したセンサ値(即ち、実測値)との差異を求め、この差異の大きさに基づいて異常であるか否かを判断する(図2のステップS22)。
【0032】
図4は、前記予測値と実測値との差異を説明するための図である。図4には、前記(1)式及び図3に基づいて説明した例の場合について示されており、センサ値a、b、cから成る3次元空間と主成分方向の軸tは、図3の(b)と同じである。例えば、センサ情報取得部11が受信したセンサ値が図4のx(a1,b1,c1)に位置する場合には、故障兆候検知部13は、このxの値(a1,b1,c1)を前記(1)式に代入しt1を求める。このt1は、主成分方向の軸t上の値であり、図4のx_(t)で示す位置、即ち、xから軸tに投影した位置を表している。このx_(t)で示す点もa、b、cから成る3次元空間の点であり、(a_(t)1,b_(t)1,c_(t)1)という成分を有している。この(a_(t)1,b_(t)1,c_(t)1)が、前記故障兆候検知部13が求めるセンサ値の予測値である。そして、前述した故障兆候検知部13が求める予測値と実測値の差異が、この予測値x_(t)(a_(t)1,b_(t)1,c_(t)1)と実測値x(a1,b1,c1)との差異であり、図4のeで示す残差ベクトルである。この例において、故障兆候検知部13は、この残差ベクトルeの大きさに基づいて実測値x(a1,b1,c1)が異常であるか否かを判断する。例えば、上記残差ベクトルeの長さの二乗(以下、SPE(二乗予測誤差)値と称す)が95%信頼限界値を越えた場合にはセンサ値(実測値x)が異常であると判断する。なお、この95%信頼限界値とは、統計解析において通常用いられる値であり、95%の確率でこの値を越えないという値を意味する。本実施の形態例の場合、この値は前述した学習フェースで求めておく。」

カ.刊行物1発明
上記オ.に摘示する段落【0028】ないし【0029】の記載からみて、(1)式として示されるt=ap_(1)+bp_(2)+cp_(3)が、センサ値を予測するための予測モデルであることは明らかである。
また、上記オ.に摘示する段落【0032】の「センサ情報取得部11が受信したセンサ値が図4のx(a1,b1,c1)に位置する場合には、故障兆候検知部13は、このxの値(a1,b1,c1)を前記(1)式に代入しt1を求める。このt1は、主成分方向の軸t上の値であり、図4のx_(t)で示す位置、即ち、xから軸tに投影した位置を表している。このx_(t)で示す点もa、b、cから成る3次元空間の点であり、(a_(t)1,b_(t)1,c_(t)1)という成分を有している。この(a_(t)1,b_(t)1,c_(t)1)が、前記故障兆候検知部13が求めるセンサ値の予測値である」という記載からみて、センサ値の予測値はx_(t)で示され、当該x_(t)は、センサ値xが取得される際に(1)式、すなわち予測モデルにより演算されるから、センサ値の予測値x_(t)は、センサ値xが取得されることと、ほぼリアルタイムに生成されるといえる。

以上の記載事項を、技術常識を踏まえつつ本件補正発明に照らして整理すると、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認める。

「監視対象設備の故障兆候を早期に発見し、故障部位等を正しく特定する遠隔監視方法であって、前記監視対象設備はセンサにより監視され、
前記監視対象設備が正常運転をしている際に、複数のセンサ21a、21b、21cで検知され取得した50回分の実測センサ値a、b、cに基づいて、前記複数のセンサで検知される複数の実測センサ値間の相関関係t=ap_(1)+bp_(2)+cp_(3)を求め、当該相関関係を予測モデルtとして格納する工程と、
前記複数のセンサの実測センサ値xを取得した際に、当該取得した実測センサ値xと前記格納した予測モデルtとから当該複数のセンサの予測センサ値x_(t)をほぼリアルタイムに求める工程と、
当該実測センサ値xと予測センサ値x_(t)との差異eを求める工程と、
実測センサ値xと予測センサ値x_(t)との差異に基づいて、前記監視対象設備の故障兆候を検知し、故障の種別を決定する工程と、
を備える遠隔監視方法。」


(2)対比
本件補正発明と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明の「監視対象設備」が本件補正発明の「監視されるシステム」に相当することは明らかであり、以下同様に「故障兆候を早期に発見し、故障部位等を正しく特定する遠隔監視方法」が「故障を診断する方法」に相当し、「センサ」が「センサー」に相当する。
また、刊行物1発明の「50回分の実測センサ値a、b、c」が、本件補正発明の「センサーの実例観測記録を含む履歴データソース」に相当することは明らかであって、刊行物1発明の「相関関係t=ap_(1)+bp_(2)+cp_(3)」は、「50回分の実測センサ値a、b、c」、すなわち「センサーの実例観測記録を含む履歴データソース」により求められているうえ、センサーの記録やデータは、センサーが監視しているシステムの構成要素に対応するものであるから、刊行物1発明の「相関関係t=ap_(1)+bp_(2)+cp_(3)」は、本件補正発明の「監視されるシステムの対象構成要素に対する経験的モデル」に相当する。そして、刊行物1発明において「相関関係t=ap_(1)+bp_(2)+cp_(3)を求め、当該相関関係を予測モデルtとして格納」することは、本件補正発明において「経験的モデルを構築」することや「トレーニング」することに相当するから、刊行物1発明の「監視対象設備が正常運転をしている際に、複数のセンサ21a、21b、21cで検知され取得した50回分の実測センサ値a、b、cに基づいて、前記複数のセンサで検知される複数の実測センサ値間の相関関係t=ap_(1)+bp_(2)+cp_(3)を求め、当該相関関係を予測モデルtとして格納する工程」は、本件補正発明の「監視されるシステムの対象構成要素に対する経験的モデルを構築するステップであって、前記経験的モデルをセンサーの実例観測記録を含む履歴データソースでトレーニングするステップ」に相当する。
また、刊行物1発明の「取得した実測センサ値x」は、センサが監視の対象とする設備の構成要素に対応するものであることは明らかであるから、本件補正発明の「対象構成要素に対応する計測データ」に相当する。また、刊行物1発明の「格納した予測モデルt」が、本件補正発明の「経験的モデル」に相当するから、刊行物1発明の「取得した実測センサ値xと格納した予測モデルtとから当該複数のセンサの予測センサ値x_(t)をほぼリアルタイムに求める工程」は、本件補正発明の「経験的モデルと対象構成要素に対応する計測データに基づいてほぼリアルタイムの推定値を生成するステップ」に相当する。
また、刊行物1発明の「実測センサ値xと予測センサ値x_(t)との差異eを求める工程」が、本件補正発明の「ほぼリアルタイムの推定値をセンサーからの計測値と比較して差分を計算し、残差値を求めるステップ」に相当することは明らかである。
また、刊行物1発明の「実測センサ値xと予測センサ値x_(t)との差異に基づいて、監視対象設備の故障兆候を検知し、故障の種別を決定する工程」は、「残差値を用いて、監視されるシステムの複数の構成要素の故障に関する事項を判定するステップ」という点で、本件補正発明の「残差値を監視されるシステムの複数の構成要素の物理的位置を定義するデータとマージして分析することにより、前記複数の構成要素のうちの故障した構成要素の位置を推論して判定するステップ」と共通する。
以上から、本件補正発明と刊行物1発明とは、以下の点で一致及び相違する。

<一致点>
本件補正発明と刊行物1発明とは、いずれも、
「監視されるシステムの故障を診断する方法であって、前記監視されるシステムはセンサーにより監視され、
前記監視されるシステムの対象構成要素に対する経験的モデルを構築するステップであって、前記経験的モデルを前記センサーの実例観測記録を含む履歴データソースでトレーニングするステップと、
前記経験的モデルと前記対象構成要素に対応する計測データに基づいてほぼリアルタイムの推定値を生成するステップと、
前記ほぼリアルタイムの推定値を前記センサーからの計測値と比較して差分を計算し、残差値を求めるステップと、
前記残差値を用いて、前記監視されるシステムの複数の構成要素の故障に関する事項を判定するステップと
を備える方法。」である点。

<相違点1>
「残差値を用いて、監視されるシステムの複数の構成要素の故障に関する事項を判定するステップ」が、本件補正発明では「残差値を監視されるシステムの複数の構成要素の物理的位置を定義するデータとマージして分析することにより、前記複数の構成要素のうちの故障した構成要素の位置を推論して判定するステップ」であるのに対して、刊行物1発明では、「実測センサ値xと予測センサ値x_(t)との差異に基づいて、監視対象設備の故障兆候を検知し、故障の種別を決定する工程」である点。

<相違点2>
本件補正発明の方法は、「各入力観測記録の収集から所定の期間の後のみにおいて、監視されるシステムの正常な動作を示す入力観測記録をプロセッサが経験的モデルに適用するステップ」を備えているのに対して、刊行物1発明では、そのようなステップを有しているかどうか不明な点。


(3)各相違点の判断
ア.相違点1について
上記(1)カ.に示すように、刊行物1発明は、「実測センサ値xと予測センサ値x_(t)との差異」、すなわち本件補正発明でいう「残差値」に基づいて、監視対象設備の故障兆候を検知するとともに、「故障の種別」を決定する工程を有している。そして、当該「故障の種別」には、上記(1)エ.に下線を付して摘示するように、「故障部位」を識別するための情報が含まれている。一般に、「部位」とは、「全体に対する部分の位置。」(「広辞苑」第二版補訂版、昭和51年12月1日、株式会社岩波書店発行)をいうから、刊行物1発明が「故障の種別」として包含している「故障部位」が、監視対象設備全体に対する故障した部分の位置を意味することは明らかである。そうすると、刊行物1発明において、「故障の種別を決定する」ことには、監視対象設備全体に対する故障した部分の位置を識別するための情報を決定することが含まれており、当該決定は、本件補正発明において、「複数の構成要素のうちの故障した構成要素の位置を推論」することにほかならない。
また、刊行物1発明において、故障した部分の位置を識別するための情報を決定するためには、監視対象設備全体に対して故障した構成要素の位置、すなわち構成要素の物理的な位置に関する情報が不可欠であることは、当業者が当然に想到できる事項であるし、刊行物1発明において、「実測センサ値xと予測センサ値x_(t)との差異」、すなわち「残差値」に基づいて、監視対象設備の故障兆候を検知するとともに、構成要素の故障予兆に関する情報と、その構成要素の物理的な位置に関する情報とを突き合わせることにより、監視対象設備全体に対する故障した部分の位置を識別するための情報を決定できる、すなわち「複数の構成要素のうちの故障した構成要素の位置を推論」できるといえる。そして、刊行物1発明において、構成要素の故障予兆に関する情報と、その構成要素の物理的な位置に関する情報とを突き合わせることが、本件補正発明において、「残差値を監視されるシステムの複数の構成要素の物理的位置を定義するデータとマージして分析すること」にほかならない。
以上から、刊行物1発明において、「実測センサ値xと予測センサ値x_(t)との差異に基づいて、監視対象設備の故障兆候を検知し、故障の種別を決定する工程」を、「残差値を用いて、監視されるシステムの複数の構成要素の故障に関する事項を判定するステップ」とすることは、刊行物1の記載事項に基づいて、当業者が容易に想到できた事項である。

イ.相違点2について
上記(1)カ.に示すように、刊行物1発明は、「監視対象設備が正常運転をしている際に、複数のセンサ21a、21b、21cで検知され取得した50回分の実測センサ値a、b、cに基づいて、前記複数のセンサで検知される複数の実測センサ値間の相関関係t=ap_(1)+bp_(2)+cp_(3)を求め、当該相関関係を予測モデルtとして格納する工程」を備えているところ、そのように「監視対象設備が正常運転をしている際」の実測センサ値に基づいて予測モデルを求める理由は、当該予測モデルから、監視対象設備が正常運転をしている際のセンサ値を予測し、その予測値と実測センサ値とに差異がある場合に、監視対象設備の故障兆候を検知するためである。正常運転をしている際のセンサ値を予測するための予測モデルは、正常運転をしている際の実測センサ値に基づいて構築されるべきことは明らかであって、予測モデルを構築するための実測センサ値に、異常運転をしている際の実測センサ値が含まれないように考慮することは、当業者が当然に考慮すべき事項といえる。そして、予測モデルを構築するための実測センサ値に、異常運転をしている際の実測センサ値が含まれないようにするためには、実測センサ値に対して、正常運転をしている際の値であるか否かを確認し、正常運転をしている際の値である場合に限って、予測モデルを構築するための実測センサ値として採用すればよいことは、当業者がごく普通に想到できる事項であるし、そのような確認を経て実測センサ値として採用して予測モデルを構築することは、本件補正発明における「各入力観測記録の収集から所定の期間の後のみにおいて、監視されるシステムの正常な動作を示す入力観測記録をプロセッサが経験的モデルに適用するステップ」にあたるといえる。
以上から、刊行物1発明において、「各入力観測記録の収集から所定の期間の後のみにおいて、監視されるシステムの正常な動作を示す入力観測記録をプロセッサが経験的モデルに適用するステップ」を備えるように構成することは、当業者が容易に想到できた事項である。

(4)補正の適否についてのむすび
以上のとおり、本件補正発明は、刊行物1発明、及び刊行物1の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正却下の決定の結論]のとおり、決定する。


第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は、平成24年11月9日付けで補正された特許請求の範囲、並びに願書に最初に添付した明細書及び図面の記載からみて、上記第2.1.(1)に示すとおりのものである。

2.刊行物1の記載事項及び刊行物1発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1、並びに刊行物1の記載事項及び刊行物1発明は、上記第2.2.(1)に記載したとおりである。

3.対比
本願発明は、前記2.1.(2)に補正後の発明として記載した発明、すなわち本件補正発明から、上記第2.2で指摘した限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記第2.2.(4)に記載したとおり、刊行物1発明、及び刊行物1の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、本願発明も同様に、刊行物1発明、及び刊行物1の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1発明、及び刊行物1の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項2ないし20に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-06-17 
結審通知日 2014-06-24 
審決日 2014-07-08 
出願番号 特願2009-529367(P2009-529367)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 青山 純  
特許庁審判長 栗田 雅弘
特許庁審判官 長屋 陽二郎
刈間 宏信
発明の名称 ボイラー管漏洩を検出するカーネルベースの方法  
代理人 小倉 博  
代理人 田中 拓人  
代理人 黒川 俊久  
代理人 荒川 聡志  

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