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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61F
管理番号 1294166
審判番号 不服2013-21473  
総通号数 181 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-11-05 
確定日 2014-11-19 
事件の表示 特願2011-123380号「再吸収可能なコラーゲン膜物質のシートの使用」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 9月 8日出願公開、特開2011-172997号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成12年9月12日(パリ条約による優先権主張 1999年9月15日 米国)に出願した特願2000-276303号の一部を平成23年6月1日に新たな特許出願としたものであって、平成25年6月24付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年11月5日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲及び明細書について手続補正がされたものである。


II.本願発明
平成25年11月5日付け手続補正書により補正された請求項1は、補正前の請求項5に係る発明を特定するために必要な事項である「主にコラーゲンI、コラーゲンIIまたはそれらの混合物」における「コラーゲンII」なる誤記を、明細書段落【0010】の記載に基づき「コラーゲンIII」と改めるとともに、引用形式で記載されていた請求項5を独立形式として新たな請求項1としたものである。
よって、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成25年11月5日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
椎骨及び脊髄の少なくとも一部の周りに位置づけされることにより脊椎手術中またはその後に使用するための手術器具の準備中における再吸収可能なコラーゲン膜物質のシートの使用であって、
前記シートは、
(i)主にコラーゲンI、コラーゲンIIIまたはそれらの混合物であるグルコサミノグリカンで含浸されたバリア層を備え、前記コラーゲン膜物質の上での細胞付着を阻止すると共に細胞の通過を防止するためのバリアとして作用するように1つの平滑面を有し、前記平滑面の反対側の繊維面を有すると共に前記繊維面がその上での細胞増殖を可能にする単一層膜であるか、または、
(ii)前記バリア層の前記繊維面に隣接するコラーゲンIIのグリコサミノグリカンで含浸されたマトリックス層を備えた前記(i)のバリア層からなる二重層膜のいずれかであり、
前記シートは、前記脊髄を取り囲む椎間円板の少なくとも一部を取り囲むように配置される使用。」


III.引用例の記載事項
(1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先日前に頒布された刊行物である特開平8-257111号公報(以下「引用例1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
1ア:「【請求項28】 癒着の形成を防止する方法であって、(i)請求項20または21に記載の抗癒着性デバイスを提供する工程;および(ii)該抗癒着性デバイスを受容組織に共有結合させる工程を包含する、方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、薄膜の分野に関し、さらに特定すると、医学用途(具体的には、癒着の防止)に使用する薄膜に関する。本発明の抗癒着性フィルムは、少なくとも1層の基質物質(例えば、コラーゲン)を包含し、この基質物質は、患者の受容組織に共有結合される。」

1イ:「【0007】骨髄腫、椎間板ヘルニアまたは脊椎髄膜炎を治療する際に、脊椎管の空洞での外科手術により、神経突起および脊髄を背面から除去するとき、体壁への癒着を防止する必要がある。」

1ウ:「【0016】上記のように、生体組織の癒着は、大なり小なり、大部分の外科分野で認められている。癒着の形成は、種々の理由で起こり得、これには、外科手術に伴った生体組織の機械的および化学的な刺激、手術後の細菌感染、炎症または合併症が含まれる。他の要因(例えば、異物反応、出血、および子宮内膜症)も、癒着の形成に影響を与え得る。
【0017】それゆえ、癒着(特に、手術後の癒着)の形成を防止することが望まれている。多くの癒着防止方法が開発されている。手術後の癒着を防止するかまたは低減する効果的なアジュバントは、依然として、外科医の手に入らず、新しい物質が実験されている。」

1エ:「【0020】物理的な障壁は、対抗する表面を機械的に分離し、その表面を癒着から保護する作用を与える。これは、少なくとも部分的には、これらの障壁が、線維素溶解活性および線維形成の競合によって癒着の形成が起こる重大な時点(しばしば、約3日間)の後にも、一定位置に残留しているからである。・・・」

1オ:「【0024】現在使用されている物理的障壁の1つの重要な欠点は、取付方法にある。癒着の形成を防止するために、抗癒着性アジュバントは、必要な期間にわたって、一定位置に残留していなければならない。分離すべき組織は、しばしば、特に、隣接組織または上部組織(例えば、腹部内層、腹部臓器、腱など)に対して、ある程度移動し得るので、このアジュバントが、完全な状態でかつ一定位置に留まることを保証する必要がある。取付方法としては、縫合(例えば、顕微縫合)および生体適合性の接着剤のような方法が使用されているが、成功には限度がある。縫合線自体の付着(例えば、縫い合わせによる)は、外科的な外傷を起こし、さらなる癒着を形成するおそれがある。さらに、縫合および接着剤では、しばしば、取付が不完全となり、アジュバントの裂けや切れ、または取付部位からの脱離が生じ、それにより、抗癒着性の機能を果たすことができなくなる。
【0025】
【発明が解決しようとする課題】従って、本発明の目的は、癒着の形成を防止する組成物および方法を提供することにある。本発明の他の目的は、再吸収性であり、従って、除去のための外科的な関与を必要としない新規な癒着防止剤を提供することにある。本発明のさらに他の目的は、抗癒着性フィルムの形状での癒着防止剤を提供することにあり、このフィルムは、取付や移動防止のための機械的な手段(例えば、縫合または接着テープ)の必要性が低いか、またはそれらを必要としない。本発明のさらに他の目的は、抗癒着特性と組み合わせて、負傷治癒および出血防止の機能を有する、新規な抗癒着性フィルムを提供することにある。」

1カ:「【0059】ここで使用する『受容組織』との用語は、一般に、この抗癒着性組成物または膜が適用される患者の組織であって、この抗癒着性フィルムが最終的に化学的に結合する患者の組織に関する。受容組織の例には、骨(例えば、指および手の骨、足指および足の骨、頭および顎の骨、肘の骨、手首の骨、肩の骨、胸骨、膝の骨、尻の骨、骨盤、および脊柱)、・・・が包含される。」

1キ:「【0064】本発明での使用に適当なコラーゲンには、全てのタイプのコラーゲンが含まれ、好ましくは、タイプI、IIIおよびIVである。・・・」

1ク:「【0088】本発明の抗癒着性フィルムは、このフィルムが物理的な障壁として作用できる(特に、組織液およびその成分がフィルムを通って自由に流れることを防止するか妨害できる)のに充分な厚みのフィルム厚および充分に小さい孔サイズを有する。適当なら、この抗癒着性フィルムの膜成分の孔サイズは、このフィルムの物理的障壁としての作用を最適化するように、特に選択され得る。
【0089】・・・コラーゲンのような繊維状物質から形成した膜では、その繊維のサイズおよび形状ならびに架橋度は、それから形成される膜の強度、柔軟性および風合いに影響を与えることが知られている。これらのパラメーターは、このフィルムの物理的特性を最適化するために、当業者により調整され得る。
【0090】従来技術で周知の非再吸収性膜とは反対に、本発明の抗癒着性膜は、緩やかに生体再吸収性される。抗癒着性フィルムの再吸収性の程度は、その生体吸収期間に反映される。
【0091】ここで使用する「生体吸収期間」との用語は、この基質物質の実質的な生体吸収が完了するに要する期間に関し、この時点では、この抗癒着性フィルムの残部は、物理的障壁としては、もはや効果的に機能しない。この生体吸収期間後のある時点では、この抗癒着性フィルムの最初の成分は、完全にまたはほぼ完全に再吸収されて、残留物をほとんどまたは全く残さない。典型的な生体吸収期間は、適応症および適用部位に依存し、10日と90日との間、好ましくは、20日と60日との間、さらに好ましくは、30日と50日との間で、変わり得る。」

1ケ:「【0094】ここで使用する『適用する』との用語は、適用し、付着し、移植し、注射する方法など、およびそれらを組み合わせた方法に一般化される。適用方法には、例えば、注入、塗布、塗抹、注射および噴霧が包含される。抗癒着性組成物が液状なら、好ましい方法には、塗布、注射および噴霧が挙げられる。抗癒着性組成物がゲル状なら、好ましい方法には、注入、塗抹および注射が挙げられる。抗癒着性組成物が、半固体または固体(例えば、膜)であるなら、好ましい適用方法として、被覆(draping)およびテーピング(例えば、フィブリン接着剤を用いた医療用接着テープを使用する)、縫合(例えば、顕微縫合を使用する)が用いられ得るが、好ましい方法は、縫合を含まず、最も好ましい方法は、テーピングを含まない。」

1コ:「【0102】本発明の抗癒着性デバイスは、種々の適応症に対して、種々の方法を用いて適用され得る。例えば、胸部の手術では、治療する表面(例えば、手術により外傷が生じた組織に近いか、それと接触している器官の表面)に、低粘度の抗癒着性組成物が噴霧され得る。この様式で、腹膜のライニングの種々の表面が噴霧され、この抗癒着性フィルムが「硬化」され、そして手術が継続されるか、または手術を終了する。この方法では、この抗癒着性フィルムは、この腹膜のライニングと隣接組織との間の癒着の形成を防止する。
【0103】他の例では、腹部手術において、コラーゲン性の膜に、適当な抗癒着性結合剤を塗布し、所定期間にかけて反応させ、引き続いて、手術により外傷が生じた小腸の一部を包むかまたは覆う。この方法では、この抗癒着性フィルムは、この手術部位と、小腸または他の器官の隣接部分または上に重なる部分との間の癒着の形成を防止する。
【0104】さらに他の例では、靭帯または腱組織は、同様に、適当な抗癒着性結合剤をあらかじめ塗布した基質物質膜で包まれ、それにより、この腱または靭帯と、その上に重なる皮膚または表面組織との間の癒着の形成が防止される。」

1サ:「【0124】
【発明の効果】外科的な癒着を防止するために有用な抗癒着性フィルムが開示される。これらのフィルムは基質物質(例えば、コラーゲン)およびヘテロ二官能性抗癒着性結合剤を含有し、ここで基質物質は結合剤を介して患者の体内の受容組織に共有結合する。好ましい結合剤は基質反応性官能基および組織選択性官能基を含有する。このようなフィルムを形成するために有用な抗癒着性組成物もまた開示される。
【0125】本発明によれば、癒着の形成を防止する組成物および方法が提供される。さらに、本発明によれば、再吸収性であり、従って、除去のための外科的な関与を必要としない新規な癒着防止剤が提供される。また、本発明によれば、抗癒着性フィルムの形状での癒着防止剤が提供され、このフィルムは、取付や移動防止のための機械的な手段(例えば、縫合または接着テープ)の必要性が低いか、またはそれらを必要としない。さらに、本発明によれば、抗癒着特性と組み合わせて、負傷治癒および出血防止の機能を有する、新規な抗癒着性フィルムが提供される。」

1シ:摘記事項1アの「本発明は、薄膜の分野に関し、さらに特定すると、医学用途(具体的には、癒着の防止)に使用する薄膜に関する。本発明の抗癒着性フィルムは、少なくとも1層の基質物質(例えば、コラーゲン)を包含し」、摘記事項1クの「コラーゲンのような繊維状物質から形成した膜」の記載によれば、「抗癒着性フィルム」は、少なくとも1層の基質物質(例えば、コラーゲン)を包含した膜といえる。

1ス:摘記事項1イの「外科手術により、神経突起および脊髄を背面から除去するとき、体壁への癒着を防止する必要がある。」、摘記事項1カの「ここで使用する『受容組織』との用語は、一般に、この抗癒着性組成物または膜が適用される患者の組織であって、・・・受容組織の例には、骨(例えば、・・・脊柱)、・・・が包含される。」の各記載から、抗癒着性フィルムが適用される患者の組織には、脊柱及び脊髄が含まれるものといえる。
また、記載事項1ケの「ここで使用する『適用する』との用語は、適用し、付着し、移植し、注射する方法など、およびそれらを組み合わせた方法に一般化される。・・・抗癒着性組成物が、半固体または固体(例えば、膜)であるなら、好ましい適用方法として、被覆(draping)およびテーピング(例えば、フィブリン接着剤を用いた医療用接着テープを使用する)」の記載も併せみれば、この「適用方法」は、患者の組織を被覆することにより使用される抗癒着性フィルムの適用方法といえる。
さらに、摘記事項1コの記載を参酌すれば、摘記事項1ケの「適用」が、手術中に行われていることは明らかである。
してみると、引用例1には、“脊柱及び脊髄を被覆することにより手術中に使用される抗癒着性フィルムの適用方法”が記載されているものといえる。

よって、以上を総合すれば、引用例1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。
「脊柱及び脊髄を被覆することにより手術中に適用される抗癒着性フィルムの適用方法であって、
前記フィルムは、
対抗する表面を機械的に分離し、その表面を癒着から保護する物理的な障壁として作用し、生体吸収期間後のある時点では、完全にまたはほぼ完全に再吸収されて、残留物をほとんどまたは全く残さない、少なくとも1層の基質物質(例えば、コラーゲン)を包含した膜であり、
前記フィルムは、脊柱及び脊髄を被覆する抗癒着性フィルムの適用方法。」

(2)引用例2
原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先日前に頒布された刊行物である特表平9-507144号公報(以下「引用例2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
2ア:「手術後、とくに口腔または歯科手術後のように創傷の癒合が望ましい場合に、再生が必要な領域内への他の組織の内方成長を防止する状態の提供は困難なことが明らかにされている。」(第4頁第5?7行)

2イ:「本発明は、組織再生の誘導に使用するための吸収性コラーゲン膜であって、その膜の一方の面は繊維性でその上での細胞増殖を可能にし、膜の逆の面は平滑でその上への細胞の接着は阻止される膜を提供する。
すなわち、膜の2つの反対の側もしくは面が、細胞増殖に異なる影響を与える異なる組織を有する。
平滑な側は、細胞の内方増殖を遮蔽するための障壁またはフィルターとして働き、物理的な分離を介して膜によって囲まれた空洞部に望ましくない種類の細胞が侵入することを防止する。これと対照的に、膜の繊維性の側は止血性で(血餅を安定化する)、新たな細胞に対して適当な支持体を提供することにより細胞の増殖を補助する。したがって、使用に際しては、膜は、平滑な面が外側に、繊維性の面が再生の望まれる細胞に面するように挿入されなければならない。」(第5頁第6?18行)

2ウ:「本発明に使用される膜は、天然に存在する膜から可能な限りそれらの天然のコラーゲン構造を残して直接誘導することができる。膜の原料には、銀面側を有する獣皮の切片、腱、動物の各種の膜等が包含される。」(第6頁第24?26行)

2エ:「この理由から、コラーゲン膜にGAGたとえばヒアルロン酸を含浸させると、創傷または骨損傷内における組織再生の改善を生じる。
さらに他の態様として、本発明は、誘導された組織再生に使用するための膜であってその膜の一方の面は平滑な構造で、逆の面は繊維性の構造を有し、膜には1種または2種以上のGAGまたはPGが含浸されている膜を提供する。
GAGおよび/またはPGの濃度は膜の厚み方向に向かって上昇し、GAGまたはPGの濃度は膜の繊維性の側で最高になることが好ましい。」(第11頁第14?20行)

2オ:「狭い口腔顔面領域は外科手術が難しく、したがって、誘導された組織再生のための非毒性の完全に吸収性の移植体は極めて有利である。さらに膜の性質は、骨細胞(骨組織)の成長の促進にとくに適している。」(第12頁第18?23行)

2カ:上記記載事項2ア及び記載事項2オの記載を参酌すれば、記載事項2イの「膜によって囲まれた空洞部」は、手術が施された領域といえる。

よって、以上を総合すると、引用例2には次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。
「獣皮の切片、腱、動物の各種の膜等から誘導され、GAGが含浸されている吸収性コラーゲン膜であって、その膜の一方の面は繊維性でその上での細胞増殖を可能にし、膜の逆の面は平滑でその上への細胞の接着は阻止され、この平滑な側は、細胞の内方増殖を遮蔽するための障壁またはフィルターとして働き、物理的な分離を介して手術の施された領域に望ましくない種類の細胞が侵入することを防止する膜。」


IV.対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
(ア)引用発明1の「抗癒着性フィルム」は、「生体吸収期間後のある時点では、完全にまたはほぼ完全に再吸収されて、残留物をほとんどまたは全く残さない、少なくとも1層の基質物質(例えば、コラーゲン)を包含した膜」であるから、本願発明の「再吸収可能なコラーゲン膜物質のシート」に相当する。
また、引用発明1の「抗癒着性フィルム」は、「脊柱及び脊髄を被覆することにより手術中に適用される」フィルムであるから、手術器具の一種といえるし、椎骨及び脊髄の少なくとも一部の周りに位置づけされることにより手術中に使用されるフィルムであるともいえる。
さらに、引用発明1の「抗癒着性フィルム」は、「脊柱及び脊髄を被覆」し、「その表面を癒着から保護する物理的な障壁として作用」するのであるから、少なくとも脊椎手術中に適用される、即ち使用されるフィルムであることは明らかである。
そうすると、引用発明1の「脊柱及び脊髄を被覆することにより手術中に適用される抗癒着性フィルムの適用方法」は、“椎骨及び脊髄の少なくとも一部の周りに位置づけされることにより脊椎手術中またはその後に使用するための手術器具である再吸収可能なコラーゲン膜物質のシートの使用方法”である点で、本願発明の「椎骨及び脊髄の少なくとも一部の周りに位置づけされることにより脊椎手術中またはその後に使用するための手術器具の準備中における再吸収可能なコラーゲン膜物質のシートの使用」と共通する。

(イ)引用発明1の「抗癒着性フィルム」は、「少なくとも1層の基質物質(例えば、コラーゲン)を包含」するのであるから、主にコラーゲンである単一層膜を包含するものである。
また、引用発明1の「抗癒着性フィルム」は、「対抗する表面を機械的に分離し、その表面を癒着から保護する物理的な障壁として作用」する「膜」であり、記載事項1クの「(特に、組織液およびその成分がフィルムを通って自由に流れることを防止するか妨害できる)のに充分な厚みのフィルム厚および充分に小さい孔サイズを有する。適当なら、この抗癒着性フィルムの膜成分の孔サイズは、このフィルムの物理的障壁としての作用を最適化するように、特に選択され得る。」の記載をも踏まえると、この「フィルム」は、細胞の通過を防止するためのバリアとして作用するものといえる。
よって、引用発明1の「対抗する表面を機械的に分離し、その表面を癒着から保護する物理的な障壁として作用し、」「少なくとも1層の基質物質(例えば、コラーゲン)を包含した膜」と本願発明の「主にコラーゲンI、コラーゲンIIまたはそれらの混合物であるグルコサミノグリカンで含浸されたバリア層を備え、前記コラーゲン膜物質の上での細胞付着を阻止すると共に細胞の通過を防止するためのバリアとして作用するように1つの平滑面を有し、前記平滑面の反対側の繊維面を有すると共に前記繊維面がその上での細胞増殖を可能にする単一層膜」とは、“主にコラーゲンであるバリア層を備え、細胞の通過を防止するためのバリアとして作用する単一層膜”である点で共通する。

(ウ)引用発明1の「フィルムは、脊柱及び脊髄を被覆する」と本願発明の「シートは、前記脊髄を取り囲む椎間円板の少なくとも一部を取り囲むように配置される」とは、“シートは、脊柱の少なくとも一部を取り囲むように配置される”点で共通する。

してみると、本願発明と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。
(一致点)
椎骨及び脊髄の少なくとも一部の周りに位置づけされることにより脊椎手術中またはその後に使用するための手術器具である再吸収可能なコラーゲン膜物質のシートの使用方法であって、
前記シートは、
主にコラーゲンであるバリア層を備え、細胞の通過を防止するためのバリアとして作用する単一層膜であり、
前記シートは、脊柱の少なくとも一部を取り囲むように配置される使用方法。

(相違点1)
本願発明では、使用方法が、「手術器具の準備中における再吸収可能なコラーゲン膜物質のシートの使用」であるのに対し、引用発明1では、使用方法として「手術器具の準備中における再吸収可能なコラーゲン膜物質のシートの使用」とまでは特定のない点。

(相違点2)
本願発明のコラーゲン膜物質のシートは、「主にコラーゲンI、コラーゲンIIまたはそれらの混合物であるグルコサミノグリカンで含浸されたバリア層を備え、前記コラーゲン膜物質の上での細胞付着を阻止すると共に細胞の通過を防止するためのバリアとして作用するように1つの平滑面を有し、前記平滑面の反対側の繊維面を有すると共に前記繊維面がその上での細胞増殖を可能にする単一層膜」であるのに対し、引用発明1のコラーゲン膜物質のシートは、主たるコラーゲンの種類が不明であり、「グルコサミノグリカンで含浸され」ておらず、さらに、「細胞付着を阻止すると共に細胞の通過を防止するためのバリアとして作用するように1つの平滑面」及び「平滑面の反対側の繊維面を有すると共に前記繊維面がその上での細胞増殖を可能にする」事項を備えているのか否か不明な点。

(相違点3)
シートを椎骨及び脊髄の少なくとも一部の周りに位置づけるに当たり、本願発明では、「シートは、脊髄を取り囲む椎間円板の少なくとも一部を取り囲むように配置される」のに対し、引用発明では、「脊髄を取り囲む椎間円板の少なくとも一部を取り囲むように配置される」とまでの具体的な特定のない点。


V.相違点の判断
(相違点1)について
請求人は、平成25年4月30日付け意見書において、「『手術器具の準備』とは、手術器具が手術に使用可能な状態にすること、言い換えれば、手術器具を製造することを意味します。・・・手術器具は、少なくともその一部として再吸収可能なコラーゲン膜物質のシートを含むものであり、・・・再吸収可能なコラーゲン膜物質のシートを含む手術器具あるいは、再吸収可能なコラーゲン膜物質のシートを使用に適した状態(例えば、サイズや形状の調整等)にした手術器具であります。」との主張をしている。
本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明の「手術器具の準備」が具体的に何を意味しているのかについて特段の明示はなく、また、本願発明の「使用(方法)」におけるコラーゲン膜物質のシートの具体的な製造手順を示す記載も、シートのサイズや形状の具体的な調整手順を示す記載も見当たらないが、請求人の上記主張を踏まえ、本願発明の「手術器具の準備」が、“コラーゲン膜物質のシートの製造またはシートのサイズや形状の調整”を一応、意味するものとして、以下検討する。
引用発明1は、「脊柱及び脊髄を被覆する抗癒着性フィルムの適用方法」であるから、抗癒着性フィルムを脊柱及び脊髄に被覆するに当たり、手術が開始される時点で、抗癒着性フィルムが製造され手術室内に存在していること、また、同フィルムとして手術内容や手術部位に適した特性、サイズ、形状のものを用意しておくことは、引用発明の方法において、当然の前提となっている事項にすぎない。
また、このような前提に対する解釈は、引用例1における「癒着の形成を防止する方法であって、(i)請求項20または21に記載の抗癒着性デバイスを提供する工程・・・を包含する、方法。」(摘記事項1ア)、「適当なら、この抗癒着性フィルムの膜成分の孔サイズは、このフィルムの物理的障壁としての作用を最適化するように、特に選択され得る。・・・コラーゲンのような繊維状物質から形成した膜では、その繊維のサイズおよび形状ならびに架橋度は、それから形成される膜の強度、柔軟性および風合いに影響を与えることが知られている。これらのパラメーターは、このフィルムの物理的特性を最適化するために、当業者により調整され得る。・・・典型的な生体吸収期間は、適応症および適用部位に依存し、10日と90日との間、好ましくは、20日と60日との間、さらに好ましくは、30日と50日との間で、変わり得る。」(摘記事項1ク)等の記載からみても、裏付けられるものである。
そうすると、引用発明1の方法において、「脊柱及び脊髄を被覆する」前工程として、手術部位に対応した最適な抗癒着性フィルムを準備しておくこと、即ち「手術器具の準備中における再吸収可能なコラーゲン膜物質のシートの使用」なる工程をも包含する使用方法、即ち「使用」とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

(相違点2)について
引用発明2の「GAGが含浸されている吸収性コラーゲン膜」は「グルコサミノグリカンで含浸された再吸収可能なコラーゲン膜物質のシート」と、「一方の面は繊維性で」は「一方の面は繊維面で」と、「逆の面は平滑でその上への細胞の接着は阻止され、この平滑な側は、細胞の内方増殖を遮蔽するための障壁またはフィルターとして働き」は「逆の面は平滑面でコラーゲン膜物質の上での細胞付着を阻止すると共に細胞の通過を防止するためのバリアとして作用し」といえ、また、「獣皮の切片、腱、動物の各種の膜等から誘導され」るコラーゲン膜が、主にコラーゲンIであるコラーゲン膜となることは技術常識である。
よって、引用発明2は、「主にコラーゲンIであるグルコサミノグリカンで含浸された再吸収可能なコラーゲン膜物質のシートであって、その膜の一方の面は繊維面でその上での細胞増殖を可能にし、逆の面は平滑面でコラーゲン膜物質の上での細胞付着を阻止すると共に細胞の通過を防止するためのバリアとして作用し、物理的な分離を介して、手術が施された領域内に望ましくない種類の細胞が侵入することを防止する膜」と言い換えることができる。
そして、引用発明2のコラーゲン膜物質のシートにおいて、物理的な分離を介して、手術が施された領域内に望ましくない種類の細胞が侵入することを防止することに伴い、手術が施された領域と他の組織との癒着も防止されることは明らかであるから、引用発明1と引用発明2とは、他の組織からの細胞の侵入を防止するという技術課題で共通し、また、そのための膜に関して技術分野が共通しており、しかも、引用例1に「本発明によれば、抗癒着特性と組み合わせて、負傷治癒および出血防止の機能を有する、新規な抗癒着性フィルムが提供される。」(摘記事項1サ)と記載されるように、引用発明1にあっても、手術が施された領域における「負傷治癒」のための組織再生は当然に望まれる事項である。
そうすると、手術が施された領域への他の組織の侵入防止のみならず、手術が施された領域の組織再生をも期待して、引用発明1における抗癒着性フィルムに引用発明2の膜を適用し、相違点2における本願発明の特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

(相違点3)について
引用例1に、「椎間板ヘルニアまたは脊椎髄膜炎を治療する・・・」(摘記事項1イ)と示されるように、引用発明1の「脊柱」における具体的な手術部位として「椎間円板」は普通に想定されるところであるから、引用発明1において、「脊柱及び脊髄を被覆する」に当たり、その手術内容に応じて「シートは、前記脊髄を取り囲む椎間円板の少なくとも一部を取り囲むように配置される」ようにすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

そして、本願発明による効果も、引用発明1及び引用発明2から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。


VI.むすび
したがって、本願発明は、引用発明1及び引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-06-19 
結審通知日 2014-06-24 
審決日 2014-07-08 
出願番号 特願2011-123380(P2011-123380)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 寺澤 忠司  
特許庁審判長 本郷 徹
特許庁審判官 松下 聡
関谷 一夫
発明の名称 再吸収可能なコラーゲン膜物質のシートの使用  
代理人 田口 雅啓  
代理人 曾我 道治  
代理人 梶並 順  

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