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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B23B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B23B
管理番号 1294201
審判番号 不服2013-20153  
総通号数 181 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-10-17 
確定日 2014-11-21 
事件の表示 特願2010- 78197「工作機械の旋削機構」拒絶査定不服審判事件〔平成23年10月20日出願公開、特開2011-206895〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成22年3月30日の特許出願であって、平成25年6月25日付けで拒絶の理由が通知され、平成25年8月14日に意見書とともに手続補正書が提出され、特許請求の範囲について補正がなされたが、平成25年9月13日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされた。
これに対し、平成25年10月17日に該査定の取消を求めて本件審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、特許請求の範囲についてさらに補正がなされたものである。

第2 平成25年10月17日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年10月17日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容の概要
平成25年10月17日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成25年8月14日付けで補正された特許請求の範囲をさらに補正するものであって、特許請求の範囲の請求項1に関する以下の補正を含んでいる。なお、下線部は補正箇所を示す。

(1)<補正前>
「【請求項1】
加工物を固定するための固定装置と、
加工物を旋削するための旋削加工用ツールと、
旋削加工用ツールを取付けるためのスピンドルと、
加工物に対してスピンドルを円弧補間により駆動させる駆動装置と、
を有する工作機械の旋削機構であって、
マシニングセンタの加工であるエンドミル加工、フェースミル加工、ボーリング加工及びタップ加工の他に、さらに、駆動装置がギヤを含み、スピンドルモーターからギヤを経てスピンドルを駆動する構造とし、かつ、スピンドルモーターのエンコーダーからの出力信号とスピンドルの回転数とを演算処理するコンピュータを設け、スピンドルを円弧補間しながら送りを与えて、外径旋削、内径旋削及びネジ切りが行えることを特徴とする工作機械の旋削機構。」

(2)<補正後>
「【請求項1】
加工物を固定するための固定装置と、
加工物を旋削するための旋削加工用ツールと、
旋削加工用ツールを取付けるためのスピンドルと、
加工物に対してスピンドルを円弧補間により駆動させる駆動装置と、
を有する工作機械の旋削機構であって、
マシニングセンタの加工であるエンドミル加工、フェースミル加工、ボーリング加工及びタップ加工の他に、さらに、駆動装置がギヤを含み、スピンドルモーターからギヤを経てスピンドルを駆動する構造とし、かつ、スピンドルモーターのエンコーダーからの出力信号とスピンドルの回転数とを演算処理するコンピュータを設け、スピンドルを円弧補間しながら送りを与えて、外径旋削、内径旋削及びネジ切りが行え、しかも、加工物は固定し、スピンドルは旋削用工具を取付けて回転を与え、円弧補間をプログラムさせて、そのスピンドルが旋削用工具に取付けた加工物の円周を円弧補間により旋削させる、いわば遊星運動による旋削加工が出来ることを特徴とする工作機械の旋削機構。」

2 補正の適否
本件補正のうち特許請求の範囲の請求項1についてする補正は、補正前の請求項1の「工作機械の旋削機構」について、「しかも、加工物は固定し、スピンドルは旋削用工具を取付けて回転を与え、円弧補間をプログラムさせて、そのスピンドルが旋削用工具に取付けた加工物の円周を円弧補間により旋削させる、いわば遊星運動による旋削加工が出来る」点付加するものであるから、特許請求の範囲の限定的減縮(特許法第17条の2第5項第2号)を目的とするものに該当する。
そこで、補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定される独立特許要件に適合するか否かについて検討する。

(1)補正発明
補正発明は、特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、上記1(2)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの「工作機械の旋削機構」であると認める。

(2)刊行物
これに対して、原審の平成25年6月25日付け拒絶の理由にも引用された、本件出願日前に頒布された刊行物である以下の文献には、以下の発明または事項が記載されていると認められる。
刊行物1:特開2000-15542号公報
刊行物2:実願平2-34213号(実開平3-126508号)のマ イクロフィルム

(2-1)刊行物1
ア 刊行物1に記載された事項
刊行物1には、「数値制御工作機械」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は理解の便のため、当審で付したものである。

(ア)特許請求の範囲
「【請求項1】中心穴を有するワークを保持するワーク保持部と、
回転主軸と、回転主軸に対して横方向に突出した加工刃とを有し、ワークの中心穴に挿入される工具と、
工具の回転主軸とワーク保持部のうち少なくとも一方を、他方に対して相対的に略円弧状軌跡を描くように移動させる駆動機構と、
駆動機構を制御する駆動制御部と、を備え、
駆動制御部は、工具の加工刃とワークの中心穴との接触点における加工刃の移動方向が、ワークの中心穴の内周接線に略一致するように、駆動機構を制御することを特徴とする数値制御工作機械。
【請求項2】駆動制御部は、制御プログラムを記憶するプログラム記憶部と、制御指令を入力する入力部と、入力部からの制御指令に基づいてプログラム記憶部に記憶された制御プログラムを実行するプログラム実行部とを有することを特徴とする請求項1に記載の数値制御工作機械。
【請求項3】工具の回転主軸は、一定の角速度で回転することを特徴とする請求項1または2に記載の数値制御工作機械。
【請求項4】工具の回転主軸は、加工刃のワークに対する送り量が略一定となるような速度で回転することを特徴とする請求項1または2に記載の数値制御工作機械。」

(イ)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、数値制御工作機械に係り、とりわけ、X、Y、Zの3軸を有するマシニングセンタにおいて、X-Y軸の運動によって異なる径の工具の代用を可能にする数値制御工作機械に関する。」

(ウ)
「【0008】図1乃至図5は、本発明による一実施の形態の数値制御工作機械を示す図である。図1に示すように、数値制御工作機械10は、中心穴40hを有するワーク40を保持するワーク保持部11と、Z軸方向に移動してワーク40の中心穴40hに挿入される工具20と、工具20をX-Y平面内で平行移動させる駆動機構12と、駆動機構12を制御する駆動制御部13とを備えている。」

(エ)
「【0009】図1に示すように、工具20は、回転主軸21と、回転主軸21に対して横方向に突出した加工刃22とを有している。回転主軸21は、主軸モータ23によって駆動されるようになっている。また、駆動機構12は、送りモータ13を有し、送りモータ13の駆動により、工具20がワーク保持部11に対してX-Y平面内で略円弧状の軌跡を描くようになっている。
【0010】また駆動制御部30は、制御プログラムを記憶するプログラム記憶部31と、制御指令を入力する入力部32と、入力部32からの制御指令に基づいてプログラム記憶部31に記憶された制御プログラムを実行するプログラム実行部33とを有している。
【0011】プログラム記憶部31には、モード切換指令、円弧状平行移動速度及び切削加工指令等を含む制御プログラムが予め記憶され、プログラム実行部33は、制御モードを切換えたり、回転主軸21の回転数Sを決定するようになっている。」

(オ)
「【0016】出力制御部38は、前記のX位置、Y位置に基づいて、駆動機構12の送りモータ13を制御するようになっている。また、出力制御部38は、主軸位置制御部37による回転主軸21の回転位置に基づいて、工具20の回転主軸21を駆動する主軸モータ23も制御するようになっている。これにより、工具20の加工刃22とワーク40の中心穴40hとの接触点における加工刃22の移動方向が、ワーク中心穴40hの内周40pの接線に継続的に一致するように制御される。」

(カ)
「【0017】次に、このような構成からなる本実施の形態の作用について図3(a)(b)を用いて説明する。図3(a)は、工具20の運動軌跡についてのX-Y平面図であり、図3(b)は、工具20の運動軌跡についてのX-Z平面図である。
・・・(中略)・・・
【0031】従って、駆動制御部30による駆動機構12の制御により、図3(a)に示すように、工具20がワーク40に対してX-Y平面内で略円弧状の軌跡21rを描くように移動されて、工具20の加工刃22はワーク中心穴40hの内周40pの接線方向に移動する。従って、加工刃22はワーク40の内周40pに略垂直に当接した状態を維持して加工を継続する。」

(キ)
「【0036】なお、制御プログラムの一実施例を図5に示す。このプログラムの作用について以下に簡単に説明する。
・・・(中略)・・・
【0041】(5)から旋削指令の開始となる。(5)では旋盤系での工具位置オフセットTxxを指定する。
・・・(中略)・・・
【0043】(8)のブロツクから旋削の移動開始で、ZとXの指令によりrの位置が求まり、そのrと円弧角度からX,Yの位置が求まる。」

(ク)
「【0052】従って、一つの回転工具で複数の穴径のボーリング加工が可能となり、工具の費用および工具交換時間を削減することができるさらに、加工刃を中空筒状の回転主軸の内側に設ければ、ワークの外形を任意の径に切削することも可能である。」

イ 刊行物1に記載の発明
上記摘記事項(ウ)等の「数値制御工作機械」は、摘記事項(キ)にあるように「旋削」を行うものであるから、工作機械の旋削機構、ということができる。
次に摘記事項(カ)に「工具20がワーク40に対してX-Y平面内で略円弧状の軌跡21rを描くように移動されて」とあり、また摘記事項(オ)に「出力制御部38は、・・・駆動機構12の送りモータ13を制御する」とあることなどから、刊行物1記載の工作機械の旋削機構は、(工具20の)回転主軸21を略円弧状の軌跡21rを描くように送りを与えるもの、といえる。

そこで、上記摘記事項(ア)ないし(ク)を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえて補正発明に照らして整理すると刊行物1には以下の発明が記載されていると認める。(以下、「刊行物1発明」という。)
「ワーク40を保持するためのワーク保持部11と、
ワーク40を旋削するための加工刃22と、
加工刃22を取付けるための回転主軸21と、
ワーク40に対して回転主軸21を略円弧状の軌跡21rを描くように駆動させる駆動機構12と、
を有する工作機械の旋削機構であって、
マシニングセンタにおいて、回転主軸21は、主軸モータ23によって駆動される構造とし、かつ、回転主軸21の回転位置に基づいて回転主軸21を駆動する主軸モータ23を制御する出力制御部38を設け、回転主軸21を略円弧状の軌跡21rを描くように送りを与えて、ボーリング加工が行え、しかも、ワーク40は固定し、回転主軸21は加工刃22を取付けて回転を与え、円弧状平行移動をプログラムさせて、その回転主軸21が加工刃22に、取付けたワーク40の円周を略円弧状の軌跡21rを描くように旋削させ、加工刃22はワーク40の内周40pに略垂直に当接した状態を維持して加工を継続することが出来る工作機械の旋削機構。」

(2-2)刊行物2
ア 刊行物2に記載された事項
刊行物2には、「中ぐりフライス盤」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)明細書第1ページ下から2?末行
「本考案は横中ぐり加工あるいは平削り加工を行う中ぐりフライス盤に関する。」

(イ)明細書第7ページ第1?17行
「第1図に示すように、主軸ヘッド4には駆動源としてのNC制御される電動機11を備え、この電動機11は駆動ギア12を有している。駆動ギア12は従動ギア13と噛み合っており、この従動ギア13は一端にシフトギア14が取付けられた従動軸15と周方向には一体に回転でき、且つ軸方向には相対移動できるように連結されている。・・・(中略)・・・
シフトギア14に隣接してこのシフトギア14と噛み合うことのできる第1伝達ギア17と第2伝達ギア18が設けられている。第1伝達ギア17にはスクリュー軸19を固結され、このスクリュー軸19は中ぐり主軸20の基端に固定されたナット21と螺合している。」

上記摘記事項ア及びイを、図面を参照しつつ、技術常識を踏まえて整理すると、刊行物2には以下の事項が記載されていると認める。(以下、「刊行物2事項」という。)
「中ぐりフライス盤において、駆動装置がギヤを含み、電動機11からギヤを経て中ぐり主軸20を駆動する構造とすること。」

(3)対比
補正発明と刊行物1発明とを対比すると以下のとおりである。
刊行物1発明の「ワーク40」は、補正発明の「加工物」に相当することは、その機能及び技術常識に照らして明らかであり、以下同様にそれぞれの機能を踏まえれば、「保持する」は「固定する」に、「ワーク保持部11」は「固定装置」に、「加工刃22」は「旋削加工用ツール」または「旋削用工具」に、「回転主軸21」は「スピンドル」に、「略円弧状の軌跡21rを描くように」は「円弧補間により」または「円弧補間しながら」に、「駆動機構12」は「駆動装置」に、「出力制御部38」は「コンピュータ」に、「ボーリング加工」は「内径旋削」に、「円弧状平行移動をプログラムさせて」は「円弧補間をプログラムさせて」に相当することも明らかである。
そして、刊行物1発明の
「回転主軸21は、主軸モータ23によって駆動される構造とし、かつ、回転主軸21の回転位置に基づいて回転主軸21を駆動する主軸モータ23を制御する出力制御部38を設け」
なる事項は、上記対比を踏まえ、
「スピンドルは、主軸モータ23によって駆動される構造とし、かつ、スピンドルの回転位置に基づいてスピンドルを駆動する主軸モータ23を制御するコンピュータを設け」
と言い換えられるところ、これは、補正発明の
「駆動装置がギヤを含み、スピンドルモーターからギヤを経てスピンドルを駆動する構造とし、かつ、スピンドルモーターのエンコーダーからの出力信号とスピンドルの回転数とを演算処理するコンピュータを設け」なる事項と、
「スピンドルは、モータによって駆動される構造とし、かつ、スピンドルの回転情報に基づいて制御するコンピュータを設け」るものである限りにおいて共通するということができる。

また、刊行物1発明の旋削機構が「ボーリング加工が行え」ることは、補正発明の旋削機構が「外径旋削、内径旋削及びネジ切りが行え」ることと、上記対比を踏まえ、旋削機構が「少なくとも内径旋削が行え」るものである限りにおいて共通する。

さらに、刊行物1発明の
「取付けたワーク40の円周を略円弧状の軌跡21rを描くように旋削させ、加工刃22はワーク40の内周40pに略垂直に当接した状態を維持して加工を継続することが出来る」
なる事項は、上記対比を踏まえ、
「取付けた加工物の円周を円弧補間しながら旋削させ、旋削用工具は加工物の内周40pに略垂直に当接した状態を維持して加工を継続することが出来る」
と言い換えられるところ、これは、補正発明の
「取付けた加工物の円周を円弧補間により旋削させる、いわば遊星運動による旋削加工が出来る」なる事項と、
「取付けた加工物の円周を円弧補間しながら旋削させることが出来る」ものである限りにおいて共通するということができる。

したがって、補正発明と刊行物1発明とは、以下の点で一致しているということができる。
<一致点>
「加工物を固定するための固定装置と、
加工物を旋削するための旋削加工用ツールと、
旋削加工用ツールを取付けるためのスピンドルと、
加工物に対してスピンドルを円弧補間により駆動させる駆動装置と、
を有する工作機械の旋削機構であって、
マシニングセンタにおいて、スピンドルは、モータによって駆動される構造とし、かつ、スピンドルの回転情報に基づいて制御するコンピュータを設け、スピンドルを円弧補間しながら送りを与えて、少なくとも内径旋削が行え、しかも、加工物は固定し、スピンドルは旋削用工具を取付けて回転を与え、円弧補間をプログラムさせて、そのスピンドルが旋削用工具に、取付けた加工物の円周を円弧補間しながら旋削させることが出来る工作機械の旋削機構。」

そして、補正発明と刊行物1発明とは、以下の4点で相違している。
<相違点1>
補正発明の旋削機構はマシニングセンタであって、旋削以外のマシニングセンタ本来の機能として、エンドミル加工、フェースミル加工、ボーリング加工及びタップ加工も行えるものであるのに対し、刊行物1発明の旋削機構は、マシニングセンタであるものの、旋削以外のそのようなマシニングセンタ本来の機能を備えているか明らかでない点。

<相違点2>
「スピンドルは、モータによって駆動される構造とし、かつ、スピンドルの回転情報に基づいて制御するコンピュータを設け」ることに関し、補正発明は、駆動装置がギヤを含み、スピンドルモーターからギヤを経てスピンドルを駆動する構造とし、かつ、スピンドルモーターのエンコーダーからの出力信号とスピンドルの回転数とを演算処理するコンピュータを設けるものであるのに対し、刊行物1発明は、回転主軸21(スピンドル)は、主軸モータ23によって駆動される構造とし、かつ、回転主軸21(スピンドル)の回転位置に基づいて回転主軸21(スピンドル)を駆動する主軸モータ23を制御する出力制御部38(コンピュータ)を設けるものである点。

<相違点3>
補正発明の旋削機構は、外径旋削、内径旋削及びネジ切りが行えるものであるのに対し、刊行物1発明の旋削機構は、ボーリング加工(内径旋削)が行えるものの、その他の機能については明らかでない点。

<相違点4>
「取付けた加工物の円周を円弧補間しながら旋削させることが出来る」ことに関し、補正発明は、取付けた加工物の円周を円弧補間により旋削させる、いわば遊星運動による旋削加工が出来るものであるのに対し、刊行物1発明は、取付けたワーク40の円周を略円弧状の軌跡21rを描くように旋削させ、加工刃22はワーク40の内周40pに略垂直に当接した状態を維持して加工を継続することが出来るものである点。

(4)相違点の検討
ア 相違点1について
刊行物1発明の旋削機構はマシニングセンタであるから、マシニングセンタが通常備える、エンドミル加工、フェースミル加工、ボーリング加工及びタップ加工を行う機能を備えている蓋然性がきわめて高いから、相違点1は実質的な相違点ではない。また、仮にそのような機能を備えるものでないとしても、マシニングセンタにエンドミル加工、フェースミル加工、ボーリング加工及びタップ加工を行う機能を付加することは、例示するまでもなく従来周知の事項である。したがって、刊行物1発明のマシニングセンタに相違点1に係る構成を付加したことは、格別なものではない。

イ 相違点2について
上記(2)(2-2)にて指摘したように、刊行物2事項は、
「中ぐりフライス盤において、駆動装置がギヤを含み、電動機11からギヤを経て中ぐり主軸20を駆動する構造とすること。」というものであるところ、これを補正発明の用語に倣って表現すれば、刊行物2事項の「電動機11」は補正発明の「スピンドルモーター」に相当し、同様に「中ぐり主軸20」は「スピンドル」に相当するといえる。また、刊行物2事項の「中ぐりフライス盤」と補正発明の「工作機械の旋削機構」とは、工作機械、である点において共通するから、刊行物2事項は、「工作機械において、駆動装置がギヤを含み、スピンドルモーターからギヤを経てスピンドルを駆動する構造とすること。」と言い換えられる。

ここで、刊行物1発明に同じ工作機械分野の刊行物2事項を適用することに格別困難性はなく、刊行物1発明に刊行物2事項を適用して、主軸モータ23からギヤを経てスピンドルを駆動する構造とすることは、当業者が容易になし得るものというべきである。そうした上で、(刊行物1発明のように)回転主軸21(スピンドル)の回転位置に基づいて制御することに代えて、(補正発明のように)モーターのエンコーダーからの出力信号とスピンドルの回転数に基づいて制御することも、(i)回転数は回転位置を微分することによって簡単に得られるものであり、これらを併用して制御することも、例示するまでもなく従来周知の事項であること、(ii)モータの回転位置とギア駆動されるスピンドルの回転位置は一方が決まれば他方も決まる関係にあるから、いずれを検出するかは選択的設計事項に過ぎないことを併せ考えれば、やはり当業者が通常の創作能力の発揮によりなし得る程度のものである。
これらを総合すると、刊行物1発明に刊行物2事項及び従来周知の事項を適用し、相違点2に係る補正発明の特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るところと解するのが相当である。

ウ 相違点3について
上記(2)(2-1)アの摘記事項(ク)にて摘記したように、刊行物1には「・・・加工刃を中空筒状の回転主軸の内側に設ければ、ワークの外形を任意の径に切削することも可能である」と記載されているから、刊行物1には、旋削機構として刊行物1発明の「ボーリング」すなわち内径旋削のみならず、外形旋削を行うことの示唆があるといえる。また、工作機械の加工としてネジ切りを行うことは例示するまでもなく従来周知の事項である。
そうしてみると、刊行物1発明において、刊行物1記載の上記示唆及び従来周知の事項に基づいて、旋削機構として内径旋削のみならず外径旋削及びネジ切りも可能として、相違点3に係る補正発明の特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るところというべきである。

エ 相違点4について
まず、相違点4に係る補正発明における「いわば遊星運動による旋削加工が出来る」ことの技術的意義を検討する。これに関連する明細書の記載としては、「旋削加工用ツール14の刃物の向きが常に中心に向くように、旋削加工用ツール14をスピンドル16の軸心C2を中心に回転させる。」(段落【0021】)、「ツール74に設けられた刃物74aは、常に加工物W5の中心に向く。図7に示された例においては、ツール74が加工物W5の軸心を中心として右回りに円弧運動しつつ、ツール74自体がツール74の軸心を中心として右回りに回転する。」(段落【0027】)、「スピンドルモーターからギヤを経てスピンドルを駆動することができる。この構造の場合は、スピンドルモーターのエンコーダーとスピンドルに取付けられている旋削用刃具とが加工物の中心に常に向きあっている。」(段落【0031】)等と記載され、旋削加工用ツール(旋削用刃具)の向きが常に中心に向くようにすることが示される一方で、旋削加工用ツール(旋削用刃具)の向きが公転運動の軌跡たる円弧に対して相対的に変化する旨の記載はない。そうすると、補正発明における「いわば遊星運動による旋削加工が出来る」こととは、一般的な遊星機構に見られるような、自転する遊星体が公転軌跡に対して相対的に向きを変化させてゆくものではなく、遊星体たる旋削加工用ツール(旋削用刃具)が、公転軌跡たる円弧の中心に対して常に相対的に一定の方向を向きつつ公転することを意味するものと解すべきである。
そして、刊行物1発明は、「取付けたワーク40の円周を略円弧状の軌跡21rを描くように旋削させ、加工刃22はワーク40の内周40pに略垂直に当接した状態を維持して加工を継続することが出来るもの」であるところ、加工刃22が、公転軌跡たる略円弧状の軌跡21rに常に相対的に略垂直な方向を向きつつ公転するものといえる。そうすると、刊行物1発明も実質的には相違点4に係る補正発明の構成を備えているといえ、相違点4は実質的な相違点ではないと解される。

エ 小括
したがって、補正発明は、刊行物1発明、刊行物2事項及び従来周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正却下の決定の結論]のとおり、決定する。

第3 本件出願の発明について
1 本件出願の発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、明細書及び図面の記載からみて、平成25年8月14日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、当該請求項1に係る発明(以下、「本件出願の発明」という。)は、上記第2の1(1)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの「工作機械の旋削機構」である。

2 刊行物
これに対して、原審の拒絶の理由に引用された刊行物は、上記第2の2(2)に示した刊行物1及び刊行物2であり、その記載事項は上記第2の2(2)のとおりである。

3 対比・検討
本件出願の発明は、上記第2の2で検討した補正発明から、実質的に、「しかも、加工物は固定し、スピンドルは旋削用工具を取付けて回転を与え、円弧補間をプログラムさせて、そのスピンドルが旋削用工具に取付けた加工物の円周を円弧補間により旋削させる、いわば遊星運動による旋削加工が出来る」という限定を削除したものである。
そうすると、上記第2の2で検討したより狭い特定を前提とした補正発明が想到容易である以上、それよりも範囲の広い特定を前提とした本件出願の発明も、刊行物1発明、刊行物2事項及び従来周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上により、本件出願の発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきであるから、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-09-05 
結審通知日 2014-09-16 
審決日 2014-09-30 
出願番号 特願2010-78197(P2010-78197)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B23B)
P 1 8・ 121- Z (B23B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 五十嵐 康弘山本 忠博  
特許庁審判長 石川 好文
特許庁審判官 長屋 陽二郎
久保 克彦
発明の名称 工作機械の旋削機構  
代理人 田辺 徹  

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