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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C |
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管理番号 | 1294235 |
審判番号 | 不服2013-24716 |
総通号数 | 181 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-01-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-12-16 |
確定日 | 2014-11-20 |
事件の表示 | 特願2008-195127「転がり軸受」拒絶査定不服審判事件〔平成22年2月12日出願公開、特開2010-31967〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成20年7月29日の出願であって、平成25年9月26日付け(発送日:10月4日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成25年12月16日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、その審判の請求と同時に手続補正がなされたものである。 第2 平成25年12月16日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成25年12月16日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.補正後の本願発明 平成25年12月16日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、 「保持器付き転動体を具えた転がり軸受であって、 前記保持器付き転動体は、複数の転動体と、これら複数の転動体を収めるポケットが一定間隔で形成された環状をなす保持器とを具え、 前記保持器は、前記ポケットが形成される中央領域と、その幅方向両側に位置すると共に前記中央領域に対して外周面側に突出するように前記中央領域よりもその肉厚を厚く設定した一対の側端部領域とを有し、 前記保持器の側端部領域の外周面には、この保持器の側端面から前記ポケットへと至る溝が形成され、前記ポケット側に位置する前記溝の端部に対し、前記保持器の側端面側に位置する前記溝の端部が前記保持器の回転方向後方に位置するように、前記溝が前記保持器の幅方向に対して傾斜していることを特徴とする転がり軸受。」 と補正された。 なお、下線は補正箇所であり、請求人が付したとおりのものである。 本件補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「一対の側端部領域」について、当該「一対の側端部領域」が「中央領域に対して外周面側に突出する」ことを限定するものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、特許法第17条の2第5項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。 2.引用刊行物とその記載事項 (1)刊行物1 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に日本国内において頒布された特開平4-331820号公報(以下「刊行物1」という。)には、「エンジン用ころ軸受」に関し、次の事項が図面(特に、図1、3参照)と共に記載されている。 以下、下線は当審で付与するものである。 ア 「【0012】図1において、ころ軸受2は略円筒形状の保持器9と、この保持器9の軸方向に平行にかつ円周方向に等間隔に設けられた複数のポケット9a内に配設されたころ8とから構成されている。このポケット9aの寸法は、後述の保持用突出部を除いてころ8の寸法よりわずかに大きく形成されている。また、保持器9の外周面9bは、フラットな面で構成されており、面圧を軽減させると共に広い接触面を確保できる。保持器9は、外径で案内されていて、保持器外径とハウジングとのすきまより、保持器内径と軸とのすきまのほうが大きい。霧状の潤滑オイルは、保持器内径と軸との間から吸入され、ころに付着したオイルは遠心力によって保持器外径部に移動する。保持器外径部のオイルは、リード溝9dによって保持器9の両端側に強制的に排除される。したがって、保持器9の内周側から潤滑オイルの吸引がよくなる。潤滑油の移動によって、軸受部の発生する熱を積極的に放熱させ、焼付きを防止する。」 イ 「【0014】図1乃至図3に示すように、保持器9の外周面には傾斜したリード溝9dが複数条形成されている。このリード溝9dは保持器9の回転方向中心線Mに対して所定角度傾斜し、左右対称に設けられ、少なくともその一端はポケット9a若しくは保持器端面9cにわたって形成されている。」 ウ 「【0015】次に、上記構成よりなる本実施例の作用について説明する。このころ軸受2は、軸とハウジングとの間に挿入されてハウジング内に潤滑剤と共に配置される。ころ8が軸及びハウジングの軌道面を転がり、保持器9が回転すると、潤滑剤はころ8とポケット9a間のわずかな隙間を通って保持器9の内外を循環されるが、主として回転による遠心力によって、潤滑剤は外側に集まる。図3に示す矢印方向に保持器9が移動すると、中心線Mに対して所定角度傾斜し、かつ左右対称に設けられたリード溝9dの作用で中心線M付近から両端面9c方向へ案内され軸受外部に放出される。この作用は、保持器9の内部から潤滑剤がわずかなポケット9aの隙間を通って保持器9の外部への潤滑が促進され、全体として軸受の潤滑が良好になる。」 エ 「【0017】 【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、ころ軸受は、保持器の外周面に回転方向中心線に対して所定角度傾斜したリード溝を左右対称に形成することによって、ポケット付近の潤滑剤を保持器端面方向に案内するようにしたものである。したがって、保持器内の潤滑剤がポケットのわずかな隙間を通って保持器外に流出するため、軸受内の潤滑がよくなり、冷却作用を向上させ、焼付き等の不具合を阻止することができ、軽量化に適したころ軸受とすることができる。」 上記記載事項ウの「図3に示す矢印方向」は、「保持器9が移動する」方向であるから、保持器の回転方向であることは言うまでもない。 また、記載事項イの「このリード溝9dは保持器9の回転方向中心線Mに対して所定角度傾斜し、左右対称に設けられ、少なくともその一端はポケット9a若しくは保持器端面9cにわたって形成されている。」を、図3を参酌して勘案すると、リード溝9dは、ポケット側の端部から端面9c側の端部にわたって形成されており、上記のとおり、図3の矢印方向は、保持器の回転方向であるから、リード溝9dのポケット側の端部は、端面9c側の端部より回転方向の前方に位置するように、幅方向に対して傾斜している。 即ち、刊行物1記載の保持器において、保持器にはリード溝が形成され、ポケット側に位置するリード溝の端部に対し、保持器の端面側に位置するリード溝の端部が、保持器の回転方向後方に位置するように、保持器の幅方向に対して傾斜している。 上記記載事項、図示内容及び認定事項を総合して、本願補正発明に則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「略円筒形状の保持器9と、該保持器9の軸方向に平行にかつ円周方向に等間隔に設けられた複数のポケット9a内に配設されたころ8とから構成されるころ軸受であって、 保持器9の外周面9bは、フラットな面で構成されており、 該保持器9の外周面9bには、傾斜したリード溝9dが、ポケット9a若しくは保持器端面9cにわたって、複数条形成されており、ポケット側に位置するリード溝の端部に対し、保持器の端面側に位置するリード溝の端部が、保持器の回転方向後方に位置するように、保持器の幅方向に対して傾斜している、ころ軸受。」 (2)刊行物2 同じく、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に日本国内において頒布された特開2005-90657号公報(以下「刊行物2」という。)には、「転がり軸受」に関し、次の事項が図面(特に、図1、2参照)と共に記載されている。 オ 「【0016】 本実施形態では、図1に示すように、外輪3の内周面の軌道面11の軸方向両側に存している案内面25,25に、保持器7の被案内面15(外径面)を近接させて案内する外輪の両肩案内形式である。 保持器7の被案内面15は、外輪3の案内面25と近接する被案内部17と、該被案内部17と直径を異ならせ、軸方向に一定の幅を持って周方向に形成された凹溝状の周方向凹部19と、前記被案内部17の周方向の少なくとも一部に形成され、前記周方向凹部19と保持器端面23とを連通する切欠き溝(凹状スキャロップ溝)21とを備えている。 【0017】 本実施形態では、保持器7の外径面にて、周方向全周にわたって幅B1を持って連続する周方向凹部19の両側に、所望軸方向幅で周方向全周にわたって連続する左右の被案内部17,17が形成されている。」 カ 「【0019】 切欠き溝(凹状スキャロップ溝)21は、本実施形態では、周方向に設けられている各ポケット13の両側にて、ポケット13と保持器端面23との間を連続する深さE1で、幅2B2(2×B2)の円弧形状を持って夫々の被案内部17に設けられている。 また、切欠き溝21は、本実施形態によれば、ポケット13の軸方向左右両側にて、ポケット13と保持器端面23とを連通させて備えられているため、余分な油を最も排出しやすいが、被案内部17の周方向に少なくとも一箇所設けられていればよく、また、その配設箇所も特にポケット13が設けられている箇所に限定はされず、本発明の範囲内で設計変更可能である。」 キ 「【0020】 ここで、本実施形態の転がり軸受を回転させると、内輪1、外輪3及び玉5に塗布した油、また保持器7に含浸された油は、走行部を除いた空間に移動しながら接触部の油膜形成に必要な量で潤滑される。 そして、余分な油は、遠心力により外輪3側へ移動するが、外輪3の案内面25に面する保持器7の被案内面15に切欠き溝(凹状スキャロップ溝)21があるため、その切欠き溝21の空間からも軸受外部に排出され、かつ軌道面に戻りにくいことから、短時間で低トルクになるとともに、トルク変動を抑制することが可能となる。」 3.発明の対比 本願補正発明と引用発明とを対比する。 a.引用発明の「略円筒形状の保持器」、「ころ」、「リード溝」、「ころ軸受」は、本願補正発明の「環状をなす保持器」、「転動体」、「溝」、「転がり軸受」に、それぞれ相当する。 b.引用発明の「保持器9の軸方向に平行にかつ円周方向に等間隔に設けられた複数のポケット9a内に配設されたころ8」は、本願補正発明の「保持器付き転動体」と同義である。 c.引用発明においては、本願補正発明のように、保持器の外周面を中央領域と側端部領域とに区別することは特に規定されていない。しかしながら、引用発明においても、ポケットは、保持器の中央に形成されているから、ポケットが形成される部分を「中央領域」と、且つ、ポケットの両側の外周面の部分を「一対の側端部領域」と称しても、何ら支障はなく、又、矛盾もない。 d.引用発明においては、「傾斜したリード溝9dが、ポケット9a若しくは保持器端面9cにわたって、複数条形成されて」いるものであるところ、図3も参酌すると、引用発明のリード溝は、少なくとも、上記cの「一対の側端部領域」に形成されており、「保持器の側端面からポケットへと至る溝が形成されている」といえる。 以上のとおりであるから、本願補正発明の用語に倣って整理すると、本願補正発明と引用発明とは、 「保持器付き転動体を具えた転がり軸受であって、 前記保持器付き転動体は、複数の転動体と、これら複数の転動体を収めるポケットが一定間隔で形成された環状をなす保持器とを具え、 前記保持器は、前記ポケットが形成される中央領域と、その幅方向両側に位置する一対の側端部領域とを有し、 前記保持器の側端部領域の外周面には、この保持器の側端面から前記ポケットへと至る溝が形成され、前記ポケット側に位置する前記溝の端部に対し、前記保持器の側端面側に位置する前記溝の端部が前記保持器の回転方向後方に位置するように、前記溝が前記保持器の幅方向に対して傾斜している転がり軸受。」 である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点] 一対の側端部領域が、本願補正発明では、「前記中央領域に対して外周面側に突出するように前記中央領域よりもその肉厚を厚く設定した」ものであるのに対して、引用発明では、中央領域に対してフラットである点。 4.当審の判断 (1)相違点について 刊行物2の記載事項オ、カからみて、刊行物2記載の転がり軸受の保持器は、次の構成を有するものである。 1)保持器7の被案内面(外径面)15は、周方向全長にわたって幅B1を持って連続する周方向凹部19と、周方向全長にわたって連続する、周方向凹部19の両側に形成される被案内部17とからなる。 2)被案内部17は、外輪3の案内面25と近接している。 3)ポケット13は、周方向凹部19に形成されている。 4)被案内部17には、ポケット13と保持器端面23とを連通する切欠き溝(凹状スキャロップ溝)21が設けられている。 上記の構成を、図2(a)を参酌すると、ポケットが形成される周方向凹部は被案内面の中央部分であり、又、被案内部は、周方向全長にわたって周方向凹部の両側に形成されており、更に、被案内部は、外輪側(外周面側)に突出しているから、結局、刊行物2記載のポケットは、保持器の中央領域に形成されており、且つ、保持器の周方向全周にわたる、周方向凹部よりも突出している被案内部が、外周面側に突出する側端部領域を構成しているといえる。 即ち、上記相違点に係る、保持器の一対の側端部領域を中央領域に対して外周面側に突出するように中央領域よりもその肉厚を厚く設定したものは、刊行物2に記載されている。 なお、中央部より側端部を外周面側に突出させる保持器は、転がり軸受の技術分野において、周知の構成(例えば、特開2006-329233号公報の図8、特開2001-304270号公報の図2等参照)でもある。 そして、刊行物2の被案内部に形成された切欠き溝(凹状スキャロップ溝)が、引用発明の保持器に形成されたリード溝と同様に油の排出に利用されることを勘案すれば、引用発明に、刊行物2記載の保持器の構成を適用することに困難性はなく、引用発明の上記相違点に係る構成とすることは、刊行物2記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。 なお、請求人は、平成25年12月16日付け審判請求書において、引用文献2記載のポケット13は、図1,図3,図4から明らかなように、本願補正発明の中央領域に対応する周方向凹部19のみならず、本願補正発明の側端部領域に対応する一対の被案内部17にまで亙って形成されている旨、主張している(6ページ最下行?7ページ5行参照)。 しかしながら、図2(a)からみて、ポケット13は、幅B1を有する周方向凹部(本願補正発明の「中央領域」に相当)に形成されており、周方向凹部の両側の被案内部17(本願補正発明の「一対の側端部領域」に相当)にまで亙っているとはいえない。 (2)作用効果について 本願補正発明が奏する作用効果は、引用発明及び刊行物2記載の技術事項から当業者が予測し得る範囲内のものである。 (3)まとめ したがって、本願補正発明は、引用発明及び刊行物2記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 5.むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1.本願発明 平成25年12月16日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1、2に係る発明は、平成23年12月22日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「保持器付き転動体を具えた転がり軸受であって、 前記保持器付き転動体は、複数の転動体と、これら複数の転動体を収めるポケットが一定間隔で形成された環状をなす保持器とを具え、 前記保持器は、前記ポケットが形成される中央領域と、その幅方向両側に位置して前記中央領域よりもその肉厚を厚く設定した一対の側端部領域とを有し、 前記保持器の側端部領域の外周面には、この保持器の側端面から前記ポケットへと至る溝が形成され、前記ポケット側に位置する前記溝の端部に対し、前記保持器の側端面側に位置する前記溝の端部が前記保持器の回転方向後方に位置するように、前記溝が前記保持器の幅方向に対して傾斜していることを特徴とする転がり軸受。」 2.引用刊行物とその記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1、刊行物2とそれらの記載事項は、上記第2の2.に記載したとおりである。 3.対比・判断 本願発明は、上記第2の1.で検討した本願補正発明から、「一対の側端部領域」について、当該「一対の側端部領域」が「中央領域に対して外周面側に突出するように」するとの特定事項を省いたものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含む本願補正発明が、上記第2の3.及び4.に記載したとおり、引用発明及び刊行物2記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び刊行物2記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.まとめ したがって、本願発明は、引用発明及び刊行物2記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項2に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-09-17 |
結審通知日 | 2014-09-24 |
審決日 | 2014-10-08 |
出願番号 | 特願2008-195127(P2008-195127) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(F16C)
P 1 8・ 121- Z (F16C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 増岡 亘 |
特許庁審判長 |
冨岡 和人 |
特許庁審判官 |
中川 隆司 森川 元嗣 |
発明の名称 | 転がり軸受 |
復代理人 | 柱山 啓之 |
代理人 | 特許業務法人 谷・阿部特許事務所 |
復代理人 | 伊藤 勝久 |