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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04B
管理番号 1294415
審判番号 不服2013-6688  
総通号数 181 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-04-11 
確定日 2014-11-26 
事件の表示 特願2011-508467「スライサベース低電力復調器のためのAGC」拒絶査定不服審判事件〔平成21年11月12日国際公開、WO2009/136932、平成23年 7月21日国内公表、特表2011-521547〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年年5月8日(パリ条約による優先権主張2008年(平成20年)5月6日、米国)の国際出願であって、平成23年1月7日付けで手続補正書が提出され、平成24年7月10日付けで拒絶理由が通知され、同年11月19日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年12月7日付けで拒絶査定がなされ、平成25年4月11日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、同日付けで手続補正書が提出され、平成26年2月27日付けで当審により拒絶理由が通知され、同年6月4日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1?27に係る発明は、平成26年6月4日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?27の記載から見て、次のとおりのものと認められる。
「【請求項1】
目標信号を増幅するように構成される増幅器と、
前記目標信号が前記増幅器の出力に現れない期間中に前記増幅器からの前記出力に基づいて前記増幅器の利得を決定するように構成される自動利得制御器と、
閾値に基づいて前記増幅器からの前記出力をサンプリングするように構成される1ビットスライサと、
を具備し、
前記自動利得制御器は前記期間中にサンプルから前記増幅器の前記利得及び前記1ビットスライサの前記閾値を決定するように更に構成され、
前記自動利得制御器は
前記サンプルを処理し、
前記処理されたサンプルを閾値割合と比較し、
前記比較に基づいて前記増幅器の前記利得を決定するように更に構成され、
前記1ビットスライサから出力される前記サンプルの各々は第1又は第2の値を有し、
前記自動利得制御器は
前記第1の値を有するサンプルの割合を前記期間中に閾値割合と比較し、
前記比較に基づいて前記増幅器の前記利得を決定するように更に構成される、無線通信装置。
【請求項2】
前記第1の値は論理状態1であり、前記第2の値は0の論理状態である、請求項1の装置。
【請求項3】
前記第1の値は0の論理状態であり、前記第2の値は1の論理状態である、請求項1の装置。
【請求項4】
目標信号を増幅するように構成される増幅器と、
前記目標信号が前記増幅器の出力に現れない期間中に前記増幅器からの前記出力に基づいて前記増幅器に対する利得を決定するように構成される自動利得制御器と、
前記増幅器からの前記出力をサンプリングするように構成される1ビットスライサと、
を具備し、
前記自動利得制御器は前記期間中にサンプルから前記増幅器の前記利得を決定するように更に構成され、
前記1ビットスライサは更に閾値に基づいて前記増幅器からの前記出力をサンプリングするように構成され、前記自動利得制御器は更に前記期間中に前記サンプルから前記1ビットスライサに対する前記閾値を決定するように構成される、無線通信装置。
【請求項5】
第2の増幅器を更に具備し、前記自動利得制御器は更に前記期間中に前記1ビットスライサから出力する前記サンプルから前記第2の増幅器に対する利得を決定するように構成される、請求項1の装置。
【請求項6】
前記増幅器及び第2の増幅器の一方は低雑音増幅器で構成され、前記増幅器及び第2の増幅器の他方は可変利得増幅器により構成される、請求項5の装置。
【請求項7】
前記増幅器は低雑音増幅器又は可変利得増幅器のいずれかで構成される、請求項1の装置。
【請求項8】
前記自動利得制御器は更に、
最小要求利得分解能を求め、
最小と最大仮定利得パラメータとの差は前記最小要求利得分解能以上になるまでシステムパラメータに基づいて前記最小及び最大仮定利得パラメータ及び最善仮定利得パラメータを再帰的に設定し、
前記最善仮定利得パラメータに基づいて前記増幅器に対する前記利得を決定するように構成される、請求項7の装置。
【請求項9】
目標信号を増幅する増幅手段と、
前記目標信号が前記増幅手段の出力に現れない期間中に前記増幅手段からの前記出力に基づいて前記増幅手段の利得を自動的に制御する手段と、
閾値に基づいて前記増幅手段からの前記出力をサンプリングする手段と、
を具備し、
前記増幅手段の利得を自動的に制御する前記手段は前記増幅手段の前記利得及び前記期間中に前記増幅手段からの前記出力をサンプリングする手段の前記閾値を決定する手段を更に含み、
前記増幅手段の利得を自動的に制御する前記手段は更に
前記サンプリング手段から出力するサンプルを処理する手段と、
処理された前記サンプルを閾値と比較する手段と、
前記比較に基づいて前記増幅手段の前記利得を決定する手段と、
を含み、
前記サンプリング手段から出力する前記サンプルの各々は第1又は第2の値を含み、
前記増幅手段の利得を自動的に制御する前記手段は
前記期間中に前記第1の値を有するサンプルの割合を閾値割合と比較する手段と、
前記比較に基づいて前記増幅手段の前記利得を決定する手段と、を更に含む、
無線通信装置。
【請求項10】
前記サンプリング手段は1ビットスライサにより構成される、請求項9の装置。
【請求項11】
前記第1の値は論理状態1であり、前記第2の値は0の論理状態である、請求項9の装置。
【請求項12】
前記第1の値は0の論理状態であり、前記第2の値は1の論理状態である、請求項9の装置。
【請求項13】
目標信号を増幅する増幅手段と、
前記目標信号が前記増幅手段の出力に現れない期間中に前記増幅手段からの前記出力に基づいて前記増幅手段の利得を自動的に制御する手段と、
前記増幅手段からの前記出力をサンプリングするサンプリング手段と、
前記期間中に前記サンプリング手段から出力されるサンプルから前記サンプリング手段の閾値を決定する手段と、
を更に具備し、
前記増幅手段の利得を自動的に制御する前記手段は前記期間中に前記サンプルから前記増幅手段の前記利得を決定する手段を更に含み、
前記サンプリング手段は閾値に基づいて前記増幅手段からの前記出力をサンプリングするように構成される、無線通信装置。
【請求項14】
前記目標信号を増幅する第2の増幅手段を更に具備し、前記増幅手段の利得を自動的に制御する前記手段は前記期間中に前記サンプリング手段から出力する前記サンプルから前記第2の増幅手段の利得を決定する手段を更に具備する、請求項9の装置。
【請求項15】
前記増幅手段及び前記第2の増幅手段の一方は低雑音増幅器により構成され、前記増幅手段及び前記第2の増幅手段の他方は可変利得増幅器で構成される、請求項14の装置。
【請求項16】
前記増幅手段は低雑音増幅器又は可変利得増幅器のいずれかにより構成される、請求項9の装置。
【請求項17】
前記増幅手段の利得を自動的に制御する前記手段は更に
最小要求利得分解能を取得する手段と、
最小および最大仮定利得パラメータとの差が前記最小要求利得分解能以上となるまでシステムパラメータに基づいて前記最小及び最大仮定利得パラメータ並びに最善仮定利得パラメータを再帰的に設定する手段と、
前記最善仮定利得パラメータに基づいて前記増幅手段の前記利得を決定する手段と、
具備する、請求項9の装置。
【請求項18】
目標信号を増幅器によって増幅すること、
前記目標信号が前記増幅器の出力に現れない期間中に前記増幅器からの出力に基づいて前記増幅器の利得を自動的に制御すること、
閾値に基づいて前記増幅器からの前記出力をサンプリングすること、
を含み、
前記利得を自動的に制御することは前記期間中のサンプルから前記増幅器の前記利得及び前記サンプリングのための前記閾値を決定することを更に含み、
前記利得を自動的に制御することは
前記サンプルを処理すること、
前記処理されたサンプルを閾値と比較すること、
を更に含み、
更に、前記サンプルの各々は第1又は第2の値を含み、前記利得を自動的に制御することは
前記期間中に前記第1の値を持つ前記処理されたサンプルの割合を閾値割合と比較すること、
前記比較に基づいて前記増幅器の前記利得を決定すること、
を含む、自動利得制御方法。
【請求項19】
前記第1の値は論理状態1であり、前記第2の値は0の論理状態である、請求項18の方法。
【請求項20】
前記第1の値は0の論理状態であり、第2の値は1の論理状態である、請求項18の方法。
【請求項21】
目標信号を増幅器によって増幅すること、
前記目標信号が前記増幅器の出力に現れない期間中に前記増幅器からの出力に基づいて前記増幅器の利得を自動的に制御すること、
前記増幅器からの前記出力をサンプリングすること、
を含み、
前記利得を自動的に制御することは前記期間中のサンプルから前記増幅器の前記利得を決定することを更に含み、
前記増幅器からの前記出力をサンプリングすることは閾値に基づいており、前記利得を自動的に制御することは前記期間中に前記閾値を決定することを更に含む、
自動利得制御方法。
【請求項22】
第2の増幅器を更に含み、前記利得の前記自動制御は更に前記期間中に前記サンプルから前記第2の増幅器の利得を決定することを含む、請求項18の方法。
【請求項23】
前記利得を自動的に制御することは更に
最小要求利得分解能を求めること、
最小および最大仮定利得パラメータの差が前記最小要求利得分解能以上になるまでシステムパラメータに基づいて前記最小及び最大仮定利得パラメータ並びに最善仮定利得パラメータを再帰的に設定すること、
前記最善仮定利得パラメータに基づいて前記増幅器の前記利得を決定すること、
を含む、請求項22の方法。
【請求項24】
増幅器によって目標信号を増幅すること、
前記目標信号が前記増幅器の出力に現れない期間に前記増幅器からの前記出力に基づいて前記増幅器の利得を自動的に制御すること、
閾値に基づいて前記増幅器からの前記出力をサンプリングすること、
を実行可能にするコードを記憶するためのコンピュータ読取り可能記憶媒体であって、
前記利得を自動的に制御することは前記期間中にサンプルから前記増幅器の前記利得及び前記サンプリングのための前記閾値を決定することを含み、
前記利得を自動的に制御することは、
前記サンプルを処理すること、
前記処理されたサンプルを前記閾値と比較すること、
前記比較に基づいて前記増幅器の前記利得を決定すること、
を更に含み、
前記サンプルの各々は第1又は第2の値を含み、前記利得を自動的に制御することは、
前記第1の値を有するサンプルの割合を前記期間中に閾値割合と比較すること、
前記比較に基づいて前記増幅器の前記利得を決定すること、
前記閾値を決定すること
を更に含む、コンピュータ読取り可能記憶媒体。
【請求項25】
目標信号を増幅するように構成される増幅器と、
前記目標信号が前記増幅器の出力に現れない期間中に前記増幅器からの前記出力に基づいて前記増幅器の利得を決定するように構成される自動利得制御器と、
閾値に基づいて前記増幅器からの前記出力をサンプリングするように構成される1ビットスライサと、
前記目標信号に基づいて音を発生するように構成される変換器と、
を具備し、
前記自動利得制御器は前記期間中にサンプルから前記増幅器の前記利得及び前記1ビットスライサの前記閾値を決定するように更に構成され、
前記自動利得制御器は
前記サンプルを処理し、
前記処理されたサンプルを閾値と比較し、
前記比較に基づいて前記増幅器の前記利得を決定するように更に構成され、
前記1ビットスライサから出力される前記サンプルの各々は第1又は第2の値を有し、
前記自動利得制御器は、
前記第1の値を有するサンプルの割合を前記期間中に閾値割合と比較し、
前記比較に基づいて前記増幅器の前記利得を決定するように更に構成される、ヘッドセット。
【請求項26】
目標信号を増幅するように構成される増幅器と、
前記目標信号が前記増幅器の出力に現れない期間中に前記増幅器からの出力に基づいて前記増幅器の利得を決定するように構成される自動利得制御器と、
閾値に基づいて前記増幅器からの前記出力をサンプリングするように構成される1ビットスライサと、
目標信号に基づいて表示を提供するように構成されるユーザインタフェースと、
を具備し、
前記自動利得制御器は前記期間中にサンプルから前記増幅器の前記利得及び前記1ビットスライサの前記閾値を決定するように更に構成され、
前記自動利得制御器は
前記サンプルを処理し、
前記処理されたサンプルを前記期間中に閾値割合と比較し、
前記比較に基づいて前記増幅器の前記利得を決定するように更に構成され、
前記1ビットスライサから出力される前記サンプルの各々は第1又は第2の値を有し、
前記自動利得制御器は、
前記第1の値を有するサンプルの割合を前記期間中に閾値割合と比較し、
前記比較に基づいて前記増幅器の前記利得を決定するように更に構成される、
時計。
【請求項27】
目標信号を増幅するように構成される増幅器と、
目標信号が前記増幅器の出力に現れない期間中に前記増幅器からの出力に基づいて前記増幅器に対する利得を決定するように構成される自動利得制御器と、
閾値に基づいて前記増幅器からの前記出力をサンプリングするように構成される1ビットスライサと、
前記目標信号に基づいてデータを発生するように構成されるセンサと、
を具備し、
前記自動利得制御器は前記期間中にサンプルから前記増幅器の前記利得及び前記1ビットスライサの前記閾値を決定するように更に構成され、
前記自動利得制御器は、
前記サンプルを処理し、
前記処理されたサンプルを閾値と比較し、
比較に基づいて前記増幅器の前記利得を決定するように更に構成され、
前記1ビットスライサから出力される前記サンプルの各々は第1又は第2の値を有し、
前記自動利得制御器は、
前記第1の値を有するサンプルの割合を前記期間中に閾値割合と比較し、
前記比較に基づいて前記増幅器の前記利得を決定するように更に構成される、検出装置。」


第3 当審の拒絶の理由
平成26年2月27日付けで当審が通知した拒絶の理由は、次の内容を含むものである。

「<理由1>
この出願は、発明の詳細な説明の記載について下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。



(1) 平成25年4月11日付け手続補正書により補正された請求項1に係る発明では、「前記処理されたサンプルを閾値割合と比較し」なる事項、及び、「前記第1の値を有するサンプルの割合を前記期間中に閾値割合と比較し」なる事項が記載されているが、本願明細書の発明の詳細な説明には、該記載における「閾値割合」に対応するものと解される「スライサによって出力する1’の平均確率spthのための目標」が、どのような値に設定されるかが開示されていないため、請求項1に係る発明に関して、本願明細書の発明の詳細な説明には発明が実施し得る程度に開示されているとはいえない。

すなわち、請求項1に係る発明でのLNA利得、VGA利得或いはスライサ閾値の制御は、「前記目標信号が前記増幅器の出力に現れない期間中」に行われるものであり、目標信号が現れないのであるから、理想的には、スライサ出力は0であり、「スライサによって出力する1’の平均確率spthのための目標」は0となるはずである。
しかしながら、該目標を0とするならば、実施例の制御を行った場合、HbestがHminとほぼ同じ(Resmin,LNA以内の)値、即ち、LNAやVGAが最低利得、スライサ閾値が最大値となるように制御され、その結果、「前記目標信号が前記増幅器の出力に現れない期間」以外で、目標信号が入力した場合(特に、スライス出力が”1”となるべき目標信号が入力した場合)であっても、スライサ出力が全て”0”となるように制御され、正しく出力され得ない制御となり得ない。
してみると、上記「スライサによって出力する1’の平均確率spthのための目標」は理想値などの当業者が常識的に想到し得る値ではなく、特殊な値であると考えざるを得ない。
これに対して、本願明細書の発明の詳細な説明には、「スライサによって出力する1’の平均確率spthのための目標」がどのような値に設定されるのかが開示されていない。
該目標の値が理想値など、当業者が常識的に想到し得る値であれば、開示が略されたとしても、当業者が技術常識を参酌すれば実施可能であるといえなくもないが、請求項1に係る発明のごとく、該目標の値を特殊な値に設定することが必須であるならば、特殊な値として、如何なる値を設定するかということの開示がなければ、当業者であっても請求項1に係る発明を実施し得るとはいいえない。
このため、請求項1に係る発明に関して、本願明細書の発明の詳細な説明には発明が実施し得る程度に開示されていない。

また、請求項11、22、29、30、31、32に係る発明も「閾値割合」なる発明特定事項を具備しており、請求項1に係る発明と同様であるとともに、請求項1、11、22、26、29、30、31、32を引用する請求項2?5、7?10、12?16、18?21、23?25、27、28に係る発明も同様な不備を内在している。

よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?5、7?16、18?25、27?31に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。


<理由2>
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。



(2) 略

(3) 請求項6に係る発明では、「前記増幅器の前記利得を決定する」及び「前記スライサに対する前記閾値を決定する」ことが特定されているものの、「前記増幅器の前記利得」及び「前記スライサに対する前記閾値」がどのように決定するのかは特定されていないために、本願発明の発明の詳細な説明に記載される「AGC228はLNA利得、VGA利得及び/又はスライサ閾値を雑音と干渉に基づき、信号レベルに基づかないで決定する。」なる作用を奏し得ないものを包含する発明となっている。
してみると、請求項6に係る発明は発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。
請求項17及び26に係る発明も同様である。
よって、請求項6、17及び26に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。」


第4 請求人による意見書の主張
上記拒絶理由の通知に対し、請求人は、平成26年6月4日付けの手続補正書により所要の補正を行うとともに、同日付けの意見書において次のように主張した。

「以下に理由1?3でご指摘された点についてご説明致します。
理由1について
審査官殿は、請求項1に記載された閾値割合は明細書の段落[0032]に記載された「「スライサによって出力する1’の平均確率spthのための目標」に対応するものと解されるが、これがどのような値に設定されるかが開示されていないため、請求項1に係る発明に関して、本願明細書の発明の詳細な説明には発明が実施し得る程度に開示されているとはいえない。」とご指摘されました。
しかし、明細書の段落[0035]には、「スライサは目標信号が受信されていない期間Thypの間にサンプリング周波数fsでチャネル上の雑音プラス干渉のサンプルを取得する。スライサ出力はブロック440aに示されるように、スライサのサンプル毎に値Si(但し、i=1,2,...)として収集される。」が記載され、段落[0036]には、「ブロック450aでは、現在利得レベルHhypに対するスライサ出力phypでの1’sの評価確率は収集されたスライサ出力データの平均値に等しく設定され、1’sの評価確率phypが目標確率pthより大きいかどうかに関して決定がなされる。現在利得レベルHhypに対するスライサ出力での1’sの評価確率phypが目標確率pthより大きくなければ(即ち、ブロック450aで“no”の決定ならば)、フローはブロック452aに進む。但し、現在利得レベルHhypは最小利得レベルHminの新しい値として設定される。評価確率phypが目標確率pthより大きければ(即ち、ブロック450aで“yes”の決定であれば)、フローはブロック454aに移る。但し、現在利得レベルHhypは最大利得レベルHmaxの新しい値として設定される。」が記載されています。即ち、収集されたスライサ出力データの平均値である現在利得レベルHhypに対するスライサ出力phypでの1’sの評価確率が閾値割合に対応し、評価確率が目標確率よりも大きいかどうかによって利得レベルが決定されます。目標確率は最小電力消費及びリンクバケットコストを用いて微細AGC推定を提供するように決められます。従って、明細書は補正後の請求項1に係る発明を実施可能に記載されているものと思料致します。
理由2について
審査官殿は、「本願明細書の発明の詳細な説明には、目標信号が増幅器の出力に現れる期間の利得及び閾値の制御に関しては何ら開示がないことから、請求項2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。」とご指摘されました。本ご指摘に対しまして補正前の請求項2、12、23を削除しました。
審査官殿は、「「前記増幅器の前記利得」及び「前記スライサに対する前記閾値」がどのように決定するのかは特定されていないために請求項6に係る発明は発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。」とご指摘されました。「前記増幅器の前記利得」の決定は上述しましたように段落[0036]に記載されていますので請求項6は明細書によって裏付けされています。スライサにつきましては、スライサを1ビットスライサと補正しました。なお、補正前の請求項3および14は削除されています。1ビットスライサは段落[0022]に記載されていますようにサンプリング周波数fsで信号に関する1ビットの決定をするものであります。スライサ閾値レベルは一般的には信号の最大値と最小値の平均値から導出されるものであり、閾値割合は当業者には明らかであると思料致します。
従って、補正後の請求項4、13及び21に係る発明は、発明の詳細な説明によって裏付けされています。」


第5 当審の判断
平成26年2月27日付けで当審が通知した拒絶の理由の内、理由1の(1)として通知した特許法第36条第4項第1号、及び、理由2の(3)として通知した特許法第36条第6項第1号について、以下で検討する。

上記請求人の主張を参酌しても、依然として、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願の請求項1に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものとはいえず、又、本願の請求項4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

理由は以下のとおりである。

1.理由1の(1)について
本願の請求項1に係る発明は、平成26年6月4日付けの手続補正書により補正された請求項1に係る発明であって、次のとおりのものと認められる。

「【請求項1】
目標信号を増幅するように構成される増幅器と、
前記目標信号が前記増幅器の出力に現れない期間中に前記増幅器からの前記出力に基づいて前記増幅器の利得を決定するように構成される自動利得制御器と、
閾値に基づいて前記増幅器からの前記出力をサンプリングするように構成される1ビットスライサと、
を具備し、
前記自動利得制御器は前記期間中にサンプルから前記増幅器の前記利得及び前記1ビットスライサの前記閾値を決定するように更に構成され、
前記自動利得制御器は
前記サンプルを処理し、
前記処理されたサンプルを閾値割合と比較し、
前記比較に基づいて前記増幅器の前記利得を決定するように更に構成され、
前記1ビットスライサから出力される前記サンプルの各々は第1又は第2の値を有し、
前記自動利得制御器は
前記第1の値を有するサンプルの割合を前記期間中に閾値割合と比較し、
前記比較に基づいて前記増幅器の前記利得を決定するように更に構成される、無線通信装置。」

請求項1に係る発明において、増幅器の利得が正しく決定されるためには、サンプルと比較される閾値割合が適切な値であることが必須なことは明らかであって、本願の発明の詳細な説明が「本願発明の実施ができる程度に明確かつ十分に記載されている」といえるためには、発明の詳細な説明の記載を当業者が参酌すれば、自動利得制御器による増幅器の利得の制御が所望の制御となるように、「閾値割合」の値を設定することができることが必要である。
ここで、請求項1に係る発明は、1ビットスライサが増幅器からの出力をサンプリングする期間が「前記目標信号が前記増幅器の出力に現れない期間中」であるから、増幅器から出力される信号は目標信号に基づいた出力ではなく、雑音や干渉に基づく出力であり、理想的には雑音や干渉のような不要出力は出力されないことが望ましい、即ち、「スライサによって出力する1’の平均確率spthのための目標」は0となるべきであると考えるのが当業者であれば一般的であるいえる。
しかしながら、閾値割合を0とするならば、図4A及び図4Bに開示された実施例では、他のパラメータや収集された増幅器の出力Siが1’となる平均確率が如何なる値であろうとも、Hbestは、Hminとほぼ同じ(Resmin,LNA以内の)値、即ち、LNA及びVGAは最低利得に制御されることになって、増幅器の利得の適応的な制御は行い得ない。
してみると、上記「スライサによって出力する1’の平均確率spthのための目標」は理想値などの当業者が常識的に想到し得る値ではなく、特殊な値であると考えざるを得ない。
これに対して、本願明細書の発明の詳細な説明には、上記のごとく特殊な値である「閾値割合」に相当する「スライサによって出力する1’の平均確率spthのための目標」がどのような値に設定されるのかが開示されていない。
このため、「閾値割合」は、当業者が常識的に想到し得る値でないとともに、そのような値に設定すべきかの開示もなされていないことから、本願明細書の発明の詳細な説明を見た当業者が請求項1に係る発明を実施し得るといいえない。

審判請求人は、平成26年6月4日付けの意見書において、「目標確率は最小電力消費及びリンクバケットコストを用いて微細AGC推定を提供するように決められます。」と主張しているが、如何なる値の「閾値割合」、或いは、如何なる方法により決定された「閾値割合」であれば、「最小電力消費及びリンクバケットコストを用いて微細AGC推定を提供する」ことを可能とするのか、即ち、電力消費及びリンクバケットコストを最小とすることが可能になるのか、についての開示はなされていないとともに、当業者にとって一般的に知られている事項であるとも認められない。
このため、審判請求人の主張を参酌しても、依然として、請求項1に係
る発明に関して、本願明細書の発明の詳細な説明には、発明が実施し得る程度に開示されていない。

よって、請求項1に係る発明に関して、本願明細書の発明の詳細な説明には発明が実施し得る程度に開示されていない。

2.理由2の(3)について
本願の請求項4に係る発明は、平成25年4月11日付けの手続補正書による請求項6に係る発明が、平成26年6月4日付けの手続補正書により補正されたものであって、次のとおりのものと認められる。

「【請求項4】
目標信号を増幅するように構成される増幅器と、
前記目標信号が前記増幅器の出力に現れない期間中に前記増幅器からの前記出力に基づいて前記増幅器に対する利得を決定するように構成される自動利得制御器と、
前記増幅器からの前記出力をサンプリングするように構成される1ビットスライサと、
を具備し、
前記自動利得制御器は前記期間中にサンプルから前記増幅器の前記利得を決定するように更に構成され、
前記1ビットスライサは更に閾値に基づいて前記増幅器からの前記出力をサンプリングするように構成され、前記自動利得制御器は更に前記期間中に前記サンプルから前記1ビットスライサに対する前記閾値を決定するように構成される、無線通信装置。」

本願明細書の発明の詳細な説明には、
(ア)「同時に、スライサベースアーチテクチャは、一般的に、微細自動利得制御(AGC)を必要とする。特にUWBシステムにおいて、微細AGCレベルを設定ことは大きな電力消費コスト及び/又はリンクバケットコストを持つことができ、それによって、スライサベースアーチテクチャが節電の観点から持つ幾つかの利点を無効にする。従って、最小電力消費及びリンクバケットコストを用いて微細AGC推定を可能にする方法のための技術の必要性がある。」(段落【0005】)
と記載されており、本願発明における発明が解決しようとする課題は、電力消費及びリンクバケットコストを最小とすることにあると認められる。

しかしながら、請求項4に係る発明では、利得や閾値の決定に関して、利得や閾値を「前記期間中にサンプルから」決定することは特定されているが、目標信号が増幅器の出力に現れない期間中の増幅器からの出力のサンプルから、如何にして、利得や閾値を決定するかについては特定されていない。
そして、閾値を決定する際に、目標信号が増幅器の出力に現れない期間中の増幅器からの出力のサンプルを如何に用いることで、電力消費やリンクバケットコストが最小となるか、当業者にとって明らかな事項であったとは認められない。
また、利得を決定する際の、目標信号が増幅器の出力に現れない期間中の増幅器からの出力のサンプルを求めるための1ビットスライサの閾値の設定値、及び、閾値を決定する際の、目標信号が増幅器の出力に現れない期間中の増幅器からの出力のサンプルを求めるための増幅器の利得の設定値を如何に設定した場合に、電力消費やリンクバケットコストが最小となるか、当業者にとって明らかな事項であったとは認められない。
してみると、請求項4に係る発明は、電力消費及びリンクバケットコストを最小とするという、本願発明における発明が解決しようとする課題を解決する手段が反映されているとは認められないことから、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許請求するものである。

さらに、「閾値」の決定について、本願明細書の発明の詳細な説明には、
(イ)「AGC228はLNA利得、VGA利得及び/又はスライサ閾値を適応的に制御するために使用されてもよい。特に、AGC228はLNA利得、VGA利得及び/又はスライサ閾値を雑音と干渉に基づき、信号レベルに基づかないで決定する。この例では、LNA利得、VGA利得及び/又はスライサ閾値は信号が存在しない場合にある期間(即ち、AGC走査)中に決定される。」(段落【0029】)、
(ウ)「LNA利得、VGA利得、スライサ閾値、又はその任意の組合せが、目標に合うことを確認するために上又は下に調整される。」(段落【0030】)、
(エ)「AGCによって使用されるアルゴリズムの例が図4A及び4Bに示されたフローチャートに関して説明する。図4A及び4Bに示されるアルゴリズムは双部分探索(bi-sectional search)を採用し、スライサ閾値レベルが一定に留まり、LNA及びVGA利得だけが調整されるものと仮定する。しかしながら、上述したように、増幅器利得及びスライサ閾値の任意の組合せがAGCアルゴリズムによって制御されてもよい。」(段落【0031】)
なる事項が記載されている。
しかしながら、「閾値」の決定方法に関する具体的な開示もなされておらず、「閾値」が雑音と干渉にどのように基づいているのか、決定されたスライス閾値が雑音と干渉と如何なる関係となるのか、「閾値」を決定する際の増幅器の利得はどのように設定するのか、さらには、決定されたスライサ閾値と「電力消費」や「リンクバケットコスト」とが如何なる関係性を有するのかなどについては、なんら開示されていない。
このため、請求項4に係る係る発明は、電力消費及びリンクバケットコストを最小とするという、本願発明における発明が解決しようとする課題を解決する手段が反映されているとは認められないことから、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許請求するものである。

審判請求人は、平成26年6月4日付けの意見書において、「スライサ閾値レベルは一般的には信号の最大値と最小値の平均値から導出されるものであり、閾値割合は当業者には明らかであると思料致します。」と主張している。
しかしながら、請求項4に係る発明の「1ビットスライサに対する前記閾値」は、目標信号が増幅器の出力に現れない期間中に増幅器の出力をサンプルしたものから決定されており、該サンプルには、雑音や干渉が含まれているのみで、「最大値」や「最小値」を得るべき(目標)信号は含まれていないことから、「スライサ閾値レベルは一般的には信号の最大値と最小値の平均値から導出されるもの」であったとしても、請求項4に係る発明の構成に基づいた主張でなく、目標信号が増幅器の出力に現れない期間中に増幅器の出力をサンプルしたものから閾値を決定する具体的な事項が、審判請求人の主張するように、当業者が一般的に導出される事項とはいえない。
このため、審判請求人の主張を参酌しても、依然として、請求項4に係る発明は、電力消費及びリンクバケットコストを最小とするという、本願発明における発明が解決しようとする課題を解決する手段が反映されているとは認められないことから、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許請求するものである。

よって、請求項4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。

3.まとめ
以上のとおり、本願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものとはいえないとともに、請求項4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、本願は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


第6 むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

したがって、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-06-26 
結審通知日 2014-07-01 
審決日 2014-07-15 
出願番号 特願2011-508467(P2011-508467)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (H04B)
P 1 8・ 536- WZ (H04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石井 則之  
特許庁審判長 江口 能弘
特許庁審判官 水野 恵雄
佐藤 聡史
発明の名称 スライサベース低電力復調器のためのAGC  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 白根 俊郎  
代理人 堀内 美保子  
代理人 竹内 将訓  
代理人 佐藤 立志  
代理人 砂川 克  
代理人 井上 正  
代理人 赤穂 隆雄  
代理人 中村 誠  
代理人 福原 淑弘  
代理人 河野 直樹  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 井関 守三  
代理人 峰 隆司  
代理人 野河 信久  
代理人 岡田 貴志  

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