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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1294708
審判番号 不服2012-576  
総通号数 181 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-01-12 
確定日 2014-12-03 
事件の表示 特願2008-526882「siRNAの細胞内伝達のためのsiRNAと親水性高分子との間の接合体、及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 2月22日国際公開、WO2007/021142、平成21年 2月 5日国内公表、特表2009-504179〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成18年8月17日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年8月17日 韓国)とする出願であって、平成23年6月3日付で手続補正がなされたが、同年9月2日付で拒絶査定がなされ、これに対して、平成24年1月12日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに、同日付で手続補正がなされたものである。

2.平成24年1月12日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年1月12日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
上記補正により特許請求の範囲の請求項1は、補正前の
「【請求項1】親水性高分子(P)とsiRNA(Y)が共有結合(X)で連結された下記構造のsiRNA-親水性高分子接合体とカチオン性脂質を含む高分子電解質複合体ミセル、
P-X-Y
前記で、Pは親水性高分子で、Xはリンカーが媒介されていないまたはリンカーが媒介された分解性共有結合であり、YはsiRNAである。」から、
「【請求項1】親水性高分子(P)とsiRNA(Y)が共有結合(X)で連結された下記構造のsiRNA-親水性高分子接合体とカチオン性脂質を含む高分子電解質複合体ミセル、
P-X-Y
前記で、Pは親水性高分子で、Xはリンカーが媒介されていないまたはリンカーが媒介された分解性共有結合であり、YはsiRNAであり、親水性高分子(P)はsiRNA(Y)の3’又は5’末端に連結されている。」へと補正された。
上記補正は、上記補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である、siRNA(Y)と共有結合(X)で連結された「親水性高分子(P)」について、「siRNA(Y)の3’又は5’末端に連結されている」という限定を付加するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、請求項1についての補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明1」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下検討する。

(2)引用文献
原査定の拒絶の理由で引用文献3として引用された本願優先日前の2004年に頒布された刊行物である国際公開2004/087931号(以下、「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている(英語で記載されているため、日本語訳で摘記する。下線は当審で付与した。)。
ア.「1.標的細胞へ導入しようとするオリゴヌクレオチドと親水性高分子を含む遺伝子導入のための接合体であって、オリゴヌクレオチドの末端が、親水性高分子と共有結合で連結されている接合体。
5.請求項1に記載の接合体であって、オリゴヌクレオチドが、親水性高分子と、アミド結合やカルバメート結合を含む非分解性結合、ヒドラゾン結合、ホスホロアミデート結合、アセタール結合を含む酸分解性結合、ジスルフィド結合、エステル結合、アンヒドライド分解性結合、酵素分解性結合から選択される結合を介して連結されている接合体。
7.請求項1に記載の接合体であって、オリゴヌクレオチドが、アンチセンスオリゴヌクレオチド、ペプチド核酸、又は、siRNAである接合体。
11.請求項1?8いずれかに記載の遺伝子導入のための接合体と、カチオン性高分子又はカチオン性ペプチドから形成される高分子電解質複合体ミセルであって、該ミセルの形成は、イオン性相互作用によって行われるものである高分子電解質複合体ミセル。」(請求の範囲1、5、7、11)

イ.「本発明の態様によると、標的細胞へ導入しようとするオリゴヌクレオチドと親水性高分子を含む遺伝子導入のための接合体を提供するものであり、オリゴヌクレオチドの5’又は3’末端が親水性高分子と共有結合で連結されているものである。」(6ページ3?6行)

ウ.「疎水性コアと親水性の外殻を有するミセルは、疎水性相互作用又は逆電荷を有する高分子電解質同士のイオン相互作用によって、水性環境下で安定化される。ポリエチレングリコール(PEG)が接合された高分子電解質は、逆の電荷を有する別の高分子電解質と自発的に結合し、高分子電解質複合体ミセルと呼ばれるミセル構造を有する複合体を構成する。」(2ページ14?19行)

エ.「遺伝子治療のための、安全で効果的な遺伝子導入手段が長い間研究されてきて、結果としてさまざまな遺伝子導入体や、遺伝子伝達システムが開発されてきた。特に、アデノウイルスやレトロウイルスに基づくベクターや、リポソーム、カチオン性脂質、カチオン性高分子を用いる非ウイルスベクターが遺伝子導入手段として開発されてきた。」(1ページ14?18行)

上記ア.及びイ.より、引用文献3には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「 親水性高分子とsiRNAが共有結合で連結されたsiRNA-親水性高分子接合体と、カチオン性高分子又はカチオン性ペプチドを含む高分子電解質複合体ミセルであり、親水性高分子はsiRNAの3’又は5’末端に分解性共有結合で連結されている。」

(3)対比
本願補正発明1と引用発明とを対比すると、両者は、
「 親水性高分子(P)とsiRNA(Y)が共有結合(X)で連結された下記構造のsiRNA-親水性高分子接合体と、カチオン性化合物を含む高分子電解質複合体ミセル、
P-X-Y
前記で、Pは親水性高分子で、Xはリンカーが媒介されていない分解性共有結合であり、YはsiRNAであり、親水性高分子(P)はsiRNA(Y)の3’又は5’末端に連結されている。」であるという点で一致し、
カチオン性化合物が、本願補正発明1では、カチオン性脂質であるのに対し、引用発明では、カチオン性高分子又はカチオン性ペプチドである点で相違する。

(4)当審の判断
上記相違点について検討する。
上記引用文献記載事項ウ.に記載されるように、親水性高分子であるPEGが接合された高分子電解質(siRNA)は、逆の電荷を有する別の高分子電解質(カチオン性化合物)と相互作用することにより、親水性のPEG外殻と、逆の電荷を有する高分子電解質同士の相互作用により形成されるコアを有する高分子電解質複合体ミセルを形成することは、本願優先日前既に周知の事項(必要があれば、原審で引用文献1として引用されたJ.AM.CHEM.SOC., 2005, Vol.127, p.1624-1625の1624ページ左欄17?21行参照。)であった。
一方、上記引用文献記載事項エ.や、Journal of Controlled Release, 1998, Vol.53, p.289-299にも記載されるように、カチオン性高分子と同様にカチオン性脂質も、アニオン性の核酸分子と複合体を形成することにより、核酸分子の細胞への導入のための媒介物として使用されることは、既に周知の事項であった。
そうすると、引用発明の核酸分子の細胞導入のために使用する高分子電解質複合体ミセルにおいて、アニオン性高分子電解質の核酸分子であるsiRNAと相互作用するカチオン性高分子又はペプチドに代えて、カチオン性脂質を用いることは、上記周知事項から、当業者であれば容易に想到し得ることである。
そして、本願明細書の実施例3では、カチオン性ペプチド、カチオン性高分子、及び、カチオン性脂質を用いた高分子電解質複合体ミセルを製造しているものの、高分子電解質複合体ミセルの構造を成したときのsiRNAの安定性や効果を確認した実施例で用いられているのは、カチオン性ペプチド及びカチオン性高分子を使用した高分子電解質ミセルだけであるから、本願明細書の記載からカチオン性脂質を用いた特段の効果を把握することはできないし、本願補正発明1において奏される効果が、引用文献3の記載及び上記周知事項から予測できない程の格別なものともいえない。
したがって、本願補正発明1は、引用文献3の記載から当業者が容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

(5)審判請求人の主張
審判請求人は、平成24年2月22日付審判請求書の手続補正書において、本願明細書に記載の実施例3と同一の手順にて製造した、siRNA-PEG接合体とカチオン性高分子であるポリエチレンイミン(PEI)を含む高分子電解質複合体ミセル(比較高分子電解質複合体ミセル)と、siRNA-PEG接合体とカチオン性脂質であるAC-コレステロール(3β-[N-(アミノエタン)カルバモイル]コレステロール)を含む高分子電解質複合体ミセル(本願発明の高分子電解質複合体ミセル)、及び、陽性対象群としてリポフェクタミン(登録商標)を用いて、PC-3細胞の代わりにA549細胞(肺癌細胞株)を用いたことを除いては本願明細書に記載の実施例5と同一の手順にて、前述のようにして製造したミセルのhVEGFの発現に及ぼす影響を調べた実験データを示すことにより、「A549細胞が、AC-コレステロールのようなカチオン性脂質を含む高分子複合体ミセルで処理された場合には、PEIのようなカチオン性高分子や陽性対照群リポフェクタミンで処理された場合よりVEGFの発現が著しく抑制された。また、リポフェクタミンは当該分野において優れた遺伝子導入試薬として知られているが、表1から明らかなように、AC-コレステロールのようなカチオン性脂質含む高分子電解質複合体ミセルによれば、リポフェクタミンを用いた場合よりも更に優れた効果が得られることが分かる。このように、本願発明の高分子電解質複合体ミセルは、格別顕著に優れた効果を発揮できる非常に有用なものである。」とその効果の顕著性について主張している。
しかしながら、上記(4)で述べたように、本願明細書には、カチオン性脂質を用いた高分子電解質複合体ミセルについて、実施例3において、カチオン性脂質のジオレイルホスファチジルコリンなどを用いたsiRNA-PEG接合体との高分子電解質複合体ミセルを製造したことが単に記載されているだけであり、カチオン性脂質を用いた高分子電解質複合体ミセルが、カチオン性高分子又はカチオン性ペプチドを用いたミセルよりも有利な効果を奏することは、記載も示唆もされていない。しかも、上記実験データにおいて用いたカチオン性脂質であるAC-コレステロールを用いることについては、本願明細書には記載されていない。
したがって、本願出願後に提示された上記実験データは、本願明細書に記載されておらず、かつ、本願明細書の記載から当業者が推論できないものであるし、仮に、効果があるとしても、それは、AC-コレステロールを用いたことによる効果であって、カチオン性脂質がAC-コレステロールに限定されていない本願補正発明の特定事項と対応する効果とはいえないから、審判請求人の上記主張は採用できない。

(6)むすび
以上のとおり、本願補正発明は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成24年1月12日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、平成23年6月3日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】親水性高分子(P)とsiRNA(Y)が共有結合(X)で連結された下記構造のsiRNA-親水性高分子接合体とカチオン性脂質を含む高分子電解質複合体ミセル、
P-X-Y
前記で、Pは親水性高分子で、Xはリンカーが媒介されていないまたはリンカーが媒介された分解性共有結合であり、YはsiRNAである。」
そして、本願発明1は、上記本願補正発明1を包含するものであり、本願補正発明1は、上記2.(4)に記載した理由によって、引用文献3の記載から当業者が容易になし得たものであるから、本願発明1も引用文献3の記載から当業者が容易になし得たものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-07-07 
結審通知日 2014-07-08 
審決日 2014-07-23 
出願番号 特願2008-526882(P2008-526882)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 戸来 幸男  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 飯室 里美
郡山 順
発明の名称 siRNAの細胞内伝達のためのsiRNAと親水性高分子との間の接合体、及びその製造方法  
代理人 三枝 英二  
代理人 中野 睦子  
代理人 林 雅仁  
代理人 三枝 英二  
代理人 林 雅仁  
代理人 中野 睦子  
代理人 中野 睦子  
代理人 三枝 英二  
代理人 林 雅仁  

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