ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K |
---|---|
管理番号 | 1294715 |
審判番号 | 不服2012-14896 |
総通号数 | 181 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-01-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-08-02 |
確定日 | 2014-12-04 |
事件の表示 | 特願2006-190644「易破壊性カプセル及びその製品」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 1月31日出願公開、特開2008- 19184〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は,平成18年7月11日の出願であって,その請求項1?3に係る発明は,特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであり,そのうち請求項1は以下のとおりのものである。 「【請求項1】 線状低密度ポリエチレン又は低密度ポリエチレン樹脂フイルムからなる2方シール又は3方シールによる局所用組成物収納用製袋包装体であって, 前記シールの少なくとも1ヶ所が,他のヒートシール部より接着力が弱く,幅3mm以下のジグザグ形状に120?130℃でヒートシールされ,該ヒートシール強さが「日本包装技術協会作成の包装製品のヒートシール強さ分類」の下限基準値の3?6N/15mmを満たす易破壊部であり,上記他のヒートシール部が幅5mm以上の帯状に140℃以上の温度でヒートシールされ,該ヒートシール強さが23?29N/15mmであることを特徴とする易破壊性カプセル。」(以下,「本願発明」という。) 2.引用刊行物 これに対して,原査定の拒絶理由で引用された,本件出願の日前に頒布されたことが明らかな刊行物Aには次の事項が記載されている。 刊行物A:実願平02-074987号(実開平04-033971号)の明細書全文マイクロフイルム (A-1)「1.液体又は半練りペースト状薬剤を加圧により一部が開封可能な接合部(13)とした樹脂フイルム袋(11)に封入し,該袋(11)に接した薬剤含浸層(1),薬剤通過コントロール層(3)及び薬剤通過性塗布層(4),その反対側に薬剤不通過層(2)を形成して全体を封じてなる使い捨て塗布具。」(実用新案登録請求の範囲1) (A-2)「液体又は半練りペースト状薬剤(14)とは,ワックス,クリーナー,医療用軟膏,洗剤等であり,これらを一部が加圧により破れて開封可能な接合部(13)のある樹脂フイルム袋(11)に封入する。圧力に弱い接合部(13)としては,熱融着の程度が弱いか,熱融着の面積が他に比べて少ないか,あるいは機械的に薄いフイルムになっているなど各種手段が応用できる。」(明細書3頁下から6行?4頁2行) (A-3)「【作用】 このような構造の塗布具(10)は,使用に先立って全体又は樹脂フイルム袋(11)を加圧すると,薬剤(14)を封入した樹脂フイルム袋(11)の接合部(13)が破れ,薬剤(14)がこの破れた接合部(13)から出て薬剤含浸層(1)へ浸透保持する。そして,塗布層側の粘着フイルム層(5)を剥離し,塗布層(4)の反対側を持ち被塗布面にこすりつけると,こすりつける手の圧力に応じた薬剤が薬剤透過コントロール層(3)を通して薬剤通過性塗布層(4)に押し出され,均一に薬剤を塗布することができると共に作業中何ら手を汚すことなく塗布作業ができる。」(明細書5頁3行?15行) (A-4)「薬剤(14)として市販の自動車用半練ワックス50gをポリエチレン製50μのフイルムを用い背張り接合部(13)の加工温度を100℃,片端ヒートシール部(12)の加工温度を120℃としてシール部5mm巾で袋状に製袋した13cm×17cmのものに封入し,封入口を120℃,5mm巾でヒートシールし,樹脂フイルム袋(11)を作成した。」(明細書7頁4行?10行) (A-5)「第3図?第5図は薬剤(14)を封入する樹脂フイルム袋(11)の例示斜視図である。第3図は両端縁をヒートシール部(12)とし,中央縦方向合わせ部を弱いヒートシールをして接合部(13)とし,この部分が選択的に圧力により剥がれるようにしたものである。」(明細書9頁下から2行?10頁4行) (A-6)「【考案の効果】 本考案の使い捨て塗布具は,以上のような構造であるから簡単に圧力を加えて樹脂フイルム袋を破袋して薬剤を放出し,粘着フイルムを剥離するだけで,従来困難であった薬剤の塗布作業,ふき取り作業も簡単に行えることが可能となった。また,この使い捨て塗布具はワックス,クリーナー類,医療用軟膏類,及び家庭用洗剤類などにも幅広く,また,複数回に分けても使用できる使い捨て塗布具としての用途が可能となる。」(明細書11頁3行?12行) (A-7)第3図 3.対比 (1)刊行物A記載の発明 刊行物Aには,その(A-1)の記載から,液体又は半練りペースト状薬剤を封入した後,加圧により一部が開封可能な接合部(13)とした樹脂フイルム袋(11)を,使い捨て塗布具の中に収納することが記載されていて,その樹脂フイルム袋(11)は,両端縁をヒートシール部(12)とし,中央縦方向合わせ部を弱いヒートシールをして接合部(13)とし,この部分が選択的に圧力により剥がれるようにしたものであり(摘記(A-5)及び(A-7)の第3図),また,樹脂フイルム袋(11)に封入する「液体又は半練りペースト状薬剤」としては,医療用軟膏が例示されている(摘記(A-2)及び(A-6))ものである。 したがって,刊行物Aには,次の発明が記載されているといえる。 「医療用軟膏を封入した加圧により一部が開封可能な接合部(13)とした樹脂フイルム袋(11)であって, 両端縁をヒートシール部(12)とし,中央縦方向合わせ部を弱いヒートシールをして接合部(13)とし,この部分が選択的に圧力により剥がれるようにしたものである樹脂フイルム袋。」(以下,「引用発明」という。) (2)一致点・相違点 本願発明の易破壊性カプセルは,明細書段落【0006】に「本発明の易破壊性カプセルは,合成樹脂フイルムによる…易破壊性の製袋包装体であり,…」と記載されていることから,合成樹脂フイルム製の易破壊性の包装体をいうものと理解でき,一方,刊行物Aには,引用発明に係る樹脂フイルム袋を組み込んだ使い捨て塗布具に関して,例えば,「こすりつける手の圧力に応じた…」(摘記(A-3))といった記載があることから,刊行物Aに係る使い捨て塗布具は手で使用することを前提としているといえ,さらに「簡単に圧力を加えて樹脂フイルム袋を破袋して薬剤を放出し,…」(摘記(A-6))といった記載もあることから,手の圧力で『簡単に』破袋するものと解されるので,引用発明に係る樹脂フイルム袋は,本願明細書でいう『易破壊性の製袋包装体』に相当するものと解される。 さらに,引用発明の樹脂フイルム袋は,第3図(摘記(A-7))と併せて「両端縁をヒートシール部(12)とし,中央縦方向合わせ部を弱いヒートシールをして接合部(13)とし,」(摘記(A-5))との記載から,本願発明でいう「3方シール」といえるし,また,ここでいう『接合部(13)』は両端部のヒートシール部(12)よりも「接着力が弱い」ともいえることから,引用発明における3ヶ所のヒートシール部に関しては,本願発明でいう「シールの1ヶ所が,他のヒートシール部より接着力が弱く易破壊部である」ということもできる。 そして,『軟膏』という形態は「局所用」製剤であることは当業者に明らかであるから,引用発明に係る医療用軟膏が封入された樹脂フイルム袋は,本願発明の「局所用組成物収納用」ともいえるものである。 以上のことを踏まえて,本願発明と引用発明とを対比すると,両者は, 「樹脂フイルムからなる3方シールによる局所用組成物収納用製袋包装体であって,前記シールの1ヶ所が,他のヒートシール部より接着力が弱く易破壊部である,易破壊性カプセル」の点で一致し,次の点で相違している。 [相違点(1)] 樹脂フイルムについて,本願発明が,「線状低密度ポリエチレン又は低密度ポリエチレン」としているのに対し,引用発明では,格別明記していない点。 [相違点(2)] 本願発明が,易破壊部のシールに関し,「幅3mm以下のジグザグ形状に120?130℃でヒートシールされ,該ヒートシール強さが『日本包装技術協会作成の包装製品のヒートシール強さ分類』の下限基準値の3?6N/15mmを満たす」と特定していて,その他のヒートシール部に関し,「幅5mm以上の帯状に140℃以上の温度でヒートシールされ,該ヒートシール強さが23?29N/15mmである」と特定しているのに対して,引用発明では,そのような特定がない点。 4.判断 (4-1)相違点(1)について 刊行物Aの摘記(A-4)には,樹脂フイルム袋をポリエチレン製フイルムで作成したことが記載されており,刊行物Aに記載の樹脂フイルム袋は,ポリエチレン製フイルムからなる樹脂フイルム袋を含むことは明らかである。 そして,ポリエチレン製フイルムが採用され,袋状の構造物である以上,ポリエチレン製フイルムは袋状に成形可能な柔軟なポリエチレン製フイルムであると解される。 更に,柔軟なポリエチレン製フイルムとしては,通常低密度ポリエチレン樹脂が採用されることが多いこと(岩波理化学辞典第5版岩波書店1998年12月25日発行,ポリエチレンの項参照)をも勘案すると,引用発明の樹脂フイルム袋の材料として「低密度ポリエチレン樹脂あるいは線状低密度ポリエチレン樹脂」を採用することは格別困難なこととはいえない。 (4-2)相違点(2)について ア まず,ヒートシール強さに関して検討する。 引用発明に係る樹脂フイルム袋は,上記「3.対比(2)一致点・相違点」で記載したように,手で使用することを前提としているものといえるが,このような手指による易破壊性に対応したシールの強度としては,従来から当業者に知られており,その値は上限が10?15N/15mm程度であって,概ね3?5N/15mm前後を中心とした強度に設定されていたものである。 <手指による易破壊性に対応するシール強度についての参考文献> 1.特開2002-225208号公報(【0003】など) 2.特開2006-96397号公報(【0028】など) 3.特開2003-96213号公報(【0015】及び【表1】など) 4.特開2006-62682号公報(【0030】など) 更に,包装体の一部分のみを手指による易剥離性とし,他の部分の強度を高める手法も当然のごとく従来から知られていたものであり,その場合の高強度部分のシール強度は下限が10?20N/15mm程度であったものである。 <一部シールを易破壊性とした場合の他の部分の強度に関する参考文献> 5.特開2004-168037号公報(【0005】,【0046】及び【表1】?【表2】など) 6.特開2005-170455号公報(【0046】及び【0048】など) 7.特開2003-72002号公報(【請求項2】など) イ また,そもそも,シール強度は,包装体の内容物やどのような用途に使用するかなどに応じて,当業者が適宜所望の範囲を選択していたものであり,引用発明のような,シール部分の一部分のみを手指による易破壊性とする場合の強度の程度も,また,易破壊性とする部分以外のシール強度に関しても大凡の強度範囲が技術常識として知られていたことは,上記したとおりであるから,これらの技術常識に基づいて,引用発明におけるシール強度に関し適宜検討した結果,具体的な数値範囲として,例えば,易破壊部については3?6N/15mm,易破壊部以外については,23?29N/15mmという,従来技術と比較して格別特異な数値とはいえない範囲を特定するに到ったとしても,このことが当業者にとって容易になし得なかったとすべきものとはいえない。 ウ 更に加えて,所望のシール強度とするためには,ヒートシールの際の温度・圧力・時間といった諸条件や,シール部の形状や幅などの,シール強度と相関することが知られている種々の要因を適宜調整して行われていたことは,当業者がよく知るところといえる。 すなわち,例えば,上記参考文献5の記載は,ヒートシールの際の温度によりシール強度の調整が行われることを前提とする技術であるし,また,例えば,以下の文献に示されるように,易破壊部のヒートシールの形状としてジグザグ状とすることは,本件出願日前において適宜行われていたことである。 <シール部をジグザグ状にすることに関する参考文献> 8.実願昭60-32937号(実開昭61-147755号)の明細書全文マイクロフイルム(第12?第13頁など) 9.特開2004-182264号公報(【0011】?【0012】) 10.特開2004-337449号公報(【0030】及び【0042】?【0043】など) そして,例えば,刊行物Aにも「圧力に弱い接合部(13)としては,…熱融着の面積が他に比べて少ないか,…など各種手段が応用できる。」(摘記(A-2))と記載されているように,シール部分の面積や幅に応じてシール強度が上下することも従来から知られていたことである。 エ このような技術常識に加えて,刊行物Aには,選択的に剥がれるシール部分を有する袋体の一製造例として,次のような記載もなされている。 「薬剤(14)として市販の自動車用半練ワックス50gをポリエチレン製50μのフイルムを用い背張り接合部(13)の加工温度を100℃,片端ヒートシール部(12)の加工温度を120℃としてシール部5mm巾で袋状に製袋した13cm×17cmのものに封入し,封入口を120℃,5mm巾でヒートシールし,樹脂フイルム袋(11)を作成した。」(摘記(A-4)) すなわち,引用発明における選択的に剥がれる部分(13)は「加工温度100℃で5mm巾」でシールされ,その他の部分(12)は「加工温度を120℃で5mm巾」でシールされることが一例として示されているものである。 オ そうすると,このような一具体例をも参考にしつつ,上記した技術常識に基づいて,引用発明における選択的に剥がれるシール部(12)と,その他のシール部(13)のヒートシール条件として,シール時の圧力やシール時間など共に温度について適宜調整して,例えば,前者のシール温度を120?130℃とし,後者については140℃とすることは,当業者が容易になし得ることであり,その際に,選択的に剥がれる弱いシール部分のシール巾を,より狭い例えば3mmに設定することも,また形状をより破壊されやすいジグザグ状とすることも,何れも当業者が容易になし得るとすべきものである。 カ なお,シール温度については,上記したように,シール圧力や時間などと共に,所望のシール強度に対応するようにヒートシール時の各種条件が適宜調整されるものであるから,(例えば,熱分解を論ずる場合ならばともかく,そのようなことが論点となっていない本願発明や刊行物Aに記載の場合には)シール温度のみを取り上げて比較しその異同を論ずることは,必ずしも技術的に妥当性のあることではない。そして,本願発明に関していえば,上記したように,所望のシール強度については当業者が適宜設定し得る範囲のものである上,シール温度についてもその値及びその差並びに相対的な高低に関して,刊行物Aにおいて例示されている一具体例と比較して,当業者にとって格別大きな差異があると評価するものとはいえないから,このようなシール温度の差異をもって本願発明が引用発明から容易にはなし得なかったとすることができない。 (4-3)効果について 以上のように,相違点1に加えて,相違点2に関して本願発明で特定された事項は,何れも個別には当業者にとって容易になし得るといえるのみならず,本願明細書の記載を見ても,これらの特定事項によって格別顕著な効果が奏されたとか,或いは,これら複数の特定事項の組み合わせによって個々の特定事項からは予測し得ない効果が奏されたといったものとも解し得ないものである。 したがって,本願発明は,刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 5.むすび 以上のとおり,本願発明は,刊行物Aに記載の発明及び周知事項に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。 よって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,上記結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-09-30 |
結審通知日 | 2014-10-07 |
審決日 | 2014-10-20 |
出願番号 | 特願2006-190644(P2006-190644) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61K)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 川島 明子 |
特許庁審判長 |
星野 紹英 |
特許庁審判官 |
加賀 直人 松浦 新司 |
発明の名称 | 易破壊性カプセル及びその製品 |
代理人 | 児玉 喜博 |
代理人 | 佐藤 荘助 |
代理人 | 長谷部 善太郎 |
代理人 | 山田 泰之 |
代理人 | 児玉 喜博 |
代理人 | 山田 泰之 |
代理人 | 長谷部 善太郎 |
代理人 | 佐藤 荘助 |