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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1294738
審判番号 不服2013-17928  
総通号数 181 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-09-17 
確定日 2014-12-03 
事件の表示 特願2010-545154「ハロゲンフリー難燃性熱可塑性配合物」拒絶査定不服審判事件〔平成21年8月6日国際公開、WO2009/097410、平成23年4月21日国内公表、特表2011-512427〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年1月29日(パリ条約による優先権主張 2008年1月30日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願であって、平成24年9月14日付けで拒絶理由が通知され、平成25年3月22日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、同年5月8日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、同年9月17日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたが、同年11月14日付けで前置報告がなされ、当審において同年11月25日付けで審尋がなされ、平成26年5月26日に回答書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?6に係る発明は、平成25年9月17日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲及び明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「(a)プロピレンポリマーが、10から20重量%の間の量で存在し、
(b)熱可塑性のプロピレン/エチレンコポリマーエラストマーが、15から35重量%の間の量で存在し、
(c)極性モノマーをグラフトしたポリオレフィンエラストマー相溶化剤が、2.5から7.5重量%の間で存在し、および
(d)金属水酸化物フィラーが、45重量%を超える量で存在する、
ハロゲンフリー難燃性組成物。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の理由とされた、平成24年9月14日付け拒絶理由通知書に記載した理由1及び2は以下の理由を含むものである。
「理由1 この出願の請求項1?4、6、7に係る発明は,その出願前に日本国内において、頒布された下記の刊行物3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
理由2 この出願の請求項1?4、6、7に係る発明は、その出願前に日本国内において、頒布された下記の刊行物3に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
刊行物3 特開2002-167480号公報」

なお、平成25年5月8日付け拒絶査定の備考には、「引用文献:1、2」と記載しているが、これは、「引用文献:2、3」の明らかな誤記である。

第4 当審の判断
1.刊行物及び刊行物の記載事項
(1)刊行物
特開2002-167480号公報(上記刊行物3に同じ、以下、単に「引用文献」という。)
(2)刊行物(引用文献)の記載事項
ア 「【請求項1】 (a)プロピレンポリマー50?80重量部、(b)130℃以上の融点および90以下のショアA硬度を有する熱可塑性樹脂10?40重量部および(c)0.1?10重量%の酸無水物により変性されたポリオレフィン1?20重量部(ただし、ポリマー(a)、(b)および(c)の合計は100重量部)、並びに(d)金属水酸化物30?200重量部を含んでなるオレフィン系樹脂組成物。
・・・
【請求項3】 熱可塑性樹脂は、オレフィン-ゴム共重合体熱可塑性エラストマーである請求項1に記載のオレフィン系樹脂組成物。
・・・」(特許請求の範囲)

イ 「【発明の属する技術分野】本発明は、オレフィン系樹脂組成物および被覆電線に関し、更に詳しくは、自動車用電線の被覆材料に要求される耐磨耗性、難燃性、引張特性、柔軟性などの特性を満足する、ハロゲンフリーオレフィン系樹脂組成物および該組成物により絶縁被覆された電線に関する。」(【0001】)

ウ 「【発明が解決しようとする課題】本発明は、自動車用電線の被覆材料に要求される耐磨耗性、難燃性、引張特性、柔軟性、耐熱性、耐寒性などの特性をバランスよく満足する、ハロゲンフリーオレフィン系樹脂組成物を提供しようとするものである。」(【0004】)

エ 「本発明の組成物に含まれるプロピレンポリマー(a)とは、プロピレンホモポリマー、プロピレン-エチレンブロックまたはランダムコポリマーである。・・・
プロピレンポリマー(a)の割合が上記上限を越えると、組成物の柔軟性が損なわれ、加工が困難になり、一方、プロピレンポリマー(a)の割合が上記下限より少なくなると、組成物の耐磨耗性が低下する。」(【0006】)

オ 「熱可塑性樹脂(b)としては、プロピレンとプロピレン-エチレンゴムとの共重合体が好ましく、株式会社トクヤマから発売されているPER R410E、PER T310Jなどが好ましく例示できる。
・・・
ポリマー(a)、(b)および(c)の合計量(100重量部)中の熱可塑性樹脂(b)の量は、通常10?40重量部、好ましくは20?30重量部である。
熱可塑性樹脂の割合が上記上限を越えると、組成物の耐磨耗性が低下し、一方、熱可塑性樹脂の割合が上記下限より少なくなると、組成物は硬くなり、加工性が低下する。」(【0007】?【0009】)

カ 「酸無水物変性ポリオレフィン(c)は、0.1?10重量%のカルボン酸無水物(例えば、無水マレイン酸など)により変性されたポリオレフィン、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン-アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-ブテン共重合体などである。
組成物中のポリマー(a)、(b)および(c)の合計量(100重量部)に含まれる酸無水物変性ポリオレフィン(c)の量は、通常1?20重量部、好ましくは2?10重量部である。
酸無水物変性ポリオレフィン(c)の割合が上記上限を越えると、金属水酸化物と強固に反応して、組成物の引張伸びが低下し、また組成物の柔軟性も損なわれる。一方、酸無水物変性ポリオレフィン(c)の割合が上記下限より少なくなると、樹脂組成物の耐磨耗性が向上しない。」(【0010】?【0011】)

キ 「金属水酸化物(d)としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどが例示できる。金属水酸化物の粒子は、通常カップリング剤、特にシランカップリング剤(例えば、アミノシランカップリング剤、ビニルシランカップリング剤、エポキシシランカップリング剤など)、高級脂肪酸(例えば、ステアリン酸、オレイン酸など)等の表面処理剤により表面処理されているのが好ましい。中でも、シランカップリング剤、特にアミノシランカップリング剤により表面処理された水酸化マグネシウムが特に好ましい。
組成物中のポリマー(a)、(b)および(c)の合計量(100重量部)に対する金属水酸化物の割合は、通常30?200重量部、好ましくは50?150重量部、より好ましくは70?90重量部である。
金属水酸化物の割合が大きすぎると、組成物の伸びが劣化し、耐磨耗性、柔軟性、加工性も損なわれる。一方、金属水酸化物の割合が小さすぎると、組成物の難燃性が悪くなる。」(【0012】?【0013】)

2.引用文献に記載された発明
引用文献には、摘示アから、熱可塑性樹脂等を含むオレフィン系樹脂組成物が記載され、そして、かかる熱可塑性樹脂としてオレフィン-ゴム共重合体熱可塑性エラストマーが記載され、さらに、摘示イ及びウから、かかるオレフィン系樹脂組成物はハロゲンフリーであることは明らかであることからして、以下の発明が記載されているといえる。
「(a)プロピレンポリマー50?80重量部、(b)130℃以上の融点および90以下のショアA硬度を有するオレフィン-ゴム共重合体熱可塑性エラストマー10?40重量部および(c)0.1?10重量%の酸無水物により変性されたポリオレフィン1?20重量部(ただし、ポリマー(a)、(b)および(c)の合計は100重量部)、並びに(d)金属水酸化物30?200重量部を含んでなるハロゲンフリーオレフィン系樹脂組成物。」(以下、「引用発明」という。)

3.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「(b)130℃以上の融点および90以下のショアA硬度を有するオレフィン-ゴム共重合体熱可塑性エラストマー」は、摘示オの記載から、プロピレンとプロピレン-エチレンゴムとの共重合体を含み、そして、該共重合体は、プロピレンとエチレンの共重合体であることは明らかであるから、本願発明の「熱可塑性のプロピレン/エチレンコポリマーエラストマー」に相当する。
引用発明の「(c)0.1?10重量%の酸無水物により変性されたポリオレフィン」は、摘示カより、無水マレイン酸で変性されたエチレン-プロピレンゴムが例示され、無水マレイン酸は極性モノマーであって、変性はグラフト化を含み、さらに、エチレン-プロピレンゴムはエラストマー性を有することは明らかであるから、本願発明の「極性モノマーをグラフトしたポリオレフィンエラストマー」に相当する。そして、引用発明の変性されたポリオレフィンは、極性モノマーで変性されているのであるから、当然に相溶化剤としての性質を有するものである。
引用発明の「金属水酸化物」は、樹脂組成物に配合するのであるから、当然にフィラーであり、本願発明の「金属水酸化物フィラー」に相当する。
そうすると、両者は、
「(a)プロピレンポリマー、
(b)熱可塑性のプロピレン/エチレンコポリマーエラストマー、
(c)極性モノマーをグラフトしたポリオレフィンエラストマー相溶化剤、および
(d)金属水酸化物フィラーが存在する、
ハロゲンフリー難燃性組成物。」である点で一致し、以下の相違点で一応相違するものである。

<相違点1>
上記(a)?(d)の各成分の量について、本願発明では、(a)は10から20重量%の間、(b)は15から35重量%の間、(c)は2.5から7.5重量%の間、(d)は45重量%を超える、と特定するのに対して、引用発明では、(a)は50?80重量部、(b)は10?40重量部、(c)は1?20重量部(ただし、ポリマー(a)、(b)および(c)の合計は100重量部)、(d)は30?200重量部と特定する点。

4.相違点1に対する判断
引用発明の(a)?(d)の各成分の表記は、(a)?(c)の合計が100重量部で、それに(d)の重量部を加えたものが全体量になることから、引用発明の各成分量を本願発明と同様に全体量との関係で表記すると、以下のとおりとなる(小数点2位以下を四捨五入した)。
<引用発明の配分量>
(a)16.7?61.5重量%
(b)3.3?30.8重量%
(c)0.3?15.4重量%
(d)23.1?66.7重量%

一方、本願発明の配分量は整理して記載すると以下のとおりである。
<本願発明の配分量>
(a)10?20重量%
(b)15?35重量%
(c)2.5?7.5重量%
(d)45重量%を超える

してみると、本願発明と引用発明とでは(a)?(d)の各成分の量は重複一致しており、また、引用発明において、(a)?(d)の各成分を、例えば各成分の特定された範囲内の数値である(a)50重量部、(b)40重量部、(c)10重量部、(d)160重量部とする場合に、(a)?(d)の各成分の重量%を計算すると、(a)19.2重量%、(b)15.4重量%、(c)3.8重量%、(d)61.5重量%となり、いずれの値も、本願発明の配分量を満足している。
してみれば、上記相違点1は、実質的な相違点とはいえない。
また、仮にそうでないとしても、摘示エ?キの記載から、引用発明の(a)?(d)の各成分の配合量は、組成物の柔軟性、耐摩耗性などの物理的性質や、加工性及び難燃性に影響を与えるのであるから、当該配合量は、この技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が、必要とされる組成物の物理的性質等を考慮して、適宜決定しうるものである。
また、本願発明において上記の配合量を特定したことにより、格別予期しがたい効果が奏されているとも認められない。
したがって、本願発明は、引用発明と同一であるか、または引用発明に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用文献に記載された発明である、もしくは、引用文献に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、または、同法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明についての原査定の理由とされた、平成24年9月14日付け拒絶理由通知書に記載した理由1及び2は妥当なものである。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願はこの理由により拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-07-01 
結審通知日 2014-07-08 
審決日 2014-07-22 
出願番号 特願2010-545154(P2010-545154)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C08L)
P 1 8・ 121- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 阪野 誠司牧野 晃久  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 大島 祥吾
田口 昌浩
発明の名称 ハロゲンフリー難燃性熱可塑性配合物  
代理人 潮 太朗  
代理人 小林 浩  
代理人 鈴木 康仁  
代理人 大森 規雄  

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