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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02K
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H02K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H02K
管理番号 1295208
審判番号 不服2014-1675  
総通号数 182 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-01-30 
確定日 2014-12-18 
事件の表示 特願2009-148257「アキシャル型モータ」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 1月13日出願公開、特開2011- 10375〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成21年6月23日を出願日とする出願であって、平成25年4月9日付で拒絶の理由が通知され(発送日:平成25年4月16日)、これに対し、平成25年6月13日付で意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年10月31日付で拒絶査定がなされ(発送日:平成25年11月5日)、これに対し、平成26年1月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正書が提出されたものである。


2.平成26年1月30日付の手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成26年1月30日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由I]
(1)補正の内容
本件補正前の特許請求の範囲は、以下のとおりである。
「【請求項1】
回転軸の周りに、回転方向に沿って配置された、前記回転軸に対して平行な方向に磁極の方向を有する複数の永久磁石を備えた回転子と、
前記回転子に配置された前記永久磁石と、前記回転軸に平行な方向に対向する磁極を形成するコイルを有する一対の固定子とを備え、
互いに隣接する前記永久磁石の磁極の向きは逆であり、
前記各永久磁石は前記固定子側を第1磁性体で覆われ、かつ互いに隣接する永久磁石間および互いに隣接する前記第1磁性体間には第2磁性体が設置され、
前記第2磁性体と、前記第2磁性体に隣接する前記永久磁石との間には非磁性体が充填されて磁気的な第1ギャップを形成し、
前記第2磁性体と、前記第2磁性体に隣接する前記第1磁性体との間には非磁性体が充填されて磁気的な第2ギャップを形成している、アキシャル型モータ。
【請求項2】
前記第1磁性体は、圧粉磁心材料で構成されている、請求項1に記載のアキシャル型モータ。
【請求項3】
前記第2磁性体は、圧粉磁心材料で構成されている、請求項1または請求項2に記載のアキシャル型モータ。
【請求項4】
前記第1ギャップおよび前記第2ギャップのギャップ長は、前記固定子と前記回転子との間に形成された第3ギャップのギャップ長よりも大きい、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のアキシャル型モータ。
【請求項5】
前記回転子は、前記第1磁性体および前記第2磁性体を保持する、非磁性である保持部材を備えている、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のアキシャル型モータ。
【請求項6】
前記回転子が回転した際に、前記回転子の回転方向に対して交差する前記コイルの輪郭線と、前記第2ギャップの中心線とは、非平行状態を保ちながら接離する、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のアキシャル型モータ。
【請求項7】
前記第2ギャップにおいて、前記回転子の回転方向の間隔は略均一であって、前記第2ギャップは略直線状である、請求項6に記載のアキシャル型モータ。」

これに対し、本件補正により、特許請求の範囲は、以下のように補正された。
「【請求項1】
回転軸の周りに回転方向に沿って配置された、前記回転軸に対して平行な方向に磁極の方向を有する複数の永久磁石を備えた回転子と、
前記回転子に配置された前記永久磁石と、前記回転軸に平行な方向で対向する磁極を形成するコイルを有する一対の固定子とを備え、
互いに隣接する前記永久磁石の磁極の向きは、逆であり、
前記各永久磁石は、前記各固定子側を第1磁性体で覆われ、かつ互いに隣接する永久磁石間および互いに隣接する前記第1磁性体間には第2磁性体が設置され、
前記第2磁性体と、前記第2磁性体に隣接する前記永久磁石との間には非磁性体が充填されて磁気的な第1ギャップを形成し、
前記第2磁性体と、前記第2磁性体に隣接する前記第1磁性体との間には非磁性体が充填されて磁気的な第2ギャップを形成し、
前記互いに隣接する前記永久磁石間には、第4ギャップが形成されている、アキシャル型モータ。
【請求項2】
前記第1磁性体は、圧粉磁心材料で構成されている、請求項1に記載のアキシャル型モータ。
【請求項3】
前記第2磁性体は、圧粉磁心材料で構成されている、請求項1または請求項2に記載のアキシャル型モータ。
【請求項4】
前記第1ギャップおよび前記第2ギャップのギャップ長は、前記固定子と前記回転子との間に形成された第3ギャップのギャップ長よりも大きい、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のアキシャル型モータ。
【請求項5】
前記回転子は、前記第1磁性体および前記第2磁性体を保持する、非磁性である保持部材を備えている、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のアキシャル型モータ。
【請求項6】
前記回転子が回転した際に、前記回転子の回転方向に対して交差する前記コイルの輪郭線と、前記第2ギャップの中心線とは、非平行状態を保ちながら接離する、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のアキシャル型モータ。
【請求項7】
前記第2ギャップにおいて、前記回転子の回転方向の間隔は、略均一であって、前記第2ギャップは、略直線状である、請求項6に記載のアキシャル型モータ。」


(2-1)新規事項について
本件補正後の請求項1には、「前記互いに隣接する前記永久磁石間には、第4ギャップが形成されている」と記載されているから、本件補正後の請求項1に記載されたアキシャル型モータは、互いに隣接する永久磁石の一方は、径方向のいずれかの一部で、周方向に第4ギャップを介して前記永久磁石の他方に隣接することとなる。
そこで、当該補正が、願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものか否か検討する。

当初明細書等には、
A「なお、隣接する永久磁石23間においても、ギャップ27が形成されている。なお、ギャップ26、27についても、ギャップ24と同様に、磁気的なギャップをいい、単に物理的空間である間隙であってもよいし、その間隙に非磁性体が充填されていてもよい。」(【0033】)

B「上述のように、本実施の形態に係るアキシャル型モータ100において、ギャップ24、26、27が形成されているが、このように、ギャップ24、26、27が形成されることによって、永久磁石23からの磁束を、永久磁石23の法線方向から広がるように流出することを抑制することができる。したがって、永久磁石23からの磁束を、永久磁石23の法線方向、すなわち回転軸3に対して平行である方向に多く流出させることができる。それにより、ギャップ24、26、27が形成されていない場合に比べて、コイル12と永久磁石23との間に生じる磁気的な吸引力および反発力を増大させることができるため、アキシャル型モータ100の磁石トルクを大きくすることができる。かりに、ギャップ24、26、27が存在しない場合は、永久磁石23からの磁束は、隣接(近接)する永久磁石23あるいは第2磁性体22等へと流れる成分が増加し、永久磁石23の法線方向へと流れる成分が減少するため、アキシャル型モータ100の磁石トルクは低くなる。」(【0039】)

C「【図4】(B)において、回転子の径方向内周側であって第1ギャップに相当するギャップ26よりも内周側で、互いに隣接する永久磁石間に、第4ギャップに相当するギャップ27が形成されている。」

が示されているにすぎず、互いに隣接する永久磁石の一方は、径方向のいずれかの一部で、周方向に第4ギャップを介して前記永久磁石の他方に隣接すること、即ち、第4ギャップは径方向の内周側に限らず、径方向であれば、外周側等何れの位置でも良いことは、図面を参照しても記載も示唆もない。

したがって、第4ギャップを径方向外周側に設けることを含む、「前記互いに隣接する前記永久磁石間には、第4ギャップが形成されている」ことは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。


(2-2)目的要件について
本件補正が、特許法第17条の2第5項の各号に掲げる事項を目的とするものに該当するかについて検討する。
特許法第17条の2第5項2号の「特許請求の範囲の減縮」は、第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限られ、補正前の請求項と補正後の請求項との対応関係が明白であって、かつ、補正後の請求項が補正前の請求項を限定した関係になっていることが明確であることが要請され、補正前の請求項と補正後の請求項とは、一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものでなければならない。

本件補正前後で請求項数は共に7であり、本件補正前後で独立項は共に請求項1のみであり、本件補正前の請求項2-7の記載は、本件補正後の請求項2-7の記載と同じであるから、本件補正前の請求項1は本件補正後の請求項1に一応対応するものとして検討する。

互いに隣接する永久磁石間に関し、本件補正前の請求項1は「互いに隣接する永久磁石間および互いに隣接する前記第1磁性体間には第2磁性体が設置され」、「前記第2磁性体と、前記第2磁性体に隣接する前記永久磁石との間には非磁性体が充填されて磁気的な第1ギャップを形成」されており、互いに隣接する永久磁石間には、第2磁性体と第1ギャップしか存在しなかったものが、本件補正後の請求項1には、更に、「前記互いに隣接する前記永久磁石間には、第4ギャップが形成されている」。本件補正前の請求項1の「第2磁性体」、「第1ギャップ」を限定しても、「第4ギャップ」とはならず、又、第4ギャップを設けることで、互いに隣接する永久磁石間で流れる磁束が減少し、永久磁石の法線方向に流れる磁束が増加して、磁石トルクを大きくするという新たな効果を奏しているから、特許法第17条の2第5項2号の「特許請求の範囲の減縮」に該当しない。

したがって、本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正とは認められない。
また、本件補正が、請求項の削除、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的としたものでないことも明らかである。


(3)むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、また特許法第17条の2第5項第2号の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


[理由II]
上記のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、また、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しないが、仮に本件補正が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとして、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第2006/077812号(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

1-a「この発明は電動機、特に固定子と回転子との間のギャップが回転軸に垂直な平面に沿って設けられる、アキシャルギャップ型の電動機に関する。」([0001])

1-b「回転子1Aは磁石12a,12b、磁性体13a,13b及びこれらを載置する基板11を有している。即ち回転子1Aは極対数1(極数2)の回転子として採用できる。基板11にはその中央に軸孔10も設けられている。
複数の磁石12a,12bは、軸孔10の周囲で極性を対称にして環状に配置され、その磁極面は回転軸方向(これは軸孔10に貫挿される回転軸の延在方向となり、紙面垂直方向と平行である)に対して垂直である。磁石12aは、回転軸の一方側(紙面手前側)に第1の極性を呈する磁極面を有し、磁石12bは、回転軸の一方側に第2の極性を呈する磁極面を有する。ここでは例えば磁石12a,12bは、それぞれ固定子側(紙面手前側)にN極、S極を呈しているものとする。磁石12a,12bは例えば、希土類焼結磁石で形成される。
複数の磁性体13a,13bは回転軸方向に垂直に、より具体的には磁石12a,12bの間において延在して配置される。磁性体13a,13bは例えば鉄、圧粉鉄心などの高透磁率材料で形成される。但し鉄損を低減する観点からは圧粉鉄心を採用することが望ましい。」([0156]-[0158])

1-c「このような構造において、磁石12a,12bを回避して磁性体13a,13bを経由する磁路はq軸方向の磁路となり、磁石12a,12bを経由する磁路はd軸方向の磁路となる。そしてこれらの磁路は電気角としてみれば直交している。よって本実施の形態では磁性体13a,13bによって第1種磁路が実現されている。従ってq軸インダクタンスを増大することができ、逆突極性を高めることができる。しかも、軸方向への小型化も容易である。」([0160])

1-d「本実施の形態において、磁石12a,12b、磁性体13a,13bの間には、磁束の流れを阻害する磁気障壁として機能するギャップG1が設けられることが望ましい。磁石12a,12bの磁極面の間で、磁性体13a,13bが介在して磁束が流れることを抑制するためである。これにより固定子と回転子との間に流れる磁束に対しては磁束漏れとして把握される、回転子内部での磁束の短絡漏れを少なくする。これにより回転子の磁極面から発生する磁束を、これらの磁極面に対向する固定子へと、効率よく供給することができる。」([0162])

1-e「図12は本発明の第3の実施の形態にかかる回転子1Cの構造を例示する図であり、固定子(図示せず)と共にモータを構成する場合の固定子側から見た平面図である。図13及び図14はそれぞれ位置XIII-XIII及び位置XIV-XIVにおける断面矢視図である。回転子1Cは、第1の実施の形態で示された回転子1A(図1?図3)に対して、磁石12a,12bの磁極面に、磁気的に独立して設けられた磁性体14a,14bを個別に載置して覆った構造を有している。ここでは磁性体14a,14bを磁石12a,12bと同型として場合を例示している。図12は固定子側から見た平面図であるので、磁石12a,12bが磁性体14a,14bに隠れてしまっていることを、それぞれ符号14a(12a),14b(12b)として表している。回転子1Cの磁極面は磁性体14a,14bの固定子側の表面となる。」([0191])

1-f「ここでは磁性体13aの厚さと、磁性体13bの厚さと、磁性体14aの厚さと磁石12aの厚さの和と、磁性体14bの厚さと磁石12bの厚さの和とが互いに等しく選定されている。このように磁性体14a,14bが回転子1Cにおいて固定子側に設けられていることから、電動機の軸方向の寸法を低減しにくいという不利益はあるが、以下のように、コギングトルクを低減するための工夫やスキューを得る工夫が容易となる。」([0195])

1-g「もちろん、渦電流が発生し易い位置にある磁性体14a,14bには、鉄損の小さい材料、例えば鉄を用いることで渦電流損失が低減できる。」([0197])

1-h「そして磁性体54a,54bは磁性体14a,14bと同様に、磁石12a,12b内部での渦電流の発生を抑制する。もちろん、渦電流が発生し易い位置にある磁性板541には、鉄損の小さい材料、例えば圧粉鉄心や適当な方向に積層された電磁鋼板などを用いることで渦電流損失が低減できる。」([0208])

1-i「図38は本実施の形態にかかる他の回転子1Hの構造を例示する斜視図である。回転子1Hは、第1の実施の形態で示された回転子1A(図1?図4)から、基板11を省略した構成を有している。磁石12a,12bはその両面に磁極を有しているので、回転子1Hについても、その両側に固定子を設けることで、トルクを発生する機構が両側に形成される。
図38に示された構造は、回転子1Aについて説明したように、磁石12a,12b及び磁性体13a,13bの相互間にギャップ(図1でギャップG1として描画)があることが望ましい。よって回転子1Hを形成するに際しては、当該ギャップに非磁性の充填材を採用し、この充填材を介して磁石12a,12b及び磁性体13a,13bの相互間を接着することが好ましい。
図39は回転子1Hの他の好ましい態様を示す斜視図である。回転子4では図38に示された磁石12a,12b及び磁性体13a,13bがこの位置関係を保って、樹脂などでモールドされている。回転子4は中央に円筒40を有しており、ここに回転軸(図示せず)が貫挿される。円筒40は図1で図示されたギャップG2に相当しており、回転軸が磁性体である場合にも、磁石12a,12b及び磁性体13a,13bが磁気的に短絡することを防いでいる。」([0308]-[0310])

1-j「図40は、回転子1Hと、これを両側から挟む固定子3A,3Bとを有するモータの構造を例示する斜視図であり、その厚さ方向に分解して示している。実際には回転子1Hは例えば回転子4のようにモールドされ、固定子3A,3Bのそれぞれは積層され、かつ回転子1Hと固定子3A,3Bとの間に電機子間距離を空けて保持される。
固定子3A,3Bとしては、第8の実施の形態で説明された固定子3(図34?図36)を採用することができる。即ち固定子3Aは、磁性体30に対応して磁性体30Aを、巻線33a,33bに対応して巻線33Aを、巻線34a,34bに対応して巻線34Aを、巻線35a,35bに対応して巻線35Aを、それぞれ有している。同様にして固定子3Bは、磁性体30に対応して磁性体30Bを、巻線33a,33bに対応して巻線33Bを、巻線34a,34bに対応して巻線34Bを、巻線35a,35bに対応して巻線35Bを、それぞれ有している。」([0312]-[0313])

1-k「回転子1Jは、第3の実施の形態で示された回転子1C(図12?図14)から、基板11を省略し、磁性体14g,14hを追加した構成を有している。磁性体14g,14hは、磁石12a,12bを介してそれぞれ磁性体14a,14bと対向している。回転子1Jについても回転子4と同様、その構成を樹脂などでモールドすることが望ましい。
例えば磁性体14a,14gと磁石12aの厚さの総和と、磁性体14b,14hと磁石12bの厚さの総和と、磁性体13aの厚さと、磁性体13bの厚さが相互に等しく設定される。
磁石12a,12bはその両面に磁極を有しているので、回転子1Jについても、その両側に固定子を設けることで、トルクを発生する機構が両側に形成される。」([0322]-[0324])

上記記載事項及び図面(特に図38、図40、図42)を参照すると、永久磁石12a,12bは2つの永久磁石であり、2つの永久磁石が両面に磁極を有するアキシャルギャップ型電動機であるから、2つの永久磁石は回転軸に対して平行な方向に磁極の方向を有している。
上記記載事項及び図面(特に図40)を参照すると、固定子3A,3Bは一対の固定子であり、一対の固定子を有するアキシャルギャップ型電動機であるから、一対の固定子は回転軸に平行な方向で永久磁石と対向する磁極を形成する巻線を備えている。
上記記載事項及び図面を参照すると、2つの永久磁石は互いに隣接している。
上記記載事項及び図面(特に図42)を参照すると、磁性体14a,14b間及び磁性体14g,14h間には磁性体13a,13bが配置され、磁性体14a,14bは互いに隣接し、磁性体14g,14hは互いに隣接している。
上記記載事項及び図面(特に図38、図42)を参照すると、磁石12a,12b及び磁性体13a,13bの相互間、磁性体14a,14b及び磁性体13a,13bの相互間、磁性体14g,14h及び磁性体13a,13bの相互間にギャップが存在し、当該ギャップに非磁性の充填材が充填されている。

上記記載事項からみて、引用例1には、
「軸孔の周囲で環状に配置された、回転軸に対して平行な方向に磁極の方向を有する2つの永久磁石を備えた回転子と、
前記回転子に配置された前記永久磁石と、前記回転軸に平行な方向で対向する磁極を形成する巻線を有する一対の固定子とを備え、
互いに隣接する前記永久磁石は、それぞれ固定子側にN極、S極を呈しており、
前記2つの永久磁石は、前記一対の固定子側を磁性体14a,14b及び磁性体14g,14hで覆われ、かつ互いに隣接する永久磁石間および互いに隣接する磁性体14a,14b間および互いに隣接する磁性体14g,14h間には磁性体13a,13bが配置され、
磁石12a,12b及び磁性体13a,13bの相互間、磁性体14a,14b及び磁性体13a,13bの相互間、磁性体14g,14h及び磁性体13a,13bの相互間には非磁性の充填材が充填されてギャップを形成している、アキシャルギャップ型電動機。」
との発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。


(2)対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「軸孔の周囲で環状に配置」、「2つ」、「巻線」、「磁性体14a,14b及び磁性体14g,14h」、「磁性体13a,13b」、「アキシャルギャップ型電動機」は、それぞれ本願補正発明の「回転軸の周りに回転方向に沿って配置」、「複数」、「コイル」、「第1磁性体」、「第2磁性体」、「アキシャル型モータ」に相当する。

引用発明の「互いに隣接する前記永久磁石は、それぞれ固定子側にN極、S極を呈しており」は、本願補正発明の「互いに隣接する前記永久磁石の磁極の向きは、逆であり」に相当する。
引用発明の「前記2つの永久磁石は、前記一対の固定子側を磁性体14a,14b及び磁性体14g,14hで覆われ、かつ互いに隣接する永久磁石間および互いに隣接する磁性体14a,14b間および互いに隣接する磁性体14g,14h間には磁性体13a,13bが配置され」は、本願補正発明の「前記各永久磁石は、前記各固定子側を第1磁性体で覆われ、かつ互いに隣接する永久磁石間および互いに隣接する前記第1磁性体間には第2磁性体が設置され」に相当する。
引用発明の「磁石12a,12b及び磁性体13a,13bの相互間」の「ギャップ」は、本願補正発明の「第1ギャップ」に相当し、引用発明の「磁性体14a,14b及び磁性体13a,13bの相互間」及び「磁性体14g,14h及び磁性体13a,13bの相互間」の「ギャップ」は、本願補正発明の「第2ギャップ」に相当するから、引用発明の「磁石12a,12b及び磁性体13a,13bの相互間、磁性体14a,14b及び磁性体13a,13bの相互間、磁性体14g,14h及び磁性体13a,13bの相互間には非磁性の充填材が充填されてギャップを形成」は、本願補正発明の「前記第2磁性体と、前記第2磁性体に隣接する前記永久磁石との間には非磁性体が充填されて磁気的な第1ギャップを形成し、前記第2磁性体と、前記第2磁性体に隣接する前記第1磁性体との間には非磁性体が充填されて磁気的な第2ギャップを形成」に相当する。

したがって、両者は、
「回転軸の周りに回転方向に沿って配置された、前記回転軸に対して平行な方向に磁極の方向を有する複数の永久磁石を備えた回転子と、
前記回転子に配置された前記永久磁石と、前記回転軸に平行な方向で対向する磁極を形成するコイルを有する一対の固定子とを備え、
互いに隣接する前記永久磁石の磁極の向きは、逆であり、
前記各永久磁石は、前記各固定子側を第1磁性体で覆われ、かつ互いに隣接する永久磁石間および互いに隣接する前記第1磁性体間には第2磁性体が設置され、
前記第2磁性体と、前記第2磁性体に隣接する前記永久磁石との間には非磁性体が充填されて磁気的な第1ギャップを形成し、
前記第2磁性体と、前記第2磁性体に隣接する前記第1磁性体との間には非磁性体が充填されて磁気的な第2ギャップを形成している、アキシャル型モータ。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点〕
本願補正発明は、互いに隣接する永久磁石間には、第4ギャップが形成されているのに対し、引用発明は、この様な構成を有していない点。


(3)判断
アキシャル型モータにおいて、互いに隣接する永久磁石間に第2磁性体が設置される回転子に、互いに隣接する永久磁石間に第4ギャップを形成することは周知の事項(例えば、特開2008-236833号公報【図2】【図4】参照)であり、また、アキシャル型モータにおいて、各永久磁石が各固定子側を第1磁性体で覆われ、かつ互いに隣接する永久磁石間および互いに隣接する第1磁性体間に第2磁性体が設置され、前記第2磁性体と、前記第2磁性体に隣接する前記永久磁石との間には非磁性体が充填されて磁気的な第1ギャップを形成し、前記第2磁性体と、前記第2磁性体に隣接する前記第1磁性体との間に非磁性体が充填されて磁気的な第2ギャップを形成し、前記互いに隣接する前記永久磁石間に、第4ギャップが形成されていることは周知の事項(例えば、特開2008-236833号公報【0131】-【0136】、【図19】【図20】、特開2009-38897号公報【0077】-【0082】、【図11】参照)であり、磁石トルクが大きい方が好ましいことは周知の事項であるから、引用発明において、互いに隣接する永久磁石間に第4ギャップを形成することは、当業者が容易に考えられることと認められる。

そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願補正発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条の規定により却下されるべきものである。


3.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項2に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、「2.[理由I](1)」に記載した平成25年6月13日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定されるとおりのものであり、引用形式ではなく独立形式で記載すれば以下のとおりとなる。

「回転軸の周りに、回転方向に沿って配置された、前記回転軸に対して平行な方向に磁極の方向を有する複数の永久磁石を備えた回転子と、
前記回転子に配置された前記永久磁石と、前記回転軸に平行な方向に対向する磁極を形成するコイルを有する一対の固定子とを備え、
互いに隣接する前記永久磁石の磁極の向きは逆であり、
前記各永久磁石は前記固定子側を第1磁性体で覆われ、かつ互いに隣接する永久磁石間および互いに隣接する前記第1磁性体間には第2磁性体が設置され、
前記第2磁性体と、前記第2磁性体に隣接する前記永久磁石との間には非磁性体が充填されて磁気的な第1ギャップを形成し、
前記第2磁性体と、前記第2磁性体に隣接する前記第1磁性体との間には非磁性体が充填されて磁気的な第2ギャップを形成し、
前記第1磁性体は、圧粉磁心材料で構成されている、アキシャル型モータ。」


(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1及び、その記載事項は、上記「2.[理由II](1)」に記載したとおりである。

上記記載事項からみて、引用例1には、
「軸孔の周囲で環状に配置された、回転軸に対して平行な方向に磁極の方向を有する2つの永久磁石を備えた回転子と、
前記回転子に配置された前記永久磁石と、前記回転軸に平行な方向で対向する磁極を形成する巻線を有する一対の固定子とを備え、
互いに隣接する前記永久磁石は、それぞれ固定子側にN極、S極を呈しており、
前記2つの永久磁石は、前記一対の固定子側を磁性体14a,14b及び磁性体14g,14hで覆われ、かつ互いに隣接する永久磁石間および互いに隣接する磁性体14a,14b間及び磁性体14g,14h間には磁性体13a,13bが配置され、
磁石12a,12b及び磁性体13a,13bの相互間、磁性体14a,14b及び磁性体13a,13bの相互間、磁性体14g,14h及び磁性体13a,13bの相互間には非磁性の充填材が充填されてギャップを形成し、
前記磁性体14a,14b及び磁性体14g,14hは、鉄で構成されている、アキシャルギャップ型電動機。」
との発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。


(2)対比
本願発明は、本願補正発明から「前記互いに隣接する前記永久磁石間には、第4ギャップが形成されている」との限定が省かれ、「前記第1磁性体は、圧粉磁心材料で構成されている」との限定が新たに加わっている。

上記「2.[理由II](2)」に記載した事項に基づけば、本願発明と引用発明1は、
「回転軸の周りに回転方向に沿って配置された、前記回転軸に対して平行な方向に磁極の方向を有する複数の永久磁石を備えた回転子と、
前記回転子に配置された前記永久磁石と、前記回転軸に平行な方向で対向する磁極を形成するコイルを有する一対の固定子とを備え、
互いに隣接する前記永久磁石の磁極の向きは、逆であり、
前記各永久磁石は、前記各固定子側を第1磁性体で覆われ、かつ互いに隣接する永久磁石間および互いに隣接する前記第1磁性体間には第2磁性体が設置され、
前記第2磁性体と、前記第2磁性体に隣接する前記永久磁石との間には非磁性体が充填されて磁気的な第1ギャップを形成し、
前記第2磁性体と、前記第2磁性体に隣接する前記第1磁性体との間には非磁性体が充填されて磁気的な第2ギャップを形成している、アキシャル型モータ。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点〕
第1磁性体に関し、本願発明は、圧粉磁心材料で構成されているのに対し、引用発明1は、鉄で構成されている点。


(3)判断
上記1-b、1-hに記載されるように、渦電流を抑制するために圧粉磁心材料を用いることは周知の事項であるから、引用発明1においても、渦電流防止のため、第1磁性体を圧粉磁心材料で構成することは当業者が容易に考えられることと認められる。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明1から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願発明は、引用発明1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。


(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-10-15 
結審通知日 2014-10-21 
審決日 2014-11-05 
出願番号 特願2009-148257(P2009-148257)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02K)
P 1 8・ 575- Z (H02K)
P 1 8・ 561- Z (H02K)
P 1 8・ 572- Z (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三島木 英宏  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 堀川 一郎
矢島 伸一
発明の名称 アキシャル型モータ  
代理人 小谷 昌崇  
代理人 小谷 昌崇  
代理人 櫻井 智  
代理人 小谷 悦司  
代理人 小谷 悦司  
代理人 櫻井 智  

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