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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16H |
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管理番号 | 1295329 |
審判番号 | 不服2014-1862 |
総通号数 | 182 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-02-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-02-03 |
確定日 | 2014-12-19 |
事件の表示 | 特願2008-112940「ラックバー及びステアリング装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年11月12日出願公開、特開2009-264452〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯・本願発明 本願は、平成20年4月23日の出願であって、平成25年10月31日付けで拒絶査定がされ(発送日:同年11月5日)、これに対して、平成26年2月3日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、その審判の請求と同時に明細書及び特許請求の範囲に関する手続補正がされたものである。 そして、本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成26年2月3日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次のとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。なお、請求項1に関しては手続補正はされていない。 「【請求項1】 ピニオンギアに噛み合わされるラックバーにおいて、 軸部と、 この軸部に設けられ、前記ピニオンギアと噛み合う複数の歯部が軸方向に沿って並設されたラック歯形成部とを備え、 前記ラック歯形成部の歯部は、ピニオンギアの回転角と前記軸部の移動距離との比が、前記軸方向の両端側が中央部に対し大きく形成されるとともに、前記両端側からさらに両端に近づくにつれて漸次小さく形成されていることを特徴とするラックバー。」 第2 刊行物 これに対して、本願の出願日前に頒布された特開昭57-130863号公報(以下「刊行物」という。)には、「ラックピニオン型舵取装置」に関して、図面と共に、次の事項が記載されている(下線は当審で付したものである。また、刊行物中の大きい「ツ」、「つ」、「ユ」は一部、小さい「ッ」、「っ」、「ュ」に置き換えて表記している。以下同じ。)。 1 第1頁左下欄16行?右下欄3行 「ラックピニオン型の舵取装置は、自動車の左右前車輪(舵取り輪)間で横方向に沿って配設されたラックと、これに噛合するごとくハンドル軸先端に設けられたピニオンとからなる舵取歯車を有し、この舵取歯車の働きによりハンドル操作に伴う回転変位をラックの軸方向の直線変位として変換し、さらに舵取リンク機構を介して前記前車輪を所望の方向に旋回させる。」 2 第1頁右下欄8行?第2頁右上欄2行 「従来この種のラックピニオン型舵取装置において、マニュアルステアリング用として使用されるものでは、ハンドルを切込んだ場合における操舵力を軽減することを目的として、ピニオンとラックとの歯車比を、ハンドルの中立位置を基準として左、右方向への回転角に応じて順次連続的に増加させるようにした可変式の歯車比パターンが多く採用されている。・・(略)・・このような歯車比パターンを第1図(a)ないし(c)に例示している。 これを簡単に説明すると、同図(a)は中立位置付近(AA’領域)と左、右ロック域につながる深切込み域(BCおよびB’C’領域)との間の中間切込み域(ABおよびA’B’領域)にわずかな増加率を描く曲線を採用した直線と曲線との組合せ型、同図(b)は同じく中間切込み域(ABおよびA’B’領域)に単なる直線を採用した直線型、さらに同図(c)は全体を曲線で描いた曲線型をそれぞれ表わしている。なお、図中θpはピニオンの左、右方向への回転角、Grはピニオンとラックとの間の歯車比(但しラックストローク量をキングピンの回転角に換算してθpとの比を求めたもの)を示している。」 3 第3頁左上欄18行?左下欄19行 「第3図は本発明に係るラックピニオン型舵取装置において、マニュアルステアリング用として採用される可変式歯車比パターンの実施例を示すもので、同図(a)(b)は直線と曲線との組合せ型、同図(c)は曲線型をそれぞれ表わしている。 これらの図において、その特徴とすべき点は、ハンドルの中立位置付近から若干切込んだ位置まで歯車比が順次減少され、さらにハンドルが切込まれるとその回転角に応じて順次連続して増加し、深切込み域から左、右ロック域にかけては歯車比が中立位置よりも充分に大きく設定されていることである。・・(略)・・ また、上述した歯車比パターンは、第4図に示すように、ラック歯部のピッチを不均一に形成することにより簡単に具体化することが可能となる。すなわち、同図はOO’線をラック歯部の中立位置とするラック歯部右半分の概略図であって、各歯のピッチはP2>P1>P3>P4>P5>P6>P7>P8と設定されている。そして、このラック歯部にピニオンの歯部を噛合させることによって、第3図(a)(b)(c)に例示してなる歯車比パターンを達成できる。 この場合、ピッチが最も大きい部分(P2部)で歯車比が小さく、最も小さい部分(P8部)で歯車比が大きい。」 4 第3頁右下欄6行?第4頁左上欄4行 「第5図(a)ないし(d)はパワーステアリング用として採用される本発明を特徴づける歯車比パターンの実施例を示し、同図(a),(b)は直線と曲線との組合せ型、同図(c),(d)は曲線型をそれぞれ表わしている。 (略) すなわち、このようなパワーステアリング用装置に採用される歯車比パターンにおいて問題となるのは、従来の単調な減少特性により深切込み域での車輌の舵取リンク機構の効率低下等を含む負荷の増大に対する舵取補助力が不足することから生じる操舵力の増大化である。したがって、これに対処するには深切込み域からロック域にかけて歯車比を増加するように設定すればよい。」 5 上記2の「同図(a)は中立位置付近(AA’領域)と左、右ロック域につながる深切込み域(BCおよびB’C’領域)との間の中間切込み域(ABおよびA’B’領域)」との記載並びに第1図(a)及び第5図(a)を合わせみると、第5図(a)のAB及びA’B’領域は中間切込み域であり、同BC及びB’C’領域は深切込み域であり、同C及びC’はロック域であるといえる。 これらの記載事項、認定事項、及び図面(特に第5図(a))の図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「ピニオンに噛み合わされるラックにおいて、 前記ピニオンと噛み合う複数のラック歯が軸方向に沿って並設されたラック歯部とを備え、 前記ラック歯部のラック歯は、前記ピニオンと前記ラックとの間の歯車比が、中間領域が中立位置に対して小さく設定されるとともに、前記中間領域からさらにロック域に近づくにつれて漸次大きく設定されているラック。」 第3 対比 本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「ピニオン」は本願発明の「ピニオンギア」に相当し、以下同様に、「ラック」は「ラックバー」に、「ラック歯」は「歯部」に、「ラック歯部」は「ラック歯形成部」に、 「中央領域」は「中央部」に、「中間領域」は「両端側」に、「ロック域」は「両端」にそれぞれ相当する。 したがって両者は、 「ピニオンギアに噛み合わされるラックバーにおいて、 前記ピニオンギアと噛み合う複数の歯部が軸方向に沿って並設されたラック歯形成部とを備えているラックバー。」 で一致し、次の点で相違する。 [相違点1] 本願発明では、ラック歯形成部が軸部に設けられているのに対し、 引用発明では、ラック歯部がかかる構成を備えるか不明である点。 [相違点2] 本願発明では、ラック歯形成部の歯部が、「ピニオンギアの回転角と軸部の移動距離との比が、軸方向の両端側が中央部に対し大きく形成されるとともに、前記両端側からさらに両端に近づくにつれて漸次小さく形成されている」のに対し、 引用発明では、ラック歯部のラック歯が、「ピニオンとラックとの間の歯車比が、中間領域が中立位置に対して小さく設定されるとともに、前記中間領域からさらにロック域に近づくにつれて漸次大きく設定されている」点。 第4 当審の判断 そこで、各相違点について検討する。 1 相違点1について 本願出願日前において、自動車の操舵装置に用いられるラックバーのラック歯形成部を軸部に設けることは周知技術(例えば、特開平9-86420号公報の図1、特開平10-217983号公報の図1参照、以下「周知技術」という。)である。 そうすると、引用発明の「ラック歯部」を軸部に設けるようにすることは、周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。 2 相違点2について 本願明細書の「図3に示すように、ストローク両端側Y付近の歯部22aの間隔(ピッチ)がストローク両端Zに近づくにつれて漸次狭くなっている。・・(略)・・このように、歯部22aの間隔が狭くなると、据え切り時や極低速走行時に早い速度でハンドルを廻しても、ラックバー20の移動速度がハンドルの最大角に近づくにつれて低速度となり、ロックに当たるときの衝撃が小さくなる。」(段落【0019】及び【0020】)との記載並びに図2及び図3からみて、本願発明の「ピニオンギアの回転角と軸部の移動距離との比」とは、ピニオンギアの回転角に対する軸部の移動距離の比であり、該比が小さい場合には、ピニオンギアの所定角度の回転に対する軸部であるラックバーの移動量が小さくなることがわかる。 一方、前記「第2」の「2」の「図中θpはピニオンの左、右方向への回転角、Grはピニオンとラックとの間の歯車比」との記載、同「3」の「上述した歯車比パターンは、第4図に示すように、ラック歯部のピッチを不均一に形成することにより簡単に具体化することが可能となる。・・(略)・・ピッチが最も大きい部分(P2部)で歯車比が小さく、最も小さい部分(P8部)で歯車比が大きい。」との記載、及び同「4」の「深切込み域での・・(略)・・操舵力の増大化である。したがって、これに対処するには深切込み域からロック域にかけて歯車比を増加するように設定すればよい。」との記載、並びに第4図からみて、引用発明の「ピニオンとラックとの間の歯車比」とは、ラック歯部のピッチ(移動量)に対するピニオンの回転角の比であり、該比を大きくした場合には、ピニオンの所定角度の回転に対するラックの移動量が小さくなることがわかる。 さらに、本願発明と引用発明とは、ラック歯形成部の歯部が、ピニオンギアの所定角度の回転に対するラックの移動距離が、軸方向の両端側において中央部におけるそれよりも大きくされているとともに、前記両端側からさらに両端に近づくにつれて漸次小さくされている点で軌を一にするものである。 そうしてみると、両者の相違は発明特定事項の実質的な相違ではなく、表現上の相違にすぎないのであるから、引用発明において、ラック歯部のラック歯が、「ピニオンとラックとの間の歯車比が、中間領域が中立位置に対して小さく設定されるとともに、前記中間領域からさらにロック域に近づくにつれて漸次大きく設定されている」ことに代えて、「ピニオンギアの回転角と軸部の移動距離との比が、軸方向の両端側が中央部に対し大きく形成されるとともに、前記両端側からさらに両端に近づくにつれて漸次小さく形成されている」ようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 3 効果について 全体としてみても、本願発明が奏する効果は、引用発明及び周知技術から、当業者が容易に予測できる範囲内のものであって、格別なものではない。 4 まとめ したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-10-17 |
結審通知日 | 2014-10-22 |
審決日 | 2014-11-05 |
出願番号 | 特願2008-112940(P2008-112940) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F16H)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 大内 俊彦 |
特許庁審判長 |
森川 元嗣 |
特許庁審判官 |
稲葉 大紀 中川 隆司 |
発明の名称 | ラックバー及びステアリング装置 |
代理人 | 吉村 勝博 |