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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16L
管理番号 1295353
審判番号 不服2014-2318  
総通号数 182 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-02-07 
確定日 2014-12-11 
事件の表示 特願2009-272736「傾斜リング」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 6月16日出願公開,特開2011-117469〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成21年11月30日の出願であって,平成25年8月15日付けで拒絶理由が通知され,同年10月21日に意見書及び手続補正書が提出され,同年11月6日付けで拒絶査定がされ,平成26年2月7日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出されたものである。

第2 平成26年2月7日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年2月7日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成26年2月7日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は,特許請求の範囲の補正を含むものであって,補正後の請求項1に関し補正前後の記載を示すと以下のとおりである。
(補正前の請求項1?4)
「【請求項1】
一対のフランジ部の先端面同士を対向させるとともに,前記各先端面に設けられた閉じた円環状の突起を,これらの先端面の間に挟み込まれた円環板状をなすガスケットに食い込ませて,前記一対のフランジ部を気密に圧着する時に用いるものであって,
前記フランジ部とは別体をなし,該フランジ部の対向面の裏側に取り付けられるとともに,前記フランジ部に向かうにつれ外側に広がる傾斜面を有していることを特徴とする傾斜リング。
【請求項2】
前記傾斜リングが,円環を径方向に分割した形状の複数の分割片からなるものである請求項1記載の傾斜リング。
【請求項3】
隣り合うもの同士が互いに回転可能に連結された一連のユニット部材と,両端のユニット部材を連結するための締結具とを有する結合リングを具備し,
周方向に延びるように設けた凹溝の傾斜側壁からの押圧力によって,一対のフランジ部同士を,各フランジ部の先端面に設けられた閉じた円環状の突起をこれらの先端面の間に挟み込まれた円環板状をなすガスケットに食い込ませて,気密に圧着するものであって,
前記フランジ部とは別体をなし,該フランジ部の対向面の裏側に取り付けられるとともに,前記フランジ部に向かうにつれ外側に広がり,かつ前記傾斜側壁に対応した形状である傾斜面を有していることを特徴とする傾斜リングを具備するものである結合装置。
【請求項4】
請求項1,2又は3記載の傾斜リングを用いた流体供給装置。」

(補正後の請求項1)
「【請求項1】
マスフローコントローラと,
前記マスフローコントローラに接続される上流側管及び下流側管とを具備し,
前記マスフローコントローラと前記上流側管との上流側接続箇所および前記マスフローコントローラと前記下流側管との下流側接続箇所において,一対のフランジ部の先端面同士を対向させるとともに,前記各先端面に設けられた閉じた円環状の突起を,これらの先端面の間に挟み込まれた円環板状をなすガスケットに食い込ませて,前記一対のフランジ部が気密に圧着される流体供給装置であって,
前記フランジ部とは別体をなし,前記フランジ部に向かうにつれ外側に広がる傾斜面を有している傾斜リングが,前記マスフローコントローラの前記上流側接続箇所及び前記下流側接続箇所において,前記フランジ部の前記先端面の裏側に取り付けられていることを特徴とする流体供給装置。」

2 補正の適否
(1)新規事項の追加の有無及び補正の目的の適否について
本件補正は,補正前の請求項4を前提として,補正前の請求項1の発明特定事項を組み込みつつ,本願明細書の段落【0025】?段落【0027】及び図5の記載を根拠に,流体供給装置の態様を限定するものであるから,発明特定事項を限定するものであって新規事項を追加するものではない。
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第3項の規定に適合するものであり,また,その補正前の請求項4に記載された発明とその補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,特許法第17条の2第5項第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下検討する。

(2)独立特許要件
ア 刊行物
刊行物1:特開平8-334190号公報
刊行物2:特開平5-172265号公報
刊行物3:特開平11-2384号公報
刊行物4:実願平4-78047号(実開平6-35778号)のCD-ROM
刊行物5:特開2008-286325号公報
刊行物6:実公昭61-39187号公報

イ 刊行物の記載事項
(ア)刊行物1の記載事項
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 外鍔部1を有する一対の被接続用管状部材A,Aを,該外鍔部1,1相互をシール材5を介して対面させ,該外鍔部1の外面3側に,勾配面6を有するスペーサリング体7を接触させ,かつ,該スペーサリング体7の上記勾配面6に圧接する圧接内勾配面8付きの凹溝9を有する締付外環体10を,設けたことを特徴とする管継手構造。」
(1b)「【0005】そこで本発明は,・・・簡単に外鍔部を有する被接続用管状部材の接続作業(配管作業)ができ,かつ,作業能率が向上すると共に,上記管状部材の製造も容易となる管継手構造を提供することを目的とする。」
(1c)「【0009】締付外環体を締め付けることによって,該締付外環体の凹溝の圧接内勾配面がスペーサリング体の勾配面に圧接し,該スペーサリング体はその圧力によって外鍔部の外面に圧接する。それにより,一対の外鍔部(一対の被接続用管状部材)はシール材を介して強固に接続できる。」
(1d)「【0013】図1は,本発明に係る管継手構造の一実施例を示し,この管継手構造は,外鍔部1を有する一対の被接続用管状部材A,Aが,該外鍔部1,1相互を平面状のシール材5を介して対面させて,相互に接続するものである。そして,該外鍔部1,1の外面3,3側には,スペーサリング体7,7が接触し,該スペーサリング体7,7の外面に,締付外環体10が圧接している。
【0014】上記スペーサリング体7の外面は,僅かに傾斜した勾配面6を有している。また,上記締付外環体10は,凹溝9を有すると共に,該勾配面6に圧接するための,圧接内勾配面8,8を該凹溝9に有している。即ち,該凹溝9は横断面台形状である。」
(1e)「【0015】被接続用管状部材A,Aは,例えば,(長尺の)管部材11や,(直角方向に弯曲するエルボ等の)継手部材12のようなものである。」
(1f)「【0018】図3に於ては,上記締付外環体10の締付力13が,スペーサリング体7に与える作用を示している。締付力13によって締付外環体10は,管部材11及び継手部材12の中心軸方向へ移行するため,該締付外環体10の圧接内勾配面8,8がスペーサリング体7,7の勾配面6,6と滑るように圧接していく。
【0019】そしてスペーサリング体7,7は,上記圧接内勾配面8,8によって外鍔部1,1へ押しやられ,外鍔部1,1がシール材5に圧接する。即ち,圧接内勾配面8からは,スペーサリング体7及び外鍔部1を介してシール材5に垂直な圧接力18,18が加えられている。そのため管部材11及び継手部材12の夫々の外鍔部1,1相互がシール材5を介して圧接し合い,それによって,該管部材11と継手部材12とが接続されている。」
(1g)「【0021】図4に於ては,スペーサリング体7の形状を示しており,(イ)は半割形状の上記スペーサリング体7であり,(ロ)は他の実施例である環形状のスペーサリング体7を示している。環形状のスペーサリング体7の場合,(ハ)に示すような被接続用管状部材Aに,二つのスペーサリング体7,7を外嵌しておき,その後外鍔部1,1を折曲形成する。」

(イ)刊行物2の記載事項
(2a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,例えば半導体デバイス製造工程等において使用されるガス制御装置に関する。
・・・
【0003】・・・半導体製造装置におけるガス制御装置のうち,各種反応炉等の直前に共通的に設けられる流量制御部は,各種多数あるなかの代表例の系統図を図23に,またこれに対応する配置図(以下,第1の従来例という)を図24にそれぞれ示すように,流入口A,B,Cから各フィルタa…を経て流入される3種類のプロセスガスをそれぞれ遮断弁b…によって切替え,マスフローコントローラc…によって流量を制御し,流出口Dから反応炉に供給するようになっている。・・・この第1の従来例においては,・・・その他の単機能部材は配管および継手を介して接続されている・・・」

(ウ)刊行物3の記載事項
(3a)「【0002】
【従来の技術】半導体デバイスの製造においては,周知のように,・・・CVD炉内にウェーハを装填し,原料ガス,・・・等を導入して熱分解させ,ウェーハ上に薄膜を形成させることが行われる。・・・
【0004】図9はそのようなガスを搬送する配管の一部分を示す平面図であり,フィルタ,マスフローコントローラ,エアオペレートバルブ(ダイヤフラムによって開閉される空気圧制御バルブ)等(以降,これらを総称する場合は機能部品とする)がSUSパイプによって連結されている。・・・
【0005】しかし,上述のリボンヒータを複雑な形状の機能部品やその継手部8,9に対して均一に巻き付けることは困難であり,・・・また,機能部品やSUSパイプを接続している継手部8,9にもリボンヒータを巻き付けているために,故障した機能部品やSUSパイプの交換は煩雑な作業となっている。・・・」

(エ)刊行物4の記載事項
(4a)「【0008】
先ず,図2は本考案に係る管の接続構造1をマスフローコントローラに適用した例を示し,この図において,2はマスフローコントローラで,特に,拡大図示するように,その流体入口側の流体流路に設けられている。なお,この図において,3,4はエアーオペレート弁である。」

(オ)刊行物5の記載事項
(5a)「【0002】
半導体製造装置や一般産業機械などにおいて,空気,純水,温度調整用の冷水または温水,有機系薬液などの流体の搬送のために,接続管を含む管路構成が用いられている。このような管路構成には,接続管を他部材,例えばもう1つの接続管や装置筐体の流体出入口に接続させるための継手構造が含まれている。
【0003】
従来,1対の接続管を互いに接続させる継手構造として,例えば各接続管の端面同士を互いに密着させて保持する構成がある。その場合,機密性を高めるために両端面間にゴム製のOリングが挟み込まれる。各端面にはOリングを保持するための溝が形成される。なお,各接続管の端面にそれぞれフランジが形成されている場合もある。
【0004】
しかし,近年,例えば半導体製造装置などにおいて,特に反応室への気体供給部では,ほんの僅かでも不純物が混入したり,流体の圧力や流量が変動したりするだけで,使用不能な不良品を製造してしまうことがある。従って,このような位置に設けられる管路構成には,以前に比べてはるかに高いレベルの気密性が要求される。・・・」
(5b)「【0013】
クランプリングは,金属製ガスケットを挟んで互いに対向するフランジの外周の全周を覆って保持するリング形状を構成している状態で,・・・金属製ガスケットを挟んでフランジ同士をより緊密に保持可能なものであり,金属製ガスケットと各フランジの互いに当接する面は,クランプリングによって金属製ガスケットを挟んでフランジ同士が緊密に保持された状態で,突起がそれに対向する面に食い込みまたは潰され,突起よりも内径側の平坦面同士が互いに密着するものである。
【0014】
この構成によると,ゴム製のOリングではなく金属製ガスケットを用いて封止を行っているため,気密性が高い。・・・さらに,経年変化や温度や湿度の変化に伴って接続の緩みを生じるおそれがなく,気密性の高い接続が維持できる。」

(カ)刊行物6の記載事項
(6a)「第1図に示すように,接続されるべき一対のアルミニウム製パイプ1,1の端部に,それぞれアルミニウム合金製フランジ2,2が互いに対向するように設けられ,両フランジ2,2の間に形成された環状スペース3内に,Oリングととしての軟質アルミニウム製環状ガスケツト4が介装されている。そして,このガスケツト4に食い込むようにして密着しうるナイフエツジ2aが,環状スペース3の内壁において,フランジ2に形成されている。
・・・
すなわち,第2図に示すように,従来のごとくナイフエツジ2aの先端2a′で気密保持が行なわれる」(2頁3欄22行?同頁4欄14行)

ウ 刊行物1に記載された発明
刊行物1には,その特許請求の範囲の請求項1に「外鍔部1を有する一対の被接続用管状部材A,Aを,該外鍔部1,1相互をシール材5を介して対面させ,該外鍔部1の外面3側に,勾配面6を有するスペーサリング体7を接触させ,かつ,該スペーサリング体7の上記勾配面6に圧接する圧接内勾配面8付きの凹溝9を有する締付外環体10を,設けたことを特徴とする管継手構造。」(摘示(1a))と記載されている。
また,刊行物1には,「本発明は,・・・簡単に外鍔部を有する被接続用管状部材の接続作業(配管作業)ができ」(摘示(1b)),及び「被接続用管状部材A,Aは,例えば,(長尺の)管部材11や,(直角方向に弯曲するエルボ等の)継手部材12のようなものである。」(摘示(1e))と記載されているところ,上記「配管作業」とは,字義的に,或いは技術常識に照らして,水道,ガスなどの配管を配置する作業のことと解されるから,上記被接続用管状部材A,A(例えば,管部材11やエルボ等の継手部材12)を相互に配管接続すれば,水道やガスなどの流体を供給可能とした「流体供給構造体」が構成されるものといえる。
してみると,刊行物1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものといえる。
「外鍔部1を有する一対の被接続用管状部材A,Aを,該外鍔部1,1相互をシール材5を介して対面させ,該外鍔部1の外面3側に,勾配面6を有するスペーサリング体7を接触させ,かつ,該スペーサリング体7の上記勾配面6に圧接する圧接内勾配面8付きの凹溝9を有する締付外環体10を用いて,上記一対の被接続用管状部材A,Aを相互に配管接続した,流体供給構造体」

エ 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「外鍔部1,1」は,その技術的意義において,本願補正発明の「フランジ部」相当するものといえる。
引用発明の「シール材5」は,図1?3の記載からも看取できるとおり,円環板状をなすことが明らかであるから,本願補正発明の「円環板状をなすガスケット」に相当するものといえる。
引用発明の「勾配面6を有するスペーサリング体7,7」は,摘示(1g)の記載に照らして外鍔部1とは別体をなすことが明らかであり,さらに,その勾配面6は,外鍔部1に向かうにつれ外側に広がる傾斜面をなすことも図1,3の記載から看取できるから,本願補正発明の「フランジ部に向かうにつれ外側に広がる傾斜面を有している傾斜リング」に相当するものといえる。
引用発明において,締付外環体10を締め付けることによって,一対の外鍔部1,1はシール材5を介して強固に接続されることになるから(摘示(1c)),引用発明の「該外鍔部1,1相互をシール材5を介して対面させ,該外鍔部1の外面3側に,勾配面6を有するスペーサリング体7を接触させ,かつ,該スペーサリング体7の上記勾配面6に圧接する圧接内勾配面8付きの凹溝9を有する締付外環体10を用いて,上記一対の被接続用管状部材A,Aを相互に配管接続」することと,本願補正発明の「一対のフランジ部の先端面同士を対向させるとともに,前記各先端面に設けられた閉じた円環状の突起を,これらの先端面の間に挟み込まれた円環板状をなすガスケットに食い込ませて,前記一対のフランジ部が気密に圧着される」こととは,「一対のフランジ部の先端面同士を対向させるとともに,これらの先端面の間に挟み込まれた円環板状をなすガスケットを介して,前記一対のフランジ部が気密に圧着される」点で共通するものといえる。
引用発明の「流体供給構造体」は,配管接続によって流体の供給が可能となるものであるから,かかる機能の限度で本願補正発明の「流体供給装置」と共通したものといえる。
してみると,本願補正発明と引用発明とは,
「一対のフランジ部の先端面同士を対向させるとともに,これらの先端面の間に挟み込まれた円環板状をなすガスケットを介して,前記一対のフランジ部が気密に圧着される流体供給装置であって,
前記フランジ部とは別体をなし,前記フランジ部に向かうにつれ外側に広がる傾斜面を有している傾斜リングが,前記フランジ部の前記先端面の裏側に取り付けられている,流体供給装置。」である点で一致し,以下の点で相違している。

【相違点1】
本願補正発明は,「マスフローコントローラと、前記マスフローコントローラに接続される上流側管及び下流側管とを具備」する流体供給装置を対象として,「前記マスフローコントローラと前記上流側管との上流側接続箇所および前記マスフローコントローラと前記下流側管との下流側接続箇所」を接続するものであるのに対し,引用発明は,接続箇所が具体的に特定されていない点。

【相違点2】
接続態様について,本願補正発明は,一対のフランジ部の先端面同士を対向させるとともに,「前記各先端面に設けられた閉じた円環状の突起」を,ガスケットに「食い込ませて」,前記一対のフランジ部が気密に圧着されるのに対し,引用発明は,「一対のフランジ部(外鍔部1,1)の先端面同士を対向させるとともに,これらの先端面の間に挟み込まれた円環板状をなすガスケット(シール材5)を介して,前記一対のフランジ部(外鍔部1,1)が気密に圧着される」ものではあるが,前記先端面には「閉じた円環状の突起」は形成されておらず,ガスケットに「食い込ませて」構成されるものではない点。

オ 判断
(1)相違点1について
引用発明における流体供給装置(流体供給構造体)の管継手構造は,「締付外環体を締め付けることによって,・・・一対の外鍔部(一対の被接続用管状部材)はシール材を介して強固に接続できる。」(摘示(1c))ものであるから,水道,ガスといった各種流体供給装置への適用が想定されるところ,そのような管継手構造を必要とする流体供給装置の例として,例えば,「マスフローコントローラと,前記マスフローコントローラに接続される上流側管及び下流側管とを具備」するものは,刊行物2?4にも記載されているように,従来周知である。
ここで,刊行物2の摘示(2a)及び図24の記載,刊行物3の摘示(3a)及び図9の記載,及び刊行物4の摘示(4a)及び図2の記載より,「マスフローコントローラと,前記マスフローコントローラに接続される上流側管及び下流側管とを具備」する流体供給装置が周知であることが裏付けられるし,かかる流体供給装置は,「前記マスフローコントローラと前記上流側管との上流側接続箇所および前記マスフローコントローラと前記下流側管との下流側接続箇所」において配管接続されることも明らかである。
そして,引用発明の流体供給装置(流体供給構造体)は,被接続用環状部材A,Aを接続(配管作業)することによって構成されるものであるところ(摘示(1b)),上記周知の流体供給装置も,マスフローコントローラと上流側管との上流側接続箇所およびマスフローコントローラと下流側管との下流側接続箇所は,その接続(配管作業)が必要であるから,引用発明を上記周知の流体供給装置として構成することの動機付けも存在する。
してみると,上記相違点1に係る本願補正発明の構成は,引用発明及び周知の流体供給装置に接した当業者が,容易に想到し得たものといえる。

(2)相違点2について
配管接続において気密性を向上させることは,流体供給装置全般に共通する基本的な技術課題と解されるところ,引用発明においても,締付外環体を締め付けることによって,スペーサリング体をその圧力によって外鍔部の外面に圧接させ,それにより,一対の外鍔部をシール材を介して強固に接続させるものであるから(摘示(1c)),配管接続における気密性を考慮した設計思想を有する発明ということができる。
ところで,配管接続を伴う管路設計において,気密性を向上させる管継手構造の例として,「一対のフランジ部の先端面同士を対向させるとともに,前記各先端面に設けられた閉じた円環状の突起を,これらの先端面の間に挟み込まれた円環板状をなすガスケットに食い込ませて,前記一対のフランジ部が気密に圧着」させることは,例えば刊行物5(摘示(5b))や刊行物6(摘示(6a))にも記載されているとおり従来周知である。
そして,上記(1)で述べたところの周知の流体供給装置,すなわち,マスフローコントローラと,前記マスフローコントローラに接続される上流側管及び下流側管とを具備する流体供給装置は,刊行物2の摘示(2a)や刊行物3の摘示(3a)にも示されているように「半導体デバイス製造装置」としても位置づけられるものであるところ,そのような半導体デバイス製造装置の管路設計において,より高いレベルの気密性が要求されていることも当業者が認知するところの技術的課題ということができ,かかる技術的課題を上記周知の管継手構造により解決し得ることも当業者には明らかである(摘示(5a))。
してみると,引用発明の流体供給装置(流体供給構造体)を,マスフローコントローラと,前記マスフローコントローラに接続される上流側管及び下流側管とを具備する流体供給装置として構成するに際し,配管接続を伴う管路設計において要求される気密性のレベルをも考慮の上,上記周知の管継手構造を採用すること,すなわち,上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは,当業者が通常の創作能力の発揮において行い得ることといえ,格別困難なことではない。

(3)本願補正発明の効果について
本願補正発明が奏する作用効果は,引用発明及び上記周知の事項から当業者が予測し得る範囲内のものであって,格別なものとはいえない。
特に本願明細書には,「このような傾斜リングを用いた流体供給装置であれば,コンパクトにできる。」(段落【0009】)と記載されているが,そもそも引用発明は傾斜リング(スペーサリング体)を用いるものであるから,かかる傾斜リングを用いることによる効果は本願補正発明と変わるものではない。

カ まとめ
したがって,本願補正発明は,引用発明及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
よって,本願補正発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

3 むすび
以上のとおりであるから,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成26年2月7日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1?4に係る発明は,平成25年10月21日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ,本願の請求項4に係る発明は,次のとおりのものである。
ここで,請求項4には,「請求項1,2又は3記載の傾斜リングを用いた流体供給装置。」と記載されているので,請求項4に係る発明(以下「本願発明」という。)として「請求項1記載の傾斜リングを用いた流体供給装置。」を以下のように認定する。
「一対のフランジ部の先端面同士を対向させるとともに,前記各先端面に設けられた閉じた円環状の突起を,これらの先端面の間に挟み込まれた円環板状をなすガスケットに食い込ませて,前記一対のフランジ部を気密に圧着する時に用いるものであって,
前記フランジ部とは別体をなし,該フランジ部の対向面の裏側に取り付けられるとともに,前記フランジ部に向かうにつれ外側に広がる傾斜面を有している傾斜リングを用いた流体供給装置。」

2.引用刊行物とその記載事項等
刊行物とその記載事項等は,上記「第2 2(2)」に記載した刊行物1,5,6のとおりである。

3.対比・判断
本願発明は,上記「第2」で検討した本願補正発明から,「流体供給装置」の具体的な限定を省いたもの,すなわち,流体供給装置についての「マスフローコントローラと,前記マスフローコントローラに接続される上流側管及び下流側管とを具備し」とする限定事項を省くとともに,接続箇所についての「前記マスフローコントローラと前記上流側管との上流側接続箇所および前記マスフローコントローラと前記下流側管との下流側接続箇所おいて」,及び「前記マスフローコントローラの前記上流側接続箇所及び前記下流側接続箇所において」とする限定事項を省くものである。
そうすると,本願発明と引用発明とを対比した場合の相違点は,上記「第2 2(2)エ」で述べた相違点2と同様なものになるから,上記「第2 2(2)オ」の検討内容を踏まえれば,本願発明は,引用発明及び刊行物5,6に記載された周知の管継手構造に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

4.まとめ
したがって,本願発明は,引用発明及び刊行物5,6に記載された周知の管継手構造に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その余の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-10-15 
結審通知日 2014-10-16 
審決日 2014-10-28 
出願番号 特願2009-272736(P2009-272736)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16L)
P 1 8・ 575- Z (F16L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 黒石 孝志  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 氏原 康宏
平田 信勝
発明の名称 傾斜リング  
代理人 西村 竜平  
代理人 西村 竜平  

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