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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1295479
審判番号 不服2012-13096  
総通号数 182 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-07-09 
確定日 2014-12-09 
事件の表示 特願2008-508070「光学素子を製造するための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年11月 2日国際公開、WO2006/114082、平成20年11月13日国内公表、特表2008-539567〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
平成18年 4月18日 国際特許出願(パリ条約による優先権主張外国 庁受理2005年4月26日、同年8月3日 ドイツ)
平成23年 6月 7日 拒絶理由通知(同年6月9日発送)
平成23年12月 8日 意見書・手続補正書
平成24年 2月24日 拒絶査定(同年3月7日送達)
平成24年 7月 9日 本件審判請求・手続補正書
平成24年 9月18日 審尋(同年9月21日発送)
平成25年 3月19日 回答書
平成25年 4月15日 拒絶理由通知(同年4月22日発送)
平成25年10月22日 意見書・手続補正書
平成25年11月12日 拒絶理由通知(最後 同年11月18日発送) (以下「当審拒絶理由」という。)
平成26年 5月16日 意見書・手続補正書
(以下、平成25年10月22日付けの手続補正を「本件第1補正」といい、平成26年5月16日付けの手続補正を「本件第2補正」という。)

第2 本件第2補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

本件第2補正を却下する。

[理由]

1 補正の概略
本件第2補正は、平成25年11月12日付けで当審が通知した最後の拒絶理由通知に応答してなされたものであり、補正前(本件第1補正後)の特許請求の範囲の請求項1に、
「所定の形態を有する光学素子(1,25)を製造するための方法において、
A)熱可塑性プラスチックを供給するステップと、
B)熱可塑性プラスチックを所望の形態に移行させるステップと、
C)前記熱可塑性プラスチックを架橋結合させ、当該熱可塑性プラスチックを前記光学素子として成形し、当該光学素子をケーシングの形態で形成するステップとを有し、
前記方法ステップB)及びC)を同時に実施し、
前記方法ステップC)において、熱可塑性プラスチックを少なくとも2回ビームを用いて架橋結合し、
前記方法ステップC)において、熱可塑性プラスチックを約33?165kGyの照射線量の電子ビームにさらし、熱可塑性プラスチックの架橋結合の際に、三次元ポリマーネットワークが生じる、ようにしたことを特徴とする方法。」

とあったものを、

「所定の形態を有する光学素子(1,25)を製造するための方法において、
A)熱可塑性プラスチックを供給するステップと、
B)熱可塑性プラスチックを所望の形態に移行させるステップと、引き続き、
C)前記熱可塑性プラスチックを架橋結合させ、当該熱可塑性プラスチックを前記光学素子として成形し、当該光学素子をケーシングの形態で形成するステップとを有し、
前記方法ステップC)において、熱可塑性プラスチックを少なくとも2回ビームを用いて架橋結合し、
前記方法ステップC)において、熱可塑性プラスチックを約33?165kGyの照射線量の電子ビームにさらし、熱可塑性プラスチックの架橋結合の際に、三次元ポリマーネットワークが生じる、ようにしたことを特徴とする方法。」(当審注:下線は、請求人が補正箇所に付したものである。)

に補正する補正事項を含むものである。

2 補正の目的
上記第2補正は、補正前に「方法ステップB)及びC)を同時に実施」するとあったものを、方法ステップB)に「引き続き」方法ステップC)を有するものに変更する補正であるから、前記補正の目的は、特許請求の範囲の減縮ではない。また、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明の何れでもない。
してみると、上記特許請求の範囲についてする本件第2補正は、18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第1号乃至第4号に掲げる事項を目的とするものではない。

3 本件第2補正についてのむすび
したがって、本件第2補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

4 付記
本件第2補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は、以下のとおり、原査定の理由(特許法第29条の2)により特許を受けることができないものである。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、以下のとおりのものである。
「所定の形態を有する光学素子(1,25)を製造するための方法において、
A)熱可塑性プラスチックを供給するステップと、
B)熱可塑性プラスチックを所望の形態に移行させるステップと、引き続き、
C)前記熱可塑性プラスチックを架橋結合させ、当該熱可塑性プラスチックを前記光学素子として成形し、当該光学素子をケーシングの形態で形成するステップとを有し、
前記方法ステップC)において、熱可塑性プラスチックを少なくとも2回ビームを用いて架橋結合し、
前記方法ステップC)において、熱可塑性プラスチックを約33?165kGyの照射線量の電子ビームにさらし、熱可塑性プラスチックの架橋結合の際に、三次元ポリマーネットワークが生じる、ようにしたことを特徴とする方法。」

(2)先願発明
ア 先願明細書等の記載事項
本願の優先日前の他の特許出願であって本願の出願後に出願公開された特願2005-22095号(以下「先願」という。出願人:住友電気工業株式会社。発明者:堀江晃久、西川信也、假家彩生、御影勝成、武藤浩二。出願日:平成17年1月28日。公開日:平成18年8月10日。特開2006-210724号公報参照)の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「先願明細書等」という。)には、図面とともに以下の記載がある。

(ア)「【請求項1】
射出成形回路部品であって、当該射出成形回路部品のもとになる立体形状を有する、樹脂製の一次成形品の表面に、互いに電気的に独立した少なくとも2つの導電化層が設けられ、各導電化層上に、それぞれ異なる金属層が積層されていることを特徴とする射出成形回路部品。
【請求項2】
…。
【請求項3】
…。
【請求項4】
請求項1記載の射出成形回路部品を製造する方法であって、射出成形回路部品のもとになる立体形状を有する、樹脂製の一次成形品の表面に、互いに電気的に独立した少なくとも2つの導電化層を形成する工程と、形成した導電化層を、個別に、陰極として用いて電気めっき処理を行うことで、各導電化層上に、それぞれ異なる金属層を積層する工程とを含むことを特徴とする射出成形回路部品の製造方法。」(当審注:下線は当審が付した。以下同様である。)

(イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形回路部品と、それによって製造される窓枠と、当該窓枠を備える発光ダイオード用パッケージと、射出成形回路部品の製造方法とに関するものである。」

(ウ)「【0023】
以下に、本発明を、図4(a)(b)に示す発光ダイオード用パッケージPの窓枠1を製造する場合を例にとって説明する。なお、この例の窓枠1は、図5に示すように、矩形平板状の基体2上に、少なくとも1層の接合層3を介して接合されることで、半導体発光素子LE1を収容するための凹部P1を有する発光ダイオード用パッケージPを構成するためのもので、その全体が樹脂によって一体に形成された、上記基体2の平面形状と一致する矩形状の平面形状を有する平板状の基部10と、この基部10の、図において上面10aから上方に突出された窓枠本体11とを備えている。
【0024】
また、窓枠本体11には、その上面11aから、基部10の上面10aまで達する通孔12が形成されていると共に、基部11には、当該通孔12と連通して、上記上面10aから、基体2に接合される下面10bまで達する通孔13が形成されている。そして、窓枠1を、基体2上に接合した際に、通孔13が、基部10の下面10b側で閉じられることで、両通孔12、13によって、前記凹部P1が形成される。
【0025】
通孔12は、基部10の上面10a側から窓枠本体11の上面11a側(凹部P1の開口側)へ向けて外方に拡がった形状に形成されていると共に、その内面が、反射層として機能する金属層M1によって被覆されている。また、通孔13は、その開口寸法が、上記通孔12の、基部10の上面10a側の開口寸法よりも小さく、かつ、図5に示すように、基体2上に搭載した半導体発光素子LE1を収容しうる寸法に設定されている。そして
、両通孔12、13の開口寸法の差に基づいて、通孔12の底部の、通孔13の周囲に、基部10の上面10aと一致する段差面12aが形成されていると共に、この段差面12aから、基部10の下面10bまで貫通孔14が形成されている。貫通孔14は、段差面12aの、通孔13を挟む2個所に形成されている。
【0026】
それぞれの貫通孔14内と、それに続く段差面12aのうち、通孔13の縁部までの領域と、基部10の下面10bのうち、貫通孔14から、当該貫通孔14が形成された側の側端面10cまでの間の領域と、それに続く側端面10cと、それに続く上面10aのうち、窓枠本体11の外側面11bの近傍までの領域には、半導体発光素子LE1への配線として機能する金属層M2が形成されている。そして、一対の金属層M2のうち、段差面12a上の2つの領域M2aが、それぞれ、半導体発光素子LE1の一対の電極(図示せず)との間をワイヤボンディングWBによって接続するための接続部とされている。また、基部10の上面10aのうち、窓枠本体11の外側面11bの近傍までの2つの領域M2bは、図示しない外部回路との接続部とされている。
【0027】
この例では、まず、図1(a)(b)に示すように、上記窓枠1が複数個(図では4個)、基部10の部分で一体に繋がれた形状を有する一次成形品4を、射出成形によって形成する。図1(a)は、一次成形品4の、窓枠本体11が設けられた上面41側を示す平面図、図1(b)は、同じ一次成形品4の下面42側を示す底面図である。そして、両図中に一点鎖線で囲んだ矩形状の領域が、個々の窓枠1の、基部10の外形線に相当する。一次成形品4は、各窓枠1の基部10を、上記領域外でも、同じ厚みで繋いだ形状に形成されている。各窓枠1の基部10を規定する、一点鎖線で囲んだ矩形状の領域のうち、互いに平行な、図において縦方向に伸びる2辺の外側には、それぞれの辺と接するように、通孔43が形成されている。そして、この通孔43を設けることで、各窓枠1の基部10のうち、先に説明した、金属層M2を形成するための側端面10cが、あらかじめ露出された状態とされている。
【0028】
一次成形品4のもとになる樹脂としては、種々の樹脂が使用可能であるが、先に説明したように、放熱性能に優れたセラミックからなる基体2と組み合わせることで、耐熱性に優れた発光ダイオード用パッケージPを形成しうる窓枠1を製造することを考慮すると、高い耐熱性を有する樹脂を使用するのが好ましい。そのような樹脂の例としては、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の熱可塑性ポリエステル樹脂;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド6T、ポリアミド9T等のポリアミド樹脂;液晶ポリマー(LCP)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)等が挙げられる。樹脂としては、めっき可能なグレードのものが、好適に使用される。また、樹脂は、成形後に、例えば電離放射線を照射する等して架橋させてもよい。架橋させることで、窓枠1の耐熱性をさらに向上することができる。樹脂を、電離放射線の照射等によって架橋させるためには、使用する樹脂に、架橋の起点となる多可能性モノマーからなる繰り返し単位や、重合性官能基等を導入すればよい。架橋は、成形後の任意の時点で行うことができる。【0029】
また、樹脂には、窓枠1の熱膨張係数を調整するために、無機フィラーを含有させてもよい。無機フィラーとしては、例えばピロリン酸カルシウム、破砕シリカ、真球シリカ、クレー、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化チタン等を挙げることができる。中でも特にピロリン酸カルシウム、破砕シリカ、真球シリカが、成形時の樹脂の溶融流動性や、成形品の機械的強度などの観点から好ましい。無機フィラーはそれぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。また、樹脂には、窓枠1を難燃化するために、臭素系難燃剤等の難燃剤を含有させてもよい。」

イ 先願発明
(ア)上記ア(ア)によれば、
「射出成形回路部品のもとになる立体形状を有する、樹脂製の一次成形品の表面に、互いに電気的に独立した少なくとも2つの導電化層を形成する工程と、形成した導電化層を、個別に、陰極として用いて電気めっき処理を行うことで、各導電化層上に、それぞれ異なる金属層を積層する工程とを含む射出成形回路部品の製造方法。」
が記載されている。

(イ)上記ア(ウ)【0027】によれば、一次成形品は、「窓枠1が複数個、基部10の部分で一体に繋がれた」ものであり、「射出成形によって形成」されるものである。

(ウ)上記ア(イ)によれば、「窓枠」は、「発光ダイオード用パッケージ」が備えるものである。

(エ)上記ア(ウ)【0028】によれば、一次成形品のもととなる樹脂は、高い耐熱性を有する樹脂を使用するのが好ましく、例えば、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。
また、上記(イ)のとおり、一次成形品は「射出成形によって形成」されるものであるところ、上記ア(ウ)【0028】によれば、成形後の任意の時点で、例えば電離放射線を照射する等して架橋させてもよく、架橋させることで、窓枠1の耐熱性をさらに向上することができる。すなわち、一次成形品は、射出成形によって形成し、成形後の任意の時点で、例えば電離放射線を照射する等して架橋させる一次成形品の製造方法が記載されている。

(オ)上記(ア)?(エ)によれば、先願明細書等には、以下の発明が記載されている。
「射出成形回路部品のもとになる立体形状を有する、樹脂製の一次成形品の表面に、互いに電気的に独立した少なくとも2つの導電化層を形成する工程と、形成した導電化層を、個別に、陰極として用いて電気めっき処理を行うことで、各導電化層上に、それぞれ異なる金属層を積層する工程とを含む射出成形回路部品の製造方法における前記一次成形品の製造方法であって、
前記一次成形品は、発光ダイオード用パッケージが備える窓枠が複数個、基部の部分で一体に繋がれたものであり、
前記一次成形品は、例えば、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等の高い耐熱性を有する樹脂を用いて射出成形し、
成形後の任意の時点で、例えば電離放射線を照射する等して架橋させて、耐熱性をさらに向上させる、
一次成形品の製造方法。」(以下「先願発明」という。)

(3)対比・判断
ア 本願補正発明と先願発明とを対比する。
(ア)先願発明において、「…一次成形品は、発光ダイオード用パッケージが備える窓枠が複数個、基部の部分で一体に繋がれたものであ…」るから、先願発明の「一次成形品の製造方法」は、本願補正発明の「所定の形態を有する光学素子を製造するための方法」に相当する。

(イ)本願補正発明の「A)熱可塑性プラスチックを供給するステップと、B)熱可塑性プラスチックを所望の形態に移行させるステップ」と、先願発明の「前記一次成形品は、例えば、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等の高い耐熱性を有する樹脂を用いて射出成形」することを対比する。
本願補正発明の「熱可塑性プラスチック」は、本願の発明の詳細な説明の記載(【0012】参照)によれば、ポリアミド等が含まれている。そうすると、先願発明の「熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等の高い耐熱性を有する樹脂」は、本願補正発明の「熱可塑性プラスチック」に相当する。また、先願発明の「射出成形」は、一般に、成形材料を加熱・溶融させた後、金型のキャビティ内へ高圧で射出注入し、冷却・固化して製品とする成型方法であるから、成形材料を供給するステップ、所望の形態に移行させるステップを有するものである。
してみると、両者は相当関係にある。

(ウ)先願発明の「一次成形品は、発光ダイオード用パッケージが備える窓枠が複数個、基部の部分で一体に繋がれたものであ」るから、先願発明の「一次成形品」の形態は、本願補正発明の「ケーシングの形態」に相当する。そうすると、先願発明の「成形後の任意の時点で、例えば電離放射線を照射する等して架橋させて、耐熱性をさらに向上させる」ことは、本願補正発明の「引き続き、C)前記熱可塑性プラスチックを架橋結合させ、当該熱可塑性プラスチックを前記光学素子として成形し、当該光学素子をケーシングの形態で形成するステップとを有」することに相当する。

(エ)してみると、両者は、
「所定の形態を有する光学素子を製造するための方法において、
A)熱可塑性プラスチックを供給するステップと、
B)熱可塑性プラスチックを所望の形態に移行させるステップと、引き続き、
C)前記熱可塑性プラスチックを架橋結合させ、当該熱可塑性プラスチックを前記光学素子として成形し、当該光学素子をケーシングの形態で形成するステップとを有する方法。」
の点で一致し、以下の点で一応相違する。

相違点1:本願補正発明は、「前記方法ステップC)において、熱可塑性プラスチックを少なくとも2回ビームを用いて架橋結合し」ているのに対し、先願発明は、そのようなものか否か明らかでない点

相違点2:本願補正発明は、「前記方法ステップC)において、熱可塑性プラスチックを約33?165kGyの照射線量の電子ビームにさらし」ているのに対し、先願発明は、そのようにしているものか否か明らかでない点

相違点3:本願補正発明は、「熱可塑性プラスチックの架橋結合の際に、三次元ポリマーネットワークが生じる、ようにし」ているのに対し、先願発明は、そのようにしているものなのか否か明らかでない点。

イ 以下、上記相違点1?3について、まとめて検討する。
先願発明は、射出成形した熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等の高い耐熱性を有する樹脂を、電離放射線を照射する等して架橋するものであるから、照射により生じた高分子ラジカル同士が反応して、三次元の網目構造を形成するものと解される。してみると、上記相違点3は、実質的な相違点ではない。
また、電離放射線を照射する等して架橋させる際、照射する電離放射線の種類、照射線量、照射回数等は、必要とする架橋が得られるように当業者が適宜設定する設計事項にすぎないものと認められる。そうすると、本願補正発明において、架橋結合の際、「少なくとも2回ビームを用いること」、そして「約33?165kGyの照射線量の電子ビームにさら」すことは、いずれも、当業者が適宜設定する設計事項にすぎず、上記相違点1、2は、何れも課題解決のための具体化手段における微差と認められる。
以上のとおり、相違点1、2は、課題解決のための具体化手段における微差にすぎず、また、相違点3は、実質的な相違ではないから、本願補正発明は、先願発明と実質的に同一の発明である。そして、先願発明をした者は本件補正発明の発明者と同一の者ではなく、また、本件出願の時に本願の出願人と先願の出願人とは同一の者ではない。

(4)むすび
したがって、本願補正発明は、特許法29条の2の規定により特許を受けることができないものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件第2補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、本件第1補正後の請求項1に記載された、以下のとおりのものである。

「所定の形態を有する光学素子(1,25)を製造するための方法において、
A)熱可塑性プラスチックを供給するステップと、
B)熱可塑性プラスチックを所望の形態に移行させるステップと、
C)前記熱可塑性プラスチックを架橋結合させ、当該熱可塑性プラスチックを前記光学素子として成形し、当該光学素子をケーシングの形態で形成するステップとを有し、
前記方法ステップB)及びC)を同時に実施し、
前記方法ステップC)において、熱可塑性プラスチックを少なくとも2回ビームを用いて架橋結合し、
前記方法ステップC)において、熱可塑性プラスチックを約33?165kGyの照射線量の電子ビームにさらし、熱可塑性プラスチックの架橋結合の際に、三次元ポリマーネットワークが生じる、ようにしたことを特徴とする方法。」

2 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は、以下のとおりである。
本件第1補正後の特許請求の範囲の請求項1は、「熱可塑性プラスチックを所望の形態に移行させる」B)のステップと、電子ビームを用いて架橋させるC)のステップを同時に実施するものである。
一方、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「当初明細書等」という。)には、ステップB)と化学的な架橋結合方法を一緒に実施すること、TAICによる架橋結合が終了してからビーム照射による架橋結合を行うことは記載されているが、ステップB)と電子ビームを用いて架橋させるステップC)を同時に実施することは、記載されていない。
してみると、本件第1補正は、当業者によって、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるから、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてするものではない。よって、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

3 判断
本願発明は、「熱可塑性プラスチックを所望の形態に移行させる」B)のステップと、電子ビームを用いて架橋結合させるC)のステップを同時に実施するものである。
一方、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「当初明細書等」という。)には、以下の記載がある。
ア 「【0026】
化学的な架橋結合方法のケースでは例えば前記方法ステップB)とC)を一緒に実施し、その際に例えば有機過酸化物のような化学的架橋結合材を用いることも可能である。」(当審注:下線は当審が付した。以下、同様である。)
イ 「【0029】
実施例
まず最初にポリアミドからなる厚さが2?3mmで直径が0.8cmのレンズ(Grilamid TR 90)が射出成形される。この場合架橋結合補助手段として液状の形態のトリアリルイソシアヌレート(TAIC, Peralink 301)がプラスチック粒質物に添加される。添加されたTAICの成分は2-5GeW%、有利には3?4GeW%である。この添加は液体として直接行われるか、または中空粒質物に吸着される。通常のようにTAICのための支持材料として用いられる珪酸カルシウムは、ここでは用いられない。なぜならレンズの透過性に支承を来すからである。架橋結合が終了されるとビーム(放射線)の照射が典型的には66?132kGyの線量で数秒間行われる。この照射はシーケンシャルに33kGyステップで行われる。この照射は例えばそれぞれ同じ照射線量で少なくとも2回、有利には4回行われる。その場合にレンズは固定のために脚部の形態の結合素子を有していてもよい(例えば図3及び図6参照)。」
上記記載によれば、ステップB)と化学的な架橋結合方法を一緒に実施すること(上記ア参照。)、あるいは、TAICによる架橋結合が終了してからビーム照射による架橋結合を行うこと(上記イ参照。)は当初明細書等に記載されているが、ステップB)と電子ビームを用いて架橋させるステップC)を同時に実施することは、記載されていると言うことはできない。また、当初明細書等のその余の箇所にも、ステップB)と電子ビームを用いて架橋させるステップC)を同時に実施することは記載されておらず、当業者に自明な事項でもない。
してみると、本件第1補正は、当業者によって、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるから、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてするものではない。よって、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

4 むすび
以上のとおり、本件第1補正は,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから、本願は、拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-07-10 
結審通知日 2014-07-14 
審決日 2014-07-28 
出願番号 特願2008-508070(P2008-508070)
審決分類 P 1 8・ 161- WZ (H01L)
P 1 8・ 572- WZ (H01L)
P 1 8・ 561- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 杉山 輝和小林 謙仁  
特許庁審判長 小松 徹三
特許庁審判官 鈴木 肇
星野 浩一
発明の名称 光学素子を製造するための方法  
代理人 久野 琢也  
代理人 星 公弘  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  

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