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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M
管理番号 1295514
審判番号 不服2013-14717  
総通号数 182 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-08-01 
確定日 2014-12-16 
事件の表示 特願2008-504343号「微小突起で皮膚を穿刺する装置及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月5日国際公開、WO2006/105272、平成20年 8月28日国内公表、特表2008-534152号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成18年3月27日(パリ条約による優先権主張 2005年3月28日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成25年3月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成25年8月1日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2.平成25年8月1日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年8月1日付け手続補正(以下「本件補正」という)を却下する。

[理由]
1.本件補正
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
薬剤を被験者の角質層を通して伝達する装置であって、
1つ又は複数の角質層を穿刺する微小突起を有する微小突起部材であって、前記微小突起部材が衝撃力で前記被験者の角質層を突き刺すように、前記被験者の皮膚部位付近に配置された前記微小突起部材を含み、
それによって前記微小突起部材は、前記角質層との衝突時に前記微小突起部材の1cm^(2)当たり約0.05?3ジュールの範囲のエネルギを10ミリ秒以内の貫入期間にわたって与え、それによって前記微小突起部材は0.01mm/秒を上回る速度で皮膚に接触し、それによって前記角質層を穿刺する微小突起の少なくとも1つが、前記被験者の前記角質層を通る微小スリットを形成し、かつ、前記微小スリットを通して前記薬剤が伝達される、装置。」から、

「【請求項1】
薬剤を被験者の角質層を通して伝達する装置であって、
1つ又は複数の角質層を穿刺する微小突起を有する微小突起部材であって、前記微小突起が前記薬剤を含有するドライコーティングを含み、前記微小突起部材が衝撃力で前記被験者の角質層を突き刺すように、前記被験者の皮膚部位付近に配置された前記微小突起部材を含み、
それによって前記微小突起部材は、前記角質層との衝突時に前記微小突起部材の1cm^(2)当たり約0.05?3ジュールの範囲のエネルギを10ミリ秒以内の貫入期間にわたって与え、それによって前記微小突起部材は0.01mm/秒を上回る速度で皮膚に接触し、それによって前記角質層を穿刺する微小突起の少なくとも1つが、前記被験者の前記角質層を通る微小スリットを形成し、かつ、前記微小スリットを通してドライコーティングとしての前記薬剤が伝達される、装置。」(下線部は、補正により加入された箇所である。)と補正された。

そして、本件補正後の請求項1は、本件請求前の請求項1の発明を特定するのに必要な事項である「微少突起」が「薬剤を含有するドライコーティングを含」むことを限定し、さらに、「薬剤」が「ドライコーティングとしての」ものであることを限定するものであって、かつ、本件補正前に請求項1に記載された発明と、本件補正後に請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号において規定する特許請求の範囲の減縮に該当する。
そして、本件補正は、新規事項を追加するものではない。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例とされる改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するかどうか)について以下に検討する。

2.刊行物とその記載内容
刊行物1:国際公開第02/30301号
刊行物2:国際公開第2004/009172号
刊行物3:国際公開第03/066126号

(1)刊行物1
原査定に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物1には、「微小突起を用いて皮膚を穿孔するための装置および方法」に関して以下の記載がある。(日本語訳として、刊行物1のパテントファミリーである特表2004-510535号公報に記載における対応部分を援用する。)

1a)”16. A device for forming one or more microslits through the stratum corneum through which an agent can be delivered or sampled, comprising: an applicator having a contacting surface; and a microprotrusion member having one or more stratum corneum piercing microprotrusions, the microprotrusion member being releasably mounted on said applicator, wherein said applicator, once activated, brings said contacting surface into contact with said microprotrusion member in such a manner that said microprotrusion member strikes the stratum corneum with a power of at least 0.05 joules per cm^( 2) of microprotrusion member in 10 milliseconds or less.”(刊行物1 第17ページ第19?28行)
(【請求項16】
角質層を通して作用物質を送り込むかまたは採取できる1個またはそれ以上の角質層を通る微小な溝孔をつくる装置において、該装置は
接触面をもつアプリケーター;および
1個またはそれ以上の角質層穿孔用の微小突起を有する微小突起部材を具備し、該微小突起部材は該アプリケーターの上に外し得るように取り付けられており、該アプリケーターは、一度作動されると、該微小突起部材が10ミリ秒以内に作用する微小突起部材1cm^(2)当たり少なくとも0.05ジュールの動力で角質層に衝突するように該接触面を該微小突起部材に接触させることを特徴とする装置。)

1b)”30. The device of claim 29 wherein said agent is a drug or a vaccine.
31. The device of claim 29, wherein said agent comprises a coating on the microprotrusion member.”(刊行物1 第19ページ第11?14行)
(【請求項30】
該作用物質は薬剤またはワクチンであることを特徴とする請求項29記載の装置。
【請求項31】
該作用物質は微小突起部材の上の被膜を含んでいることを特徴とする請求項29記載の装置。)

1c)”[00025] The impact spring 20 is selected to apply a force to the piston which achieves a predetermined impact of the microprotrusion member 44 against the stratum corneum. The microprotrusion member 44 is impacted with an energy which provides a desired skin penetration with the microprotrusions. The impact spring 20 is also preferably selected to achieve the desired skin penetration without exceeding an impact which causes discomfort to the patient.”(刊行物1 第7ページ第32行?第8ページ第5行)
(衝撃用のバネ20は、角質層に対して微小突起部材44の予め定められた衝撃を与える力をピストンにかけるように選ばれる。微小突起部材44は。微小突起によって皮膚に対し所望の貫入が達成されるエネルギーで衝突する。また衝撃用のバネ20は、患者に対して不快な気持ちを与えるような衝撃値を越えることなく、皮膚に対して所望の貫入が得られるように選ばれることが好ましい。)

1d)”EXAMPLES
[00028] The following are examples of applicator systems having impact springs which provide acceptable power per unit area for delivery of a microprotrusion member, as tested on human skin.”(刊行物1 第8ページ第30行?第33行)
((実施例)
微小突起部材により送り込みを行なう際、許容できる単位面積当たりの力を与える衝撃用のバネをもったアプリケーター装置を用い、人の皮膚に対して試験した例を下記に示す。)

1e)”[00029] The impact spring 20 is preferably selected to deliver a minimum amount of energy of 0.05 Joules per cm^( 2 ), which is delivered in less than 10 milliseconds (msec). A preferred amount of energy is a minimum of 0.10 Joules per cm ^(2) , which is delivered in less than 1 msec. A maximum amount of energy delivered by the impact spring 20 is about 0.3 Joules per cm ^(2 ). The maximum amount of energy delivered has been determined based on the balance between the use of additional energy to achieve additional blade penetration and a desire to prevent discomfort (e.g. pain and bruising) caused by impacting the stratum corneum with the microprotrusion member.”(刊行物1 第9ページ第9行?第17行)
(衝撃用のバネ20は10ミリ秒以内で0.05ジュール/cm^(2)の最小エネルギーを送り込むように選ばれることが好ましい。好適なエネルギーの量は1ミリ秒以内で最低0.10ジュール/cm^(2)が送り込まれる量である。『衝撃用のバネ20により送り込まれるエネルギーの最大量は、1cm^(2)あたり約0.3ジュールである。』衝撃用のバネ20によって送り込まれるエネルギーの最大量は、刃先の余分の貫入によって得られる余分なエネルギーと微小突起部材が角質層に衝撃を与えることによって引き起こされる不快感(例えば痛みおよび挫傷感)との間のバランスに基いて決定された。)(上記『』部分は、日本語訳とした特表2004-510535号公報の記載から脱落しているため、当審が訳を行った部分である。)

1f)”Example 1
[00041]Titanium microprotrusion embers comprising a circularsheet (sheet area was 2 cm ^(2 )) having microprotrusions with the shape and configuration shown in FIG. 5 (microprotrusion length of 360μm, and a microprotrusion density of 190 microprotrusions/cm ^(2) ) were coated with the model protein vaccine ovalbumin. A 200 mg/mL aqueous coating solution of fluorescein- tagged ovalbumin was prepared. For coating, the microprotrusion members were immersed briefly in this solution, blown dry, and allowed to dry overnight at room temperature. Subsequent analysis demonstrated that the microprotrusion members were coated with ovalbumin at 200 to 250 μg/cm^( 2 ). ”(刊行物1 第13ページ第3行?第12行)
(実施例1
図5に示したような形および形態の微小突起(微小突起の長さが360μm、微小突起の密度は1cm^(2)当たり190個の微小突起)を有する円形シート(シートの面積2cm^(2))から成るチタンの微小突起部材に、モデル蛋白質ワクチンの卵アルブミンを被覆した。フルオレセインで標識を付けた卵アルブミンを200mg/mlの割合で含む被覆用水溶液をつくった。被覆を行なうために微小突起部材をこの溶液に短時間浸漬し、通気乾燥し、室温で一晩乾燥した。その後で分析を行なった結果、微小突起部材は200?250μg/cm^(2)の割合で卵アルブミンで被覆されていることが示された。)

1g)刊行物1における装置は、「角質層を通して作用物質を送り込む・・装置」(上記1a)の記載)であること、及び「該作用物質は薬剤またはワクチンであること」(上記1b)の記載)から、「薬剤を角質層を通して送り込む装置」であるといえる。

1h)上記1b)「作用物質は微小突起部材の上の被膜を含んでいる」及び、1f)「被覆を行なうために微小突起部材をこの溶液に短時間浸漬し、通気乾燥し、室温で一晩乾燥した。」の記載から、微小突起部材の上の被膜は、薬剤またはワクチンなどの溶液に浸漬して乾燥することにより形成したものであるといえる。

1i)FIG.2には、微小突起部材44が、角質層と接触する表面である保持用のリング34の第2の端42の近傍に配置されていることが図示されていることから、微小突起部材44は、皮膚の近傍に配置されているといえる。

1j)上記1d)において、装置を人の皮膚に対して試験した例が記載されているから、薬剤を角質層を通して送り込む装置は、被験者の皮膚の角質層を対象としたものであるといえる。

1k)上記1e)の記載「衝撃用のバネ20は10ミリ秒以内で0.05ジュール/cm^(2)の最小エネルギーを送り込むように選ばれることが好ましい。」及び、「衝撃用のバネ20により送り込まれるエネルギーの最大量は、1cm^(2)あたり約0.3ジュールである。」から、微小突起部材が10ミリ秒以内に作用する微小突起部材1cm^(2)当たりのエネルギーの最小値は、0.05ジュール/cm^(2) であって、最大値は、約0.3ジュール/cm^(2) であるといえる。

以上の1a)?1k)の記載を総合すると、刊行物1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「薬剤を被験者の角質層を通して送り込む装置であって、
1個またはそれ以上の角質層穿孔用の微小突起を有する微小突起部材を具備し、
微小突起部材が、薬剤に浸漬して乾燥することによって形成した被膜を有するものであって、
微小突起部材が、皮膚に対して所望の貫入が達成されるエネルギーで衝突するようなものであって、被験者の皮膚の近傍に配置されており、
微小突起部材が10ミリ秒以内に作用する微小突起部材1cm^(2)当たり0.05?約0.3ジュールの動力で角質層に衝突するようにし、
それによって、1個またはそれ以上の角質層穿孔用の微小突起が、1個またはそれ以上の角質層を通る微小な溝孔をつくって被験者の角質層を通して薬剤を送り込む装置。」

(2)刊行物2
原査定に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物2には、「マイクロニードルデバイスおよびマイクロニードル送達装置」に関して以下の記載がある。(日本語訳として、刊行物2のパテントファミリーである特表2005-533625号公報の記載内容を援用する。)

2a)”As discussed above, the methods of microneedle device delivery involve reaching a desired velocity that is effective to force the microneedles through the stratum corneum layer of the skin. The desired velocity is, however, preferably controlled to limit or prevent stimulation of the underlying nerve tissue that would result in the sensation of pain. In connection with the present invention, the maximum velocity achieved by the piston may preferably be 20 meters per second (m/s) or less, potentially 15 m/s or less, or possibly 10 m/s or less. In some instances, it may be more preferred that the maximum velocity be 8 m/s or less. At the lower end of the range of desired velocities, it may be preferred that the desired minimum velocity achieved by the piston be 2 m/s or more, possibly 4 m/s or more, possibly more preferably 6 m/s or more.”
(刊行物2 第13ページ第10行?第19行)
(上述した通り、マイクロニードルデバイス送達方法には、マイクロニードルを皮膚の角質層へ有効に押し付ける所望の速度に到達させることが含まれる。しかしながら、痛みの感覚となる下にある神経組織の刺激を和らげる、または防ぐために、所望の速度は制御されるのが好ましい。本発明に関して、ピストンにより得られる最大速度は、好ましくは1秒当たり20メートル(m/s)以下、場合によっては15m/s以下、さらに場合により10m/s以下である。場合によっては、最大速度は8m/s以下であるのがより好ましい。所望の速度範囲の下端では、ピストンにより得られる所望の最低速度は2m/s以上、場合によっては4m/s以上、さらには6m/s以上がより好ましい。)

(3)刊行物3
原査定に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物3には、「皮膚アクセス部材」に関して以下の記載がある。(日本語訳として、刊行物3のパテントファミリーである特表2005-516685号公報の記載内容を援用する。)

3a)”[00113] An applicator for mechanically applying the device to a patient can control the velocity of the dermal-access members. For example, an applicator such as a Minimed SOF-SERTER^(TM )insertion device or a BD INJECT-EASE^(TM) device can be modified to apply the device to a user at a desired velocity. The device is driven toward the skin by springs contained in the applicator and results in the dermal-access members seating into the skin of a subject. Among other factors, the strength of the springs determines the velocity of the dermal-access members.
[00114] Experiments have shown that there is a continuum of velocity ranges within which dermal-access member seating improves with velocity, for a given skin type, manifold mass, and needle sharpness.
[00115] Initial seating experiments in Yorkshire pigs utilized a single spring rate of about 5 lbf/in. This allowed a 1.7 gram manifold to be propelled at about 6.3 m/s. At this velocity, most 1 mm and 3 mm dermal-access members seated without leaking. However, a large number of manifolds did not have enough energy to seat the dermal-access members to the required depth. Heavier manifold tests, from a drop-center design, had velocities of about 3 m/s. At this velocity, most of the 1 mm dermal-access members leaked. Similarly, most of the 3 mm dermal-access members produced very shallow blebs. One manifold arrangement uses two springs with spring constants of 3.2 lb/in, and is less massive than other manifolds. This manifold arrangement enables a manifold velocity of about 12 m/s or greater. With this arrangement, nearly 100% of the dermal-access members seated properly. Accordingly, it has been shown that, for this arrangement, a velocity of about 6 m/s to 18 m/s is ideal, optionally about 6 m/s to about 25 m/s. It is noted, however, that these resultant, calculated velocities were calculated based on energy conservation equations based on known initial forces, and does not account for any friction within the applicator or friction of the dermal-access members passing through the skin. The actual velocities in this example could be much less, for example, 50% less.”(刊行物3 第22ページ第1行?26行)
(デバイスを患者に機械的に適用するためのアプリケータは皮膚アクセス部材の速度を制御可能である。例えば、Minimed SOF-SERTER(商標)という挿入デバイスや、BD INJECT-EASE(商標)というデバイスなどのアプリケータを変更し、所望速度でユーザにデバイスを適用するようにすることができる。アプリケータ内に収納されたばねにより皮膚に向けてデバイスを駆動することで、対象の皮膚内に皮膚アクセス部材が位置づけられる。他の要素のうち、ばねの強さが皮膚アクセス部材の速度を決定する。
与えられた皮膚の種類に対する速度、マニフォールド質量および針の鋭さとともに皮膚アクセス部材に位置づけが良好となってゆくような、連続した速度範囲があることが実験で示された。
ヨークシャー豚に対する最初の位置づけ実験では、ばね率約5lbf/インチの単一のばねを用いた。これにより、1.7gのマニフォールドを約6.3m/sで推進できた。この速度で、1mmおよび3mmの皮膚アクセス部材のほとんどが漏洩なく位置づけられた。しかし多数のマニフォールドにとっては、所要深さに皮膚アクセス部材を位置づけるのに十分なエネルギではなかった。ドロップセンターデザインより重いマニフォールドをテストしたところ、約3m/sの速度であった。この速度では、1mmの皮膚アクセス部材のほとんどから漏れが生じた。同様に、3mmの皮膚アクセス部材のほとんどでは非常に浅いブレブを生じるだけであった。1マニフォールドではばね定数3.2lb/インチの2つのばねを用い、他のマニフォールドほどは重くないものとした。このマニフォールド構成によって約12m/s以上のマニフォールド速度が得られる。この構成では、100%に近い皮膚アクセス部材が適切に位置づけられた。従って、この構成については、約6m/sから約18m/sの速度が理想的であり、約6m/sから約25m/sとすることもできる。しかし、これらの結果の、計算された速度は、初期の力が既知であることに基づきエネルギ保存の方程式に基づいて計算されたものであり、アプリケータ内の摩擦あるいは皮膚を通る皮膚アクセス部材の摩擦は計算に入っていない。この例における実際の速度はかなり小さく、例えば50%少ないものとなり得る。)

3.発明の対比
本願補正発明と、引用発明とを対比すると、引用発明の「薬剤を被験者の角質層を通して送り込む装置」は、本願補正発明の「薬剤を被験者の角質層を通して伝達する装置」に相当し、引用発明の「1個またはそれ以上の角質層穿孔用の微小突起」は、本願補正発明の「1つ又は複数の角質層を穿刺する微小突起」に相当し、引用発明の「薬剤に浸漬して乾燥することによって形成した被膜を有する」ことは、本願補正発明の「薬剤を含有するドライコーティングを含む」ことに相当し、引用発明の「エネルギー」は、本願補正発明の「衝撃力」に相当し、引用発明の「皮膚に対して所望の貫入が達成される」は、本願補正発明の「角質層を突き刺す」ことに相当し、引用発明の「被験者の皮膚の近傍に配置」されることは、本願補正発明の「被験者の皮膚部位付近に配置」されることに相当し、引用発明の「動力」は、本願補正発明の「エネルギー」に相当し、引用発明の「10ミリ秒以内に作用する」ことは、本願補正発明の「10ミリ秒以内の貫入期間にわたって与え」ることに相当し、引用発明の「微小な溝孔」は、本願補正発明の「微小スリット」に相当する。そして、引用発明の「1個またはそれ以上の角質層穿孔用の微小突起が、1個またはそれ以上の角質層を通る微小な溝孔をつくって被験者の角質層を通して薬剤を送り込む」ことは、微小突起部材が、薬剤に浸漬して乾燥することによって形成した被膜を有するものであるから、本願補正発明の「角質層を穿刺する微小突起の少なくとも1つが、被験者の角質層を通る微小スリットを形成し、かつ、微小スリットを通してドライコーティングとしての薬剤が伝達」することに相当する。
さらに、引用発明における、「1cm^(2)当たり0.05?約0.3ジュールの動力」と、本願補正発明における、「1cm^(2)当たり約0.05?3ジュールの範囲のエネルギ」とは、それらの数値範囲に関して、「1cm^(2)当たり0.05?約0.3ジュールの範囲のエネルギ」である限りにおいて一致する。

よって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「薬剤を被験者の角質層を通して伝達する装置であって、
1つ又は複数の角質層を穿刺する微小突起を有する微小突起部材であって、前記微小突起が前記薬剤を含有するドライコーティングを含み、前記微小突起部材が衝撃力で前記被験者の角質層を突き刺すように、前記被験者の皮膚部位付近に配置された前記微小突起部材を含み、
それによって前記微小突起部材は、前記角質層との衝突時に前記微小突起部材の1cm^(2)当たり0.05?約0.3ジュールの範囲のエネルギを10ミリ秒以内の貫入期間にわたって与え、
それによって前記角質層を穿刺する微小突起の少なくとも1つが、前記被験者の前記角質層を通る微小スリットを形成し、かつ、前記微小スリットを通してドライコーティングとしての前記薬剤が伝達される、装置。」

[相違点1]
角質層との衝突時に10ミリ秒以内の貫入期間にわたって与えられる微小突起部材の1cm^(2)当たりのエネルギーの数値範囲に関して、本願補正発明では、下限値が約0.05ジュール、上限値が3ジュールであるのに対して、引用発明では、下限値が0.05ジュールであって、上限値が約0.3ジュールである点。

[相違点2]
本願補正発明においては、「微小突起部材は0.01mm/秒を上回る速度で皮膚に接触」するのに対して、引用発明においては、微小突起部材が皮膚に接触する速度がどの程度のものか不明である点。

4.当審の判断
[相違点1について]
引用発明において、角質層との衝突時に10ミリ秒以内の貫入期間にわたって与えられる微小突起部材の1cm^(2)当たりのエネルギーの数値範囲の下限値である0.05ジュールを約0.05ジュールとすること、さらに、該エネルギーの数値範囲の上限値を、約0.3ジュールから3ジュールとすることは、被験者の皮膚の性質等を考慮して、当業者であれば適宜なしうることであって、該エネルギーの数値範囲の上限値を3ジュールとしたことによる臨界的意義も格別見出せない。

[相違点2について]
マイクロニードル等を皮膚に所望の深さとなるように有効に押し付けるためにマイクロニードル等を皮膚に接触する速度を、0.01mm/秒を上回る速度とすることは、上記刊行物2及び3の記載内容(2.(2)2a)/2.(3)3a))からみて周知の技術的事項であって、引用発明において、皮膚に対する微小突起の所望の貫入を達成するために上記周知の技術的事項を適用して、微小突起が0.01mm/秒を上回る速度で皮膚に接触するように構成することは、当業者であれば容易になし得ることである。

そして、本願補正発明の奏する効果についてみても、引用発明及び周知の技術的事項に基いて、当業者であれば予測できる範囲内のものである。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができない。

5.結び
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例とされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は上述のように却下されたので、本願の請求項1に係る発明は。平成24年9月25日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下「本願発明」という。)

「【請求項1】
薬剤を被験者の角質層を通して伝達する装置であって、
1つ又は複数の角質層を穿刺する微小突起を有する微小突起部材であって、前記微小突起部材が衝撃力で前記被験者の角質層を突き刺すように、前記被験者の皮膚部位付近に配置された前記微小突起部材を含み、
それによって前記微小突起部材は、前記角質層との衝突時に前記微小突起部材の1cm^(2)当たり約0.05?3ジュールの範囲のエネルギを10ミリ秒以内の貫入期間にわたって与え、それによって前記微小突起部材は0.01mm/秒を上回る速度で皮膚に接触し、それによって前記角質層を穿刺する微小突起の少なくとも1つが、前記被験者の前記角質層を通る微小スリットを形成し、かつ、前記微小スリットを通して前記薬剤が伝達される、装置。」

2.引用刊行物とその記載内容
引用刊行物とその記載内容は、上記「第2.2.」に記載したとおりのものである。

3.発明の対比・判断
本願発明は、上記「第2.」で検討した本願補正発明における「微小突起」について、「薬剤を含有するドライコーティングを含」むことの限定を省き、さらに、本願補正発明における「薬剤」について「ドライコーティングとしての」ものであることの限定を省いたものである。そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに上記の限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2.4.」に記載したとおり、引用発明及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.結び
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-07-09 
結審通知日 2014-07-16 
審決日 2014-07-29 
出願番号 特願2008-504343(P2008-504343)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61M)
P 1 8・ 575- Z (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安田 昌司  
特許庁審判長 山口 直
特許庁審判官 松下 聡
蓮井 雅之
発明の名称 微小突起で皮膚を穿刺する装置及び方法  
代理人 相原 礼路  

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