ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B66B |
---|---|
管理番号 | 1295545 |
審判番号 | 不服2014-1889 |
総通号数 | 182 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-02-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-02-03 |
確定日 | 2014-12-11 |
事件の表示 | 特願2007-512379「エレベータ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月12日国際公開、WO2006/106575〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2005年3月31日を国際出願日とする出願であって、平成18年3月1日に国内書面が提出され、平成23年5月26日付けで拒絶理由通知がされ、平成23年7月27日に意見書及び手続補正書が提出され、平成24年2月1日付けで最後の拒絶理由通知がされ、平成24年4月5日に意見書及び手続補正書が提出され、平成25年2月7日付けで再度拒絶理由通知がされ、平成25年4月4日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年11月5日付けで拒絶査定がされ、平成26年2月3日に拒絶査定に対する審判請求がされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成25年4月4日付け提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲並びに出願当初の明細書及び図面からその特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものと認めるところ、その請求項1の記載は以下のとおりである。 「 【請求項1】 エンコーダからの検出信号に基づいてかごの運転を制御するエレベータ制御部、及び エレベータの状態を検出するための上記エンコーダとは異なるセンサからの検出信号に基づいてエレベータの異常を検出し、エレベータを安全な状態に移行させるための指令信号を出力する電子安全コントローラ を備え、 上記エレベータ制御部及び上記電子安全コントローラは、それぞれ独立して上記かごの速度を求める構成となっており、 上記エレベータ制御部は、上記電子安全コントローラと通信可能になっており、かつ所定のタイミングで上記電子安全コントローラとの通信状態を確認可能になっており、 上記エレベータ制御部は、上記電子安全コントローラとの通信状態に異常が検出された場合、上記かごが走行中であれば上記かごを最寄り階に停止させ、上記かごが停止中であれば通常自動運転を不可とするエレベータ装置。」(以下、「本願発明」という。) 第3 引用文献に記載された発明 (1)本願の出願前に頒布された刊行物であって、原査定の拒絶の理由に引用された特開2004-137055号公報(以下、「引用文献」という。)には、図面とともに次の記載がある。なお、下線は当審が付したものである。 ア.「【0004】 図15は従来のエレベータ制御装置の構成を示す図であり、巻上機1の駆動によってロープ2を介して乗りかご3とカウンタウエイト4とをつるべ式に昇降させるロープ式エレベータにおけるエレベータ制御装置の構成が示されている。 【0005】 主制御装置を構成する主制御回路(CPU)11は、巻上機1の軸端1aに設けられた回転センサ5からの出力信号を受けて巻上機1を駆動制御するなどのエレベータの基本制御を行う。また、この主制御回路11とは別系統で、終端階強制減速装置を構成する制御回路(CPU)21が設けられている。 【0006】 この終端階強制減速装置は、乗りかご3が昇降路の終端階に向けて走行中に所定の位置に対して速度が定格速度以内に減速できていない状態を検出して安全に停止させるための安全装置であって、乗りかご3の位置を検出する複数のリミットスイッチ6a?6fを昇降路の終端階(最上階付近と最下階付近)に所定間隔毎に配置して、これらのリミットスイッチ6a?6fの状態を監視することで実現される。図15の例では、リミットスイッチ6a?6cを最下階付近、リミットスイッチ6d?6fを最上階付近に配設した場合が示されている。この終端階強制減速装置の制御回路21には、上記各リミットスイッチ6a?6fの出力が接続されており、また、ガバナ(調速機)に設けられたかご速度検出器7の出力が接続されている。 【0007】 また、昇降路ピット内には、乗りかご3用のバッファ8aとカウンタウエイト4用のバッファ8bが設けられている。バッファ8a、8bは、それぞれピット底部に設置されており、乗りかご3やカウンタウエイト4の衝撃を緩和するものである。 【0008】 図16に従来のリレー回路の構成を示す。 【0009】 終端階強制減速装置の制御回路21と終端階強制減速リレー(1SR)31が接続されており、制御回路21が出力をONすれば、終端階強制減速リレー(1SR)31がONする。安全回路リレー(SCR)32の条件に終端階強制減速リレー(1SR)31が入っており、終端階強制減速リレー(1SR)31がOFFすれば、安全回路リレー(SCR)32がOFFする。また、ブレーキ制御回路リレー(BKR)33の条件に安全回路リレー(SCR)32が入っており、安全回路リレー(SCR)32がOFFすると、ブレーキ制御回路リレー(BKR)33がOFFする。ブレーキ制御回路リレー(BKR)33がONしているときには、ブレーキコイル(BK)34が通電され、巻上機1のブレーキが開放された状態(ブレーキOFF)となる。 【0010】 一方、ブレーキ制御回路リレー(BKR)33がOFFすると、ブレーキコイル(BK)34の通電が遮断され、巻上機1のブレーキが釈放された状態(ブレーキON)となる。また、主制御回路11には、モータ駆動制御用のインバータ35が接続されており、インバータ35を制御するゲート出力は、安全回路リレー(SCR)32がOFFすると遮断される。 【0011】 ここで、終端階減速装置の制御回路21は、通常時は終端階強制減速リレー(1SR)31をONしている。これにより、ブレーキは作用せず、乗りかご3は終端位置で通常に停止する。また、乗りかご3が昇降路内のリミットスイッチ6a?6fを通過したときの乗りかご3の速度が所定値を超えている場合に、終端階強制減速リレー(1SR)31をOFFしてインバータ35を停止させると共に、巻上機1のブレーキをかけて乗りかご3がバッファ8aに当たる時に(上昇運転の時はカウンタウエイト4がバッファ8bが当たる時)の定格速度以下に強制的に減速させて停止させる。」(段落【0004】ないし【0011】) イ.「【0035】 【発明の実施の形態】 以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。 【0036】 (第1の実施の形態) 図1は本発明の第1の実施形態におけるエレベータ制御装置の構成を示す図である。なお、図1の装置構成において、従来例として図15に示したエレベータ制御装置の構成と共通する部分には同一符号を付して説明するものとする。 【0037】 図1に示すように、巻上機1の駆動によってロープ2を介して乗りかご3とカウンタウエイト4とをつるべ式に昇降させるロープ式エレベータにおけるエレベータ制御装置において、エレベータの基本制御を行う主制御回路(メインコントローラ)11と別に、終端階強制減速装置の制御回路(サブコントローラ)21が独立して設けられている。 【0038】 終端階強制減速装置の制御回路21には、乗りかご3の終端階付近での位置を検出する複数のリミットスイッチ6a?6fの出力と、乗りかご3の速度を検出するかご速度検出器7の出力が接続されている。図1の例では、最下階側から上方向にリミットスイッチ6a、6b、6cが所定間隔毎に一列に配設されており、最上階側から下方向にリミットスイッチ6d、6e、6fが所定間隔毎に一列に配設されている。これらのリミットスイッチ6a?6fはそれぞれの位置で乗りかご3に取り付けられた図示せぬ着検板の通過を検知して、その位置信号を制御回路21に出力する。 【0039】 制御回路21は、終端階減速停止装置をソフトウェア的に実現するものであり、マイクロコンピュータ(CPU)からなる。この制御回路21には、上記各リミットスイッチ6a?6fからの信号と、図示せぬガバナ(調速機)の軸端に設けられたかご速度検出器7からの信号が入力される。これらの信号をソフトウェア的に処理して乗りかご3を終端階付近で減速停止させる。 【0040】 ここで、制御回路21には、WDT監視回路22が設けられている。WDT監視回路22は、制御回路21が正常動作しているときには0?Nのカウント動作を繰り返し行い、制御回路21に異常が発生し、カウント値が所定値Nになっても0クリアできない状況のときに(これをWDTトリップと呼ぶ)、WDT信号をONにして自動リセット回路24に出力する。このWDT監視回路22は主制御回路11にも接続されており、主制御回路11ではWDT監視回路22の状態を常に監視できるようになっている。 【0041】 自動リセット回路24は、WDT監視回路のWDT信号がONになったときに、制御回路21に対してリセット信号を出力する。この場合、図15に示した従来のリセット回路22では保守員がリセット解除操作を行うまでリセット信号が保持されていたが、この自動リセット回路24は自動リセット解除機能を備えており、例えばタイマにより一定時間後にリセット解除を行うように構成されている。 【0042】 また、昇降路ピット内には、乗りかご3用のバッファ8aとカウンタウエイト4用のバッファ8bが設けられている。バッファ8a、8bは、それぞれピット底部に設置されており、乗りかご3やカウンタウエイト4の衝撃を緩和するものである。 【0043】 図2に本発明のリレー回路の構成を示す。 【0044】 図2において、図16に示した従来のリレー回路と同じ部分には同一符号を付してある。従来と異なる点は、終端階強制減速装置が乗りかごの速度異常を検出した際に安全回路を遮断してエレベータを緊急停止させるリレーをbcon(ON設定)としていることである。 【0045】 終端階強制減速装置の制御回路21と終端階強制減速リレー(1SR)31が接続されており、制御回路21が出力をOFFすれば、終端階強制減速リレー(1SR)31はOFFする。安全回路リレー(SCR)32の条件に終端階強制減速リレー(1SR)31が入っており、終端階強制減速リレー(1SR)31がOFFすれば安全回路リレー(SCR)32がOFFする。ブレーキ制御回路リレー(BKR)33の条件に安全回路リレー(SCR)32が入っており安全回路リレー(SCR)32がOFFすると、ブレーキ制御回路リレー(BKR)33がOFFする。ブレーキ制御回路リレー(BKR)33がONしているときには、ブレーキコイル(BK)34が通電され、巻上機1のブレーキが開放された状態(ブレーキOFF)となる。一方、ブレーキ制御回路リレー(BKR)33がOFFすると、ブレーキコイル(BK)34の通電が遮断され、巻上機1のブレーキが釈放された状態(ブレーキON)となる。 【0046】 また、主制御回路11には、モータ駆動制御用のインバータ35が接続されており、インバータ35を制御するゲート出力は、安全回路リレー(SCR)32がOFFすると遮断される。 【0047】 ここで、終端階減速装置の制御回路21は、通常時は終端階強制減速リレー(1SR)31をONしている。これにより、ブレーキは作用せず、乗りかご3は終端位置で通常に停止する。また、乗りかご3が昇降路内のリミットスイッチ6a?6fを通過したときの乗りかご3の速度が所定値を超えている場合に、終端階強制減速リレー(1SR)31をOFFしてインバータ35を停止させると共に、巻上機1のブレーキをかけて乗りかご3がバッファ8aに当たる時に(上昇運転の時はカウンタウエイト4がバッファ8bが当たる時)の定格速度以下に強制的に減速させて停止させる。 【0048】 次に図3および図4を参照しながら、本発明の第1の実施形態として動作を説明する。 【0049】 図3は第1の実施形態における終端階強制減速装置の制御回路21の処理を示すフローチャートである。 【0050】 終端階強制減速装置のリセットが解除された後、まず、制御回路21は初期化を行った後(ステップA11)、WDT信号のラッチをクリアして(ステップA12)、速度監視処理を行う(ステップA13)。また、WDT監視回路22のタイマ動作をクリアして(ステップA14)、ステップA13に戻り速度監視処理を繰り返し行う。 【0051】 すなわち、制御回路21がWDTトリップすると、WDT監視回路22からWDT信号が出力されるが、自動リセット回路24によりそのWDT信号の出力に伴うリセット信号を自動的に解除する。このリセット信号の自動解除により、制御回路21が正常に立ち上がれば、速度監視処理が継続的に行われる。この場合、制御回路21がノイズの影響などによって一時的にWDTトリップしたのであれば、リセット信号を自動解除しても正常復帰することができる。一方、プログラムが記憶されたメモリが誤動作しているなどの正常復帰できない異常が生じていれば、WDT信号はクリアされない。 【0052】 図4は第1の実施形態における主制御回路(主制御装置)11の処理を示すフローチャートである。 【0053】 主制御回路11は、WDT監視回路22の出力であるWDT信号(WDT_A)のDIポートをリードし(ステップB11)、そのWDT_Aが“0”か否かを確認する(ステップB12)。この場合、制御回路21がWDTトリップしていればWDT_Aは“1”となり、正常であれば“0”となる。WDT_Aが“0”であれば(ステップB12のYes)、主制御回路11はここでの処理を終了する。 【0054】 一方、WDT_Aが“1”であれば(ステップB12のNo)、主制御回路11は当該主制御回路11に設けられた図示せぬタイマをスタートして(ステップB13)、WDT信号(WDT_A)のDIポートを再度リードする(ステップB14)。そして、上記タイマが予め設定された時間を計時するまでの間に、WDT_Aが“0”になれば(ステップB15のYes)、主制御回路11は制御回路21が正常復帰したものと判断し、タイマをクリアして(ステップB18)、ここでの処理を終える。この場合、乗りかご3の運転は継続的に行われている。また、タイムアウトしてもWDT_Aが“1”であった場合には(ステップB15、ステップB16のYes)、主制御回路11は制御回路21に通常復帰不能な異常が生じたものと判断して、乗りかご3を最寄りの階に停止させる(ステップB17)。 【0055】 以上のように、主制御装置が健全であれば、終端階強制減速装置の制御回路21がWDTトリップした場合に、自動リセット回路24によりリスタートをかけて処理を再開できれば、乗りかご3の運転を継続することができるので、制御回路21の誤動作により終端階でない位置で不用意に乗りかご3を停止させて、乗客を乗りかご3内に閉じ込めてしまうことを防止できる。」(段落【0035】ないし【0055】) ウ.「【0056】 (第2の実施の形態) 次に、本発明の第2の実施形態について図5および図6を参照して説明する。 【0057】 図5は本発明の第2の実施形態におけるエレベータ制御装置の構成を示す図であり、図1(第1の実施形態)と同じ部分には同一符号を付してある。なお、リレー回路の構成については図2と同様であるため、ここでは説明を省略するものとする。 【0058】 第2の実施形態において、上記第1の実施形態と異なる点は、主制御回路11と終端階強制減速装置の制御回路21との間に通信手段25が追加されていることである。この通信手段25は主制御回路11が制御回路21との間のハンドシェイクにより異常の有無をソフト的に検出するためのものであり、例えば双方向で書込み/読み込みが可能なデュアルポートRAMやシリアル伝送装置などが用いられる。また、主制御回路11は自動リセット回路24を直接操作して、制御回路21をリセットしたり、リセット解除できるようになっている。 【0059】 図6は第2の実施形態における主制御回路11の動作を示すフローチャートであり、制御回路21の異常を検出する方法としてインクリメントリターンを用いた場合の処理が示されている。すなわち、主制御回路11から制御回路21に対してある値を与えて、それがインクリメントされて戻ってきた場合に制御回路21が正常動作しているものとみなし、インクリメントされていなかった場合に制御回路21が異常動作しているものと見なす。 【0060】 図6に示すように、ます、主制御回路11は自動リセット回路24にリセット解除指令を出して終端階強制減速装置の制御回路21を再起動する(ステップC11)。 【0061】 ここで、主制御回路11は制御回路21と共有のインクリメントリターンエリア(INC_A)のデータをリードすると共に(ステップC12)、前回のインクリメントリターン値(INCOLD_A)をリードして(ステップC13)、INC_AとINCOLD_Aの両者の値を比較する(ステップC14)。その結果、インクリメントリターンエリア(INC_A)のデータが前回のインクリメントリターン値(INCOLD_A)より更新されていれば、主制御回路11は制御回路21が正常動作しているものと判断し、現在のINC_Aの値を主制御回路11のローカルエリアであるINCOLD_Aに格納し(ステップC21)、INC_Aの値に1を加算してINC_Aに格納する(ステップC22)。この間、乗りかご3の運転は継続的に行われている。 【0062】 一方、INC_Aの値が前回と同じ値であった場合には、主制御回路11は当該主制御回路11に設けられた図示せぬタイマをスタートして(ステップC15)、インクリメントリターンエリア(INC_A)のデータを再度リードする(ステップC16)。そして、上記タイマが予め設定された所定の時間を計時するまでの間に、INC_Aの値が前回から更新されないままタイマアウトした場合に(ステップC17、ステップC18のYes)、主制御回路11は制御回路21が異常動作しているものと判断して、乗りかご3を最寄りの階へ停止させる(ステップC19)。 【0063】 このように、主制御装置が健全であれば、終端階強制減速装置の制御回路21がWDTトリップした場合に、終端階強制減速装置の制御回路21との間のハンドシェイクによりソフトリスタートをかけて処理を再開できれば、乗りかご3の運転を継続することができるので、上記第1の実施形態と同様に制御回路21の誤動作により終端階でない位置で不用意に乗りかご3を停止させて、乗客を乗りかご3内に閉じ込めてしまうことを防止できると共に、WDT信号の監視以外に、制御回路21の動作異常を検出する機能を追加することでより安全性を高めることができる。」(段落【0056】ないし【0063】) (2)ここで、上記(1)ア.ないしウ.及び図面から、次のことが分かる。 カ.上記イ.の段落【0036】及びウ.の段落【0057】の記載から、図5に示される第2の実施の形態、図15に示した従来例及び図1に示した第1の実施の形態は、同一符号が付された部分は同じ構成であることが分かる。 キ.上記ア.の段落【0005】及びイ.の段落【0037】並びに図1ないし図6及び図15(特に図5、図6)の記載から、主制御装置を構成する主制御回路(CPU)11は、回転センサ5からの出力信号に基づいて乗りかご3の運転を制御していることが分かる。 ク.上記ア.の段落【0005】ないし【0011】並びに図1ないし図6及び図15(特に図5、図6)の記載から、終端階強制減速装置を構成する制御回路(CPU)21は、乗りかご3の速度を検出するためのガバナ(調速機)に設けられたかご速度検出器7からの出力に基づいて乗りかご3が昇降路の終端階に向けて走行中に所定の位置に対して速度が定格速度以内に減速できていない状態を検出した場合、乗りかご3を安全に停止させるために終端階強制減速リレー(1SR)31をOFFにすることが分かる。 ケ.上記ア.の段落【0005】及びイ.の段落【0037】並びに図1ないし図6及び図15(特に図5、図6)の記載から、主制御装置を構成する主制御回路(CPU)11及び終端階強制減速装置を構成する制御回路(CPU)21は、それぞれ別系統で独立して構成されていることが分かる。 コ.上記ウ.の段落【0058】ないし【0063】並びに図1ないし図6及び図15(特に図5、図6)の記載から、図5、図6に示す第2の実施形態は、主制御装置を構成する主制御回路(CPU)11と終端階強制減速装置を構成する制御回路(CPU)21との間に通信手段25を有しており、かつ終端階強制減速装置を構成する制御回路(CPU)21の動作異常を検出可能になっており、主制御装置を構成する主制御回路(CPU)11は、終端階強制減速装置を構成する制御回路(CPU)21の動作異常が検出された場合、乗りかご3を最寄りの階へ停止させることが分かる。 (3)上記(1)及び(2)より、引用文献(特に第2の実施の形態)には、次の発明が記載されている。 「回転センサ5からの出力信号に基づいて乗りかご3の運転を制御する主制御装置を構成する主制御回路(CPU)11、及び 乗りかご3の速度を検出するためのガバナ(調速機)に設けられたかご速度検出器7からの出力に基づいて乗りかご3が昇降路の終端階に向けて走行中に所定の位置に対して速度が定格速度以内に減速できていない状態を検出した場合、乗りかご3を安全に停止させるために終端階強制減速リレー(1SR)31をOFFする終端階強制減速装置を構成する制御回路(CPU)21 を備え、 主制御装置を構成する主制御回路(CPU)11及び終端階強制減速装置を構成する制御回路(CPU)21は、それぞれ独立した構成となっており、 主制御装置を構成する主制御回路(CPU)11と終端階強制減速装置を構成する制御回路(CPU)21との間に通信手段25を有しており、かつ終端階強制減速装置を構成する制御回路(CPU)21の動作異常を検出可能になっており、 主制御装置を構成する主制御回路(CPU)11は、終端階強制減速装置を構成する制御回路(CPU)21の動作異常が検出された場合、乗りかご3を最寄りの階へ停止させるエレベータ。」(以下、「引用文献記載の発明」という。) 第4 対比 本願発明と引用文献記載の発明を対比する。 引用文献記載の発明における「回転センサ5」は、その構成、機能及び技術的意義からみて、本願発明における「エンコーダ」に相当し、以下同様に、「出力信号」は「検出信号」に、「乗りかご3」は「かご」に、「主制御装置を構成する主制御回路(CPU)11」は「エレベータ制御部」に、「乗りかご3の速度を検出する」は「エレベータの状態を検出する」に、「ガバナ(調速機)に設けられたかご速度検出器7」は「エンコーダとは異なるセンサ」に、「出力」は「検出信号」に、「乗りかご3が昇降路の終端階に向けて走行中に所定の位置に対して速度が定格速度以内に減速できていない状態を検出した場合、」は「エレベータの異常を検出し、」に、「終端階強制減速装置を構成する制御回路(CPU)21」は「電子安全コントローラ」に、「乗りかご3を安全に停止させるために終端階強制減速リレー(1SR)31をOFFする終端階強制減速装置を構成する制御回路(CPU)21」は「エレベータを安全な状態に移行させるための指令信号を出力する電子安全コントローラ」に、「主制御装置を構成する主制御回路(CPU)11と終端階強制減速装置を構成する制御回路(CPU)21との間に通信手段25を有しており」は「エレベータ制御部は、上記電子安全コントローラと通信可能になっており」に、「乗りかご3を最寄りの階へ停止させる」は「上記かごが走行中であれば上記かごを最寄り階に停止させ」に、「エレベータ」は「エレベータ装置」に、それぞれ相当する。 また、引用文献記載の発明における「主制御装置を構成する主制御回路(CPU)11及び終端階強制減速装置を構成する制御回路(CPU)21は、それぞれ独立した構成」と、本願発明における「上記エレベータ制御部及び上記電子安全コントローラは、それぞれ独立して上記かごの速度を求める構成」は、「上記エレベータ制御部及び上記電子安全コントローラは、それぞれ独立した構成」という限りにおいて一致する。 さらに、引用文献記載の発明における「かつ終端階強制減速装置を構成する制御回路(CPU)21の動作異常を検出可能になっており、主制御装置を構成する主制御回路(CPU)11は、終端階強制減速装置を構成する制御回路(CPU)21の動作異常が検出された場合、乗りかご3を最寄りの階へ停止させる」と、本願発明における「かつ所定のタイミングで上記電子安全コントローラとの通信状態を確認可能になっており、上記エレベータ制御部は、上記電子安全コントローラとの通信状態に異常が検出された場合、上記かごが走行中であれば上記かごを最寄り階に停止させ、上記かごが停止中であれば通常自動運転を不可とする」は、「かつ上記電子安全コントローラとの状態を確認可能になっており、上記エレベータ制御部は、上記電子安全コントローラとの状態に異常が検出された場合、上記かごが走行中であれば上記かごを最寄り階に停止させる」という限りにおいて一致する。 1 一致点について したがって、両者は、 「エンコーダからの検出信号に基づいてかごの運転を制御するエレベータ制御部、及び エレベータの状態を検出するための上記エンコーダとは異なるセンサからの検出信号に基づいてエレベータの異常を検出し、エレベータを安全な状態に移行させるための指令信号を出力する電子安全コントローラ を備え、 上記エレベータ制御部及び上記電子安全コントローラは、それぞれ独立した構成となっており、 上記エレベータ制御部は、上記電子安全コントローラと通信可能になっており、かつ上記電子安全コントローラとの状態を確認可能になっており、 上記エレベータ制御部は、上記電子安全コントローラとの状態に異常が検出された場合、上記かごが走行中であれば上記かごを最寄り階に停止させるエレベータ装置。」である点で一致し、以下の点で相違する。 2 相違点について (1)「上記エレベータ制御部及び上記電子安全コントローラは、それぞれ独立した構成」に関して、本願発明においては、「上記エレベータ制御部及び上記電子安全コントローラは、それぞれ独立して上記かごの速度を求める構成」であるのに対し、引用文献記載の発明においては、「主制御装置を構成する主制御回路(CPU)11及び終端階強制減速装置を構成する制御回路(CPU)21は、それぞれ独立した構成」であるが、それぞれ独立してかごの速度を求める構成であるか否かは不明な点(以下、「相違点1」という。)。 (2)「エレベータ制御部」は「かつ上記電子安全コントローラとの状態を確認可能になっており、上記エレベータ制御部は、上記電子安全コントローラとの状態に異常が検出された場合、上記かごが走行中であれば上記かごを最寄り階に停止させる」ことに関して、本願発明においては、「かつ所定のタイミングで上記電子安全コントローラとの通信状態を確認可能になっており、上記エレベータ制御部は、上記電子安全コントローラとの通信状態に異常が検出された場合、上記かごが走行中であれば上記かごを最寄り階に停止させ、上記かごが停止中であれば通常自動運転を不可とする」のに対し、引用文献記載の発明においては、「かつ終端階強制減速装置を構成する制御回路(CPU)21の動作異常を検出可能になっており、主制御装置を構成する主制御回路(CPU)11は、終端階強制減速装置を構成する制御回路(CPU)21の動作異常が検出された場合、乗りかご3を最寄りの階へ停止させる」点(以下、「相違点2」という。)。 第5 相違点の検討 そこで、上記相違点について、以下に検討する。 1 相違点1について 上記「第3(1)ア.」の段落【0005】に、「主制御装置を構成する主制御回路(CPU)11は、巻上機1の軸端1aに設けられた回転センサ5からの出力信号を受けて巻上機1を駆動制御するなどのエレベータの基本制御を行う。」という記載、及び「回転センサ5」が本願発明の「エンコーダ」に相当することから判断すると、引用文献記載の発明における「主制御装置を構成する主制御回路(CPU)11」は、乗りかご3の速度を求める構成であると考えるのが自然である。 例え、そうでないとしても、エレベータの制御装置において、回転センサからの出力でかごの速度を求めることは本願出願前に周知な技術(例えば、特開2004-32849号公報の段落【0024】ないし【0027】参照。以下、「周知技術1」という。)であるので、「主制御装置を構成する主制御回路(CPU)11」が「回転センサ5」からの出力信号に基づいて乗りかご3の速度を求めるように構成することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。 したがって、上記相違点1は実質的な相違点ではないか、又は、引用文献記載の発明に周知技術1を適用して、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 なお、請求人が平成25年4月4日に提出した意見書の第2ページ第7ないし10行において、「上記引用文献1のエレベータ制御装置では、回転センサ5からの信号が主制御回路11に入力され、速度検出器7からの信号が制御回路21に入力されているため、主制御回路11と制御回路21とがそれぞれ独立してかごの速度を求めていると思われます。」と記載されており、請求人も相違点1が実質的な相違点でないことを認めている。 2 相違点2について 引用文献記載の発明において、「主制御装置を構成する主制御回路(CPU)11」は、「かつ終端階強制減速装置を構成する制御回路(CPU)21の動作異常を検出可能になっており、主制御装置を構成する主制御回路(CPU)11は、終端階強制減速装置を構成する制御回路(CPU)21の動作異常が検出された場合、乗りかご3を最寄りの階へ停止させる」ものであるが、「主制御装置を構成する主制御回路(CPU)11」と「終端階強制減速装置を構成する制御回路(CPU)21」との間の通信状態を確認して、通信状態に異常が検出された場合、乗りかご3を最寄りの階へ停止させるものか否か明確でない。しかし、上記「第3(1)ウ.」の段落【0059】ないし【0062】における、 「【0059】 図6は第2の実施形態における主制御回路11の動作を示すフローチャートであり、制御回路21の異常を検出する方法としてインクリメントリターンを用いた場合の処理が示されている。すなわち、主制御回路11から制御回路21に対してある値を与えて、それがインクリメントされて戻ってきた場合に制御回路21が正常動作しているものとみなし、インクリメントされていなかった場合に制御回路21が異常動作しているものと見なす。 ・・・(中略)・・・ 【0062】 ・・・(中略)・・・主制御回路11は制御回路21が異常動作しているものと判断して、乗りかご3を最寄りの階へ停止させる(ステップC19)。」という記載によれば、「主制御装置を構成する主制御回路(CPU)11」と「終端階強制減速装置を構成する制御回路(CPU)21」との間の通信状態に異常がある場合、そもそもインクリメントリターンされないので、制御回路21が異常動作しているものと見なして、主制御回路11は制御回路21が異常動作しているものと判断して、乗りかご3を最寄りの階へ停止させると考えられる。すなわち、引用文献記載の発明は、実質的に「主制御装置を構成する主制御回路(CPU)11」と「終端階強制減速装置を構成する制御回路(CPU)21」との間の通信状態を確認しているといえるし、例え、そうでないとしても、エレベータ装置において、制御機器間の通信状態を確認可能とすることは本願出願前に周知な技術(例えば、特開2003-112869号公報の段落【0009】、【0021】等参照、特開2001-206657号公報の段落【0009】、【0022】及び【0040】等参照。以下、「周知技術2」という。)である。 また、異常を検出するための診断信号を所定周期で発生させることも本願出願前に周知な技術(例えば、特開平4-243784号公報の【請求項1】、段落【0013】及び【0014】等参照。以下、「周知技術3」という。)であり、さらに、異常が検出された場合、かごが停止中であれば自動運転を禁止することは、本願出願前に周知な技術(例えば、特開平11-79589号公報の【請求項1】、【請求項5】、及び段落【0034】等参照。以下、「周知技術4」という。)である。 してみると、引用文献記載の発明及び周知技術2ないし4は、いずれもエレベータの異常検出という制御技術分野で共通するので、引用文献記載の発明に周知技術2ないし4を適用して、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 3 本願発明の効果について そして、本願発明を全体として検討しても、引用文献記載の発明及び周知技術1ないし4から予測される以上の格別の効果を奏するとも認めることができない。 4 したがって、本願発明は、引用文献記載の発明及び周知技術2ないし4に基づいて、又は引用文献記載の発明及び周知技術1ないし4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用文献記載の発明及び周知技術2ないし4に基づいて、又は引用文献記載の発明及び周知技術1ないし4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-10-06 |
結審通知日 | 2014-10-07 |
審決日 | 2014-10-20 |
出願番号 | 特願2007-512379(P2007-512379) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B66B)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 藤村 聖子 |
特許庁審判長 |
中村 達之 |
特許庁審判官 |
林 茂樹 槙原 進 |
発明の名称 | エレベータ装置 |
代理人 | 吉田 潤一郎 |
代理人 | 大宅 一宏 |
代理人 | 飯野 智史 |
代理人 | 曾我 道治 |
代理人 | 上田 俊一 |
代理人 | 梶並 順 |