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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B22D
管理番号 1295650
審判番号 不服2013-24338  
総通号数 182 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-12-10 
確定日 2014-12-25 
事件の表示 特願2011- 22838「ダイカストマシン用射出スリーブの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 7月28日出願公開、特開2011-143473〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成13年5月30日に出願した特願2001-163309号(以下、「原出願」という。)の一部を平成23年2月4日に新たな特許出願としたものであって、平成25年4月16日付けで拒絶理由が通知され、同年6月19日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年9月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成25年12月10日に拒絶査定を不服とする審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がされたものである。

第2.平成25年12月10日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年12月10日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.補正後の本願発明
平成25年12月10日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
内筒と外筒からなる二層構造を備えるとともに、内筒が、金型との接続部に配置される先端近傍以外の部分を占める第一部分と、前記先端近傍を占め第一部分とは組成が異なる第二部分とで構成されるダイカストマシン用射出スリーブの製造方法であって、
鋼製の外筒相当部分を準備し、
内筒の第一部分のための第一の焼結原料粉末として、Siが4.0wt%以上5.1wt%以下、Moが15wt%以上26wt%以下、Bが2.5wt%以上3.6wt%以下で、残部がNiからなるニッケル合金粉末を準備し、
内筒の第二部分のための第二の焼結原料粉末として、Siが4.5wt%以上6.5wt%以下、Moが8wt%以上13wt%以下、Bが1.3wt%以上2.3wt%以下で、残部がNiからなるニッケル合金粉末を準備し、
缶体の中に外筒相当部分を収容し、
外筒相当部分の内側に中子をセットし,
外筒相当部分と中子との間の環状の隙間に、第二の焼結原料粉末を所定の高さまで充填し、
第二の焼結原料粉末の上に、第一の焼結原料粉末を缶体の上端まで充填し、
第一の焼結原料粉末及び第二の焼結原料粉末を焼結するとともに、これらの焼結体を互いに接合し、同時に、これらの焼結体を外筒相当部分に接合すること、
を特徴とし、
前記第二の焼結原料粉末を焼結した第二の合金は、前記第一の焼結原料粉末を焼結した第一の合金より破壊靭性値が高く、この破壊靭性値は33MPa・m^(l/2)以上であり、
かつ前記第二部分の長さは5?30mmであるダイカストマシン用射出スリーブの製造方法。」と補正された。

上記特許請求の範囲についての補正は、補正前の請求項1に記載された「先端近傍」について、上記下線部のように「金型との接続部に配置される」と限定するものを含み、この限定は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、原出願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物1(特開平11-300459号公報)、刊行物2(特開平6-71406号公報)、刊行物3(特開平7-150913号公報)には、それぞれ、以下の事項が記載されている。
(1)刊行物1:特開平11-300459号公報
(1a)「【請求項1】鋼製の外筒部と、
溶湯に対する耐食性を備えた合金製の内筒部とから構成されるダイカストマシン用スリーブであって、
前記内筒部の熱伝導率(300℃)が、10W/m・K以上、25W/m・K以下であることを特徴とするダイカストマシン用スリーブ。
……
【請求項4】前記内筒部は、Mo:10wt%以上37wt%以下、Si:0.5wt%以上8wt%以下、B:0.6wt%以上3.2wt%以下、残部が実質的にNiからなるニッケル合金により形成されることを特徴とする請求項1に記載のダイカストマシン用スリーブ。
……
【請求項7】前記内筒部は、前記外筒部を構成する筒状部材の内周面に、熱間静水圧処理法または熱間押出法を用いて、原料粉末を焼結接合することにより形成されていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載のダイカストマシン用スリーブ。」(第2頁第1欄第2行-第33行)

(1b)「前記内筒部には、……、例えば、Mo:10wt%以上37wt%以下、Si:0.5wt%以上8wt%以下、B:0.6wt%以上3.2wt%以下、残部が実質的にNiからなるニッケル合金を使用することができる。このNi-Mo-Si-B系合金は、耐摩耗性、耐ヒートクラック性に優れ、しかもアルミニウム溶湯に対する耐食性を備えており、アルミニウムのダイカスト用スリーブとして極めて有利な特性を併せ持っている。なお、この合金の熱伝導率は、その組成によって変化するが、およそ20W/m・K(室温?500℃)で、従来の工具鋼(SKD61)の約2/3の値である。また、熱膨張係数は約12×10^(-6)(室温?500℃)である。」(第3頁第3欄第41行-第3頁第4欄第3行)

(1c)「(例2)次に示す工程でダイカストマシン用スリーブを製作した。
【0029】a.図6に示す形状を備えた外筒部21を、マルテンサイト系ステンレス鋼JIS-SUS420J2を用いて、機械加工により製作した。図7に示す形状を備えた中子25を、機械構造用鋼JIS-S25Cを用いて、機械加工により作製した。
【0030】b.図8に示す様に、外筒部21の外周部及び底部を缶体17で覆い、外筒部11の中に中子25をセットした。
c.外筒部21と中子25の間の環状の間隙部に、原料粉末23をガスアトマイズして充填した。なお、この原料粉末の組成は、Mo:20wt%、Si:4.6wt%、B:3.1wt%、Ni:残部、であり、粒径は1000μm以下であった。
……
【0032】f.この結果得られた被処理体を、熱間静水圧処理装置(HIP)にセットし、1000気圧、900℃の条件で原料粉末23の焼結を行って内筒部22を形成した。また、これと同時に、外筒部21、内筒部22及び中子25を一体に接合した。」(第4頁第5欄第49行-第4頁第6欄第24行)

(2)刊行物2:特開平6-71406号公報
(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】NiとMoの複硼化物、NiとWの複硼化物およびNi、MoおよびWの複硼化物の一種以上を主とする硬質相と、Niに主にMoが固溶した金属結合相とで構成される円筒状のサーメット焼結体からなり、サーメット焼結体の硬質相の含有量が50重量%以上90重量%以下であることを特徴とするダイカスト用射出スリーブ。」

(2b)「【0035】このような射出スリーブを製造するための具体的な方法としては、例えばアイソスタティックプレスにより円筒を成形する場合に、芯型の一部分の表面に硬質相の含有量の多い原料粉末をコーティングしておき、次いでゴム型内に通常の原料粉末を充填して成形することにより、硬質相の多いコーティング層が円筒の内面側に一体とされた成形体が得られる。……
【0036】円筒状のサーメット焼結体の射出スリーブがダイカスト金型と接触する部分は、射出スリーブを固く押し付けて固定する必要上、角欠けが起きやすい。しかし、この部分は接触している金型(冷却を効かしてある。)側に熱を奪われるため浸食が緩やかであるので、この部分の金属結合層の含有量を増やして靭性を大きくしておくことにより、角欠けの問題を避けることができる。
【0037】このような構成からなる本発明の射出スリーブは、前述のアイソスタティックプレスによっても製造でき、」

(2c)「【0041】本発明の射出スリーブが組み込まれたダイカスト装置では、AlまたはAl合金の鋳造を行う場合に特に好ましい効果が得られる。すなわち、AlまたはAl合金を鋳造する場合、射出スリーブに給湯される溶融金属の温度が650℃?720℃と高いため、射出スリーブのうち最初に溶融金属と接触する給湯口の下の部分は溶融金属により激しい浸食作用と熱衝撃を受ける。
【0042】しかし、本発明の射出スリーブでは冷却などを施さなくてもこの厳しい条件に耐えて良好な耐用を示す。」

(3)刊行物3:特開平7-150913号公報
(3a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、内燃機関のエンジンバルブを案内するバルブガイドに係り、特に、加工に際しての被削性と耐摩耗性とを備えるバルブガイド及びその製造方法に関する。」(第2頁第1欄第26行-第30行)

(3b)「【0035】下層の材料粉(24)及び上層の材料粉(26)は、上述した両端部(11)を形成する混合物であり、同じく中層の材料粉(25)は、中央部(12)を形成する混合物である。
【0036】三層の材料粉(24)(25)(26)を充填した後、円環状断面に形成したパンチ(27)を、下型(21)とコア(22)との隙間(23)に圧入して、各材料粉を円筒形の圧粉体に一体的に圧縮成形する。
【0037】ついで、成型された円筒形の圧粉体を、下型(21)及びコア(22)から取り外し、所定の温度で焼結したのち、必要に応じて内外周面及び全長を所定寸法に切削加工もしくは研削加工して、所望のバルブガイド(10)に仕上げる。」(第3頁第4欄第13行-第25行)

3.引用刊行物1記載の発明
引用刊行物1の上記記載事項(1a)によれば、内筒部と外筒部からなる二層構造を備えるダイカストマシン用スリーブであって、その内筒部のための原料粉末が、Mo:10wt%以上37wt%以下、Si:0.5wt%以上8wt%以下、B:0.6wt%以上3.2wt%以下、残部が実質的にNiからなるニッケル合金であるものが記載され、上記記載事項(1c)によれば、そのダイカストマシン用スリーブの製造方法として、缶体の中に外筒部と中子を収容・セットし、その環状隙間に、上記数値範囲内の組成を有する原料粉末を充填し、熱間静水圧処理装置(HIP)にて焼結し、これと同時に外筒部とも一体に接合するものが記載されている。

すると、引用刊行物1には、
「内筒部と外筒部からなる二層構造を備えるダイカストマシン用スリーブの製造方法であって、
マルテンサイト系ステンレス鋼により製作した外筒部を準備し、
内筒部のための原料粉末として、Mo:10wt%以上37wt%以下、Si:0.5wt%以上8wt%以下、B:0.6wt%以上3.2wt%以下、残部が実質的にNiからなるニッケル合金粉末を準備し、
缶体の中に外筒部を収容し、
外筒部の内側に中子をセットし、
外筒部と中子との間の環状の隙間に、前記原料粉末を缶体の上端まで充填し、
前記原料粉末を、熱間静水圧処理装置(HIP)にて焼結し、同時に、この焼結体を外筒部に接合するダイカストマシン用スリーブの製造方法。」(以下「引用刊行物1発明」という。)が記載されているといえる。

4.対比・判断
本願補正発明と引用刊行物1発明とを対比するに、引用刊行物1発明の「ダイカストマシン用スリーブ」、「マルテンサイト系ステンレス鋼により製作した外筒部」は、それぞれ、本願補正発明の「ダイカストマシン用射出スリーブ、「鋼製」の「外筒相当部分」ないし「外筒」に相当する。同様に、「内筒部」が「内筒」に、「原料粉末」が「焼結原料粉末」に相当する。

よって、両者は、
「内筒と外筒からなる二層構造を備えるダイカストマシン用射出スリーブの製造方法であって、
鋼製の外筒相当部分を準備し、
内筒のための焼結原料粉末としてニッケル合金粉末を準備し、
缶体の中に外筒相当部分を収容し、
外筒相当部分の内側に中子をセットし、
外筒相当部分と中子との間の環状の隙間に、前記焼結原料粉末を缶体の上端まで充填し、
前記焼結原料粉末を焼結し、同時に、この焼結体を外筒相当部分に接合するダイカストマシン用射出スリーブの製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
前記内筒が、本願補正発明では、「金型との接続部に配置される先端近傍以外の部分を占める第一部分と、前記先端近傍を占め第一部分とは組成が異なる第二部分とで構成され」、「第一部分のための第一の焼結原料粉末として、Siが4.0wt%以上5.1wt%以下、Moが15wt%以上26wt%以下、Bが2.5wt%以上3.6wt%以下で、残部がNiからなるニッケル合金粉末を準備し、第二部分のための第二の焼結原料粉末として、Siが4.5wt%以上6.5wt%以下、Moが8wt%以上13wt%以下、Bが1.3wt%以上2.3wt%以下で、残部がNiからなるニッケル合金粉末を準備し」、「外筒相当部分と中子との間の環状の隙間に、第二の焼結原料粉末を所定の高さまで充填し、第二の焼結原料粉末の上に、第一の焼結原料粉末を缶体の上端まで充填し、第一の焼結原料粉末及び第二の焼結原料粉末を焼結するとともに、これらの焼結体を互いに接合し、同時に、これらの焼結体を外筒相当部分に接合する」ものであって、「前記第二の焼結原料粉末を焼結した第二の合金は、前記第一の焼結原料粉末を焼結した第一の合金より破壊靭性値が高く、この破壊靭性値は33MPa・m^(l/2)以上であり、かつ前記第二部分の長さは5?30mmである」のに対し、
引用刊行物1発明では、内筒部に第一部分、第二部分に相当する部分が存在せず、全体として「Mo:10wt%以上37wt%以下、Si:0.5wt%以上8wt%以下、B:0.6wt%以上3.2wt%以下、残部が実質的にNiからなるニッケル合金粉末」を焼結するものである点。

上記相違点について検討する。
引用刊行物1発明の内筒部は、「Mo:10wt%以上37wt%以下、Si:0.5wt%以上8wt%以下、B:0.6wt%以上3.2wt%以下、残部が実質的にNiからなるニッケル合金粉末」より形成されるものであるところ、上記記載事項(1c)によれば、具体的には、組成が、Mo:20wt%、Si:4.6wt%、B:3.1wt%、Ni:残部、であり、粒径は、1000μm以下である原料粉末を用い、熱間静水圧処理装置により、1000気圧、900℃の条件で原料粉末の焼結を行い、内筒部を形成することが記載されている。
そして、形成された内筒部を構成するNi合金について、その組織状態の明示はないものの、その組成、製造方法を勘案すれば、Ni基の結合相にMo_(2)NiB_(2)等のMo、Niの硼化物が均一に分散した状態になっているものと認められ、このことは、例えば、原審の拒絶理由通知書において先行技術文献として挙げられた下記刊行物4にも記載されているとおりである。

刊行物4:特開平8-134569号公報
(4a)「【請求項1】重量%で、B 0.6?3.2%、Si 0.5?8%、Mo 5?37%、残部Niおよび不可避的不純物からなり、Ni基の結合相にNi硼化物およびMo硼化物が分散していることを特徴とする、耐食耐摩耗性高強度Ni基合金。

【請求項2】請求項1に記載のNi基合金と鉄鋼材とを金属結合により複合化させたことを特徴とする、耐食耐摩耗性高強度Ni基合金複合材料。」(第2頁第1欄第2行-第9行)

(4b)「【0013】Moは、Bと硼化物を形成し、耐摩耗性を高めると共にNiを主とする結合相の耐食性を改善する効果がある。……
……
【0015】次に、本発明Ni基合金の製造法について説明する。Ni基合金は、B、Si、Mo、Niの粉末、もしくはこれらの元素のうち2種以上含有する合金粉を所定の分量秤量し、回転ボールミルによって48時間粉砕混合し、その後プレス成形し、焼結して製造される。
【0016】焼結は、真空中、還元性ガス中で行う。また、熱間静水圧焼結等の他の方法で行ってもよい。……
……
【0017】焼結された合金は、MoB、Mo_(2)NiB_(2)、Ni_(2)B、Ni_(3)Bなど硼化物の微細粒子をNi結合相に均一に分散した組織になっている。Ni結合相には,MoおよびSiが固溶している。」(第2頁第2欄第49行-第3頁第3欄第28行)

一方、上記記載事項(2a)、(2b)によれば、引用刊行物2には、NiとMoの複硼化物、NiとWの複硼化物およびNi、MoおよびWの複硼化物の一種以上を主とする硬質相と、Niに主にMoが固溶した金属結合相とで構成される円筒状のサーメット焼結体からなり、サーメット焼結体の硬質相の含有量が50重量%以上90重量%以下であることを特徴とするダイカスト用射出スリーブにおいて、金型との接触部分に角欠けが起きやすいこと、それを防止するために、その部分の金属結合相の含有量を増やして靭性を大きくすることが記載されている。

そうであれば、Mo_(2)NiB_(2)等の硼化物の微細粒子をNi結合相に均一に分散した組織を有する点で共通する引用刊行物1発明に係るダイカスト用スリーブにおいても、上記角欠けの課題を有するものと認められるところ、上記記載事項(2b)には、金型との接触部分とそれ以外の部分を、アイソスタティックプレスによる焼結、すなわち、熱間静水加圧焼結法による焼結と同時に一体化し得ることも示唆されていることから、上記課題解決のために、引用刊行物2と同様の解決手段、すなわち、金型との接触部分を占める部分ないしは先端近傍を占める第二部分の金属結合相の量を、それ以外の部分としての第一部分よりも増やして靱性を大きくするという手段を適用することは、通常想到し得ることである。

そして、熱間静水等方加圧焼結法により製造される、射出成形機のシリンダ等部材用Ni基合金の靱性値(単位;MPa/m^(1/2))として、「20ないし40程度」の値は通常の範囲であるから(例えば、下記周知文献参照)、Mo:10wt%以上37wt%以下、Si:0.5wt%以上8wt%以下、B:0.6wt%以上3.2wt%以下、残部が実質的にNiからなるニッケル合金粉末で形成される引用刊行物1発明の内筒部において、上記硬質相を構成するMo、Bの含有量を、第二部分では、それぞれ、「10wt%以上13wt%以下」、「1.3wt%以上2.3wt%以下」と低くし、それ以外の第一部分では、それぞれ、「20wt%」、「3.1wt%」とすることで、第二部分の金属結合相の割合を高くして第二部分の靱性を高くするとともに、その破壊靱性値を33MPa/m^(1/2)以上とすることは、所望に応じ適宜決定される設計的事項である。

・周知文献:特開平6-57360号公報
(5a)「【0013】本発明のNi基合金は、例えばその合金粉末を焼結原料とし、熱間静水等方加圧焼結法等の公知の焼結プロセスを適用することにより、シリンダ、スクリユー等の母材金属の表面を被覆する焼結合金層を形成する。……
【0014】
【実施例】表1に示す各供試合金について、腐食試験、摩耗試験および機械試験を行つて、表2に示す結果を得た。供試合金No.1?7は発明例、No.21?25は比較例であり、比較例No.21?23は、前記特開平1-272732号公報に開示されたCo基合金相当材、No.24は、W,Bをやや低めに設定したCo基合金の例、No.25は窒化鋼(JIS G4202 SACM645,表面窒化層厚0.5mm)である。」(第3頁第3欄第27行-第4欄第8行)

(5b)「【表2】




また、第二部分の長さについては、それ以外の部分の寸法とも関係してくると考えられるが、少なくとも、角欠けの課題からの要請を受けつつ、第一部分が耐摩耗性や耐溶損性等を高めている部分であること(上記記載事項(1b)、(2c)参照)を勘案して、その長さが決定されるものであって、角欠けが生じやすい範囲に限定されるべく、例えば、5?30mm程度の範囲を設定することは設計的事項である。

さらに、第一部分と第二部分の原料粉末の焼結接合の方法については、上記のとおり引用刊行物2にも示唆があるところ、引用刊行物3には、バルブガイドに関するが、異なる組成の合金粉末を層状に充填して一体的に焼結するものが記載されており(上記記載事項(3a)(3b))、このような焼結接合の方法は周知であるから、この方法を適用し、「外筒相当部分と中子との間の環状の隙間に、第二の焼結原料粉末を所定の高さまで充填し、第二の焼結原料粉末の上に、第一の焼結原料粉末を缶体の上端まで充填し、第一の焼結原料粉末及び第二の焼結原料粉末を焼結するとともに、これらの焼結体を互いに接合し、同時に、これらの焼結体を外筒相当部分に接合する」ことも格別なことではない。

そうすると、引用刊行物1発明において、引用刊行物2、3に記載された事項及び周知技術に基いて、本願補正発明の上記相違点に係る発明特定事項とすることは、当業者にとって容易想到ということができる。
そして、本願補正発明の奏する効果も、引用刊行物1,2及び3に記載された事項から予測し得る範囲であって格別のものとはいえない。

なお、審判請求人は、平成25年12月10日付け審判請求書の第10頁第14行-第11頁第11行において、引用文献2(当審注;「引用刊行物2」、以下、同様。)の図4、段落「0039]、「0040]の記載に基き、「すなわち、本願の請求項1では、金型と接する端部付近が、第二部分となっているのに対して、引用文献2では、ダイカスト型と接触する付近がテーパ部によって焼き嵌めされている構成になっている。したがって、引用文献2の記載から本願の請求項1を推考することは困難である。」旨主張する。
しかしながら、上記図4、段落「0039]、「0040]の記載は、引用文献2発明の他の一例に関する記載であって、引用文献2には、上記「第2.2.(2)」のとおりの事項が記載されることは明らかであるから、当該主張は採用できない。

したがって、本願補正発明は、引用刊行物1,2及び3に記載された事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成25年6月19日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲に記載されたとおりのものにあるところ、その請求項1には次のとおり記載されている。
「【請求項1】
内筒と外筒からなる二層構造を備えるとともに、内筒が、先端近傍以外の部分を占める第一部分と、先端近傍を占め第一部分とは組成が異なる第二部分とで構成されるダイカストマシン用射出スリーブの製造方法であって、
鋼製の外筒相当部分を準備し、
内筒の第一部分のための第一の焼結原料粉末として、Siが4.0wt%以上5.1wt%以下、Moが15wt%以上26wt%以下、Bが2.5wt%以上3.6wt%以下で、残部がNiからなるニッケル合金粉末を準備し、
内筒の第二部分のための第二の焼結原料粉末として、Siが4.5wt%以上6.5wt%以下、Moが8wt%以上13wt%以下、Bが1.3wt%以上2.3wt%以下で、残部がNiからなるニッケル合金粉末を準備し、
缶体の中に外筒相当部分を収容し、
外筒相当部分の内側に中子をセットし,
外筒相当部分と中子との間の環状の隙間に、第二の焼結原料粉末を所定の高さまで充填し、
第二の焼結原料粉末の上に、第一の焼結原料粉末を缶体の上端まで充填し、
第一の焼結原料粉末及び第二の焼結原料粉末を焼結するとともに、これらの焼結体を互いに接合し、同時に、これらの焼結体を外筒相当部分に接合すること、
を特徴とし、
前記第二の焼結原料粉末を焼結した第二の合金は、前記第一の焼結原料粉末を焼結した第一の合金より破壊靭性値が高く、この破壊靭性値は33MPa・ml/2以上であり、
かつ前記第二部分の長さは5?30mmであるダイカストマシン用射出スリーブの製造方法。」(以下、「本願発明」という。)

2.引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物とその記載事項及び引用刊行物1記載の発明は、前記「第2.2.」「第2.3.」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記「第2.」で検討した本願補正発明から、実質的に前記「先端近傍」に関する限定事項を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明に係る発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2.4.」に記載したとおり、引用刊行物1,2及び3に記載された事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4.むすび
以上によれば、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-10-15 
結審通知日 2014-10-21 
審決日 2014-11-07 
出願番号 特願2011-22838(P2011-22838)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B22D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池ノ谷 秀行  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 鈴木 正紀
小川 進
発明の名称 ダイカストマシン用射出スリーブの製造方法  
代理人 佐藤 立志  
代理人 野河 信久  
代理人 河野 直樹  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 岡田 貴志  
代理人 福原 淑弘  
代理人 堀内 美保子  
代理人 井関 守三  
代理人 砂川 克  
代理人 峰 隆司  
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