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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60R
管理番号 1295687
審判番号 不服2014-2315  
総通号数 182 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-02-07 
確定日 2014-12-22 
事件の表示 特願2010-193813号「制御システム」拒絶査定不服審判事件〔平成24年3月15日出願公開、特開2012-51421号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成22年8月31日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成25年 6月19日付け 拒絶理由の通知
平成25年 8月13日 意見書及び手続補正書の提出
平成25年 8月30日付け 拒絶理由(最後の拒絶理由)の通知
平成25年10月29日 意見書及び手続補正書の提出
平成25年11月13日付け 拒絶査定
平成26年 2月 7日 審判請求書(拒絶査定不服審判)の提出

2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし3に係る発明は、平成25年10月29日付け手続補正により補正された特許請求の範囲及び明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載されたとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「使用者が携帯可能であり、無線通信機能を有する第1通信部と、車両のドアの開錠を指令する使用者からの指令入力を受け付ける入力手段と、を備えた携帯機と、
車両に備えられて、前記第1通信部との無線通信機能を有する第2通信部と、
使用者から車両へのドア開錠を要求する操作を受け付けると前記第2通信部から前記第1通信部へ向けて識別信号の返信を要求する指令信号を発信させ、第2通信部が受信した信号を前記携帯機固有の識別信号と照合し、その照合が成功したら車両のドアを開錠する第1開錠手段と、
前記入力手段が前記指令入力を受け付けたことを示す開錠指令信号が第1通信部から送信され、その開錠指令信号が第2通信部により受信されたら車両のドアを開錠する第2開錠手段と、
使用者からエンジン始動を要求する操作を受け付けると前記第2通信部から前記第1通信部へ向けて識別信号の返信を要求する指令信号を発信させ、第2通信部が受信した信号を前記携帯機固有の識別信号と照合し、その照合が成功したら車両のエンジンを始動する始動手段と、を備え、
前記第1通信部は、前記第1開錠手段と前記始動手段とにおける前記識別信号の送信時の方が前記第2開錠手段による前記開錠指令信号の送信時よりも大きい減衰率で、送信する信号を減衰させる減衰手段を備え、
前記識別信号及び開錠指令信号の送信経路が、高減衰率の第1経路と低減衰率の第2経路とに分岐されており、
前記減衰手段は、前記識別信号の送信の場合は前記第1経路に、前記開錠指令信号の送信の場合は前記第2経路に切り替える切替手段を備えたことを特徴とする制御システム。」

3 引用刊行物
これに対して、原査定の拒絶理由に引用された本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2007-217971号公報(以下、「刊行物1」という。)、特開昭61-274066号公報(以下、「刊行物2」という。)及び特開2007-153190号公報(以下、「刊行物3」という。)には、それぞれ以下の事項が記載されている。

(1)刊行物1について
刊行物1には、「無線通信機能を有する携帯機」に関して、図面とともに、次の事項が記載されている。

(刊1-1)「【技術分野】【0001】
本発明は、無線通信機能を有する携帯機に係り、例えば車両や住宅のドア錠の施解錠等のセキュリティ機器を無線通信に基づいて制御するセキュリティ制御システムに用いられる携帯機に関するものである。」

(刊1-2)「【0016】
(前略)車両用通信制御システム1は、車両2に配設されたセキュリティ制御装置としての車載装置10と、該車両2の所有者(ユーザ)によって所持される携帯機20とを備えている。」

(刊1-3)「【0017】
<車載装置10の構成>
車載装置10は、図2に示すように車両2の室内の略中央に配設され、CPU、ROM、RAM等からなるコンピュータユニットによって構成された車両制御部11を備えている。この車両制御部11には、送信回路12及び受信回路13が電気的に接続されている。
【0018】
(省略)
【0019】
(前略)この受信回路13は、携帯機20から送信されるIDコード信号及び制御指令信号としての施解錠操作信号を、受信アンテナ13aを介して受信可能となっている。そして、受信回路13は、該受信アンテナ13aによってIDコード信号または施解錠操作信号を受信すると、その受信信号をパルス信号に復調して車両制御部11に出力する。
【0020】
(前略)また、車両制御部11には、ドアロック装置14が電気的に接続されている。なお、ドアロック装置14は、アクチュエータを用いてドア錠を自動的に施解錠する装置であり、車両制御部11から解錠信号が入力されるとドア錠を解錠し、施錠信号が入力されるとドア錠を施錠する(後略)」

(刊1-4)「【0021】
こうした車両制御部11は、車外領域A1にリクエスト信号を送信することによって携帯機20との相互通信が成立したことを条件としてドアロック装置14を駆動制御するドア錠制御を行う。詳しくは、車両制御部11は、送信回路12に対してリクエスト信号を出力することにより、該リクエスト信号を車外領域A1に送信させる。そして、該リクエスト信号に応答して送信された携帯機20からの応答信号(IDコード信号)が受信回路13によって受信されると、車両制御部11は、該IDコード信号に含まれるIDコードとメモリ11Mに記録されたIDコードとの比較(IDコード照合)を行う。その結果、該IDコード照合が成立すると、車両制御部11は、携帯機20との相互通信が成立したと判断して、ドアロック装置14に対して解錠信号を出力してドア錠を解錠させる。(後略)」

(刊1-5)「【0023】
<携帯機20の構成>
携帯機20は無線通信機能を有し、車載装置10と相互通信可能となっている。詳しくは、携帯機20は、CPU、ROM、RAM等からなるコンピュータユニットによって構成された応答制御手段としての通信制御部21と、その通信制御部21に電気的に接続された受信回路22及び送信回路23と、該携帯機20の意匠面に設けられてユーザによって操作可能な操作部24とを備えている。」

(刊1-6)「【0024】
受信回路22には、車載装置10から送信される前記リクエスト信号を受信可能な受信アンテナ22aが接続され、該受信回路22は、そのリクエスト信号を受信すると、該リクエスト信号の受信強度(受信レベル)を検出するとともにパルス信号に復調し、該リクエスト信号の受信レベルを含む復調信号を通信制御部21に出力する。
【0025】
送信回路23は、通信制御部21から入力されるIDコード信号及び施解錠操作信号を所定周波数の電波に変調して送信アンテナ23aを介して外部に送信する変調回路部25と、該変調回路部25による電波の送信強度を変化させる強度可変部26とを備えている。」

(刊1-7)「【0027】
操作部24は、例えば押しボタンスイッチによって構成され、解錠操作を行うための解錠操作スイッチと、施錠操作を行うための施錠操作スイッチとによって構成されている。そして、該操作部24が操作されると、その操作信号が通信制御部21に入力される。」

(刊1-8)「【0028】
通信制御部21は不揮発性のメモリ21Mを備え、(中略)メモリ21Mには、例えば図3に示すように、施解錠操作信号の送信強度f1と、IDコード信号の送信強度f2(<f1)とが記録されている。
【0029】
なお、送信強度f1は、携帯機20の受信回路22が前記リクエスト信号を受信可能な領域よりも広領域で車載装置10画施解錠操作信号を受信可能な送信強度となるように設定され、(後略)
【0030】
(省略)
【0031】
こうした通信制御部21は、操作部24から操作信号が入力されたり、受信回路22から前記リクエスト信号を含む復調信号が入力されたりすると、対応する信号(施解錠操作信号、IDコード信号)の出力制御を行うとともに、該信号の送信強度を変化させる送信強度可変制御を行う。(後略)」

以上の各記載事項から、刊行物1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「車両2に配設されたセキュリティ制御装置としての車載装置10と、該車両2の所有者(ユーザ)によって所持される携帯機20とを備えた車両用通信制御システム1であって、
携帯機20は、通信制御部21と、その通信制御部21に電気的に接続された受信回路22及び送信回路23と、該携帯機20に設けられてユーザによって操作可能な操作部24とを備え、該操作部24は、解錠操作を行うための解錠操作スイッチと、施錠操作を行うための施錠操作スイッチとによって構成され、操作部24が操作されると、その操作信号が通信制御部21に入力され、
車載装置10は送信回路12及び受信回路13が電気的に接続された車両制御部11を備え、受信回路13は、IDコード信号または施解錠操作信号を受信すると、その受信信号をパルス信号に復調して車両制御部11に出力し、車両制御部11には、ドアロック装置14が電気的に接続され、ドアロック装置14は、アクチュエータを用いてドア錠を自動的に施解錠する装置であり、車両制御部11から解錠信号が入力されるとドア錠を解錠し、施錠信号が入力されるとドア錠を施錠し、
車両制御部11は、送信回路12に対してリクエスト信号を出力することにより、該リクエスト信号を車外領域A1に送信させ、該リクエスト信号に応答して送信された携帯機20からの応答信号(IDコード信号)が受信回路13によって受信されると、車両制御部11は、該IDコード信号に含まれるIDコードとメモリ11Mに記録されたIDコードとの比較(IDコード照合)を行い、その結果、該IDコード照合が成立すると、車両制御部11は、携帯機20との相互通信が成立したと判断して、ドアロック装置14に対して解錠信号を出力してドア錠を解錠し、
送信回路23は、通信制御部21から入力されるIDコード信号及び施解錠操作信号を所定周波数の電波に変調して送信アンテナ23aを介して外部に送信する変調回路部25と、該変調回路部25による電波の送信強度を変化させる強度可変部26とを備え、
通信制御部21は不揮発性のメモリ21Mを備え、メモリ21Mには、施解錠操作信号の送信強度f1と、IDコード信号の送信強度f2(<f1)とが記録され、送信強度f1は、携帯機20の受信回路22が前記リクエスト信号を受信可能な領域よりも広領域で車載装置10が施解錠操作信号を受信可能な送信強度となるように設定され、
通信制御部21は、操作部24から操作信号が入力されたり、受信回路22から前記リクエスト信号を含む復調信号が入力されたりすると、対応する信号(施解錠操作信号、IDコード信号)の出力制御を行うとともに、該信号の送信強度を変化させる送信強度可変制御を行う
車両用通信制御システム1」

(2)刊行物2について
刊行物2には、「無線式車両保安装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

(刊2-1)「上記携帯機1には送信出力可変手段7が設けられ、該手段7によって、ロック信号の送信出力がアンロック信号の送信出力より相対的に高く設定されるようになっている。」(第2ページ右下欄第7?11行)

(刊2-2)「この送信部25には、上記高周波増幅回路28を直接アンテナ29に接続する状態と、減衰器30を介して接続する状態とに切換わる切換スイッチ31が設けられている」(第3ページ左下欄第13?17行)

(刊2-3)「上記切換信号dはマイクロコンピュータ22にアンロック指令信号bが入力された時に出力される。従って、ロック信号Aは送信部25の高周波増幅回路28から減衰器30を介することなく直接アンテナ29から送信され、またアンロック信号Bは減衰器30を介してアンテナ29から送信されることになる。」(第3ページ右下欄第7?13行)

(3)刊行物3について
刊行物3には、「車両用始動装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

(刊3-1)「【0033】
スマートECU3は、携帯機2から送信されたIDコード信号とROM3bに記憶されたIDコードとが一致し、ユーザ認証が正常に終了すると、例えば、当該携帯機2が車両に接近したことを認識したとき、ドアECU7に対して制御信号を送信し、全ての車両ドアのロックを解除する。また、スマートECU3は、ステアECU5に対して制御信号を送信して、ステアリングホイールのロックを解除させる。さらに、スマートECU3は、イモビECU6に対して制御信号を送信して、エンジン始動の禁止を解除させ、エンジンECU8によるエンジン始動が可能な状態にする。
【0034】
したがって、例えば、運転者により、プッシュ式スイッチ10に対して、所定の押下操作がなされると、エンジンECU8はエンジン8aを始動させることができる。また、一度、始動されたエンジン8aが停止された場合に、スマートECU3は、通信装置4を介して、リクエスト信号を送信し、携帯機2からのIDコード信号が返信され、ユーザ認証が正常に終了した場合に、エンジンECU8によるエンジン8aの再始動を許可する。」

4 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、
引用発明の「車両用通信制御システム1」は、本願発明の「制御システム」に対応し、引用発明の「車両2の所有者(ユーザ)」は、本願発明の「使用者」に相当し、
引用発明は、「通信制御部21と、その通信制御部21に電気的に接続された受信回路22及び送信回路23」を備えていることから、本願発明でいう「第1通信部」を備えるものと認められ、また、引用発明の「操作部24」は、「解錠操作を行うための解錠操作スイッチ」を有することから、「車両のドアの開錠を指令する使用者からの指令入力を受け付ける」本願発明の「入力手段」に相当し、
引用発明は、「送信回路12及び受信回路13が電気的に接続された車両制御部11」を備えていることから、本願発明でいう「第2通信部」を備えるものと認められ、
引用発明の「リクエスト信号」及び「応答信号(IDコード信号)」は、記載事項(刊1-4)及び(刊1-6)からみて、本願発明の「指令信号」及び「識別信号」に相当することから、引用発明は、本願発明でいう「第2通信部から前記第1通信部へ向けて識別信号の返信を要求する指令信号を発信させ、第2通信部が受信した信号を前記携帯機固有の識別信号と照合し、その照合が成功したら車両のドアを開錠する第1開錠手段」を備えるものと認められ、
引用発明の「施解錠操作信号」は、記載事項(刊1-7)からみて、本願発明の「開錠指令信号」を含むものであり、また、記載事項(刊1-3)からみて、引用発明の「車両制御部11」は、「解錠操作信号」(本願発明の「開錠指令信号」に相当)を受信した場合に、車両のドアを解錠するものであるから、引用発明は、本願発明の「入力手段が前記指令入力を受け付けたことを示す開錠指令信号が第1通信部から送信され、その開錠指令信号が第2通信部により受信されたら車両のドアを開錠する第2開錠手段」を備えるものと認められ、
引用発明の「強度可変部26」は、記載事項(刊1-8)からみて、「IDコード信号」(本願発明の「識別信号」に相当)の方が「施解錠操作信号」(本願発明の「開錠指令信号」に相当)よりも大きい減衰率で送信する信号を減衰するものであるので、本願発明の「減衰手段」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明とは、

「使用者が携帯可能であり、無線通信機能を有する第1通信部と、車両のドアの開錠を指令する使用者からの指令入力を受け付ける入力手段と、を備えた携帯機と、
車両に備えられて、前記第1通信部との無線通信機能を有する第2通信部と、
前記第2通信部から前記第1通信部へ向けて識別信号の返信を要求する指令信号を発信させ、第2通信部が受信した信号を前記携帯機固有の識別信号と照合し、その照合が成功したら車両のドアを開錠する第1開錠手段と、
前記入力手段が前記指令入力を受け付けたことを示す開錠指令信号が第1通信部から送信され、その開錠指令信号が第2通信部により受信されたら車両のドアを開錠する第2開錠手段と、
前記第1通信部は、前記第1開錠手段における前記識別信号の送信時の方が前記第2開錠手段による前記開錠指令信号の送信時よりも大きい減衰率で、送信する信号を減衰させる減衰手段を備えた制御システム」

である点で一致し、次の点でそれぞれ相違する。

相違点1
本願発明では、識別信号の返信を要求する指令信号の発信が、「使用者から車両へのドア開錠を要求する操作を受け付ける」ことを条件としているのに対し、引用発明では、リクエスト信号(本願発明の「指令信号」に相当)の発信に、そのような条件の特定がない点。

相違点2
本願発明では、「使用者からエンジン始動を要求する操作を受け付けると前記第2通信部から前記第1通信部へ向けて識別信号の返信を要求する指令信号を発信させ、第2通信部が受信した信号を前記携帯機固有の識別信号と照合し、その照合が成功したら車両のエンジンを始動する始動手段」を備えているとともに、「始動手段」における識別信号を、開錠指令信号より大きい減衰率で減衰させるのに対し、引用発明では、そうした「始動手段」を備えるとはされていない点。

相違点3
本願発明では、「識別信号及び開錠指令信号の送信経路が、高減衰率の第1経路と低減衰率の第2経路とに分岐されており、前記減衰手段は、前記識別信号の送信の場合は前記第1経路に、前記開錠指令信号の送信の場合は前記第2経路に切り替える切替手段」を有しているのに対し、引用発明では、信号の送信経路が分岐されるとはされておらず、強度可変部(本願の「減衰手段」に相当)が具体的には特定されていない点。

5 判断
上記各相違点について検討する。

(1)相違点1について
車両に係るセキュリティに関する制御システムにおいて、使用者から車両へのドア開錠を要求する操作を受け付けることを条件として識別番号の返信を要求する指令信号を発信することは、本願出願前周知の技術(例えば、特開2002-54331号公報(特に【0007】段落、【0009】段落)、特開2006-104664号公報(特に【0042】段落、【0043】段落)等を参照)であり、そのような条件は、セキュリティ等を考慮して、設計上適宜に設定し得る事項である。
したがって、引用発明での、リクエスト信号(本願発明の「指令信号」に相当)の発信について、セキュリティ等を考慮して当該周知技術を適用し、使用者から車両へのドア開錠を要求する操作を受け付けることを条件として発信することは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
車両に係るセキュリティに関する制御システムにおいて、使用者からエンジン始動を要求する操作を受け付けると、車載装置から携帯機に向けて識別信号の返信を要求する指令信号を発信させ、車載装置が受信した信号を前記携帯機固有の識別信号と照合し、その照合が成功したら車両のエンジンを始動する始動手段を設けることは、本願出願前周知の技術(例えば、刊行物3(特に記載事項(刊3-1)、特開2002-54331号公報(特に【0018】段落、【0019】段落)等を参照)である。
したがって、引用発明について、更なる利便性向上のために当該周知技術を適用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
また、使用者がエンジン始動を要求する操作を行う際に携帯機が使用者とともに車両内に有ることが前提となり、格別強い識別信号を必要としないものであること、及び、引用発明が内蔵バッテリの消耗抑制を課題として有していることを考慮して、上記周知技術の適用と同時に、「始動手段」における識別信号について、開錠指令信号より大きい減衰率で減衰させるよう設定することは、当業者が当然になすべき設計的事項である。

(3)相違点3について
刊行物2の「車両保安装置」及び「送信出力」は、記載事項(刊2-1)ないし(刊2-3)からみて、本願発明の「制御システム」及び「送信強度」に相当する。また、刊行物2の「送信出力可変手段」は、携帯機から発信する複数種類の信号の送信強度を変化させるものであるので、本願発明の「強度可変部」に相当する。
また、記載事項(刊2-2)からみて、刊行物2の「減衰器を介して接続する状態」、「高周波増幅回路を直接アンテナに接続する状態」及び「切換スイッチ」は、本願発明の「高減衰率の第1経路」、「低減衰率の第2経路」及び「切替手段」に相当する。
したがって刊行物2には、車両のセキュリティに係る制御システムにおいて、携帯機から発信する複数種類の信号の送信強度を変化させるため、強度可変部に、高減衰率の第1経路と低減衰率の第2経路を切り替える切替手段を設ける技術が記載されているといえる。

そして、引用発明及び刊行物2に記載された発明は、いずれも車両のセキュリティに係る制御システムに関する発明である点で同一の技術分野に属するものであり、かつ、複数種類の信号の送信強度を変化させる点で共通した機能を有するものである。さらに、引用発明において、強度可変部(本願の「減衰手段」に相当)の具体化手段として、どのような回路を選択するかは、当業者が適宜選択し得る事項である。
したがって、引用発明での、施解錠操作信号(本願発明の「開錠指令信号」に相当)の送信強度とIDコード信号(本願発明の「識別信号」に相当)の送信強度を変化させる強度可変部(本願の「減衰手段」に相当)の具体化手段として、上記刊行物2に記載された技術を採用して、上記相違点3の本願発明のようになすことは、当業者が容易に想到し得たことである。

よって、本願発明は、引用発明、刊行物2及び刊行物3に記載された技術、及び周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、請求人は、審判請求書において、
「こうした構成により本発明は、明細書の段落0018等に記載されているとおり、例えばスマートエントリーシステムにおいては高減衰率の経路を用いて車両から遠く離れたキーからの識別信号が車両まで届かないようにしてリレーアタックによる被害を抑制し、例えばリモートキーレスエントリーシステムにおいては、低減衰率の経路を用いて、車両から遠い場所からドアを開錠できるようにすることにより、スマートエントリーシステムにおけるリレーアタック対策とリモートキーレスエントリーシステムによる利便性を共存させた制御システムが構築できる、との顕著な効果を奏する。」(第3ページ第14?21行)
との主張をしている。
しかし、上記5(1)?(3)で述べたとおり、本願発明は、「リレーアタックによる被害を抑制」するとの課題を認識せずとも、引用発明、刊行物2及び刊行物3に記載された技術、及び周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。さらに、スマートエントリーシステムにおいてリレーアタックを防止すべきことは、本願出願前周知の技術課題(例えば特開2010-121297号公報(特に【0020】?【0025】段落、第12図)、特開2003-13644号公報(特に【0005】?【0010】段落、第5図)等を参照)であり、また、スマートエントリーシステムにおける識別信号については遠くまで届かないようにすることによりセキュリティを向上させることは、本願出願前周知の技術であること(例えば特開2010-121297号公報(特に【0195】?【0199】段落、第8図を参照)、特開2003-184377号公報(特に【0022】?【0026】段落、【0038】段落、【0039】段落、第1図、第2図)等を参照)を踏まえると、上記効果は、当業者が容易に想到し得る程度のものである。

また、請求人は、
「(3-1)引用文献1と2の記載は異なるシステム、異なる携帯機である
引用文献1の発明が適用されるシステムは、いわゆるスマートキーシステム(以下、スマート)とリモートキーレスシステム(以下、リモート)とが併存するシステムである。(中略)
一方、引用文献2の発明が適用されるシステムは、リモートのみのシステムである。
したがって両文献が対象としているシステムは本質的に異なっている。」(第4ページ第10?18行)
「(3-2)引用文献1と2では課題も大きく乖離している
引用文献1の発明の課題は、上記のとおりスマートとリモートとが併存するシステムにおける消費電力低減である。
これに対し引用文献2の発明の課題は、リモートシステムにおける車両の開閉体の不測の開錠の抑制である。
したがって両文献の課題は大きく乖離している。
以上のとおり引用文献1と2とを組み合わせることは、システムも課題も異なり、異なる携帯機を備える発明を組み合わせることである。そのような組み合わせは容易な組み合わせとまでは言えないとみなされるべきである。 」(第4ページ第26行?第5ページ第5行)
との主張をしている。
しかし、上記5(3)で述べたとおり、引用発明及び刊行物2に記載された発明は、いずれも車両のセキュリティに係る制御システムに関する発明である点で同一の技術分野に属するものであり、かつ、複数種類の信号の送信強度を変化させる点で共通した機能を有するものであり、さらに、引用発明において、強度可変部(本願の「減衰手段」に相当)の具体化手段として、どのような回路を選択するかは、当業者が適宜選択し得る事項であるから、引用発明での、施解錠操作信号(本願発明の「開錠指令信号」に相当)の送信強度とIDコード信号(本願発明の「識別信号」に相当)の送信強度を変化させる強度可変部(本願の「減衰手段」に相当)の具体化手段として、上記刊行物2に記載された技術を採用して、上記相違点3の本願発明のようになすことは、当業者が容易に想到し得たことというべきであるため、上記請求人の主張は採用できない。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。

よって、原査定は妥当であり、結論のとおり審決する
 
審理終結日 2014-10-27 
結審通知日 2014-10-28 
審決日 2014-11-10 
出願番号 特願2010-193813(P2010-193813)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 梶本 直樹  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 氏原 康宏
上尾 敬彦
発明の名称 制御システム  
代理人 張川 隆司  

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