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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F
管理番号 1295974
審判番号 不服2014-3972  
総通号数 182 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-03-01 
確定日 2015-01-08 
事件の表示 特願2009-170085「筒状ボンド磁石及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 2月10日出願公開、特開2011- 29215〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成21年7月21日の出願であって、平成25年6月28日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年9月2日付けで手続補正がなされたが、同年11月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成26年3月1日付けで拒絶査定不服審判の請求及び手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成26年3月1日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである(なお、請求項1については、平成26年3月1日付け手続補正の前後で変更はない。)。
「【請求項1】
磁性粉末と樹脂で形成され、内部に空洞の貫通孔が開口された筒状のボンド磁石であって、
前記筒状ボンド磁石は、一体に成形された成形体であり、
前記貫通孔の軸方向に、N極とS極が少なくとも4極以上、交互に多極磁化されており、
前記筒状ボンド磁石の内径の大きさが、外径の大きさの20%?40%の範囲にあることを特徴とする筒状ボンド磁石。」

3.引用列
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された特開2001-230118号公報(以下、「引用例」という。)には、「着磁装置」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した)。
(1)「【請求項1】 所定の長さ成分を有し、その長さ方向にN極およびS極を交互に形成した着磁用磁石体と、
前記着磁用磁石体の長さ成分に向けてシート状の被着磁物を搬送する搬送手段とを備えたことを特徴とする着磁装置。」

(2)「【0011】また本発明の着磁装置において、前記着磁用磁石体は、円筒状磁石体からなるとともに、前記円筒状磁石体は回転可能に支持されていることが望ましい。磁石シートに着磁を行う場合に、着磁用磁石体と磁石シートとに間隙があるよりも接触させるほうが着磁効果は高い。なお、以下では未着磁の状態であっても、便宜上磁石シートということがある。そして、その状態で磁石シートを連続的に着磁用磁石に供給すると、着磁用磁石体が固定されていれば着磁用磁石体と磁石シートとが擦れあって磁石シートに擦傷を生じさせるおそれがある。擦傷軽減のために着磁用磁石体の表面を研磨して滑らかにする、あるいは保護塗料を塗布する等の手段を採用しうるが、擦れを十分になくすことはできない。そこで、着磁用磁石体を円筒状磁石体から構成するとともに、前記円筒状磁石体を回転可能に支持しておけば、供給された磁石シートとともに円筒状磁石体が回転するから、着磁用磁石体と磁石シートとの間の擦れの問題は基本的に解決することができる。」

(3)「【0017】
【発明の実施の形態】以下本発明の実施形態を図面を参照しつつ説明する。図1は本発明着磁装置に用いられる着磁用磁石体である円筒状磁石体2を示している。円筒状磁石体2は、リング状磁石21を複数積層し、積層したリング状磁石21の孔に保持軸22を嵌装、固定することにより得られる。図2は円筒状磁石体2におけるリング状磁石21の配置を示す図である。図2に示すように、各リング状磁石21は軸方向に着磁されており、一方の平面にN極を、また他方の平面にS極を形成してある。本実施の形態の円筒状磁石体2は、このリング状磁石21を互いに同極面を対向させて積層してある。積層された円筒状磁石体2は、図1に示すように、所定の長さ成分を有し、その長さ方向にN極およびS極を交互に形成した磁石体となる。
【0018】本実施の形態では、一方の平面にN極を、また他方の平面にS極を形成したリング状磁石21を互いに同極面を対向させて連続的に積層することにより、長さ方向にN極およびS極を周期的に形成した磁石体を用いたが、本発明はこの形態に限定されない。一体で形成された円筒状磁石体2で長さ方向にN極およびS極を周期的に形成することも可能であり、そのような筒状磁石体を用いることもできる。ただし、本実施の形態のようにリング状磁石21を互いに同極面を対向させると、N極およびS極の同極面対部位表面から各リング状磁石21の外側に磁力線が強力に漏れ出る。したがって、本実施の形態によれば、一体で形成された長さ方向にN極およびS極を周期的に形成した円筒状磁石に比べて、大きな磁気特性を得ることができる。また、リング状磁石21同士の間にコアとなる鉄板等の軟磁性材料を挟み込んでも同様の効果が得られる。また、リング状磁石21同士は必ずしも互いに密着させる必要はなく、スペーサを挟み込んでリング状磁石21間に隙間を持たせることにより、着磁ピッチ幅を調整することもできる。
【0019】リング状磁石21を構成する永久磁石としては、バリウムフェライト(BaO・6Fe_(2)O_(3))、ストロンチウムフェライト(SrO・6Fe_(2)O_(3))に代表されるフェライト系磁石、サマリウムコバルト(Sm-Co)、ネオジウム鉄ボロン(Nd-Fe-B)に代表される希土類系磁石、アルニコ系磁石、およびこれらの磁気特性に優れた磁性粉を用いたボンド磁石等を用いることができる。これらの中では、最も磁気特性に優れる希土類系磁石、特にネオジウム鉄ボロン(Nd-Fe-B)磁石が本発明にとって望ましい。」

・上記引用例に記載の「着磁装置」は、上記(1)の記載事項によれば、所定の長さ成分を有し、その長さ方向にN極およびS極を交互に形成した着磁用磁石体を備えた着磁装置に関するものである。
・上記(2)、(3)の段落【0017】?【0018】の記載事項、及び図1、2によれば、着磁用磁石体は、その長さ方向に孔が形成された円筒状磁石体2であり、孔に保持軸22を嵌装、固定することにより回転可能に支持されるものである。
・上記(3)の段落【0018】の記載事項によれば、着磁用磁石体としては、一体で形成された円筒状磁石体2で長さ方向にN極及びS極を周期的に形成することも可能であり、そのような筒状磁石体を用いることもできるものである。

したがって、着磁装置が備える着磁用の磁石体である「円筒状磁石体」であって、一体で形成されたものを用いてなる場合に着目し、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「所定の長さ成分を有し、その長さ方向に孔が形成され、当該孔に保持軸を嵌装、固定することにより回転可能に支持される着磁用の円筒状磁石体であって、
当該円筒状磁石体は、一体で形成されたものであり、その長さ方向にN極及びS極を交互に周期的に形成した円筒状磁石体。」

4.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、
(1)引用発明における「所定の長さ成分を有し、その長さ方向に孔が形成され、当該孔に保持軸を嵌装、固定することにより回転可能に支持される着磁用の円筒状磁石体であって、当該円筒状磁石体は、一体で形成されたものであり・・」によれば、
(a)円筒状磁石体に形成された「孔」は、これに保持軸が嵌装、固定されるものであることからして、当該円筒状磁石体の内部に貫通するように開口された空洞の孔であることは明らかである(引用例の図1も参照)から、本願発明でいう「貫通孔」に相当し、
(b)「円筒状磁石体」は、一体で形成されたものであるから、本願発明と同様、「一体で成形された成形体」であるといえ、
(c)そのような一体成形体である磁石体にあっては、磁性粉末と樹脂とを用いたボンド磁石として形成することも技術常識である〔例えば特開2004-320827号公報の段落【0017】?【0019】の記載や、特開平2005-38919号公報の段落【0002】の記載を参照。なお、引用例においても磁石体として、磁気特性に優れた磁性粉を用いたボンド磁石等を用いることの記載がある(上記「3.(3)」の段落【0019】を参照)。〕こと、及び、「円筒状磁石体」は、着磁用であるものの、本願発明にあっても「筒状ボンド磁石」についてその用途を何ら特定してはいないこと、を考慮すると、引用発明における「円筒状磁石体」は、本願発明における「筒状ボンド磁石」に相当するということができる。
したがって、本願発明と引用発明とは、「磁性粉末と樹脂で形成され、内部に空洞の貫通孔が開口された筒状のボンド磁石であって、前記筒状ボンド磁石は、一体に成形された成形体であり」の点で一致するといえる。

(2)引用発明における「当該円筒状磁石体は、一体で形成されたものであり、その長さ方向にN極及びS極を交互に周期的に形成した・・」によれば、N極及びS極が交互に周期的に形成された「その長さ方向」とは、孔の軸方向であり、また、N極とS極は交互に4極以上形成されるものであることも明らかである(引用例の図1、図2も参照)。
したがって、本願発明と引用発明とは、「前記貫通孔の軸方向に、N極とS極が少なくとも4極以上、交互に多極磁化されて」いる点で一致する。

よって、本願発明と引用発明とは、
「磁性粉末と樹脂で形成され、内部に空洞の貫通孔が開口された筒状のボンド磁石であって、
前記筒状ボンド磁石は、一体に成形された成形体であり、
前記貫通孔の軸方向に、N極とS極が少なくとも4極以上、交互に多極磁化されていることを特徴とする筒状ボンド磁石。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]
一体に成形された成形体である筒状ボンド磁石の内径の大きさについて、本願発明では、「外径の大きさの20%?40%」の範囲にある旨特定するのに対し、引用発明では、そのような内径の大きさについての特定を有していない点。

5.判断
上記相違点について検討する。
引用発明における円筒状磁石体に形成された孔には保持軸が嵌装、固定され、これによって円筒状磁石体は回転可能に支持されるものであるが、円筒状磁石体を回転可能に支持するうえで必要な機械的強度を確保するためには、保持軸の直径はある程度以上の大きさが必要であり、したがって、当該保持軸が嵌装、固定される孔の直径、つまり円筒状磁石体の内径についてもある程度以上の大きさが必要なことは当然のことである。また、磁石体の厚みが薄くなり過ぎて必要な大きさの磁力を得られなくなったり、磁石体そのものの機械的強度が低下するといったことを防ぐためにも、保持軸の直径を必要以上に大きくすべきでなく、したがって、当該保持軸が嵌装、固定される孔の直径、つまり円筒状磁石体の内径についてある程度以下の大きさに抑える必要があることも当然のことである。
以上のように、引用発明にあっても、孔の直径、すなわち円筒状磁石体の内径は適当な範囲があるといえるところ、例えば特開平10-50510号公報(特に段落【0021】を参照)には、軸が固着される孔を有し、一体成形された成形体である円筒状磁石体において、その内径の大きさ(5mm)を外径の大きさ(14.5mm)の約34%とした例が記載され、同様に、特開2005-38919号公報(段落【0019】を参照)には、内径の大きさ(6mm)を外径の大きさ(16mm)の約38%とした例が記載されているところであり、引用発明においても、円筒状磁石体の内径の大きさを、このような通常想定される大きさとすること、すなわち、本願発明で特定する「外径の大きさの20%?40%」の範囲を満たすような値とすることは当業者であれば容易になし得ることである。

そして、
(a)特に発明の詳細な説明における【表1】や段落【0037】の記載によれば、貫通孔のない円柱状のボンド磁石(比較例2)よりも貫通孔のある円筒状のボンド磁石の方が強度の点で優れているのは、当該貫通孔に「芯がね」が挿入されていることに基づくものと認められるが、本願請求項1にあっては、貫通孔に「芯がね」が挿入される旨の特定がなされていないこと、
(b)さらに、請求人が審判請求書において述べているStage1の範囲(貫通孔が磁力線に影響を及ぼさない領域)は、磁性粉末が異方性のものであるか等方性のものであるかや、その磁性粉末の組成、さらには磁性粉末の含有率(混合率)などにも依存するものと認められるところ、本願明細書には磁性粉末の組成等と貫通孔が磁力線に影響を及ぼさない領域との関係については何ら記載されていないし、本願請求項1にあっても、このような磁性粉末についての特定は何らなされていないこと、
を考慮すると、単に内径/外径比についてのみその下限値を20%、上限値を40%と定めたことに格別の技術的意義(臨界的意義)は見出すことはできない。このことを踏まえると、本願発明が奏する効果は、引用発明から当業者が予測できた程度のものであって、格別顕著なものがあるとはいえないものである。

6.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-11-05 
結審通知日 2014-11-11 
審決日 2014-11-25 
出願番号 特願2009-170085(P2009-170085)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 健一  
特許庁審判長 丹治 彰
特許庁審判官 井上 信一
酒井 朋広
発明の名称 筒状ボンド磁石及びその製造方法  
代理人 豊栖 康司  
代理人 豊栖 康司  
代理人 豊栖 康弘  
代理人 豊栖 康弘  

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