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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12M |
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管理番号 | 1296011 |
審判番号 | 不服2013-5247 |
総通号数 | 182 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-02-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-03-19 |
確定日 | 2015-01-05 |
事件の表示 | 特願2007-121977「閉鎖系小型細胞培養用培地供給システム」拒絶査定不服審判事件〔平成20年11月13日出願公開、特開2008-271915〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は平成19年5月2日の出願であって,平成24年12月17日付けで拒絶査定がなされたところ,平成25年3月19日に拒絶査定不服審判の請求がなされ,同日付で手続補正書が提出され,平成26年8月13日付けで当審より拒絶理由が通知され,これに対して,同年10月14日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 2 本願発明 本願請求項1?3に係る発明は,平成26年10月14日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載のとおりの発明であると認める。 そのうち,請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次の事項により特定される発明である。 「【請求項1】 培地中のガス交換を行うためのガス透過膜,及び培地入口及び培地出口のそれぞれにつながる培地の管状流路が設けられた閉鎖系細胞培養用容器が装着され,当該容器内の移植用培養細胞へ培地を供給するための送液ポンプを有する,閉鎖系小型細胞培養用培地供給システムであって, ガス透過膜の材質が,ポリカーボネート,ポリスチレン,ポリジメチルシロキサン,またはシリコーンポリカーボネートであり, 該システムは移動させたい場所へ汚染なく,簡便に,安全に移動させることができ, 該培地入口及び培地出口は配管を通じて送液ポンプに連結し,当該培地入口への配管を通して送液ポンプにより新鮮な培地の供給制御が可能であり,当該容器内で移植用細胞を汚染させることなく培養でき, 細胞培養用インキュベーター内で利用可能である,閉鎖系小型細胞培養用培地供給システム。」 3 当審の拒絶理由の概要 当審の拒絶理由の概要は, 「本願発明1?4は,その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 刊行物1:特開2002-153256号公報 刊行物2:特開2006-57号公報 刊行物3:特開2002-153256号公報」 というものである。 ここで,「刊行物1:特開2002-153256号公報」とあるのは,請求人が平成26年10月14日付け意見書で指摘するように「特開平11-28083号公報」の誤記であった。請求人は,意見書において,「刊行物1は特開平11-28083号公報であるとの理解に基づいて以下に意見を申し述べます。」とも述べているから,以降,刊行物1を特開平11-28083号公報とする。 4 引用刊行物記載の事項 なお,下線は当審にて付記したものである。 (1)刊行物1記載の事項 (刊1-1)「【0062】図3に示される細胞培養用容器は,気体透過性プラスチック材料1,容器本体2,上部リング3および下部リング4から構成される。図4に示される細胞培養用容器は前記気体透過性プラスチック材料1,容器本体2,上部リング3および下部リング4に加えて供給口5,排出口6,供給管7,排出管8,培地供給ユニット9および培地を排出したり培地上清や細胞を採取するためのユニット10から構成されている。 ・・・(略)・・・ 【0067】前記培地供給ユニット9は,たとえばシリコーン製チューブ,セルロースアセテート製フィルター,ポンプおよび供給する培地の入った容器などからなる。」 (刊1-2)「【図4】図3に示す細胞培養用容器に培地供給ユニット9を接続した状態を示す概略説明図である。」 (刊1-3)「【図4】 」 (刊1-4)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,細胞培養用容器に関する。さらに詳しくは,酸素供給の装置などを必要とせずに,細胞の代謝に必要な酸素などの気体を定常的かつ充分に供給することができ,細菌汚染がなく,輸送も簡便な細胞培養用容器に関する。」 (刊1-5)「【0076】実施例1 アクリル樹脂を加工し,容器本体2(直径60mm,高さ15mm)をえた。・・・(略)・・・」 (刊1-6)「【0046】かくしてえられた気体透過性プラスチック材料はどのような形状でもよく,気体透過性の観点からはフィルム形状が好ましい。」 (刊1-7)「【0089】試験例1?6 (1)細胞培養 実施例1?3および比較例1で製造したフィルム形状の気体透過性または非気体透過性プラスチック材料によって形成された細胞培養用容器に各々10%ウシ胎仔血清(以下,FBSという)を含むダルベッコ変法イーグル最小必須培地(以下,DMEMという,ライフテックオリエンタル社製)で調製した3T3細胞(大日本製薬(株)より入手)の懸濁液を5×10^(3)個/cm^(2)となるよう播種し,前記培地を容器に満たし気泡が入らないように密閉した。 【0090】これを5%炭酸ガスインキュベータ中に静置し,37℃で144時間,細胞培養を行なった。」 (2)刊行物2記載の事項 (刊2-1)「【0056】 ・・・(略)・・・ 培養液ポンプ80には,コンピュータPCの指示に基づき,培養液の循環を制御する培養液ポンプ制御部86が配置されている。また,補給ポンプ81および廃液ポンプ82もコンピュータPCの指示に基づき,その動作が制御されるように配置されている。」 (3)刊行物3記載の事項 (刊3-1)「【0026】・・・(略)・・・なお,図中符号33は,細胞培養容器内の培地の性状を検出し,送液ポンプ28を発停させて空間2内の培地を自動的に交換するための制御回路が組み込まれた回路基板である。」 5 刊行物1記載の発明 図3に示す細胞培養用容器に培地供給ユニット9を接続した【図4】に記載の細胞培養容器を中心に,(刊1-1)?(刊1-4)及び(刊1-6)に付した下線の内容を整理すると,刊行物1に次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「酸素供給の装置などを必要とせずに,細胞の代謝に必要な酸素などの気体を定常的かつ充分に供給することができ,細菌汚染がなく,輸送も簡便な細胞培養用容器であって, 細胞培養用容器は,フィルム形状の気体透過性プラスチック材料1,容器本体2,上部リング3および下部リング4に加えて供給口5,排出口6,供給管7,排出管8,培地供給ユニット9および培地を排出したり培地上清や細胞を採取するためのユニット10から構成され, 該培地供給ユニット9は,ポンプおよび供給する培地の入った容器などから構成されるものである, 培地供給ユニットを接続した細胞培養容器。」 6 対比 本願発明と引用発明を対比する。 (1)引用発明の「細胞」の用途は規定されていないから,本願発明の「移植用培養細胞」とは,「培養細胞」という点で共通する。 (2)引用発明の「フィルム形状の気体透過プラスチック材料」,「供給管7,排出管8」,「容器本体2」及び「ポンプ」は,それぞれ本願発明の「培地中のガス交換を行うためのガス透過膜」,「培地の管状流路」,「閉鎖系細胞培養用容器」及び「容器内の・・・培養細胞へ培地を供給するための送液ポンプ」に相当する。 また,引用発明の「供給管7」と「培地供給ユニット9」の接続部は,本願発明の「培地入口」に相当し,引用発明の「排出管8」と「培地を排出したり培地上清や細胞を採取するためのユニット10」との接続部は,本願発明の「培地出口」に相当する。 (3)本願発明の「閉鎖系小型細胞培養用培地供給システム」でいう「小型」とは,本願明細書の「小型装置であるため常用の細胞培養用インキュベーター内で利用することも可能となる。」(【0014】)との記載に照らし,常用の細胞培養用インキュベーターに入れることができる程度の大きさであると理解される。 他方,引用発明の「容器本体2」は,「直径60mm,高さ15mm」(刊1-5)と小型で「炭酸ガスインキュベータ中」(刊1-7)に入れられるものである。その小型の容器本体2に供給,排出される培地の量はわずかであって,「細胞培養用容器」の容器本体に接続される「供給管7,排出管8,培地供給ユニット9および培地を排出したり培地上清や細胞を採取するためのユニット10」を併せても,常用の細胞培養用インキュベーターに入れることができる程度の大きさであることは明らかである。 そうであるなら,引用発明の「細胞培養用容器」は「培地供給ユニット9」(本願発明の「閉鎖系小型細胞培養用培地供給システム」に相当)を含めてその全体が,細胞培養用インキュベーターに入れることができる程度の大きさであるといえるから,本願発明の「細胞培養用インキュベーター内で利用可能である」「閉鎖系小型細胞培養用培地供給システム」であるといえる。 (4)引用発明の「フィルム形状の気体透過プラスチック材料」の材質は規定されていない。 (5)本願発明の「送液ポンプ」について,本願明細書によれば 「【0012】本発明では,閉鎖系細胞培養用容器に対し閉鎖系小型細胞培養用培地供給システムによって培地交換をする。その培地交換する際は,容器内に気泡が残らないようにすることが好ましく,その方法としては特に限定されないが,培地導入入口側の配管と出口側の配管を一台以上のチューブポンプにつなげて培地の導入,排出を同時に行う方法,2台以上のギヤーポンプを用いて培地の導入,排出を同時に行う方法等が挙げられる。」 「【実施例1】 【0023】 図1に示すような寸法の各パーツからなる1台のチューブポンプからなる閉鎖系小型細胞培養用培地供給システムを作成した。」 と記載されている。 この記載に照らせば,「培地入口」又は「培地出口」のいずれかに一台の「送液ポンプ」を連結して新鮮な培地の導入,排出を同時に行うように構成することも,本願発明でいう「該培地入口及び培地出口は配管を通じて送液ポンプに連結し,当該培地入口への配管を通して送液ポンプにより新鮮な培地の導入」することに包含されると解される。 そうであるなら,引用発明の一台の「ポンプおよび供給する培地の入った容器などから構成され」「供給管7」を介して新鮮な培地を供給する「培地供給ユニット9」は,本願発明の「該培地入口及び培地出口は配管を通じて送液ポンプに連結し,当該培地入口への配管を通して送液ポンプにより新鮮な培地の供給」するものに相当する。 (6)引用発明の「培地供給ユニット9」を部材として含む「細胞培養用容器」は「細菌汚染がなく,輸送も簡便な細胞培養用容器」であるとされているから,引用発明の「細胞培養容器」は,本願発明の「該システムは移動させたい場所へ汚染なく,簡便に,安全に移動させることができ」,「容器内で・・・細胞を汚染させることなく培養でき」る「閉鎖系小型細胞培養用培地供給システム」と相違する点はない。 (7)引用発明の「培地供給ユニット9」に設けられた「ポンプ」は,供給制御されるものか不明である。 よって,引用発明の「容器本体2」の「供給口5」及び「排出口6」に「供給管7,排出管8」をつなげ,「供給管7」に「ポンプ」をつなげて培地を供給できるものと,本願発明の「該培地入口及び培地出口は配管を通じて送液ポンプに連結し,当該培地入口への配管を通して送液ポンプにより新鮮な培地の供給制御が可能であ」るものとは,「その容器の培地入口及び培地出口に管をつなげ,当該培地入口の配管を通して送液ポンプにより新鮮な培地の供給が可能で」あるものという点で共通する。 以上のことを総合すると,両発明の間には,次の(一致点)及び(相違点1)?(相違点3)がある。 (一致点) 「培地中のガス交換を行うためのガス透過膜,及び培地入口及び培地出口のそれぞれにつながる培地の管状流路が設けられた閉鎖系細胞培養用容器が装着され,当該容器内の培養細胞へ培地を供給するための送液ポンプを有する,閉鎖系小型細胞培養用培地供給システムであって, 該システムは移動させたい場所へ汚染なく,簡便に,安全に移動させることができ, 該培地入口及び培地出口は配管を通じて送液ポンプに連結し,当該培地入口への配管を通して送液ポンプにより新鮮な培地の供給が可能であり,当該容器内で細胞を汚染させることなく培養でき, 細胞培養用インキュベーター内で利用可能である,閉鎖系小型細胞培養用培地供給システム。」 (相違点1) 培養細胞が,本願発明では「移植用」であるのに対して,引用発明では細胞の用途が規定されていない点。 (相違点2) ガス透過膜の材質が,本願発明では「ポリカーボネート,ポリスチレン,ポリジメチルシロキサン,またはシリコーンポリカーボネート」であるのに対して,引用発明では材質が規定されていない点。 (相違点3) 培地の供給が,本願発明では「制御が可能」であるのに対して,引用発明では制御がなされているか不明である点。 7 検討 (1)相違点1について 移植用細胞を培養することは,例示するまでもなく,普通に行われていることであり,引用発明において,移植用細胞を培養すべく構成することで,本願発明のごとく構成することは当業者が適宜なし得たことといえる。 (2)相違点2について ガス透過膜の材質として「ポリカーボネート,ポリスチレン,シリコーンポリカーボネート」は,例えば下記刊行物A?Dに記載のように周知であって,引用発明の「フィルム形状の気体透過性プラスチック材料」の材質を本願発明のごとくすることは当業者が適宜なし得たことといえる。 刊行物A:特開2006-320304号公報 (刊A-1)「【請求項4】 ガス透過膜の材質がポリカーボネート,ポリスチレン,シリコーンポリカーボネートである請求項1?3記載のいずれか1項記載の密閉系細胞培養容器。」 刊行物B:特開2005-95165号公報 (刊B-1)「【請求項4】 前記培養部の上部および下部を被覆するガス透過膜のうち,少なくとも一方がポリスチレン系の膜であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の培養容器。」 刊行物C:特表2004-514432号公報 (刊C-1)「【0011】 発明の詳細な説明 定義 用語「ガス透過性膜」は,ここでより詳細に説明されるであろうように,ここでは,明細書および特許請求の範囲の目的のために,細胞培養チェンバー内へおよびその外部へのガスの転移を許可し得て,・・・(略)・・・である。前記ガス透過性膜は,当該技術において知られる1つまたはそれ以上の膜からなっていてもよい。膜は,一般的には,ポリスチレン,ポリエチレン,ポリカーボネート,ポリオレフィン,エチレンビニールアセテート,ポリプロピレン,ポリスルフォン,ポリテトラフルオロエチレン,またはシリコーンコーポリマーを含む適切なポリマーからなる。・・・(略)・・・¥ 刊行物D:特開2004-147555号公報 (刊D-1)「【請求項2】 前記酸素透過性材料がポリジメチルシロキサンである請求項1記載の細胞培養装置。」 (3)相違点3について 細胞培養の分野において,ポンプを制御して培地を供給することは,例えば,刊行物2及び3に記載のように周知の事項であって,引用発明において,前記周知の事項を適用することで,本願発明のごとく構成することは何の創作性もなくなし得たことといえる。 (4)本願発明の効果について 本願発明の効果は,刊行物1及び周知の事項から予測し得るものであって,格別顕著なものとはいえない。 8 結語 以上のとおり,本願発明は,刊行物1に記載された発明及び上記周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-11-06 |
結審通知日 | 2014-11-07 |
審決日 | 2014-11-19 |
出願番号 | 特願2007-121977(P2007-121977) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(C12M)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 三原 健治、竹内 祐樹 |
特許庁審判長 |
郡山 順 |
特許庁審判官 |
植原 克典 中島 庸子 |
発明の名称 | 閉鎖系小型細胞培養用培地供給システム |
代理人 | 富田 博行 |
代理人 | 小林 泰 |
代理人 | 星野 修 |
代理人 | 小野 新次郎 |