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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B66C
管理番号 1296059
審判番号 不服2014-1466  
総通号数 182 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-01-27 
確定日 2015-01-05 
事件の表示 特願2009-553903「下部走行体および上部構造体を有する車載式クレーン」拒絶査定不服審判事件〔平成20年10月 2日国際公開、WO2008/116444、平成22年 6月24日国内公表、特表2010-521391〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2008年3月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年3月23日、ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成21年9月18日に特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出され、同年11月16日に同法第184条の4第1項に規定する明細書、請求の範囲及び要約書の翻訳文が提出され、平成24年11月12日付けで拒絶理由が通知され、平成25年3月15日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年9月24日付けで拒絶査定がされ、平成26年1月27日に拒絶査定に対する審判請求がされたものである。

2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし5に係る発明は、平成25年3月15日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲、平成21年11月16日に提出された明細書の翻訳文並びに国際出願時の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「 【請求項1】
下部走行体(1)および上部構造体(2)を有する車載式クレーンであって、
前記下部走行体内に、エンジン(3)および変速装置(4)を含む車両駆動装置(3,4)と、前記車両駆動装置(3,4)の出力軸に接続された分配歯車ユニット(6)と、前記上部構造体の機構部を駆動するための流体圧ポンプ(7)と、を備え、
前記流体圧ポンプ(7)が、前記車両駆動装置(3,4)により前記分配歯車ユニット(6)を介して駆動されるものにおいて、
前記分配歯車ユニット(6)は、車軸出力側(6a)に向かう中立位置と、ポンプ駆動側(6b)と係脱するためのクラッチとを有しており、前記上部構造体がその駆動時に所望するトルク最適化範囲内で駆動されるように、前記エンジン(3)の速度が、前記変速装置(4)の1つまたは複数の変速比を用いて制限されるように構成されていることを特徴とする車載式クレーン。」

3 引用文献
(1)引用文献の記載
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である実願昭61-193252号(実開昭63-96935号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献」という。)には、例えば、以下の記載がある。(なお、下線は、理解の一助のために、当審で付したものである。)

ア 「[産業上の利用分野]
本考案は建設機械等の作業用上物を一般の車両に搭載して作業車として用いる作業用車両に関するものである。」(明細書第1ページ第16ないし19行)

イ 「[従来の技術]
従来のこの種作業用車両は、走行駆動用エンジンを搭載して該エンジンの出力をトランスミッション、プロペラシャフトを介して後輪の軸に伝えるようにしてある一般の車両に、建設機械等の如き各種作業用の機械を含む作業用上物を搭載し、上記一般の車両により作業現場に到達すると、その車両を停車し、定置式として作業用上物により諸作業を行わせるようにしてある。」(明細書第1ページ第20行ないし第2ページ第9行)

ウ 「[考案が解決しようとする問題点]
ところが、上記従来の作業用車両では、走行用の車両に搭載してあるエンジンはその車両の走行に用いられるだけであって、作業用上物を上記エンジンで駆動させるようにはなっていない。そのため、上記作業用上物としては、これを油圧機器で駆動させようとする場合にはその油圧機器とこれを駆動する駆動源を別途組み込んだものとしなければならず、油圧機器とその駆動源を作業用上物に設けることが必要で、それだけコスト高になると共に構造も複雑となっていた。
そこで、本考案は、車両に搭載されている走行用エンジンの出力を作業用上物の駆動用に取り出せるようにすると共に別個に備えた電動機等によっても選択的に作業用上物を駆動できるようにして作業用上物には別個に油圧機器及びその駆動源をユニットとして設ける必要性をなくすようにし、且つ駆動源を車両搭載のエンジンか電動機等かに選択できて環境保全のためにも有効なものとなるようにした作業用車両を提供しようとするものである。」(明細書第2ページ第10行ないし第3ページ第11行)

エ 「[問題点を解決するための手段]
本考案は、上記目的を達成するために、車両走行用エンジンの動力を後輪側に伝えるプロペラシャフトの途中に、上記エンジンの動力を後輪側と作業用上物駆動機器に切り換えて伝達できるようにすると共に別に備えた電動機の動力を上記後輪側や作業用上物駆動機器に切り換えて伝達できるようにした動力伝達分配装置を組み込み、且つ上記作業用上物駆動機器で駆動される作業用上物を搭載してなる構成とする。」(明細書第3ページ第12行ないし第4ページ第1行)

オ 「[作 用]
動力伝達分配装置のクラッチ切り換えにより車両走行用エンジンの動力を作業用上物駆動機側に取り出すと、車両走行用エンジンを作業用上物の駆動源とすることができ、又、クラッチの切り換えで電動機の動力を作業用上物の駆動源として取り出したりすることができ、排ガス、騒音に対する規制を必要とするところでは電動機を駆動源として使用できる。又、燃費が問題になる場合は、エンジンか電動機かいずれか安価なものを使用することもできる。」(明細書第4ページ第2ないし12行)

カ 「[実 施 例]
以下、図面に基づき本考案の実施例を説明する。
第1図及び第2図は本考案の一実施例を示すもので、前輪FW側に搭載したエンジン1と、該エンジン1の出力を切り換えて伝えるトランスミッション2と、トランスミッション2の主軸から動力を後輪軸に伝えるプロペラシャフト3と、左右の後輪RWの軸に動力を伝える差動装置4と、上記トランスミッションからの動力を無理なく後輪に伝えるためプロペラシャフト3に設けるユニバーサルジョイント5と、上記プロペラシャフト3の途中に設けられるパーキングブレーキ6と、からなるシャーシIに、本考案の要部である動力伝達分配装置IIを組み込む。」(明細書第4ページ第13行ないし第5ページ第7行)

キ 「 詳述すると、上記動力伝達分配装置IIは、第2図に一例を示す如く、シャフト3aの一端(後端)に取り付けたギヤ7とシャフト3bの他端(前端)に取り付けたギヤ8 とを近接させて両シャフト3a,3bをケーシング9に回転自在に支持させ、上記シャフト3aの外側には、一端に上記ギヤ7,8と同一径としたギヤ11を有し且つ他端に大径のギヤ12を有する中空軸10を、上記ギヤ11をシャフト3aのギヤ7に近接させて回転自在に配設すると共に、該中空軸10の外側に同じく両端にギヤ14と15を有する中空軸13を回転自在に配設し、一端のギヤ14を上記中空軸10のギヤ11と近接させ、クラッチ16によりギヤ7と8を接続させたり、ギヤ7と11、あるいはギヤ11と14を接続させたりできるようにしてある。更に、上記ケーシング9には、一端側に作業用上物駆動機器としての油圧ポンプ17が設置してあり、該油圧ポンプ17の駆動軸18に、上記中空軸10上のギヤ12を動力伝達用ギヤ19を介して連続(審決注;「連結」の誤記と認められる。)し、中空軸10が回転すると作業用上物駆動用の油圧ポンプ17が駆動されるようにしてあり、又、ケーシング9の他端側に支持させた電動機20の出力軸にギヤ21を取り付け、該ギヤ21と上記中空軸13上のギヤ15とを動力伝達用ギヤ22を介して連結し、電動機20の動力を中空軸13から中空軸10を介して油圧ポンプ17に伝えることもできるようにした構成としてある。
上記構成としてある動力伝達分配装置IIを、プロペラシャフト3の途中に設置し、シャフト3aと3bをプロペラシャフト3に各々ユニバーサルジョイント5を介して連結し、シャフト3bの途中にパーキングブレーキ6を組み込む。
建設機械等の作業用上物は、上述のような動力伝達分配装置IIを組み込んだシャーシI上に搭載して本考案の作業用車両とする。」(明細書第5ページ第8行ないし第7ページ第2行)

ク 「 本考案の作業用車両を作業現場まで搬送する場合には、動力伝達分配装置IIにおけるクラッチ16を第3図(A)で示す位置、すなわち、シャフト3aのギヤ7とシャフト3bのギヤ8とを接続する位置にセットする。これによりシャーシI上のエンジン1の駆動でシャフト3a、3bを経て後輪RWの軸が回転させられるので、本作業用車両は目的の場所まで走行することができる。
所定の場所まで車両が走行移動し、ここで作業用上物により必要な諸作業を行わせる場合において、動力伝達分配装置IIのクラッチ16を、第3図(B)に示す位置、すなわち、シャフト3aのギヤ7と中空軸10のギヤ11とを接続する位置に切り換えてセットすると、車両に搭載のエンジン1によりシャフト3aから中空軸10を介して作業用上物を作動させる油圧ポンプ17を駆動させることが可能となる。これにより作業用上物を駆動させるための機構として駆動源と油圧ポンプの如き被駆動物とをユニットとして用意する必要がなく、作業用上物自体を簡素化できると共にコストダウンを図ることも可能となる。」(明細書第7ページ第3行ないし第8ページ第3行)

ケ 「[考案の効果]
以上述べた如く本考案の作業用車両によれば、作業用上物を搭載するシャーシ上に、該シャーシに搭載されている車両走行用エンジン及び電動機の2系統以上の駆動源の使用が可能な動力伝達分配装置を備え、該動力伝達分配装置により作業用上物の駆動力が得られるようにしてあるので、車両に搭載する作業用上物には、該上物を駆動する駆動源と油圧ポンプの如き被駆動物とからなるユニットを設ける必要がなく、それだけ作業用上物は簡素化できると共に設備費も安価となる。」(明細書第12ページ第11行ないし第13ページ第2行)

(2)引用文献の記載から分かること
上記(1)アないしケ及び図面の記載から、以下の事項が分かる。
サ 上記(1)アないしケ及び図面の記載から、引用文献には、シャーシI及び作業用上物を有する作業用車両が記載されていることが分かる。

シ 上記(1)アないしケ及び図面の記載から、引用文献に記載された作業用車両において、シャーシIには、エンジン1及びトランスミッション2を含む車両駆動装置が備えられていることが分かる。

ス 上記(1)アないしケ及び図面の記載から、引用文献に記載された作業用車両において、油圧ポンプ17が、車両駆動装置により動力伝達分配装置IIを介して駆動されることが分かる。

セ 上記(1)アないしケ及び図面の記載から、引用文献に記載された作業用車両において、動力伝達分配装置IIは、シャフト3aのギヤ7とシャフト3bのギヤ8とを接続しない位置を有し、また、油圧ポンプ17側と接続する又は接続しないためのクラッチ16を有していることが分かる。

ソ 上記(1)アないしケ及び図面の記載から、引用文献に記載された作業用車両は、作業用上物がその駆動時に所定の駆動力が得られるように、車両走行用エンジン1の速度が、トランスミッション2の1つまたは複数の変速比を用いて得られるように構成されていることが分かる。


(3)引用文献記載の発明
上記(1)及び(2)並びに図面を参酌すると、引用文献には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「シャーシIおよび作業用上物を有する作業用車両であって、
シャーシI内に、車両走行用エンジン1およびトランスミッション2を含む車両駆動装置と、車両駆動装置の出力軸に接続された動力伝達分配装置IIと、
作業用上物を駆動するための油圧ポンプ17と、を備え、
油圧ポンプ17が、車両駆動装置により動力伝達分配装置IIを介して駆動されるものにおいて、
動力伝達分配装置IIは、シャフト3aのギヤ7とシャフト3bのギヤ8とを接続しない位置と、油圧ポンプ17側と接続する又は接続しないためのクラッチ16とを有しており、作業用上物がその駆動時に所定の駆動力が得られるように、車両走行用エンジン1の速度が、トランスミッション2の1つまたは複数の変速比を用いて得られるように構成されている作業用車両。」

4 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「シャーシI」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本願発明における「下部走行体(1)」及び「下部走行体」に相当し、以下同様に、「作業用上物」は「上部構造体(2)」及び「上部構造体の機構部」に、「車両走行用エンジン1」は「エンジン(3)」に、「トランスミッション2」は「変速装置(4)」に、「油圧ポンプ17」は「流体圧ポンプ(7)」に、それぞれ相当する。
また、引用発明における「動力伝達分配装置II」は、車両走行用エンジン1の動力を油圧ポンプ17側と後輪RWの軸側に分配する歯車ユニットであるから、その技術的意義からみて、本願発明における「分配歯車ユニット(6)」に相当する。
また、引用発明における「作業用車両」は、建設機械等の作業用上物を車両に搭載するものであり、建設機械等の作業用上物には一般的にクレーンが含まれるから、「作業用車両」という限りにおいて、本願発明における「車載式クレーン」に相当する。
また、引用発明における「シャフト3aのギヤ7とシャフト3bのギヤ8とを接続しない位置」は、「エンジンの動力を車軸出力側に出力しない位置」という限りにおいて、本願発明における「車軸出力側に向かう中立位置」に相当する。
また、引用発明における「油圧ポンプ側と接続する又は接続しないためのクラッチ16」は、「ポンプ駆動側と接続する又は接続しないためのクラッチ」という限りにおいて、本願発明における「ポンプ駆動側と係脱するためのクラッチ」に相当する。
また、引用発明における「作業用上物がその駆動時に所定の駆動力が得られるように、車両走行用エンジンの速度が、トランスミッションの1つまたは複数の変速比を用いて得られるように構成されている」は、「上部構造体がその駆動時に所望するトルクで駆動されるように、エンジンの速度が、変速装置の1つまたは複数の変速比を用いて駆動されるように構成されている」という限りにおいて、本願発明における「上部構造体がその駆動時に所望するトルク最適化範囲内で駆動されるように、エンジンの速度が、変速装置の1つまたは複数の変速比を用いて制限されるように構成されている」に相当する。
したがって両者は、
「下部走行体および上部構造体を有する作業用車両であって、
下部走行体内に、エンジンおよび変速装置を含む車両駆動装置と、車両駆動装置の出力軸に接続された分配歯車ユニットと、
上部構造体の機構部を駆動するための流体圧ポンプと、を備え、
流体圧ポンプが、車両駆動装置により分配歯車ユニットを介して駆動されるものにおいて、
分配歯車ユニットは、エンジンの動力を車軸出力側に出力しない位置と、ポンプ駆動側と接続する又は接続しないためのクラッチとを有しており、上部構造体がその駆動時に所望するトルクで駆動されるように、エンジンの速度が、変速装置の1つまたは複数の変速比を用いて駆動されるように構成されている作業用車両。」
である点で一致し、次の点で相違又は一応相違する。

<相違点>
(1)本願発明においては「作業用車両」を対象としているのに対し、引用発明においては、「車載用クレーン」を対象としている点(以下、「相違点1」という。)。

(2)「分配歯車ユニットは、エンジンの動力を車軸出力側に出力しない位置と、ポンプ駆動側と接続する又は接続しないためのクラッチとを有しており」に関して、本願発明においては、「分配歯車ユニットは、車軸出力側に向かう中立位置と、ポンプ駆動側と係脱するためのクラッチとを有して」いるのに対し、引用発明においては、「動力伝達分配装置は、シャフト3aのギヤ7とシャフト3bのギヤ8とを接続しない位置と、油圧ポンプ側と接続する又は接続しないためのクラッチ16とを有して」いる点(以下、「相違点2」という。)。

(3)「上部構造体がその駆動時に所望するトルクで駆動されるように、エンジンの速度が、変速装置の1つまたは複数の変速比を用いて駆動されるように構成されている」に関して、本願発明においては、「前記上部構造体がその駆動時に所望するトルク最適化範囲内で駆動されるように、前記エンジンの速度が、前記変速装置の1つまたは複数の変速比を用いて制限されるように構成されている」のに対し、引用発明においては、「作業用上物がその駆動時に所定の駆動力が得られるように、車両走行用エンジンの速度が、トランスミッションの1つまたは複数の変速比を用いて得られるように構成されている」点(以下、「相違点3」という。)。

5 判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
引用発明における「作業用車両」は、建設機械等の作業用上物を車両に搭載するものであり、建設機械等の作業用上物にはクレーンが含まれるから、引用発明における「作業用車両」は、「車載式クレーン」を含むものである。
また、「作業用車両」として、「車載式クレーン」は一般的なものである(参考として、特開2003-12297号公報の段落【0002】等の記載及び特開2002-179387号公報の特許請求の範囲の請求項1等の記載を参照。)から、引用発明における「作業用車両」として、「車載式クレーン」を選択することにより、相違点1に係る本願発明の発明特定事項に想到することは、当業者が容易になし得たことである。

(2)相違点2について
本願発明における「車軸出力側に向かう中立位置」について、その技術的意義を知るために、本願の明細書を参照すると、「前記分配歯車ユニットは、駆動位置(ドライブポジション)および分配歯車ユニットの出力側に向かう中立位置(ニュートラルポジション)を有し、かつ、ポンプ駆動側と係脱するためのクラッチを有している。」(段落【0010】)、「分配歯車ユニット(6)は、分配歯車ユニットの出力側(6a)に向かう中立位置を有し、かつ、ポンプ駆動側(6b)と係合または離脱するためのクラッチを有している。車軸(8)は、運転操作において、駆動軸(5)を介して分配歯車ユニットの動力取出し(6a)によって駆動されることになる。」(段落【0020】)と記載されていることから、本願発明における「車軸出力側に向かう中立位置」は、「分配歯車ユニットから車軸出力側に向かう(経路における)中立位置」を意味していると考えられる。
また、一般的に、「中立位置(ニュートラルポジション)」という技術用語は、「自動車等の機械装置において、原動機と動力伝達装置が切り離された状態」という意味である。
一方、引用発明においては、動力伝達分配装置は、シャフト3aのギヤ7とシャフト3bのギヤ8とを接続しない位置(第2図及び第3図(B)に示される位置)を有しており、車軸出力側(車輪の軸に動力を伝える側)については、これは「原動機(エンジン1)と動力伝達装置(シャフト3bのギヤ8)が切り離された状態」であるから、「中立位置(ニュートラルポジション)」であるといえる。
したがって、相違点2に係る発明特定事項のうち「車軸出力側に向かう中立位置」という発明特定事項については、実質的な相違点ではないといえる。
また、仮に、本願発明における「中立位置(ニュートラルポジション)」が、引用文献には記載されていない位置であるとしても、車載式クレーンの技術分野において、動力伝達分配装置に「中立位置(ニュートラルポジション)」を備えることは、本願の優先日前の周知技術(以下、「周知技術1」という。例えば、特開2003-12297号公報[特に、段落【0026】及び図4の記載を参照。]等を参照。)である。
次に、本願発明における「ポンプ駆動側と係脱するためのクラッチ」について検討すると、本願明細書においては、上記(段落【0010】及び【0020】)のように記載されている。
ここで、「係脱する」とは、「係合し、離脱する」という意味である。
そうすると、本願発明における「ポンプ駆動側と係脱するためのクラッチ」とは、エンジンの動力を、ポンプ駆動側と係合し、また離脱するためのクラッチであると解される。
一方、引用発明においては、エンジンの動力を「油圧ポンプ側と接続する又は接続しないためのクラッチ」を備えているから、「ポンプ駆動側と係合し、また離脱するためのクラッチ」を備えているといえる。
したがって、相違点2に係る発明特定事項のうち「ポンプ駆動側と係脱するためのクラッチ」という発明特定事項についても、実質的な相違点ではないといえる。
よって、相違点2に係る本願発明の発明特定事項は、実質的な相違点ではなく、仮に実質的な相違点であるとしても、周知技術1を適用することにより、当業者が容易に想到できたものである。

なお、請求人は、審判請求書において、「本願請求項1の発明の分配歯車ユニット(6)は、ポンプ駆動側(6b)にはクラッチのみで係脱可能すなわち直結可能であるのに対し、引用文献1の動力伝達分配装置IIでは、ギヤ列11,12,19を介さなければ動力伝達不可能すなわち直結不可能である点で差異があります。」(審判請求書の(3.1)(iii)欄)及び「本願発明に係る車載式クレーンでは、上部構造体を駆動する場合、車軸出力側(6a)を中立位置としてポンプ駆動側(6b)のクラッチを閉じれば、車両駆動装置(3,4)が流体圧ポンプ(7)に直結されるので、本願明細書の段落0008および0021に記載されるように、車両走行用のエンジン出力および変速比をそのまま利用してトルク最適化範囲内で駆動させることが可能となり、その際、引用文献1のようにギヤ列を介さないので効率がよく、分配歯車ユニット(6)の構造も簡素化され操作性も良好であるという利点があります。」(審判請求書の(3.2)欄)と主張している。
しかしながら、本願発明は、請求項1に「・・・前記流体圧ポンプ(7)が、前記車両駆動装置(3,4)により前記分配歯車ユニット(6)を介して駆動されるものにおいて、前記分配歯車ユニット(6)は、車軸出力側(6a)に向かう中立位置と、ポンプ駆動側(6b)と係脱するためのクラッチとを有しており」(下線は当審で付した。)と記載されているとおり、車両駆動装置(3,4)と流体圧ポンプ(7)の間に分配歯車ユニット(6)が備えられているものであって、請求人が主張するような「車両駆動装置(3,4)が流体圧ポンプ(7)に直結される」という事項は請求項1には記載されていない。また本願明細書の何れの箇所にも「車両駆動装置(3,4)が流体圧ポンプ(7)に直結される」という事項は記載されていないから、請求人の主張は本願発明の発明特定事項及び明細書の記載事項に基づかない主張である。
また、本願発明において、クラッチが分配歯車ユニットのどの部分にどのように設けられているかも限定されていないから、「車両駆動装置(3,4)が流体圧ポンプ(7)に直結される」ような構成を有しているとはいえず、請求人の上記主張は失当である。
なお、参考までに、車両駆動装置がクラッチを介して流体圧ポンプに直結される技術は、周知技術(例えば、実願平3-17691号(実開平5-24685号)のCD-ROM[例えば、図1及び4の記載を参照。]及び特開2003-9308号公報[例えば、図2の記載を参照。]等を参照。)である。

(3)相違点3について
上部構造体の駆動時に、エンジンの速度が制限されることは、本願の優先日前の周知技術(以下、「周知技術2」という。例えば、特開2002-179387号公報[例えば、特許請求の範囲の請求項1を参照。]、特開2003-118975号公報[例えば、特許請求の範囲の請求項2及び段落【0013】等の記載を参照。]及び特開2006-290561号公報[例えば、段落【0002】及び【0083】等の記載を参照。]等を参照。)である。
また、上部構造体の駆動時に、変速装置の1つまたは複数の変速比を用いてなされることも、本願の優先日前の周知技術(以下、「周知技術3」という。例えば、特開2003-12297号公報[例えば、段落【0026】及び【0027】及び図4の記載を参照。]及び特開平8-245180号公報[例えば、段落【0046】ないし【0054】の記載を参照。]である。
そして、上部構造体の駆動時に、所望するトルク最適化範囲内で駆動されるようにすることも、本願の優先日前の周知技術(以下、「周知技術4」という。例えば、特開2002-179387号公報[例えば、段落【0014】ないし【0018】等の記載を参照。]、特開平10-273919号公報[例えば、特許請求の範囲の請求項1及び段落【0012】ないし【0017】等の記載を参照。]、国際公開第98/06936号[例えば、明細書第10ページ第17行ないし第13ページ第10行等の記載を参照。]等を参照。)である。
してみれば、引用発明において、周知技術2ないし4を適用して、相違点3に係る本願発明の発明特定事項に想到することは、当業者が容易になし得たことである。

そして、本願発明を全体としてみても、本願発明の奏する効果は、引用発明及び周知技術1ないし4から当業者が予測できた範囲内のものであり、格別に顕著な効果ではない。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術1ないし4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-08-05 
結審通知日 2014-08-08 
審決日 2014-08-21 
出願番号 特願2009-553903(P2009-553903)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B66C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤村 聖子  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 金澤 俊郎
藤原 直欣
発明の名称 下部走行体および上部構造体を有する車載式クレーン  
代理人 有原 幸一  
代理人 河村 英文  
代理人 松島 鉄男  
代理人 奥山 尚一  

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