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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1296417
審判番号 不服2012-17420  
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-09-07 
確定日 2015-01-15 
事件の表示 特願2008-532201「高純度テキサフィリン金属錯体」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 4月12日国際公開、WO2007/040506、平成21年 3月12日国内公表、特表2009-509954〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、2005年9月26日を国際出願日とする出願であって、平成23年7月22日付けの拒絶理由に対して平成23年12月26日付けで手続補正がなされたが、平成24年4月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年9月7日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2.本願発明

本願の請求項1?10に係る発明は、平成23年12月26日付け手続補正書における特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるものであるところ、 その請求項4に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「 【請求項4】
式1:【化2】

(式中、
Mは、Gd^(+3)であり;
各Xは、OH^(-)、AcO^(-)、Cl^(-)、Br^(-)、I^(-)、F^(-)、H_(2)PO_(4)^(-)、ClO^(-)、ClO_(2)^(-)、ClO_(3)^(-)、ClO_(4)^(-)、HCO_(3)^(-)、HSO_(4)^(-)、NO_(3)^(-)、N_(3)^(-)、CN^(-)、SCN^(-)、およびOCN^(-)からなる群から独立して選択され;
R_(4)およびR_(7)は、C_(3)H_(6)OHであり;
R_(5)およびR_(6)は、C_(2)H_(5)であり;
R_(3)およびR_(8)は、CH_(3)であり;
R_(1)およびR_(2)は、Hであり;
各xは、1、2、3、4、5、および6からなる群から独立して選択される)の化合物を含む組成物であって、
ここで、前記組成物中の式1の化合物の少なくとも98.4%において、各xが3である、組成物。」

3.引用例に記載された事項

(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である、特表平9-508616号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審合議体が付加した。

(ア)「1.放射線増感剤として使用するための薬学的組成物の調製におけるテキサフィリンの使用。
2.前記テキサフィリン組成物がさらに、宿主中の新生物またはアテロームの局在化のために用いられる、請求項1に記載の使用。
3.前記局在化が、蛍光手段、磁気共鳴画像手段、またはガンマカメラ身体走査手段により行われる、請求項2に記載の使用。
4.前記テキサフィリンが感光性テキサフィリンであり、そして該感光性テキサフィリン組成物がさらに、新生物またはアテロームの光力学的治療のために用いられる、請求項1、2、または3に記載の使用。
5.前記薬学的組成物の調製において感光性テキサフィリンをさらに含む、請求項1、2、または3に記載の使用であって、該組成物がさらに、新生物またはアテロームの光力学的治療のために用いられる、使用。
6.前記テキサフィリンが金属と錯形成されている、請求項1から5のいずれか1項に記載の使用。」(請求項1?6)

(イ)「本発明の現在好ましい実施態様は、新生物またはアテロームを有する宿主のための放射線治療方法であり、この方法は、i)宿主に、薬学的に有効な量のテキサフィリンのGd錯体を投与する工程、およびii)電離放射線を、新生物またはアテロームの近位のテキサフィリンに照射する工程を包含する。本発明のより好ましい実施態様は、テキサフィリンが、・・・またはT2BETのGd錯体、4,5-ジエチル-10,23-ジメチル-9,24-ビス(3-ヒドロキシプロピル)-16,17-ビス[2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ]-ペンタアザペンタシクロ-[20.2.1.1^(3,6).1^(8,11).0^(14,19)]ヘプタコサ-1,3,5,7,9,11(27),12,14,16,18,20,22(25),23-トリデカエンである場合の上記方法である。特に好ましい実施態様は、テキサフィリンがT2BETのGd錯体である場合である。」(21頁18行?22頁1行)

(ウ)「図1A、図1Bおよび図1Cは、本発明の好ましいテキサフィリン、T2BET^(2+)、4,5-ジエチル-10,23-ジメチル-9,24-ビス(3-ヒドロキシプロピル)-16,17-ビス[2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ]-13,20,25,26,27-ペンタアザペンタシクロ[20.2.1.1^(3,6).1^(8,11).0^(14,19)]ヘプタコサ-1,3,5,7,9,11(27),12,14(19),15,17,20,22(25),23-トリデカエンの合成を示す。」(25頁27行?26頁3行)

(エ)「テキサフィリンの二価または三価の金属錯体は、慣例によりN^(+)の形式電荷で示され、Nはそれぞれ1または2である。本発明に記載される錯体は、金属イオンに対する電荷の中和および/または配位の飽和を与える1以上のリガンドをさらに有し得ることが当業者に理解される。そのようなリガンドには、クロライド、ニトレート、アセテート、およびヒドロキシド等が挙げられる。」 (33頁2?6行)

(オ)「実施例1 テキサフィリンT2BETの合成
本実施例は、エトキシ基を含む置換基を有する好ましいテキサフィリン(T2BETと称される)の合成を提供する。
ルテチウム(III)アセテート(lutetium(III)acetate)水和物をStrem Chemicals, Inc.(Newburyport,MA)から、ガドリニウム(III)アセテート四水和物をAesar/Johnson Matthey(Ward Hill,MA)から購入した。・・・4,5-ジエチル-10,23-ジメチル-9,24-ビス(3-ヒドロキシプロピル)-16,17-ビス[2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ]-ペンタアザペンタシクロ[20.2.1.1^(3,6).1^(8,11).0^(14,19)]ヘプタコサ-1,3,5,7,9,11(27),12,14,16,18,20,22(25),23-トリデカエンのガドリニウム(III)錯体の合成(1_(I)、図1A、図1Bおよび図1C)。重要な中間体である1,2-ビス[2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)エトキシ]-4,5-ジニトロベンゼン1_(E)を、図1Aに概略した3工程の合成プロセスに従って調製した。」(34頁11行?35頁2行)

(カ)「1,2-ビス[2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ]-4,5-ジニトロベンゼン1_(E)の合成。
オーブンで乾燥させた1Lの丸底フラスコ内で、1_(D)(104g、0.26モル)および氷酢酸(120mL)を合わせて5℃に冷却した。このよく撹拌した溶液に濃硝酸(80mL)を15?20分間かけて滴下した。・・・塩化メチレン(400mL)を添加し、二相の混合物を2Lの分液漏斗に移し、有機層を取り出した。水層をCH_(2)Cl_(2)(2×150mL)で抽出し、合わせた有機層を10%NaOH(2×150mL)およびブライン(250mL)で洗浄し、乾燥し(MgSO_(4))、そして減圧下で濃縮した。得られたオレンジ色のオイルをアセトン(100mL)に溶解し、その溶液にn-ヘキサン(500mL)を重層してフリーザー内で保存した。得られた沈殿物を濾過して回収し101.69g(80%)の1_(E)を黄色い固体として得た。
1_(E)について: mp 43-45℃;FAB MS、(M+H)^(+):m/e 493;HRMS、(M+H)^(+):493.2030(C_(20)H_(33)N_(2)O_(12)に関する計算値、493.2033)。」(36頁3?18行)

(キ)「1,2-ジアミノ-4,5-ビス[2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ]ベンゼン1_(F)(図1B)の合成。
クライゼンアダプター、圧力等化滴下漏斗、および還流冷却器を備えた、オーブンで乾燥した500mLの丸底フラスコ内で、1,2-ビス[2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ]-4,5-ジニトロベンゼン1_(E)(20g、0.04モル)を無水エタノール(200mL)に溶解した。この清澄な溶液に、10%炭素担持パラジウム(4g)を添加し、暗黒色の懸濁液をアルゴン雰囲気下で加熱還流した。・・・溶媒を減圧下で除去して、得られた明るい茶色のオイルを真空(暗所)で24時間乾燥し、15.55g(89%)の1,2-ジアミノ-ビス[2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ]ベンゼン1_(F)を得た。
1_(F)について:FAB MS、M^(+):m/e 432;HRMS、M^(+):432.2471(C_(20)H_(36)N_(2)O_(8)に関する計算値、432.2482)。この物質をさらなる精製をすることなしに次の工程に用いた。」(36頁19行?37頁6行)

(ク)「4,5-ジエチル-10,23-ジメチル-9,24-ビス(3-ヒドロキシプロピル)-16,17-ビス[2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ]-13,20,25,26,27-ペンタアザペンタシクロ[20.2.1.1^(3,6).18,11.0,^(14,19)]ヘプタコサ-3,5,8,10,12,14,16,18,20,22,24-ウンデカエン(1_(H))の合成。
オーブンで乾燥した1Lの丸底フラスコに、2,5-ビス[(5-ホルミル-3-(3-ヒドロキシプロピル)-4-メチル-ピロール-2-イル)メチル]-3,4-ジエチルピロール1_(G)(1_(G)の合成は、米国特許第5,252,720号において提供され、本明細書中に参考として援用される)(30.94g、0.0644モル)および4,5-ジアミノ-ビス[2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ]ベンゼン1_(F)(28.79g、0.0644モル)を、アルゴン雰囲気下、無水メタノール(600mL)中で合わせた。・・・暗い色の懸濁液をセライトによって濾過して活性炭を除き、乾燥状態まで溶媒をエバポレートし、そして1_(H)の粗生成物を真空下で一晩乾燥した。1_(H)をイソプロピルアルコール/n-ヘプタンから再結晶させ、50g(85%)の深紅の固体を得た。
1_(H)について:^(1)H NMR(CD_(3)OD):_(σ)1.11(t,6H,CH_(2)CH_(3)),1.76(p,4H,pyrr-CH_(2)CH_(2)CH_(2)OH),2.36(s,6H,pyrr-CH_(3)),2.46(q,4H,CH_(2)CH_(3)),2.64(t,4H,pyrr-CH_(2)CH_(2)CH_(2)OH),3.29[s,6H,(CH_(2)CH_(2)O)_(3)CH_(3)],3.31(t,4H,pyrr-CH_(2)CH_(2)CH_(2)OH),3.43-3.85(m,2OH,CH_(2)CH_(2)OCH_(2)CH_(2)OCH_(2)CH_(2)O),4.10(s,4H,(pyrr)_(2)-CH_(2)),4.22(t,4H,PhOCH_(2)CH_(2)O),7.45(s,2H,PhH),8.36(s,2H,HC=N);UV/vis:[(MeOH)_(λmax),nm]:369;FAB MS,[M+H]^(+):m/e 878.5;HRMS,[M+H]^(+):m/e 878.5274([C_(48)H_(72)N_(5)O_(10)]^(+)に対する計算値、878.5279)。」(37頁7行?38頁1行)

(ケ)「4,5-ジエチル-10,23-ジメチル-9,24-ビス(3-ヒドロキシプロピル)-16,17-ビス[2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ]-ペンタアザペンタシクロ[20.2.1.1^(3,6)1^(8,11).0,^(14,19)]ヘプタコサ-1,3,5,7,9,11(27),12,14,16,18,20,22(25),23-トリデカエン(1_(I))のガドリニウム(III)錯体の合成。
1_(I)を図1Cに概略したプロセスに従って調製した。乾燥した2Lの三口丸底フラスコ内で、1_(H)(33.0g、0.036モル)およびガドリニウム(III)アセテート四水和物(15.4g、0.038モル)をメタノール(825mL)中で合わせた。よく撹拌したこの赤色溶液に、ガドリニウム(III)アセテート四水和物(15.4g、0.038モル)およびトリエチルアミン(50mL)を添加し、反応物を加熱還流した。・・・暗緑色の固体をアセトン(1L)に懸濁し、得られたスラリーを室温で1時間撹拌した。懸濁液を濾過して赤色/茶色の不純物(不完全な酸化生成物)を除去し、固体をアセトン(200mL)ですすぎ、そして風乾した。この複合体粗生成物(35g)をMeOH(600mL)に溶解して15分間激しく撹拌し、セライトによって濾過して2Lの三角フラスコに移した。さらに300mLのMeOHおよび90mLの水をこのフラスコに添加して、酢酸で洗浄したLZY-54 ゼオライト(150g)も加えた。この懸濁液を、約3?4時間オーバーヘッドメカニカルスターラーによって撹拌した。ゼオライト抽出は、遊離のGd(III)が非存在となることにより完了したとみなした。・・・ゼオライトをWhatman #3濾紙を通して除去し、回収した固体をMeOH(200mL)ですすいだ。暗緑色の濾液をAmberlite IRA-904アニオン交換樹脂のカラム(長さ30cm×直径2.5cm)にかけてその樹脂から溶出させ(流速約10mL/分)、300mLの1-ブタノールと共に2Lの丸底フラスコに入れた。この樹脂を、さらに100mLのMeOHですすぎ、合わせた溶出物を乾燥状態まで減圧下でエバポレートした。緑色の光沢のある固体1_(I)を40℃で数時間真空乾燥した。よく撹拌した55?60℃の1_(I)のエタノール溶液(260mL)に、1Lの圧力等化滴下漏斗からn-ヘプタン(約600mL)を滴下した(流速4mL/分)。1.5時間のコース(300mL添加)の間に、緑色の錯体1_(I)が、暗い色の混合物から結晶化し始めた。添加が完了した後、緑色の懸濁液を冷却し、室温で1時間撹拌した。懸濁液を濾過し、固体をアセトン(250mL)ですすぎ、24時間真空乾燥して26g(63%)を得た。UV/vis:[(MeOH)_(λmax),nm]:316,350,415,473,739;FAB MS,(M-2OAc)^(+):m/e 1030; HRMS,(M-2OAc)^(+):m/e:1027.4036(C_(48)H_(66)^(155)GdN_(5)O_(10)に関する計算値、1027.4016)。分析[C_(52)H_(72)GdN_(5)O_(14)]・0.5H_(2)Oに関する計算値:C,53.96;H,6.36;N,6.05;Gd,13.59。実測値:C,53.73;H,6.26;N,5.82;Gd,13.92。」(38頁2行?39頁20行)

(コ)図1A

(サ)図1B


(シ)図1C


(2)引用例1の記載事項(ア)?(シ)によれば、引用例1には、金属と錯形成したテキサフィリンを含む組成物が記載されており、当該テキサフィリンとして、4,5-ジエチル-10,23-ジメチル-9,24-ビス(3-ヒドロキシプロピル)-16,17-ビス[2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ]-ペンタアザペンタシクロ[20.2.1.1^(3,6)1^(8,11).0,^(14,19)]ヘプタコサ-1,3,5,7,9,11(27),12,14,16,18,20,22(25),23-トリデカエン(1_(H))(以下、「T2BET」という。)及びガドリニウム(III)アセテート四水和物とを反応させて得られた「T2BETのガドリニウム(III)錯体」(記載事項(ケ))を含む組成物が記載されている。さらに、記載事項(ケ)によれば、当該「T2BETのガドリニウム(III)錯体」の分子量について、実測値を表すm/e値は1027.4036であるのに対し、計算値は 1027.4016である。
よって、引用例1には、「T2BETのガドリニウム(III)錯体を含む組成物であって、当該T2BETのガドリニウム(III)錯体の分子量の実測値が1027.4036であるのに対し、計算値が 1027.4016である、組成物。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

4.対比・判断

引用発明の「T2BETのガドリニウム(III)錯体」は、記載事項(シ)に示される反応式において、「T2BET」すなわち化学構造「1_(H)」の化合物と、金属(M)が三価のガドリニウム(Gd)である「ガドリニウム(III)アセテート四水和物」とを反応させて得られた、金属(M)がガドリウム(Gd)である「1_(l)」の化学構造を有している。
そして、記載事項(エ)からみて、テキサフィリンの三価の金属錯体である上記「T2BETのガドリニウム(III)錯体」は、N^(+)で示される形式電荷が2^(+)であり、この形式電荷を中和および/または配位を飽和する2つのリガンドは、いずれも上記金属錯体の形成に用いられた「ガドリニウム(III)アセテート四水和物」由来の「アセテート(AcO^(-))」であると解するのが自然であるから、引用発明の「T2BETのガドリニウム(III)錯体」は、本願発明の式1で表される化合物のうち、
MがGd^(+3);
XがAcO^(-)(ガドリニウム(III)アセテート四水和物由来のAcO^(-));
R_(4)およびR_(7)が、C_(3)H_(6)OH;
R_(5)およびR_(6)が、C_(2)H_(5);
R_(3)およびR_(8)が、CH_(3);
R_(1)およびR_(2)が、H;、さらにxが3である化合物、に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明とは、
「本願発明の式1で表される化合物のうち、MがGd^(+3);XがAcO^(-);
R_(4)およびR_(7)が、C_(3)H_(6)OH;R_(5)およびR_(6)が、C_(2)H_(5);R_(3)およびR_(8)が、CH_(3);R_(1)およびR_(2)が、H;、さらにxが3である化合物を含む組成物。」である点で一致する。
また、本願発明は「上記化合物の少なくとも98.4%において、各xが3である」のに対し、引用発明は「上記化合物の分子量の実測値が1027.4036であるのに対し、計算値が 1027.4016である」点で、一応相違する。

そこで、上記相違点について検討する。
上記「少なくとも98.4%において、各xが3である」との記載は、本願発明の化合物の少なくとも98.4%において、ポリエチレングリコール鎖で示される部分構造の繰り返し数xが3であること、言い換えれば、上記繰り返し数xが3である本願発明の化合物の純度が98.4%以上であることを意味するものと解される。
これに対し、本願発明と同じく上記繰り返し数xが3である引用発明の「T2BETのガドリニウム(III)錯体」の純度は、「分子量の実測値が1027.4036であるのに対し、計算値が 1027.4016である」との記載からみて99.9%以上であり、98.4%以上の純度に相当することは明らかである。
このように、引用発明の「T2BETのガドリニウム(III)錯体」は、その純度からみて「少なくとも98.4%において、各xが3である」化合物に相当するので、上記相違点は実質的な相違点ではなく、本願発明と引用発明とは同一である。

なお、請求人は、請求の理由(平成24年10月17日付け手続補正書(方式)を参照。)において、THF(テトラヒドロフラン)の使用により本願の図1に示す化合物5の純度が向上し、これまで不可能であった最終生成物の純度の向上が成し遂げられたことを証明した本発明は特許性を有している旨を主張している。
この点について、本願明細書には、本願の図1に示す化合物5の合成時の非プロトン性溶媒としてTHFを用い、さらに式5の化合物を硝酸および酢酸の存在下でニトロ化して得られた式4の化合物の少なくとも98.4%が同一の構造を有することが、記載されている(段落【0049】?【0060】及び図1)。
引用例1には、THFの使用により上記式5の化合物の純度が向上することは記載されていないが、上記のように、引用例1に記載の最終生成物である「T2BETのガドリニウム(III)錯体」の純度は99.9%以上であるので、最終生成物の98.4%を超える高純度は、既に引用発明において達成されていたといえる。
また、本願の式5、式4の化合物は、引用例1の記載事項(カ)、(コ)及び(サ)における化合物1_(D)、化合物1_(E) にそれぞれ相当するところ、記載事項(カ)の「1_(E)について: mp 43-45℃;FAB MS、(M+H)^(+):m/e 493;HRMS、(M+H)^(+):493.2030(C_(20)H_(33)N_(2)O_(12)に関する計算値、493.2033)。」との記載からみて、引用例1の化合物1_(E) (本願の式4の化合物に相当する。)の純度は99.9%以上であり、少なくとも98.4%が同一の構造を有することは明らかであるから、本願の式4の化合物の少なくとも約98.4%が同一の構造を有する点についても、既に引用発明において達成されていた事項である。
そして、上記のように、引用発明の「T2BETのガドリニウム(III)錯体」は、その純度からみて「少なくとも98.4%において、各xが3である」化合物に相当するのであるから、仮に、THFの使用により本願の化合物5の純度が向上することが請求人による新たな発見であり、当業者がこのような製造工程を考えつくことが困難であったとしても、本願発明と引用発明とが同一であるという判断には影響しない。
よって、請求人の上記主張は認められない。

5.むすび

以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-08-08 
結審通知日 2014-08-11 
審決日 2014-09-02 
出願番号 特願2008-532201(P2008-532201)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 冨永 保  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 前田 佳与子
安藤 倫世
発明の名称 高純度テキサフィリン金属錯体  
代理人 清原 義博  

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