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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 H04L 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H04L 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H04L |
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管理番号 | 1296428 |
審判番号 | 不服2013-21021 |
総通号数 | 183 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-03-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-10-29 |
確定日 | 2015-01-15 |
事件の表示 | 特願2009-516218「鍵交換装置及び鍵交換方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年12月 4日国際公開、WO2008/146547〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は,2008年4月17日(優先権主張2007年5月25日 日本国)を国際出願日とする出願であって, 平成21年11月25日付けで国内書面及び条約34条補正写し提出書が提出され, 平成23年3月10日付けで審査請求がなされ,平成25年5月17日付けで審査官により拒絶理由が通知され,これに対して平成25年7月18日付けで意見書が提出されると共に手続補正がなされたが,平成25年8月6日付けで審査官により拒絶査定がなされ(発送;平成25年8月13日),これに対して平成25年10月29日付けで審判請求がなされると共に手続補正がなされ,平成26年1月27日付けで審査官により特許法第164条第3項の規定に基づく報告がなされたものである。 第2.平成25年10月29日付けの手続補正の却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成25年10月29日付け手続補正を却下する。 [理由] 1.補正の内容 平成25年10月29日付けの手続補正(以下,「本件手続補正」という)は,本願明細書の段落【0049】を, 「そして,正当性検証部141において,e(k[i],g)=e(y[n],y[1])Πjn-1e(y[j],y[j+1])が成り立つことを確認し,成り立てば,鍵生成部142から共有鍵108(sk[i]=e(g,h))を出力部120を介して出力する。 」(以下,これを「補正前の【0049】」という)を, 「そして,正当性検証部141において,e(k[i],g)=e(y[n],y[1])Πj=1n-1e(y[j],y[j+1])が成り立つことを確認し,成り立てば,鍵生成部142から共有鍵108(ak[i]=e(k[i],v))を出力部120を介して出力する。」(以下,これを「補正後の【0049】」という)に補正すること,及び, 平成25年7月18日付けの手続補正によって補正された本願明細書の段落【0072】を, 「そして,鍵生成部242から共有鍵208sk[i]を出力部220を介して出力する。」(以下,これを「補正前の【0072】」という)を, 「そして,鍵生成部242から共有鍵208(ak[i]=e(k[i],v))を出力部220を介して出力する。」(以下,これを「補正後の【0072】」という)と補正することを含むものである。 (なお,上記引用の補正事項における下線は,当該補正時に,審判請求人が附加したものである。) 2.補正の適否 (1)新規事項 本件手続補正が,特許法第17条の2第3項の規定を満たすものであるか否か,即ち,本件手続補正が,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,これを「当初明細書等」という)に記載した事項の範囲内でなされたものであるかについて,以下に検討する。 補正後の【0049】,及び,補正後の【0072】に記載された, 「(ak[i]=e(k[i],v))」, は,当初明細書等に記載されていない。 そこで,当初明細書等に記載された内容から, 「(ak[i]=e(k[i],v))」, が読み取れるかについて,以下に検討する。 ア.当初明細書等には,「ak[i]」単独,及び,「e(k[i],v)」単独の記載も存在しない。 補正前の【0049】の記載においては,「共有鍵108」は,「sk[i]」と表現されている。そして,この「sk[i]」という表現は,「共有鍵108」の他,当初明細書等の段落【0007】において,従来技術の説明の中で, 「公開鍵304(pk[i])に対応する秘密鍵305(sk[i])も入力される。」, と従来技術において用いられる「秘密鍵305」にも,同一の「sk[i]」という表現が用いられ,当初明細書等において「(第1の実施の形態)」を示す記載中の,当初明細書等の段落【0041】においても, 「自身の公開鍵104(pk[i])と,この公開鍵104(pk[i])に対応する秘密鍵105(sk[i])も入力部110を介して入力される。さらに,これから生成される共有鍵108に固有のセッション番号106(sid)と乱数107が入力部110を介して入力される」, と記載されていて,当初明細書等においては,段落【0007】に記載された,「秘密鍵305」と,段落【0041】に記載された,「秘密鍵105」にも,段落【0049】に記載された「共有鍵108」と同じ,「sk[i]」という表現が用いられている。 しかしながら,これらは,「共有鍵108」,「秘密鍵305」,或いは,「秘密鍵105」と,「sk[i]」を識別するための情報が付加されており,更に,「sk」は,「秘密鍵」=“secret key”,及び,「共有鍵」=“shared key”の頭文字と見なすことができるので,「秘密鍵」,及び,「共有鍵」の両方を,「sk」と表現することで,「秘密鍵305」,或いは,「秘密鍵105」と,「共有鍵108」とが,識別不能になることはなく,当該技術分野における技術常識を考慮しても,同一の表現を用いることに,格別の不都合は存在しない。 そして,上記指摘のとおり,「ak[i]」という表現が,当初明細書等に記載されていない以上,補正前の【0049】に記載された“共有鍵108(sk[i]”を,補正後の【0049】に記載された“共有鍵108(ak[i]”と補正することは,当初明細書等に記載された内容から読み取れる範囲においてなされるものではない。 イ.上記ア.において指摘したとおり,当初明細書等には,補正後の【0049】に記載された「e(k[i],v)」は,存在していないので,当初明細書等に記載された内容から,該「e(k[i],v)」が導き出せるかについて,更に検討する。 該「e(k[i],v)」中の「v」については,当初明細書等の段落【0004】に, 「v,wを無作為に選ばれた整数とする。F,F’を擬似乱数生成装置とする」, と記載されていて,上記引用の段落【0004】に記載された「v」と,補正後の【0049】に記載された「v」とが,同じものであれば,該「v」は,「無造作に選ばれた整数」ということになる。 しかしながら,上記引用の段落【0004】に記載された「v」は,当初明細書等の段落【0016】に, 「検証データ生成部312において,ack[i]=F(k[i],v)を生成し,また,一時鍵生成部313において,共有鍵308(sk[i]=F’(k[i],w))を生成する」, と記載されているように,「ack[i]=F(k[i],v)」を求めるために用いられるものであり,「ack」とは,コンピュータの技術分野における“肯定応答(acknowledge)”を意味するものと解され,上記引用の段落【0016】においては,「共有鍵308」は「sk[i]=F’(k[i],w)」として,「v」ではなく,「w」を用いて生成されている。 そして,「ack[i]」,「sk[i]」の生成に用いているのは,上記引用の段落【0004】に記載されている「擬似乱数生成装置」,「F,F’」である。 一方,補正後の【0049】における「e」とは,当初明細書等の段落【0026】に記載されているとおり, 「pを素数,GとG_(T)を位数pの巡回群,eをG掛けるGからG_(T)への非縮退な双線形写像であるとする」, であるから,従来技術に関する記載内容を考慮しても,そもそも,該「v」は,「共有鍵」の生成には用いられておらず,また,仮に,該「v」が,「共有鍵」の生成に用いられていたとしても,該「共有鍵」を求めるための式が,全く,異なっているので,当初明細書等の段落【0004】,及び,段落【0016】に記載された「v」と,補正後の【0049】に記載された「v」とが,同一のものであるとは,当初明細書等の記載内容からは読み取れない。 そして,当初明細書等の段落【0038】に, 「鍵生成装置142は,通信部130を介して全ての相手装置から受け取った貢献データ集合155及び補助データ集合152から共有鍵108を生成する。」 と記載されていることから,当初明細書等において,「貢献データ集合」,および,「補助データ集合」がどのようなものであったかを見ていくと,当初明細書等の段落【0045】に記載された内容から, 「貢献データ集合」は,「(sid,y[1],・・・,y[n])」であり, 「補助データ」は,「(x[i]=(y[i+1]/y[i-1])^(r[i]))」であり, 当初明細書等の段落【0047】の記載に従えば,受信された補助データx[j]の全てからなるのが,「補助データ集合」であって,補正後の【0049】に記載された「e(k[i],v)」における,「k[i]」は,本件手続補正により補正された明細書の段落【0048】において記載されているように,「通信部130を介して全ての相手装置から受け取った貢献データ集合155及び補助データ集合152から」, 「k[i]=(y[i-1]^(r[i]))^(n)x[i]^(n-1)x[i+1]^(n-2)・・・x[n]^(i-1)x[1]^(i-2)x[2]^(i-3)・・・x[i-2]」, として求められるものであるから,上記引用の段落【0038】に記載されている内容を踏まえると,「共有鍵108」を求めるために,「貢献データ集合」,及び,「補助データ集合」を用いて求められる「k(i)」を用いることは,一応,当初明細書等の記載の範囲内と解することが出来る。 しかしながら,当初明細書等に記載された内容から読み取れるのは,上記検討のとおり,「共有鍵108」を求めるために,「k[i]」を用いることまでであり,該「k[i]」と,当初明細書等の実施の形態においては定義されていない,「v」とを,e(k[i],v)として演算することによって,「共有鍵108」を求めるよう変更することが,当該技術分野における技術常識を加味したとしても,当初明細書等の記載内容から読み取れるものではない。 補正後の段落【0072】についても同様である。 以上に検討したとおりであるから,本件手続補正は,当初明細書等に記載された範囲内でなされたものではない。 3.補正却下むすび したがって,本件手続補正は,特許法第17条の2第3項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって,補正却下の決定の結論のとおり決定する。 第3.本願発明について 平成25年10月29日付けの手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項各項に係る発明は,平成25年7月18日付けの手続補正により補正された,特許請求の範囲の請求項1?請求項5に記載された,次の事項により特定されるものである。 「 【請求項1】 公開鍵,秘密鍵,識別子,相手公開鍵集合,相手識別子集合,セッション番号及び乱数が入力され,前記相手識別子集合に属する識別子で識別される複数の相手装置と通信を行い,共有鍵を生成,出力する鍵交換装置であって, 前記乱数を用いて貢献乱数を生成する貢献乱数生成部と, 前記貢献乱数生成部にて生成された貢献乱数により貢献データを生成する貢献データ生成部と, 前記貢献データを前記複数の相手装置に送付する通信部と, 前記秘密鍵と前記公開鍵を用いて,前記複数の相手装置から前記通信部にて受け取った貢献データの全てよりなる貢献データ集合に対する署名である貢献確認署名を生成する署名部と, 前記貢献データ集合と前記貢献乱数とにより,補助データ及び補助データ正当性証明文を生成する証明可能補助データ生成部とを有し, 前記補助データ,前記補助データ正当性証明文及び前記貢献確認署名は,前記通信部により前記複数の相手装置に送付され, 前記相手識別子集合及び前記相手公開鍵集合と,前記複数の相手装置から前記通信部にて受け取ったデータからなる前記貢献確認署名集合,前記補助データ集合及び前記補助データ正当性証明文集合とより,前記補助データの正当性を検証する正当性検証部と, 前記複数の相手装置から前記通信部にて受け取った前記貢献データ集合と前記補助データ集合とにより前記共有鍵を生成する鍵生成部とを有する鍵交換装置。 【請求項2】 請求項1に記載の鍵交換装置において, 特に同じ位数の群G,G_(T)で,群Gに属する2つの要素から群G_(T)への双線形写像が存在する2つの群G,G_(T)の計算手段を有し, 特に,前記貢献データ及び前記補助データは群Gの元であって, 前記補助データ正当性証明文は空集合であって, 前記正当性検証部は,各補助データが貢献データ集合より正しく生成されたことを,貢献データや補助データを入力として双線形写像を計算することで検証することを特徴とする鍵交換装置。 【請求項3】 請求項1または請求項2に記載の鍵交換装置において, 前記署名を生成するのに用いる署名方式が,アグリゲート署名であることを特徴とする鍵交換装置。 【請求項4】 公開鍵,秘密鍵,識別子,相手公開鍵集合,相手識別子集合,セッション番号及び乱数が与えられ,前記相手識別子集合に属する識別子で識別される複数の相手装置と通信を行い,共有鍵を生成,出力する鍵交換方法であって 前記乱数を用いて貢献乱数を生成する処理と, 前記生成された貢献乱数により貢献データを生成する処理と, 前記貢献データを前記複数の相手装置に送付する処理と, 前記秘密鍵と前記公開鍵を用いて,前記複数の相手装置から受け取った貢献データの全てよりなる貢献データ集合に対する署名である貢献確認署名を生成する処理と, 前記貢献データ集合と前記貢献乱数とにより,補助データ及び補助データ正当性証明文を生成する処理と, 前記補助データ,前記補助データ正当性証明文及び前記貢献確認署名を,前記複数の相手装置に送付する処理と, 前記相手識別子集合及び前記相手公開鍵集合と,前記複数の相手装置から受け取ったデータからなる前記貢献確認署名集合,前記補助データ集合及び前記補助データ正当性証明文集合とより,前記補助データの正当性を検証する処理と, 前記複数の相手装置から受け取った前記貢献データ集合と前記補助データ集合とにより前記共有鍵を生成する処理とを有する鍵交換方法。 【請求項5】 公開鍵,秘密鍵,識別子,相手公開鍵集合,相手識別子集合,セッション番号及び乱数が入力され,前記相手識別子集合に属する識別子で識別される複数の相手装置と通信を行い,共有鍵を生成,出力する鍵交換装置に, 前記乱数を用いて貢献乱数を生成する手順と, 前記生成された貢献乱数により貢献データを生成する手順と, 前記貢献データを前記複数の相手装置に送付する手順と, 前記秘密鍵と前記公開鍵を用いて,前記複数の相手装置から受け取った貢献データの全てよりなる貢献データ集合に対する署名である貢献確認署名を生成する手順と, 前記貢献データ集合と前記貢献乱数とにより,補助データ及び補助データ正当性証明文を生成する手順と, 前記補助データ,前記補助データ正当性証明文及び前記貢献確認署名を,前記複数の相手装置に送付する手順と, 前記相手識別子集合及び前記相手公開鍵集合と,前記複数の相手装置から受け取ったデータからなる前記貢献確認署名集合,前記補助データ集合及び前記補助データ正当性証明文集合とより,前記補助データの正当性を検証する手順と, 前記複数の相手装置から受け取った前記貢献データ集合と前記補助データ集合とにより前記共有鍵を生成する手順とを実行させるためのプログラム。」 第4.原審拒絶理由 原審による,平成25年5月17日付けの拒絶理由(以下,これを「原審拒絶理由」という)は,概略,次のとおりである。 「 理 由 A.この出願は,発明の詳細な説明の記載が下記の点で,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 (a)請求項1には「前記相手識別子集合及び前記相手公開鍵集合と,前記複数の相手装置から前記通信部にて受け取ったデータからなる前記貢献確認署名集合,前記補助データ集合及び前記補助データ正当性証明文集合とより,前記補助データの正当性を検証する正当性検証部」が記載され,請求項4,5にも同様のことが記載されている。 ・・・・・・(中略)・・・・・ この記載について検討するに,gはG_(T)の生成子である(27段落)から,貢献データy[i]=g^(r[i]),補助データx[i]=(y[i+1]/y[i-1])^(r[i]),k[i]=(y[i-1]^(r[i]))^(n)x[i+1]^(n)x[i+2]^(n-1)・・・x[n]^(i+1)x[1]^(i)・・・x[i-1]^(2)x[i]は,G_(T)の元である。そして,eはG掛けるGからG_(T)への非縮退な双線形写像である(26段落)から,e(k[i],g)=e(y[n],y[1])Π_(j)^(n-1)e(y[j],y[j+1])における双線形写像を計算することができない。 またΠ_(j)^(n-1)e(y[j],y[j+1])において,インデックスjの最小値がjとされ特定されていないから,この点からも,前記の計算を行うことができない。 また,前記の記載が誤記であり,gがGの生成子であってインデックスの最小値が1であったとしても,貢献データ,補助データ,k[i]の定義からして,e(k[i],g)=e(y[n],y[1])Π_(1)^(n-1)e(y[j],y[j+1])は常に成り立たない。そのような常に成立しない式を確認するということは,不明なことである。 してみれば,本願明細書の発明の詳細な説明は,請求項に記載の「前記相手識別子集合及び前記相手公開鍵集合と,前記複数の相手装置から前記通信部にて受け取ったデータからなる前記貢献確認署名集合,前記補助データ集合及び前記補助データ正当性証明文集合とより,前記補助データの正当性を検証する」ことを,当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に記載していない。 (b)請求項1には「前記複数の相手装置から前記通信部にて受け取った前記貢献データ集合と前記補助データとにより前記共有鍵を生成する鍵生成部」が記載され,請求項4,5にも同様のことが記載されている。 一方,本願明細書の発明の詳細な説明には,以下の事項が記載されている。 「【0026】 (実施の形態で使われる記法) pを素数,GとG_(T)を位数pの巡回群,eをG掛けるGからG_(T)への非縮退な双線形写像であるとする。ここで双線形であるとは,すべてのα,β∈Z/qZ及びg∈Gに対して, e(g^(α),g^(β))=e(g,g)^(αβ)が成り立つことである。また,非縮退であるとは,gがGの生成元であるとき,e(g,g)が,G_(T)の生成元となるということである。 【0027】 鍵を交換する装置の数をnとし,それぞれの装置にiで番号を振る。装置iを表す識別子をU[i]とする。g,hはG_(T)の生成子とする。」 「【0049】 そして,正当性検証部141において,e(k[i],g)=e(y[n],y[1])Π_(j)^(n-1)e(y[j],y[j+1])が成り立つことを確認し,成り立てば,鍵生成部142から共有鍵108(sk[i]=e(g,h))を出力部120を介して出力する。 【0050】 (第2の実施の形態) 本形態は,第1の実施の形態とは異なり,Gに双線形写像が存在しないものとする。」 「【0072】 そして,鍵生成部242から共有鍵208(sk[i]=e(g,h))を出力部220を介して出力する。」 これらの記載について検討するに,共有鍵sk[i]=e(g,h)の計算において,(a)にて述べたと同様g,hはG_(T)の生成子であるから,G掛けるGからG_(T)への非縮退な双線形写像e(g,h)を計算することができない。第2の実施形態は「Gに双線形写像が存在しない」(50段落)ものであるから,その第2の実施の形態において共有鍵を前記の如く求めるということ自体,不明なものである。 またそもそも,共有鍵sk[i]=e(g,h)の計算は,共有鍵を「前記複数の相手装置から前記通信部にて受け取った前記貢献データ集合と前記補助データとにより」生成するものではないから,共有鍵を「前記複数の相手装置から前記通信部にて受け取った前記貢献データ集合と前記補助データとにより」生成することを,具体的にどのようにして実現するのか不明である。 してみれば,本願明細書の発明の詳細な説明は,請求項に記載の「前記複数の相手装置から前記通信部にて受け取った前記貢献データ集合と前記補助データとにより前記共有鍵を生成する」ことを,当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に記載していない。 よって,この出願の発明の詳細な説明は,当業者が請求項1-5に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 B.この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 請求項1には「前記複数の相手装置から前記通信部にて受け取った前記貢献データ集合と前記補助データとにより前記共有鍵を生成する鍵生成部」が記載され,請求項4,5にも同様のことが記載されている。 しかしながら,理由A.(b)にて上記したように,本願明細書の発明の詳細な説明には,共有鍵を貢献データ集合と補助データとにより生成することは記載されていない。 よって,請求項1-5に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものでない。」 第5.当審の判断 1.理由Aの(a)について 平成25年7月18日付けの手続補正(以下,これを「手続補正」という)において,本願明細書の段落【0027】は, 「g,hはG_(T)の生成子とする」, から, 「g,hはGの生成子とする」, に補正され(以下,これを「補正事項1」という), 本願明細書の段落【0048】,及び,段落【0071】は, 「sk[i]=(y[i-1]^(r[i]))^(n)×[i+1]^(n)×[i+2]^(n-1)・・・×[n]^(i+1)×[1]i・・・×[i?1]^(2)×[i]を生成する」, から, 「k[i]=(y[i+1]^(r[i]))^(n)x[i+1]^(n-1)x[i+2]^(n-2)・・・x[n]^(i)x[1]^(i-1)・・・x[i-1]を生成する」, に補正された(以下,これを「補正事項2」という)。 補正事項1によって,原審拒絶理由の理由Aの(a)において指摘された, 「eはG掛けるGからG_(T)への非縮退な双線形写像である(26段落)から,e(k[i],g)=e(y[n],y[1])Π_(j)^(n-1)e(y[j],y[j+1])における双線形写像を計算することができない」, という事項は,「g,hがG_(T)の生成子」であることから生じていた問題点については解消しているが,手続補正後の本願明細書の段落【0049】に, 「正当性検証部141において,e(k[i],g)=e(y[n],y[1])Π_(j)^(n-1)e(y[j],y[j+1])が成り立つことを確認」することが記載されており, 上記引用の段落【0049】に記載された,“正当性を確認する式”は,原審拒絶理由において,“jの範囲が特定されていない”ことを指摘された式そのものであって,補正事項2よって補正された「k[i]」を代入したとしても,正当性を確認することは依然として不可能である。 (原審による平成25年8月6日付けの拒絶査定の備考において指摘されているとおり,仮に,jの範囲が(1≦j≦n-1であったとしても,補正事項2で補正されたk[i]を代入しても,式は常に成立しない。 なお,審判請求時の補正(本件手続補正)において,段落【0048】を, 「k[i]=(y[i-1]^(r[i]))^(n)x[i]^(n-1)x[i+1]^(n-2)・・・x[n]^(i-1)x[1]^(i-2)x[2]^(i-3)・・・x[i-2]」, と補正し,段落【0049】を, 「e(k[i],g)=e(y[n],y[1])Π_(j=1)^(n-1)e(y[j],y[j+1])」 と補正することで,理由Aの(a)は,解消するが,審判請求時の補正は,上記検討のとおり,新規事項を含むものであって,却下されたので,上記引用の審判請求時の補正事項を考慮することはできない。) 2.理由Aの(b)について 手続補正により補正された本願の請求項1に, 「前記複数の相手装置から前記通信部にて受け取った前記貢献データ集合と前記補助データ集合とにより前記共有鍵を生成する」, と記載され,手続補正により補正された本願の請求項4,及び,請求項5に, 「前記複数の相手装置から受け取った前記貢献データ集合と前記補助データ集合とにより前記共有鍵を生成する」, と記載され,上記「第2.平成25年10月29日付けの手続補正の却下の決定」の「2.補正の適否」において引用したとおり,本願明細書の段落【0038】には, 「鍵生成装置142は,通信部130を介して全ての相手装置から受け取った貢献データ集合155及び補助データ集合152から共有鍵108を生成する」, と記載されている。 しかしながら,本願明細書の段落【0049】には,「共有鍵108」を求める計算式として, 「共有鍵108(sk[i]=e(g,h))」, と記載されていて,上記引用の「共有鍵108」を求める式の右辺に記載された,「g」,及び,「h」については,上記1.において引用した補正事項1の内容に従えば,「Gの生成子」であって,上記「第2.平成25年10月29日付けの手続補正の却下の決定」の「2.補正の適否」においても引用した,本願明細書の段落【0045】に記載された「貢献データ集合」でもなければ,段落【0025】に記載された,「補助データ」の集合である,「補助データ集合」でもないことは明らかである。 また,原審拒絶理由において, 「第2の実施形態は「Gに双線形写像が存在しない」(50段落)ものであるから,その第2の実施の形態において共有鍵を前記の如く求めるということ自体,不明なものである。」 として指摘された点に関して,手続補正において,段落【0072】を, 「そして,鍵生成部242から共有鍵208(sk[i]=e(g,h))を出力部220を介して出力する」, から, 「そして,鍵生成部242から共有鍵208sk[i]を出力部220を介して出力する」, に補正しているが(以下,これを「補正事項3」という), 補正事項3における「共有鍵208sk[i]」が,どのような形式のもので,どのようして求められているか,手続補正後の本願明細書の発明の詳細な説明,及び,図面に記載された内容を全て検討しても不明である。 以上検討したとおり,本願明細書の発明の詳細な説明の記載においては,「共有鍵」は,「貢献データ集合」,及び,「補助データ集合」を用いて計算されておらず,本願の請求項1,請求項4,及び,請求項5,並びに,本願明細書の段落【0038】に記載された, “「貢献データ集合」,及び,「補助データ集合」により,共有鍵を生成する” ことを,どのように実現しているか,本願明細書の発明の詳細な説明,及び,図面に記載された内容からは不明である。 以上のとおりであるから,手続補正後の本願明細書の発明の詳細な説明,及び,図面に記載された内容を参酌しても,依然として,本願明細書の発明の詳細な説明は,経済産業省令で定めるところにより,その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記述したものでない。 3.理由B.について 手続補正により補正された,本願の請求項1に記載された, 「前記複数の相手装置から前記通信部にて受け取った前記貢献データ集合と前記補助データ集合とにより前記共有鍵を生成する」, 同じく,手続補正により補正された,本願の請求項4,及び,請求項5に記載された, 「前記複数の相手装置から受け取った前記貢献データ集合と前記補助データ集合とにより前記共有鍵を生成する」, という構成は,上記「理由A.の(b)について」において引用したとおり, 本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0038】に, 「鍵生成装置142は,通信部130を介して全ての相手装置から受け取った貢献データ集合155及び補助データ集合152から共有鍵108を生成する」, という,上記引用の本願の請求項1,請求項4,及び,請求項5に記載されたものと同等の記載が存在するものの,実際に「共有鍵」を求める式においては,上記2.において検討したとおり,「貢献データ集合」,「補助データ集合」の何れも用いておらず,結果として,本願明細書の発明の詳細な説明には,本願の請求項1,請求項4,及び,請求項5に記載された, “「貢献データ集合」,及び,「補助データ集合」により,共有鍵を生成する” ことは記載されていない。 そして,本願の請求項2,及び,請求項3は,本願の請求項1を引用するものであるから,上記で検討した,本願明細書の発明の詳細な説明に記載されていない構成を内包するものである。 以上に検討したとおりであるから,手続補正によって補正された事項を考慮しても, 依然として,本願の請求項1?請求項5に係る発明は,本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない。 第6.むすび したがって,本願は,特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-11-04 |
結審通知日 | 2014-11-11 |
審決日 | 2014-12-04 |
出願番号 | 特願2009-516218(P2009-516218) |
審決分類 |
P
1
8・
561-
Z
(H04L)
P 1 8・ 537- Z (H04L) P 1 8・ 536- Z (H04L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 中里 裕正 |
特許庁審判長 |
山崎 達也 |
特許庁審判官 |
石井 茂和 小林 大介 |
発明の名称 | 鍵交換装置及び鍵交換方法 |
代理人 | 宮崎 昭夫 |
代理人 | 緒方 雅昭 |