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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1296459
審判番号 不服2012-23286  
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-11-26 
確定日 2015-01-13 
事件の表示 特願2009-550863「動物において肥満症を予防または治療するための組成物および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年8月28日国際公開、WO2008/103180、平成22年6月24日国内公表、特表2010-521422〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1 手続の経緯
本願は、平成19年2月23日を国際出願日とする出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成24年 2月22日付け 拒絶理由通知書
平成24年 6月27日 意見書・手続補正書
平成24年 7月23日付け 拒絶査定
平成24年11月26日 審判請求書
平成25年 1月 9日 手続補正書(方式)


2 本願発明の認定
本願の請求項1?24に係る発明は、平成24年6月27日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?24に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

【請求項1】
動物において肥満症を予防または治療するのに有効な量のカプサイシンまたはジヒドロカプサイシンを含む組成物であって、該組成物は25から200ppmのカプサイシンまたはジヒドロカプサイシンを含む、上記組成物。

3 引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願前に頒布された刊行物1(原査定の引用文献1)である、Biosci. Biotechnol. Biochem., Vol.65, No.12, pp.2735-2740 (2001)には、以下の事項が記載されている。
また、刊行物1の訳文は当審によるものであり、下線は当審が付した。

(刊1a)「We investigated the effects of a single oral administration of capsiate, which is found in the fruits of a non-pungent cultivar of pepper, CH-19 Sweet, and has the same structure as capsaicin except for replacement of NH by O in the alkyl chain, on the thermogenesis and fat accumulation in mice. The oxygen consumption and serum adrenalin concentration were higher in both the capsaicin (10 mg/kg-body weight) and capsiate (10 mg/kg-body weight) groups than those in the control group. We also examined the effects of 2 weeks of administration of capsaicin and capsiate on body fat accumulation. Eevery day for 2 weeks administration of capsiate (10, 50 mg/kg-body weight/day) markedly suppressed body fat accumulation as well as capsaicin (10 mg/kg-body weight/day). These results suggest that capsiate promotes energy metabolism and suppresses body fat accumulation as does capsaicin.」(2735頁左欄第1段落の要約)
(訳文)「我々は、マウスにおける熱発生と脂肪蓄積に対する、唐辛子の刺激性でない栽培品種CH-19 Sweetの果実中に発見された、Oによるアルキル鎖のNHの置換以外にカプサイシンと同じ構造を有しているカプシエイトの単独経口投与の効果を調査した。 酸素消費と血清アドレナリン濃度は、コントロール群に比べ、カプサイシン(10mg/kg体重)と カプシエイト(10mg/kg体重)群の双方でより高かった。 我々は、同じく体脂肪蓄積に対するカプサイシンとカプシエイトの2週間の投与の効果を調べた。 カプシエイト(10、50mg/kg体重/日)の2週間の毎日投与は、カプサイシン(10mg/kg体重/日)と同様に、体脂肪蓄積を抑制した。これらの結果は、カプシエイトがカプサイシンと同じように、エネルギー代謝を促進して、体脂肪蓄積を抑制することを示唆する。」

(刊1b)「Capsium species, hot peppers, are important plants and have been used world wide as food, spices, and medicines. Capsaicin, (E)-N-[(4-hydroxy-3-methoxyphenyl)methyl]-8-methyl-6-nonenamide, the major pungent component in fruits of Capsium, has been reported to increase the catecholamine secretion and energy expenditure and suppress body fat accumulation by long-term treatment in experimental animal studies. Although hot peppers and capsaicin may be used in a diet therapy for obesity, their usage as a food additive or a drug is limited by its strong pungency and nociceptive activity for humans.」(2735頁左欄第2段落)
(訳文)「トウガラシ種、辛い唐辛子は、重要な植物であって、食物、スパイス、医薬として広く世界で使用されてきた。カプサイシン、すなわち(E)-N-[(4-ハイドロキシ-3-メトキシフェニル)メチル]-8-メチル-6-ノネンアミド、唐辛子中の主要な辛さ成分は、カテコールアミン分泌作用とエネルギー消費を増やして、実験的な動物の研究の長期の治療によって体脂肪蓄積を抑制することが報告されている。辛い唐辛子とカプサイシンは、肥満のための食餌療法に使用できるかもしれないが、食品添加物あるいは医薬としての使用はヒトにとってその強い辛さと痛覚活性によって制限される。」

(刊1c)「Long-term administration of capsaicin and capsiate.
・・・Mice were randomly divided into 4 groups so that the mean body weights of the groups were equal and administered vehicle (control) or capsaicin (10 mg/kg body weight) or capsiate (10, 50 mg/kg body weight) via a stomach tube every day for 2 weeks. Then, the mice were killed and the organs were removed and weighed.」(2736頁右欄第2段落)
(訳文)「カプサイシンとカプシエイトの長期投与
・・・グループの平均体重が等しくなるように、マウスは、ランダムに4つのグループに分けられて、胃チューブを経由して2週間毎日、溶媒(コントロール)またはカプサイシン(10mg/kg体重)またはカプシエイト(10、50mg/kg体重)を投与された。 それから、マウスは殺され、器官が取り除かれて、計量された。」

(刊1d)「Effects of long-term administration
The body weight in both the capsaicin and capsiate groups tended to be lower than that in the control group throughout the two-week administration period (Fig. 3). There was no difference in food intake. Water intake in both the capsaicin and capsiate group was slightly higher than that in the control group, but not significant (Table l).
The organ weight of heart, Iiver, spleen, gastrocnemius muscle, quadriceps muscle and interscapula brown adipose tissue did not show any difference among the groups (Table 2). The fat accumulation of white adipose tissue was clearly diminished in both the capsaicin and capsiate groups (Fig. 4). A significant difference was detected in the epididymal fat weight between the control group and capsaicin or capsiate (10 mg/kg wt.) group and in the perirenal fat weight between the control group and capsaicin or capsiate (50 mg/kg wt.) group.」(2737頁右欄第1?2段落)
(訳文)「長期投与の効果
体重は、カプサイシンとカプシエイトの両群で2週間の投与期間を通してコントロール群より低い傾向であった(Fig.3)。食物摂取には相違がなかった。カプサイシンとカプシエイトの両群とも水摂取量がコントロール群より少し高かったが、顕著ではなかった(表1)。
心臓、肝臓、脾臓、腓腹筋、大腿四頭筋と肩甲骨間の茶色脂肪組織の器官重量は、群間で相違は見られなかった(表2)。白色脂肪組織の脂肪蓄積は、カプサイシンとカプシエイトの両群で明らかに減少していた(Fig.4)。顕著な相違が、コントロール群とカプサイシンまたはカプシエイト(50mg/kg重量)群の間の精巣上体の脂肪重量およびコントロ-ル群とカプサイシンまたはカプシエイト(10mg/kg重量)群の間の腎周囲の脂肪重量で検出された。」

(刊1e)「

」(2738頁左欄Fig.3)
(訳文)「Fig.3.実験期間中の溶媒、カプサイシン(10mg/kg体重)、カプシエイト(10、50mg/kg体重/日)を投与されたマウスの体重」

(刊1f)「

」(2738頁左欄Table1およびTable2)

(刊1g)「

」(2738頁右欄Fig.4)
(訳文)「Fig.4.溶媒、カプサイシン(10mg/kg体重)、カプシエイト(10、50mg/kg体重/日)を2週間投与されたマウスの精巣上体(上欄)および腎周囲(下欄)における脂肪組織の重量」


4 当審の判断
(1)刊行物1に記載された発明
刊行物1には、「カプサイシン・・・は、カテコールアミン分泌作用とエネルギー消費を増やして、実験的な動物の研究の長期の治療によって体脂肪蓄積を抑制することが報告されている。・・・カプサイシンは、肥満のための食餌療法に使用できるかもしれない」(刊1b)と記載されており、
「カプサイシンとカプシエイトの長期投与 グループの平均体重が等しくなるように、マウスは、ランダムに4つのグループに分けられて、胃チューブを経由して2週間毎日、溶媒(コントロール)またはカプサイシン(10mg/kg体重)またはカプシエイト(10、50mg/kg体重)を投与された」(刊1c)動物実験の結果として、
「体重は、カプサイシンとカプシエイトの両群で2週間の投与期間を通してコントロール群より低い傾向であった(Fig.3)」(刊1d、刊1e)こと、及び「白色脂肪組織の脂肪蓄積は、カプサイシンとカプシエイトの両群で明らかに減少していた(Fig.4)」(刊1d、刊1g)ことが記載されている。
ここで、カプサイシンは、「3%エタノールおよび10%Tween 80を含む0.9%食塩水」(2736頁左欄第2段落)に溶解した溶液で「胃チューブを経由して」(刊1c)マウスに投与されている。

してみると、刊行物1には、「マウスにおける肥満のための食餌療法に用いられるカプサイシンを含む溶液。」に係る発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されている。

(2)本願発明と刊行物1発明の対比
ア 動物について
本願の明細書の段落【0019】には、「本発明はいずれかの動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくは愛玩動物に関する。用語”愛玩動物”は、ヒトと密接な関係で生きているいずれかの動物を表わし、いずれかの品種のイヌ類およびネコ類が含まれるが、これらに限定されない。」と記載されており、刊行物1発明の「マウス」は、本願発明の「動物」に該当する。

イ 組成物について
本願の明細書の段落【0008】には、「本発明は、動物において肥満症を予防および/または治療するのに有用な組成物に関する。」と記載されており、刊行物1発明の「肥満のための食餌療法に用いられるカプサイシンを含む溶液」は、本願発明の「肥満症を予防または治療する」のに有用な「組成物」に該当する。

したがって、本願発明と刊行物1発明を対比すると、
「動物において肥満症を予防または治療する、カプサイシンを含む組成物。」という点で一致し、以下の相違点を有する。

ウ 相違点
本願発明では「肥満症を予防または治療するのに有効な量」として「25から200ppmのカプサイシンまたはジヒドロカプサイシンを含む」のに対して、刊行物1発明では「毎日」「カプサイシン(10mg/kg体重)」(刊1c)を投与する点。

(3)相違点に対する判断
ア 刊行物1発明の用量について
刊行物1の実験では、5週齢の雄のddYマウス(静岡ラボラトリーセンター、浜松市)が用いられている(2735頁右欄下から2行)。
ここで、実験動物の生産・販売を行っている日本エスエルシー株式会社(静岡県浜松市)がHPで公表しているddYマウスの2007年実験動物データ集(http://jslc.co.jp/inform/2007data/ddy2007.pdf)によると、5?7週齢の雄のddYマウスの体重は約30gであって、1日の摂餌量は約6gである。

以下の計算式によれば、体重30gのddYマウスに対して1日に投与されたカプサイシンの量は、0.0003gであり、1日の摂餌量6gに対するカプサイシンの濃度は、50ppmであることが算出できる。
10mg/kg体重×0.03kg体重=0.3mg=0.0003g
0.0003g÷6g=50×10^(-6)=50ppm

なお、(刊1e)に記載されたカプサイシンを投与されたddYマウスの体重の推移を見れば、1日の摂餌量6gから大きく異なることはないと考えられるが、仮にカプサイシンの強い辛さのためにddYマウスの1日の摂餌量6gが多少減少したとしても50ppmを幾分上回る数値となるだけである。

してみると、刊行物1発明におけるカプサイシンの濃度(用量)50ppmおよびそれを幾分上回る数値は、本願発明の「25から200ppm」に含まれるものである。

イ 容易想到性
刊行物1には、マウスについて50ppmおよびそれを幾分上回る用量で肥満や肥満に関連した症状の改善に効果があったことが記載されており、当該技術分野において、適用する動物の種類(例えば、イヌ、ネコ等)に応じて有効成分の用量を変更したり、治療効果の向上や副作用の低減等を目的として、有効成分の用量を最適化することは当業者が通常行っていることであるから、引用文献1に記載された50ppmの前後の異なる用量で治療効果等を確認して、カプサイシンの用量を「25から200ppm」と決定することは、当業者であれば容易になし得たことである。

(4)本願発明の効果について
本願明細書の実施例2において、カプサイシン21.3ppmおよびジヒドロカプサイシン32.0ppmを含有する治療用飼料をイヌに2週間与えたところ、0.13kg減量したことが確認されている。
一方、刊行物1には、カプサイシン50ppmをマウスに2週間与えたところ、「体重は、カプサイシン・・・で2週間の投与期間を通してコントロール群より低い傾向であった(Fig.3)」(刊1d、刊1e)こと、及び「白色脂肪組織の脂肪蓄積は、カプサイシン・・・で明らかに減少していた(Fig.4)」(刊1d、刊1g)ことが記載されている。
してみると、本願発明の効果は、本願明細書の記載を参酌しても、刊行物1の記載から予測される範囲内のものであり、格別顕著なものではない。

(5)小括
よって、本願発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6)請求人の主張について
請求人は、審判請求書の手続補正書(方式)において、
「引例1の2739ページの左欄の第2段落には、『白色脂肪組織重量に対するカプシエイトの効果は、10および50mg/重量kgを投与されたマウスの間で差は認められなかった。(日本語訳)』と記載されている。ここに記載されたカプサイシンの量は667ppmから3333ppmに相当する。よって引例1におけるこのような記載は、本願請求項1に記載されたような低濃度のカプサイシンを用いることを妨げるものである」
と主張している。

しかしながら、以下の(i)?(iii)に述べるように、請求人の主張には理由がない。
(i)「カプシエイト」は、本願発明の有効成分ではないので、本願発明とは直接関係のない記載である。
(ii)刊行物1ではddyマウスを用いて実験が行われていることを考慮して、平均的なddyマウスの体重及び摂餌量から「10および50mg/重量kg」をppmに換算すると、上記「(3)ア」に記載したように、請求人の主張する「667ppmから3333ppm」は、「50ppmから250ppm」となる。一方、請求人が主張するように、イヌの体重及び摂餌量に基づくppm換算を刊行物1について行う合理的理由はない。
(iii)10および50mg/重量kgを投与されたマウスは、コントロール(溶媒のみを投与)のマウスとの比較においては、明らかな差(効果)が確認されており(刊1e、刊1g)、刊行物1の著者は、カプシエイトの用量を10mg/重量kgから50mg/重量kgに増やしてもそれほど効果に差がなかったことを指摘したかっただけと考えられる。


5 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-08-18 
結審通知日 2014-08-19 
審決日 2014-09-02 
出願番号 特願2009-550863(P2009-550863)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安藤 公祐  
特許庁審判長 田村 明照
特許庁審判官 大宅 郁治
岩下 直人
発明の名称 動物において肥満症を予防または治療するための組成物および方法  
代理人 辻本 典子  
代理人 小野 新次郎  
代理人 富田 博行  
代理人 小林 泰  
代理人 星野 修  

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