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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61L
管理番号 1296477
審判番号 不服2012-24399  
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-11-20 
確定日 2015-01-14 
事件の表示 特願2007-505958「培養細胞シート、製造方法及びその利用した組織修復方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 9月 8日国際公開、WO2006/093153〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、2006年2月28日(優先権主張2005年2月28日)を国際出願日とする特許出願であり、以後の手続の経緯は次のとおりである。
平成23年6月10日付け 拒絶理由通知
同年 8月15日 意見書及び手続補正書の提出
平成24年2月10日付け 拒絶理由通知
同年 4月17日 意見書及び手続補正書の提出
同年 8月16日付け 拒絶査定
同年 11月20日 拒絶査定不服審判の請求、手続補正書の提出
平成25年1月21日 審判請求書の補正書の提出
同年 2月27日付け 前置審査の結果の報告
平成26年2月 5日付け 当審における審尋
同年 3月28日 回答書の提出
同年 7月31日付け 当審における拒絶理由の通知
同年 9月30日 意見書及び手続補正書の提出

本願の請求項1?3に係る発明は、平成26年9月30日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」ともいう。)は以下のとおりである。

「【請求項1】
ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)が基材表面に1.2?3.5μg/cm^(2)の範囲で被覆された細胞培養支持体上で線維芽細胞をβ-アミノプロピルニトリルを使用せずに培養し、
(1)培養液温度を下限臨界溶解温度以下とし、
(2)培養した培養細胞を1枚のシートとして剥離する
ことを特徴とする、臓器表層における気漏抑止用に使用される培養細胞シートの製造方法。」

第2 引用例・引用発明
これに対し、平成26年7月31日付けで当審が通知した拒絶理由に引用された、本願の優先日前に日本国内で頒布された刊行物である刊行物B及びその記載事項は以下のとおりである。

刊行物B:松本卓子ら,温度応答性培養皿による肺細胞シート作成と細胞シートによる気漏閉鎖の試み,The Japanese Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery,2004年9月21日,Vol.52 増刊(9月),p.548,LP3-39(ISSN:1344-4964)(原査定で引用された刊行物2)

上記刊行物Bには、以下の事項が記載されている。

「温度応答性培養皿による肺細胞シート作成と細胞シートによる気漏閉鎖の試み・・・
【目的】温度応答性培養皿を用いて肺由来の細胞シートを作成、回収し、そのシートを用いて気漏を閉鎖する。【方法】新生仔GFPtransgenicラットより肺を摘出し、コラゲナーゼにより細胞を分離し、培養を開始した。3日目に温度応答性培養皿に継代し、継代4日目に細胞シートを回収した。・・・ヌードラットを・・・肺を約3mm切除し・・・気漏モデルとした。気漏部位に2重細胞シートを貼布し、気漏の消失を確認し、閉胸した。貼付直後、術後2週間目の細胞シートの胸膜欠損部への接着を評価した。・・・【成績】細胞シートは・・・大部分は線維芽細胞であったが、II型肺胞上皮細胞も認めた。気漏モデル(n=12)では、全例細胞シートは接着し、呼吸器に同期し伸縮し、気漏を閉鎖した。【結論】肺胞上皮細胞を含む肺由来細胞シートの作成、回収は可能である。温度応答性培養皿から回収した細胞シートは細胞-細胞間結合、細胞外マトリックスを有し臓側胸膜、肺実質と接着し、気漏を閉鎖した。シートは呼吸器に同期し伸縮し、その効果は2週間経過しても維持でき、臨床応用への可能性が示唆された。」

上記刊行物Bの記載から、刊行物Bには、
「肺における気漏の閉鎖に用いる細胞シートの製造方法であって、肺由来の細胞を温度応答性培養皿で培養し、細胞シートとして回収する製造方法。」
の発明(以下、「刊行物B発明」という。)が記載されている。

第3 対比・判断
本願発明と刊行物B発明とを対比する。
刊行物B発明の温度応答性培養皿は本願発明の細胞培養支持体に相当し、刊行物B発明において培養を該培養皿上で行っていることは明らかである。また、刊行物B発明ではβ-アミノプロピルニトリルを用いておらず、細胞シートは1枚のシートとして回収されているといえ、シートは培養皿から回収しているから、剥離しているといえる。さらに、刊行物B発明における肺における気漏の閉鎖は、気漏部位に細胞シートを貼付することにより行っているから、臓器表層における気漏を抑止するものである。したがって、本願発明と刊行物B発明とは、

「細胞培養支持体上で細胞をβ-アミノプロピルニトリルを使用せずに培養し、
(2)培養した培養細胞を1枚のシートとして剥離する
ことを特徴とする、臓器表層における気漏抑止用に使用される培養細胞シートの製造方法」
である点で一致し、

<相違点1>
培養する細胞が、本願発明では線維芽細胞であるのに対し、刊行物B発明では肺由来の細胞である点、

<相違点2>
本願発明が、細胞培養支持体が「ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)が基材表面に1.2?3.5μg/cm^(2)の範囲で被覆され」ているのに対し、刊行物B発明では温度応答性培養皿とされているのみで、その構成が明らかにされていない点、

<相違点3>
本願発明が、培養し、「(1)培養液温度を下限臨界溶解温度以下と」するのに対し、刊行物B発明ではかかる特定がされてない点

で相違する。

上記相違点について検討する。
<相違点1>について
刊行物Bには、細胞シートの大部分が線維芽細胞であったことが記載されているから、刊行物B発明において培養した細胞は線維芽細胞である。したがって、この点は実質的な相違点ではない。仮に培養した細胞が線維芽細胞のみではない点で異なるとしても、大部分を構成する線維芽細胞に着目して線維芽細胞のみを培養することは当業者が容易に行うことである。

<相違点2>について
刊行物B発明は温度応答性培養皿を用いるものであるから、該培養皿には温度応答性を付与する何らかの物質を用いていることは明らかであるところ、線維芽細胞をはじめ各種細胞を培養し、細胞シートを作製する際の基材表面を被覆する材料として、温度応答性のポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)を用いること、細胞の剥離性、付着性を考慮する等してその被覆量を本願発明程度とすること、各種臓器等へ適用することは周知である(例えば、国際公開2005/011524号(原査定で引用された刊行物3)、CLAIM24、26、74頁6?10行、76頁20行?77頁2行、82頁4行?83頁8行、109頁25行?110頁5行、特開2003-38170号公報(原査定で引用された刊行物5)、請求項7、11、段落0020、0027、実施例1,2、国際公開02/10349号(前置報告書で引用された刊行物8)、請求項4、7、8頁27?29行、実施例2参照)。
したがって、臓器のひとつである肺に適用される細胞シートを製造する方法である刊行物B発明において、温度応答性を付与する物質として、各種細胞を培養することにより得られ、各種臓器等へ適用される細胞シートを作製する際に基材表面を被覆する材料として用いられる温度応答性のポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)を用い、その基材表面への被覆の際に、細胞の剥離性、付着性を考慮してその被覆量を1.2?3.5μg/cm^(2)の範囲とすることは当業者が容易に行うことである。

<相違点3>について
温度応答性のポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)を用いて細胞シートを作製する際、培養後に、培養液温度を下限臨界溶解温度以下と(し、該シートを剥離)することは周知であるから(例えば、上記刊行物3:CLAIM24、26、76頁20行?77頁2行、同刊行物5:請求項7、11、実施例1,2、同刊行物8:請求項4、7、11頁11?14行参照)、刊行物B発明において細胞シートを回収する際に、培養液温度を下限臨界溶解温度以下とすることは当業者が容易に行うことである。

<本願発明の効果について>
本願明細書には、発明の効果として、「本発明で得られる高生着性培養細胞シートは、臓器表面の漏出部表面への生着性が極めて高く、柔軟性の高いものである。本発明の培養細胞シートを用いることにより臓器表層から漏出する空気又は血液又は体液を抑止することができるようになる。したがって、本発明は細胞工学、医用工学、などの医学、生物学等の分野における極めて有用な発明である。」(段落0012)等の記載がある。また、実施例には、摘出された肺からコラゲナーゼにより分離された細胞を用いて作製された細胞シートについて、「上記培養細胞シートは気漏部に接着し、人工呼吸器に同調して伸縮し、気漏を閉鎖していた。」(段落0048、実施例1、2)こと、「いずれの結果からも被覆された培養細胞シートは気漏部組織と密着していることが分かった。培養細胞シートの組織修復材としての有用性を確認することができた。」(段落0049、実施例1、2)ことが記載されている。しかし、刊行物Bには、気漏モデルにおいて全例細胞シートが接着し、呼吸器に同期し、伸縮し、気漏を閉鎖したこと、該シートは細胞-細胞間結合、細胞外マトリックスを有し、臓側胸膜、肺実質と接着し、気漏を閉鎖したこと、シートは呼吸器に同期し伸縮し、その効果は2週間経過しても維持できたことが記載されており、本願明細書に記載の効果と同様の効果を奏することが記載されているから、本願発明が当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するとはいえない。
なお、実施例3(段落0049。なお、実施例3は段落0049の途中から始まっている。)として、上記実施例2において、さらにβ-アミノプロピルニトリルを250μM添加したものについて「培養細胞シートは力学的に柔軟なものであった。気漏部位は閉鎖されており、培養細胞シート被覆部の拘縮も認められなかった。柔軟化させた培養細胞シートの組織修復材としての有用性を確認することができた。」と記載されているが、この実施例は、β-アミノプロピルニトリルを用いている点で明らかに本願発明の実施例ではない。
また、審判請求人は、平成26年3月28日付け回答書において本願出願後の文献を挙げ、肺への移植後4週においても、拘縮を示すことなく、極めて優れた気漏抑止効果を発揮するという本願発明の効果について主張するが、刊行物Bには、気漏を閉鎖し、シートが呼吸器に同期し伸縮する効果が2週間維持できた旨が記載されており、拘縮を起こすことは記載されていないから、期間は異なるものの、一定の期間、拘縮を起こすことなく、優れた気漏抑止効果を奏しているということができる。したがって、本願発明が当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するということはできない。
さらに付言するならば、上記回答書において提示された文献は、最初に投稿された日は2008年1月であり、その時点でも既に本願出願後であるばかりでなく、例えば、本願明細書の実施例において培養されている細胞は、新生仔ラットの肺に由来する細胞が使用されているのに対して、該文献においては豚皮膚線維芽細胞に由来する細胞が使用されており、実験条件としても本願明細書に記載されている具体的開示内容とは、技術的に見て決して些細とはいえない相違点があることから、仮に、そのような実験により、引用発明と比較して優れた効果が示されたとしても、本願明細書で具体的に開示された、新生仔ラットの肺に由来する細胞の場合も同様に、引用発明と比較して優れた効果が示されたとは、当業者は評価し得ないものといえる。すなわち、これら細胞の由来が異なることに関して合理的な説明がなされていない状況にあっては、追加的に提出された上記文献記載のデータに基づいて本願発明の進歩性を肯定することは適切とはいえない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は刊行物Bに記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-11-20 
結審通知日 2014-11-21 
審決日 2014-12-03 
出願番号 特願2007-505958(P2007-505958)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川嵜 洋祐  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 関 美祝
冨永 保
発明の名称 培養細胞シート、製造方法及びその利用した組織修復方法  
代理人 富田 博行  
代理人 星野 修  
代理人 小林 泰  
代理人 小野 新次郎  

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