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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F27D
管理番号 1296501
審判番号 不服2014-4571  
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-03-10 
確定日 2015-02-03 
事件の表示 特願2009-136824「金属熱処理炉」拒絶査定不服審判事件〔平成22年12月16日出願公開、特開2010-281534、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年6月8日の出願であって、平成25年7月30日付けで拒絶理由が通知され、平成25年10月7日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年12月4日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成26年3月10日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成25年10月7日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「【請求項1】
γ(合金マトリックス)およびγ’(Ni_(3)Al)が整合配列したNi基超耐熱合金を得ることが可能な金属熱処理炉であって、
ピッチが調整自在に支持されたコイル(31)および前記コイルに電流が流れることにより発熱するカーボンを用いた発熱体(21?23)を含む加熱部(20)が配設され、被加熱金属(A)を1350℃まで加熱可能な加熱室(10)と、
前記加熱部により加熱された前記被加熱金属を冷却するための、前記加熱室の下方に前記加熱室とは別空間として配設された冷却室(80)と、
前記加熱室と前記冷却室とを仕切る可動のゲート(70)が配設された、前記加熱室と前記冷却室とを連結するための中空の連結部(60)と、
前記加熱室内の下部に配設された、前記加熱室からの熱を遮蔽するための第1の可動の熱遮蔽板(50a)と、
前記冷却室内の上部に配設された、前記ゲートに加わる前記加熱された前記被加熱金属からの熱を遮蔽するための第2の可動の熱遮蔽板(50b)と、
前記冷却室の底部を貫通して配設された、前記被加熱金属を支持して前記加熱室内に進入可能な水冷昇降軸(90)と
を具備し、
加熱室(10)は、被加熱金属(A)のサイズ、形状または測定された内部空間の温度分布に応じてコイル(31)のピッチが調整されることで、内部の温度分布を±5℃の範囲で均一に形成することが可能であり、
加熱室(10)において加熱された被加熱金属(A)が冷却される際には、前記被加熱金属を支持した状態の水冷昇降軸(90)が下降して冷却室(80)へ移動するとともに、第1の可動の熱遮蔽板(50a)および第2の可動の熱遮蔽板(50b)が移動して、加熱室(10)と冷却室(80)との間が遮蔽されて、冷却室(80)において、被加熱金属(A)が300℃/分以上の冷却速度で冷却されることを特徴とする金属熱処理炉。」

第3 原査定の理由の概要
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物1:特開2005-299990号公報
刊行物2:特開2003-100643号公報
刊行物3:特開2005-273931号公報

刊行物1の高温加熱装置に関し、加熱用コイル14をピッチ調整とすること及び支持パイプ72を水冷とすることについては、刊行物2に、加熱コイル56の巻回ピッチを粗密にして温度分布を均一にするものが記載されており(段落【0015】)、刊行物3に、昇降ロッド18を水冷することにより熱損傷を低減するものが記載されている(段落【0052】、【0053】)ことから、当業者にとって容易である。そして、上記刊行物1に記載された高温加熱装置は金属を被処理物とすることもできる(段落【0026】)。
また、半導体ウエーハの熱処理温度として1350℃程度の温度も通常のものであり、目的とする処理に応じて、冷却条件等の処理条件を設定することも、当業者が容易になし得たことである。
さらに、気密用シャッター52を、冷却部31からの熱影響から保護するために、必要に応じて、冷却部31の上部に断熱用のシャッターを設けることも当業者が容易に想到し得たことである。

第4 刊行物の記載事項
1 刊行物1
刊行物1には、ウエーハ基板のような被加熱処理物のほか、高温で加熱処理を行う様々な被加熱処理物を高温にて加熱処理するための高温加熱装置が記載されている(段落【0001】、【0026】)。
そして、この高温加熱装置は、発明の詳細な説明及び図面によれば、被加熱処理物を誘導加熱により加熱する加熱用コイル14及びカーボンにより形成された加熱部材18が配設され、2700℃まで加熱可能な加熱部11、加熱部11によって加熱された被加熱処理物を冷却するための、加熱部11の下方に配設された冷却部31、加熱部11と冷却部31との間に気密用シャッター52が配設されたシャッター部51、加熱部11の下部に配設された断熱用シャッター53、前記冷却部31の底部を貫通して配設された、被加熱処理物を支持して加熱部11と冷却部31との間で移動・進入可能な支持パイプ72、を具備するものとして記載されている(段落【0008】?【0010】、【0012】?【0014】、【0017】、【0019】、【0025】、図1?図3)。

2 刊行物2
刊行物2には、複数枚のウェーハを同時に高温で加熱処理することのできる高温CVD装置に関し、加熱コイル56の巻回のピッチは、巻回部の中間を粗とし、上下端部を密にする調整を採ることにより、反応炉の縦方向の温度分布を均一にできることが記載されている(段落【0001】、【0015】)

3 刊行物3
刊行物3には、高温加熱炉に関し、試料台を予備加熱室と加熱室との間で昇降させる昇降ロッド18について、その昇降軸部を冷却水で冷却して熱損傷を低減することが記載されている(段落【0001】、【0043】、【0052】、【0053】)。

第5 当審の判断
1 引用発明
刊行物1の上記「第4 1」の記載事項について技術常識を加味すれば、加熱部材18は、加熱用コイル14に電流が流れることにより発熱するものであり、加熱部11と冷却部31とは別空間であり、気密用シャッター52は、加熱部11と冷却部31とを仕切るものであり、シャッター部51は、加熱部11と冷却部31とを連結するものであって中空であり、断熱用シャッター53は、その移動により、被加熱処理物が冷却部31で冷却される際に加熱部11とシャッター部51ないしは冷却部31との間を遮断するものであるといえる。

そうすると、刊行物1には、
「ウエーハ基板のような被加熱処理物のほか、高温で加熱処理を行う様々な被加熱処理物を高温にて加熱処理するための高温加熱装置であって、
加熱用コイル14および前記加熱用コイルに電流が流れることにより発熱するカーボンにより形成された発熱体18が配設され、被加熱処理物を2700℃まで加熱可能な加熱部11と、
前記加熱部により加熱された前記被加熱処理物を冷却するための、前記加熱部の下方に前記加熱部とは別空間として配設された冷却部31と、
前記加熱部と前記冷却部とを仕切る気密用シャッター52が配設された、前記加熱部と前記冷却部とを連結するための中空のシャッター部51と、
前記加熱部内の下部に配設された、断熱用シャッター53と、
前記冷却部31の底部を貫通して配設された、前記被加熱処理物を支持して前記加熱部内に進入可能な支持パイプ72と
を具備し、
加熱部11において加熱された被加熱処理物が冷却される際には、前記被加熱処理物を支持した状態の支持パイプ72が下降して冷却部31へ移動するとともに、断熱用シャッター53が移動して、加熱部11とシャッター部51ないしは冷却部31との間が遮蔽されて、冷却部31において、被加熱処理物が冷却される高温加熱装置。」(以下「引用発明」という。)が記載されている。

2 対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「加熱用コイル14」が、本願発明の「コイル」に相当する。同様に、「カーボンにより形成された加熱部材18」が「カーボンを用いた発熱体を含む加熱部」に、「加熱部11」が「加熱室」に、「冷却部31」が「冷却室」に、「気密用シャッター52」が「可動のゲート」に、「シャッター部51」が「連結部」に、「断熱用シャッター53」が「加熱室からの熱を遮断するための第1の可動の熱遮蔽板」に、それぞれ相当する。また、本願発明の「水冷昇降軸」と引用発明の「支持パイプ72」とがともに「昇降軸」との点で、本願発明「被加熱金属」と引用発明の「被加熱処理物」とがともに「被加熱処理物」との点で、本願発明の「金属熱処理炉」と引用発明の「高温加熱装置」とがともに「熱処理炉」との点で、それぞれ概念上共通する。

すると、両発明の一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「コイルおよび前記コイルに電流が流れることにより発熱するカーボンを用いた発熱体を含む加熱部が配設され、被加熱処理物を加熱可能な加熱室と、
前記加熱部により加熱された前記被加熱処理物を冷却するための、前記加熱室の下方に前記加熱室とは別空間として配設された冷却室と、
前記加熱室と前記冷却室とを仕切る可動のゲートが配設された、前記加熱室と前記冷却室とを連結するための中空の連結部と、
前記加熱室内の下部に配設された、前記加熱室からの熱を遮蔽するための第1の可動の熱遮蔽板と、
前記冷却室の底部を貫通して配設された、前記被加熱処理物を支持して前記加熱室内に進入可能な昇降軸と
を具備し、
加熱室において加熱された被加熱処理物が冷却される際には、前記被加熱処理物を支持した状態の昇降軸が下降して冷却室へ移動するとともに、第1の可動の熱遮蔽板が移動して、加熱室と冷却室との間が遮蔽されて、冷却室において、被加熱処理物が冷却される熱処理炉。」

<相違点>
(1)本願発明が、「γ(合金マトリックス)およびγ’(Ni_(3)Al)が整合配列したNi基超耐熱合金を得ることが可能な金属熱処理炉」であって、「金属熱処理炉」は、「被加熱金属(A)」を熱処理するものであり、「加熱室(11)」は、「被加熱金属(A)を1350℃まで加熱可能」であり、「コイル(31)」は、「ピッチが調整自在に支持された」ものであり、「加熱室は、被加熱金属(A)のサイズ、形状または測定された内部空間の温度分布に応じてコイル(31)のピッチが調整されることで、内部の温度分布を±5℃の範囲で均一に形成することが可能」であり、「冷却室(80)において、被加熱金属(A)が300℃/分以上の冷却速度で冷却」されるのに対して、引用発明は、ウエーハ基板のような被加熱処理物のほか、高温で加熱処理を行う様々な被加熱処理物を高温にて加熱処理するための高温加熱装置であって、加熱部11は、被加熱処理物を2700℃まで加熱可能であるが、加熱用コイル14のピッチを調整できるか否かは不明であり、冷却部31における冷却速度も不明である点(以下、「相違点1」という。)。

(2)本願発明が、「前記冷却室内の上部に配設された、前記ゲートに加わる前記加熱された前記被加熱処理物からの熱を遮蔽するための第2の可動の熱遮蔽板(50b)」を具備し、「加熱室(10)において加熱された被加熱金属(A)が冷却される際には、前記被加熱金属を支持した状態の水冷昇降軸(90)が下降して冷却室(80)へ移動するとともに、第1の可動の熱遮蔽板(50a)および第2の可動の熱遮蔽板(50b)が移動して、加熱室(10)と冷却室(80)との間が遮蔽」されるのに対して、引用発明は、本願発明の第2の可動の遮断板に相当するものを具備しない点(以下、「相違点2」という。)。

(3)昇降軸につき、本願発明が、「水冷」であるのに対して、引用発明は水冷であるか否か不明である点(以下、「相違点3」という。)。

3 判断
(1) 相違点1について
引用発明の高温加熱装置は、ウエーハ基板のようなもののほか、高温で加熱処理を行う様々な被加熱処理物に適用できるものである。
しかし、被加熱処理物に対する熱処理は、その対象により処理条件が種々異なるものであって、引用発明の場合、ウエーハ基板に対する熱処理及びそれに準ずる被加熱処理物に対する熱処理は可能であると考えられるが、金属、さらにはγ(合金マトリックス)およびγ’(Ni_(3)Al)が整合配列したNi基超耐熱合金を得るための熱処理が可能であることは、記載も示唆もなされていない。
そして、本願明細書の記載によれば、上記Ni基超耐熱合金を得るための熱処理としては、1350℃程度に昇温し、その状態、すなわち±5℃の範囲の均熱状態にて所定時間維持し、その後、300℃/分以上の冷却速度で冷却することが必要となる(段落【0002】、【0037】、【0045】)。
ここで、個々の条件である、1350℃程度への昇温は特別のものではなく、また、±5℃の範囲の均熱状態にて所定時間維持すべくコイルのピッチを調整することは、刊行物2の上記「第4 2」に記載の技術から困難ということはできない。さらに、被加熱処理物を冷却するに300℃/分以上の冷却速度で冷却できるように設計すること自体も格別困難といえない。
しかし、そもそも、引用発明では、被加熱処理物としてNi基超耐熱合金を選定すべき必要性は格別存在しないのであるから、上記Ni基超耐熱合金を得るための熱処理条件に適合した高温加熱装置とすべき要請ないしは契機が存在しない。
これらのことから、引用発明において、刊行物2に記載の技術を参照したとしても、本願発明の相違点1に係る発明特定事項とすることは、当業者にとって容易であるとはいえない。

(2) 相違点2について
引用発明は、本願発明の「第2の可動の熱遮蔽板(50b)」に相当する部材を具備していない。
ここで、本願発明の「第2の可動の熱遮蔽板(50b)」は、加熱室10の下端部に配設された熱遮蔽板50aと相まって、耐熱性がさほど高くない真空ゲート弁70を保護するためのものである(本願明細書段落【0034】)。
しかし、刊行物1には、気密用シャッター52は耐熱性がさほど高くないとの課題は、記載も示唆もなされていないから、引用発明において、「第2の可動の熱遮蔽板(50b)」に相当する部材を具備させる必然性がなく、当該部材を具備させることが当業者に容易であるということもできない。

(3) 相違点3について
引用発明の支持パイプ72は水冷であるか否か不明であるが、引用発明は、高温加熱処理であるから、支持パイプ72は高温にさらされるため、熱損傷を受けるものと認められる。
そして、上記「第4 3」のとおり、刊行物3には、高温加熱炉に関し、試料台を予備加熱室と加熱室との間で昇降させる昇降ロッド18について、その昇降軸部を冷却水で冷却して熱損傷を低減することが記載されている。
そうすると、引用発明において、高温にさらされる支持パイプ72の熱損傷を低減させるために、刊行物3に記載の技術を適用し、本願発明の相違点3に係る発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得るものである。

(4) 以上によれば、本願発明は、引用発明及び刊行物2,3に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
また、本願の請求項2ないし5に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるから、本願発明と同様、引用発明及び刊行物2,3に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願の請求項1ないし5に係る発明は、引用発明及び刊行物2,3に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものということができないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することができない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2015-01-22 
出願番号 特願2009-136824(P2009-136824)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F27D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 菅野 智子  
特許庁審判長 鈴木 正紀
特許庁審判官 松嶋 秀忠
河本 充雄
発明の名称 金属熱処理炉  
代理人 西澤 利夫  

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