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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01N
管理番号 1296615
審判番号 不服2013-18295  
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-09-24 
確定日 2015-01-22 
事件の表示 特願2008-114933「内燃機関の排気ガスシステムに流動可能な添加物を配給する装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年11月20日出願公開、特開2008-280999〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20(2008)年4月25日(パリ条約による優先権主張2007年5月8日、ドイツ連邦共和国)の出願であって、平成24年5月14日付けで拒絶の理由が通知され、平成24年11月22日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年5月16日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成25年9月24日に拒絶査定不服の審判が請求されると同時に特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、その後、当審において平成25年11月20日付けで書面による審尋がされ、これに対して平成26年5月23日に回答書が提出されたものである。

第2 平成25年9月24日付けの手続補正についての補正却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
平成25年9月24日付けの手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正について
(1)平成25年9月24日付けの手続補正書による手続補正(以下、単に「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成24年11月22日付けの手続補正書により補正された)特許請求の範囲の以下のアに示す請求項1ないし20を、イに示す請求項1ないし15に補正するものである。

ア 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし20
「【請求項1】
内燃機関の排気ガスシステムに流動可能な添加物を配給する装置であって、
所謂SCR触媒コンバータより上流における排気路内に開口している噴射装置を備え、
添加物を拡散させる少なくとも1つの衝突プレート(3)が、排気路内において噴射装置の開口部の前に設けられており、
噴射装置の下流に渦流発生装置(7)が配置されており、
渦流発生装置(7)は、タービンのような態様に配列された複数のガスガイドベーン(8)を含み、
ガスガイドベーン(8)は、排気ガス混合管(2)の壁(13)の成形によって形成されていることを特徴とする装置。
【請求項2】
排気ガス混合管(2)の断面が、円形の断面、角のある断面、または六角形の断面であることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
排気ガス混合管(2)が、外側排気ガス管(11)内に滑り台座を介して配置されており、排気ガス混合管(2)と外側排気ガス管(11)との間にエアギャップ(12)が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
ベーンの長さ対ベーンの幅の比が、約1.5:1?約2:1であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の装置。
【請求項5】
少なくとも1つの衝突プレート(3)が、噴射装置に対して90°以外の角度に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項6】
衝突プレート(3)が、排気ガス流の方向(I)に並行に配置されていることを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の装置。
【請求項7】
噴射装置が2つ以上の噴射ノズルを有し、衝突プレート(3)は、それぞれ対応する噴射ノズルと関連して配置されていることを特徴とする請求項1?6のいずれかに記載の装置。
【請求項8】
衝突プレート(3)が互いに離間し、かつ排気ガス流の方向(I)に互いにずれて配置されていることを特徴とする請求項1?7のいずれかに記載の装置。
【請求項9】
添加剤用の管状のエバポレータが、噴射点より下流に設けられていることを特徴とする請求項1?8のいずれかに記載の装置。
【請求項10】
エバポレータが、外側管および少なくとも1つの内側管を含むことを特徴とする請求項9に記載の装置。
【請求項11】
エバポレータの管端部の直前に、わずかな膨張部が設けられていることを特徴とする請求項9または10に記載の装置。
【請求項12】
内燃機関の排気ガスシステムに流動可能な添加物を配給する装置であって、
所謂SCR触媒コンバータより上流における排気路内に開口している噴射装置と、
排気ガス路内に配置された少なくとも1つの金属シート(3,8)と、を備え、 排気ガス流の下流に位置する前記少なくとも1つの金属シート(3,8)の下流側端部(5)が、先細り部分(6,9)を有し、前記少なくとも1つの金属シート(3,8)の表面が粗面化されていることを特徴とする装置。
【請求項13】
端部(5)が面取りされていることを特徴とする請求項12に記載の装置。
【請求項14】
先端(10)が排気ガス流の方向(I)を向いている歯(6,9)が端部(5)に形成されていることを特徴とする請求項12または13に記載の装置。
【請求項15】
端部(5)が鋸歯の構造の形態に形成されていることを特徴とする請求項14に記載の装置。
【請求項16】
装置内に存在する前記少なくとも1つの金属シート(3,8)が、穿孔されていることを特徴とする請求項12?15のいずれかに記載の装置。
【請求項17】
前記少なくとも1つの金属シート(3,8)の表面がガラスビードブラスト加工で形成されていることを特徴とする請求項12?16のいずれかに記載の装置。
【請求項18】
前記少なくとも1つの金属シート(3,8)の表面が格子状に形成されていることを特徴とする請求項12?16のいずれかに記載の装置。
【請求項19】
少なくとも1つの衝突プレートおよび/または渦流発生装置が、フェライトのステンレススチールから構成されていることを特徴とする請求項1?18のいずれかに記載の装置。
【請求項20】
ディーゼルエンジンの排気ガスシステムに水/尿素混合物を配給するためのものであることを特徴とする請求項1?19のいずれかに記載の装置。」

イ 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし15
「 【請求項1】
内燃機関の排気ガスシステムに流動可能な添加物を配給する装置であって、
所謂SCR触媒コンバータより上流において、排気路内に開口している噴射装置と、排気路内に設けられた排気ガス混合管(2)と、排気ガス混合管(2)の下流で排気路内に設けられた添加剤用の管状のエバポレータと、を備え、
排気ガス混合管(2)は、添加物を拡散させように(審決注;「拡散させるように」の誤記と認める。)排気路内において噴射装置の開口部の前に設けられた少なくとも1つの衝突プレート(3)と、衝突プレート(3)の下流に設けられた渦流発生装置(7)と、を有し、
渦流発生装置(7)は、タービンのような態様に配列された複数のガスガイドベーン(8)を含み、これらのガスガイドベーン(8)は、排気ガス混合管(2)の壁(13)の成形によって形成されており、
管状のエバポレータの下流端部の直前に、膨張部が設けられていることを特徴とする装置。
【請求項2】
排気ガス混合管(2)の断面が、円形の断面、角のある断面、または六角形の断面であることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
排気ガス混合管(2)が、排気路を構成する外側排気ガス管(11)内に滑り台座を介して配置されており、排気ガス混合管(2)と外側排気ガス管(11)との間にエアギャップ(12)が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
ベーンの長さ対ベーンの幅の比が、約1.5:1?約2:1であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の装置。
【請求項5】
少なくとも1つの衝突プレート(3)が、噴射装置に対して90°以外の角度に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項6】
衝突プレート(3)が、排気ガス流の方向(I)に並行に配置されていることを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の装置。
【請求項7】
噴射装置が2つ以上の噴射ノズルを有し、各々の噴射ノズルに対して衝突プレート(3)がそれぞれ設けられており、各々の衝突プレート(3)は、それぞれ対応する噴射ノズルと関連して配置されていることを特徴とする請求項1?6のいずれかに記載の装置。
【請求項8】
衝突プレート(3)が互いに離間し、かつ排気ガス流の方向(I)に互いにずれて配置されていることを特徴とする請求項1?7のいずれかに記載の装置。
【請求項9】
エバポレータが、外側管および少なくとも1つの内側管を含むことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項10】
内燃機関の排気ガスシステムに流動可能な添加物を配給する装置であって、
所謂SCR触媒コンバータより上流における排気路内に開口している噴射装置と、
前記SCR触媒コンバータより上流における排気路内で、かつ噴射装置の開口部の前あるいは下流に、添加物を蒸発させるように配置された少なくとも1つの金属シート(3,8)と、を備え、
前記少なくとも1つの金属シート(3,8)の下流側端部(5)が、先細り部分(6,9)を有し、前記少なくとも1つの金属シート(3,8)の表面が穿孔されているか、またはガラスビードブラスト加工されていることを特徴とする装置。
【請求項11】
端部(5)が面取りされていることを特徴とする請求項10に記載の装置。
【請求項12】
先端(10)が排気ガス流の方向(I)を向いている歯(6,9)が端部(5)に形成されていることを特徴とする請求項10または11に記載の装置。
【請求項13】
端部(5)が鋸歯の構造の形態に形成されていることを特徴とする請求項12に記載の装置。
【請求項14】
少なくとも1つの衝突プレートおよび/または渦流発生装置が、フェライトのステンレススチールから構成されていることを特徴とする請求項1?9のいずれかに記載の装置。
【請求項15】
ディーゼルエンジンの排気ガスシステムに水/尿素混合物を配給するためのものであることを特徴とする請求項1?14のいずれかに記載の装置。」
なお、下線は、審判請求人が補正箇所を明示するために付したものである。

(2)本件補正の目的について
本件補正後の請求項10についての補正は、本件補正前の請求項12における「排気ガス路内に配置された少なくとも1つの金属シート(3,8)」という発明特定事項を、本件補正後の請求項10における「前記SCR触媒コンバータより上流における排気路内で、かつ噴射装置の開口部の前あるいは下流に、添加物を蒸発させるように配置された少なくとも1つの金属シート(3,8)」とすることにより、「金属シート(3,8)」の位置及び機能を限定するとともに、本件補正前の請求項12における「前記少なくとも1つの金属シート(3,8)の表面が粗面化されている」を、本件補正後の請求項10における「前記少なくとも1つの金属シート(3,8)の表面が穿孔されているか、またはガラスビードブラスト加工されている」とすることにより、金属シート(3,8)の表面の粗面化の態様を限定するものである。
なお、本件補正後の請求項1についての補正は、本件補正前の請求項1における「所謂SCR触媒コンバータより上流における排気路内に開口している噴射装置を備え」という発明特定事項を、本件補正後の請求項1における「所謂SCR触媒コンバータより上流において、排気路内に開口している噴射装置と、排気路内に設けられた排気ガス混合管(2)と、排気ガス混合管(2)の下流で排気路内に設けられた添加剤用の管状のエバポレータと、を備え」とすることにより「SCR触媒コンバータより上流」の構造を限定し、本件補正前の請求項1における「添加物を拡散させる少なくとも1つの衝突プレート(3)が、排気路内において噴射装置の開口部の前に設けられており」という発明特定事項を、本件補正後の請求項1における「排気ガス混合管(2)は、添加物を拡散させ(る)ように排気路内において噴射装置の開口部の前に設けられた少なくとも1つの衝突プレート(3)と、衝突プレート(3)の下流に設けられた渦流発生装置(7)と、を有し」とすることにより「衝突プレート(3)」の位置を限定するとともに、本件補正前の請求項1における「ガスガイドベーン(8)は、排気ガス混合管(2)の壁(13)の成形によって形成されている」という発明特定事項を、本件補正後の請求項1における「これらのガスガイドベーン(8)は、排気ガス混合管(2)の壁(13)の成形によって形成されており、管状のエバポレータの下流端部の直前に、膨張部が設けられている」とすることにより「ガスガイドベーン(8)」の構造を限定するものである。
また、本件補正後の請求項3についての補正は、本件補正前の請求項3における「外側排気ガス管(11)」という発明特定事項を、本件補正後の請求項3における「排気路を構成する外側排気ガス管(11)」に限定するものである。
また、本件補正後の請求項7についての補正は、本件補正前の請求項7における「衝突プレート(3)は、それぞれ対応する噴射ノズルと関連して配置されている」という発明特定事項を、本件補正後の請求項7における「各々の噴射ノズルに対して衝突プレート(3)がそれぞれ設けられており、各々の衝突プレート(3)は、それぞれ対応する噴射ノズルと関連して配置されている」とすることにより、「衝突プレート(3)」の配置を限定するものである。
また、本件補正は、本件補正前の請求項9、11及び16ないし18を削除する(とともに、残った請求項から、これらの請求項を引用する部分を削除する)ものでもある。

そして、本件補正前の請求項1ないし20に係る発明と本件補正後の請求項1ないし15に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮及び同法同条同項第1号に規定される請求項の削除を目的とする補正に該当する。

2 独立特許要件についての検討
本件補正における特許請求の範囲の補正は、前述したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の請求項10に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。

2-1 引用文献
2-1-1 引用文献1
(1)原査定の拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2007-32472号公報(公開日:平成19年2月8日。以下、「引用文献1」という。)には、例えば、以下の記載がある。(なお、下線は、理解の一助のために当審で付したものである。)
ア 「【0001】
本発明は,エンジン用排気処理装置に係り,特に還元剤として,尿素水を用い,排気中の窒素酸化物を効率良く除去することができる排気処理装置に関する。」(段落【0001】)

イ 「【0002】
従来より、ディーゼルエンジンにおいては、排気ガスが流通する排気管の途中に、酸素共存下でも選択的に窒素酸化物(以下、NOxと記す)を還元剤と反応させる性質を備えた選択還元型触媒を装備し、この選択還元型触媒の上流側に必要量の還元剤(炭化水素、アンモニア又はその前駆体)を添加してこの還元剤を選択還元型触媒上で排気ガス中のNOxと還元反応させ、これによりNOxの排出濃度を低減し得るようにしたものがある。
【0003】
この選択還元型触媒を使ったNOx低減手法をSCR(Selective Catalytic Reduction)と呼び、還元剤として尿素を使うものは特に尿素SCRと呼ばれている。この尿素SCRを車両に適用するため、尿素水をタンクに貯蔵しておき、運転に際しこのタンクから供給された尿素水を排気通路内に噴射し、排気熱を利用して尿素を加水分解させ、これにより生じるアンモニアによってNOxを低減するための技術も知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
また、排気ガス中に尿素水を添加する装置として、圧縮空気と尿素水を混合して噴射して噴霧を形成し、尿素水の拡散性向上を図った装置も知られている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0005】
さらに、尿素水の添加装置として、圧縮空気を用いずに尿素水噴霧を微粒化するために、かぎ状物体を噴射装置に取り付け、尿素水を噴射した直後に液滴をそのかぎ状物体に衝突させ、そのかぎ状物体の衝突面は尿素水の噴射方向に対して45゜傾斜させた噴射装置も知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【特許文献1】特開2000-27627号公報
【特許文献2】米国特許第6,279,603号
【非特許文献1】自動車技術Vol.57,No.9(2003)pp.94?99」(段落【0002】ないし【0005】)

ウ 「【0006】
尿素水を排ガスに添加して、脱硝触媒上でNOxを還元反応させて浄化するSCR装置では、添加した尿素をすみやかに加水分解させアンモニアを生成することと、生成されるアンモニアが排ガス中に均一に分散され、脱硝触媒上でNOxと反応できるようにすることが求められる。
【0007】
第1のポイントである尿素をすみやかに加水分解させるには、尿素水を噴射する際に極力微粒化を図り、噴霧中の個々の液滴の粒径を小さくすることが有効となる。粒径が小さければ排ガスから熱を受けやすく、尿素水の気化が急速に進み、排ガスと同等の温度に昇温されることにより、気化した尿素の加水分解反応が進む。
【0008】
このため、噴射液滴の微粒化を図るために、上記非特許文献1に示すように、尿素水と圧縮空気を混合して噴射させることは有効な手段であるが、排気中に空気を供給することになるため、排気ガスの酸素濃度が高まり、NOxを還元反応させる上で不利になるのと、圧縮空気を消費することでエネルギーの損失になる。このため、圧縮空気を用いずに尿素水の噴霧の微粒化を図ることが、排気処理装置の第1の課題となる。
【0009】
第2のポイントであるアンモニアガスを排ガス中に均一に分散させることについては、尿素水を添加した後に排ガス流路に絞りや折返し、旋回などを与えて大規模な渦を発生させることにより撹拌を行うことが考えられるが、この種の手段は混合促進を図る程、圧力損失が増大する傾向にある。
【0010】
エンジン排ガスの流路で圧力損失が増大することは、エンジンのエネルギー効率が低下することに直結し、ディーゼルエンジンの利点であるエネルギー効率の良さが失われる。このため、排ガスの圧力損失を増やさずにアンモニアを均一に分散させることが、排気処理装置の第2の課題となる。
【0011】
第1の課題に関しては、上記特許文献2のように尿素水を噴射した直後に物体に尿素水を衝突させる手法もあるが、衝突面上では、分離した液滴どうしが再度衝突することで結合を起こすこともあり、微粒化出来る粒径に限度がある。
【0012】
その他、燃料噴射装置などのインジェクターでは、液の噴射圧力を上げることで微粒化を図っており、同じ手法を用いる選択もある。この手法は、微小液滴が形成される過程では、液が引きちぎられることを表面張力が抑えている環境下で、液の噴出速度を上げることで得た慣性力により液を引きちぎるメカニズムを利用しており、液の噴射圧を上げることで、噴出する液の速度を上げ、それにより慣性力を高め、微小化すると増大する表面張力に打ち勝つことで微粒化を行っている。
【0013】
この噴射圧力を上げることで微粒化する手法を用いると、噴射圧の増大に伴って尿素水供給ポンプの消費電力が増大し、エネルギー損失が増えると同時に、モータが大型化する分、装置が大型化してしまう。また、高い圧力で噴射した場合、液滴の慣性力が強く、液滴が排ガスの流れに乗らずに貫通して、煙道面に付着してしまう可能性もある。煙道面に液滴が付着した場合、煙道面の温度によっては、付着した尿素水液滴の水分のみが先行して蒸発し、尿素水の濃度が上昇して溶解度を超え、固形分の尿素が析出物として煙道に付着したままになる場合がある。
【0014】
このような固体尿素の析出は、NOxを処理するための還元剤として使われないことで、尿素水が無駄になってしまうことの他、固体の尿素よりも融点の高い物質に変態し、固形物として排気ガスに混入することで排ガスの粒子状物質の濃度を増加させる可能性があることや、固形物として脱硝触媒の流路の一部を閉塞させる可能性などもある。また、尿素の固形物は高温環境にさらされることで有害物質を生成することもあり得るので、尿素はすみやかにアンモニア化することが好ましい。よって、尿素水の液滴が煙道に付着することはなるべく避けた方が良い。このため、第1の課題に対しては、尿素水の噴射圧力を上げずに、噴霧の微粒化を図って実現できることが好ましい。」(段落【0006】ないし【0014】)

エ 「【0015】
前記課題を解決するために、本発明は主として次のような構成を採用する。
エンジンの排気煙道に尿素水を噴射する噴射装置と、前記噴射装置の排気ガス下流側に設けられた脱硝触媒と、を備え、前記噴射装置で噴射した尿素水から生成されるアンモニアを用いて排気ガス中の窒素酸化物を前記脱硝触媒で還元する排気処理装置であって、
前記噴射装置は、前記排気煙道中の排気ガスの流れ方向を横切るように前記尿素水を噴射し、前記噴射装置によって噴射された尿素水液滴が前記排気煙道の壁面に到達するまでの排気煙道空間に、前記尿素水液滴が衝突する固体物体を設ける構成とする。
【0016】
また、前記排気処理装置において、前記固体物体は多孔物体であって前記排気ガスの流れに対して傾斜させて配置され、前記尿素水液滴が衝突する側の前記多孔物体の面は前記排気ガスの下流側に向くように配置する構成とする。
【0017】
また、前記排気処理装置において、前記多孔物体は、多孔板であって前記尿素水液滴の噴射方向に沿って少なくとも2段に形成され、前記少なくとも2段に形成された多孔板と前記排気煙道の壁面との間に孔の無い板を設ける構成とする。」(段落【0015】ないし【0017】)

オ 「【0018】
噴射した尿素水を排気ガス中に配置した多孔板、平板などの板に衝突させるに際して、板に対する尿素水の噴霧衝突密度を低減し、尿素水液滴の板への衝突時に膜沸騰させることで尿素水の付着を防止することができるとともに、反射した尿素水を排ガスに均一に分散させることで脱硝触媒で十分な反応が行われるようにすることができる。
【0019】
また、排気ガス中に多孔板、平板、半円筒形板などの板を配置することによって、板配置がない場合に尿素水噴射装置から噴射される噴霧が当たるべき排気煙道の壁面に対して、尿素を析出させてしまうという不具合を防止することができる。」(段落【0018】及び【0019】)

カ 「【0021】
「第1の実施形態」
本発明の第1の実施形態に係る排気処理装置について、図1?図4を参照しながら説明する。図1は本発明の第1の実施形態に係る排気処理装置の全体構成を示す図である。図2は本実施形態で用いる尿素水液滴が排気煙道に設けられた多孔板に衝突する際の液滴付着防止メカニズムを説明する図である。図3は本実施形態に関する尿素水噴射装置と多孔板の位置関係によって定まる尿素水噴霧の噴霧衝突密度を説明する図である。図4は本実施形態に関する尿素水噴霧が多孔板に衝突する際の現象について、噴霧衝突密度と排気ガス温度の関係で説明する図である。
【0022】
図1に示す本実施形態の全体構成において、ディーゼルエンジンから排出された排気ガス1は、排気処理のための触媒群を納めた排気煙道3を通過し、粒子状物質(PM)や窒素酸化物(NOx)を除去され、浄化された排ガス2となって大気に放出される。排気ガスを流すための流路は空間節約のために細く出来ることが望ましいが、一般的に云って、触媒は排気ガスとの接触面積を増やすために細かなガス流路が多く形成される構造とされ、この構造によりガスが流れる際の圧力損失は高くなりやすいことから、十分な接触面積の確保と圧力損失低減のために、単に排気ガスを流しているだけの箇所より、流路断面積を大きくするのがよく、触媒群を納めた排気煙道は、その手前の煙道より断面積を拡大させている。
【0023】
本発明の実施形態における触媒群は、上流側から、酸化触媒4、粒子状物質除去のためのフィルタ(DPF)5、脱硝触媒6、アンモニア処理のための触媒7の順に構成するが、これ以外の組合せであっても構わない。
(中略)
【0026】
この他、エンジンから排出された直後のガスに含まれる窒素酸化物(NOx)はほとんど一酸化窒素(NO)の状態になっており、これを酸化触媒4で酸化させ、二酸化窒素(NO_(2))の状態にすると、フィルタ内の粒子状物質に対して酸化剤として働き、粒子状物質の低減につながる。さらに、脱硝触媒6でアンモニアによりNOxを還元させる反応に関しても、比較的低温の状態では、NOとNO2のモル比が1:1になっている場合に反応が最も進むことから、酸化触媒4により、排気ガス中のNOxの成分をモル比でNO:NO_(2)=1:1にすることが有効となる。
【0027】
尿素水噴射装置10によって尿素水を噴射し、この噴射された尿素が加水分解されることで生成されるアンモニアを用いて、脱硝触媒6においてNOxを還元する。この場合の尿素が加水分解される反応は次の化学式で表される。
【0028】
(NH_(2))2CO+H_(2)O → 2NH_(3)+CO_(2)
上記化学式より、尿素は水と反応し、アンモニアと二酸化炭素になり、かつ、尿素1モルからアンモニア2モルが生成されることが分かる。また、この反応により生じたアンモニア(NH_(3))を用いてNOxを還元する反応は次の化学式で表される。
(中略)
【0032】
2NH_(3)+3O_(2) → NO+NO_(2)+3H_(2)O
すなわち、アンモニアをNOxと水に変換することで、アンモニアの処理がなされる。この方法はNOxを再び生成してしまうために、システムトータルとしてのNOx低減率が悪化することから、触媒7にはアンモニアとNOxの反応を促進させる機能も持たせることが望ましい。その場合、触媒7の中でアンモニアが一旦NOxになるが、そのNOxはアンモニアと反応することで窒素と水になるため、最終的にアンモニアが窒素と水になったことになる。このような多元の機能を持った触媒を用いることで、最終的な排ガス2のNOx濃度をより低減することが可能になる。」(段落【0021】ないし【0032】)

キ 「【0033】
尿素水噴射装置10は、尿素水タンク8から供給しポンプ9で加圧した尿素水を噴射すると同時に、必要な尿素量だけが添加されるように、尿素水の添加量を調整する役割も果たす。噴射装置10の噴出口は微細な孔にし、ポンプ9で供給される圧力を利用して尿素水が噴出する際の速度を上げ、その慣性力を用いて噴出の際に形成される液滴の微粒化を図る。また、噴射の際に旋回がかかるように噴出させることで、遠心力を利用して液滴の微粒化を図ることもできる。さらに、噴射弁の開閉を数Hz?数十Hz程度の周期で繰返し、開弁時間と閉弁時間の割合を制御することにより、尿素水の噴射量を制御すると同時に、断続的な噴霧を作り出すことができる。
【0034】
尿素水噴射装置10から噴射された尿素水で形成される噴霧はそのまま排ガスに混合されるようにするため、排気煙道3に尿素水噴射装置10を直接取り付ける。
(中略)
【0037】
尿素水噴射装置10から噴射された液滴は液滴群である噴霧11を形成して、1段目の多孔板12に衝突する。噴射装置から噴出する液滴は、粒径が小さいものから大きいものまで分布を持ち、粒径の大きなものは質量が大きいために慣性力が大きく、排ガスから受ける流体力の影響が小さく、ほぼ直線的に飛散する。この直線的な飛散は噴射装置10の噴孔を出る際の液滴の進行方向でほぼ決まり、噴孔部を頂点とする円錐形になることで噴霧11を形成する。このため、噴霧11の形状は噴射装置10の構造に依存してほぼ決まる。
【0038】
また、液滴の粒径分布で、粒径が大きい方の割合が高いと、噴霧としての貫通力(噴霧が排ガスの流れに抗して当初の噴霧方向に進行する能力)が強くなり、噴射点から遠い側への噴霧供給が増え、逆に粒径が小さい方の割合が高いと、噴霧の貫通力が弱くなり、噴射直後に液滴は排ガスの流れに乗り、噴射点に近い側への噴霧供給が増える。このため、噴霧を均一に分散させるためには、適切な貫通力の噴霧に調整することが望ましく、単位時間あたりの噴射回数を調整することが有効になる。すなわち、断続的な噴射で、噴射を小刻みに分割すると、噴射が途切れるごとに噴射点近傍に残ろうとする噴霧が増え、噴霧としての貫通力が低下することから、貫通力を増したい場合には、噴射の開閉のサイクルを長くし、貫通力を下げたい場合には、噴射の開閉のサイクルを短くするのがよい。」(段落【0033】ないし【0038】)

ク 「【0039】
多孔板12は、噴霧11が到達する位置に配置され、排ガスの進行方向に対して傾斜させて配置する。多孔板12には、金属の板に多数の孔を打ち抜いて製造されたパンチングプレートを用いることが可能である他、金属板に多数の切り起こしを設けたものや、金網など、一定割合の液滴を通過させるための開口を持たせた物体(固体面)で構成することが可能である。多孔板12の開口部に液滴が来た場合はそのまま通過し、開口部以外の所に到達した液滴が多孔板12と衝突する。この時、多孔板12に衝突した尿素水液滴が、そのまま多孔板12に付着するのを防止するメカニズム、方法について、図2、図3、図4を用いて説明する。
【0040】
図2は、尿素水液滴11が多孔板12に衝突した際に、液滴が付着せずに反射する場合と、付着して壁面に留まってしまう場合の条件を説明する図である。図2において、排ガス温度をTg、多孔板表面温度をTp、尿素水の沸点をTuとし,この多孔板表面温度と尿素水沸点の温度差(Tp-Tu)が臨界温度差ΔTcrよりも大きい場合、尿素水液滴は多孔板12に付着することなく反射し、臨界温度よりも小さい場合、尿素水は壁面に付着する現象を表している。この現象は発明者らが考えた次のメカニズムによる。
【0041】
尿素水液滴11が多孔板12に衝突する際、熱量Quが多孔板から液滴に与えられる。多孔板は熱を奪われる分、排ガスよりも温度が低くなる。また、熱伝達の法則により、排ガスと多孔板の温度差(Tg-Tp)と熱伝達率hの積に比例して熱量Qgが排ガスから多孔板に与えられる。多孔板12にとって、奪われる熱量Quと与えられる熱量Qgが等しい時、平衡状態に達して温度が安定する。このため、液滴に奪われる熱量が大きい場合、多孔板の温度が低下する。
【0042】
多孔板の温度が尿素水の沸点よりも高くて、衝突する液滴が沸騰を起こすと考えると、多孔板から尿素水への熱の伝わり方は沸騰熱伝達によると見なされる。一般に、沸騰熱伝達には核沸騰と膜沸騰があり、固体側表面温度と液体の沸点の温度差が臨界温度差以上の時に膜沸騰を起こす。膜沸騰が起きる場合は、液と固体壁(本実施形態の例では、尿素水液滴11と板12)が直接に接触することはなく、間に必ず気体の層が挟まれる。これは固体側の温度が高いために、液が近づいただけで沸騰を起こし、この沸騰により生じた蒸気が固体壁との間に存在することになるためである。
【0043】
液体が固体壁に接触している核沸騰に比べて、気相を必ず間に挟む膜沸騰は熱が伝わりにくい特性を持つ。このため、液滴が多孔板に衝突する際、膜沸騰になっている場合は多孔板の温度が高く維持される。また、多孔板の温度を高くすることにより、膜沸騰を起こすことで液が多孔板に直接接触することを防ぐことが出来、衝突した液滴は付着せずに反射する。
【0044】
一方、液滴11が集中的に板に衝突するなどして、板の表面温度Tpが低下した場合、液滴が衝突する際の固体壁(板)と液体の沸点の温度差が縮まり、膜沸騰を起こせずに核沸騰に移ると、液滴に伝わる熱量が急速に増大し、板が奪われる熱量が増大することで、より一層、板の温度低下が進む。このような状態に入ると液滴は板壁面に付着するようになる。板に付着した液は、その場にとどまり、尿素水の水分が先行して蒸発し、尿素が析出して、固形物として板に付着した状態に変わる。さらに、固形分となった尿素は特定の温度帯で放置されると、より強固な固体物に変態するなど、弊害を起こす場合がある。」(段落【0039】ないし【0044】)

ケ 「【0058】
多孔板12の下に多孔板13を配置することにより、多孔板12をすり抜けた尿素水液滴を衝突させ、より噴霧の分散を図ることが可能になる。多孔板を多段にすることにより、1枚に衝突させる噴霧の量は少なくてもよくなり、すり抜ける液滴の量を増やしてもよくなる。このことは、多孔板の開口率を増やすことで実現できる。多孔板の開口率が増えると噴霧衝突密度が下がることから、噴霧の衝突による冷却が弱まって、多孔板に尿素水が付着することをより防止しやすくなる。
【0059】
また、多孔板を多段化することにより、尿素水噴霧を排気ガス流路全面により均一に分散させることも可能になる。尿素水噴霧の液滴径がある程度大きい場合は排ガスに対して貫通力が強く、煙道壁面まで到達する噴霧の割合が多くなる。この場合、供給される尿素水の濃度が、煙道壁近傍で濃くなり、脱硝触媒6に供給されるアンモニアも煙道壁近傍が多く、それ以外の場所は少なくなってしまう。局所的なアンモニア濃度が、排ガスのNOx濃度より低い箇所では、還元剤が不足する分、還元反応が行われなくなり、全体としてのNOx低減率が悪化してしまう。このため、多孔板12,13のように多段に多孔板を配置し、尿素水の供給を特定の箇所に集中させることなく、均一に分散させることが、NOx低減率の向上に役立つこととなる。
【0060】
さらに、多孔板13(図1の例で多孔板12より下方に設けた多孔板)の開口率を多孔板12の開口率より小さくすることにより、多孔板に衝突させる液滴の量の均一化を図ることが可能になり、液滴の均一分散に役立つ。すなわち、多孔板13には多孔板12をすり抜けた液滴のみが到達するので、多孔板12,13が同じ開口率である場合、衝突する液滴の量では多孔板13の方が少なくなる。このため、多孔板13の開口率を多孔板12より小さくすると、同じ量の液滴が衝突する状態に近づく。
【0061】
例として、多孔板12の開口率を66%、多孔板13の開口率を50%とした場合、単純化して考えると噴射装置10から多孔板12に到達した噴霧の34%が衝突して、多孔板12の上側に噴霧が分配され、66%がすり抜ける。さらに、この66%の内の50%が多孔板13に衝突して多孔板12と13の間に分配され、それ以外が多孔板13の下側に分配される。排気煙道3の断面内を多孔板12上側、多孔板12と13の間、多孔板13の下側の3領域に分けて考えると、それぞれの領域には噴射した尿素水の34%、33%、33%が供給され、噴霧が分散されることになる。多孔板13の開口率を下げた場合、排気ガスが通過することに対しては、多孔板12より抵抗になるため、排ガスの流れに対する傾斜を小さくすることにより、排気ガスの圧力損失を低減させることが可能になる。
【0062】
すなわち、多孔板を多段に配置するにあたっては、尿素水の噴射点から遠くなるに従って開口率を下げ、かつ、排気ガスの流れに対する傾斜も減らしていくことが、排気ガスの圧力損失を増やさずに噴霧を煙道断面全体に均一に分散させることに役立つ。なお、本実施形態では多孔板を2段配置しているが、3段以上配置することで、尿素水のより均一な分散を図ることも可能である。」(段落【0058】ないし【0062】)

コ 「【0079】
「第5の実施形態」
図8は本発明の第5の実施形態に係る排気処理装置における尿素水添加部の具体的構成を示す外観図である。図9は第5の実施形態に関する尿素水添加部の具体的構成を示す正面図である。図10は図9に示すA-A線断面図である。図11は図10に示すB-B線断面図である。ここで、第4の実施形態と同じ機能のものは符号を同じにする。第5の実施形態では、排ガスに直接尿素水を添加するための噴射装置が正面図で見た場合の左斜め上から噴射している構造を示している。
【0080】
斜め上からの噴射構造は、尿素水添加部の縦・横の寸法を考えた場合、噴射装置10を正面図の真上から噴射するように配置すると尿素水添加装置としての縦の寸法が大きくなることから、斜めに配置することにより縦寸法の短縮化を図っている。このことにより、尿素水を用いた排気処理装置の車両搭載性を良くしている。噴射装置10を斜めに配置したことにより、その噴霧を衝突させる多孔板12,13および平板14も斜めに配置し、図9の正面図で見た場合、噴射方向の軸とこれらの板12,13,14が垂直になるように配置する。
(中略)
【0083】
噴射装置10で噴射された尿素水は図10の断面図に示す通り、多孔板12,13および平板14に衝突して分散される。この尿素水と排ガスは絞り流路25を通過することで一層混合が進み、そのことで排ガスから尿素水液滴に熱がよく伝わり、尿素の気化と加水分解が促進される。また、絞り流路25には、噴射装置10から噴射された尿素水が直線的に到達して流入する分もあるので、流入分が効率よく流入するように絞り流路を配置する。本実施形態では、絞り流路25を3つの流路で構成しているが、これは1つでも、2つ以上であっても構わない。」(段落【0079】ないし【0083】)

サ 「【0084】
「第6の実施形態」
図12は本発明の第6の実施形態に係る排気処理装置の尿素水添加部の具体的構成を示す正面図である。図13は図12のC-C線断面図である。ここで、第5の実施形態と同じ部分は符号を同じにして説明を省略する。第6の実施形態では、多孔板31,32,33を用いて噴射装置21から噴射した尿素水噴霧22の分散を図っている。また、噴射装置21は図13のC-C線断面図で見た場合、排ガスの流れに対して下流側に傾斜した方向に噴射している。
【0085】
多孔板31は薄板のパンチングプレートを半円筒形にして排気煙道3に取り付けており、半円筒形形状によって噴霧22が、排気1の上流側に飛散するのを防止すると同時に、横方向へ広がりすぎて排気煙道3に液滴が付着することも防止している。多孔板32は噴霧22が図13における下側の排気煙道に到達して付着するのを防止すると同時に、噴射装置21から遠い側にある2つの絞り流路25に噴霧を導く働きをなしている。多孔板33は、絞り面20に噴霧が直接に付着することを防止する。多孔板33は絞り面20より浮いていることから、多孔板33の両面を排ガスが流れることが出来ることと、開口を持つことにより、絞り面20に液滴が到達した場合よりも温度低下しにくく、液滴の付着を防ぐことが出来る。
【0086】
このように、第6の実施形態では、多孔板の形状に特徴があって、半円筒形形状31とし、その下方部を図示のように斜め形状32とし、排ガスの流れ方向に垂直であって絞り通路より浮いた配置の板形状33としている。
【0087】
「第7の実施形態」
図14は本発明の第7の実施形態に係る排気処理装置の尿素水添加部の具体的構成を示す正面図である。図15は図14のD-D線断面図である。ここで、第5の実施形態と同じ部分は符号を同じにして説明を省略する。
【0088】
第7の実施形態では、絞り流路25を2つにし、噴射装置30を図14の正面図における煙道3の中央に配置し、図15のD-D線断面図で見た場合、噴射装置30を排ガスの流れに対して上流側に傾斜した方向に噴射している。また、多孔板41,42を用いて噴射装置30から噴射した尿素水噴霧36の分散を図ると同時に、上流側に噴霧36が行くことを防止している。
【0089】
噴射装置30を煙道3の中央に配置すると、装置全体の高さが高くなるが、噴射装置30を傾斜して配置することで高さが抑えらると同時に、噴霧の移動距離が伸びて、尿素水の気化が進むことで、脱硝性能を向上させることが可能になる。」(段落【0084】ないし【0089】)

シ 「【0090】
以上説明したように、本発明による尿素水を用いた排気処理装置は、ディーゼルエンジンの排気ガスに含まれるNOxを除去することに有効であり、特に装置の小型化を必要とする車両用排気処理装置として使用することに適する。また、圧縮空気を用いた微粒化に頼らずに尿素水を排気ガス中に分散させることで、圧縮空気を使用できない環境でも尿素水を用いた排気処理に利用できる。
【0091】
このように、本発明の種々の実施形態では、次に示すような構成を備えることによって、以下に示す諸々の機能又は作用を奏することができるものである。すなわち、尿素水の噴射装置から噴出する際の液滴の粒径が大きい場合、液滴の慣性力の強さから、液滴が排ガスの流れに乗らずに貫通し、煙道壁面に付着しやすい傾向にあるが、多孔板に衝突させることで、尿素水液滴を散らすことが可能になり、液滴の分散促進が図れる。この分散された尿素水液滴は、排ガスから熱を受けて気化し、さらに、気化した尿素と水蒸気により加水分解反応が起きることで、アンモニアが生成され、このアンモニアを、NOxを還元する際の還元剤として使用することから、尿素水液滴の分散促進はアンモニアの分散促進につながり、NOxの還元反応を促進することとなる。
【0092】
同時に、多孔板もしくは煙道内面近傍に配置した板が、尿素水液滴の煙道壁面付着を防止することから、噴射する尿素水の慣性力が強くても煙道壁面に付着する心配がなくなり、噴射する際の液滴の速度を上げることで微粒化を図る方法を用いることが出来るようになり、圧縮空気を用いずに液滴の微粒化を図ることも可能になる。
【0093】
また、液滴を衝突させる多孔板は、孔部を排ガスが通過できるため、排ガスの流れに対して大きな圧力損失にならずに済み、排ガスの流路を絞るなどしてアンモニアの分散を図る場合に比べて、小さな圧力損失で大きな分散促進の効果を得ることが可能になる。
【0094】
さらに、板に尿素水液滴を衝突させる場合、板の表面温度によっては液滴が板に付着し、付着した尿素水が析出物となって板に付着したままになり、弊害を引き起こす可能性があるが、板を多孔板にし、かつ、多孔板の表裏両面を排ガスが流れることで尿素水液滴の付着を防止することが可能になる。これは、多孔板の表面温度を尿素水の沸点より十分高い温度に維持することで可能にするものであり、尿素水液滴が多孔板に衝突する際、尿素水が膜沸騰(ライデンフロスト沸騰とも称する)を起こすようにすることで、液滴と板の間に常に気相が存在し、液滴が多孔板に付着しなくなる。
【0095】
この膜沸騰が成立するためには、板の表面温度が液の沸点に対して十分高い温度になっている必要があり、多孔板の表裏両面を排ガスが流れることは、排ガスから熱を受けやすくなり、多孔板の温度を高く維持することに役立つ。また、尿素水液滴が板に衝突する際、板から気化熱を奪うことで板の温度を下げようとする働きがあるが、板を多孔板にして、一部の液滴を板に当てずに通過させることにより、液滴の衝突による冷却効果を抑えることで、多孔板の温度を高く維持することが可能になる。
【0096】
以上のことから、尿素水液滴を衝突させる板を多孔板にし、かつ、多孔板の表裏両面を排ガスが流れるようにすることで、尿素水液滴の付着を防止し、尿素の析出による弊害を防止することが可能になる。同時に、尿素水液滴が多孔板に衝突する際、多孔板から気化熱を受けることになるため、その熱で気化が進む分、液滴の微粒化が促進される。
【0097】
また、上記の多孔板を排気ガスの流れに対して傾斜して配置することにより、排ガスが多孔板によく当ることで排ガスから熱を受けやすくなる。多孔板でない板がガスの流れに対して傾斜して配置されいる場合は、ガスの流れを大きく乱すことになり、圧力損失も大きくなりやすいが、多孔板の場合は孔部をガスが通り抜けることから、圧力損失が小さくて済む。なおかつ、多孔板の噴射液滴が衝突する側の面を排気ガスの下流側に向けて角度を付けて配置することで、多孔板に衝突した液滴は排ガスの流れの下流側に反射させることで、液滴が多孔板上に留まることを防止し、多孔板の温度低下を防止するとともに、液滴が排ガスの流れに速やかに乗ることで液滴の分散が促進される。
【0098】
また、噴射液滴を分散させる多孔板を多段に配置することにより、上段の多孔板をすり抜けた液滴も、下段の多孔板に衝突させることが可能になり、多孔板単体の開口率を大きくしても、全体として液滴が多孔板に衝突する確率は高く維持される。多孔板単体の開口率を大きくすると、液滴のすり抜けが多くなることから、液滴の衝突による多孔板の温度低下が小さくなり、多孔板の温度が高く維持されることで、尿素水が付着して尿素を析出させてしまうことを防止することが可能になり、効率のよい排ガスの浄化処理が可能になる。」(段落【0090】ないし【0098】)

(2)上記(1)アないしシ及び図1ないし15の記載から、以下のことが分かる。

ス 上記(1)アないしシ及び図1ないし15の記載から、引用文献1には、ディーゼルエンジンの排気ガス1に尿素水を添加する排気処理装置が記載されていることが分かる。

セ 上記(1)アないしシ及び図1ないし15の記載から、引用文献1に記載された排気処理装置は、脱硝触媒6より上流における排気煙道3内に開口している尿素水噴射装置10と、脱硝触媒6より上流における排気煙道3内で、かつ尿素水噴射装置10の開口部の前あるいは下流に、尿素水を蒸発させるように配置された少なくとも1つの多孔板12,13と、を備えていることが分かる。

ソ 上記(1)コ及びサ並びに図8ないし15(特に図8、9、13及び14を参照。)の記載から、引用文献1に記載された排気処理装置に備えられた多孔板13の下流側端部において、孔が端部に向けて開口しており、孔と孔の間の細い部分が端部となっており、また、端部の先端が尖った形状になっていることが分かる。

タ 上記(1)ク及び図1ないし15の記載から、引用文献1に記載された排気処理装置において、多孔板12,13には、金属の板に多数の孔を打ち抜いて製造されたパンチングプレートを用いることが可能である他、金属板に多数の切り起こしを設けたものや、金網など、一定割合の液滴を通過させるための開口を持たせた物体(固体面)で構成することが可能であることが分かる。これらの例から、金属板の表面が粗面化されている技術が記載されているといえる。

(3)上記(1)、(2)及び図1ないし15の記載から、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「ディーゼルエンジンの排気ガス1に尿素水を添加する排気処理装置であって、
脱硝触媒6より上流における排気煙道3内に開口している尿素水噴射装置10と、
前記脱硝触媒6より上流における排気煙道3内で、かつ尿素水噴射装置10の開口部の前あるいは下流に、尿素水を蒸発させるように配置された少なくとも1つの多孔板12,13と、を備え、
前記少なくとも1つの多孔板12,13の下流側端部が、細い部分を有し、前記少なくとも1つの多孔板12,13の表面に多数の孔を打ち抜かれている、排気処理装置。」

2-1-2 引用文献2
(1)原査定の拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2005-83276号公報(以下、「引用文献2」という。)には、例えば、以下の記載がある。(なお、下線は、理解の一助のために当審で付したものである。)
ア 「【0001】
本発明は、内燃機関の排気浄化装置に関する。」(段落【0001】)

イ 「【0004】
しかし、排気中へ還元剤を添加すると、この還元剤の一部が液状のまま排気通路の壁面に付着することがある。このように還元剤が排気通路の壁面に付着すると、排気中の還元剤の濃度が要求される濃度まで高くならず、NOxの還元が不十分となる虞がある。また、排気通路の壁面に付着した還元剤は、排気の流れにより排気通路の下流側へ壁面に沿って流される。そして、排気絞り弁に到達すると、該排気絞り弁の摺動部に流れ込み、更に排気の熱により還元剤の粘性が高まり、該排気絞り弁の作動が制限されることがある。
【0005】
本発明は、上記したような問題点に鑑みてなされたものであり、内燃機関の排気浄化装置において、還元剤の付着により排気絞り弁の作動が制限されることを抑制することができる技術を提供することを目的とする。」(段落【0004】及び【0005】)

ウ 「【0006】
上記課題を達成するために本発明による内燃機関の排気浄化装置は、以下の手段を採用した。即ち、第1の発明は、
内燃機関の排気通路に設けられ酸化機能を有する触媒と、
前記酸化機能を有する触媒よりも上流の排気中へ還元剤を供給することにより該酸化機能を有する触媒へ還元剤を供給する還元剤供給手段と、
前記還元剤供給手段よりも下流で且つ前記酸化機能を有する触媒よりも上流に備えられ、排気の流量を調整する排気絞り弁と、
前記還元剤供給手段よりも下流で且つ前記排気絞り弁よりも上流に備えられ、該排気絞り弁よりも上流の排気通路の壁面に付着した還元剤を該排気通路の壁面から排気の流れ中に脱離させる還元剤脱離手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0007】
本発明の最大の特徴は、壁面に付着した還元剤を再度排気中に戻し下流の酸化触媒に均一な濃度の還元剤を供給しつつ、排気絞り弁の摺動部に還元剤が付着することを抑制することにある。
【0008】
このように構成された内燃機関の排気浄化装置では、還元剤供給手段から排気中に供給された還元剤の一部が、蒸発する前に排気通路の壁面に付着することがある。このようにして排気通路の壁面に付着した還元剤は、排気によって壁面に付着したまま下流へと流される。そして、還元剤が排気通路の壁面を伝わって排気絞り弁に到達すると、該排気絞り弁の摺動部に流入し、その後排気の熱により固着して、排気絞り弁の作動が制限されることがある。また、還元剤が触媒へ到達するまでに時間がかかり、触媒が還元剤を必要とするときに、適切な還元剤濃度が得られなくなる虞もある。
【0009】
その点、還元剤脱離手段を備えることにより、排気通路の壁面に付着した還元剤を排気の流れの中へ再度戻すことができる。これにより、排気中で還元剤が拡散し、従来技術に比べより均一な濃度の還元剤を触媒に導入させることができる。また、排気通路の壁面から排気絞り弁の摺動部に還元剤が流入することを抑制できる。
【0010】
本発明においては、前記還元剤脱離手段は、前記排気通路の壁面から該排気通路の下流側に向けて突出し且つ下流端が尖形となる複数の突起からなり、該突起の下流端は排気通路の壁面から離間されていても良い。
【0011】
このように構成された内燃機関の排気浄化装置では、排気通路の壁面を流れる還元剤が前記突起の下流端に集まり、その後、還元剤は排気の力を受けて突起から排気中へ脱離される。ここで、壁面から突出する突起を複数備えることにより、壁面に付着した還元剤を夫々の突起の尖形の下流端に集めることができ、排気中へ還元剤を脱離しやすくすることができる。また、突起の下流端が排気通路の壁面から離間されているので、還元剤が突起の下流端から排気通路の壁面へと流れることを抑制し、さらに突起の下流端から排気中へ脱離された還元剤が再び壁面に付着することを抑制できる。これにより、排気絞り弁の摺
動部に還元剤が流入することを抑制できる。」(段落【0006】ないし【0011】)

エ 「【0027】
還元剤供給機構は、図1に示されるように、その噴孔が排気通路2内に臨むように取り付けられた還元剤添加弁5と、燃料ポンプ6と、該燃料ポンプ6から吐出された燃料を還元剤添加弁5へ導く燃料供給路7と、を備えている。ここで、還元剤添加弁5は、後述するECU10からの信号により開弁して燃料を噴射する。還元剤添加弁5から排気通路2内へ噴射された燃料は、排気通路2の上流から流れてきた排気の酸素濃度を低下させると共に、NOx触媒に吸蔵されていたNOxを還元する。
【0028】
また、還元剤供給機構は、NOx触媒に貯蔵されたSOxを放出させるSOx被毒回復時や、フィルタ3に堆積したPMを酸化させるPM除去時において、NOx触媒やフィルタ3の温度を上昇させることにも利用される。即ち、NOx触媒にて還元剤が反応し、このときに熱が発生する。この熱により、NOx触媒及びフィルタ3の温度が上昇される。このように、NOx触媒若しくはフィルタ3の温度を上昇させることにより、SOx被毒回復が可能となり、また、フィルタ3からのPMの除去が可能となる。
【0029】
還元剤添加弁5よりも下流で且つフィルタ3よりも上流の排気通路2には、該排気通路2内を流通する排気の流量を調節する排気絞り弁8が設けられている。
【0030】
以上述べたように構成された内燃機関1には、該内燃機関1を制御するための電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)10が併設されている。このECU10は、内燃機関1の運転条件や運転者の要求に応じて内燃機関1の運転状態を制御するユニットである。
【0031】
ECU10には、各種センサ等が電気配線を介して接続され、該センサ等の出力信号が入力されるようになっている。
【0032】
一方、ECU10には、還元剤添加弁5等が電気配線を介して接続され、上記した各部をECU10により制御することが可能になっている。」(段落【0027】ないし【0032】)

オ 「【0037】
<還元剤脱離手段の説明>
ここで、本実施例による還元剤脱離手段の具体的な構成について説明する。
【0038】
本実施例では、還元剤脱離手段として、還元剤添加弁5よりも下流で且つ排気絞り弁8の直ぐ上流に、還元剤脱離装置9を備えている。
【0039】
図3は、本実施例による還元剤脱離装置の概略構成を示した図である。図3(A)は、排気通路2の中心軸を含む平面により切断した断面図であり、図3(B)は、排気通路2の中心軸と直行する平面により切断した断面図である。図3(A)は、図の左側が排気通路2の上流側、図の右側が排気通路2の下流側となり、矢印の方向に排気が流通する。また、図3(B)は、排気通路2の下流側から還元剤脱離装置9を見た図である。
【0040】
還元剤脱離装置9は、排気通路2と同じ内径の筒90、筒90の上流端に設けられたフランジ90a、筒90の下流端に設けられたフランジ90b、筒90に内接して設けられている内筒91を備えて構成されている。
【0041】
筒90は、外径は一定であるが、下流側の内径が上流側よりも大きくなるように、下流側が薄肉化されている。そして、内筒91は、筒90の内径が小さい箇所、即ち、上流側で内嵌している。また、下流側では、筒90の内壁面と内筒91の外壁面に隙間92ができる。
【0042】
内筒91は、下流端の円周上に、下流に向かって突出する複数の尖形の突起91aを有している。
【0043】
このように構成された、還元剤脱離装置9では、還元剤添加弁5から排気通路2内へ添加された還元剤の一部が、該排気通路2の内壁面に付着する。そして、この還元剤は、排気の流れにより壁面に付着したまま下流へと流され、還元剤脱離装置9に到達する。還元剤脱離装置9では、先ず、還元剤が筒90の内壁に沿って下流へと進む。そして、還元剤が内筒91に到達すると、該内筒91の内壁面に沿って還元剤が下流へと流れる。そして、突起91aに到達すると、突起91aの尖端に向かって還元剤が導かれる。そして、この尖端と筒90とには隙間92があるため、還元剤は筒90の内壁面に流れることなく、突起91aの尖端から排気中へ脱離される。排気中に脱離された還元剤は、蒸発しながら排気と共に排気絞り弁8を通過し、最後に、フィルタ3へ到達する。
【0044】
このようにして、弁側軸82の摺動部に還元剤が流入することを抑制し、且つ、フィルタ3へ必要とされる濃度の還元剤を供給することができる。」(段落【0037】ないし【0044】)

(2)上記(1)アないしオ及び図1ないし5の記載から、以下のことが分かる。

カ 上記(1)アないしオ及び図1ないし5の記載から、引用文献2には内燃機関の排気ガスに還元剤を添加する内燃機関の排気浄化装置が記載されていることが分かる。

キ 上記(1)ウ及びオ並びに及び図1ないし3の記載から、引用文献2に記載された内燃機関の排気浄化装置において、排気通路2の内筒91の下流側の端部に、下流に向かって突出する複数の尖形の突起91aが設けられ、それにより、排気通路2の内筒91の内壁面に付着した還元剤は突起91aの尖端から排気中へ脱離されることが分かる。

(3)上記(1)、(2)及び図1ないし5の記載から、引用文献2には次の技術(以下、「引用文献2記載の技術」という。)が記載されているといえる。

「内燃機関の排気ガスに還元剤を添加する装置において、
内筒91の下流側の端部に、下流に向かって突出する複数の尖形の突起91aを設けた技術。」

2-2 対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「ディーゼルエンジン」は、その機能及び作用又は技術的意義からみて、本願補正発明における「内燃機関」に相当し、以下同様に、「排気ガス1」は「排気ガスシステム」に、「尿素水」は「流動可能な添加物」及び「添加物」に、「添加する」は「配給する」に、「排気処理装置」は「装置」に、「脱硝触媒6」は「所謂SCR触媒コンバータ」及び「SCR触媒コンバータ」に、「排気煙道3」は「排気路」に、「尿素水噴射装置10」は「噴射装置」に、それぞれ相当する。
また、引用発明における「多孔板12,13」は、「多孔板12には、金属の板に多数の孔を打ち抜いて製造されたパンチングプレートを用いることが可能である他、金属板に多数の切り起こしを設けたものや、金網など、一定割合の液滴を通過させるための開口を持たせた物体(固体面)で構成することが可能である。」(引用文献1の段落【0039】)というものであるから、本願補正発明における「金属シート(3,8)」に相当する。
また、引用発明における「少なくとも1つの多孔板12,13の下流側端部が、細い部分を有し」は、「少なくとも1つの金属シートの下流側端部が、細い部分を有し」という限りにおいて、本願補正発明における「少なくとも1つの金属シート(3,8)の下流側端部(5)が、先細り部分(6,9)を有し」に相当する。
また、「穿孔する」とは、「孔をあける」という意味であるから、引用発明における「少なくとも1つの多孔板12,13の表面に多数の孔を打ち抜かれている」は、「少なくとも1つの金属シートの表面が穿孔されている」という限りにおいて、本願補正発明における「少なくとも1つの金属シートの表面が穿孔されているか、またはガラスビードブラスト加工されている」に相当する。

そうすると、本願補正発明と引用発明とは、
<一致点>
「内燃機関の排気ガスシステムに流動可能な添加物を配給する装置であって、
所謂SCR触媒コンバータより上流における排気路内に開口している噴射装置と、
前記SCR触媒コンバータより上流における排気路内で、かつ噴射装置の開口部の前あるいは下流に、添加物を蒸発させるように配置された少なくとも1つの金属シートと、を備え、
前記少なくとも1つの金属シートの下流側端部が、細い部分を有し、前記少なくとも1つの金属シートの表面が穿孔されている、装置。」
という点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
(1)「少なくとも1つの金属シートの下流側端部が、細い部分を有し」という事項に関して、本願補正発明においては、「少なくとも1つの金属シートの下流側端部が、先細り部分を有し」ているのに対し、引用発明においては、「少なくとも1つの多孔板の下流側端部が、細い部分を有し」ている点(以下、「相違点1」という)。

(2)「少なくとも1つの金属シートの表面が穿孔されている」という事項に関して、本願補正発明においては、「少なくとも1つの金属シートの表面が穿孔されているか、またはガラスビードブラスト加工されている」のに対し、引用発明においては、「少なくとも1つの多孔板12,13の表面に多数の孔を打ち抜かれている」点(以下、「相違点2」という)。

2-3 判断
相違点について検討する。
(1)相違点1について
本願補正発明において「少なくとも1つの金属シートの下流側端部が、先細り部分を有し」ていることの技術的意義は、本願明細書の記載を参照すると、「この先細り部分は、金属シートの端部に形成される添加物の液滴を小さいままにしておくという利点を有する。すなわち、先細り部分であることから、排気ガスが金属シートの端部で液滴と一緒に流れ、液滴に作用することにより、液滴を金属シートから離す。」(段落【0016】)ということである。
それに対し、引用発明において「少なくとも1つの多孔板の下流側端部が、細い部分を有し」ていることの技術的意義は、引用文献1には記載されていない。
しかしながら、引用発明において「少なくとも1つの多孔板の下流側端部が、細い部分を有し」ていることにより、添加物である尿素水の液滴を金属シートからなる多孔板から離すという、本願補正発明と同様の作用効果が生じることは自明である。

次に、本願補正発明と引用文献2記載の技術とを対比すると、引用文献2記載の技術における「排気ガス」は、その機能及び作用又は技術的意義からみて、本願補正発明における「排気ガスシステム」に相当し、以下同様に、「還元剤」は「流動可能な添加物」に、「添加する」は「配給する」に、「下流に向かって突出する複数の尖形の突起91a」は「先細り部分」に、それぞれ相当する。
また、引用文献2記載の技術における「内筒91」は、還元剤が付着する面を有する板からなる筒であるから、「板」という限りにおいて、本願補正発明における「金属シート(3,8)」に相当する。
そうすると、引用文献2記載の技術は、本願補正発明の用語を用いて、
「内燃機関の排気ガスシステムに流動可能な添加物を配給する装置において、
板の下流側の端部に先細り部分を設けた技術。」
と言い換えることができる。
そして、引用発明は、エンジン用排気処理装置の技術分野において、還元剤である尿素水を多孔板から蒸発させることを課題としており、引用文献2記載の技術は、内燃機関の排気浄化装置の技術分野において、還元剤を内筒から蒸発させることを課題としているから、技術分野及び課題において共通している。
また、引用発明において、多孔板の表面温度が低い場合には液滴が多孔板に付着する可能性がある(例えば、引用文献1の段落【0094】等の記載を参照。)のだから、液滴が多孔板に付着した場合に、付着した液滴を蒸発させるために、引用文献2記載の技術を適用することは、理にかなっている。
したがって、引用発明において、引用文献2記載の技術を適用することにより、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項に想到することは、当業者が容易になし得たことである。

(2)相違点2について
引用発明は「少なくとも1つの多孔板12,13の表面に多数の孔を打ち抜かれている」ものであり、本願補正発明は「少なくとも1つの金属シートの表面が穿孔されているか、またはガラスビードブラスト加工されている」ものであるから、両者は「金属シートの表面が穿孔されている」という点で一致している。
したがって、相違点2は、実質的な相違点でない。

(3)全体として
本願補正発明は、全体としてみても、引用発明及び引用文献2記載の技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

以上のように、本願補正発明は、引用発明及び引用文献2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 手続の経緯及び本願発明
平成25年9月24日付けの手続補正は前述したとおり却下されたので、本件出願の請求項1ないし20に係る発明は、平成24年11月22日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに出願当初の明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし20に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項12に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2〔理由〕1(1)アの請求項12に記載したとおりのものである。

2 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1、2及びその記載事項並びに引用発明及び引用文献2記載の技術は、前記第2の〔理由〕2 2-1 2-1-1及び2-1-2に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記第2〔理由〕2の2-2及び2-3において検討した本願補正発明における限定の一部を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えたものに相当する本願補正発明が、前記第2〔理由〕2の2-3に記載したとおり、引用発明及び引用文献2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明から限定の一部を省いた本願発明は、引用発明及び引用文献2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
そして、本願発明を全体としてみても、その奏する効果は、引用発明及び引用文献2記載の技術から当業者が予測できた範囲内のものであり、格別に顕著な効果ではない。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-08-21 
結審通知日 2014-08-26 
審決日 2014-09-08 
出願番号 特願2008-114933(P2008-114933)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F01N)
P 1 8・ 575- Z (F01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今関 雅子  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 槙原 進
金澤 俊郎
発明の名称 内燃機関の排気ガスシステムに流動可能な添加物を配給する装置  
代理人 小林 博通  
代理人 富岡 潔  
代理人 小林 博通  
代理人 富岡 潔  

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