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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1296700
審判番号 不服2012-16844  
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-08-29 
確定日 2015-01-21 
事件の表示 特願2006- 38449「美白剤及びこれを含有する内用又は外用組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 8月30日出願公開,特開2007-217324〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は,平成18年2月15日の出願であって,その請求項1?4に係る発明は,特許請求の範囲の記載された事項により特定されるとおりのものであって,そのうち請求項1は以下のとおりである。
「【請求項1】
下記式
【化1】

で示される2-(4-ヒドロキシフェニル)-エタノールと,白米の粉砕物を液化酵素で処理して得られたエキスと,を含有する美白剤。」(以下,「本願発明」という。)

2.引用刊行物
これに対して,当審から通知した平成26年6月2日付け拒絶理由通知書で引用した,本件出願の日前に頒布されたことが明らかな刊行物A及びBには,それぞれ以下の事項が記載されている。
(2-1)刊行物A:特開平6-107539号公報(原審の引用文献1)
(A-1)【特許請求の範囲】
「【請求項1】 次式 (1) :
【化1】

(式中,nは1?4の整数を表し,Rはカルボキシル基,低級アルコキシカルボニル基,水酸基又は低級アルコキシ基を表す。)で示されるフェノール誘導体又はその塩を有効成分として含有することを特徴とするチロシナーゼ阻害剤。」
(A-2)【0001】
「【産業上の利用分野】本発明は,色白効果の優れた化粧料,シミ,ソバカス等の防止効果に優れた外用医薬部外品,食肉の褐変防止剤,養殖魚体表の黒化防止剤等として有用なチロシナーゼ阻害剤に関するものである。」
(A-3)【0004】?【0007】
「【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは,新規なチロシナーゼ阻害剤を開発する目的で数々の物質をスクリーニングした結果,特定のフェノール誘導体が極めて優れたチロシナーゼ阻害効果を有することを見出し本発明を完成するに至った。即ち,本発明のチロシナーゼ阻害剤は,次式 (1) :
【0005】
【化2】

【0006】(式中,nは1?4の整数を表し,Rは…,水酸基又は…を表す。)で示されるフェノール誘導体又はその塩を有効成分として含有することを特徴とするものである。
【0007】前記式(1)で示される化合物としては,例えば…,p-ヒドロキシフェネチルアルコール,…等が挙げられる。」
(A-4)【0010】?【0015】
「【0010】…
(実施例1)各種フェノール誘導体のチロシナーゼ阻害活性を以下のようにして測定した。
【0011】0.1Mリン酸緩衝液 (pH6.5)(2.4ml)に, 0.05Mリン酸緩衝液 (pH6.5)に溶解したマッシュルーム由来チロシナーゼ (2,000U/ml, 0.1ml) 及びサンプル溶液 (0.1ml)を加え,更に0.05M リン酸緩衝液 (pH6.5)に溶解した1.5mM L-チロシン溶液 (0.4ml) を加え反応を開始し,25℃で10分間インキュベートした。そして475nmの吸光度 (OD) を紫外可視分光光度計により測定した。阻害活性は以下の式より算出した。
【0012】
【数1】

【0013】本法による測定結果を表1に示す。
【0014】
【表1】

【0015】上記の結果より,本発明のチロシナーゼ阻害剤はチロシナーゼに対する阻害活性を有することが判る。」
(2-2)刊行物B:特開平6-192061号公報
(B-1)【特許請求の範囲】
「【請求項1】米からの水抽出物または有機溶媒抽出物をそのまま,あるいはこれを含有してなることを特徴とする化粧料。」
(B-2)【0007】?【0009】
「【0007】すなわち,本発明は,米からの水抽出物または有機溶媒抽出物をそのまま,あるいはそれを含有してなることを特徴とする化粧料であって,米を水抽出(酸,アルカリ抽出も含む)またはアルコールなどの有機溶媒で抽出することにより,簡単,安価に,しかも全く安全に,上記の効果を顕す非常に優れた化粧品が得られるのである。
【0008】本発明の抽出操作を行う場合,まず,米を粉砕または粉体化すると表面積が大きくなるため,抽出効率が良くなる。この方法は,粉砕機または精米機等を用い,一般的な方法によればよい。粉砕しなくてもよいが,この場合には,米組織の分解および抽出に長時間を要する。
【0009】水抽出にあたっては,米をそのまま,好ましくは粉砕または粉体化したものに加水する。米は玄米でも白米でもよい。加水量については,米に対して2?5倍量で効率よく抽出されるが,収率,作業性,最終使用目的等に応じて適宜選定すればよい。この後,加温してゆき,沸騰状態になった時点で抽出を完了する。抽出を完了した後,使用目的により,圧搾,濾過を行えば,清澄な抽出エキスが得られる。なお,最初から熱水を加えて抽出を行ってもよい。」
(B-3)【0024】?【0027】
「【0024】…。さらに,本発明の美白効果を例証するために,チロシナーゼ活性阻害作用の試験を行った。
【0025】操作方法としては,基質液(0.04%チロシン溶液),緩衝液(McllvaineBuffer pH6.8)各1mlを吸光セルに正確に取り,水および実施例1で得られた本発明品を,それぞれ1mlづつ正確に入れ,攪拌混和して35℃に保ち,5分後,吸光度目盛を波長475nmに合わせてゼロ補正を行い,次いで,チロシナーゼ溶液(チロシナーゼ5.3mgを0.9%NaCl溶液に溶かしたもの)0.02mlを正確に加え,直ちに攪拌してインキュベートした。この時の吸光度を経時間(3分置き)に測定し,表1に示した。
【0026】
【表1】

【0027】表1から分かるように,本発明品は,チロシナーゼ活性阻害作用を有することが判明した。」
(B-4)【0034】
「【発明の効果】前記の結果からも分かるように,米を水抽出あるいは有機溶媒抽出することにより,簡単に,しかも,全く安全に肌をしっとり,つるつるさせ,しかも,皮膚のきめをととのえる効果,美白効果,紫外線吸収効果,老化防止効果を合わせ持つ非常に優れた化粧料が得られたのである。」
(B-5)【0037】
「【実施例】次に,本発明の実施例を挙げて説明する。
実施例1
白米15kgをよく粉砕し,これに60℃の温水45リットルと液化酵素50gを加え,よく攪拌した。その後,徐々に温度を上げて行き,5分間煮沸抽出した後,30℃まで冷却した。その後,しぼり機でしぼり,本発明品41リットルと残渣16kgを得た。」

3.対比
(1)刊行物A記載の発明
刊行物Aの【請求項1】(摘示事項(A-1))には,
「次式(1)

(式中,nは1?4の整数を表し,Rはカルボキシル基,低級アルコキシカルボニル基,水酸基又は低級アルコキシ基を表す。)で示されるフェノール誘導体又はその塩を有効成分として含有することを特徴とするチロシナーゼ阻害剤。」
と記載され,【発明の詳細な説明】の【0007】(摘示事項(A-3))には,
「前記式(1)で示される化合物としては,例えば…,p-ヒドロキシフェネチルアルコール,…等が挙げられる。」
と式(1)に含まれる化合物の例示として「p-ヒドロキシフェネチルアルコール」が記載されていて,かかる化合物は,その「(実施例1)」(摘示事項(A-4))において,チロシナーゼ阻害活性を示すことが客観的な試験結果をもって示されている。
したがって,刊行物Aには,
「p-ヒドロキシフェネチルアルコールを有効成分として含有するチロシナーゼ阻害剤。」
が記載されているといえる。
ところで,刊行物Aでも,【0001】(摘示事項(A-2))に,
「本発明は,色白効果の優れた化粧料,シミ,ソバカス等の防止効果に優れた外用医薬部外品,…等として有用なチロシナーゼ阻害剤に関するものである。」
と記載されているのみならず,そもそもチロシナーゼ阻害剤が化粧料の美白成分として使用されることは当業者にとって技術常識であるから,刊行物Aにおいてチロシナーゼ阻害剤とされている「p-ヒドロキシフェネチルアルコール」が美白成分ともなることは,刊行物Aの記載に触れた当業者ならば,当然に理解するところである。
したがって,刊行物Aの記載に基づいて,
「p-ヒドロキシフェネチルアルコールを有効成分として含有する美白剤。」に関する発明(以下,「引用発明」という。)を,当業者が把握するものといえる。

(2)一致点・相違点
引用発明における「p-ヒドロキシフェネチルアルコール」と本願発明の「2-(4-ヒドロキシフェニル)-エタノール」は同一化合物に対する異称であることから,本願発明と引用発明を対比すると,両発明は,
「2-(4-ヒドロキシフェニル)-エタノールを含有する美白剤。」の点で一致し,次の点で相違している。
[相違点]
引用発明が「2-(4-ヒドロキシフェニル)-エタノール」単独成分の美白剤であるのに対して,本願発明が「白米の粉砕物を液化酵素で処理して得られたエキス」とともに含有する「美白剤」としている点。
(なお,「p-ヒドロキシフェネチルアルコール」と「2-(4-ヒドロキシフェニル)-エタノール」とは,ともに同一化合物に対する呼称であることから,以下においては,引用発明又は刊行物Aの記載における場合も含めて,両者を「2-(4-ヒドロキシフェニル)-エタノール」と,本願発明の呼称に統一して表記することとする。)

4.判断
上記相違点について検討する。
ア 刊行物Bには,【請求項1】(摘示事項(B-1))において
「米からの水抽出物または有機溶媒抽出物をそのまま,あるいはこれを含有してなることを特徴とする化粧料。」
と記載されているが,ここでいう「米からの抽出物」については,例えば【0025】(摘示事項(B-3))などにおいて「実施例1で得られた本発明品」との記載が再三見られる。
そこで,その「実施例1」(摘示事項(B-5))を見ると,白米の粉砕物を液化酵素で処理して得られた抽出物を『本発明品』としていることに加えて,該抽出物に関しては,例えば,【0009】(摘示事項(B-2))には,「抽出を完了した後,…清澄な抽出エキスが得られる。」といった表現が用いられていることから『エキス』と呼ばれる性状のものと解されるものである。
そうすると,刊行物Bにおける「米からの抽出物」の1例であるその実施例1で得られた抽出物は『本発明品』とされるものであって,また「エキス」とも呼ばれる性状のものであるし,しかもその原料及び製法からみても,本願発明にいう「白米の粉砕物を液化酵素で処理して得られたエキス」に相当するものといえる。
ところで,刊行物Bでいう「実施例1で得られた本発明品」については,その【0024】?【0027】(摘示事項(B-3))においてチロシナーゼ阻害活性を示す試験データとともに「本発明品には美白効果があるといえる。」と記載し,さらに【0034】において「…米を水抽出あるいは有機溶媒抽出することにより,…美白効果,…を合わせ持つ非常に優れた化粧料が得られたのである。」(摘示事項(B-4))と記載されているものであって,チロシナーゼ阻害剤に基づく美白成分として化粧料に配合されることが理解されるものである。
イ そこで,引用発明における美白成分である「2-(4-ヒドロキシフェニル)-エタノール」に加えて,さらに「刊行物Bに記載の実施例1で得られた白米の粉砕物を液化酵素で処理して得られた水抽出物」(以下,単に「刊行物B米抽出物」ともいう。)を美白成分として組み合わせた美白剤が,当業者にとって容易に想到し得たといえるか否かについて検討することとする。
ウ 化粧料に配合される美白成分は,本件出願前において既に代表的な添加成分の一つになっていたものであり,多くのものが研究対象となり,しかもそれら美白成分を複数配合することも適宜行われていたものである。
例えば,以下の参考文献1?3に記載されているように,チロシナーゼ阻害活性に基づく美白成分同士でも複数組み合わせることが広く行われていたものである。
○参考文献1:特開2000-229828号公報(【請求項1】?【請求項4】,【0034】?【0038】及び【0058】など参照)
○参考文献2:特開平8-133946号公報(【0012】?【0015】並びに実施例4,7?10,12及び14?16など参照)
○参考文献3:特開2002-326918号公報(【請求項2】及び【請求項4】並びに【0072】など参照)
エ ところで,刊行物Aでは,「(実施例1)」(摘示事項(A-3))として,具体的な試験データを示した上でチロシナーゼ阻害剤(すなわち,美白効果のある成分)として,引用発明に係る「2-(4-ヒドロキシフェニル)-エタノール」が記載されており,また,刊行物Bでは,その【0024】?【0027】(摘示事項(B-3))において,やはり,具体的なチロシナーゼ阻害試験データを示した上で,「刊行物B米抽出物」が美白成分となることが記載されていたものである。
そうすると,上記「ウ」で記載した化粧料分野の技術背景を考慮すると,ともに,チロシナーゼ阻害活性に関する試験データという技術的な裏付けに基づいた美白成分として記載されている,引用発明に係る「2-(4-ヒドロキシフェニル)-エタノール」と,刊行物B記載の「刊行物B水抽出物」とを,組み合わせて美白剤とすることは,当業者ならごく自然に想到することであるし,さらに,これらを組み合わせたことにより,格別予想外の効果が奏されることが,本願明細書に示されているものともいえない。
オ なお,本願明細書における試験(【0024】及び【図2】など)では,引用発明に係る美白成分「2-(4-ヒドロキシフェニル)-エタノール」を単独で配合したものとの対比において,本願発明に係る美白剤が数値的に良好な効果が示されているものではあるが,「白米の粉砕物を液化酵素で処理して得られたエキス」(すなわち「刊行物B水抽出物」)も既にチロシナーゼ阻害活性に基づく美白効果が知られていたものであることから,両者を併用すれば美白効果が高まることは当業者が当然に予測することであり,本願明細書の記載された試験結果をもって,当業者が予測し得ない相乗効果が示されたとまではいえない。
カ よって,引用発明における美白成分である「2-(4-ヒドロキシフェニル)-エタノール」に加えて,さらに「刊行物B米抽出物」を美白成分として組み合わせて含有させた美白剤は,当業者が容易に想到し得たものといえる。

5.むすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物A及びBに記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
よって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-11-21 
結審通知日 2014-11-25 
審決日 2014-12-09 
出願番号 特願2006-38449(P2006-38449)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 八次 大二朗  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 松浦 新司
小川 慶子
発明の名称 美白剤及びこれを含有する内用又は外用組成物  
代理人 伊藤 温  

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