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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1296748
審判番号 不服2012-16082  
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-08-20 
確定日 2015-01-20 
事件の表示 特願2007-541282「遺伝子調節のための酸化防止剤の使用」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 5月18日国際公開、WO2006/053010、平成20年 6月12日国内公表、特表2008-519838〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願(以下「本願」という。)は、2005年11月 9日(パリ条約による優先権主張 2004年11月 9日 アメリカ合衆国(US))を国際出願日とする出願であって、以降の手続の経緯は概略以下のとおりである。
平成20年11月10日 手続補正書
平成23年 6月15日付け 拒絶理由通知
平成23年11月21日 意見書・手続補正書
平成24年 4月 4日付け 拒絶査定
平成24年 8月20日 審判請求書
平成26年 8月 8日 上申書

第2 本願発明
本願において特許を受けようとする発明は、平成23年11月21日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲に記載された事項により特定されるものと認められ、その請求項1の記載は、以下のとおりである(以下、請求項1に記載された事項により特定される発明を「本願発明」という。)。

「【請求項1】 ヒト以外の老齢哺乳動物において認知機能の低下を治療する方法であって:ビタミンE、ビタミンC、L-カルニチン、およびリポ酸を含み、そしてアスタキサンチン、ベータ‐カロテン、ルテイン、リコペン、セレン、ホウレンソウポマス(絞りかす)、トマトポマス(絞りかす)、柑橘類果肉、ブドウポマス(絞りかす)、ニンジン顆粒、ブロッコリー、緑茶、コーン、グルテンミール、米糠、藻類、クルクミン、セレン、およびその混合物から選択される1以上の酸化防止剤を含む組成物をヒト以外の老齢哺乳動物に対して投与することを含み、
ビタミンE、ビタミンC、L-カルニチン、およびリポ酸、そしてアスタキサンチン、ベータ‐カロテン、ルテイン、リコペン、セレン、ホウレンソウポマス(絞りかす)、トマトポマス(絞りかす)、柑橘類果肉、ブドウポマス(絞りかす)、ニンジン顆粒、ブロッコリー、緑茶、コーン、グルテンミール、米糠、藻類、クルクミン、セレン、およびその混合物から選択される1以上の酸化防止剤の総量が、ヒト以外の老齢哺乳動物において認知機能の低下を治療するために十分である、前記方法。」

第3 原査定の拒絶理由の概要
原査定の理由は、本願は、出願前(優先日前)に国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて出願前(優先日前)に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないという理由を含むものであると認められる。

第4 当審の判断
当審は、原査定のとおり、本願は、出願前(優先日前)に国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて出願前(優先日前)に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないという理由を含むものである、と判断する。その理由は、以下のとおりである。

1 刊行物及び刊行物の記載
原査定で引用された引用文献1は、出願前(優先日前)に国内又は外国において頒布された刊行物であることが明らかなものである(以下、引用文献1を「刊行物1」という)。

刊行物1:特表2004-512053号公報

刊行物1には、以下の記載がある。
(1a)「【請求項12】
高齢コンパニオンペットの精神能力の衰退開始の阻害方法であって、成体期にある前記ペットに、この阻害を達成するのに足る量の酸化防止剤またはその混合物を与えることを含んでなる方法。
【請求項13】
ペットがイヌである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
イヌが1?6歳である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ペットがネコである、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
ネコが少なくとも1?6歳である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ビタミンEを、食餌で測定して少なくとも約100ppmでペットに与える、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
ビタミンC、L-カルニチン、α-リポ酸又はその混合物からなる群より選択される酸化防止剤をペットに与える、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
ビタミンC、L-カルニチン、α-リポ酸又はその混合物からなる群より選択される酸化防止剤をペットに与える、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
少なくとも約50ppmのビタミンCが食餌中にある、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
少なくとも約25ppmのα-リポ酸が食餌中にある、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
少なくとも約50ppmのL-カルニチンが食餌中に存在する、請求項19に記載の方法。
・・・
【請求項29】
コンパニオンペットの高齢期における酸化的傷害に対する抵抗能の改善方法であって、高齢期にある前記ペットに、栄養所要量を満たす食餌を与えることを含んでなり、前記食餌が少なくとも約25ppmのリポ酸を有し、そして前記食餌を少なくとも1カ月間与える、前記改善方法。」

(1b)「【0001】
発明の背景
犬および猫などのコンパニオンアニマルは、高齢化により不具合を生じると考えられる。これら不具合のいくつかは、一般的な格言に示されている。これらの一つは、“老犬に新しい芸は教えられない”である。この格言は、犬は、高齢化するにつれ、精神能力および体力が低下すると考えられる、という観察に起因する。思考、学習および記憶に関連づけられる精神活動が減退すると考えられる(Cummings BJ,Head E,Ruehl W,Milgram NW,Cotman CW 1996:The canine as an animal model of aging and dementia;Neurobiology of aging 17:259-268)。これに加えて、高齢動物では、精神能力の変化により行動変化が現れることがある。多くの原因として、この能力減退が特定されてきた。
【0002】
これらの能力損失は、高齢のイヌおよびネコで一般に観察されている。7歳以上の犬および7歳以上のネコは高齢とみなされ、この不具合に直面している可能性がある。
【0003】
著しいレベルの少なくとも1種の酸化防止剤を、成体コンパニオンペットの食餌中に存在させるか、または食餌の他にペットに与えると、高齢コンパニオンペットの精神能力の衰退開始を阻害し、および/または成体コンパニオンペットの精神能力を高齢期までさらに維持することができる。
発明の概要
本発明に従い、成体ペットの通常の栄養所要量を満たすコンパニオンペット用食餌であって、前記コンパニオンペットの高齢期における精神能力の衰退開始を阻害するのに足る量の酸化防止剤またはその混合物をさらに含んでなる食餌がある。
【0004】
本発明の他の観点は、高齢コンパニオンペットの精神能力の衰退の阻害方法であって、該方法は、成体期にある前記ペットに、この阻害を達成するのに足るレベルで酸化防止剤またはその混合物を与えることを含んでなる。
【0005】
さらに本発明に従い、成体コンパニオンペットの通常の栄養所要量を満たし、そしてビタミンE、ビタミンC、α-リポ酸、L-カルニチンからなる群より選択される酸化防止剤およびその任意の混合物を、前記ペットの高齢期における精神能力の衰退を阻害するのに足る量でさらに含んでなる、コンパニオン成体ペット用食餌である。
【0006】
本発明のさらに他の観点は、高齢コンパニオンペットの精神能力の向上方法であって、該方法は、成体期にある該ペットに、精神能力を向上させるのに足る量の酸化防止剤またはその混合物を与えることを含んでなる。
【0007】
本発明の他の観点は、成体コンパニオンペットの精神能力の向上方法であって、該ペットに、前記ペットの精神能力を向上させるのに足る量の酸化防止剤またはその混合物を与えることを含んでなる方法である。
【0008】
これらの方法のすべてにおいて、酸化防止剤またはその混合物を、動物の食餌中に投与することが望ましい。
発明の詳細な説明
成体コンパニオンペット、例えばイヌおよびネコに与えられる食餌は、同年齢の動物に与えられる標準的普通食である。以下は、年齢1?6歳のイヌ用の典型的食餌である。
【0009】
【表1】(審決注:表1は省略する。)
コンパニオン成体ペットの食餌に著しい量の酸化防止剤またはその混合物を加えると、高齢ペットにおいて、行動の明確な変化の開始、詳細には、問題解決能力によって具体的に示される精神能力の衰退の開始を遅らせることができる。成体という用語は、一般に少なくとも1?6歳のイヌおよび少なくとも1?6歳のネコを意味するものとする。高齢の犬または猫は、7歳以上である。」

(1c)「【0010】
イヌおよびネコに関する精神能力の損失は、何年もの間観察されてきた。この精神能力の損失は、非常に多くの様式で発現する。例えばイヌの場合、見当識障害、屋内での粗相(house soiling)、変容した睡眠-覚醒パターン、ヒトおよび他のペットとの低下または変容した相互関係、ならびに学習および集中不能として発現することができる。これらの状態は、ネコでも同様に発現することができる。人で示されるようなアルツハイマー病は、イヌおよびネコではみられない。
【0011】
この精神能力の損失について、多くの理論が唱えられてきた。今までのところ、本発明者らは、この精神能力の損失を阻害するか、または客観的パラメーターにより測定される精神能力の肯定的変化を犬および猫に実際にもたらすことができる、食餌の作用経路を認識していない。
【0012】
本発明者らは、この衰退開始の遅延を達成することに成功している。本発明者らの発明の食餌を成体コンパニオンペットに用いることにより、高齢ペットの精神能力をより長期間維持できることを示すことができる。実質的に、精神能力の衰退は、停止または遅延させることができる。記憶および学習能を改善することができる。全体的な精神的敏捷性を高めることができる。年齢に関連する認知的衰弱を遅らせうる。認知的機能不全症候群に関しては、その進行を高齢犬において遅らせることができ、この症候群による臨床徴候を制御することができる。適切な場合の予防と、これらの成分を必要とするペットが、標的グループ(target group)である。
【0013】
これを達成する食餌中成分は、酸化防止剤またはその混合物である。酸化防止剤は、フリーラジカルを失活させる材料である。そのような材料の例には、イチョウ、シトラスパルプ、ブドウの搾りかす、トマトの搾りかす、ニンジンおよびホウレンソウなどの食物(好ましくはすべて乾燥させたもの)、ならびに、β-カロテン、セレン、補酵素Q10(ユビキノン)、ルテイン、トコトリエノール、大豆イソフラボン、S-アデノシルメチオニン、グルタチオン、タウリン、N-アセチルシステイン、ビタミンE、ビタミンC、α-リポ酸、L-カルニチンなどのようなさまざまな他の材料が含まれる。ビタミンEは、トコフェロールまたはトコフェロールの混合物およびそのさまざまな誘導体、例えばビタミンEの酢酸エステル、コハク酸エステル、パルミチン酸エステルなどのようなエステルとして、投与することができる。α体が好ましいが、β、γおよびδ体が含まれてもよい。d体が好ましいが、ラセミ混合物は許容しうる。それらの形および誘導体は、ペットによって摂取された後、ビタミンE様の活動において作用することになる。ビタミンCは、この食餌中に、アスコルビン酸およびそのさまざまな誘導体として投与することができる、その誘導体は、例えばカルシウムリン酸塩、コレステリル(cholesteryl)塩、2-モノホスフェートなどであり、ペットによって摂取された後、ビタミンC様の活動において作用することになる。それらは、液体、半固体、固体および熱安定形のような任意の形であることができる。α-リポ酸は、食餌中に、αリポ酸またはそのリポエート(lipoate)誘導体(米国特許第5621117号にあるようなもの)、ラセミ混合物、塩、エステルもしくはアミドとして、投与することができる。L-カルニチンは、食餌中に投与することができ、カルニチンのさまざまな誘導体、例えば塩酸塩、フマル酸塩およびコハク酸塩のような塩ならびにアセチル化カルニチンなどを用いることができる。」

(1d)「【0018】
・・・
実施例1
2?4歳の成体ビーグル犬17匹(対照n=8、酸化防止剤強化n=9)を、無作為に対照群または強化食餌群においた。対照食餌は、59ppmのビタミンEおよび<32ppmのビタミンCを含有していた。試験食餌は、900ppmのビタミンEおよび121ppmのビタミンC、260ppmのL-カルニチンおよび135ppmのαリポ酸を有していた。その食餌を開始して約1カ月後、犬に与えた最初の問題解決課題はランドマーク識別学習課題(landmark discrimination learning task)であり、これは空間的注意の試験であった(Milgram et al.,1999 Milgram,N.W.,Adams,B.,Callahan,H.,Head,E.,Mackay,B.,Thirlwell,C., & Cotman(1999),C.W. Landmark Discrimination Learning in the Dog.Learning & Memory,6:54-61)。
【0019】
ランドマーク識別学習では、被験体が、ある目的物への接近度に基づき特定の目的物を選択することが求められる。しかしながら、初期学習は、犬の目的物識別課題の学習能に基づいている。われわれはこれまでに、識別学習に対する年齢の影響は、課題の難易度に依存することを見いだしている。
【0020】
ランドマーク0試験を学習させたとき、強化食餌の成犬は、対照食物の成犬より誤りが少なかった(対照群の平均=31.1、強化群の平均=15.1)。それらの成犬を、ランドマークがポジティブウェル(positive well)からさらに離れているランドマーク1および2の試験に進ませた。強化食餌の成犬は、対照の成犬に比べて、少ない誤りでランドマーク0?2を学習した(対照でのランドマーク0+1+2の平均誤り数=132.9;強化食餌の犬でのランドマーク0+1+2の平均誤り数=87.1)。」

(1e)「【0039】
・・・αリポ酸に関し、さらに観察を適用することができる。食餌中のαリポ酸の長期給餌は、安全かつ有効である。還元型グルタチオン(GSH)対酸化型グルタチオン(GSSG)の比が向上する。食餌中のαリポ酸の長期投与は、最低1、2、3、4、5または6カ月間から、1、2、3、4、5年間または動物の一生涯を含むさらに長期間までであることができる。αリポ酸は、食餌中でカプセル化など特別な保護をしなくても機能し、医薬に用いられるような単位剤形、例えば錠剤、丸剤、カプセル剤などの状態で食餌中に存在する必要はない。リポ酸は、食餌中に、食餌の最低約25、50、75または100ppmで提供される。最高範囲はその毒性レベルをほんの少し下回り、食餌の約400、300または200ppmと幅広い。一般に、1日あたり約6または7mg/動物の体重1kgを超えることはなく、より一般には約5mg/kgを超えない。αリポ酸は、酸化的傷害に対する動物の抵抗能を改善するほか、酸化防止剤の防御能力を改善する。このすべては、適量存在する他の酸化防止剤、例えばビタミンEおよびビタミンCと共にもたらされる。このことは、αリポ酸の作用が、ビタミンCおよび/またはビタミンEの作用を超えることを実証している。」

2 刊行物に記載された発明
刊行物1の上記摘記(1a)には、「【請求項12】 高齢コンパニオンペットの精神能力の衰退開始の阻害方法であって、成体期にある前記ペットに、この阻害を達成するのに足る量の酸化防止剤またはその混合物を与えることを含んでなる方法。」と記載されている。その上で、刊行物1の上記摘記(1d)には、実施例1として、2?4歳の成体ビーグル犬17匹を用いたランドマーク識別学習課題による試験において、900ppmのビタミンEおよび121ppmのビタミンC、260ppmのL-カルニチンおよび135ppmのαリポ酸を有する強化食餌を与えた群では、59ppmのビタミンEおよび<32ppmのビタミンCを含有する対照食餌を与えた群の動物よりも、少ない誤りでランドマーク0?2を学習したことが記載されている。ここで、強化食餌に添加されたビタミンE、ビタミンC、L-カルニチン及びαリポ酸は、いずれも、刊行物1の上記摘記(1c)に記載された食餌における酸化防止剤である。そうすると、刊行物1には、その具体的実施例である実施例1によって裏付けられた請求項12に記載された以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
(刊行物1に記載された発明)
「高齢コンパニオンペットの精神能力の衰退開始の阻害方法であって、成体期にある前記ペットに、この阻害を達成するのに足る量の酸化防止剤またはその混合物を与えることを含んでなる方法。」

3 対比
上記引用発明と本願発明を対比する。
引用発明の「高齢コンパニオンペット」は、本願発明の「ヒト以外の老齢哺乳動物」に該当すると認められる。
明細書【0053】の記載によれば、本願発明の「認知機能」は、学習障害の低下の症状を指すことができるものである。そして、引用発明における精神活動とは、思考、学習及び記憶に関連づけられる精神活動について、その衰退開始を阻害し、高齢期までさらに維持すると説明されている(上記摘記(1b))ことから、引用発明における「精神能力の衰退」は、本願発明の「認知機能の低下」に該当するといえる。
また、刊行物1において、引用発明が記載された請求項12を引用してさらに特定する請求項18及び19に、酸化防止剤がビタミンC、L-カルニチン、α-リポ酸又はその混合物からなる群より選択されるものであることが特定されている(上記摘記(1a))のに加え、上記摘記(1c)に「本発明者らの発明の食餌を成体コンパニオンペットに用いることにより、高齢ペットの精神能力をより長期間維持できることを示すことができる。・・・記憶および学習能を改善することができる。・・・認知的機能不全症候群に関しては、その進行を高齢犬において遅らせることができ、この症候群による臨床徴候を制御することができる。・・・これを達成する食餌中成分は、酸化防止剤またはその混合物である。酸化防止剤は、フリーラジカルを失活させる材料である。そのような材料の例には、そのような材料の例には、イチョウ、シトラスパルプ、ブドウの搾りかす、トマトの搾りかす、ニンジンおよびホウレンソウなどの食物(好ましくはすべて乾燥させたもの)、ならびに、β-カロテン、セレン、補酵素Q10(ユビキノン)、ルテイン、トコトリエノール、大豆イソフラボン、S-アデノシルメチオニン、グルタチオン、タウリン、N-アセチルシステイン、ビタミンE、ビタミンC、α-リポ酸、L-カルニチンなどのようなさまざまな他の材料が含まれる。」と記載されている。このように、引用発明は、イチョウ、シトラスパルプ、ブドウの搾りかす、トマトの搾りかす、ニンジンおよびホウレンソウなどの食物を含め、さまざまな材料から選ばれる酸化防止剤の混合物を含む組成物を用いる発明であって、その一例として、食餌中に、ビタミンE、ビタミンC、L-カルニチン及びαリポ酸を含み、ランドマーク学習試験によってその組成物の酸化防止剤の総量が老齢哺乳動物において精神能力の衰退開始の阻害を達成するのに足る量の酸化防止剤またはその混合物を含む組成物であることが確認された実施例1によって裏付けられたものであるといえる。そして、引用発明における酸化防止剤である「ニンジン」「ホウレンソウ」「β-カロテン」「シトラスパルプ」は、それぞれ、本願発明における酸化防止剤である「ニンジン顆粒」「ホウレンソウポマス」「ベータ‐カロテン」「柑橘類果肉」に該当する。
そうすると、本願発明と引用発明とは、以下の点において一致するといえる。
(本願発明と引用発明の一致点)
ヒト以外の老齢哺乳動物において認知機能の低下を治療する方法であって:
ビタミンE、ビタミンC、L-カルニチン、およびリポ酸を含み、そしてアスタキサンチン、ベータ‐カロテン、ルテイン、リコペン、セレン、ホウレンソウポマス(絞りかす)、トマトポマス(絞りかす)、柑橘類果肉、ブドウポマス(絞りかす)、ニンジン顆粒、ブロッコリー、緑茶、コーン、グルテンミール、米糠、藻類、クルクミン、セレン、およびその混合物から選択される1以上の酸化防止剤を含む組成物をヒト以外の老齢哺乳動物に対して投与することを含み、
ビタミンE、ビタミンC、L-カルニチン、およびリポ酸、そしてアスタキサンチン、ベータ‐カロテン、ルテイン、リコペン、セレン、ホウレンソウポマス(絞りかす)、トマトポマス(絞りかす)、柑橘類果肉、ブドウポマス(絞りかす)、ニンジン顆粒、ブロッコリー、緑茶、コーン、グルテンミール、米糠、藻類、クルクミン、セレン、およびその混合物から選択される1以上の酸化防止剤の総量が、ヒト以外の老齢哺乳動物において認知機能の低下を治療するために十分である、前記方法に該当する方法を包含する点
(本願発明と引用発明との相違点)
本願発明は、酸化防止剤を含む組成物を「老齢」哺乳動物に対して投与するのに対し、引用発明は、「成体」哺乳動物に投与する点

4 判断
刊行物1の上記摘記(1a)の請求項29に「コンパニオンペットの高齢期における酸化的傷害に対する抵抗能の改善方法であって、高齢期にある前記ペットに、栄養所要量を満たす食餌を与えることを含んでなり、前記食餌が少なくとも約25ppmのリポ酸を有し、そして前記食餌を少なくとも1カ月間与える、前記改善方法。」との記載があり、また、上記摘記(1e)には、「食餌中のαリポ酸の長期投与は、最低1、2、3、4、5または6カ月間から、1、2、3、4、5年間または動物の一生涯を含むさらに長期間までであることができる。・・・αリポ酸は、酸化的傷害に対する動物の抵抗能を改善するほか、酸化防止剤の防御能力を改善する。このすべては、適量存在する他の酸化防止剤、例えばビタミンEおよびビタミンCと共にもたらされる。」と記載されていることからみれば、刊行物1に接した当業者にとって、食餌中のαリポ酸とビタミンE、ビタミンCなどの他の酸化防止剤は成体期の一時期だけでなく、動物の一生涯を含む長期間継続投与してもよく、引用発明におけるような酸化防止作用により老齢期の認知機能の低下を防止する組成物にあっては、酸化防止作用を老齢期にも維持するのが好ましいことは明らかである。
そうすると、引用発明の方法において、酸化防止剤を含む組成物の投与を老齢期にも継続することは、当業者が容易になし得たことである。
明細書の記載を参酌しても、本願発明において、酸化防止剤を含有する組成物を老齢哺乳動物に投与することにより、認知機能の低下を防止する効果に関し、刊行物1の記載から当業者に予測し得ない格別顕著な効果があるとは認められない。

請求人は、審判請求書の3頁及び平成26年 8月11日付けの上申書3頁の「組成の相違」において、引用文献1(刊行物1)の食餌は、酸化防止剤、特にリポ酸を含むことのみが特定されているのに対し、少なくとも5種類の物質を必須構成成分とする本願発明は、引用文献1とは明確に組成が相違する旨を主張している。しかし、既に上記で検討したとおり、引用発明は、イチョウ、シトラスパルプ、ブドウの搾りかす、トマトの搾りかす、ニンジンおよびホウレンソウなどの食物を含め、さまざまな材料から選ばれる酸化防止剤の混合物を含む組成物を用いる発明であって、その一例として、食餌中に、ビタミンE、ビタミンC、L-カルニチン及びαリポ酸を含み、ランドマーク学習試験によってその組成物の酸化防止剤の総量が老齢哺乳動物において精神能力の衰退開始の阻害を達成するのに足る量の酸化防止剤またはその混合物を含む組成物であることが確認された実施例1によって裏付けられたものであるから、本願発明と引用発明とは、組成の点で相違するものではない。
また、投与対象となる哺乳動物の年齢について、上申書2頁の下線が付され強調された部分では、「本願発明の組成物を哺乳動物に早い時期から与えて、ストレスに関連する種々の遺伝子の発現を調節することにより、当該哺乳動物が老齢になった際に、認知機能の低下の発症を抑える、という機能を奏するものです。」と記載されているが、請求項1には、「・・・組成物を老齢哺乳動物に投与することを含み」と記載されているのであるから、投与時期についての請求人の上記主張は、特許請求の範囲の記載に基づかない主張である。仮に、本願発明が早い時期からの投与と老齢となってからの投与の両方を備える方法を含むとしても、上記で検討したとおり、成体すなわち老齢に至る前の動物への抗酸化剤組成物の投与に関する引用発明に基づき、老齢期にも投与することは当業者が容易に想到し得たものであるのだから、本願発明の進歩性の有無についての判断の上記結論を左右するものではない。
なお、本件については、既に補正をすることができる期間は経過しているが、請求人が平成26年 8月 8日上申書に補正案を提示して、補正を希望する旨を述べているので、念のために補正案について述べる。補正案の請求項1は、本願発明における認知機能の低下の治療について、特定の群から選択される1以上の遺伝子の発現の調節を行うことにより行われることをさらに特定しようとするものであるが、抗酸化剤を投与することによる認知機能の低下の治療のための方法である点で、本願発明と変わりがなく、技術常識を考慮して明細書の記載を参酌しても、遺伝子の発現の調節が行われることに対する認識の有無によって、認知機能の低下の治療のための方法が異なるとはいえない。また、それだけでなく、補正案の請求項1に列挙された遺伝子の発現の変化が認知機能の低下とどのような関係があり、その治療にどのような利点をもたらすのかが、技術常識を考慮して明細書の記載を検討しても不明なものである。したがって、補正案のとおりに補正を行うための機会を設ける必要はない。

したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余の点につき検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、上記結論のとおり、審決する。
 
審理終結日 2014-08-26 
結審通知日 2014-08-27 
審決日 2014-09-10 
出願番号 特願2007-541282(P2007-541282)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川嵜 洋祐  
特許庁審判長 内藤 伸一
特許庁審判官 齋藤 恵
川口 裕美子
発明の名称 遺伝子調節のための酸化防止剤の使用  
代理人 小林 泰  
代理人 富田 博行  
代理人 泉谷 玲子  
代理人 小野 新次郎  
代理人 星野 修  

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