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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1296751
審判番号 不服2013-12527  
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-07-02 
確定日 2015-01-20 
事件の表示 特願2010- 51266「B群連鎖球菌の接着因子をコードする核酸、B群連鎖球菌の接着因子、およびその使用」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 9月24日出願公開、特開2010-207219〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年(2003年)10月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年10月15日 欧州特許庁、2003年3月20日 欧州特許庁)に出願された特願2005-501294号の一部を、特許法第44条第1項の規定により平成22年3月9日に分割出願したものであって、平成24年6月6日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたが、平成25年2月27日付で拒絶査定がなされ、これに対して、同年7月2日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたものである。

2.平成25年7月2日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年7月2日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
上記補正により請求項1は、補正前の、
「【請求項1】ストレプトコッカス・アガラクティエ(Streptococcus agalactiae)感染を治療または予防するための薬物を製造するための、SEQ ID NO 17?20からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む接着因子ポリペプチドまたはその断片の使用。」から、
「【請求項1】ストレプトコッカス・アガラクティエ(Streptococcus agalactiae)感染を治療または予防するための薬物を製造するための、SEQ ID NO 17のアミノ酸配列を含む免疫原性の接着因子ポリペプチドまたは免疫原性のその断片の使用。」へと、補正された。

上記請求項1の補正は、上記補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「SEQ ID NO 17?20からなる群より選択されるアミノ酸配列」を「SEQ ID NO 17のアミノ酸配列」と択一的記載の要素を削除し、かつ、「接着因子ポリペプチド」、「その断片」をそれぞれ、「免疫原性の接着因子ポリペプチド」、「免疫原性のその断片」と限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、請求項1についての上記補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、「【請求項2】前記薬物がワクチンである、請求項1に記載のポリペプチドの使用。」という請求項2の記載自体は補正されていないが、請求項2は請求項1を引用する形式で記載されており、請求項1が上記のように補正されているから、請求項2も同様に補正されていることになり、請求項2についての補正も平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項2に記載された発明(以下、「本願補正発明2」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(2)特許法第29条第2項
(2-1)引用例
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された本願優先日前の2002年9月に頒布された刊行物であるMolecular Microbiology(2002)Vol.45,No.6,p.1499-1513(以下、「引用例1」という。)には、
(i)「Streptcoccus agalactiaeNEM316株のゲノムは、2,211,485塩基対(bp)の環状染色体からなる(図1)(EMBLアクセッション番号 AL732656)。」(第1500頁左欄第12行?第14行)、
(ii)「病原性細菌の表面タンパク質は、病原体と宿主細胞間の相互作用、及び/又は宿主防御からの回避を媒介することによって、感染期に重要な役割を果たす。配列解析に基づき、我々は、NEM316株のORFがコードし、細胞壁局在化シグナルモチーフ(LPXTG=21、IPXTG=4、LPXTS=2、LPXTN=2、FPXTG=1)を有する30の推定表面タンパク質を予測した(表1)。」(第1501頁左欄下から第10行?下から第2行)、
(iii)「浸潤性新生児病と戦うためのGBSワクチンの開発は、保健当局による世界的な優先順位と考えられている。S.agalactiaeNEM316株の完全長ゲノム配列とその解析は、今や新規な潜在的ワクチン標的の特定のための新たな方法を切り開く。」(第1509頁右欄下から第12行?下から第7行)、と記載されている。
そして、30の推定表面タンパク質が列挙された第1502頁の表1には、その1つとして、遺伝子名がgbs1478であり、それがコードするタンパク質が901個のアミノ酸からなり、関連するタンパク質が176アミノ酸からなるStreptcoccus pyogenesのフィブロネクチン結合タンパク質であって、その関連するタンパク質とアミノ酸配列の同一性が32%、類似性が46%であるタンパク質(以下、「GBS1478タンパク質」という。)が示されている。
また、上記引用例1記載事項(i)に記載の「EMBLアクセッション番号 AL732656」には、「GenBankアクセッション番号 AL766851.1」というアクセッション番号が記載され、該アクセッション番号には、gbs1478がコードする901個のアミノ酸からなるアミノ酸配列が記載されているから、上記引用例1には、「アクセッション番号 AL766851.1」に記載された901アミノ酸からなるGBS1478タンパク質のアミノ酸配列が、実質的に記載されているといえる。

そうすると、引用例1には、901アミノ酸からなるGBS1478タンパク質について、全アミノ酸配列が記載され、当業者が製造可能なように記載されているから、引用例1には、「Streptcoccus agalactiaeの901アミノ酸からなる推定表面タンパク質であるGBS1478タンパク質」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

また、同じく引用文献2として引用された本願優先日前の2002年5月2日に頒布された刊行物である国際公開第02/34771号(以下、「引用例2」という。)には、
(iv)「実施例1203
アミノ酸配列<配列番号3746>をコードする<配列番号3745>のDNA配列(GBSx1279)が、S.agalactiaeで特定された。このタンパク質配列の解析は以下のことを明らかにした。
・・・(途中省略)・・・
タンパク質は、GENEPEPTデータベースで、次の配列とのホモロジーを有した。 >GP:AAD33086 GB:AF071083 フィブロネクチン結合タンパク質I[Streptcoccus pyogenes] 同一性=58/176(32%),Positives=83/176(46%),ギャップ=19/176(10%)
・・・(途中省略)・・・
配列番号3746(GBS67)は、His 融合タンパク質として大腸菌で発現された。全細胞抽出物のSDS-PAGE解析は、図7(レーン10;MW140kDa)、図11(レーン10;MW150kDa)、図12(レーン6;MW95.3kDa)に示されている。GBS67-Hisは、図192のレーン10に示されるように精製された。この解析に基づけば、このタンパク質及びそのエピトープは、ワクチンあるいは診断のための有用な抗原となれることが予測された。」(第1353頁第7行?最下行)、と記載されている。
さらに、「in vivo GBSチャレンジの結果」を示す表III(第2990頁?第2991頁)には、GBS67(配列番号3746)で免疫する前と後では、GBSチャレンジによる生存率が、23.5%から27.8%へと4.3%向上したことが示されており、GBS67以外のS.agalactiaeから特定された約75のタンパク質についても、それぞれGBSチャレンジの結果、生存率が向上したことが示されている。
また、引用例2の配列表の配列番号3746には、本願補正発明2のSEQ ID NO 17のアミノ酸配列と97%の同一性を有する、901アミノ酸からなるアミノ酸配列が記載されている。

(2-2)対比
本願補正発明2は、上記(1)に記載の補正後の請求項1と請求項2の記載から、「ストレプトコッカス・アガラクティエ(Streptococcus agalactiae)感染を治療または予防するためのワクチンを製造するための、SEQ ID NO 17のアミノ酸配列を含む免疫原性の接着因子ポリペプチドまたは免疫原性のその断片の使用」に係るものであり、そのうち、「SEQ ID NO 17のアミノ酸配列を含む免疫原性の接着因子ポリペプチド」を使用する態様の本願補正発明2と引用発明を対比する。

引用発明の「Streptcoccus agalactiaeの901アミノ酸からなる推定表面タンパク質であるGBS1478タンパク質」のアミノ酸配列である、「アクセッション番号 AL766851.1」のアミノ酸配列は、本願補正発明2の「SEQ ID NO 17のアミノ酸配列」と長さも配列も100%一致するから、本願補正発明2の「SEQ ID NO 17のアミノ酸配列を含む免疫原性の接着因子ポリペプチド」と引用発明のGBS1478タンパク質は、物質として同一のタンパク質(ポリペプチド)である。
そうすると、本願補正発明2と引用発明とは、「SEQ ID NO 17のアミノ酸配列を含む免疫原性の接着因子ポリペプチド」に関連するものである点で共通するが、前者は、該ポリペプチドを、Streptococcus agalactiae感染を治療または予防するためのワクチンを製造するために使用する方法であるのに対して、後者では、該ポリペプチドをワクチンを製造するために使用することは特定されていない点で、相違する。

(2-3)当審の判断
上記引用例1記載事項(iii)にも記載のように、新生児に重篤な病気を引き起こす病原体であるStreptococcus agalactiae(GBSともいう)に対するワクチンを作成することは、本願優先日前既に自明の技術的課題であり、実際、上記引用例2の表IIIでも、Streptococcus agalactiae由来の70以上のタンパク質についてそれぞれ、それらタンパク質による免疫後のGBSチャレンジにより生存率が向上するか、換言すると、感染を予防するワクチンとしての効果を確認している。
一方、細菌に対するワクチンの製造のために使用する免疫原性タンパク質として、細菌の表面タンパク質を用いることは、本願優先日前既に周知慣用の手段であるから、このような本願優先日前の技術水準の下、上記引用例1に記載の30の推定表面タンパク質についてそれぞれワクチン効果を確認することは、当業者の自然な発想であり、そのうちの1つのGBS1478タンパク質をワクチンの製造のために使用することは、当業者が容易になし得たことである。
さらに、上記引用例2記載事項(iv)には、引用発明のGBS1478タンパク質とアミノ酸配列の同一性が97%であって、しかも、GBS1478タンパク質と同様にフィブロネクチン結合タンパク質と関連するStreptococcus agalactiae由来の配列番号3746(GBS67)のタンパク質について、免疫後のGBSチャレンジにより生存率が向上したことが記載されているから、引用例2の記載に接した当業者が、配列番号3746(GBS67)と配列同一性が高い引用発明のGBS1478タンパク質をワクチンの製造のために使用することは、なおさら容易に想到し得たことである。

そして、本願明細書には、本願補正発明2の「SEQ ID NO 17のアミノ酸配列を含む免疫原性の接着因子ポリペプチド」の免疫原性を確認した記載があるだけで、生体防御反応であるワクチンとしての効果を確認したことは記載されていないから、本願補正発明2において奏される効果が、引用例1,2の記載から予測できない程の格別なものとは認められない。

したがって、本願補正発明2は、引用例1、2の記載に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

(2-4)審判請求人の主張
審判請求人は、平成25年7月30日付審判請求書の手続補正書で、「これに対し請求人は、請求項を「・・・SEQ ID NO 17のアミノ酸配列を含む免疫原性の接着因子ポリペプチドまたは免疫原性のその断片の使用」に補正しました。引用文献1には、本願発明に係るポリペプチドの免疫原性については記載されておりません。
引用文献1には、S.アガラクティエゲノムの配列決定とバイオインフォマティクスによる特徴決定について記載されております。この文献に関連して、Uniprot配列データベースのエントリーには、gbs1478、gbs1477、gbs0850、およびgbs0851と命名されたタンパク質が開示されており、それぞれ仮定のタンパク質であると表示されております。これらの特定のポリペプチドについて、特定の機能も、特に薬物としての用途も開示されておりません。
したがいまして、請求人は、引用文献2について上述したのと同様、引用文献1にも、SEQ ID NO 17のアミノ酸配列を含むポリペプチドの医薬用途については、当業者が実施可能な程度に記載されておらず、本願発明の新規性ないし進歩性を否定するための引用文献としては不適格であると主張いたします。」と主張している。

しかしながら、引用発明のStreptcoccus agalactiaeという細菌由来の901アミノ酸からなるGBS1478タンパク質が、ヒトを含む哺乳動物にとって免疫原性であることは、本願優先日前の技術常識から明らかである。また、引用例1では、表面タンパク質であると推定されており、その機能は開示されていないものの、ワクチン製造に使用するためには、細胞表面にある免疫原性タンパク質であればよく、機能は未知でも構わない。
そして、上記(2-2)で述べたとおり、引用例1に実質的に記載された引用発明のGBS1478タンパク質のアミノ酸配列は、本願補正発明2の「SEQ ID NO 17のアミノ酸配列」と100%一致し、引用発明のGBS1478タンパク質は、本願補正発明2の「SEQ ID NO 17のアミノ酸配列を含む免疫原性の接着因子ポリペプチド」と物質として同一のタンパク質である。そうすると、上記(2-3)で述べた理由により、引用発明のGBS1478タンパク質をワクチン製造のために用いることは、当業者が容易に想到し得たことであるから、本願補正発明2は当業者が容易に想到し得たものである。
さらに、引用例2には、本願補正発明2の「SEQ ID NO 17のアミノ酸配列を含む免疫原性の接着因子ポリペプチド」と97%の配列同一性を有する免疫原性タンパク質GBS67で免疫すると、GBSチャレンジによる生存率が向上したことが具体的に記載されており、医薬用途が記載されている。
したがって、審判請求人の上記主張は採用できない。

(3)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成25年7月2日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本出願に係る発明は、平成24年6月6日付手続補正書により補正された請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1及び2には、以下のとおり記載されている。

「【請求項1】ストレプトコッカス・アガラクティエ(Streptococcus agalactiae)感染を治療または予防するための薬物を製造するための、SEQ ID NO 17?20からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む接着因子ポリペプチドまたはその断片の使用。」
「【請求項2】前記薬物がワクチンである、請求項1に記載のポリペプチドの使用。」(以下、「本願発明2」という。)

4.特許法第29条第2項について
(1)引用例
上記引用例1、2に記載の事項及び引用発明は、上記2.(2-1)に記載のとおりのものである。
(2)対比・判断
本願発明2は、本願補正発明2を一態様として包含するものであるから、本願発明2も、上記2.(2-3)に記載した理由により、引用例1、2の記載に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5.むすび
以上のとおり、本願請求項2に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-08-27 
結審通知日 2014-08-28 
審決日 2014-09-09 
出願番号 特願2010-51266(P2010-51266)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
P 1 8・ 575- Z (C12N)
P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 櫛引 明佳高堀 栄二  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 ▲高▼ 美葉子
冨永 みどり
発明の名称 B群連鎖球菌の接着因子をコードする核酸、B群連鎖球菌の接着因子、およびその使用  
代理人 渡邉 伸一  
代理人 春名 雅夫  
代理人 新見 浩一  
代理人 五十嵐 義弘  
代理人 川本 和弥  
代理人 大関 雅人  
代理人 井上 隆一  
代理人 山口 裕孝  
代理人 小林 智彦  
代理人 刑部 俊  
代理人 佐藤 利光  
代理人 清水 初志  

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