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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K |
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管理番号 | 1296850 |
審判番号 | 不服2010-29390 |
総通号数 | 183 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-03-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-12-27 |
確定日 | 2015-02-06 |
事件の表示 | 特願2006-501821「ヘルペスの治療のためのPVP-ヨウ素リポソームの使用」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 9月 2日国際公開、WO2004/073682、平成18年 8月17日国内公表、特表2006-518719〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯・本願発明 本願は,2004年2月12日(パリ条約による優先権主張 2003年2月24日(EP)欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって,その請求項1に係る発明は,平成22年7月27日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下,「本願発明」という。) 「【請求項1】 単純疱疹感染又は帯状疱疹感染によって引き起こされる皮膚障害,水疱及び痒みの治療用医薬製剤であって, 該製剤が,薬学的に許容されるリポソームと併せて薬学的に有効な量のヨウ素またはヨウ素を元素の形で含有する少なくとも一つのヨウ素複合体を含有する,前記医薬製剤。」 2 当審の拒絶理由 一方,当審において平成25年4月18日付けで通知した拒絶の理由1)の概要は,本願発明は,1975年3月に頒布された「Friedrich, E G; Masukawa, T,Effect of povidone-iodine on Herpes genitalis,Obstetrics & Gynecology,米国,1975.03.発行,Vol.45, No.3,337-339」(以下,「引用例1」という。)に記載された発明及び2003年1月7日に頒布された特表2003-500435号公報(以下,「引用例2」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 3 引用例の記載事項 (1)当審における拒絶理由に引用された,本願の優先日前に頒布された刊行物である引用例1には,以下の事項が記載されている。(引用例1は英語で記載されているので,当審による訳文で示す。) (ア)「ミルウォーキー・カントリー総合病院の陰門クリニックからの外性器HSV感染患者10人が研究対象とされた。」(第337頁右欄下から第19?17行), (イ)「臨床診断は,3つのケース以外はすべて細胞学的に確証された。患者には他の性病はなかった。初期診断の時に,陰門の病変(潰瘍あるいは膿疱)ならびに膣および子宮頚部の細胞塗抹標本が作られた。病変部にポビドンヨード10%水性溶液が塗られた。患者には,ポビドンヨードのゲルのチューブとともに,膣内挿入器具,ポビドンヨード灌水用10%溶液および包装されたポビドンヨード綿棒12包が与えられた。就寝時に,ゲルを膣に挿入器具で挿入するとともに,外部病変部に綿棒3本を使用するように指示された。毎朝,ポビドンヨード溶液で灌水するとともに,外部病変部に綿棒を再び使用するように指示された。」(第337頁右欄下から第10行?第338頁左欄第6行), (ウ)「追跡調査は,48時間間隔で,その時点の体温,リンパ節腫脹,膣の分泌物の存在及び性状,及び子宮頸部,膣および陰門の肉眼的形態によって,おこなわれた。さらに,患者は指示に従っていることと症候とをカードに記録し続けた。訪問調査のたびに,痒み,苦痛,排尿困難の重症度を0から3+の尺度で段階づけた。」(第338頁左欄第6?15行), (エ)「症状緩和は9人の患者で達成され,治療開始後1時間から96時間までに変化が見られた。平均すると症状緩和は治療開始から33時間以内に始まり,5日以内に完了した。再発患者4人は2?6日で無症候となり,初感染患者は3?12日で無症候となった。治療は平均すると7日以内に完全に完了し,再発の場合には2?8日間を要し,初感染の場合には7?14日間を要した。これら9人の患者では,訪問調査のたびにすべての症候の段階的な軽減が見られた。改善が見られなかった1人の患者は,免疫抑制療法中の腎移植患者だった(表1)。」(第338頁左欄19?31行)及び (オ)「2人の患者が子宮頸部の病変を示し,うち1人は壊死のプロセスが重症で外観が増殖性子宮頸部癌に似ていた。より典型的な潰瘍障害は別のケースで見られた(図1)。2人とも治療に劇的に反応し,子宮頸部は6日以内に全体が正常に見えるようになった。この発見は,子宮頸部と膣水疱に対するよい治療アプローチが現在欠如しているという観点での,より大きな重要性を仮定させる。」(第338頁右欄第10?18行) 当審における拒絶理由に引用された,本願の優先日前に頒布された刊行物である引用例2には,以下の事項が記載されている。 (カ)「機能的かつ美容的な組織の再構築および修復治療を要するヒトまたは動物の身体の外部または内部に適用して前記治療を行うための医薬製剤を製造するプロセスであって、前記製剤が、少なくとも抗感染かつ/または抗炎症剤を含有するプロセス。」(請求項1), (キ)「製剤が、前記薬剤のうちの少なくとも1種を粒状担体と組合わせて含有することを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。」(請求項2), (ク)「担体製剤、特にリポソーム製剤が、長時間、好ましくは数持続時間もの長時間にわたって前記薬剤を放出することを特徴とする、請求項2から11のいずれか1項に記載のプロセス。」(請求項12), (ケ)「本発明の製剤により、1種または複数種の前記物質の遅延放出が可能になり、かつ細胞表面との相互作用により所望の作用位置において長期的かつ局所的な活性が提供される。」(段落0020), (コ)「本発明の文脈において、抗感染剤とは、抗感染効能を有し、かつ目的とする用途に関して医薬として許容し得る、当該技術分野において周知の任意の物質である。本発明の抗炎症剤は、講義には、抗生物質および抗ウイルス製剤を包含し、より特定的には、防腐剤、抗生物質、コルチコステロイドなどを包含する。」(段落0016), (サ)「防腐剤がポビドンヨードであることを特徴とする、請求項7に記載のプロセス。」(請求項8)及び (シ)「本発明の製剤は、溶液、分散液、ローション、クリーム、軟膏、ゲルおよび創傷包帯(例えば、ガーゼ)を含めた多様な形態をとり得る。」(段落0035) (2)引用例1の記載事項(ア)?(ウ)には,研究対象とされた外性器HSV感染患者10人に対して,ポビドンヨード10%水性溶液及びポビドンヨードのゲルが外用されたこと,並びに患者の症状として,体温,リンパ節腫脹,膣帯下の存在及び性状,子宮頸部,膣及び陰門の肉眼的形態とともに,痒み,苦痛,排尿困難の重症度が調査されたことが示されており,引用例1の記載事項(エ)には,研究対象患者のうち9人で調査されたすべての症候が段階的に軽減していったことが示されており,引用例1の記載事項(オ)には,研究対象患者2人に見られた子宮頸部潰瘍障害及び膣水疱が治療により劇的に改善したことが示されている。 そうすると,これら引用例1の記載を総合すれば,引用例1には「ヘルペスウイルスの陰部疱疹感染によって引き起こされる子宮頸部潰瘍障害,水疱及び痒みの治療用医薬製剤であって,該製剤が,薬学的に有効な量のポビドンヨード10%溶液又はポビドンヨードのゲルを含有し,病変部に外用される,前記医薬製剤」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 4 対比 本願発明と引用発明を対比する。 ヘルペスウイルスによる疱疹感染は単純疱疹感染と同義であるから,引用発明にいうヘルペスウイルスによる陰部疱疹感染は本願発明にいう単純疱疹感染に相当する。また,引用発明にいうポビドンヨードは本願発明にいうヨウ素を含有するヨウ素複合体に相当する。 したがって両者は, 単純疱疹感染によって引き起こされる症状の治療用医薬製剤であって,該製剤が薬学的に有効な量のヨウ素を含有するヨウ素複合体を含有する医薬製剤,という点で一致し, 本願発明では製剤がヨウ素複合体と併せて薬学的に許容されるリポソームの含有されるものであるのに対し,引用発明では製剤がリポソームの含有されない10%水性溶液またはゲルである点,及び,本願発明では治療対象の症状が皮膚障害、水疱及び痒みとされるのに対し,引用発明ではそれらの症状のうち皮膚障害が示されていない点で相違する。 5 当審の判断 上記相違点について検討する。 引用例2の記載事項(カ)には,機能的かつ美容的な組織の再構築および修復治療を要するヒトまたは動物の身体の外部または内部に適用して前記治療を行うための抗炎症剤を含有する医薬製剤が示されており,引用例2の記載事項(キ)及び(ク)には,その製剤の担体としてリポソーム粒状担体を用いることにより薬剤の遅延放出が可能になることが示されており,引用例2の記載事項(ケ)には,その製剤の遅延放出および細胞表面との相互作用により所望の作用位置において長期的かつ局所的な活性が提供されることが示されており,引用例2の記載事項(コ)及び(サ)には抗炎症剤としてポビドンヨードを用いることが示されており,引用例2の記載事項(シ)には製剤の形態として溶液、ゲルが示されている。 してみると,引用例2には,抗炎症剤としてのポビドンヨードをリポソーム粒状担体と組み合わせて含有する溶液又はゲルの形態の製剤により,抗炎症剤の遅延放出が可能になり,かつ細胞表面との相互作用により所望の作用位置において長期的かつ局所的な活性の得られることが記載されていると認められる。 そして,引用例1の記載事項(エ)及び(オ)に示されるヘルペスウイルスによる陰部疱疹感染の発症から寛解までの期間からみて,引用発明においても,ポビドンヨードが病変部における長期的かつ局所的な活性を得ることの望ましいことは明らかである。 また,引用例1の記載事項(イ)及び(エ)にポビドンヨードの溶液及びゲルの外用により患者が無症候となったこと(すなわち,あらゆる症候が消滅したこと)が示されていることから,ポビドンヨードによる治療は個々の症候の抑制のみならずヘルペスウイルス自体を抑制する根本治療になるものと推察され,ヘルペスウイルスの感染により生じる皮膚障害の治療においてもポビドンヨードによる治療効果が推察される。 そうすると,引用発明である医薬製剤に含有される薬学的に有効な量のヨウ素を含有するヨウ素複合体を,引用例2に記載されたリポソーム粒状担体と組み合わせて含有する製剤とした上で,単純疱疹感染によって引き起こされる病変である皮膚障害,水疱および痒みの治療を用途とすることは当業者が容易に想到し得たことといえる。 また,本願発明の効果について検討するに,本願明細書の発明の詳細な説明には,試験II(段落0136)において,細胞培養物ではリポソームPVP-ヨウ素が,1型単純疱疹ウイルスに対して非常に有効であり,長期細胞障害実験で細胞の大多数に許容されることが示された旨の記載があるものの,同様の記載は引用例2(段落0081の試験3)にもある。また,本願明細書の発明の詳細な説明には皮膚障害,水疱及び痒みに対する治療効果が具体的には何ら示されていない。 したがって,本発明が,1型単純疱疹ウイルス,2型単純疱疹ウイルス又は帯状疱疹ウイルスによって引き起こされる皮膚障害,水疱及び痒みの治療に関して,引用例1及び引用例2の記載から当業者の予想し得ない優れた効果を奏し得たものとはいえない。 なお,審判請求人は平成25年7月19日付け意見書において 「引用文献1は、まさに第1段落で、単純疱疹ウィルス(HSV)感染の症状は、しばしば見られ、主な病状となり、そしてしばしば尿閉と関連する、リンパ節症、発熱、および全身倦怠感を含むことを記載しています。ここに記載されている症状は、障害または痒みについて言及していません。」, 「引用文献1は、「RESULTS」のセクションで、9人の患者において症状軽減が達成されたことを記述しています。「各訪問時に記録された全ての症状の漸進的減少があった」と報告されています。しかしながら、引用文献1は、実際の症状が何であるのかを開示していません。その前の段落で記載されている症状は、体温、リンパ節症、膣帯下の存在および性状、ならびに、外陰部、膣および子宮頸部の肉眼形態を含みます。患者が各訪問時に求められた痒み、痛みおよび排尿障害の低減評価は、引用文献1に提示されていません。よって、引用文献1には述べられていないことから、それらの状態がいずれも低減されなかったことが推測されます。」, 「引用文献1は、第338頁右欄の第1全段落において、2人の患者に存在する子宮頸部障害、および、別のケースで存在する、より典型的な潰瘍障害について言及しています。PVP-ヨウ素の適用後、6日以内に子宮頸部は全体的に正常化しているように見えた、と報告されています。しかしながら、引用文献1は、この改善を障害の直接的な治療によるものとするのではなく、子宮頸部疱疹および膣疱疹の治療によるものとしていることに留意すべきです。」, 「引用文献1の上記の説明とは別に、引用文献1において開示された調査は、対照群と関係づけられていないことにもご留意下さい。したがって、それらの結果は、容易に移せないでしょう。」, 「薬剤のリポソーム製剤が長年の間知られていたという事実にも関わらず、疱疹障害または疱疹症状を治療するために、2つの教示を組み合わせること、および製剤においてPVP-ヨウ素リポソームを用いることを目指すきっかけや示唆はそれ以前には存在しなかったということです。」及び 「引用文献1では、PVP-ヨウ素をすぐに利用できるようにするPVP-ヨウ素のアルコール溶液またはゲルを使用していますが、これに対して、本願明細書の0035段落に説明しているように、本発明のリポソーム製剤は化合物の遅延放出を提供しており、それぞれの皮膚細胞表面の相互作用によって、所望の地点での永続的かつ局所的活性を可能にしていることです。リポソームは、引用文献1によって使用された製剤に比べて、損傷を受けた皮膚領域へのより深い浸透をもたらし得ます。その他の利点としては、疱疹障害に苦しむ者に特に役立つことが本願明細書の0036段落に記載されています。」 などと主張する。 しかし,引用例1の記載事項(ウ)及び(エ)からみて,引用発明においては当然,痒みも軽減したものと解される。 また,引用例1の記載事項(オ)に子宮頸部潰瘍障害及び膣水疱の改善が示されている以上,それが障害の直接的な治療によるものであるか,子宮頸部疱疹および膣疱疹の治療によるものであるかにかかわらず,子宮頸部潰瘍障害及び膣水疱が治療により劇的に改善したことが示されていると言うことができる。 また,引用例1には対照群が示されていないものの,そのことを以て引用例1に症状改善の効果が示されていないとする根拠とはなり得ない。 よって,審判請求人の主張は受け入れられない。 6 むすび したがって,本願発明は,引用例1および引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-08-26 |
結審通知日 | 2013-08-27 |
審決日 | 2013-09-09 |
出願番号 | 特願2006-501821(P2006-501821) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(A61K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 岩下 直人 |
特許庁審判長 |
村上 騎見高 |
特許庁審判官 |
天野 貴子 内田 淳子 |
発明の名称 | ヘルペスの治療のためのPVP-ヨウ素リポソームの使用 |
代理人 | 杉山 共永 |
代理人 | 鈴木 康仁 |
代理人 | 片山 英二 |
代理人 | 大森 規雄 |
代理人 | 小林 浩 |