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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07C
管理番号 1296893
審判番号 不服2013-911  
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-01-18 
確定日 2015-01-28 
事件の表示 特願2008-524058「混合アルデヒド供給原料のメタクリル酸への酸化のための触媒およびその製造方法と使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年2月1日国際公開、WO2007/014206、平成21年1月29日国内公表、特表2009-502927〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2006年7月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年7月25日(US)米国)を国際出願日とする出願であって、平成21年5月26日に手続補正書が提出され、平成23年12月21日付けで拒絶理由が通知され、平成24年4月10日に意見書及び手続補正書が提出され、同年9月6日付けで拒絶査定がされ、平成25年1月18日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、同年6月28日付けで審尋がされ、回答書が提出されなかったものである。その後、平成26年5月8日付けで、平成25年1月18日付けの手続補正が却下されると共に拒絶の理由が通知され、同年8月13日に意見書及び手続補正書が提出された。

第2 特許請求の範囲の記載
この出願の特許請求の範囲の記載は、平成26年8月13日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された以下のとおりである。
「【請求項1】ヘテロポリ酸触媒組成物の存在下で、イソブタナールまたはイソブタナールとメタクロレインの混合物を含むアルデヒド供給原料および酸化剤を接触させて、メタクリル酸を形成する工程を有してなる方法において、前記ヘテロポリ酸触媒組成物が、一般化学式:
Mo_(12)P_(a)V_(b)Cu_(c)Bi_(d1)B_(d2)MII_(e)MIII_(f)O_(g) (IV)
を持つ化合物から構成され、
ここで、
MIIは、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、タリウム(Tl)、およびそれらの混合物または組合せからなる群より選択され、
MIIIは、アンチモン(Sb)、セリウム(Ce)、ニオブ(Nb)、インジウム(In)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、ヒ素(As)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、ゲルマニウム(Ge)、ガリウム(Ga)、ジルコニウム(Zr)、マグネシウム(Mg)、バリウム(Ba)、鉛(Pb)、スズ(Sn)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ランタン(La)、およびそれらの混合物または組合せからなる群より選択され、
aは、0.5および3.5の間の値を持つ数であり、
bは、0.01および5.0の間の値を持つ数であり、
cは、0.0より大きく1.5までの間の値を持つ数であり、
d1は、0.01および2.0の間の値を持つ数であり、
d2は、0.01および5.0の間の値を持つ数であり、
eは、0.0より大きく5.0までの間の値を持つ数であり、
fは、0.0より大きく5.0までの間の値を持つ数であり、
gは、化学式(IV)の触媒の酸化状態を釣り合わせるための十分な数の酸素原子を表す値を持つ数であり、
前記ヘテロポリ酸触媒が少なくとも50%の中くらいの気孔を含む気孔サイズ分布を有し、該中くらいの気孔は100Å以上1000Å未満の直径を有し、
前記ヘテロポリ酸触媒が、以下:
12モルのMo、aモルのPおよびbモルのVの実質的に固体を含まない第1の溶液を形成し;
d1モルのBiを含有する実質的に固体を含まない第2の溶液を形成し;
前記第1の溶液および/または前記第2の溶液に、0.5から20の間のモリブデン含有化合物のアンモニウム含有化合物に対するモル比で、アンモニウム含有化合物を加え、
前記2つの溶液を混合してスラリーを形成し;
前記スラリーを蒸発させて乾燥済み前触媒材料を形成し;
か焼して、制御条件下で前記アンモニウム含有化合物を気体放出させて、前記ヘテロポリ酸触媒を生成する、
各工程を含む方法により調製される、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】前記アンモニウム含有化合物が、熱分解を経て揮発性成分になる任意のアンモニウム化合物からなる群より選択されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】前記アンモニウム含有化合物が、水酸化アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、炭酸アンモニウム、カルボン酸のアンモニウム塩、およびそれらの混合物または組合せからなる群より選択されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】前記アンモニウム含有化合物がカルボン酸のアンモニウム塩であり、前記カルボン酸のアンモニウム塩が、酢酸アンモニウム、蟻酸アンモニウム、プロピオン酸アンモニウム、酪酸アンモニウム、およびそれらの混合物または組合せからなる群より選択されることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】前記アルデヒド供給原料が、5質量%のイソブタナールと95質量%のメタクロレインから95質量%のイソブタナールと5質量%のメタクロレインに及ぶ、イソブタナールとメタクロレインの混合物を含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項6】前記アルデヒド供給原料が、25質量%のイソブタナールと75質量%のメタクロレインから75質量%のイソブタナールと25質量%のメタクロレインに及ぶ、イソブタナールとメタクロレインの混合物を含むことを特徴とする請求項1記載の方法。」

第3 当審が通知した拒絶の理由
当審が通知した拒絶の理由は、理由1及び理由2からなる。
そのうちの理由2は、「この出願は、特許請求の範囲の記載が・・・特許法第36条第6項第1号及び第2号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない」というものであり、特許法第36条第6項第1号は、請求項1?8について、同第2号は請求項3?6について、それぞれ指摘したものである。

第4 当審の判断
当審は、当審が通知した拒絶の理由のとおり、請求項1?6の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではないから特許法第36条第6項第1号に適合するものでなく、また、請求項1?6の特許を受けようとする発明が明確であるとはいえないから特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく、この出願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないと判断する。
その理由は、以下のとおりである。
なお、補正後の請求項1は、補正前の請求項1が補正前の請求項3の特定事項で特定されると共にc、e、fの数値が0を含まないように限定されたものであるから、補正前の請求項3が限定されたものといえる。補正後の請求項2?4は、補正前の請求項4?6が同様に限定されたものといえる。補正後の請求項5及び6は、補正前の請求項7及び8が補正前の請求項3の特定事項で特定されると共にc、e、fの数値が0を含まないように限定されたものである。

1 特許法第36条第6項第2号について
請求項1には、「ヘテロポリ酸触媒が少なくとも50%の中くらいの気孔を含む気孔サイズ分布を有し、該中くらいの気孔は100Å以上1000Å未満の直径を有し」と記載されているが、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、気孔の「直径」がどのようにして測定されるものであるのか、「少なくとも50%」はどのようにして確認されるものなのか、何ら明らかでないから、請求項1の特許を受けようとする発明は、明確であるとはいえない。
請求項1を直接又は間接に引用して記載する請求項2?6の発明についても同様である。
なお、拒絶理由通知においてこの点を指摘したのに対し、請求人は、意見書において何らの釈明もしなかった。
したがって、この出願の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。

2 特許法第36条第6項第1号について
上記1の「ヘテロポリ酸触媒が少なくとも50%の中くらいの気孔を含む気孔サイズ分布を有し、該中くらいの気孔は100Å以上1000Å未満の直径を有し」がどのようにして測定されるものであるのかが、明確であるとした場合でも、以下に示すように、請求項1?6の特許を受けようとする発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

(1)請求項1の発明について

ア 発明の課題について
請求項1の発明の課題は、平成21年5月26日付けで手続補正された明細書(以下「本願明細書」という。)の段落【0001】?【0007】の記載からみて、イソブタナールを単独で含むか又はイソブタナールとメタクロレインの混合物を含むアルデヒド供給原料を転化できる触媒であって従来技術の触媒に代わる高活性かつ毒性のない触媒を、提供し、その触媒により上記アルデヒド供給原料を気相酸化してメタクリル酸を製造する方法を、提供することであると認められる。

イ 特許請求の範囲の記載について
請求項1の発明において用いられる触媒は、上記第2に請求項1について示したとおりの、ヘテロポリ酸触媒組成物であって、
「一般化学式:
Mo_(12)P_(a)V_(b)Cu_(c)Bi_(d1)B_(d2)MII_(e)MIII_(f)O_(g) (IV)
を持つ化合物から構成され、
ここで、
MIIは、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、タリウム(Tl)、およびそれらの混合物または組合せからなる群より選択され、
MIIIは、アンチモン(Sb)、セリウム(Ce)、ニオブ(Nb)、インジウム(In)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、ヒ素(As)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、ゲルマニウム(Ge)、ガリウム(Ga)、ジルコニウム(Zr)、マグネシウム(Mg)、バリウム(Ba)、鉛(Pb)、スズ(Sn)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ランタン(La)、およびそれらの混合物または組合せからなる群より選択され、
aは、0.5および3.5の間の値を持つ数であり、
bは、0.01および5.0の間の値を持つ数であり、
cは、0.0より大きく1.5までの間の値を持つ数であり、
d1は、0.01および2.0の間の値を持つ数であり、
d2は、0.01および5.0の間の値を持つ数であり、
eは、0.0より大きく5.0までの間の値を持つ数であり、
fは、0.0より大きく5.0までの間の値を持つ数であり、
gは、化学式(IV)の触媒の酸化状態を釣り合わせるための十分な数の酸素原子を表す値を持つ数であり、
前記ヘテロポリ酸触媒が少なくとも50%の中くらいの気孔を含む気孔サイズ分布を有し、該中くらいの気孔は100Å以上1000Å未満の直径を有し、
前記ヘテロポリ酸触媒が、以下:
12モルのMo、aモルのPおよびbモルのVの実質的に固体を含まない第1の溶液を形成し;
d1モルのBiを含有する実質的に固体を含まない第2の溶液を形成し;
前記第1の溶液および/または前記第2の溶液に、0.5から20の間のモリブデン含有化合物のアンモニウム含有化合物に対するモル比で、アンモニウム含有化合物を加え、
前記2つの溶液を混合してスラリーを形成し;
前記スラリーを蒸発させて乾燥済み前触媒材料を形成し;
か焼して、制御条件下で前記アンモニウム含有化合物を気体放出させて、前記ヘテロポリ酸触媒を生成する、
各工程を含む方法により調製される」
というものである。

ウ 発明の詳細な説明の記載について

(ア)触媒の組成について

a 発明の詳細な説明に、具体的に、触媒を調製すること、また、イソブタナール又はイソブタナールとメタクロレインの混合物を含むアルデヒド供給原料をメタクリル酸へと酸化させることに関し、触媒の組成及び製造条件や、アルデヒド供給原料の反応条件や転化率や選択率のデータが記載されているのは、段落【0065】?【0086】の、以下の実施例及び比較例の記載のみである。
「【0065】触媒の調製
実施例1
以下の実施例は、以下の化学式Mo_(12)P_(1.5)V_(0.5)Cu_(0.1)Bi_(0.5)Sb_(0.8)Cs_(1.0)B_(0.5)O_(g) を持つ本発明の触媒の50gのバッチの調製を例証する。
【0066】46.49gのパラモリブデン酸アンモニウムを室温で200mLの脱イオン(DI)水に加えた。その溶液に室温で混合しながら1.28gのメタバナジウム酸アンモニウムを加えた。全ての粒子が溶解するまで、この混合物を室温で撹拌して、MoV溶液を生成した。次いで、4.28gの硝酸セシウムを25mLのDI水に加え、得られた溶液を混合しながらMoV溶液に加えて、MoVCs溶液を形成した。次いで、3.80gのリン酸を6mLのDI水中に溶解させ、得られた溶液を混合しながらMoVCs溶液に加えて、MoVCsP溶液を形成した。0.51gの硝酸銅を5mLのDI水に加え、得られた溶液を混合しながらMoVCsP溶液に加えて、MoVCsPCu溶液を形成した。11.32gの硝酸を30gのDI水に加え、次いで、7mLの水酸化アンモニウム(28質量%の溶液)を硝酸溶液に加え、次いで、5.32gの硝酸ビスマスを、硝酸/水酸化アンモニウム溶液に混合しながら加え、硝酸ビスマスが溶液となるまで混合物を撹拌して、Bi溶液を形成した。次いで、このBi溶液をMoVCsPCu溶液に混合しながら加えて、MoVCsPCuBiスラリーを形成した。このBi溶液により、MoVCsCu溶液に加えられたときに、またはMoVCsPCu溶液がBi溶液に加えられたときに、成分が沈殿した。得られたMoVCsPCuBiスラリーを95℃に加熱し、次いで、2.56gの三酸化アンチモンおよび0.68gのホウ酸をこのMoVCsPCuBiスラリーに加えて、MoVCsPCuBiSbBスラリーを形成した。
【0067】次いで、MoVCsPCuBiSbBスラリーを約100℃で蒸発させて、蒸発混合物を形成した。次いで、蒸発混合物を約130℃で約16時間に亘り乾燥させ、篩にかけて、約20メッシュおよび約30メッシュの間のサイズを持つ粒子を得た。次いで、これらの粒子を0.5℃/分の比率で230℃の浸漬時間まで加熱し、空気中において3時間に亘りこの浸漬温度に保持した。次いで、粒子を空気中において5時間に亘り0.5℃/分の比率で380℃のか焼温度に加熱し、5時間に亘りそのか焼温度に保持して、Mo_(12)P_(1.5)V_(0.5)Cu_(0.1)Bi_(0.5)Sb_(0.8)Cs_(1.0)B_(0.5)O_(g) 触媒を形成した。
【0068】比較例1
以下の比較例は、組成Mo_(12)P_(1.5)V_(0.5)Cu_(0.1)Sb_(0.8)Cs_(1.0)O_(g) を有する触媒の50gのバッチの調製を例証する。
【0069】46.49gのパラモリブデン酸アンモニウムを室温で200mLの脱イオン(DI)水に加えた。その溶液に1.28gのメタバナジウム酸アンモニウムを加えた。全ての粒子が溶解するまで、この混合物を室温で撹拌した。次いで、4.28gの硝酸セシウムを25mLのDI水に加え、この溶液を先の混合物に加えた。3.80gのリン酸を6mLのDI水中に溶解させ、得られた溶液を先の混合物に加えた。0.51gの硝酸銅を5mLのDI水に加え、得られた溶液を先の混合物に加えた。11.32gの硝酸を30gのDI水に加え、次いで、7mLのNH_(4)OHの28質量%溶液をこの溶液に加え、得られた溶液を先の混合物に加えた。混合物の温度を95℃まで上昇させた。次いで、2.56gの三酸化アンチモンを先の混合物に加えた。この混合物を100℃で蒸発させ、16時間に亘り130℃で乾燥させ、篩にかけて、約20メッシュおよび約30メッシュの間のサイズの粒子を得た。次いで、これらの粒子を0.5℃/分の比率で230℃の浸漬時間まで加熱し、空気中において3時間に亘りこの浸漬温度に保持した。次いで、粒子を空気中において5時間に亘り0.5℃/分の比率で380℃のか焼温度まで加熱して、空気中で5時間に亘りか焼温度に保持した。
【0070】触媒の性能データ
試験1
6ccの実施例1の触媒を固定床反応器中に充填し、9ccの石英片で希釈した。触媒を、以下の組成:4体積%のイソブチルアルデヒド(IBA)および30体積%の水蒸気で残りが窒素である組成を持ち、2つの異なる酸素対IBAモル比(O_(2)/HC)を有する水蒸気について試験した。ここで、酸素含有ガスは空気であった。反応温度および蒸気流の流量を変えることによって、様々な条件下で転化率および選択率のデータを得た。得られた排気流をガスクロマトグラフィー(GC)により分析した。
【0071】以下の結果を理解するために、以下の定義を述べる:
IBA転化率%=[(IBA_(i)-IBA_(f))/IBA_(i)]×100
MAA選択率%=[(MAA)/(IBA_(i)-IBA_(f))]×100
MAC選択率%=[(MAC)/(IBA_(i)-IBA_(f))]×100
【0072】反応後に残留したIBAの量を決定するために、生成物を0℃でデュワー瓶内に捕捉した。回収した液体の分析により、微量のIBAも示されなかった。GC火炎イオン化検出器(FID検出器)の精度に基づいて、IBAの転化率は少なくとも約99.95%より高い。
【0073】触媒結果が表Iに示されている。

【0074】実施例1の触媒について、全イソブチルアルデヒド転化率および約80%の組合せのメタクロレインおよびアクリル酸の選択率が得られた。酸素(O_(2))の炭化水素(HC)に対するモル比(O_(2):HC)の変化は、反応結果にほとんど影響を与えない。
【0075】実施例1の触媒を、メタクロレインの酸化についても試験した。試験条件は、4体積%のIBAの代わりに4体積%のメタクロレインを供給したことを除いて、上述したものと同じであった。得られたデータが表IIに示されている。

【0076】このデータは、メタクリル酸の生成のためのイソブタナールおよびメタクロレインまたはそれらの混合物または組合せの酸化に、同じ反応条件(反応温度および酸素/炭化水素モル比)を使用できることを示している。それゆえ、本発明の触媒は、イソブタナールまたはイソブタナールとメタクロレインの混合物を含有する流れからメタクリル酸を製造するのに使用できる。一般に、本発明の触媒に使用するためのアルデヒド供給原料の組成範囲は、約5質量%のイソブタナールおよび約95質量%のメタクロレインから、約95質量%のイソブタナールおよび約5質量%のメタクロレインに及ぶ。・・・もちろん、出発材料の入手可能性(IBAおよびMAC)に応じて、その流の実際の組成は、先に述べた範囲内の任意の組成であって差し支えない。
【0077】反応および結果
6ccの実施例1と比較例1の触媒を固定床反応器中に充填し、9ccの石英片で希釈した。各触媒を、4%のIBAおよび30%の水蒸気で残りの量の窒素を含む供給物を用いて、酸素のIBAに対する比(O_(2)/HC)が2である酸素の存在下で、試験した。生成物をGCにより分析した。IBAは、MACを経る2段階プロセスでMAAに転化されるので、IBA転化データは、表IIIに示されるようなMAC転化成分を含む。
【0078】反応後に残留したIBAを決定するために、生成物を0℃でデュワー瓶内に捕捉した。回収した液体の分析により、微量のイソブタナールも示されなかった。GC火炎イオン化検出器(FID)の精度に基づいて、IBAの転化率は少なくとも約99.95%より高いと推測された。
【0079】同じ反応温度(281℃)下で得た実施例1および比較例1の触媒に関する触媒の活性および選択率が表IIIに示されている。

【0080】同じ反応条件で、実施例1の触媒は、比較例1の触媒よりもメタクロレインの高い転化率を示し、同じ反応転化率で、実施例1の触媒は、比較例1の触媒よりも高い選択率を有したことが分かる。それゆえ、イソブチルアルデヒドの酸化に関して、このデータは明らかに、BiおよびBを含む触媒は、BiおよびBを含まない触媒よりも良好な性能を示すことを示している。
【0081】比較例2
この比較例は、米国特許第4381411号明細書の実施例1による触媒の調製を例示する。40.40gのFe(NO_(3))_(3)、13.59gのAgNO_(3) および21.22gの85%のH_(3)PO_(3) を100mLの水中に溶解させた。次いで、乾燥およびか焼後、Ag_(0.8)FeP_(1.84)O_(x) の組成を持つ触媒を得た。
【0082】比較例3
市販のヘテロポリ酸触媒(NH_(4))_(3)PMoO_(12) のサンプル。
【0083】反応および結果
6ccの実施例1と比較例2および比較例3の触媒を固定床反応器中に充填し、9ccの石英片で希釈した。各触媒を、2%のIBA、2%のMACおよび30%の水蒸気で残りの量の窒素を含む供給物を用いて、酸素のIBAに対する比(O_(2)/HC)が2である酸素の存在下で、試験した。酸化反応は、284℃の反応温度および50sccmの供給物流量で行った。生成物をGCにより分析した。
【0084】生成物中にに残留したイソブチルアルデヒドを決定するために、反応後の生成物を0℃でデュワー瓶内に捕捉した。回収した液体の分析により、微量のイソブチルアルデヒドも示されなかった。GC検出器(FID)の精度に基づいて、イソブタナールの転化率は少なくとも99.95%より高い。
【0085】50-50のIBAおよびMACをMAAに転化するために実施例1、比較例2および比較例3の触媒を用いて得られた反応結果が表IVに示されている。

【0086】このデータは、本発明の触媒はIBAおよびMACの混合物について働くが、比較例の触媒はずっと低い性能を示すことを示している。」

b そして、触媒を用いる有機化合物の反応において、触媒の組成の変化により反応の様相が異なってくることは、よく知られており、式Mo_(12)P_(a)V_(b)Cu_(c)Bi_(d1)B_(d2)MII_(e)MIII_(f)O_(g) で表される触媒の一つである、式Mo_(12)P_(1.5)V_(0.5)Cu_(0.1)Bi_(0.5)Sb_(0.8)Cs_(1.0)B_(0.5)O_(g) を有する触媒(MIIがCs、MIIIがSb、aが1.5、bが0.5、cが0.1、d1が0.5、d2が0.5、eが1.0、fが0.8である触媒)を用いたときに、高い転化率、選択率又は収率で、イソブタナール又はイソブタナールとメタクロレインの混合物をメタクリル酸へと酸化させることができたとしても、例えばMIIやMIIIを含むとしてもCsやSb以外の元素である触媒や、CuとCsとSbを含むとしてもcが0.01や1.5であったりe、fが0.01や5.0である触媒、また、Biについてのd1が0.01や2.0である触媒、Bについてのd2が0.01や5.0である触媒を用いたときにも、所望の高い転化率、選択率及び収率が達成できるかは、予測することが困難であり、明細書に実際の触媒性能のデータ又はそれと同視できる程度の記載をして、特定の触媒を用いることによる発明の有用性を裏付ける必要があるところ、本願明細書に記載されている上記データ又は同視できる程度の記載は、上記aの、実施例1の式Mo_(12)P_(1.5)V_(0.5)Cu_(0.1)Bi_(0.5)Sb_(0.8)Cs_(1.0)B_(0.5)O_(g) を有する触媒についての記載のみである。
そうすると、発明の詳細な説明に、イソブタナール又はイソブタナールとメタクロレインの混合物を含むアルデヒド供給原料を酸化させてメタクリル酸を製造する方法について記載されているといえるのは、触媒が「式Mo_(12)P_(1.5)V_(0.5)Cu_(0.1)Bi_(0.5)Sb_(0.8)Cs_(1.0)B_(0.5)O_(g) を有する」と特定された発明のみであるといえる。

(イ)触媒の気孔サイズ分布について
発明の詳細な説明には、段落【0057】に、好ましい実施の形態に関連して「少なくとも約50%の中くらいの気孔の値」という記載があるが、触媒の気孔サイズ分布を変える手段を記載しているのは、段落【0040】の「本発明の触媒の気孔サイズ分布を変えるために、所望の量のアンモニウム含有化合物を加えることができる。次いで、アンモニウム含有化合物を、触媒か焼中の制御条件下で気体放出(out-gassed)させて、所望の気孔サイズ分布、好ましくは中くらいの気孔が多い分布を達成する」、段落【0055】の「本発明に使用するのに適したアンモニウム含有化合物は、以下に限られないが、揮発性成分への熱分解を経る任意のアンモニウム化合物を含む。そのようなアンモニウム含有化合物の例としては、以下に限られないが、水酸化アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、炭酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、蟻酸アンモニウム、プロピオン酸アンモニウム、酪酸アンモニウム、カルボン酸の他のアンモニウム塩、およびそれらの混合物または組合せが挙げられる」、段落【0059】の「本願の発明者等は、乾燥済み組成物中に存在する硝酸イオンおよびアンモニウムイオンの量は、所望の気孔サイズ分布を生成するのに重要であるが、乾燥、浸漬およびか焼条件の注意深い制御も、最終的な触媒中に生成される中くらいの気孔の数を制御するのに重要であると考えている。か焼前の触媒をあまりに速く加熱し過ぎると、揮発性成分が気体放出するだけの十分な時間がなく、得られる触媒の活性も減少する。それゆえ、触媒の乾燥、浸漬およびか焼を制御することによって、触媒が最終的なか焼温度に曝される前に、成分の気体放出を実質的に完了することができる。一般に、浸漬温度は約180℃および約250℃の間であり、浸漬期間は、約1時間および約8時間の間であるが、それより短い時間と長い時間を用いても差し支えない。浸漬工程は、揮発性成分および高温で揮発性成分を形成する成分が、徐々にであって、触媒の気孔分布が損なわれる(潰れるまたはあまりに多くの中くらいではない気孔を生成する)ほど爆発的またはあまりに急激にではなく、触媒を出ることができるように設計される。研究室での計画において、その計画は、温度を所望の浸漬工程温度まで上昇させるのに十分な期間に亘る約0.25℃/分から約0.75℃/分の初期温度傾斜、および温度を所望のか焼工程温度まで上昇させるのに十分な期間に亘る約0.25℃/分から約0.75℃/分の最終温度傾斜を含む。」であり、上記(ア)aで摘示した実施例1においても、アンモニウム含有化合物を使用し、特定の条件で沈殿、乾燥及び焼成して触媒を調製していると認められる。
しかし、沈殿、乾燥及び焼成して製造される触媒の気孔サイズ分布が、具体的にどのようになるのかは、その組成及び製造条件のあらましが示されただけでは、予測することが困難であり、実際に製造して測定をして確認することが必要であるところ、上記の実施例においてさえ、触媒の気孔サイズ分布は、記載されていない。
そうすると、発明の詳細な説明に、「少なくとも50%の中くらいの気孔を含む気孔サイズ分布を有し、該中くらいの気孔は100Å以上1000Å未満の直径を有し」という特定の気孔サイズ分布を有する触媒が、記載されているということはできない。

エ 発明の詳細な説明に記載された発明と特許請求の範囲に記載された発明との対比・判断
請求項1には、発明の詳細な説明に記載されているということができない「少なくとも50%の中くらいの気孔を含む気孔サイズ分布を有し、該中くらいの気孔は100Å以上1000Å未満の直径を有し」と特定される触媒が記載されているから、請求項1の特許を受けようとする発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。
また、請求項1には、「式Mo_(12)P_(1.5)V_(0.5)Cu_(0.1)Bi_(0.5)Sb_(0.8)Cs_(1.0)B_(0.5)O_(g) を有する」を遙かに超える範囲の触媒の存在下でイソブタナール又はイソブタナールとメタクロレインの混合物を含むアルデヒド供給原料を酸化剤と接触させてメタクリル酸を形成する工程を有する方法が記載されており、出願時の技術常識に照らしても、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないから、請求項1の特許を受けようとする発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。

(2)請求項2?6の発明について
請求項2?6の発明についても、触媒の組成及び気孔サイズ分布についての特定は、請求項1と同じであるから、上記(1)と同様のことがいえ、請求項2?6の特許を受けようとする発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。

(3)したがって、請求項1?6の特許を受けようとする発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるということができないから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。

第5 むすび
以上のとおり、この出願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に適合するものではないから、この出願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしておらず、その余について検討するまでもなく、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-08-29 
結審通知日 2014-09-02 
審決日 2014-09-16 
出願番号 特願2008-524058(P2008-524058)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三上 晶子緒形 友美斉藤 貴子  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 齊藤 真由美
中田 とし子
発明の名称 混合アルデヒド供給原料のメタクリル酸への酸化のための触媒およびその製造方法と使用方法  
代理人 佐久間 剛  
代理人 柳田 征史  

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