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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01B
管理番号 1296908
審判番号 不服2013-17241  
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-09-06 
確定日 2015-01-28 
事件の表示 特願2010-533609「三角法を用いた物体の光学的測定方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 5月22日国際公開,WO2009/063088,平成23年 2月 3日国内公表,特表2011-504230〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
平成20年11月14日:国際特許出願
(優先権 平成19年11月15日 ドイツ)
平成22年 4月27日:国内書面
平成22年 4月27日:条約34条補正翻訳文提出書
平成25年 2月25日:拒絶理由通知(同年3月5日発送)
平成25年 6月21日:意見書
平成25年 6月21日:手続補正書
平成25年 7月12日:拒絶査定(同年同月23日送達)
平成25年 9月 6日:手続補正書(以下「本件補正」という。)
平成25年 9月 6日:審判請求

第2 補正却下の決定
[結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
(1) 本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりである。
「 少なくとも1つの光源(2.1?2.4)と,構造化されたパターン(11.1?11.4)を生成するための少なくとも1つのシャッター手段(3.1?3.4)と,少なくとも1つの記録手段(6,6.1,6.2)とを含む,三角法を用いて記録装置(1)によって物体の三次元形状を光学的に測定するための方法であって,第1のシャッター手段(3.1)によって第1のパターン(11.1)が生成され,かつ記録対象の物体(8)に第1の投影ビーム(7.1)として投影され,少なくとも1つの別のシャッター手段(3.1?3.4)によって別のパターン(11.2?11.4)が生成され,かつ前記記録対象の物体(8)に別の投影ビーム(7.2?7.4)として投影され,前記第1のパターン(11.1)と前記別のパターン(11.2?11.4)が前記物体(8)から観察ビーム(13.1?13.4)として反射され,かつ前記物体(8)の3Dデータセット(21)を得るために前記少なくとも1つの記録手段(6,6.1,6.2)によって記録され,少なくとも1回の三角法記録(20,53,54)の評価は,前記三角法に基づくストリップ投影法によって行われ,かつ測定点の座標を確定するために位相シフト法が用いられるように構成され,前記第1のパターン(11.1)と前記別のパターン(11.2?11.4)とが,前記少なくとも1回の三角法記録(20,53,54)で前記少なくとも1つの記録手段(6,6.1,6.2)を用いて同時に記録されることを特徴とする方法。」

(2) 本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりである。下線は,補正箇所である。
「 少なくとも1つの光源(2.1?2.4)と,構造化されたパターン(11.1?11.4)を生成するための少なくとも1つのシャッター手段(3.1?3.4)と,少なくとも1つの記録手段(6,6.1,6.2)とを含む,三角法を用いて口腔内歯科カメラ(1)によって物体の三次元形状を光学的に測定するための方法であって,第1のシャッター手段(3.1)によって第1のパターン(11.1)が生成され,かつ記録対象の物体(8)に第1の投影ビーム(7.1)として投影され,少なくとも1つの別のシャッター手段(3.1?3.4)によって別のパターン(11.2?11.4)が生成され,かつ前記記録対象の物体(8)に別の投影ビーム(7.2?7.4)として投影され,前記第1のパターン(11.1)と前記別のパターン(11.2?11.4)が前記物体(8)から観察ビーム(13.1?13.4)として反射され,かつ前記物体(8)の3Dデータセット(21)を得るために前記少なくとも1つの記録手段(6,6.1,6.2)によって記録され,少なくとも1回の三角法記録(20,53,54)の評価は,前記三角法に基づくストリップ投影法によって行われ,かつ測定点の座標を確定するために位相シフト法が用いられるように構成され,前記第1のパターン(11.1)と前記別のパターン(11.2?11.4)とが,前記少なくとも1回の三角法記録(20,53,54)で前記少なくとも1つの記録手段(6,6.1,6.2)を用いて同時に記録されることを特徴とする方法。」

2 判断(目的要件)
本件補正は,本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)における「記録装置」を「口腔内歯科カメラ」に限定して,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)とする補正であるから,特許法17条の2第5項2号に掲げる,特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
そこで,本件補正後発明が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて,以下に検討する。

3 独立特許要件
(1) 引用例1に記載の事項
本件出願の優先日前に頒布された刊行物である,特開2003-279329号公報(公開日:平成15年10月2日,発明の名称:「三次元計測装置」,出願番号:特願2002-53144号,出願日:平成14年2月28日,出願人:シーケーディ株式会社,以下「引用例1」という。)には,図面とともに,以下の事項が記載されている。
ア 「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,測定対象物の三次元形状等を計測する三次元計測装置に関するものである。」

イ 「【0003】近年,光を用いたいわゆる非接触式の三次元計測装置が種々提案されており,中でも位相シフト法を用いた三次元計測装置に関する技術が提案されている(特開平11-211443号公報,特許第2711042号等)。」

ウ 「【0007】【発明が解決しようとする課題】ところで,上記技術における三次元計測装置においては,位相を4段階に変化させ,各段階に対応する強度分布をもつ4通りの画像を取得する必要がある。つまり,位相を変化させる度に撮像を行わなければならず,結果として1つのポイントに関し撮像を4回行う必要がある。このため,撮像に時間を要することとなり,ひいては,計測開始から終了までの時間が長いものとなってしまうおそれがある。
【0008】本発明は,上記事情に鑑みてなされたものであり,計測対象物の三次元形状を計測するに際し,計測に要する時間の短縮を図ることの可能な三次元計測装置を提供することを主たる目的の一つとしている。」

エ 「【0028】手段10.少なくとも計測対象物及び略平面に対し,略正弦波の縞状の光強度分布を有するとともに,互いに異なる波長成分を有し,互いに相対位相関係の異なる少なくとも3つの光成分パターンを同時に照射可能な照射手段と,少なくとも前記光成分パターンの照射された計測対象物及び略平面からの反射光を各光成分毎に分離して撮像可能な撮像手段と,前記撮像手段にて前記略平面からの反射光を光成分毎に撮像して得られた少なくとも3通りの画像データに基づき,互いの相対位相角度を演算可能な第1の演算手段と,前記撮像手段にて前記計測対象物からの反射光を光成分毎に撮像して得られた少なくとも3通りの画像データと,前記演算された相対位相角度とに基づき,少なくとも前記計測対象物の高さを位相シフト法により演算可能な第2の演算手段とを備えたことを特徴とする三次元計測装置。
【0029】手段10によれば,少なくとも計測対象物に対し,照射手段によって,少なくとも3つの光成分パターンが同時に照射される。また,少なくとも略平面に対し,照射手段によって,少なくとも3つの光成分パターンが同時に照射される。各光成分パターンは,略正弦波の縞状の光強度分布を有するとともに,互いに異なる波長成分を有し,互いに相対位相関係が異なっている。また,光成分パターンの照射された計測対象物及び略平面からの反射光が,撮像手段によって各光成分毎に分離されて撮像される。尚,略平面は,計測対象物とは別途のものでもよいし,略平面部分を備えた計測対象物の略平面部分であってもよい。そして,前記異なる相対位相関係下において撮像手段にて撮像された略平面についての少なくとも3通りの画像データに基づき,第1の演算手段によって,互いの相対位相角度が演算される。さらに,前記異なる相対位相関係下において撮像手段にて撮像された少なくとも3通りの画像データと,前記演算された相対位相角度とに基づき,第2の演算手段によって,位相シフト法により,少なくとも前記計測対象物の所定の高さが演算される。従って,相対位相関係を異ならせる毎に撮像を行う必要があった従来技術とは異なり,各光成分毎に,異なる相対位相関係下毎に,まとめて撮像を行うことができる。このため,1つのポイントに関し照射及び撮像に要する時間が著しく短縮が図られることとなり,もって,計測に要する時間の飛躍的な短縮を図ることができる。併せて,演算に際し,相対位相角度を算出できるため,予め相対位相角度を把握する必要が無い。従って,相対位相角度を事前に厳密に設定する必要がなく,相対位相角度の不明な光成分パターンを照射する照射手段を採用することもできる。その結果,設計及び設備の簡素化を図ることができる。また,予め位相角度を設定してある照射手段を用いる場合において,撮像した光成分パターンの実際の相対位相角度が予定していた(設定されていた)相対位相角度と異なってしまうことが考えられる。これに対し,上記手段によれば,画像データから相対位相角度を算出した上で,高さ等を演算するため,より正確な結果を得ることができる。」

【図1】

オ 「【0048】【発明の実施の形態】以下,一実施の形態について,図面を参照しつつ説明する。図1は,本実施の形態における三次元計測装置を具備する印刷状態検査装置1を模式的に示す概略構成図である。同図に示すように,印刷状態検査装置1は,計測対象物としてのクリームハンダHの印刷されてなるプリント基板Kを載置するためのテーブル2と,プリント基板Kの表面に対し斜め上方から所定の光成分パターンを照射するための照射手段を構成する照明装置3と,プリント基板K上の前記照射された部分を撮像するための撮像手段を構成するCCDカメラ4と,基準高さを測定するための図示しないレーザーポインタとを備えている。なお,本実施の形態におけるクリームハンダHは,平面をなすプリント基板K上に設けられた銅箔からなる電極パターン上に印刷形成されている。
【0049】テーブル2には,モータ5,6が設けられており,該モータ5,6によって,テーブル2上に載置されたプリント基板Kが任意の方向(X軸方向及びY軸方向)へスライドさせられるようになっている。
【図2】

【0050】本実施の形態における照明装置3からは,赤,緑,青のそれぞれ位相の異なる光成分パターンが照射されるようになっている。より詳しくは,図2に示すように,照明装置3は,光源11と,光源11からの光を集める集光レンズ12と,照射レンズ13と,両レンズ12,13間に配設された赤,緑,青色のフィルタ格子縞板14,15,16とを備えている。赤色フィルタ格子縞板14は,部位に応じて赤色の度合いが正弦波状(縞状)に変化しており,赤色の成分についてのみ縞状に遮光(透光)させ他の波長域の全透光を許容するようになっている。また,緑色フィルタ格子縞板15は,部位に応じて緑色の度合いが正弦波状(縞状)に変化しており,緑色の成分についてのみ縞状に遮光(透光)させ他の波長域の全透光を許容するようになっている。但し,その正弦波は,赤色フィルタ格子縞板14に比べて位相がずれている。さらに,青色フィルタ格子縞板16は,部位に応じて青色の度合いが正弦波状(縞状)に変化しており,青色の成分についてのみ縞状に遮光(透光)させ他の波長域の全透光を許容するようになっている。但し,その正弦波は,前記赤色及び緑色フィルタ格子縞板14,15に比べて位相がずれている。つまり,これら赤,緑,青色のフィルタ格子縞板14,15,16は,互いに位相がずらされた状態で張り合わされている(勿論,相互に離間していても差し支えない)。
【0051】そして,光源11から放たれた光は,集光レンズ12,前記各色フィルタ格子縞板14,15,16,及び照射レンズ13を経て縞状の光成分パターンとしてプリント基板K上に照射されるようになっている。
【0052】また,前記CCDカメラ4は,第1?第3のダイクロイックミラー21,22,23及びそれらに対応する第1?第3の撮像部24,25,26を備えている。すなわち,第1のダイクロイックミラー21は,所定の波長域内(赤色光に対応)の光を反射(それ以外の波長の光を透過)し,第1の撮像部24はその反射光を撮像する。また,第2のダイクロイックミラー22は,所定の波長域内(緑色光に対応)の光を反射(それ以外の波長の光を透過)し,第2の撮像部25はその反射光を撮像する。さらに,第3のダイクロイックミラー(通常のミラーを用いてもよい)23は,所定の波長域内(青色光に対応)の光を反射(それ以外の波長の光を透過)し,第3の撮像部26はその反射光を撮像する。」

カ 「【0057】次に,制御装置7の行う画像処理及び演算処理,並びに,比較判定処理について説明する。まず,得られた3画面の画像データに基づき,撮像された各光成分パターンの相対位相角度を算出する。各光成分パターンの相対位相角度は,前記平面を撮像した光成分パターンの輝度のチャートから算出される。すなわち,制御装置7は,位相測定用平面としての非ハンダ領域の光成分パターンの縞に直交する方向の所定ライン上の座標と輝度との関係を各光成分パターンについてチャート化する。すると,図3に示すような赤色,緑色,青色についてのチャートが得られる。
【図3】

【0058】該3つのチャートは,同一周期をなしており,いずれか1つのチャート(例えば,赤色チャート)に基づき,チャートトップ(頂点)間距離から1周期の座標距離aを算出する。次に,赤色と緑色との光成分パターンの位相のずれである第1の相対位相角度αを算出するため,赤色チャートのトップに対する緑色チャートのトップのずれである座標距離bを算出する。そして,第1の相対位相角度αが,下式(2a)により算出される。
【0059】α=360×b/a ・・・(2a)
但し,αは度数単位。
【0060】同様に,赤色チャートと青色チャートのトップのずれである座標距離cが算出され,赤色と青色との光成分パターンの位相のずれである第2の相対位相角度βが,下式(2b)により算出される。
【0061】β=360×c/a ・・・(2b)
次に,制御装置7は,前記3画面の画像データを用いて,検査エリア内の高さを算出する。検査エリアに投影された光成分パターンに関して,高さの相違に基づく位相のずれが生じる。そこで,制御装置7では,光成分パターンの位相が異なる各波長域での画像データに基づき,位相シフト法(縞走査法)の原理に基づいて反射面の高さを算出するのである。」

キ 「【0071】以上詳述したように,本実施の形態によれば,異なる相対位相関係下においてCCDカメラ4による3画面の画像データに基づき,クリームハンダHの高さを演算することとした。従って,相対位相関係を異ならせる毎に撮像を行う必要があった従来技術とは異なり,各光成分毎に,異なる相対位相関係下毎に,まとめて撮像を行うことができる。このため,1つのポイントに関し1回の照射及び1回の撮像を行えばよく,照射及び撮像に要する時間が著しく短縮が図られることとなり,その結果,計測に要する時間の飛躍的な短縮を図ることができる。」

これら記載内容からみて,引用例1には,以下の発明が記載されている(以下「引用例1発明」という。)。
「 少なくとも計測対象物に対し,照射手段によって,少なくとも3つの光成分パターンが同時に照射され,少なくとも略平面に対し,照射手段によって,少なくとも3つの光成分パターンが同時に照射され,各光成分パターンは,略正弦波の縞状の光強度分布を有するとともに,互いに異なる波長成分を有し,互いに相対位相関係が異なり,光成分パターンの照射された計測対象物及び略平面からの反射光が,撮像手段によって各光成分に分離されて撮像され,前記異なる相対位相関係下において撮像手段にて撮像された略平面についての少なくとも3通りの画像データに基づき,第1の演算手段によって,互いの相対位相角度が演算され,前記異なる相対位相関係下において撮像手段にて撮像された少なくとも3通りの画像データと,前記演算された相対位相角度とに基づき,第2の演算手段によって,位相シフト法により,少なくとも前記計測対象物の所定の高さが演算され,
相対位相関係を異ならせる毎に撮像を行う必要があった従来技術とは異なり,光成分毎に,異なる相対位相関係下毎に,まとめて撮像を行うことができ,1つのポイントに関し照射及び撮像に要する時間が著しく短縮が図られることとなり,もって,計測に要する時間の飛躍的な短縮を図ることができる,
三次元計測装置によって,計測対象物の三次元形状を計測する方法。」

(2) 引用例2に記載の事項
本件出願の優先日前に頒布された刊行物である,特表平4-504219号公報(公表日:平成4年7月30日,発明の名称:「特に患者の口腔内の歯の3次元測定の方法および装置」,出願番号:特願平2-514123号,出願日:平成2年10月11日,出願人:カルテンバッハ・ウント・フォイクト・ゲーエムベーハー・ウント・コンパニー,以下「引用例2」という。)には,図面とともに,以下の事項が記載されている。
ア 2頁右下欄4ないし17行
「 本発明は,・・・特に患者の口腔内に含まれる歯或いは一群の歯の3次元光測定用の方法および装置に関する。
そのタイプの装置は,義歯を製造するという目的のために歯の表面のいわゆる三角測量方法を使用することによるEuropean Patent A1 0278 882の開示から公知になってきた。・・・またSiemens AG社のいわゆるセレック(Cerec)システムも,三角測量方法の使用を通して歯に対するセラミックインレー(inlay)のコンピュータ支援の製造でこれに関係している。」

イ 3頁左上欄17ないし22行
「上述のことは三角測量の原理によって実行されるのが好ましく,それによって今の少なくとも1つの光学機器の使用を通して縞パターンが個々の部分画像に対して投影され,そして別の光学機器によって今測定される部分画像の形状に対応する今反射されて歪んだ縞パターンの露光が採られ,そして電気的データ信号の発生に対する基礎として使用される。」

ウ 3頁右上欄1ないし4行
「本発明の変形例によって位相シフトの原理が使用される。そこでは,輝度の分布が今異なった位相を有するサインカーブによって表される縞パターンが少なくとも3回各部分画像に撮影され反射された縞パターンから露光が採られる。」

エ 4頁左上欄10ないし17行
「第1図に示された装置は,患者の口腔内へと導入されることができる口部用プローブ1と,白熱灯の形である光源3を有するビデオプロジェクタ2と,両方ともプロジェクタからのビームのパス内に配置されている赤色フィルタ4およびLCD-マトリックス光変調器5と,CCD-カメラの形であるイメージすなわち画像センサ6と,コンピュータ7と,口部用プローブ1とビデオプロジェクタ2ならびにCCD-カメラ6との間に延在する光ファイバケーブル接続8とを具備する。」
【第1図】


これら記載内容から見て,引用例2には,以下の発明が記載されている(以下「引用例2発明」という。)。
「三角測量方法を使用して患者の口腔内に含まれる歯の3次元光測定を行う方法,また,三角測量の原理による測定の変形例として位相シフトの原理を使用する方法。」

(3) 対比
本件補正後発明と引用例1発明を対比すると,以下のとおりとなる。
ア 光源
引用例1発明の「三次元計測装置」は,「少なくとも計測対象物に対し,照射手段によって,少なくとも3つの光成分パターンが同時に照射され」の構成を具備する。ここで,引用例1発明の「照射手段」が「光源」を具備することは技術常識であり,その「光源」は,本件補正後発明の「少なくとも1つの光源(2.1?2.4)」に相当する。

イ 構造化されたパターン
引用例1発明の「三次元計測装置」は,「少なくとも計測対象物に対し,照射手段によって,少なくとも3つの光成分パターンが同時に照射され」及び「各光成分パターンは,略正弦波の縞状の光強度分布を有するとともに,互いに異なる波長成分を有し,互いに相対位相関係が異なり」の構成を具備する。したがって,引用例1発明の「光成分パターン」は,本件補正後発明の「構造化されたパターン(11.1?11.4)」に相当する。

ウ 記録手段
引用例1発明の「三次元計測装置」は,「光成分パターンの照射された計測対象物及び略平面からの反射光が,撮像手段によって各光成分に分離されて撮像され」の構成を具備する。したがって,引用例1発明の「撮像手段」は,本件補正後発明の「少なくとも1つの記録手段(6,6.1,6.2)」に相当する。
なお,本件補正後の請求項14には,「前記少なくとも1つの記録手段(6,6.1,6.2)がCCDセンサであることを特徴とする請求項1乃至13のいずれか一項に記載の方法。」と記載されていることからも,上記の相当関係が把握できる。

エ 方法
引用例1発明の「計測対象物の三次元形状を計測する方法」は,位相シフト法を計測原理とするから,技術常識を勘案すると,引用例1発明の「計測対象物の三次元形状を計測する方法」は,本件補正後発明の「三角法を用いて」「物体の三次元形状を光学的に測定するための方法」に相当する。

オ 第1のパターン,別のパターン
引用例1発明は,「少なくとも計測対象物に対し,照射手段によって,少なくとも3つの光成分パターンが同時に照射され」及び「各光成分パターンは,略正弦波の縞状の光強度分布を有するとともに,互いに異なる波長成分を有し,互いに相対位相関係が異なり」を具備する。そこで,便宜上,引用例1発明の複数の光成分パターンを「第1の光成分パターン」及び「第1以外の光成分パターン」に分けて呼ぶと,引用例1発明の「第1の光成分パターン」は,本件補正後発明の「第1のパターン(11.1)」に相当し,引用例1発明の「第1以外の光成分パターン」は,本件補正後発明の「別のパターン(11.2?11.4)」に相当する。

カ 投影され
引用例1発明は,「少なくとも計測対象物に対し,照射手段によって,少なくとも3つの光成分パターンが同時に照射され」及び「光成分パターンの照射された計測対象物及び略平面からの反射光が,撮像手段によって各光成分に分離されて撮像され」の構成を具備する。したがって,引用例1発明の「少なくとも計測対象物に対し,照射手段によって,少なくとも3つの光成分パターンが同時に照射され」のうち「第1の光成分パターン」に関するものは,本件補正後発明の「記録対象の物体(8)に第1の投影ビーム(7.1)として投影され」に相当し,また,「第1以外の光成分パターン」に関するものは,本件補正後発明の「前記記録対象の物体(8)に別の投影ビーム(7.2?7.4)として投影され」に相当する。

キ 反射され
引用例1発明は,「少なくとも計測対象物に対し,照射手段によって,少なくとも3つの光成分パターンが同時に照射され」及び「光成分パターンの照射された計測対象物及び略平面からの反射光が,撮像手段によって各光成分に分離されて撮像され」の構成を具備するから,引用例1発明は,「3つの光成分パターンが計測対象物から反射光として反射され」の過程(以下「反射過程」という。)を含む。したがって,引用例1発明の「反射光」は,本件補正後発明の「観察ビーム(13.1?13.4)」に相当し,また,引用例1発明の「反射過程」は,本件補正後発明の「前記第1のパターン(11.1)と前記別のパターン(11.2?11.4)が前記物体(8)から観察ビーム(13.1?13.4)として反射され」に相当する。

ク 記録され
引用例1発明は,「光成分パターンの照射された計測対象物及び略平面からの反射光が,撮像手段によって各光成分に分離されて撮像され」た後,「前記異なる相対位相関係下において撮像手段にて撮像された少なくとも3通りの画像データと,前記演算された相対位相角度とに基づき,第2の演算手段によって,位相シフト法により,少なくとも前記計測対象物の所定の高さが演算され」る構成を具備する。したがって,引用例1発明の「光成分パターンの照射された計測対象物及び略平面からの反射光が,撮像手段によって各光成分に分離されて撮像され」は,本件補正後発明の「前記物体(8)の3Dデータセット(21)を得るために前記少なくとも1つの記録手段(6,6.1,6.2)によって記録され」に相当する。

ケ 評価
引用例1発明は,「各光成分パターンは,略正弦波の縞状の光強度分布を有するとともに,互いに異なる波長成分を有し,互いに相対位相関係が異なり」及び「前記異なる相対位相関係下において撮像手段にて撮像された少なくとも3通りの画像データと,前記演算された相対位相角度とに基づき,第2の演算手段によって,位相シフト法により,少なくとも前記計測対象物の所定の高さが演算され」の構成を具備する。したがって,引用例1発明の「計測対象物の三次元形状を計測する方法」のために行われる演算は,本件補正後発明の「少なくとも1回の三角法記録(20,53,54)の評価」に相当し,また,「前記三角法に基づくストリップ投影法によって行われ,かつ測定点の座標を確定するために位相シフト法が用いられるように構成され」の要件を満たす。

コ 同時に記録
引用例1発明は,「少なくとも計測対象物に対し,照射手段によって,少なくとも3つの光成分パターンが同時に照射され」及び「光成分パターンの照射された計測対象物及び略平面からの反射光が,撮像手段によって各光成分に分離されて撮像され」の構成を具備する。したがって,引用例1発明の撮像手段による撮像は,本件補正後発明の「前記第1のパターン(11.1)と前記別のパターン(11.2?11.4)とが,前記少なくとも1回の三角法記録(20,53,54)で前記少なくとも1つの記録手段(6,6.1,6.2)を用いて同時に記録される」の要件を満たす。

(4) 一致点及び相違点
以上の対比結果を踏まえると,本件補正後発明と引用例1発明の一致点及び相違点は,以下のとおりである。

(一致点)
「 少なくとも1つの光源(2.1?2.4)と,少なくとも1つの記録手段(6,6.1,6.2)とを含む,三角法を用いて物体の三次元形状を光学的に測定するための方法であって,第1のパターン(11.1)が,記録対象の物体(8)に第1の投影ビーム(7.1)として投影され,別のパターン(11.2?11.4)が,前記記録対象の物体(8)に別の投影ビーム(7.2?7.4)として投影され,前記第1のパターン(11.1)と前記別のパターン(11.2?11.4)が前記物体(8)から観察ビーム(13.1?13.4)として反射され,かつ前記物体(8)の3Dデータセット(21)を得るために前記少なくとも1つの記録手段(6,6.1,6.2)によって記録され,少なくとも1回の三角法記録(20,53,54)の評価は,前記三角法に基づくストリップ投影法によって行われ,かつ測定点の座標を確定するために位相シフト法が用いられるように構成され,前記第1のパターン(11.1)と前記別のパターン(11.2?11.4)とが,前記少なくとも1回の三角法記録(20,53,54)で前記少なくとも1つの記録手段(6,6.1,6.2)を用いて同時に記録される方法。」

(相違点1)
本件補正後発明の方法は,「口腔内歯科カメラ(1)によって」物体の三次元形状を光学的に測定するための方法であるのに対して,引用例1発明は,「三次元計測装置」によって,物体の三次元形状を光学的に測定するための方法である点。

(相違点2)
本件補正後発明は,「構造化されたパターン(11.1?11.4)を生成するための少なくとも1つのシャッター手段(3.1?3.4)」を具備し,「第1のシャッター手段(3.1)によって第1のパターン(11.1)が生成され」,「少なくとも1つの別のシャッター手段(3.1?3.4)によって別のパターン(11.2?11.4)が生成され」るのに対し,引用例1発明は,これが明らかではない点。

(5) 判断
ア 相違点1について
本件出願の優先日前に,引用例2発明が公知である。そして,患者の口腔内に含まれる歯の3次元光測定が,迅速かつ正確に行われることが望ましいことは当然のことであるところ,引用例1発明は,「相対位相関係を異ならせる毎に撮像を行う必要があった従来技術とは異なり,光成分毎に,異なる相対位相関係下毎に,まとめて撮像を行うことができ,1つのポイントに関し照射及び撮像に要する時間が著しく短縮が図られることとなり,もって,計測に要する時間の飛躍的な短縮を図ることができる」というものであるから,患者の口腔内に含まれる歯の3次元光測定のために引用例1発明の構成を採用し,その結果,引用例1発明の「三次元計測装置」を「口腔内歯科カメラ」とすることは,当業者が容易にできることである。

(審判請求人の主張について)
審判請求人は,審判請求書の「3-3.拒絶査定の理由に対する反論」において,以下のとおり主張している。
「 審査官殿は,平成25年7月23日(差出日)付けの拒絶査定において,単なる「記録装置」によって物体の三次元形状を光学的に測定するための方法は各先行技術に対して進歩性を有しない旨を指摘されております。
しかしながら,審査官殿は,「口腔内歯科カメラ」によって物体の三次元形状を光学的に測定するための方法が各先行技術に対して進歩性を有しない旨を実質的に指摘されておりません。そのため,審判請求人は,「記録装置」という技術的特徴を「口腔内歯科カメラ」に減縮する補正を行いました。
従いまして,本願発明は引用文献1および2ならびに他の周知技術に対して進歩性を有するようになりましたので,特許法第29条第2項に基づく拒絶理由は解消されたものと思料します。」

しかしながら,「口腔内歯科カメラ」に関する記載が拒絶理由通知に対する補正によって削除され,拒絶査定時の特許請求の範囲に存在しないことは,拒絶査定時に審査官が指摘するとおりであり,また,審査官の指摘は,「記録装置」を「口腔内歯科カメラ」に減縮すれば進歩性がある旨を示唆するものではない。かえって,審査官は,拒絶査定時の発明が,補正前の請求項1に係る発明(口腔内歯科カメラを具備する発明)を含んでいることを指摘し,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと指摘している。
そして,審査官は,拒絶理由通知において,口腔内歯科用の3次元形状計測において,画像センサ6で少なくとも3回撮像し,位相シフト法により3次元形状を求めることが引用例2に記載されていると指摘している。
したがって,審判請求人の主張は採用できない。

イ 相違点2について
引用例1には,引用例1発明の照射手段の具体的な一実施例として,光源11と,光源11からの光を集める集光レンズ12と,照射レンズ13と,両レンズ12,13間に配設された赤,緑,青色のフィルタ格子縞板14,15,16の構成が開示されているところ,「赤色フィルタ格子縞板14は,部位に応じて赤色の度合いが正弦波状(縞状)に変化しており,赤色の成分についてのみ縞状に遮光(透光)させ他の波長域の全透光を許容するようになっている。また,緑色フィルタ格子縞板15は,部位に応じて緑色の度合いが正弦波状(縞状)に変化しており,緑色の成分についてのみ縞状に遮光(透光)させ他の波長域の全透光を許容するようになっている。但し,その正弦波は,赤色フィルタ格子縞板14に比べて位相がずれている。さらに,青色フィルタ格子縞板16は,部位に応じて青色の度合いが正弦波状(縞状)に変化しており,青色の成分についてのみ縞状に遮光(透光)させ他の波長域の全透光を許容するようになっている。但し,その正弦波は,前記赤色及び緑色フィルタ格子縞板14,15に比べて位相がずれている。」(段落【0050】)。
そうしてみると,これら「赤,緑,青色のフィルタ格子縞板14,15,16」は,本件補正後発明の「構造化されたパターン(11.1?11.4)を生成するための少なくとも1つのシャッター手段(3.1?3.4)」に相当するとともに,「赤色フィルタ格子縞板14」及び「緑,青色のフィルタ格子縞板15,16」は,それぞれ,本件補正後発明の「第1のシャッター手段(3.1)」及び「少なくとも1つの別のシャッター手段(3.1?3.4)」に相当する。
また,患者の口腔内に含まれる歯の3次元光測定のために引用例1発明の構成を採用するに際して,これら「赤,緑,青色のフィルタ格子縞板14,15,16」が採用できないとする特段の事情は見当たらない。
そうしてみると,引用例1発明の照射手段において「赤,緑,青色のフィルタ格子縞板14,15,16」の構成を採用することは,当業者が容易にできることである。
また,本件補正後発明が奏する効果は,引用例1発明及び引用例2発明から,当業者が予測できる範囲内のものである。

(6) 小括
本件補正後発明は,引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

4 補正却下についてのまとめ
したがって,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので,本件出願の請求項1に係る発明(本願発明)は,明細書,図面及び特許請求の範囲の記載からみて,前記「第2」1(1)に記載されたとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
請求項1に関する原査定の拒絶の理由は,概略,この出願の請求項1に係る発明は,その優先日前に日本国内又は外国において頒布された引用例1及び2に記載された発明に基づいて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

3 引用例に記載の事項及び引用発明
引用例1及び引用例2に記載の事項,並びに,引用例1発明は,前記「第2」3(1)及び(2)に記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は,本件補正後発明を特定するために必要な事項である「口腔内歯科カメラ」を「記録装置」に拡張(上位概念化)したものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに,発明特定事項の一部を限定したものに相当する本件補正後発明が,前記「第2」3(4)及び(5)で述べたとおり,引用例1発明及び引用例2発明に基づいて当業者が容易に発明できたことを考慮すると,本願発明も,同様に,引用例1発明及び引用例2発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。
また,本願発明が奏する効果は,引用例1発明及び引用例2発明から予測できる範囲内のものであって,顕著なものとはいえない。

第4 まとめ
以上のとおり,本件出願の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は,その優先日前に日本国内又は外国において頒布された引用例1及び2に記載された発明に基づいて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について審理するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-08-28 
結審通知日 2014-09-02 
審決日 2014-09-16 
出願番号 特願2010-533609(P2010-533609)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01B)
P 1 8・ 121- Z (G01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長井 真一目黒 大地  
特許庁審判長 小林 紀史
特許庁審判官 新川 圭二
樋口 信宏
発明の名称 三角法を用いた物体の光学的測定方法  
代理人 高岡 亮一  

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