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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C10G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C10G
管理番号 1296914
審判番号 不服2013-21210  
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-10-31 
確定日 2015-01-28 
事件の表示 特願2011- 97457「化石燃料の脱硫方法及び該脱硫方法を使用する装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 2月 9日出願公開、特開2012- 25933〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成23年4月25日(パリ条約による優先権主張:平成22年7月20日、米国)の出願であって、平成25年2月15日付けの拒絶理由通知書が通知され、同年5月17日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年6月28日付けで拒絶査定され、これに対して、同年10月31日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに同日付けで手続補正書が提出されたが、平成26年1月24日付けで前置報告されたものである。

2.平成25年10月31日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成25年10月31日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正の内容

平成25年10月31日付けの手続補正書により特許請求の範囲についてする補正(以下、「本件補正」という。)は、特許法第17条の2第1項第4号に掲げる場合の補正であって、特許請求の範囲の請求項1及び請求項2について、次のとおり補正することを含むものである。

本件補正前:
「 【請求項1】
酸化剤溶液、金属触媒、及び界面滑性剤を相互に結合し、 多相の反応媒質を形成し、
脱硫反応器において、前記多相の反応媒質を一定した十分な時間混合反応させ、液体化石燃料中の硫化物をスルホンに酸化させ、且つ更に複数の泡を形成し、大多数のこれら泡の直径が1mmより小さく、
第1旋風分離器を使用し、油相流体を水相流体中から分離し、
極性溶液抽出器により、油相流体を混合し、極性溶剤流体中から分離し、
界面活性剤、酸化剤溶液、及び金属触媒を含む水相溶剤溶液を再循環させ、
第2旋風分離器を使用し、油相流体を極性溶剤流体中から分離し、
スルホンを分離し、収集し、基本的にスルホンが存在しない有機相流体を発生することに用いることを含み、
そのうち、前記脱硫反応器及び前記極性溶液抽出器がそれぞれ混合槽であり、各混合槽がミキサに接続し、該ミキサが撹拌及び混合に用いられ、複数の泡を発生する液体化石燃料から硫化物を除去する方法。
【請求項2】
更に、前記界面活性剤が第4級アンモニウムであり、前記第4級アンモニウムは、4つの置換基を有し、これら置換基が1?20個の炭素原子を有するアルキル基、アリール基、及びアラルキル基から構成されるグループ中から選択される1種の材質であり、そのうち、少なくとも1つ置換基が8個以上の炭素原子を有するアルキル基である請求項1に記載の硫化物を除去する方法。」

本件補正後:
「 【請求項1】
酸化剤溶液、金属触媒、及び界面滑性剤を相互に結合し、 多相の反応媒質を形成し、そのうち、前記界面活性剤はテトラオクチルホスホニウム塩を含み、
脱硫反応器において、前記多相の反応媒質を一定した十分な時間混合反応させ、液体化石燃料中の硫化物をスルホンに酸化させ、且つ更に複数の泡を形成し、大多数のこれら泡の直径が1mmより小さく、
第1旋風分離器を使用し、油相流体を水相流体中から分離し、
極性溶液抽出器により、油相流体を混合し、極性溶剤流体中から分離し、
界面活性剤、酸化剤溶液、及び金属触媒を含む水相溶剤溶液を再循環させ、
第2旋風分離器を使用し、油相流体を極性溶剤流体中から分離し、
スルホンを分離し、収集し、基本的にスルホンが存在しない有機相流体を発生することに用いることを含み、
そのうち、前記脱硫反応器及び前記極性溶液抽出器がそれぞれ混合槽であり、各混合槽がミキサに接続し、該ミキサが撹拌及び混合に用いられ、複数の泡を発生する液体化石燃料から硫化物を除去する方法。
【請求項2】
更に、前記界面活性剤が第4級アンモニウムであり、前記第4級アンモニウムは、4つの置換基を有し、これら置換基が1?20個の炭素原子を有するアルキル基、アリール基、及びアラルキル基から構成されるグループ中から選択される1種の材質であり、そのうち、少なくとも1つ置換基が8個以上の炭素原子を有するアルキル基である請求項1に記載の硫化物を除去する方法。」

(2)特許法第17条の2第5項所定の目的要件の検討

(2-1)請求項1について
上記請求項1に係る補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「界面活性剤」を、「テトラオクチルホスホニウム塩を含」むものに限定するものであり、請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものでもないから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2-2)請求項2について
本件補正前後の請求項2は、請求項1を引用するものであるから、上記請求項1に係る補正により、実質的に、請求項2についても、その発明を特定するために必要な事項である「界面活性剤」を「テトラオクチルホスホニウム塩を含」むものに限定することとなる。
しかしながら、当該請求項2に係る発明は、「界面活性剤が第4級アンモニウムであり」と規定していることから、上記請求項2に係る補正は、既に第4級アンモニウムであると特定されている界面活性剤を、さらに限定するものとはいえない点で、特許法第17条の2第5項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとは認められない。
また、同条同項第1、3、4号に規定される請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当しないことも明らかである。
そうすると、請求項2に係る補正は、特許法第17条の2第5項所定の目的要件を満たしておらず、同項の規定に違反するものであるから、本件補正は、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
なお、仮に、上記請求項2に係る補正により、上記「界面活性剤」が、第4級アンモニウムとテトラオクチルホスホニウム塩の両者を含むものに特定されたと解釈しても、このように両者を併用する態様については、出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されていないのであるから、新たな技術的事項を導入するものとして特許法第17条の2第3項の規定に違反することになり、本件補正の却下は免れない。

(3)特許法第17条の2第6項所定の独立特許要件の検討

(3-1)本件補正発明
上記(2-2)のとおり、請求項2についてする補正を含む本件補正は目的要件違反により却下されるべきものであるが、仮に、請求項2についてする補正が適法である場合には、請求項1についてする補正は、特許法第17条の2第5項第2号の場合に該当することから、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)についても一応検討する。
本願補正発明は、本件補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであって、再掲すると、次のとおりである。
「 【請求項1】
酸化剤溶液、金属触媒、及び界面滑性剤を相互に結合し、 多相の反応媒質を形成し、そのうち、前記界面活性剤はテトラオクチルホスホニウム塩を含み、
脱硫反応器において、前記多相の反応媒質を一定した十分な時間混合反応させ、液体化石燃料中の硫化物をスルホンに酸化させ、且つ更に複数の泡を形成し、大多数のこれら泡の直径が1mmより小さく、
第1旋風分離器を使用し、油相流体を水相流体中から分離し、
極性溶液抽出器により、油相流体を混合し、極性溶剤流体中から分離し、
界面活性剤、酸化剤溶液、及び金属触媒を含む水相溶剤溶液を再循環させ、
第2旋風分離器を使用し、油相流体を極性溶剤流体中から分離し、
スルホンを分離し、収集し、基本的にスルホンが存在しない有機相流体を発生することに用いることを含み、
そのうち、前記脱硫反応器及び前記極性溶液抽出器がそれぞれ混合槽であり、各混合槽がミキサに接続し、該ミキサが撹拌及び混合に用いられ、複数の泡を発生する液体化石燃料から硫化物を除去する方法。」

(3-2)引用刊行物とその記載事項
<引用刊行物一覧>
1.米国特許出願公開第2008/173571号明細書
(原査定における引用文献1)
2.特開2007-502892号公報(原査定における引用文献2)
3.特表2004-532326号公報(原査定における引用文献3)
4.特開2003-193066号公報(原査定における引用文献4)
5.特公平5-1263号公報(当審において新たに追加)
6.特開平11-269225号公報(当審において新たに追加)
7.社団法人 化学工学会編「化学工学の進歩 第24集 攪拌・混合」(1990年10月20日発行)、槇書店、p.55?67の「4.液液分散と物質移動」の項(特に、「4.1 はじめに」と「4.4 撹拌式抽出塔における液液分散」の項を参照)、p.179?193の「10.3 乳化技術と乳化装置」の項(特に、「10.3.1 乳化とその目的」と「10.3.3 乳化機・乳化装置の種類」の項参照)(当審において新たに追加)
なお、引用刊行物2、5、6は、界面活性剤(相間移動触媒)に関する周知の技術的事項を示すものであり、引用刊行物3、4、7は、反応(抽出)の際の撹拌・混合に関する周知の技術的事項を示すものである。

(3-2-1)引用刊行物1の記載事項
引用刊行物1には、以下の記載がある(なお、『』内は、当審による仮訳である。)。
摘記事項1-1:
「1 . A method for removing sulfides from a liquid fossil fuel, said
method comprising:
(a) combining a liquid fossil fuel with an acidic aqueous solution
comprising water, a hydroperoxide, and a phase transfer catalyst,
to form a multiphase reaction medium, said acidic aqueous solution
having a pH equal to that of a 0.25-30% by volume aqueous hydrogen
peroxide solution;
wherein the phase transfer catalyst is a quaternary ammonium
fluoride compound,
said quaternary ammonium fluoride compound having four
substituents,
wherein the substituents may be the same or different and are from
the group consisting of an alkyl group having a chain length of
from 1 to 20 carbon atoms, an aryl group, or an aralkyl group,
wherein at least one of the substituents is an alkyl group of 8 or
more carbon atoms in length;
(b) applying ultrasound to said multiphase reaction medium for a
time sufficient to cause oxidation of sulfides in said fossil fuel
to sulfones; and
(c) extracting said sulfones to yield an organic phase that is
substantially sulfone-free. 」(Claim 1.)
『1.液体化石燃料からスルフィドを除去する、次の工程を含む方法:
(a)化石燃料を水、ヒドロペルオキシド、及び相間移動触媒で構成される酸性水溶液と結合させて多相反応媒質を形成させる工程であって、前記酸性水溶液は、0.25-30容積%の過酸化水素水溶液のpHと等しいpHを有し、前記相間移動触媒は第4級アンモニウムフッ化物であって、同じかもしくは異なつている四つの置換基を有し、その置換基は1-20の炭素原子の鎖長を有するアルキルグル-プ、アリルグル-プ、もしくはアラルキルグル-プからなるグル-プのものであって、少なくとも一つの置換基が8以上の炭素原子長のアルキルグル-プである工程;
(b)前記多相反応媒質にその化石燃料中のスルフイドがスルホンに酸化されるのに十分な時間超音波を加える工程;
(c)実質的にスルホンを含有しない有機相を得るために、前記スルホンを抽出する工程。』

摘記事項1-2:
「13 . A method in accordance with claim 1 in which step (c)
comprises
(i) phase separating said multiphase reaction medium into organic
and aqueous phases, and
(ii) extracting said sulfones from said organic phase.」(Claim 13.)
『13.工程(c)は、(i)前記多相反応媒質を有機相と水相に相分離する工程と(ii)前記有機相からスルホンを抽出する工程を含む、請求項1記載の方法。』

摘記事項1-3:
「14 . A method in accordance with claim 13 in which (i) comprises
extracting said sulfones by liquid-liquid extraction with a polar
solvent.」(Claim 14.)
『14.工程(i)は、極性溶媒による液/液抽出によりスルホンを抽出することを含む、請求項13記載の方法。』

摘記事項1-4:
「16 . A method in accordance with claim 1 further comprising
combining a catalytic amount of a metallic catalyst selected from
the group consisting of iron (II), iron (III), copper (I), copper
(II), chromium (III), and chromium (VI) compounds, and molybdates,
tungstates, and vanadates with said liquid fossil fuel and said
acidic aqueous solution to form said multiphase reaction medium.」
(Claim 16.)
『16.さらに、鉄(II)、鉄(III)、銅(I)、銅(II)、クロム(III)、クロム(VI)の化合物、モリブデン酸塩、タングステン酸塩、バナジウム酸塩からなるグループから選択される触媒量の金属触媒を、前記液体化石燃料及び前記酸性水溶液と結合させて前記多相反応媒質を形成させる、請求項1記載の方法。』

摘記事項1-5:
「[0036] While not intending to be bound by any particular theory,
it has been reported that the application of ultrasound to a liquid
system produces cavitation in the liquid, i.e., the continuous
formation and collapse of microscopic vacuum bubbles with extremely
high localized temperatures and pressures. For example, it is
believed that ultrasonic waves at a frequency of 45 kHz produce
90,000 formation-implosion sequences per second and localized
temperatures on the order of 5,000℃. and pressures on the order
of 4,500 psi. This causes extreme turbulence and intense mixing.」
『[0036] 特定の理論に縛られることを意図するものではないが、液体システムへの超音波の適用は、液体中にキャビテーション、すなわち、非常に高い局所的な温度および圧力での微細な真空泡の連続的な形成と崩壊を生み出す。例えば、45 kHzの周波数で超音波は、1秒間に90,000シークエンスの形成/崩壊と、局所的な5000℃オーダーの温度と4,500 psiオーダーの圧力を生み出すと考えられている。これは極度の乱流および激しい混合を引き起こす。』

摘記事項1-6:
「[0039] Once the ultrasound is terminated, the product mixture
will contain aqueous and organic phases, and the organic phase will
contain the bulk of the sulfones produced by the oxidation
reaction. The product mixture can be phase-separated prior to
sulfone removal, or sulfone removal can be performed on the
multiphase mixture without phase separation. Phase separation if
desired can be accomplished by conventional means, preceded if
necessary by breaking the emulsion caused by the ultrasound. The
breaking of the emulsion is also performed by conventional means.
The various possibilities for methods of performing these
procedures will be readily apparent to anyone skilled in the art of
handling emulsions, and particularly oil-in-water emulsions.」
『[0039] 超音波照射が終了すると、生成混合物は水相および有機相を含有するであろう、そして有機相は酸化反応により生成されたスルホンの大半を含むであろう。生成混合物はスルホン除去に先立って相分離するか、又は相分離なしに、多相混合物に対してスルホン除去を行うことができる。相分離は、所望により慣用の手段で行われ、必要に応じて、これに先立ち、超音波照射により生じたエマルションの破壊を行うことができる。またエマルション破壊は慣用の手段により行われる。これらの処理を実行する手法の種々の可能性は、エマルション、特にO/W型エマルションを扱う当業者にとって容易に分かるであろう。』

摘記事項1-7:
FIG.9とともに、以下のように記載されている。
「[0047] A diagram of a typical continuous flow system is shown in
FIG. 9 . H2O2 supply tank 1 and diesel supply tank 4 supply diesel
and H2O2 to the circulation pipe 10 . Surfactant and catalyst are
added to form the reaction mixture. The reaction mixture then
passes to the sonoreactor wherein the mixture is sonicated. The
sonoreactor 3 has a chamber connected to the recirculation loop
4 through which the reaction mixture is passed for a period of
time. The pretreatment micellar tank (not shown) may be used to
change the orientation of the sulfur-bearing molecules. In
addition, two hopper-type cyclones 5 , 7 are shown, which include
a first cyclone 5 used for the de-emulsification or separation of
the oil phase from the aqueous phase and a second cyclone 7
used to receive the oxidized diesel after solvent extraction.
Between the two cyclones 5 , 7 , there is a solvent extraction
tower 6 where the sulfone byproduct and low sulfur diesel are
partitioned out, and delivered to the second cyclone 7 . There
is an evaporation tower 8 to distill the solvent used for
extraction to retrieve the solvent for reuse, which is stored in
the solvent tank 9 . In this evaporator, the sulfone byproducts
are obtained. Catalyst may be reactivated after the reaction via
the catalyst activation vessel 11 .」

『[0047] 典型的な連続フローシステムが、図9に示されている。H_(2)O_(2)供給タンク1とディーゼル油供給タンク4(当審注:正しくはディーゼル油供給タンク2と解される。)は、ディーゼル油とH_(2)O_(2)を循環パイプ10に供給する。界面活性剤と触媒が加えられ反応混合物を形成する。そして、反応混合物は、超音波反応器に送られ超音波処理される。超音波反応器3は再循環ループ4に接続されたチャンバを有し、反応混合物は一定時間通過される。前処理ミセルタンク(図示せず)を硫黄含有分子の配向を変更するために使用することができる。さらに、2つのホッパー型サイクロン5、7が示され、第1サイクロン5は、脱乳化又は水相からの油相の分離のために使用され、第2サイクロン7は、溶媒抽出後に酸化されたディーゼル油を受け取るために使用される。2つのサイクロン5、7の間には、溶媒抽出塔6があり、スルホン副産物と低硫黄ディーゼル油が隔離され、第2サイクロン7に運ばれる。再利用のための溶媒を回収するために、抽出に使用した溶媒を蒸留する蒸発塔8があり、溶媒は溶媒タンク9に保存される。この蒸発器では、スルホン副産物が得られる。触媒は、触媒活性化容器11を介して反応後に再活性化することができる。』

(3-2-2)引用刊行物2の記載事項
引用刊行物2には、以下の記載がある。
摘記事項2-1:
「【請求項1】
原油留分中においてイオウ含有化合物および窒素含有化合物の双方の濃度を低下させるために、原油留分を処理する方法であって、
(a)ヒドロペルオキシドを前記原油留分と混合して第1の混合物を形成し、前記原油留分中に存在するイオウ含有化合物の大部分および窒素含有化合物の大部分が酸化するように、前記混合物を十分に加熱する工程と、
(b)原油留分から、工程(a)で生成した酸化されたイオウ含有化合物を分離するとともに、工程(a)で生成した酸化された窒素含有化合物を分離する工程と、からなる方法。」

摘記事項2-2:
「【0031】
本発明の一実施形態では、エマルションを安定化するために界面活性剤または他のエマルション安定剤が含まれる。・・・カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤およびノニオン界面活性剤が使用可能である。好ましいカチオン種は第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩およびクラウン・エーテルである。・・・」

(3-2-3)引用刊行物3の記載事項
引用刊行物3には、以下の記載がある。
摘記事項3-1:
「【請求項1】
硫黄、窒素および不飽和化合物で汚染された化石炭化水素ストリーム中の硫黄、窒素および不飽和化合物を、接触酸化する、下記の工程を包含するプロセス:
a)微粉粗酸化鉄を準備すること;
b)少なくとも1種の酸を準備すること;
c)少なくとも1種の過酸化物を準備すること;
d)大気圧下および周囲と同じか超える温度の下で、撹拌しながら、上記の有機酸、上記の硫黄、窒素および不飽和化合物で汚染された炭化水素ストリーム、次いで過酸を得るために上記の過酸化物を混合し、そのときの過酸化物および有機酸の、炭化水素ストリーム中に存在する硫黄および窒素の合計に対する相対的なモル量は少なくとも 3.0 で、pH は 2.0?6.0 で、不飽和物、硫黄および窒素汚染物質が部分的に酸化された炭化水素ストリームが得られるに必要な時間をかけるように、硫黄および窒素汚染物質と同様に不飽和化合物を酸化すること;
e)大気圧下で、周囲温度と同じか超える温度で、この周囲温度を超える温度はプロセス自体から生じるのであるが、撹拌しながら、上記の部分的に酸化された炭化水素ストリームに、酸化鉄、炭化水素ストリームならびに酸化された、不飽和化合物、硫黄および窒素化合物のスラリーが得られるように、触媒量の上記微紛酸化鉄を加えることによって発生したヒドロキシルラジカル酸化剤の存在下で、反応条件を1?2時間、および酸性 pH を 2.0?6.0 に保ち、上記不飽和化合物を硫黄および窒素汚染物質と同様に、さらに酸化すること;
f)反応の終了後、水相および油質の炭化水素相を含む反応媒体を濾過し、消費された酸化鉄触媒を分離すること;
g)有機物に富んだ水相を分離するためデカンテーションすること;
h)出来た炭化水素相の pH を 6.1?9.0 に変えて、油相を回収すること;
i)酸化物質が所望の水準になるように抽出するために油相を後処理すること;および
j)硫黄化合物が 0.01 重量%?0.2 重量%および窒素化合物が 0.001 重量%?0.15 重量%、最終のオレフィン含有量が最初のオレフィン含有量の最大 50 %である後処理された炭化水素相を回収すること。」

摘記事項3-2:
「【0061】
別な方法では、処理された、触媒、酸化化合物および化石油のスラリーは、塩の水溶液で洗われ、酸化化合物に富んだ残渣が生ずる。
あるいは、本発明の原理によれば、処理される炭化水素ストリームは、前もって、一次的なコロイドを作るために、コロイドミルで30秒間激しく撹拌することにより、界面活性剤溶液中で乳化してもよく、このコロイドは約2時間、そのまま保たれ、この時間は酸化反応に必要な時間である。この方法により、明らかに、油/水、の大きな接触表面が、反応の間だけ、安定化する。この乳化水溶液中の界面活性剤含有量は、処理されるべき炭化水素ストリームの性質により、1.5 重量%?2.5 重量%で変化させることができる。
有用な界面活性剤は、主として、エトキシ化ラウリルアルコール、エトキシ化アルキルフェノール(例えばエトキシ化ノニルフェノール、エトキシ化オクチルフェノール)、N-アルキルグリコースアミド、直鎖(fatty)アルコールアミド、直鎖(fatty)オキシドアミドといった任意のエトキシ化直鎖(fatty)アルコールのような非イオン系界面活性剤である。」

摘記事項3-3:
「【実施例3】
【0079】
本実施例は、硫黄および窒素化合物の除去量を増すために、コロイドが用いられる本発明のプロセスを説明するもので、実施例1の過酸化物、酸および触媒量はそのままとしている。本例は、また、さらに精製工程にかけるのに適した生成物を得ることができることを説明している。
反応に先だって、150 ml のディレードコーキング法で製造した軽質軽油(187℃?372℃)(d_(20/4)=0.862、総 S=5,100ppm、総 N=2,790ppm、塩基性N=2,535ppm)および 50 ml の 0.25 重量%界面活性剤(ノニルフェノールエトキシレート)の一時的コロイド混合物を調製した。このコロイド混合物が一時的と呼ばれるのは、界面活性剤の量および種類が、反応時間の完了前に、液滴が合体するのを避けるように選ばれているためである。還流器付きの丸底 500 ml フラスコ中で、3g の褐鉄鉱(25 メッシュ、約 45重量% Fe、中央ブラジルのニッケル鉱山産)を、前もっての調製物に加え、この混合物を15 分間、激しく撹拌し続けた。次いで、10ml の 30% H_(2)O_(2) を加え[モル比、H_(2)O_(2)/(N+S)=6.6]、2 ml の分析グレードの蟻酸[HCOOH/(N+S)モル比=3.4]および 1 ml の中性の 0.1M、KH_(2)PO_(4)/NaOH 溶液を加えた。得られた混合物(pH=3.0)は 1 時間室温で激しく撹拌された。次いで生成物を濾過し、NaOH 飽和溶液で pH 6?7に調整した。油相は、容易に分離され、50 ml のブライン(10 重量% NaCl)で抽出され、次いで蒸留水で洗浄し、総N=936.2 ppm (66.4 %除去)および総S=4,815 ppm(5.6 %除去)の中間油が得られた。この中間油を等容の N,N'-ジメチルホルムアミド(DMF)分析グレードで2時間激しく撹拌して洗浄し、次いで、等容の KH_(2)PO_(4) 3 重量%溶液(pH=5.0)で、残余の溶媒を除くために、撹拌下で1時間洗浄し、蒸留水で洗浄した。最終製品の油は、活性 3A モレキュラーシーブ(Baker 社)とともに洗われ、透明な黄味を帯びた色を呈し、総S=1,522 ppm(70.2%合計除去率)、総N=11.7ppm(93.8%合計除去率)であった。」

(3-2-4)引用刊行物4の記載事項
引用刊行物4には、図5(c)(摘記省略)とともに以下の記載がある。
摘記事項4-1:
「【請求項1】 オゾンを含むガスを、硫黄分を含む液状石油製品と接触させることにより、液状石油製品中の硫黄分を酸化し、生成した酸化硫黄化合物を分離することを特徴とする、液状石油製品の酸化脱硫方法。
【請求項2】 請求項1において、酸化硫黄化合物を低級アルコールを含む溶媒により抽出して分離することを特徴とする、液状石油製品の酸化脱硫方法。」

摘記事項4-2:
「【0028】溶媒による抽出分離に際しては、抽出を効果的に実施するために、撹拌等の混合操作を行うことが好ましい。これは撹拌等の混合方法のほか、例えばスタティックミキサー、スプレーノズル、絞り弁等による混合でもよい。良く混合された液状石油製品、抽出溶媒および酸化硫黄化合物は、抽出操作によって液状石油製品と、酸化硫黄化合物を含む抽出溶媒に分離される。このように、抽出によって酸化硫黄化合物は、石油製品から溶媒側に移動し、酸化硫黄化合物が除去された液状石油製品は脱硫石油製品として、必要に応じて後処理を施した後回収される。・・・
【0032】図1は、本発明の一実施形態に係る酸化脱硫装置100の概要を示す図面である。図1において、酸化脱硫装置100は、気液接触手段としての反応器11、混合手段としての混合器31、第1の分離手段としての分離槽41を備えている。また、この酸化脱硫装置100は、回収された抽出溶媒53を精製して再利用するために第2の分離手段としての蒸留塔42を備えている・・・
【0036】図1において、混合手段としての混合器31は、スタティックミキサー32が使用されている[図5(a)参照]。スタティックミキサー32には、一般的な構成ものを使用することができる。混合器31としては、スタティックミキサー32に限らず、例えば図5(b)に示す絞り弁33や、同図(c)に示す攪拌槽34なども利用できる。・・・
【0037】第1の分離手段としての分離槽41は、液状石油製品51と抽出溶媒53を静置して層分離させて分別回収するためのものであり、上部と下部にそれぞれ排出部を有する。なお、図1では第1の分離手段として独立した分離槽41を備えているが、例えば混合手段として図5(c)に示す攪拌槽34などを使用する場合には、混合器31と一体の構成としてもよい。」

(3-2-5)引用刊行物5の記載事項
引用刊行物5には、以下の記載がある。
摘記事項5:
「テトラブチルアンモニウムプロマイド、テトラブチルアンモニウムヨーダイド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラオクチルホスホニウムクロライド、・・・・更に、環状のポリエチレングリコール(いわゆるクラウンエーテル)・・が適当である。この種の化合物は、2相系水/有機溶媒における反応を促進するので、有機化学において一般に“相間移動触媒”として知られている。」(3頁左欄最下行?右欄20行)

(3-2-6)引用刊行物6の記載事項
引用刊行物6には、以下の記載がある。
摘記事項6:
「【0013】・・・相関移動触媒としては、次の一般式で表わされる4級アンモニウム塩または4級ホスホニウム塩の少なくとも一種が、・・・用いられる。
R1?R4:炭素数1?25のアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アルキルアリール基、アラルキル基またはポリオキシアルキレン基であり、あるいはこれらの内の2?3個がPまたはNと共に複素環構造を形成することもできる
X~:Cl~、Br~、I~・・・等のアニオン
【0014】具体的には、例えば・・・・・テトラオクチルホスホニウムクロライド、セチルジメチルベンジルホスホニウムクロライドなどが挙げられる。」

(3-2-7)引用刊行物7の記載事項
引用刊行物7には、以下の記載がある。
摘記事項7-1:
引用刊行物7の「4.1 はじめに」の項の冒頭には、「液液分散系は液液抽出あるいは乳化重合など界面を通しての物質移動を伴う操作に適用され、界面積を大きくするため機械的撹拌が行われる。」と記載され、「4.4 撹拌式抽出塔における液液分散」の項の冒頭には、「抽出塔では大きな界面積を得るため撹拌により液滴を細分化するが、このことは向流操作を困難にする。この両方を満足すべく種々の工夫がなされ、撹拌式抽出塔にはFig.4.4に示すように多くのものがある。」と記載され、当該Fig.4.4には、撹拌翼を有する種々の撹拌式抽出塔が示されている(図省略)。

摘記事項7-2:
引用刊行物7の「10.3.1 乳化とその目的」の項の冒頭には、「乳化とは、お互いに親和性のない水系液と油系液のいずれか一方の系(連続相と呼ぶ)に、他方の系の液を数ミクロン以下の微小な液滴状態(分散相と呼ぶ)に分散させ、見掛けの上では、お互いがあたかも親和し、そう簡単には水系液と油系液とが比重差による分離層を作らない流体の混合状態をいう。」と記載され、「10.3.3 乳化機・乳化装置の種類」の項には、乳化機・乳化装置として、「1)一般攪拌機」、「2)タービン・ステータ型高速回転式撹拌分散機」、「3)コロイドミル」、「4)高速ジェット式乳化分散機」、「5)超音波式乳化器」が挙げられている。

(3-3)引用発明
引用刊行物1には、摘記事項1-1に液体化石燃料からスルフィドを除去する一連の工程が示され、摘記事項1-2、1-3、及び摘記事項1-4にはそれぞれ、極性溶媒によりスルホンを抽出すること、及び多相反応媒質へ金属触媒を添加することが記載されている。
また、摘記事項1-7には、具体的な態様として、超音波反応器による処理後、(i)第1サイクロン5において、水相と酸化されたディーゼル油相(スルホン含有ディーゼル油相)を分離すること、(ii)上記水相を循環パイプ10を介して再循環すること、(iii)溶媒抽出塔6において、上記酸化されたディーゼル油相(スルホン含有ディーゼル油相)と溶媒を混合してスルホンの液/液抽出を行い、スルホンと低硫黄ディーゼル油を隔離すること、(iv)第2サイクロン7において、上記低硫黄ディーゼル油とスルホン含有溶媒とを分離すること、及び(v)蒸留塔8において、上記スルホン含有溶媒を蒸留してスルホンと溶媒を分離しスルホンを収集することが記載されている。
これらの記載を総合すると、引用刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「液体化石燃料からスルフィドを除去する、次の工程を含む方法。
a)液体化石燃料を、水、ヒドロペルオキシド、及び第4級アンモニウムフッ化物である相間移動触媒(同じかもしくは異なつている四つの置換基を有し、その置換基は1-20の炭素原子の鎖長を有するアルキルグル-プ、アリルグル-プ、もしくはアラルキルグル-プからなるグル-プのものであって、少なくとも一つの置換基が8以上の炭素原子長のアルキルグル-プであるもの)で構成される酸性水溶液並びに金属触媒と結合させて多相反応媒質を形成させる工程、
b)超音波反応器において、前記多相反応媒質にその化石燃料中のスルフイドがスルホンに酸化されるのに十分な時間超音波を加える工程、
c1)第1サイクロンにおいて、前記超音波反応器により処理された多相反応媒質の水相と酸化された化石燃料油相(スルホン含有化石燃料油相)を分離する工程、
c2)前記水相を、循環パイプを介して再循環する工程、
c3)溶媒抽出塔において、前記油相と極性溶媒を混合してスルホンの液/液抽出を行い、スルホンと低硫黄化石燃料を隔離する工程、
c4)第2サイクロンにおいて、スルホン含有極性溶媒と、実質的にスルホンを含有しない前記低硫黄化石燃料とを分離する工程、
c5)蒸留塔において、前記スルホン含有極性溶媒を、スルホンと極性溶媒とに分離し、スルホンを収集する工程。」

(3-4)本願補正発明と引用発明との対比
引用発明における「水、ヒドロペルオキシド」は、本願補正発明における酸化剤溶液に相当する形態として存在するものといえるし、引用発明における「第4級アンモニウムフッ化物である相間移動触媒」は、本願補正発明における界面活性剤に相当するものである。
さらに、引用発明における「スルフィド」、「超音波反応器」、「第1サイクロン」、「第2サイクロン」、「溶媒抽出塔」はそれぞれ、本願補正発明における「硫化物」、「脱硫反応器」、「第1旋風分離器」、「第2旋風分離器」、「極性溶液抽出器」に相当するものである。
また、摘記事項1-5を参酌すると、引用発明におけるb工程、すなわち、超音波反応器によるスルフィドの酸化工程は、多相反応媒質を構成する液体化石燃料中のスルフィド(硫化物)と酸性水溶液中のヒドロペルオキシド(酸化剤)を激しく混合反応させて、当該スルフィドをスルホンに酸化させる工程であることが理解できるとともに、引用発明におけるc2工程において再循環される水相は、多相反応媒質中の水相、すなわち、水、ヒドロペルオキシド、第4級アンモニウムフッ化物である相間移動触媒からなる酸性水溶液と金属触媒を含むものと解されるから、本願補正発明における「界面活性剤、酸化剤溶液、及び金属触媒を含む水相溶剤溶液」に相当するものということができる。
さらに、引用発明におけるc4工程により分離された、実質的にスルホンを含有しない低硫黄化石燃料は、本願補正発明における「基本的にスルホンが存在しない有機相流体」であると解することができる。

そうすると、本願補正発明と引用発明とは、次の点で一致するものと認められる。
「(液体化石燃料と)酸化剤溶液、金属触媒、及び界面活性剤を相互に結合し、多相の反応媒質を形成し、
脱硫反応器において、前記多相の反応媒質を一定した十分な時間混合反応させ、液体化石燃料中の硫化物をスルホンに酸化させ、
第1旋風分離器を使用し、油相流体を水相流体中から分離し、
極性溶液抽出器により、(極性溶液流体と)油相流体を混合し、(スルホンを液/液抽出後、油相流体を、スルホンを含有する)極性溶剤流体中から分離し、
界面活性剤、酸化剤溶液、及び金属触媒を含む水相溶剤溶液を再循環させ、
第2旋風分離器を使用し、油相流体を極性溶剤流体中から分離し、
スルホンを分離し、収集し、基本的にスルホンが存在しない有機相流体を発生することに用いることを含む、
液体化石燃料から硫化物を除去する方法。」

そして、両者は、次の点で相違するといえる。
相違点1:本願補正発明における界面活性剤は、テトラオクチルホスホニウム塩を含むものであるのに対し、引用発明の相間移動触媒(界面活性剤)は、第4級アンモニウムフッ化物である点。
相違点2:本願補正発明における脱硫反応器及び極性溶液抽出器は、「それぞれ混合槽であり、各混合槽がミキサに接続し、該ミキサが撹拌及び混合に用いられ、複数の泡を発生する」とともに、該脱硫反応器において形成される複数の泡は、「大多数のこれら泡の直径が1mmより小さ」いのに対して、引用発明には、これらの点の明示がない点。

(3-5)相違点の検討
(3-5-1)相違点1について
引用刊行物2には、ヒドロペルオキシドによる化石燃料の酸化反応において、界面活性剤として、第4級アンモニウム塩以外にも、第4級ホスホニウム塩やクラウン・エーテルを用い得ることが記載され(摘記事項2-1、2-2参照)、また、引用刊行物6、7によれば、テトラオクチルホスホニウムクロライドなどのテトラオクチルホスホニウム塩は、第4級アンモニウム塩と並び、一般的な相間移動触媒(界面活性剤)として知られていることが理解できる(摘記事項6、7参照)。
これらの点を勘案すると、確かに引用発明における相間移動触媒(界面活性剤)は、特定の第4級アンモニウムフッ化物を用いるものであり、本願補正発明と相違するものであるが、これに代えて、第4級アンモニウム塩と並んで、一般的な相間移動触媒たるテトラオクチルホスホニウムクロライドなどのテトラオクチルホスホニウム塩を試行することは、当業者にとって容易なことというべきである。
そして、本願補正発明において、テトラオクチルホスホニウム塩を採用することによる格別顕著な作用効果も見当たらない。すなわち、(i)本件明細書には、界面活性剤として、第4級アンモニウム塩を用い得る旨の記載が散見され(段落【0009】など)、テトラオクチルホスホニウム塩は、第4級アンモニウム塩と同列に位置付けられていると解されること、(ii)本件明細書には、テトラオクチルホスホニウム塩による特異な効果を認めるに足りる実験データ等は何ら示されていないこと、(iii)本件明細書の段落【0061】には、「テトラオクチルホスホニウム塩は、臭化物等の副産物の発生を防止することもできる。」との記載が認められるものの、これを裏付ける実験データ等は何ら示されていないし、そもそも、このような酸化反応時に生成される臭化物の副産物は、界面活性剤(相間移動触媒)中の臭素に起因するところ(本件明細書の段落【0007】の「しかしながら、第4級アンモニウム臭化物を界面活性剤として使用すれば、臭化物等の副産物を発生する。」との記載や引用刊行物1の[0012],[0076],FIG.2参照)、本願補正発明は、臭化物以外のテトラオクチルホスホニウム塩であるとまで特定していない(臭素の存在を排除していない)のであるから、この段落に記載された事項は、本願補正発明により奏される効果とは言い難いこと、(iv)上記臭化物の副産物は、引用発明においてテトラオクチルホスホニウム塩を採用するにあたり、臭化物以外のもの(テトラオクチルホスホニウムクロライドなど)を用いれば当然に奏される効果にすぎないこと、を踏まえると、本願補正発明において、テトラオクチルホスホニウムクロライドなどのテトラオクチルホスホニウム塩を採用することによる有利な効果を認めることはできない。

(3-5-2)相違点2について
(3-5-2-1)脱硫反応器について
引用刊行物1の摘記事項1-5、1-6を参酌すると、引用発明における超音波反応器による酸化工程(b工程)は、酸化剤を含む水相と化石燃料を含む油相とを激しく混合・撹拌し、エマルション(乳化物)を形成するものであることが理解できる。
ここで、引用刊行物7の摘記事項7-2によれば、一般に、乳化とは、「お互いに親和性のない水系液と油系液のいずれか一方の系(連続相と呼ぶ)に、他方の系の液を数ミクロン以下の微小な液滴状態(分散相と呼ぶ)に分散させ、見掛けの上では、お互いがあたかも親和し、そう簡単には水系液と油系液とが比重差による分離層を作らない流体の混合状態」を指し、この状態を形成するための一般的な乳化機・乳化装置(ミキサ)として、「1)一般攪拌機」、「2)タービン・ステータ型高速回転式撹拌分散機」、「3)コロイドミル」、「4)高速ジェット式乳化分散機」、「5)超音波式乳化器」といったものが常用されていることが看取できる。
また、本願補正発明の脱硫反応器につき、本件明細書の段落【0059】には、「本実施例において、ミキサ110は、機械撹拌式ミキサであり、それは、機械撹拌の方式を利用し、第1混合槽100中の溶液を混合する。しかしながら、当業者は、超音波発振器又は高圧水柱ミキサ等の混合効果を達成可能なミキサを使用することもでき、いわゆる高圧水柱ミキサは、高圧水柱の噴射を利用し、混合の効果を達成するものである。」と記載されているから、本願補正発明における「ミキサ」とは、撹拌翼を具備するような一般的な撹拌機のみならず、超音波発振器や高圧水柱ミキサ(これらは上記常用の「5)超音波式乳化器」、「4)高速ジェット式乳化分散機」に相当するものと認められる。)などをも含む広範なものとして定義されていると解される。
そうすると、引用発明における超音波反応器(脱硫反応器)は、水相(水系液)と油相(油系液)を撹拌して乳化を行う「ミキサ(乳化機)」として認識されるものであることから、「ミキサ(乳化機)」としての脱硫反応器であるということができる点で本願補正発明のものと何ら相違しないといえる。
仮に、本願補正発明における脱硫反応器が、上記常用の「1)一般攪拌機」、「2)タービン・ステータ型高速回転式撹拌分散機」、「3)コロイドミル」のようなものを意図するものであるとしても、上記のとおり、これらは、乳化機として既に常用されているのであるから、引用発明における、エマルション(乳化物)の形成手段たる超音波反応器に代えて、上記「1)一般攪拌機」の如き常用の撹拌機(乳化機)を用いることは当業者が容易に想到し得るものと認められる。
そして、引用刊行物3には、炭化水素ストリーム中の硫黄を、接触酸化プロセスにより酸化脱硫するにあたり、予め、コロイドミルにより炭化水素ストリーム(軽質軽油など)と界面活性剤の一時的なコロイド(乳化物)を形成しておき、油/水の大きな接触表面を確保した上で、過酸化物による酸化脱硫反応を、激しい撹拌状況下において行うことが記載されており(摘記事項3-1?3-3参照)、この「激しい撹拌」は超音波方式でない一般的な撹拌機が使用されていると解され、これによっても当該酸化脱硫反応が可能であることが確認されているのであるから、引用発明における超音波反応器を、上記常用の撹拌機に置換することを阻害する要因も見当たらない。

(3-5-2-2)泡の発生とその直径について
引用発明のb工程(酸化工程)(後記するc3工程(溶媒抽出工程)も同様)は、液/液分散系にて行われるものであるところ、このような液/液分散系の反応において、物質移動の促進を図るためには、液/液間の界面積をある程度大きくすること、すなわち、分散相を細かい液滴に分裂させることが求められることは、技術常識というべき事項である(摘記事項7-1、摘記事項3-2参照)。
そして、引用発明における、液体化石燃料とヒドロペルオキシド(酸化剤)との酸化反応についても、上記技術常識が妥当するから、この酸化反応を効率的に行うためには、反応物質たる液体化石燃料とヒドロペルオキシド(酸化剤)の、互いの接触面積(界面積)を高めることが肝要であって、コロイド状態や乳化状態といったミクロンオーダーの微細な液滴形態(乳化物の液滴の直径については、上述した摘記事項7-2の乳化の定義を参照。)とすることが好ましいことが理解できる。
そうすると、引用発明において、上記した常用の撹拌機(乳化機)を採用するにあたり、液体化石燃料(あるいはヒドロペルオキシド)を、コロイド形態あるいは乳化形態、すなわち、1mmに満たない直径の微小液滴形態とすることは、上記技術常識からみて当然の帰結にすぎないというべきであって、この点に格別の創意は認められない(なお、引用発明における超音波反応器はエマルションを形成するものであることから、既に、1mmに満たない直径の微小液滴形態を具現しているということもできる。)。

ここで、本願補正発明がいうところの「泡」と、コロイドや乳化物にみられる上記微小「液滴」との異同が問題となるが、本件明細書の以下の記載からみて、これらは同等のものと解するのが相当である。
「【0051】
・・・第1混合槽において、ミキサにより、これら反応物が徹底して混合されることができる。また、第1混合槽内の油相/水相の乳状液(oil/aqueous emulsion)において、多くのバブルが発生する接触面積が硫化物をスルホンに酸化するか、スルホンの反応速度を加速することができる。」、
「【0053】
・・・本実施例において、極性溶液抽出器は、ミキサの混合槽に配置される。十分に撹拌、混合された乳化混合物中に多くのマイクロバブルを添加することで抽出する効果を増加することができ、これは、極性溶液及び化石燃料の接触面積が増加するからである。これらマイクロバブルは、液体泡(liquid bubble)又は気体泡であることができ、これら液体泡は、例えば、油相泡又は水相泡である。・・・」。
「【0064】
ステップ105において、多相の反応媒質を一定した十分な時間混合反応を行い、ディーゼル油中の硫化物をスルホンに酸化させ、発泡エマルジョン (emulsion bubble)を形成する。第1混合槽100内において多相の反応媒質に対し十分な撹拌及び混合を行った後、発生する泡の直径は、何れも1mmより小さいか、大部分の泡の直径が何れも1mmより小さくなるようにすることができ、好適な状況においては、大部分の泡の直径を約10μmに保持し、且つその残りの多数の泡の直径が0.1mmより小さいものである。」
「【0066】
ステップ115において、第2混合槽200、又は極性溶液抽出器と称するものにより、極性溶剤中の油相流体を混合し、分離することができる。・・・形成した複数の発泡エマルジョンの直径は何れも1mmより小さいか、大部分の泡の直径が何れも1mmより小さく、好適な状況においては、大部分の泡の直径が約10μmに保持され、且つその残りの多数の泡の直径が0.1mmより小さい。ステップS105及びステップS115において、発生する泡は、気泡又は混ざらない液体泡であることができる。」
すなわち、上記本件明細書の記載によれば、本件補正発明における「泡」は、反応物質(油相と水相)の接触面積を増加させるものであって、十分な撹拌・混合により生じる、液体泡である油相泡又は水相泡を含むものとして定義されていることが把握できる。そして、このような「泡」は、前記本件明細書の段落【0059】に記載された常用のミキサにより形成されるものであって、特異なものではないことを考え合わせると、当該「泡」は、引用発明の酸化工程に際し、常用のミキサによって普通に形成される微細な「液滴」を包含するものにほかならないというべきであり、両者は、同等のものと考えるのが自然である。
さらに、本件補正発明における「泡の直径」に関する規定により奏される作用効果についてみても、本願明細書には、泡の直径の規定につき、その臨界的意義を裏付ける実験データ等は何ら示されていないし、この規定は、単に、反応物質(油相と水相)の接触面積の増加を期待するものと解されるから、上記した技術常識に照らして予想される作用効果の域を超えるものとは到底いえない。

(3-5-2-3)極性溶液抽出器について
引用発明におけるc3工程(溶媒抽出工程)は、溶媒抽出塔により行うものであるところ、一般的な極性溶液抽出器(溶媒抽出装置)についてみると、撹拌槽(混合槽)内で、機械的撹拌を伴うもの(ミキサーセトラーと称されるものなど)は至極一般的なものであることが分かる(スルホンの溶媒抽出装置については摘記事項4-1、4-2、常用の溶媒抽出装置については摘記事項7-1参照)。
そうすると、引用発明における溶媒抽出塔は確かにその詳細を明示するものではないが、当該溶媒抽出塔として、上記した機械的撹拌を伴う一般的な溶媒抽出装置を用いることに格別の創意は認められない。
そして、液/液分散系の反応を伴う極性溶液抽出器(溶媒抽出装置)において十分な撹拌を行う理由は、分散液の液滴を細分化して液/液間の大きな界面積を得ることにあることは上記したとおりであるから(摘記事項7-1参照)、引用発明において、上記した一般的な溶媒抽出装置を採用する際にも、液滴の直径はさておき(本願補正発明では極性溶液抽出器における泡の直径については規定されていない。)、油相あるいは極性溶媒の複数の液滴(本願補正発明における「複数の泡」に相当)が生じることはいうまでもない。

(3-6)独立特許要件の検討の小括
以上検討したとおり、本願補正発明は、引用発明、引用刊行物2、5、6に記載された界面活性剤(相間移動触媒)に関する周知の技術的事項、及び、引用刊行物3、4、7に記載された反応(抽出)の際の撹拌・混合に関する周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)補正却下についてのまとめ

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反し、、または、そうでないとしても、同法同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明についての当審の判断

(1)本願発明

平成25年10月31日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?18に係る発明は、平成25年5月17日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?18にそれぞれ記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、再掲すると次のとおりのものである。
「 【請求項1】
酸化剤溶液、金属触媒、及び界面滑性剤を相互に結合し、 多相の反応媒質を形成し、
脱硫反応器において、前記多相の反応媒質を一定した十分な時間混合反応させ、液体化石燃料中の硫化物をスルホンに酸化させ、且つ更に複数の泡を形成し、大多数のこれら泡の直径が1mmより小さく、
第1旋風分離器を使用し、油相流体を水相流体中から分離し、
極性溶液抽出器により、油相流体を混合し、極性溶剤流体中から分離し、
界面活性剤、酸化剤溶液、及び金属触媒を含む水相溶剤溶液を再循環させ、
第2旋風分離器を使用し、油相流体を極性溶剤流体中から分離し、
スルホンを分離し、収集し、基本的にスルホンが存在しない有機相流体を発生することに用いることを含み、
そのうち、前記脱硫反応器及び前記極性溶液抽出器がそれぞれ混合槽であり、各混合槽がミキサに接続し、該ミキサが撹拌及び混合に用いられ、複数の泡を発生する液体化石燃料から硫化物を除去する方法。」

(2)原査定の拒絶理由

原査定の拒絶の理由は、「平成25年2月15日付け拒絶理由通知書に記載した理由2」、すなわち、本願発明は、下記引用文献1?4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けるこことができない、というものである。
<引用文献一覧>
1.米国特許出願公開第2008/173571号明細書
2.特開2007-502892号公報
3.特表2004-532326号公報
4.特開2003-193066号公報

(3)引用刊行物の記載事項

原査定の拒絶の理由において引用された引用文献1?4はそれぞれ、上記「2.(3-2)」における引用刊行物1?4であり、その記載事項は、上記「2.(3-2-1)?(3-2-4)」に記載したとおりである(以下、これらの引用文献を「引用刊行物」と呼称する。)。
さらに、当業者間の技術常識を示す文献として、上記引用刊行物7を挙げることができ、その記載事項は、上記「2.(3-2-7)」に記載したとおりである。

(4)引用発明

引用刊行物1の記載事項から認定し得る引用発明は、上記「2.(3-3)」に記載したとおりである。

(5)対比・検討

上記「2.(1)、(2)」にて説示したとおり、本願補正発明(上述の本件補正後の発明)は、本願発明(上述の本件補正前の発明)に対して、「界面活性剤」に関する限定を付与したものであるから、逆に、本願発明は、本願補正発明から、上記界面活性剤に関する限定事項を省いたものであるということができる。
すなわち、本願発明は、上記界面活性剤に関する限定事項を具備するものではないから、本願発明と引用発明とは、先に相違点2とした技術的事項においてのみ相違することとなり、その余の点で一致する。
そして、本願発明における当該相違点2に係る技術的事項は、上記「2.(3-5-2)」の項における説示のとおり、格別の創意を要するものとは認められないから、本願発明は、引用発明及び引用刊行物3、4、7に記載された反応(抽出)の際の撹拌・混合に関する周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本願発明の作用効果に関しても、当業者が予測し得る範囲のものであって、格別顕著なものではない。

4.むすび

以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-08-29 
結審通知日 2014-09-02 
審決日 2014-09-16 
出願番号 特願2011-97457(P2011-97457)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C10G)
P 1 8・ 575- Z (C10G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 澤村 茂実  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 日比野 隆治
菅野 芳男
発明の名称 化石燃料の脱硫方法及び該脱硫方法を使用する装置  
代理人 新保 斉  
代理人 新保 斉  
代理人 新保 斉  

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