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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B05B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B05B
管理番号 1296920
審判番号 不服2014-558  
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-01-10 
確定日 2015-01-28 
事件の表示 特願2010-541523「3次元の物体上に印刷するための装置および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 7月16日国際公開、WO2009/088864、平成23年 5月 6日国内公表、特表2011-514234〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2008年12月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年12月31日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成22年6月30日に特許法第184条の5第1項に規定する書面が提出され、同年8月25日に同法第184条の4第1項に規定する明細書、請求の範囲及び要約書の翻訳文が提出され、同年8月26日に手続補正書が提出され、平成24年10月29日付けで拒絶理由が通知され、平成25年2月5日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年9月3日付けで拒絶査定がされ、平成26年1月10日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに同時に特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出されたものである。

第2 平成26年1月10日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成26年1月10日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 平成26年1月10日付けの手続補正の内容
平成26年1月10日に提出された手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、本件補正により補正される前の(すなわち、平成25年2月5日に提出された手続補正書により補正された)下記(1)に示す特許請求の範囲の記載を下記(2)に示す特許請求の範囲の記載へ補正するものである。

(1)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
3次元の物体の湾曲した表面上に画像を印刷するための装置であって、
前記物体を支持するように適合された支持固定具と、
印刷媒体源に連結された複数のノズルを含むインクジェットプリントヘッドと、
関節結合可能なロボットアームであって、前記プリントヘッドおよび前記支持固定具の一方が取り付けられて担持されるとともに、4以上の移動の自由度を有し、前記プリントヘッドが一連の走査経路に沿って前記物体の湾曲した表面に追従するのに応じて相対的に移動可能である、ロボットアームと、
前記ロボットアームに取り付けられて担持され、前記物体の湾曲した表面に対するプリントヘッドの高さをモニタするプリントヘッド高さセンサと、
前記ロボットアームに連結され、前記プリントヘッドが前記一連の走査経路に沿って相対的に移動するように前記ロボットアームを動作させるように構成されたコントローラであって、前記プリントヘッドが前記プリントヘッド高さセンサに接続され、前記一連の走査経路に沿って移動するときに、前記ロボットアームが、印刷に適した位置において前記プリントヘッドを前記物体の湾曲した表面に対し連続的に垂直に位置させ、前記プリントヘッドに連結され、さらに、前記物体の湾曲した表面上に画像を形成するように前記複数のノズルが前記走査経路に沿った所定の位置で印刷媒体を噴出するように構成されるコントローラと、
を備えることを特徴とする装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置であって、前記複数のノズルが直線の配列および2次元の配列のうち一方で設けられることを特徴とする装置。
【請求項3】
請求項1に記載の装置であって、前記コントローラが、前記コントローラのメモリに格納された画像位置データと互いに関係する前記走査経路上の既知の点からの距離に基づいて、前記複数のノズルが印刷媒体を噴出するように構成されることを特徴とする装置。
・・・(略)・・・
【請求項6】
請求項1に記載の装置であって、パーツの湾曲した表面上の前記パーツの構成を感知するように構成されたセンサをさらに備え、前記コントローラが、前記センサによるパーツ構成の感知に基づいて前記複数のノズルが印刷媒体を噴出するように構成されることを特徴とする装置。
・・・(略)・・・
【請求項8】
請求項6に記載の装置であって、前記コントローラが、前記複数のノズルそれぞれから印刷媒体を噴出するための1組の値をメモリに格納するように構成され、前記1組の値が、前記パーツの構成の各位置に対応することを特徴とする装置。
・・・(略)・・・
【請求項11】
3次元の物体の湾曲した表面上に画像を印刷するための方法であって、
その上に印刷する湾曲した表面を有する3次元の物体を設けるステップと、
前記物体の表面近傍に複数のノズルを有するインクジェットプリントヘッドを配置するステップと、
走査経路に沿って前記物体の表面を横切るように前記インクジェットプリントヘッドを相対的に移動させ、その間に前記物体の表面によって示される湾曲に対して垂直に前記インクジェットプリントヘッドを位置決めするステップと、
前記物体の実際の表面に対する前記プリントヘッドの高さを感知し、前記物体の実際の表面に対するオフセット高さに前記プリントヘッドの高さを調節するステップと、
前記物体に対する前記プリントヘッドの配置、およびコントローラのメモリに格納され前記物体の表面と互いに関係する画像データに従って、前記複数のノズルからインクを噴出するステップと
を含むことを特徴とする方法。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
3次元の物体の湾曲した表面上に画像を印刷するための装置であって、
前記物体を支持するように適合された支持固定具と、
印刷媒体源に連結された複数のノズルを含むインクジェットプリントヘッドと、
関節結合可能なロボットアームであって、前記プリントヘッドおよび前記支持固定具の一方が取り付けられて担持されるとともに、4以上の移動の自由度を有し、前記プリントヘッドが一連の走査経路に沿って前記物体の湾曲した表面に追従するのに応じて相対的に移動可能である、ロボットアームと、
前記ロボットアームに取り付けられて担持され、前記物体の湾曲した表面に対するプリントヘッドの高さをモニタするプリントヘッド高さセンサと、
前記ロボットアームに連結され、前記プリントヘッドが前記一連の走査経路に沿って相対的に移動するように前記ロボットアームを動作させるように構成されたコントローラであって、前記プリントヘッド高さセンサに接続され、前記プリントヘッドが前記一連の走査経路に沿って移動するときに、前記ロボットアームが、印刷に適した位置において前記プリントヘッドを前記物体の湾曲した表面に対し連続的に垂直に位置させるとともに、前記プリントヘッドに連結され、さらに、前記物体の湾曲した表面上に画像を形成するように前記複数のノズルが前記走査経路に沿った所定の位置で印刷媒体を噴出するように構成されるコントローラと、
を備えることを特徴とする装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置であって、前記複数のノズルが直線の配列および2次元の配列のうち一方で設けられ、前記コントローラは、メモリに格納された1組の値に基づいて印刷媒体を噴出されるように構成されており、前記コントローラは、所定のノズルから印刷媒体を噴出するか否かを制御するように構成されていることを特徴とする装置。
【請求項3】
請求項1に記載の装置であって、前記コントローラが、前記コントローラのメモリに格納された画像位置データと互いに関係する前記走査経路上の既知の点からの距離に基づいて、前記複数のノズルが印刷媒体を噴出するように構成され、
前記コントローラは、前記プリントヘッドの各ノズルから印刷媒体を噴出する、または印刷媒体を噴出しないというように、前記複数のノズルを制御するように構成されていることを特徴とする装置。
・・・(略)・・・
【請求項6】
請求項1に記載の装置であって、前記物体の湾曲した表面上の前記物体の構成を感知するように構成されたセンサをさらに備え、前記コントローラが、前記センサによる物体の構成の感知に基づいて前記複数のノズルが印刷媒体を噴出するように構成されることを特徴とする装置。
・・・(略)・・・
【請求項8】
請求項6に記載の装置であって、前記コントローラが、前記複数のノズルそれぞれから印刷媒体を噴出するための1組の値をメモリに格納するように構成され、前記1組の値が、前記物体の構成の各位置に対応し、各位置において前記複数のノズルのそれぞれから印刷媒体を噴出するか否かを制御することを特徴とする装置。
・・・(略)・・・
【請求項11】
3次元の物体の湾曲した表面上に画像を印刷するための方法であって、
その上に印刷する湾曲した表面を有する3次元の物体を設けるステップと、
前記物体の表面近傍に複数のノズルを有するインクジェットプリントヘッドを配置するステップと、
走査経路に沿って前記物体の表面を横切るように前記インクジェットプリントヘッドを相対的に移動させ、その間に前記物体の表面によって示される湾曲に対して垂直に前記インクジェットプリントヘッドを位置決めするステップと、
前記物体の実際の表面に対する前記プリントヘッドの高さを感知し、前記物体の実際の表面に対するオフセット高さに前記プリントヘッドの高さを調節するステップと、
前記物体に対する前記プリントヘッドの配置、およびコントローラのメモリに格納され前記物体の表面と互いに関係する画像データに従って、前記複数のノズルからインクを噴出するステップと
を含むことを特徴とする方法。」
(なお、下線は、補正箇所を示すためのものである。)

2 本件補正の適否
2-1 本件補正の目的
(1)本件補正は、特許請求の範囲の請求項1については、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の「前記ロボットアームに連結され、前記プリントヘッドが前記一連の走査経路に沿って相対的に移動するように前記ロボットアームを動作させるように構成されたコントローラであって、前記プリントヘッドが前記プリントヘッド高さセンサに接続され、前記一連の走査経路に沿って移動するときに、前記ロボットアームが、印刷に適した位置において前記プリントヘッドを前記物体の湾曲した表面に対し連続的に垂直に位置させ、前記プリントヘッドに連結され、さらに、前記物体の湾曲した表面上に画像を形成するように前記複数のノズルが前記走査経路に沿った所定の位置で印刷媒体を噴出するように構成されるコントローラと」という記載を「前記ロボットアームに連結され、前記プリントヘッドが前記一連の走査経路に沿って相対的に移動するように前記ロボットアームを動作させるように構成されたコントローラであって、前記プリントヘッド高さセンサに接続され、前記プリントヘッドが前記一連の走査経路に沿って移動するときに、前記ロボットアームが、印刷に適した位置において前記プリントヘッドを前記物体の湾曲した表面に対し連続的に垂直に位置させるとともに、前記プリントヘッドに連結され、さらに、前記物体の湾曲した表面上に画像を形成するように前記複数のノズルが前記走査経路に沿った所定の位置で印刷媒体を噴出するように構成されるコントローラと」という記載にするものであり、「前記プリントヘッドが」という記載の位置を「前記プリントヘッド高さセンサに接続され、」の前から後にし、「連続的に垂直に位置させ」という記載を「連続的に垂直に位置させるとともに」とするものであるから、特許法第17条の2第5項第3号に規定される誤記の訂正及び同第4号に規定される明りようでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
(2)本件補正は、特許請求の範囲の請求項2については、本件補正前の特許請求の範囲の請求項2の「前記複数のノズルが直線の配列および2次元の配列のうち一方で設けられる」という記載を「前記複数のノズルが直線の配列および2次元の配列のうち一方で設けられ、前記コントローラは、メモリに格納された1組の値に基づいて印刷媒体を噴出されるように構成されており、前記コントローラは、所定のノズルから印刷媒体を噴出するか否かを制御するように構成されている」という記載にするものであり、「前記コントローラ」を具体的に限定するものであるから、本件補正前の特許請求の範囲の請求項2に係る発明の発明特定事項にさらに限定を加えたものといえ、しかも、本件補正前の特許請求の範囲の請求項2に記載された発明と本件補正後の特許請求の範囲の請求項2に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
(3)本件補正は、特許請求の範囲の請求項3については、本件補正前の特許請求の範囲の請求項3の「前記コントローラが、前記コントローラのメモリに格納された画像位置データと互いに関係する前記走査経路上の既知の点からの距離に基づいて、前記複数のノズルが印刷媒体を噴出するように構成される」という記載を「前記コントローラが、前記コントローラのメモリに格納された画像位置データと互いに関係する前記走査経路上の既知の点からの距離に基づいて、前記複数のノズルが印刷媒体を噴出するように構成され、
前記コントローラは、前記プリントヘッドの各ノズルから印刷媒体を噴出する、または印刷媒体を噴出しないというように、前記複数のノズルを制御するように構成されている」という記載にするものであり、「前記コントローラ」を具体的に限定するものであるから、本件補正前の特許請求の範囲の請求項3に係る発明の発明特定事項にさらに限定を加えたものといえ、しかも、本件補正前の特許請求の範囲の請求項3に記載された発明と本件補正後の特許請求の範囲の請求項3に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
(4)本件補正は、特許請求の範囲の請求項6については、本件補正前の特許請求の範囲の請求項6の「パーツ」、「前記パーツ」及び「パーツ構成」という記載を、それぞれ、「前記物体」、「前記物体」及び「物体の構成」いう記載にするものであるから、特許法第17条の2第5項第4号に規定される明りようでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
(5)本件補正は、特許請求の範囲の請求項8については、本件補正前の特許請求の範囲の請求項8の「前記コントローラが、前記複数のノズルそれぞれから印刷媒体を噴出するための1組の値をメモリに格納するように構成され、前記1組の値が、前記パーツの構成の各位置に対応する」という記載を「前記コントローラが、前記複数のノズルそれぞれから印刷媒体を噴出するための1組の値をメモリに格納するように構成され、前記1組の値が、前記物体の構成の各位置に対応し、各位置において前記複数のノズルのそれぞれから印刷媒体を噴出するか否かを制御する」という記載にするものであり、「パーツ」という記載を「物体」という記載にした上で、「前記コントローラ」を具体的に限定するものであるから、明りようでない記載の釈明をした上で、本件補正前の特許請求の範囲の請求項8に係る発明の発明特定事項にさらに限定を加えたものといえ、しかも、本件補正前の特許請求の範囲の請求項8に記載された発明と本件補正後の特許請求の範囲の請求項8に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、特許法第17条の2第5項第4号に規定される明りようでない記載の釈明及び同第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
(6)本件補正により、特許請求の範囲の請求項4、5、7及び9ないし11については、補正されていない。
(7)したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮、同第3号に規定される誤記の訂正及び同第4号に規定される明りようでない記載の釈明を目的とするものに該当する。

2-2 独立特許要件の検討
上記2-1のとおり、本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであるから、本件補正後の特許請求の範囲の請求項11に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうかについて、さらに検討する。

(1)引用文献の記載
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2000-238254号公報(以下、「引用文献」という。)には、「物品表面への模様形成方法及び装置」に関して、図面とともに概ね次の記載がある(以下、順に「記載1a」ないし「記載1f」という。)。

1a 「【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明の物品表面への模様形成方法は、三次元物品の表面に沿ってノズルを動かしながらインクジェット方式により前記物品の表面に模様を形成するようにしている。」(段落【0006】)

1b 「【0010】三次元物品の表面に沿ってノズルを相対移動させるための制御方法としては、特に限定されないが、次の方法を例示できる。
(1)模様の形成対象となる三次元物品及びその表面の大きさ、向き、形状等の表面に関する情報(以下、「三次元表面情報」という。)であって、表面を特定するために必要充分な情報(以下、「必要充分な三次元表面情報」という。)を予め記憶させておき、該情報に基づいてノズルを相対移動させる方法。
(2)必要充分な三次元表面情報をセンサで検出し、該情報に基づいてノズルを相対移動させる方法。
(3)必要充分な三次元表面情報のうちの一部を予め記憶させておくとともに、前記情報のうちの記憶されていない部分はセンサで検出することによって補い、これによって得られた必要充分な三次元表面情報に基づいてノズルを相対移動させる方法。」(段落【0010】)

1c 「【0015】
【発明の実施の形態】以下、本発明を実施した第一実施形態の物品の表面への模様形成方法及び装置について、図面を参照して説明する。図1及び図2に示すように模様形成装置1は、三次元物品を認識するためのセンサとしての画像入力装置9と、三次元物品の表面にインクジェット方式で模様を形成するプリント装置13と、画像入力装置9及びプリント装置13の移動手段としてのロボット11と、必要に応じて使用される三次元物品の移動手段としてのターンテーブル10と、この模様形成装置1全体を制御するコンピュータ5とを備えている。本実施形態では、三次元物品の一例として、自動車や飛行機などの乗物用座席2の場合を説明する。
【0016】画像入力装置9としては、特に限定されないが、CCD、C-MOS、撮像管等を使用したものを例示できる。画像入力装置と三次元物品の表面との間隔は、特に限定されないが、数mm?200mmぐらいとすることを例示できる。
【0017】プリント装置13は、圧力パルス方式オンデマンド型のインクジェット方式を採用し、少なくとも3本のノズル13aからそれぞれ赤色、緑色、青色(三原色)の着色剤を噴出することによりフルカラーの模様を形成するものである。ノズル13aの直径は60μm、ノズル13aとプリント対象面との距離は1mm、印加電圧は40Vとし、着色剤としては酸性染料をイオン交換水中に溶解させたものを用いた。これらの数値は例示であり、適宜変更することができる。なお、特に限定されないが、後述するように乗物用座席2の表面はモケット地であるため、その布地の毛の先端のみならず、布地の内部にまで着色剤が浸透し付着するようにするために、ノズル13aを布地にできるだけ接近させたり、着色剤の噴出速度を高めたりすることが好ましい。また、ノズル13aの本数は上記に限定されず、例えば、各色のノズル13aを多数本にしたり、黒色等の特定の色の着色材を噴出するノズル13aを適宜加えることができる。
【0018】ロボット11は、多軸多間接からなる極座標構造のもので、据え置き型となっている。ロボット11のアーム先端部11aには画像入力装置9及びプリント装置13が取り付けられている。
【0019】ターンテーブル10には、乗物用座席2が所定位置に載せられる。そして、ターンテーブル10は、コンピュータ5からの制御信号に応じて垂直軸(図示略)の回りを回転するようになっており、ロボット11に対する乗物用座席2の向きを適宜変更できるようになっている。
【0020】ロボット11とターンテーブル10とが、乗物用座席2とプリント装置13のノズル13aとを相対移動させる相対移動手段である。
【0021】コンピュータ5には、その動作状況等を表示する液晶表示パネルやCRT(陰極線管)ディスプレイ等の表示装置6と、コンピュータ5への指示等を入力するキーボードやマウス等の入力装置7と、FD、MO、PD等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体14との間でプログラムやデータを読み書きするドライブ装置としてのディスクドライブ装置8とが接続されている。記録媒体14には、後述する模様形成処理(ステップS20)や、乗物用座席2の三次元表面情報データ等が記録される。
【0022】コンピュータ5の内部には、乗物用座席2の模様の形成対象となる各表面に関する三次元表面情報データと、該各表面に形成する模様に関する模様データとが記憶されている。これらのデータは、入力装置7、ディスクドライブ装置8、通信ネットワーク(図示略)等から入力したものである。
【0023】三次元表面情報データは、設計上の理想的な乗物用座席2についての必要充分な三次元表面情報を含んでいる。しかし、実際の乗物用座席2には製造誤差等により表面の位置等がずれているため、本模様形成装置1では、コンピュータ5がこのずれを画像入力装置9で検出し、三次元表面情報データを補正しながらロボット11及びプリント装置13を制御するようになっている。」(段落【0015】ないし【0023】)

1d 「【0025】次に、模様を形成するときにコンピュータ5で実行される模様形成処理(ステップS20)を図3に示すフローチャートに従って説明する。なお、ロボット11は初期化され、所定の原点位置で停止しているものとする。また、乗物用座席2についての三次元表面情報データは、コンピュータ5の内部に記憶されているものとする。
【0026】まず、コンピュータ5は、ロボット11で画像入力装置9の位置をターンテーブル10から離れた位置に移動させ、画像入力装置9からターンテーブル10の上方の画像データを入力する(ステップS21)。この画像データに乗物用座席2の画像が含まれているかをチェックし、画像が含まれていなければ(ステップS22)、エラー処理をして(ステップS23)、本処理を終了する(ステップS28)。
【0027】画像データに乗物用座席2の画像が含まれていれば(ステップS22)、コンピュータ5は、画像入力装置9から乗物用座席2の画像データを入力し、模様を形成する面(以下、「対象面」という。)を検索しつつ、ターンテーブル10及びロボット11を制御することにより、対象面の表面上にプリント装置13を相対移動させる(ステップS24)。このとき、対象面を検索できず、プリント装置13を対象面に相対移動させることができなかったときは(ステップS25)、エラー処理をして(ステップS23)、本処理を終了する(ステップS28)。
【0028】相対移動させることができたときは(ステップS25)、コンピュータ5は、画像入力装置9から対象面の画像データを入力することにより対象面とノズル13aとの相対位置関係を検出し、これに基づいてターンテーブル10及びロボット11を制御することにより、対象面とプリント装置13のノズル13aとの相対距離を一定に保ちつつ、対象面の表面に沿ってノズル13aを動かしながら該表面に模様を形成する(ステップS26)。
【0029】乗物用座席2のすべての対象面に模様を形成し終わったのであれば(ステップS27)、処理を終了し(ステップS28)、まだ形成していない対象面が残っていれば(ステップS27)、ステップS26に戻る。」(段落【0025】ないし【0029】)

1e 「【0037】なお、本発明は前記実施形態の構成に限定されず、例えば以下のように、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
(1)ロボット11を2台設け、画像入力装置9及びプリント装置13をそれぞれ別のロボット11に取り付けること。
・・・(略)・・・
【0042】(7)図7に示すように三次元物品のモデル(又は模型)51から三次元表面情報を検出するならい装置53を設け、該ならい装置53が検出した三次元表面情報にならってプリント装置13のノズル13aを移動させ、三次元物品50の表面に模様を形成すること。実際の三次元物品50は製造誤差等により表面の位置等が三次元物品のモデル(又は模型)51のものとずれていることがあるため、このずれをセンサ52で検出して補正しながらノズル13aを移動させることが好ましい。」(段落【0037】ないし【0042】)

1f 図1及び4から、乗物用座席2は(少なくとも背もたれ部分に)湾曲した表面を有し、該湾曲した表面に(イルカ、魚、海藻及び波等の)模様が形成されていることが看取される。

(2)引用文献の記載事項
記載1aないし1f及び図面の記載から、引用文献には、次の事項が記載されていると認める(以下、順に「記載事項2a」ないし「記載事項2f」という。)。

2a 記載1a、記載1cの「図1及び図2に示すように模様形成装置1は、三次元物品を認識するためのセンサとしての画像入力装置9と、三次元物品の表面にインクジェット方式で模様を形成するプリント装置13と、画像入力装置9及びプリント装置13の移動手段としてのロボット11と、必要に応じて使用される三次元物品の移動手段としてのターンテーブル10と、この模様形成装置1全体を制御するコンピュータ5とを備えている。本実施形態では、三次元物品の一例として、自動車や飛行機などの乗物用座席2の場合を説明する。」(段落【0015】)、記載1f及び図面によると、引用文献には、三次元物品である乗物用座席2の湾曲した表面上に模様を形成するための方法が記載されている。

2b 記載1cの「必要に応じて使用される三次元物品の移動手段としてのターンテーブル10」(段落【0015】)及び「ターンテーブル10には、乗物用座席2が所定位置に載せられる。そして、ターンテーブル10は、コンピュータ5からの制御信号に応じて垂直軸(図示略)の回りを回転するようになっており、ロボット11に対する乗物用座席2の向きを適宜変更できるようになっている。」(段落【0019】)、図面並びに記載事項2aによると、引用文献には、その上に形成する湾曲した表面を有する三次元物品である乗物用座席2を設けるステップが記載されている。

2c 記載1cの「プリント装置13は、圧力パルス方式オンデマンド型のインクジェット方式を採用し、少なくとも3本のノズル13aからそれぞれ赤色、緑色、青色(三原色)の着色剤を噴出することによりフルカラーの模様を形成するものである。」(段落【0017】)、記載1dの「画像データに乗物用座席2の画像が含まれていれば(ステップS22)、コンピュータ5は、画像入力装置9から乗物用座席2の画像データを入力し、模様を形成する面(以下、「対象面」という。)を検索しつつ、ターンテーブル10及びロボット11を制御することにより、対象面の表面上にプリント装置13を相対移動させる(ステップS24)。このとき、対象面を検索できず、プリント装置13を対象面に相対移動させることができなかったときは(ステップS25)、エラー処理をして(ステップS23)、本処理を終了する(ステップS28)。」(段落【0027】)、図面並びに記載事項2a及び2bによると、引用文献には、三次元物品である乗物用座席2の表面上に少なくとも3本のノズル13aを有するインクジェット方式のプリント装置13を相対移動するステップが記載されている。

2d 記載1dの「相対移動させることができたときは(ステップS25)、コンピュータ5は、画像入力装置9から対象面の画像データを入力することにより対象面とノズル13aとの相対位置関係を検出し、これに基づいてターンテーブル10及びロボット11を制御することにより、対象面とプリント装置13のノズル13aとの相対距離を一定に保ちつつ、対象面の表面に沿ってノズル13aを動かしながら該表面に模様を形成する(ステップS26)。」(段落【0028】)、図面及び記載事項2aないし2cによると、引用文献には、インクジェット方式のプリント装置13を動かし、その間に三次元物品である乗物用座席2の表面によって示される湾曲に対してインクジェット方式のプリント装置13を位置決めするステップが記載されている。

2e 記載1dの「相対移動させることができたときは(ステップS25)、コンピュータ5は、画像入力装置9から対象面の画像データを入力することにより対象面とノズル13aとの相対位置関係を検出し、これに基づいてターンテーブル10及びロボット11を制御することにより、対象面とプリント装置13のノズル13aとの相対距離を一定に保ちつつ、対象面の表面に沿ってノズル13aを動かしながら該表面に模様を形成する(ステップS26)。」(段落【0028】)、図面及び記載事項2aないし2dによると、引用文献には、三次元物品である乗物用座席2の模様を形成する面に対して相対距離を一体に保つステップが記載されている。

2f 記載1cの「プリント装置13は、圧力パルス方式オンデマンド型のインクジェット方式を採用し、少なくとも3本のノズル13aからそれぞれ赤色、緑色、青色(三原色)の着色剤を噴出することによりフルカラーの模様を形成するものである。」(段落【0017】)及び「コンピュータ5の内部には、乗物用座席2の模様の形成対象となる各表面に関する三次元表面情報データと、該各表面に形成する模様に関する模様データとが記憶されている。」(段落【0022】)、記載1dの「相対移動させることができたときは(ステップS25)、コンピュータ5は、画像入力装置9から対象面の画像データを入力することにより対象面とノズル13aとの相対位置関係を検出し、これに基づいてターンテーブル10及びロボット11を制御することにより、対象面とプリント装置13のノズル13aとの相対距離を一定に保ちつつ、対象面の表面に沿ってノズル13aを動かしながら該表面に模様を形成する(ステップS26)。」(段落【0028】)、図面並びに記載事項2aないし2eによると、引用文献には、三次元物品である乗物用座席2に対するインクジェット方式のプリント装置13の相対位置関係、およびコンピュータ5の内部に記憶された三次元物品である乗物用座席2の模様の形成対象となる各表面に関する三次元表面情報データと、該各表面に形成する模様に関する模様データに従って、少なくとも3本のノズル13aから着色剤を噴出するステップが記載されている。

(3)引用発明
記載1aないし1f、記載事項2aないし2f及び図面の記載を整理すると、引用文献には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「三次元物品である乗物用座席2の湾曲した表面上に模様を形成するための方法であって、
その上に形成する湾曲した表面を有する三次元物品である乗物用座席2を設けるステップと、
前記三次元物品である乗物用座席2の表面上に少なくとも3本のノズル13aを有するインクジェット方式のプリント装置13を相対移動するステップと、
前記インクジェット方式のプリント装置13を動かし、その間に前記三次元物品である乗物用座席2の表面によって示される湾曲に対してインクジェット方式のプリント装置13を位置決めするステップと、
前記三次元物品である乗物用座席2の模様を形成する面に対して相対距離を一体に保つステップと、
前記三次元物品である乗物用座席2に対するインクジェット方式のプリント装置13の相対位置関係、およびコンピュータ5の内部に記憶された前記三次元物品である乗物用座席2の模様の形成対象となる各表面に関する三次元表面情報データと、該各表面に形成する模様に関する模様データに従って、前記少なくとも3本のノズル13aから着色剤を噴出するステップと
を含む方法。」

(4)対比
本願補正発明と引用発明を対比する。

引用発明における「三次元物品である乗物用座席2」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願補正発明における「3次元の物体」に相当し、以下、同様に、「模様」は「画像」に、「形成」は「印刷」に、「(乗物用座席2の)表面上」は「表面近傍」に、「少なくとも3本のノズル13a」は「複数のノズル」に、「インクジェット方式のプリント装置13」は「インクジェットプリントヘッド」に、「相対移動する」は「配置する」に、「動かし」は「相対的に移動させ」に、「模様を形成する面」は「実際の表面」に、「相対位置関係」は「配置」に、「コンピュータ5の内部」は「コントローラのメモリ」に、「記憶された」は「格納され」に、「前記三次元物品である乗物用座席2の模様の形成対象となる各表面に関する三次元表面情報データと、該各表面に形成する模様に関する模様データ」は「前記物体の表面と互いに関係する画像データ」に、「着色剤」は「インク」に、それぞれ、相当する。
また、引用発明における「相対距離を一定に保つ」の「一定に」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願補正発明における「オフセット高さに前記プリントヘッドの高さを調節する」の「オフセット高さに」に相当し、同様に、「相対距離を」「保つ」は「前記プリントヘッドの高さを調節する」に相当する。

したがって、両者は、
「3次元の物体の湾曲した表面上に画像を印刷するための方法であって、
その上に印刷する湾曲した表面を有する3次元の物体を設けるステップと、
前記物体の表面近傍に複数のノズルを有するインクジェットプリントヘッドを配置するステップと、
前記インクジェットプリントヘッドを相対的に移動させ、その間に前記物体の表面によって示される湾曲に対して前記インクジェットプリントヘッドを位置決めするステップと、
前記物体の実際の表面に対するオフセット高さに前記プリントヘッドの高さを調節するステップと、
前記物体に対する前記プリントヘッドの配置、およびコントローラのメモリに格納され前記物体の表面と互いに関係する画像データに従って、前記複数のノズルからインクを噴出するステップと
を含む方法。」
である点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。

ア 相違点1
「前記インクジェットプリントヘッドを相対的に移動させ、その間に前記物体の表面によって示される湾曲に対して前記インクジェットプリントヘッドを位置決めするステップ」に関して、本願補正発明においては、「走査経路に沿って前記物体の表面を横切るように」「前記インクジェットプリントヘッドを相対的に移動させ」かつ「垂直に」「位置決め」しているのに対し、引用発明においては、そのようにしているか明らかでない点(以下、「相違点1」という。)。

イ 相違点2
「前記物体の実際の表面に対するオフセット高さに前記プリントヘッドの高さを調節するステップ」に関して、本願補正発明においては、「前記物体の実際の表面に対する前記プリントヘッドの高さを感知」しているのに対し、引用発明においては、そのようにしているか明らかでない点(以下、「相違点2」という。)。

(5)相違点についての判断
そこで、上記相違点1及び2について、以下に検討する。

ア 相違点1について
複数のノズルを有するインクジェットヘッドを用いた液状体噴出装置において、走査経路に沿って物体の表面を横切るようにインクジェットヘッドを移動させること及びインクジェットヘッドを物体の表面によって示される湾曲面に対して垂直に位置決めすることは、何れも慣用された技術である(必要であれば、前者については、下記ア-1 特開2004-17004号公報の記載及び下記ア-2 特開2005-1131号公報の記載を、後者については、下記ア-1及びア-2に加え、下記ア-3 特開2001-71285号公報の記載を参照。以下、それぞれ、「慣用技術1」及び「慣用技術2」という。)。
したがって、引用発明において、慣用技術1及び2を適用し、「走査経路に沿って前記物体の表面を横切るように」「前記インクジェットプリントヘッドを相対的に移動させ」かつ「垂直に」「位置決め」するようにして、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

ア-1 特開2004-17004号公報の記載
特開2004-17004号公報には、「液状体の吐出方法およびその装置、ならびに光学部材の製造方法」に関して、図面とともに概ね次の記載がある(なお、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。)。

・「【0043】
図1において、液滴吐出装置10は、インクジェットヘッド30を備えたヘッドユニット31と、ヘッド位置制御装置11と、レンズ位置制御装置12と、主走査駆動装置13と、副走査駆動装置14と、撮像装置40と、そしてコントロール装置35とを有する。
これらの各装置のうち、ヘッド位置制御装置11、レンズ位置制御装置12、主走査駆動装置13、副走査駆動装置14、そして撮像装置40はベース9の上に設置される。また、これらの各装置は必要に応じてカバー8によって覆われる。
・・・(略)・・・
【0045】
インクジェットヘッド30は、複数のノズル32を列状に並べることによって形成された図示しないノズル列を有する。これらのノズル32の孔径は例えば28μmであり、ノズル列の1列当たりのノズル32の数は例えば180個で、ノズル32間のノズルピッチは例えば141μmである。
インクジェットヘッド30は、その内部構造として、図示しない例えばステンレス製のノズルプレートや、それに対向する振動板、それらを互いに接合する複数の仕切部材、仕切部材によって仕切られた複数のインク室、液溜り等を備える。振動板には図示しない圧電素子が取り付けられており、圧電素子への通電を制御することによって、振動板を所定の振動数で振動させる。そして、この振動に応じた間隔でノズル32から所定の量の液滴3が吐出される。
【0046】
主走査駆動装置13によって、インクジェットヘッド30は主走査方向Xへレンズ1に対して相対的に平行移動することによりレンズ1を主走査する。この主走査の間に、ハードコート液2を各インクジェットヘッド30内の複数のノズル32から選択的に吐出することにより、レンズ1の所定位置にハードコート液2を被膜状に塗布する。」(段落【0043】ないし【0046】)

・「【0064】
以下、上記構成からなる液滴吐出装置10の動作を図5に示すフローチャートに基づいて説明する。
図5において、液滴吐出装置10の動作は、主に画像処理工程と塗布工程との二段階の工程から構成されている。
・・・(略)・・・
【0068】
ステップS8において、図6(B)に示すインクジェットヘッド30の走査を模式的に表した平面図における、インクジェットヘッド30の主走査方向Xへの主走査の間にハードコート液2を吐出し、被膜状に塗布する塗布パターンを決定する。この塗布パターンには、以下に示す3種類のインクジェットヘッド30の動作があり、適宜塗布パターンを選択することができる。
【0069】
図7に第1の塗布パターンを模式的に表す断面図を示す。図7において、インクジェットヘッド30は、被吐出面1Aの表面形状に沿って主走査動作する。すなわち、被吐出面1Aとインクジェットヘッド30の複数のノズル32が設けられた面とは、一定の間隙L1を介して対向している。さらに、インクジェットヘッド30は、ハードコート液2の液滴3の吐出方向を、レンズ1の被吐出面1Aに略直交させて、主走査動作する。なお、インクジェットヘッド30と被吐出面1Aとの間隙L1は、0.2mm?0.3mmとすることが望ましいが、15mm程度までの範囲であれば、吐出された液滴3を被膜状に塗布する上で問題がない。しかし、インクジェットヘッド30と被吐出面1Aとの間の距離が大きくなると、吐出された液滴3のうち、被吐出面1Aの外に飛散する量が多くなり、実質的に吐出量が減ってしまうという不都合が生じる。」(段落【0064】ないし【0069】)

ア-2 特開2005-1131号公報の記載
特開2005-1131号公報には、「レンズの製造方法および製造装置」に関して、図面とともに概ね次の記載がある。

・「【0026】
A.実施の形態1
図1は、コンタクトレンズを製造する製造装置100を示す。製造装置100は、ヘッド102と、ヘッド102の位置を制御する第1位置制御装置104と、ステージ106と、ステージ106の位置を制御する第2位置制御装置108と、制御部112と、を備えている。図1では省略されているが、ステージ106上には曲面106Sを有する成形部106A(図3)が位置する。第1位置制御装置104は、制御部112からの信号に応じて、ヘッド102をX軸、およびX軸と直交するZ軸に沿って移動させる。一方、第2位置制御装置108は、制御部112からの信号に応じて、X軸およびZ軸に直交するY軸に沿ってステージ106を移動させる。ステージ106は、X軸およびY軸で規定される仮想的な平面上に位置する。さらにステージ106は、Z軸の周りで回転可能に保持されている。ヘッド102およびステージ106は上記以外の平行移動および回転の自由度をさらに有している。ただし、本実施の形態では、上記自由度以外の自由度に関する記載は説明を平易にする目的で省略されている。制御部112の構成は、後述する。
【0027】
図2に示すように、ヘッド102は、レンズ材料、すなわち光学材料を吐出する複数のノズル110A、110C、110Dを有している。ヘッド102は第1位置制御装置104によってX軸およびZ軸の方向に移動させられる。一方、ステージ106は第2位置制御手段108によってY軸の方向に移動させられる。これらの動作によって、ノズル110A、110C、110Dは、曲面106Sとの間に所定の距離を保ちながら曲面106Sに対してX軸およびY軸の方向に相対的に移動、すなわち相対的に走査する。」(段落【0026】及び【0027】)

・「【0076】
(8)図13に示すように、上記実施の形態1?3において、ステージ106を傾斜させることで、ノズル110Aと、光学材料50Aが着弾する曲面106S上の部分と、を結ぶ直線を、光学材料50Aが着弾する部分の法線にほぼ一致させてもよい。そうすれば、均一な厚さの層52を形成することがより容易になるため好ましい。さらにこの場合、上記法線の方向を鉛直方向(すなわち重力加速度の方向)と一致させてもよい。そうすれば、上記効果に加えて、光学材料の着弾位置の予測がより容易になるという効果が得られる。」(段落【0076】)

ア-3 特開2001-71285号公報の記載
特開2001-71285号公報には、「作業ロボット」に関して、図面とともに概ね次の記載がある。

・「【0050】例えば、ツール3が複数色のインクを別々の吐出ノズルから吐出するようなインクジェットヘッドであるような場合には、図5に示すようにツール先端部には複数の吐出ノズル3a?3dが所定方向に配列された構造を有している。したがって、このようなインクジェットヘッドをツール3として使用する場合には、吐出ノズル3a?3dの配列方向をワーク9に対する作業に適した方向に変化させることが必要となる。そこで、この実施の形態の作業ロボット100aでは、ツール駆動手段としてツール回転駆動部90を設け、ツール3をツール軸周りに回動可能なように構成しているのである。
・・・(略)・・・
【0052】このように、この実施の形態の作業ロボット100aでは、ツール3は下方向に向いた状態で支持されるとともに、ツール軸を中心に回動するように構成されており、ツール自体には回転1自由度が与えられている。これに対して、ワーク9はその表面全体に対して任意の作業が適切に行えるとともに、ワーク表面に対してツール軸を垂直な状態にすることができるように合計5自由度(回転駆動部11、回転駆動部21および回転駆動部51による回転3自由度と、摺動駆動部30による直動1自由度と、曲動駆動部40による曲動1自由度)を有するように構成されている。」(段落【0050】ないし【0052】)

イ 相違点2について
引用文献の記載1b、記載1cの「三次元表面情報データは、設計上の理想的な乗物用座席2についての必要充分な三次元表面情報を含んでいる。しかし、実際の乗物用座席2には製造誤差等により表面の位置等がずれているため、本模様形成装置1では、コンピュータ5がこのずれを画像入力装置9で検出し、三次元表面情報データを補正しながらロボット11及びプリント装置13を制御するようになっている。」(段落【0023】)、記載1dの「相対移動させることができたときは(ステップS25)、コンピュータ5は、画像入力装置9から対象面の画像データを入力することにより対象面とノズル13aとの相対位置関係を検出し、これに基づいてターンテーブル10及びロボット11を制御することにより、対象面とプリント装置13のノズル13aとの相対距離を一定に保ちつつ、対象面の表面に沿ってノズル13aを動かしながら該表面に模様を形成する(ステップS26)。」(段落【0028】)及び記載1eの「実際の三次元物品50は製造誤差等により表面の位置等が三次元物品のモデル(又は模型)51のものとずれていることがあるため、このずれをセンサ52で検出して補正しながらノズル13aを移動させることが好ましい。」(段落【0042】)によると、引用発明は、対象面とプリント装置13のノズル13aとの相対距離を一定に保ちつつ、実際の三次元物品の表面の位置等と三次元物品のモデルとのずれを検出し、補正しながらノズル13aを移動させるものであるから、引用発明においても、三次元物品である乗物用座席2の表面に対するインクジェット方式のプリント装置13の高さを検知していることは明らかであるので、相違点2は実質的な相違点とはいえない。
仮に、相違点2が実質的な相違点であるとしても、物体の実際の表面に対するインクジェットプリントヘッドの高さを感知することは、周知である(必要であれば、下記イ-1 特開平11-165406号公報の記載を参照。以下、「周知技術」という。)。
したがって、引用発明において、周知技術を適用し、「前記物体の実際の表面に対する前記プリントヘッドの高さを感知」するようにして、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

イ-1 特開平11-165406号公報の記載
特開平11-165406号公報には、「インクジェット記録装置」に関して、図面とともに概ね次の記載がある。

・「【0018】図1は、本発明によるインクジェット記録装置の一実施例を示す梗概図であって、ロボット形式のインクジェット記録装置を構成するもので、自動車のボディに印字(塗装)を行う例を示すものである。
【0019】図1において、1は制御装置、2は可動(ロボット)アーム、3はインクジェット印字ヘッド、4は台座部、5は本体部、6は可動アーム制御部、7はアーム部、8は支持部、9は手首部、10は第1関節部、11は第2関節部、12は第3関節部、13は先端部、14はインク供給ホースである。
【0020】制御装置1は、台座部4と、台座部4上に回転自在に軸支された本体部5と、台座部4に接続線によって接続された可動アーム制御部6とからなっている。また、可動アーム2は、本体部5に固着された第1関節部10と、一端が回動可能に第1関節部10に軸支された支持部8と、支持部8の他端に固着された第2関節部11と、一端が回動可能に第2関節部11に軸支されたアーム部7と、アーム部7の他端に固着された手首部9と、一端が回動可能に手首部9に軸支された第3関節部12と、第3関節部12の他端に固着された先端部13とからなっおり、先端部13の他端にインクジェット印字ヘッド3が取付られている。さらに、インク供給ホース14は、一端がインク供給タンク(図示なし)に結合され、他端部が第2関節部11、アーム部7、手首部9、第3関節部12、先端部13をそれぞれ通してインクジェット印字ヘッド3に結合されている。
【0021】前記構成によるインクジェット記録装置はインクジェット印字ヘッド3が可動アーム2の可動によって3次元的に位置が移動するもので、制御装置1においては、本体部5が台座部4に対して回転可能に軸支され、可動アーム2においては、第1関節部10に支持部8が回動可能に軸支され、第2関節部11にアーム部7が回動可能に軸支され、第3関節部12に手首部9に回動可能に軸支されていることから、これらの回転状態及び回動状態を適宜制御することにより、可動アーム2の先端部9に取付られているインクジェット印字ヘッド3の移動位置及び移動角度を自由に変化させることができる。この場合、これらの回転状態及び回動状態の制御は、可動アーム制御部6に入力されたデータに基づいて、予め決められた操作手順に従って行われるもので、インクジェット印字ヘッド3には、インク供給タンクからインク供給ホース14を通してインクが供給され、所要の印字が行われる。」(段落【0018】ないし【0021】)

・「【0052】次いで、図6は、本発明のインクジェット記録装置に用いられるインクジェット印字ヘッドの構成の他の例を示す梗概図であって、インクジェット記録装置の他の実施例を示すものである。
【0053】図6において、41は移動部、42はリニアモーター、43はスライダー、44はリニアモーター制御部、45はリニアモーター駆動部であり、その他、図2に示された構成要素と同じ構成要素については同じ符号を付けている。
【0054】インクジェットヘッド部16とインク供給部17と距離測定部18は、移動部41上に取付けられており、移動部41はリニアモーター42に結合され、スライダー43に沿って適宜移動可能に構成されている。リニアモーター42の移動は、リニアモーター制御部44の制御に基づくリニアモーター駆動部45の駆動によって行なわれる。
【0055】本実施例のインクジェット記録装置は、距離測定部18で得られた距離情報に対応して吐出電極23からのインクの飛翔量を変えるものではなく、距離情報が本来の距離情報になるように、インクジェット印字ヘッド部3と印刷物15との間隔を調整するものである。そして、距離測定部18によって測定された距離情報がリニアモーター制御部44に供給されると、リニアモーター制御部44は、供給された距離情報に対応した制御信号をリニアモーター駆動部45に送り、リニアモーター駆動部45は、供給された制御信号に応答してリニアモーター42を移動させる。」(段落【0052】ないし【0055】)

ウ 効果について、
そして、本願補正発明を全体としてみても、本願補正発明により、引用発明、慣用技術1及び2並びに周知技術からみて、格別顕著な効果が奏されるともいえない。

(6)むすび
したがって、本願補正発明は、引用発明並びに慣用技術1及び2に基づいて、又は引用発明、慣用技術1及び2並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

2-3 むすび
以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないので、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたため、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし11に係る発明は、平成25年2月5日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲、平成22年8月25日に提出された明細書の翻訳文、及び国際出願時の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、特許請求の範囲の請求項11に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(1)の【請求項11】のとおりである。

2 引用文献の記載、引用文献の記載事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2000-238254号公報(以下、上記第2[理由]2 2-2(1)と同様に「引用文献」という。)には、上記第2[理由]2 2-2(1)のとおりの記載があり、該記載及び図面の記載から、上記第2[理由]2 2-2(2)のとおりの記載事項が記載されていると認める。
そして、引用文献には、上記第2[理由]2 2-2(3)のとおりの発明(以下、上記第2[理由]2 2-2(3)と同様に「引用発明」という。)が記載されていると認める。

3 対比・判断
上記第2[理由]2 2-1で検討したとおり、本件補正により請求項11は補正されていないため、本願発明は本願補正発明と同一の発明である。
したがって、本願補正発明が上記第2[理由]2 2-2(4)及び(5)のとおり、引用発明並びに慣用技術1及び2に基づいて、又は引用発明、慣用技術1及び2並びに周知技術(慣用技術1及び2並びに周知技術については、上記第2[理由]2 2-2(5)のとおりである。)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本願発明も、同様に、引用発明並びに慣用技術1及び2に基づいて、又は引用発明、慣用技術1及び2並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明並びに慣用技術1及び2に基づいて、又は引用発明、慣用技術1及び2並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-08-22 
結審通知日 2014-08-26 
審決日 2014-09-08 
出願番号 特願2010-541523(P2010-541523)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B05B)
P 1 8・ 121- Z (B05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 土井 伸次  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 槙原 進
加藤 友也
発明の名称 3次元の物体上に印刷するための装置および方法  
代理人 特許業務法人YKI国際特許事務所  

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