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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1296949
審判番号 不服2012-25723  
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-12-26 
確定日 2015-01-27 
事件の表示 特願2008-291364「メチルフェニデートで注意欠乏障害及び注意欠乏/活動亢進障害を治療する組成物及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 4月 9日出願公開、特開2009- 73856〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1. 手続の経緯

本願は、平成10年(1998年)12月14日(パリ条約による優先権主張 1997年12月15日,1998年9月30日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2000-538677号の一部を平成20年11月13日に新たな特許出願としたものであって、平成23年12月7日付けの拒絶理由通知に対して平成24年6月14日付けで補正書と意見書が提出され、同年8月23日付けで拒絶査定がなされたところ、これに対し、同年12月26日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに補正書が提出され、平成25年2月14日付けで審判請求の理由について補正する手続補正書が提出されたが、その後、平成26年2月24日付けの拒絶理由通知に対して同年5月22日付けで補正書と意見書が提出されたものである。

2. 本願に係る発明について

本願に係る発明は、平成26年5月22日付け補正書の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるものであるところ、そのうち、請求項1は、次のとおりである。

「【請求項1】
柔軟で限定されたシステムのポリマー担体中にメチルフェニデート塩基を含む、メチルフェニデート塩基を局所適用するための組成物であって、組成物が5?30質量%のメチルフェニデート塩基及び非官能性のアクリル系ポリマーを含み、酸官能性のアクリル系ポリマーを含まず、0.5mg/24時間?100mg/24時間の送達速度を達成する、組成物。」(以下、「本願発明」ともいう。)

3. 引用例

原査定で引用され、平成26年2月24日付けの拒絶理由通知でも引用された本願優先日の前に頒布された刊行物である「特開平2-255611号公報」(以下、「引用例」という。)には、次のことが記載されている(以下において下線は当審で付した。)。

(1-1)
「(1)フリー塩基構造の塩基性薬物を粘着剤中に含有してなる薬物含有粘着剤層を、柔軟な支持体上に積層してなる疾患治療用テープ製剤。
(2)粘着剤が無官能性粘着剤である請求項(1)記載の疾患治療用テープ製剤。
(3)無官能性粘着剤が(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび/またはそのアルコキシ変性単量体を重合してなるアクリル系重合体である請求項(2)記載の疾患治療用テープ製剤。
…」(特許請求の範囲)

(1-2)
「本発明は、フリー塩基構造の塩基性薬物を経皮的に生体内へ投与することを目的とする疾患治療用テープ製剤に関する。」(1頁右欄9行?11行)

(1-3)
「特に、粘着剤として無官能性粘着剤を用いることによって、薬物の安定性および放出性が顕著に向上し、…」(2頁右上欄17行?19行)

(1-4)
「本発明において用いる粘着剤は皮膚面にテープ製剤を密着固定して、含有するフリー塩基構造の塩基性薬物を皮膚面に放出する機能を有するものである。このような粘着剤としては薬物を分解せずに安定に保持できるように無官能性のものを用いることが好ましい。
無官能性の粘着剤としては、具体的にはシリコーンゴム、ポリイソプレンゴム、ポリイソブチレンゴム、ポリブタジエンゴム、スチレン-ブタジエン(またはイソプレン)-スチレン共重合体ゴムなどのゴム系粘着剤や、(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび/またはそのアルコキシ変性単量体を重合してなるアクリル系重合体などが挙げられ、その他ポリエステル樹脂などを用いることもできる。…
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび/またはそのアルコキシ変性単量体を重合してなるアクリル系重合体としては、皮膚接着性の点から炭素数が4?12のアルキル基(シクロヘキシル基の如き環状アルキル基も含む)を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの1種類もしくは2種類以上を主成分単量体として50重量%以上配合してなる共重合体が好ましい。
また、(メタ)アクリル酸アルキルエステルのアルコキシ変性単量体とは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルのアルキル基をメトキシ基やエトキシ基などのアルコキシ基で変性したものであり、具体的には(メタ)アクリル酸メトキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸エトキシエチルエステルなどが挙げられ、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルに50重量%を超えない範囲で共重合させると、皮膚接着性や薬物溶解性、薬物安定性などの特性がバランスよく兼備した粘着剤となり好ましい。」(2頁左下欄4行?3頁左上欄3行)

(1-5)
「一方、薬物との反応性を極力低くするためには、上述のように粘着剤中に官能基を有しないことが好ましい…」(3頁左上欄12行?14行)

(1-6)
「塩基性物質はその配合量を変化させることによって薬物の初期放出量を多くして速効性を付与することもでき、薬物の放出性を自在に変化させることができる。」(3頁右下欄12行?15行)

(1-7)
「このようなフリー塩基構造の塩基性薬物の具体例を薬理作用面から分類して以下に示す。

マル5精神神経用薬:…メチルフェニデート…」(「マル5」は原文においては、5を丸で囲んだ文字である。)(4頁左上欄17行?同頁左下欄3行)

(1-8)
「本発明においては粘着剤中に上記薬物を1種類以上含有させて薬物含有粘着剤層を調製する。薬物の配合量は薬理学的に有効な量であればよい…」(5頁左下欄10行?12行)

(1-9)
「〈発明の効果〉
以上のように本発明の疾患治療用テープ製剤は、薬物としてフリー塩基構造の塩基性薬物を用いているので経皮吸収性が良好なものである。特に、薬物を含有する粘着剤に無官能性粘着剤を用いることによって、薬物の安定性がさらに良好となる。」(5頁右下欄14行?19行)

(1-10)
「実施例1
アクリル酸イソオクチルエステル60部、メタクリル酸メチルエステル40部を、アゾビスイソブチロニトリルを重合開始剤として酢酸エチル中にて重合反応を行ない、粘着剤溶液を得た。
得られた粘着剤溶液にスコポラミンを配合(スコポラミン含量10%/対固形分)し、これを9μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルムの片面に乾燥後の厚みが40μmとなるように塗布、乾燥して本発明の疾患治療用テープ製剤を得た。」(6頁左上欄12行?同頁右上欄1行)

(1-11)
「実施例10
アクリル酸2-エチルヘキシルエステル80部、メタクリル酸メチルエステル15部、アクリル酸2-ヒドロキシエチルエステル5部を単量体として用いた以外は、実施例8と同様にして粘着剤溶液を得た。
得られた粘着剤溶液にサルブタモールを配合(サルブタモール含量15%/対固形分)し、これを50μm厚のエチレン/酢酸ビニル共重合体フィルムの片面に乾燥後の厚みが40μmとなるように塗布、乾燥して本発明の疾患治療用テープ製剤を得た。なお、粘着剤中の水酸基量とサルブタモール量とのモル比は、3.66/6.27であった。
実施例11
アクリル酸2-エチルヘキシルエステル85部、メタクリル酸メチルエステル15部を単量体として用いた以外は、実施例10と同様にしてサルブタモール含有のテープ製剤を得た。」(7頁左下欄3行?最終行)

(1-12)
「第1図は実施例1および4にて得られたテープ製剤からの薬物のin vitro放出試験の結果を示すグラフ…である。

」(8頁左下欄11行?右下欄)

上記摘示事項を含む記載から、刊行物1には、「フリー塩基構造の塩基性薬物であるメチルフェニデートを無官能性粘着剤中に含有してなる薬物含有粘着剤層を、柔軟な支持体上に積層してなる疾患治療用テープ製剤であって、該無官能性粘着剤が(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび/またはそのアルコキシ変性単量体を重合してなるアクリル系重合体である疾患治療用テープ製剤。」の発明(以下、「引用発明」という)が記載されているものと認められる。

4. 対比

本願発明と引用発明を対比する。
引用発明の「(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび/またはそのアルコキシ変性単量体を重合してなるアクリル系重合体」である「無官能性粘着剤」は、本願発明の「ポリマー担体」と「非官能性のアクリル系ポリマー」に相当する。

また、引用発明の「フリー塩基構造の塩基性薬物であるメチルフェニデート」は、「メチルフェニデート塩基」であるといえ、引用発明の疾患治療用テープ製剤は、薬物を経皮的に生体内へ投与するものであるから(摘示事項(1-2)を参照)、「メチルフェニデート塩基を局所適用するための組成物」であるといえる。

そして、引用発明における「薬物含有粘着剤層」は、「フリー塩基構造の塩基性薬物であるメチルフェニデートを無官能性粘着剤中に含有してなる」ものであるから、引用発明の疾患治療用テープ製剤は、「酸官能性のアクリル系ポリマー」を含まないものと解するのが相当である。

また、本願明細書には、
「“柔軟な、限定されたシステム”という語句は、接触することとなる表面と同じ形を取ることが可能であり、かつ固形形態のままで該接触を維持することが可能な固形形態を意味することを意図しており、これによって生理学的に有害な作用を生じることなく、また患者に投与している間に水と接触して大きく分解されることなく局所適用が容易となる。

当技術分野で公知の他の柔軟な、限定されたシステムは、フィルム、硬膏剤、軟膏剤、包帯、…を含む。」(【0012】を参照)
と記載されることから、引用発明の「薬物含有粘着剤層を、柔軟な支持体上に積層してなる疾患治療用テープ製剤」が、「柔軟で限定されたシステム」であることは明らかである。

してみれば、両発明は、
「柔軟で限定されたシステムのポリマー担体中にメチルフェニデート塩基を含む、メチルフェニデート塩基を局所適用するための組成物であって、組成物がメチルフェニデート塩基及び非官能性のアクリル系ポリマーを含み、酸官能性のアクリル系ポリマーを含まない組成物。」である点で一致するものの、引用発明では、本願発明における、「5?30質量%のメチルフェニデート塩基」を含み、「0.5mg/24時間?100mg/24時間の送達速度を達成する」との特定がない点で相違している。

5. 相違点についての検討

本願明細書における、
「…該組成物において約0.5mg/24時間?約100mg/24時間の送達速度を可能とするのに十分な量でメチルフェニデートが存在…する。」(【0007】を参照)、
「…メチルフェニデートの送達速度が約0.5mg/24時間?約100mg/24時間…であることが、患者の治療に有効な投与量を達成するのに必要である。」(【0014】を参照)
との記載を考慮すると、本願発明における、「5?30質量%のメチルフェニデート塩基」を含み、「0.5mg/24時間?100mg/24時間の送達速度を達成する」との特定は、結局のところ、組成物に、メチルフェニデート塩基を患者の治療に有効な量で配合することを意味するものと判断するのが相当である。
そして、刊行物1には、薬理学的に有効な量で薬物を配合することが記載されており(上記摘示事項(1-8)を参照)、また、薬物の放出性を考慮してその配合量を適宜設定し得ることも記載されているので(上記摘示事項(1-6)を参照)、引用発明におけるメチルフェニデート塩基の配合量や患者への投与量(1日あたりの送達量)を本願発明で特定されている程度のものとすることは、当業者が容易になし得ることである。

以下、本願発明の効果に関して検討する。本願では図1?図3として、縦軸を「メチルフェニデート血中値」とし、横軸を「時間」とするグラフが示されているものの、これらの図1?図3は実施例2?実施例6に関するものであって、実施例2?実施例6は「非官能性のアクリル系ポリマー」を含むか否かが不明であるので、これらの図1?図3は、「非官能性のアクリル系ポリマー」を含む本願発明の作用を示すものとは言えない。また、本願明細書には、実施例1について「上記製剤からの死んだ皮膚に対する試験管内でのメチルフェニデートの流束は、5μg/cm^(2)/時間?40μg/cm^(2)/時間の皮膚透過性を示す。」(【0018】を参照)と記載されるものの、実施例1も「非官能性のアクリル系ポリマー」を含むか否かが不明であり、本願発明の作用を示すものとは言えない。そして、引用例には、非官能性のアクリル系ポリマーを含む実施例1のin vitro放出試験の結果を示すグラフが記載されるが(上記摘示事項(1-12)を参照)、そのグラフを見ると、本願明細書実施例の図1?図3のグラフと同様、24時間にわたって薬物が持続放出されていることが読み取れるから、仮に、図1?図3のグラフが、「非官能性のアクリル系ポリマー」を含む本願発明に関するものであったとしても、図1?図3のように薬物を放出することが当業者の予測を超えるようなものと言うことはできない。
してみれば、本願明細書および図面の記載を検討しても、本願発明とすることにより当業者の予測を超えるような格別に顕著な効果を奏するものと解することはできない。

なお、平成26年5月22日付け意見書で言及されるところの、審判請求の理由について補正する平成25年2月14日付け手続補正書に添付された「資料2の1」および「資料2の2」には、本願発明に相当するとされる組成物の臨床試験の結果について記載されるが、それらの組成物から9時間で放出された17.18mg及び16.22mgは、いずれも本願発明の「0.5mg/24時間?100mg/24時間」に相当するものとされるところ、上述のように、引用発明におけるメチルフェニデート塩基の配合量や患者への投与量(1日あたりの送達量)を本願発明で特定されている程度のものとすることは、当業者が容易になし得るものと考えられる以上、本願発明の組成物から放出されるメチルフェニデート塩基の送達速度が、「0.5mg/24時間?100mg/24時間」に相当するものであるということにより進歩性を生じるものではない。

以上の検討結果から、本願発明は、その優先日前に頒布された刊行物である引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6. むすび

以上のとおりであるから、本件請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-08-28 
結審通知日 2014-09-01 
審決日 2014-09-17 
出願番号 特願2008-291364(P2008-291364)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 前田 亜希  
特許庁審判長 内藤 伸一
特許庁審判官 岩下 直人
渕野 留香
発明の名称 メチルフェニデートで注意欠乏障害及び注意欠乏/活動亢進障害を治療する組成物及び方法  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 辻居 幸一  
代理人 市川 さつき  
代理人 平山 孝二  
代理人 箱田 篤  
代理人 山崎 一夫  
代理人 浅井 賢治  

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