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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B65H
管理番号 1297012
審判番号 不服2014-8202  
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-05-02 
確定日 2015-02-24 
事件の表示 特願2009-249063「キャプスタン及びキャプスタン装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 5月12日出願公開、特開2011- 93658、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1.手続の経緯
本件出願は、平成21年10月29日の出願であって、平成25年11月12日付け、及び平成26年1月27日付けで手続補正書が提出され、同年2月19日付けで拒絶の査定がなされ、これに対し、同年5月2日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に手続補正書が提出されて特許請求の範囲、及び明細書を補正する手続補正がなされたものである。

第2.本願発明
本願の請求項1、及び2に係る発明は、上記の平成26年5月2日の手続補正によって補正された特許請求の範囲、明細書、及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1、及び2に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認める(以下本願の請求項1に係る発明を「本願発明1」といい、同様に本願の請求項2に係る発明を「本願発明2」という。)。
「【請求項1】
キャプスタン装置を構成し回転力が与えられて回転するキャプスタン本体と、
前記キャプスタン本体の外周面のうち少なくとも線材が巻き付けられる領域に形成された熱処理硬化層と、
を有し、
前記キャプスタン本体が、機械構造用炭素鋼鋼材のS55Cで構成されているキャプスタン。
【請求項2】
請求項1に記載のキャプスタンと、
前記キャプスタンを構成するキャプスタン本体を内周側から冷却する冷却機構と、
を有するキャプスタン装置。」

第3.原査定の理由の概要
本願の各請求項に係る発明は、その親出願の出願前に日本国又は外国において、頒布された実願昭50-064800号(実開昭51-143729号)のマイクロフィルム(以下「引用例」という。)に記載された発明、機械構造用炭素鋼鋼材である「S55C」が、「熱伝導性」に優れている特性を有し、冷却を要する構成に採用されているとの周知の事項(例えば、特開2002-336974号公報の段落【0010】、【0024】等参照。以下、「周知の事項1」という。)、耐摩耗性を向上させるために「熱処理硬化層」を適宜形成することは、一般になされていること(例えば、特開2008-008419号公報の段落【0081】?【0082】等参照。)、及び「S55C」が耐摩耗性を有することは周知の事項(例えば、特開平07-077256号公報の段落【0013】、特開2003-042061号公報の段落【0013】、特開2009-111418号公報の段落【0021】等参照。以下、「周知の事項2」という。)であるに基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4.当審の判断
1.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された引用例には、次の事項が記載されている。(下線は審決で付した。以下同じ。)
ア.「冷却手段を有する連続伸線機キヤプスタンにおいて、キヤプスタン胴体の内部に該胴体内面との間に所定の間隙を形成するように円筒体を配置し、かつ該胴体内面には全周に亘つて螺旋状の溝を形成して冷却水用流路としたことを特徴とする連続伸線機キヤプスタン。」(第1頁第5?10行)
イ.「ダイスにより引抜かれた高温のワイヤ1が巻き付けられるキヤプスタンの胴体2は支持台21上に回転可能に支持され」(第2頁第4?6行)
ウ.「本考案はこのような点に鑑み、胴体の熱放散面積を増大させることによつて胴体の伝熱効率の向上を図り、これによつてワイヤの冷却機能を向上させるようにしたものである。」(第3頁第1?4行)
また、第1、2図、及び上記イの記載事項から、以下の事項が示されているといえる。
・「キヤプスタン胴体は回転可能に支持され、その外周面にワイヤが巻き付けられる領域を有している。」
これらの記載、及び図示内容を総合すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「冷却手段を有する連続伸線機キヤプスタンにおいて、キヤプスタン胴体の内部に該胴体内面との間に所定の間隙を形成するように円筒体を配置し、かつ該胴体内面は全周に亘つて螺旋状の溝を形成して冷却水用流路としたものであり、キヤプスタン胴体は回転可能に支持され、その外周面にワイヤが巻き付けられる領域を有している連続伸線機キヤプスタン。」

2.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、
後者における「連続伸線機キヤプスタン」は、その構造、機能、作用等からみて、前者における「キャプスタン装置」に相当し、以下同様に、「キヤプスタン胴体」は「キャプスタン本体」に、「ワイヤ」は「線材」に、それぞれ相当する。
また、後者における「キヤプスタン胴体」は、その外周面にワイヤが巻き付けられ、回転可能であるから、「回転力が与えられて回転する」ことは明らかである。
したがって、両者は、
「キャプスタン装置を構成し回転力が与えられて回転するキャプスタン本体と、
前記キャプスタン本体の外周面のうち少なくとも線材が巻き付けられる領域と、
を有する、
キャプスタン。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
キャプスタン本体の外周面のうち少なくとも線材が巻き付けられる領域に関して、本願発明1は、「熱処理硬化層」を形成しているのに対して、引用発明は、そのようなものでない点。
[相違点2]
本願発明1は、「キャプスタン本体が、機械構造用炭素鋼鋼材のS55Cで構成されている」のに対して、引用発明は、その点につき、明らかでない点。

(2)判断
上記相違点について以下検討する。
ア.相違点1について
一般に耐摩耗性を向上させるために「熱処理硬化層」を適宜形成することは、常套手段(例えば、特開2008-008419号公報の段落【0081】?【0082】等参照。)である。
しかしながら、引用発明は、上記1.イ.に示したとおり、キヤプスタン胴体(キャプスタン本体)の伝熱効率の向上を図って、ワイヤに対する冷却機能を向上させることを課題とするものであるから、耐摩耗性を向上させることを課題とした上記常套手段とは異なるものである。
また、上記常套手段例をみると、グリース封入玉軸受の転動部材に窒素富化層(熱処理硬化層)を設けたもので、引用発明とは技術分野も異なるものである。
してみると、引用発明に上記常套手段を適用することは、当業者が容易に想到し得るものではない。
そして、引用発明において、他に上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項を備えるものとなすことを、当業者が容易に想到し得たといえる根拠も見当たらない。
したがって、引用発明1において、上記常套手段を適用することにより、相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

イ.相違点2について
拒絶査定の理由によると、機械構造用炭素鋼鋼材である「S55C」が、「熱伝導性」に優れている特性を有し、冷却を要する構成に採用されていることが周知の事項1であるとし、その周知例として、特開2002-336974号公報の段落【0024】が挙げられているが、段落【0024】には、「金属部16は、熱伝導率に優れているとともに硬い金属を用いることが望ましく、用途に応じて適宜選択できる。熱伝導性を重視する場合には、例えば銅、真鍮を用いることができ、硬度を重視する場合には、例えば鉄鋼材、超硬合金を用いることができる。本実施形態では、金属部16として鉄系材料(S55C、FC20、C1100等)を用いている。」と記載されているように、銅、真鍮は、上記に記載されているように熱伝導性のよいものではあっても、一般に硬い金属とはいえず、「金属部16は、熱伝導率に優れているとともに硬い金属を用いることが望ましい」と記載されているからといって、銅、真鍮が、熱伝導率に優れ、硬い金属であるとはいえないから、上記の記載を根拠として、S55Cが熱伝導率に優れていると解することはできない。してみると、上記の周知例を根拠として、機械構造用炭素鋼鋼材である「S55C」が、「熱伝導性」に優れている特性を有し、冷却を要する構成に採用されていることは周知の事項とはいえない。
ところで、本願発明は、本願明細書に「しかし、線材を引き出すことによって形成した伸線の長さ、線材の引き出し速度、線材の硬さなどが増大するにつれて、キャプスタンのうち線材が当接する部位で表面摩耗が進行する。その結果、ついには線材とキャプスタンとが充分に接触することができなくなり、線材を冷却する能力(線材冷却能力)の低下や、線材がキャプスタンにうまく巻き付かない事態が生じるという不具合があった。」(段落【0007】)、「線材との接触によるキャプスタンの摩耗を抑制するために、キャプスタン本体の外周面に、溶射による摩耗抑制層を形成することが考えられるが、摩耗抑制層の材質等によっては、熱伝導率が低いために線材冷却性能が低下することが懸念される。」(段落【0008】)、及び「本発明は、上記事実を考慮して、キャプスタン本体の外周面の摩耗を抑制し、且つ線材冷却性能の低下を抑えたキャプスタンと、このキャプスタンを備えたキャプスタン装置を提供することを課題とする。」(段落【0009】)と記載されているように、キャプスタン本体の外周面の摩耗を抑制し、且つ線材冷却性能の低下を抑えるという2つの課題を同時に解決するものである。
一方、引用発明は、本願発明のような2つの課題を同時に解決するものとは異なり、上記1.イ.に示したとおり、キヤプスタン胴体(キャプスタン本体)の伝熱効率の向上を図って、ワイヤに対する冷却機能を向上させるという課題のみを解決するものである。してみると、引用発明の上記の課題の解決するために、キヤプスタン胴体内面に全周に亘つて螺旋状の溝を形成して冷却水用流路としたものではあるが、仮に、キヤプスタン胴体の材料による解決を図ろうとすると、当業者は、より熱伝導率のよい材料、例えば、S45CやS35Cを選択して使用すると推認されるものであって、これらの材料より熱伝導率の劣るS55Cを選択する根拠はない。
したがって、仮に、S55Cが耐摩耗性を有し、熱伝導性に優れている(上記のとおり、熱伝導率に優れているとまではいえない。)であることが周知の事項、つまり上記周知の事項1、及び2であっても、引用発明に、上記周知の事項1、及び2を適用することは、当業者が容易に想到し得るものではない。
また、引用発明と「S55C」が耐摩耗性を有するという周知の事項2とは、その課題において異なるものであるから、引用発明に、上記周知の事項2を適用することは、当業者が容易に想到し得るものではない。
そして、引用発明において、他に上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項を備えるものとなすことを、当業者が容易に想到し得たといえる根拠も見当たらない。
よって、引用発明において、上記周知の事項1、及び2を適用することにより、相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

3.本願発明2について
本願発明2は、本願発明1の発明特定事項に加えてさらなる発明特定事項を追加して限定を付したものであるから、本願発明2は、上記2.(2)と同様の理由により、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

第5..むすび
以上のとおりであるから、本願発明1、及び2は、引用発明、上記常套手段、及び上記周知の事項1、2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとものとすることはできないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2015-02-12 
出願番号 特願2009-249063(P2009-249063)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B65H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 西本 浩司  
特許庁審判長 江成 克己
特許庁審判官 黒瀬 雅一
熊倉 強
発明の名称 キャプスタン及びキャプスタン装置  
代理人 中島 淳  
代理人 福田 浩志  
代理人 加藤 和詳  

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