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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04L
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H04L
管理番号 1297074
審判番号 不服2013-24057  
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-12-06 
確定日 2015-02-04 
事件の表示 特願2009-539848「ネットワークで装置を置換する方法及び機器」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 6月12日国際公開、WO2008/068693、平成22年 4月15日国内公表、特表2010-512089〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2007年11月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2006年12月6日 欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって,平成25年2月25日付けの拒絶理由に対して同年6月4日付けでした手続補正は同年7月31日付けで補正の却下の決定がされ,同日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年12月6日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。


第2 補正却下の決定
[結論]
平成25年12月6日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本願発明と補正後の発明
上記手続補正(以下,「本件補正」という。)は,平成24年11月8日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された
「【請求項1】
複数の装置を有するネットワークで装置を置換する方法であって,
該ネットワークの構成変更に際し,第1の装置が複製されるべきデータを送信する工程と,
前記第1の装置の複製データを記憶手段に記憶する工程と,
第2の装置を前記ネットワークへ接続する工程と,
前記第1の装置を識別する第1の識別子を有する置換情報を前記第2の装置から前記記憶手段へ提供する工程と,
前記第1の装置の前記複製データを前記記憶手段から前記第2の装置へ提供する工程とを有する方法。」
という発明(以下,「本願発明」という。)を,
「【請求項1】
複数の装置を有するネットワークで装置を置換する方法であって,
第1の装置が記憶手段に対して複製されるべきデータを送信する工程であり,複製されるべきデータは,定期的に複製される状態情報,および,変更の場合にだけ複製される制御ロジック及びサポートロジックを含む工程と,
前記第1の装置の複製データを記憶手段に記憶する工程と,
第2の装置を前記ネットワークへ接続する工程と,
前記第1の装置を識別する第1の識別子を有する置換情報を前記第2の装置から前記記憶手段へ提供する工程と,
前記第1の装置の前記複製データを前記記憶手段から前記第2の装置へ提供する工程とを有する方法。」
という発明(以下,「補正後の発明」という。)に変更することを含むものである。

2 補正の適否
(1)上記補正の概要
上記補正は,本願発明の「該ネットワークの構成変更に際し,第1の装置が複製されるべきデータを送信する工程」との構成を,補正後の発明の「第1の装置が記憶手段に対して複製されるべきデータを送信する工程であり,複製されるべきデータは,定期的に複製される状態情報,および,変更の場合にだけ複製される制御ロジック及びサポートロジックを含む工程」との構成に変更するものである。
すなわち,本願発明では第1の装置が複製されるべきデータを送信するタイミングが「該ネットワークの構成変更に際し」と規定されていたのに対し,補正後の発明は当該規定が削除され,複製されるべきデータが「定期的に複製される状態情報,および,変更の場合にだけ複製される制御ロジック及びサポートロジックを含む」ことが規定された。

(2)新規事項の有無について
補正後の発明の「第1の装置が記憶手段に対して複製されるべきデータを送信する工程であり,複製されるべきデータは,定期的に複製される状態情報,および,変更の場合にだけ複製される制御ロジック及びサポートロジックを含む工程」は,本願明細書の【0028】の「例えば,制御ロジックが頻繁には変化しない場合は,状態情報,すなわち,現在の状態変数値を定期的にのみ更新すれば十分である。代替的に,制御ロジック及びサポートロジックのみが,例えば,システムの起動時及びシステムが変化する場合にのみ,複製される。」の記載に基づくものといえるから,上記補正は出願当初の明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内でしたものと認められる。
請求項10に対する同様の内容の補正についても同様である。

(3)補正の目的要件等について
補正後の発明では,本願発明の「複製されるべきデータ」の内容及び複製されるタイミングが,「定期的に複製される状態情報,および,変更の場合にだけ複製される制御ロジック及びサポートロジック」と特定された。しかしながら,本願発明では,第1の装置が複製されるべきデータを送信するタイミングが,「該ネットワークの構成変更に際し」と特定されていたのに対し,補正後の発明では,「定期的に複製される状態情報,および,変更の場合にだけ複製される制御ロジック及びサポートロジック」が,どのタイミングで送信されるのかが特定されないこととなった。
そして,仮に補正後の発明は複製されるタイミングと送信されるタイミングが同時であると解釈しても,ネットワークの構成変更に際して第1の装置から送信することとは,送信のタイミング,すなわち,複製されるべきデータの送信のトリガーが異なるものとなることは明らかである。
したがって,上記補正は,本願発明の構成を更に限定するものではなく,本願発明の構成を変更するものであるから,特許法第17条の2第5項第2号に規定される「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものとはいえない。また,特許法第17条の2第5項各号に規定される他のいずれの事項を目的とするものともいえない。
また,下記「第3 3」のとおり,本願発明の「該ネットワークの構成変更に際し,第1の装置が複製されるべきデータを送信する」ことは「特別な技術的特徴」に該当するところ,上述のとおりであるため,上記補正は「特別な技術的特徴」を変更することになるので,特許法第17条の2第4項の規定を満たしているともいえない。
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第4項及び第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

(4)独立特許要件について
上記(3)のとおりであるが,更に進んで,仮に本件補正の目的を特許請求の範囲の限定的減縮とした場合に,独立特許要件を満たしていたか否かについても検討する。

明確性要件について
(ア)補正後の特許請求の範囲の請求項1の「複製されるべきデータは・・・を含む」との記載における「状態情報」,「制御ロジック」及び「サポートロジック」なる用語について,その意味内容は,補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載から一義的に明確であるとはいえず,本願出願時の技術常識を参酌しても,上記の各用語の意味内容が一義的に明確であるとはいえない。

ところで,発明の要旨の認定,すなわち特許請求の範囲に記載された技術的事項の確定は,まず特許請求の範囲の記載に基づくべきであり,その記載が一義的に明確であり,その記載により発明の内容を的確に理解できる場合には,発明の詳細な説明に記載された事項を加えて発明の要旨を認定することは許されず,特許請求の範囲の記載文言自体から直ちにその技術的意味を確定するのに十分といえないときにはじめて発明の詳細な説明中の記載を参酌できるにすぎないと解される。(東京高判平5.12.21(平成4(行ケ)116))
そこで,補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載より,その意味内容が一義的に明確とはいえない「状態情報」,「制御ロジック」及び「サポートロジック」なる用語について,本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌して,その意味内容を理解することができるか否かを,更に検討する。
「状態情報」,「制御ロジック」及び「サポートロジック」なる用語について,本願明細書の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。

「本発明の実施例に従って,分散制御ネットワークでのホット置換は,新しい装置における置換される装置の制御ロジックの再インスタンス化,他の装置の状態変数に対する新しい装置での制御ロジックの関係の更新,新しい装置への置換される装置の状態情報の再インストール,及び置換される装置の状態変数又は属性に作用する他の装置での制御ロジックに対する関係の再インストールを可能にする。」(【0008】),
「前記複製データは,制御ロジック,サポートロジック,及びネットワーク装置の属性の現在の値を有してよい。」(【0010】),
「分散情報空間は,ネットワークに属する全ての装置の状態情報に及ぶ。」(【0022】),
「本発明の概念は,ネットワーク内で第1の装置102のアプリケーションロジック及び状態情報を複製132し,第1の装置102の物理的置換の後に,その複製データを新しい装置にダウンロードすることである。」(【0026】),
「これは,記憶手段112が,第1の装置102が存在する間も,第1の装置102の消失又は排除の後も,複製された制御ロジックを実行せず,且つ,関係を保持したり,あるいは変数値を提示したりすることもないことを意味する。」(【0027】),
「第1の装置102の状態情報及び制御ロジックの複製は定期的に行われてよい。 (中略) 例えば,制御ロジックが頻繁には変化しない場合は,状態情報,すなわち,現在の状態変数値を定期的にのみ更新すれば十分である。代替的に,制御ロジック及びサポートロジックのみが,例えば,システムの起動時及びシステムが変化する場合にのみ,複製される。」(【0028】),
「実施例に従って,状態情報及びロジックの複製は,第1の装置102が,例えば装置不具合によりネットワークを去る前にトリガされてよい。」(【0029】),
「更に,第2の装置202は,ネットワークに加わった後に,制御ロジック,関係及び状態情報の再インスタンス化を開始するよう構成されている」(【0032】),
「実施例に従って,置換される第1の装置102と関係を有する第3の装置104は,新しい装置202の識別子を得る時に,自ら自身の制御及びサポートロジックを更新するよう構成されている。」(【0039】),
「続くステップ352で,自身の状態情報をネットワークの他の装置に複製されている古い装置が排除される。」(【0042】),
「応答として,古い装置の状態情報の複製の保持手段は,その状態情報を送ること272により新しい装置に応答する。」(【0047】),
「関係は,古い装置の状態を変更するロジック,又は古い装置で実行されるロジックに対する入力として使用される局所状態の変更を古い装置に知らせるサポートロジックを有してよい。特定の装置が古い装置との関係を有していた場合に,その特定の装置は,自身の関係情報を新しい装置の識別子により更新するよう構成される。随意的に,古い装置が局所ロジックのための入力として状態情報を使用していた全ての装置は,初期値として自身の状態変数の現在の状態により新しい装置を更新する。」(【0048】),

上記の記載によれば,本願明細書の発明の詳細な説明には,「状態情報」及び「制御ロジック」について,これらに対して「再インスタンス化」,「更新」,「再インストール」及び「複製」といった処理がされることが記載されているのみで,これらの意味内容を理解することができる具体的な説明は記載されていない。
また,本願明細書の発明の詳細な説明には,「サポートロジック」について,これに対して「複製」及び「更新」といった処理がされることの記載に加え,「古い装置の状態を変更するロジック,又は古い装置で実行されるロジックに対する入力として使用される局所状態の変更を古い装置に知らせるサポートロジックを有してよい。」(【0048】)との記載がある。
しかし,上記の記載における「古い装置の状態を変更するロジック」及び「古い装置で実行されるロジック」それぞれの内容について,本願明細書の発明の詳細な説明に具体的な説明は記載されておらず,本願出願時の技術常識を参酌しても,その内容は不明であり,その結果,これらの入力として使用される「局所状態の変更」の内容も不明である。
さらに,上記の記載における「古い装置」が置換対象の装置であることに鑑みれば,上記の記載における「局所状態の変更を古い装置に知らせる」との処理の内容も不明である。
してみれば,本願明細書の発明の詳細な説明の記載には,「サポートロジック」について,その意味内容を理解することができる具体的な説明が記載されているとはいえない。
そうすると,特許請求の範囲の請求項1に記載の「状態情報」,「制御ロジック」及び「サポートロジック」なる用語は,本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しても,その意味内容を理解することはできない。

以上より,補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載からは,「状態情報」,「制御ロジック」及び「サポートロジック」なる用語の意味内容は一義的に明確ではなく,補正後の発明における「第1の装置が記憶手段に対して複製されるべきデータを送信する工程であり,複製されるべきデータは,定期的に複製される状態情報,および,変更の場合にだけ複製される制御ロジック及びサポートロジックを含む工程」との構成を特定することはできないので,補正後の発明の技術的範囲が明確であるとはいえない。

したがって,本願は,特許法第36条第6項第2号の規定を満たしているとはいえない。

(イ)特許請求の範囲の請求項6は,
「【請求項6】前記第1の装置の複製データを記憶する前記工程は,定期的に,及び/又は前記第1の装置の不具合に応答して,及び/又は前記第1の装置での前記複製データの変更に応答して,行われる,請求項1乃至5のうちいずれか一項記載の方法。」
であり,請求項1を引用しており,「前記第1の装置の複製データを記憶する前記工程は,定期的に,及び/又は前記第1の装置の不具合に応答して,及び/又は前記第1の装置での前記複製データの変更に応答して,行われる」ことを限定している。
請求項6自体は本件補正により補正されていないが,引用する請求項1が補正され,「状態情報」は「定期的に複製され」,「制御ロジック及びサポートロジック」は「変更の場合にだけ複製される」こととなったため,請求項6の上記限定の内容と整合しないことになった。このため,補正後の請求項1を引用する請求項6に係る発明は不明確であり,本願は特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない。

実施可能要件について
上記ア(ア)のとおり,「状態情報」,「制御ロジック」及び「サポートロジック」の内容が不明であるため,本願の発明の詳細な説明は,「第1の装置が記憶手段に対して複製されるべきデータを送信する工程であり,複製されるべきデータは,定期的に複製される状態情報,および,変更の場合にだけ複製される制御ロジック及びサポートロジックを含む工程」なる構成を有する補正後の発明を実施し得る程度に記載されているとはいえない。このため,本願は,特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていない。

ウ むすび
以上のとおり,補正後の特許請求の範囲の記載は,特許法第36条第6項第2号に規定される要件を満たしておらず,また,本願の発明の詳細な説明の記載は,特許法第36条第4項第1号に規定される要件を満たしていないから,本願は特許を受けることができない。
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3 結語
以上のとおり,本件補正は,特許法第17条の2第4項及び第5項の規定に違反し,また,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定にも違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成25年12月6日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願発明は,上記「第2 補正却下の決定」の項中の「1 本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。

2 引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された特開2002-77197号公報(以下,「引用例」という。)には,「子局装置の交換方法」として,図面とともに以下の事項が記載されている。

「【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら,故障した子局装置を他の子局装置に交換しただけでは親局装置との無線通信を復旧させることはできず,親局装置と交換後の子局装置とがデータを無線通信をするためには,エラーに対する再送回数,誤り訂正を有効にするか否か,使用する周波数,パスワード,IPアドレス,送受信タイミングなどといった種々な情報を交換前と同じに子局装置に設定しなければならない。
【0005】本発明は,上記従来の事情に鑑みなされたもので,子局装置の交換に際して親局装置との無線通信に必要な情報を交換後の子局装置に容易に設定することができる方法を提供することを目的としている。なお,本発明の更なる目的は,以下の説明で明らかなところである。
【0005】本発明は,上記従来の事情に鑑みなされたもので,子局装置の交換に際して親局装置との無線通信に必要な情報を交換後の子局装置に容易に設定することができる方法を提供することを目的としている。なお,本発明の更なる目的は,以下の説明で明らかなところである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は,親局装置と無線通信を行う固定設置された子局装置を他の子局装置と交換する方法であって,交換前の子局装置のメモリから当該子局装置のデータ通信に必要な設定情報を外部装置に取得して,当該外部装置のメモリに保持しておき,交換後の子局装置に外部装置のメモリに保持された交換前の子局装置の設定情報を入力して,当該交換後の子局装置のメモリに保持させるものである。
【0007】したがって,親局装置との通信に必要な情報を子局装置から予め或いは交換に際して取得して外部装置に保持しておき,この情報を交換後の子局装置に転送保持させるようにしたため,交換前と同じ情報を交換後の子局装置に容易に設定することができ,親局装置との無線通信を迅速に復旧させることができる。
【0008】
【発明の実施の形態】本発明を加入者無線アクセスシステムに適用した実施例に基づいて具体的に説明する。なお,加入者無線アクセスシステムの基地局装置を親局とし,加入者局装置を子局として説明する。図1?図3には本発明の第1実施例が示してあり,図1には通常動作時(交換前)におけるシステムの構成を示し,図2には子局交換時におけるシステムの構成を示し,図3には親局及び子局の本発明に係る機能構成を示してある。
【0009】親局1は複数の子局2(A,B,C,…)を収容しており,これら子局と無線通信を行う。そして,例えば子局(A)2が故障した場合には,これを新たな子局(新)2と交換し,元の子局(A)2に接続されていた加入者端末を子局(新)2によって親局1に無線接続する。
【0010】親局1には,各子局2とデータを無線通信するために必要な情報(エラーに対する再送回数,誤り訂正を有効にするか否か,使用する周波数,パスワード,IPアドレス,送受信タイミングなどの設定情報)のセットを各子局を識別する子局IDに対応付けて保持する不揮発性メモリ11が備えられている。なお,これら各子局2の設定情報セットは後述するように各子局2から取得する。
【0011】また,各子局2には,親局1とデータの無線通信を行うために必要な自己に特有な情報(エラーに対する再送回数,誤り訂正を有効にするか否か,使用する周波数,パスワード,IPアドレス,送受信タイミングなどの設定情報)のセットを保持する不揮発性メモリ21が備えられている。各子局2の設定情報は当該子局を新規に設置した際に設定されるものであり,管轄の親局1との初期設定通信などによって各子局毎に決定してメモリ21に設定保持される。なお,子局2の工場出荷時にはメモリ21には設定情報が未書き込みであり,この未書き込み状態はチェックサム22によって示されている。
【0012】親局1は各子局2との通常の通信動作中において,定期的或いは必要に応じて,各子局2からメモリ21に保持されている設定情報のセットを無線通信により取得し,取得した設定情報セットをその子局IDに対応付けてメモリ11に保持する。そして,或る子局(A)2が新たな子局(新)2と交換されると,当該新たな子局(新)2はその起動によって自らのチェック機能23によりチェックサム22を検査する。
【0013】この検査の結果,当該新たな子局(新)2は未だメモリ21に設定情報が保持されていないのでチェックエラーとなり,これを契機に新たな子局(新)2は元の子局(A)2から引継いだ子局IDを付加して親局1に対して設定情報の転送要求を無線送信する。親局1は当該転送要求を受信すると,該当する子局IDの設定情報セットをメモリ11から読み出して,要求元の子局(新)2へ無線送信する。
【0014】要求元の子局(新)2は親局1から設定情報セットを受信すると,これをメモリ21に格納して設定し,当該子局(新)2が親局1とのデータ通信を元の子局(A)と同等に行うことができるようになる。なお,上記では新たな子局(新)は元の子局(A)から同じ子局IDを引継ぐようにしたが,子局(新)からの設定情報の転送要求を受信すると,親局が配下の子局に対してその子局IDを通知すべき要求をブロードキャスト送信し,メモリ11に既に管理されている子局IDの内で通知された子局IDが無いものを交換された子局と判定して,当該子局IDの設定情報セットを要求元の子局(新)へ転送するようにしてもよく,このようにすれば,子局の交換作業においてID引継ぎのための作業を省くことができる。」(2頁1欄?3頁3欄)

上記記載及び図面並びに当該技術分野における技術常識を考慮すると,
(1)【0004】,【0005】の記載によれば,子局装置と親局装置が無線通信を行うシステムにおいて,故障した子局装置を他の子局装置に交換する方法が記載されているといえ,図1によれば子局は複数存在していることは明らかである。したがって,引用例には,「複数の子局装置を有する無線通信システムで子局装置を交換する方法」が記載されているといえる。

(2)【0012】の記載によれば,親局1は,定期的或いは必要に応じて,各子局2からメモリ21に保持されている設定情報のセットを無線通信により取得し,取得した設定情報セットをその子局IDに対応付けてメモリ11に保持するのであり,当該子局2は交換前の子局装置であることは明らかである。したがって,引用例には,「定期的或いは必要に応じて,親局装置が交換前の子局装置の設定情報のセットを無線通信により取得する」こと,「交換前の子局装置の設定情報のセットをメモリ11に保持する」ことが記載されていると認められる。

(3)【0012】,【0013】の記載によれば,交換前の子局(A)2が新たな子局(新)2に交換され,新たな子局(新)2は親局1に対して無線送信するのであるから,新たな子局装置を無線通信システムに接続していることは明らかである。

(4)【0013】の記載によれば,新たな子局(新)2は元の子局(A)2から引継いだ子局IDを付加して親局1に対して設定情報の転送要求を無線送信し,親局1は当該転送要求を受信すると,該当する子局IDの設定情報セットをメモリ11から読み出して,要求元の子局(新)2へ無線送信するのであるから,引用例には,「交換前の子局装置から引継いだ子局IDを付加した設定情報の転送要求を新たな子局装置から親局装置に対して無線送信する」こと,「該当する子局IDの設定情報セットをメモリ11から読み出して,要求元の新たな子局装置へ無線送信する」ことが記載されていると認められる。

以上を総合すると,引用例には以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
「複数の子局装置を有する無線通信システムで子局装置を交換する方法であって,
定期的或いは必要に応じて,親局装置が交換前の子局装置の設定情報のセットを無線通信により取得し,
前記交換前の子局装置の設定情報のセットをメモリ11に保持し,
新たな子局装置を無線通信システムに接続し,
前記交換前の子局装置から引継いだ子局IDを付加した設定情報の転送要求を前記新たな子局装置から前記親局装置に対して無線送信し,
該当する子局IDの設定情報セットをメモリ11から読み出して,要求元の前記新たな子局装置へ無線送信する,
方法。」

3 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると,
(1)本願発明の「置換」なる用語と引用発明の「交換」なる用語とは,表現が異なるのみであって,実質的な差異は無い。また,引用例の図4,5に照らせば,引用発明の「無線通信システム」は,「ネットワーク」と言い得ることは明らかである。そして,引用発明の「子局装置」は明らかに「装置」であり,「交換前の子局装置」,「新たな子局装置」をそれぞれ「第1の装置」,「第2の装置」と称するのは任意である。また,「メモリ11」は「記憶手段」に他ならない。更に,各動作を「・・・する工程」と称することは任意である。

(2)引用発明の「親局装置が交換前の子局装置の設定情報のセットを無線通信により取得し」は,子局装置からみれば,子局装置が設定情報のセットを無線送信により送信していることは明らかである。また,「交換前の子局装置の設定情報のセット」は,メモリ11に記憶されるのであるから,「複製されるべきデータ」といえる。

(3)引用発明の「交換前の子局装置から引継いだ子局ID」は,明らかに本願発明の「第1の装置を識別する第1の識別子」に相当するから,引用発明の「前記交換前の子局装置から引継いだ子局IDを付加した設定情報の転送要求」は本願発明の「前記第1の装置を識別する第1の識別子を有する置換情報」に相当する。ここで,引用発明の「設定情報の転送要求」は,親局装置に対して送信されるものであるが,親局装置にあるメモリ11に記憶している設定情報のセットを読み出すためのものであるから,実質的に記憶手段であるメモリ11に提供しているといえる。

(4)上記(1)?(3)のとおりであるから,引用発明の「該当する子局IDの設定情報セットをメモリ11から読み出して,要求元の前記新たな子局装置へ無線送信する」は,本願発明の「前記第1の装置の前記複製データを前記記憶手段から前記第2の装置へ提供する工程」に相当する。

したがって,本願発明と引用発明とを対比すると,両者は,以下の点で一致し,また,相違している。
(一致点)
「複数の装置を有するネットワークで装置を置換する方法であって,
第1の装置が複製されるべきデータを送信する工程と,
前記第1の装置の複製データを記憶手段に記憶する工程と,
第2の装置を前記ネットワークへ接続する工程と,
前記第1の装置を識別する第1の識別子を有する置換情報を前記第2の装置から前記記憶手段へ提供する工程と,
前記第1の装置の前記複製データを前記記憶手段から前記第2の装置へ提供する工程とを有する方法。」

(相違点)
「第1の装置が複製されるべきデータを送信する工程」に関し,本願発明は「該ネットワークの構成変更に際し」て送信されるのに対し,引用発明は「定期的或いは必要に応じて」送信される点。

上記相違点について検討するに,引用発明は故障した子局装置を他の子局装置に交換した際に,親局装置との無線通信に必要な情報を交換後の子局装置に容易に設定することができるようにすることを目的としているところ,子局装置の交換はネットワークの構成変更に他ならない。そして,故障が生じて置換する必要が生じた場合は,当然に「必要に応じて」送信されることになるのであるから,引用発明の「定期的或いは必要に応じて,」を「該ネットワークの構成変更に際し,」とすることは,当業者が容易に想到し得ることである。

そして,本願発明の作用効果も,引用発明に基づいて当業者が予測できる範囲のものである。

4 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-09-02 
結審通知日 2014-09-09 
審決日 2014-09-25 
出願番号 特願2009-539848(P2009-539848)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04L)
P 1 8・ 575- Z (H04L)
P 1 8・ 572- Z (H04L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 崇雅中木 努  
特許庁審判長 河口 雅英
特許庁審判官 菅原 道晴
山澤 宏
発明の名称 ネットワークで装置を置換する方法及び機器  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠重  
代理人 大貫 進介  

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