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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1297106
審判番号 不服2013-19845  
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-10-11 
確定日 2015-02-05 
事件の表示 特願2008-151675「超音波診断装置、及び医用画像処理装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年12月24日出願公開,特開2009-297072〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成20年6月10日を出願日とする出願であって,平成24年11月9日付けで拒絶理由が通知され,平成25年1月15日付けで意見書及び手続補正書が提出され,さらに,同年1月30日付けで最後の拒絶理由が通知され,同年4月8日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが,同年7月12日付けで上記4月8日付けの手続補正書による補正は補正却下の決定がなされ,それと同日付で拒絶査定されたのに対し,同年10月11日に拒絶査定不服の審判請求がなされ,それと同時に手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 本件補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正後の請求項1に係る発明
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は,
「【請求項1】
造影剤が注入された被検体を超音波で撮影することで、前記被検体の生体組織が表された生体組織画像データと、高調波成分に基づき前記造影剤が表わされたハーモニック画像データとを、複数の超音波画像データとして取得する画像取得手段と、
表示手段に対して、前記画像取得手段によって取得された超音波画像データに基づく複数の超音波画像として、前記生体組織画像データに基づく生体組織画像と前記ハーモニック画像データに基づくハーモニック画像とを並べて表示させると共に、前記生体組織画像に第1マーカを重ねて表示させ、さらに前記ハーモニック画像において前記第1マーカと相対的に同じ位置に第2マーカを重ねて表示させる表示制御手段と、
を有することを特徴とする超音波診断装置。」(下線は補正箇所を示す。)と補正された。

2 補正事項について
(1)補正前の「前記造影剤が表わされた造影剤画像」を「高調波成分に基づき前記造影剤が表わされたハーモニック画像」とする補正は,本願明細書に「被検体に造影剤を注入して撮影することで、造影剤が注入された部位が強調された造影画像を生成することができる。例えば、被検体に造影剤を注入し、コントラストハーモニックイメージング法(Contrast Harmonic Imaging;CHI)によって撮影を行うことで、高調波に基づくハーモニック画像を生成することができる。」(【0009】)と記載されているように,「造影剤が表わされた造影剤画像」の例である「高調波成分に基づき造影剤が表わされたハーモニック画像」に限定したものである。そして,それに合わせて,補正前のその余の「造影剤画像」を「ハーモニック画像」に補正したものである。
(2)補正前の「表示させ、かつ、マーカを、前記生体組織画像と前記造影剤画像とにおいて相対的に同じ位置に重ねて表示させる」を「表示させると共に、前記生体組織画像に第1マーカを重ねて表示させ、さらに前記ハーモニック画像において前記第1マーカと相対的に同じ位置に第2マーカを重ねて表示させる」とする補正は,補正前の「マーカ」について,「前記生体組織画像に」「重ねて表示させ」るマーカを「第1マーカ」とし,「さらに前記ハーモニック画像において前記第1マーカと相対的に同じ位置に」「重ねて表示させる」マーカを「第2マーカ」に限定したものである。
(3)してみれば,特許請求の範囲の請求項1ついての本件補正事項である上記(1)及び(2)の点はいわゆる限定的減縮を目的とするものといえることから,請求項1ついての本件補正は,特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する補正事項を含むものである。
そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3 引用刊行物及びその記載事項
(1)本願の出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2007-275588号公報(以下「引用例1」という。)には,次の事項が記載されている。なお,以下の摘記においては,引用発明の認定に特に関連する箇所に下線を付与した。
(1-ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
診断医学画像での相互参照測定方法であって、該方法は、
・領域を表す第1のタイプのデータを収集するステップ(50);
・領域を表す第2のタイプのデータを収集するステップ(50)、
ただし第1のタイプは第2のタイプとは異なっており;
・第1の画像を第1のデータの関数として発生するステップ(52);
・第2の画像を第2のデータの関数として発生するステップ(52);
・第1のマーク位置を第1の測定に対して第1の画像上で検出するステップ(56);そして
・第1のマーク位置を第2の画像に反映するステップ(60);
を有することを特徴とする方法。」

(1-イ)「【0005】
マルチモードデータまたはマルチチャネルデータは相互に補足的であり、共に意思決定に使用することができる。医学画像測定適用の例では、画像データの2つのモードが獲得され、2つの画像モードからの測定が別個に得られる。医療従事者はこの情報を診断に使用する。しかしモードまたは測定結果に相違があるため混乱が生じる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、上記欠点を回避し、診断の意思決定にさらに容易にする情報を簡単に提供できるようにすることである。」

(1-ウ)「【実施例】
【0019】
図1は、診断医学画像での相互参照測定のための装置10を示す。この装置10は医学的画像システムであり、例えば超音波システム、コンピュータトモグラフシステム、磁気共鳴システム、x線システム、陽電子放射システム、それらの組合せ、または現在または将来開発される医学的画像システムである。択一的実施例で、この装置10はパーソナルコンピュータ、ワークステーション、画像保存システム、または他の画像処理システムである。
【0020】
装置10は、プロセッサ14,メモリ16,ユーザ入力部18,およびディスプレイ20を含む。付加的に、別の構成要素または比較的少数の構成要素が設けられていてもよい。例えば測定が自動化されていれば、ユーザ入力部18を設けなくても良い。別の例として、差または画像が表示されるのではなく伝送される場合、ディスプレイ20は設けられない。別の例では、フロントエンド走査コンポーネントが設けられており、これは例えば超音波ベーム整形器、トランスデューサ、x線放射器および検出器または磁気コイルである。」

(1-エ)「【0025】
択一的にまたは付加的に、データセットは同じモードまたは同じ画像物理特性を使用する別のチャネルまたは別の検出タイプに関連する。例えば同じがオズシステムは種々異なる検出タイプを有する。種々異なる画像システムを、同じモードまたは同じ物理特性を使用する種々異なる検出タイプに対して使用することができる。実施例では、種々の超音波検出タイプが使用される。例えば種々のチャネルは、Bモード、ドップラーモードまたはフローモード(例えば速度、変化、パワー、またはそれらの組合せ)、歪み(例えば歪みまたは歪み率)、高調波、基本波、ドップラースペクトル、Mモード、または他の検出タイプのいずれか2つまたはそれ以上である。各チャネルは超音波による走査を使用するが、別の情報を検出するためには別に動作する。」

(1-オ)「【0027】
プロセッサ14は測定位置を同定することができる。例えば図2は、2つの画像32,34の表示30を示す。ライン36,38の終点またはこのラインの他の部分は、長さ測定に関連する測定位置である。面積、容積、流量、または他の測定タイプに関連する測定位置を同定することができる。」

(1-カ)「【0033】
プロセッサ14は測定に関連するインジケータを発生する。これは例えば1つの画像から別の画像への測定の反映である。位置測定または走査パラメータに基づき、異なるデータセットの相対的配向が検出される。配向、ライン、面積、トレース、または他の測定インジケータに従い、1つの画像が別の画像の同じ位置に配置される。」

(1-キ)「【0039】
1つまたは複数の画像32,34は測定に関連する指示を含む。例えば一方の画像32での測定は他方の画像34に反映される。他方の画像34での測定は一方の画像32に反映される。択一的に、一方の画像32,34に対する測定は他方の画像34,32に反映されない。指示はマーク、ポイント、ライン、ハイライト、シェーディング、テクスチュアリング、カラーリング、領域、または他の指示を含む。」

(1-ク)「【0046】
ステップ52では画像が発生される。画像は相互に隣接して表示される。例えば同じスクリーンに実質的に同時に表示される。空間的に別個の表示または一時的な表示も使用できる。各画像は1つまたは複数のデータセットの関数として発生される。種々の画像が、少なくとも1つの異なるデータセットの関数として発生される。」

(1-ケ)以下の図2では,二つの画像(32,34)において,対応するライン36a及び36b,38a及び38b,すなわち,対応するマークが,それぞれの画像に重ねて表示されている。


してみれば,上記引用例1の記載事項を総合すると,引用例1には,以下の発明が記載されていると認められる。
「診断医学画像での相互参照測定装置であって,
・領域を表す第1のタイプのデータを収集するステップ;
・領域を表す第2のタイプのデータを収集するステップ,
ただし第1のタイプは第2のタイプとは異なっており;
・第1の画像を第1のデータの関数として発生するステップ;
・第2の画像を第2のデータの関数として発生するステップ;
・第1のマーク位置を第1の測定に対して第1の画像上で検出するステップ;そして
・第1のマーク位置を第2の画像に反映するステップ;
の各ステップを実施するプロセッサ,及び
上記発生された第1及び第2の画像を相互に隣接して表示するディスプレイ,
を含む装置で,
上記第1及び第2タイプとして超音波検出タイプが使用されるものであり,それらは,Bモード、高調波、基本波の検出タイプのいずれか2つである,装置」(以下「引用発明」という。)


(2)本願の出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平9-201359号公報(以下「引用例2」という。)には,次の事項が記載されている。
(2-ア)「【請求項1】超音波造影剤を注入した被検体の所望部位における前記超音波造影剤の分布情報を得ることができる超音波診断装置において、
前記所望部位の断面を超音波信号でスキャンするとともに、同一ラスタに対して通常Bモードとハーモニックモードに関する少なくとも2回のスキャンを行ってこの断面からエコー信号を得るスキャン手段と、このスキャン手段により得られたエコー信号に基づいて前記通常Bモードの画像データを得る第1の処理手段と、前記スキャン手段により得られたエコー信号に基づいて前記ハーモニックモードにおける送信基本成分に対する非基本波成分の画像データを得る第2の処理手段と、前記第1および第2の処理手段により処理された画像データを表示する表示手段とを、備えたことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】前記表示手段は、前記第1および第2の処理手段により得られた画像データのそれぞれを互いに分割態様で表示する手段である請求項1記載の超音波診断装置。」

(2-イ)「【0005】さらに、近年では、超音波造影剤に因るコントラストエコーの増強効果を高める手法として「ハーモニックエコー法」が考えられている。ハーモニックエコー法は、造影剤の微小気泡が音響的な非線形現象、すなわち送信基本周波数に対する非線形成分、とくに2次高調波(ハーモニクス)成分の反射エコー信号を発生し易いことを利用したもので、ハーモニクスを生じ難い体内の臓器との間で信号レベル上の差別化を図ることに基礎を置いている。例えば、反射エコー信号には送信波の基本周波数成分と造影剤に因るハーモニクス成分を含むので、基本周波数成分をフィルタで除去した残りの信号を表示すれば、ハーモニクス成分、すなわち造影剤に因る増強程度を反映した画像が得られる。」

(2-ウ)「【0053】・・・図6は、通常Bモードの画像Inormal(組織形状の空間分布を表す断層像)とハーモニックモードの画像Iharmonic(超音波造影剤の空間分布を表す断層像)とを1画面中に分割・並列表示したものである。・・・
【0054】以上の結果、まず、ハーモニックモールドの画像に加えて、通常Bモードの断層像も常時同一モニタに表示されている。このため、造影剤投与前に関心部位を探し、設定する場合でも、従来のように、わざわざBモード(通常Bモード)に切り換える必要が無く、操作性が各段に向上する。
【0055】また、超音波造影剤を投与した後、時間経過につれて染影効果は次第に衰えていく。ハーモニックモードの画像では臓器形状を観測できない場合であっても、通常Bモードの断層像も常時同一モニタに表示されているから、観測部位が観測対象臓器から不用意にずれてしまっても観測者はこれに容易に気付くことができる。したがって、診断結果の信頼性も向上する。」

(3)本願の出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2003-230559号公報(以下「引用例3」という。)には,次の事項が記載されている。
(3-ア)「【請求項1】被検体に基本周波数を略帯域中心とした超音波を送信し、前記被検体からの超音波エコーに基づいて受信信号生成する送受信手段と、
前記受信信号に含まれる前記基本周波数のハーモニック成分の信号を抽出するハーモニック成分抽出手段と、
前記受信信号に含まれる前記基本周波数を略帯域中心とした基本波成分の信号を抽出する基本波成分抽出手段と、
前記ハーモニック成分抽出手段の出力及び前記基本波成分抽出手段の出力に基づいて表示画像を生成する表示画像生成手段を備えることを特徴とする超音波診断装置。
・・・
【請求項10】前記表示手段、前記ハーモニック成分抽出手段の出力に基づいて生成した断層像と、前記基本波成分抽出手段の出力に基づいて生成した断層像とを、1フレーム内に並べた表示画像を生成することを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。」

(3-イ)「【0042】(第3表示モード)図20に示すように、第3表示モードでは、画像処理部32により、グレイスケールの基本波画像データFGと、グレイスケールのハーモニック画像データHGとが、フレームに並列に配置される。
【0043】このようにグレイスケールの基本波画像データFGとハーモニック画像データHGとを並列で同時に表示することにより、造影剤分布(ハーモニック成分)を組織形態(基本波成分)とともに観察することができる。従って、造影剤流入前にあっては、主に基本波画像で組織形態を確認することができ、また造影剤流入後では、基本波画像とハーモニック画像との両方で造影効果を確認することができる。」


4 対比・判断
(1)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア 「診断医学画像」とは被検体を撮影したものであるから,引用発明の「超音波検出タイプが使用され」る「診断医学画像での相互参照測定装置」は,補正発明の「被検体を超音波で撮影する」「超音波診断装置」に相当する。

イ 補正発明の「被検体を超音波で撮影することで、前記被検体の生体組織が表された生体組織画像データ」「に基づく生体組織画像」は,本願明細書に「信号処理部4は、Bモード処理部を備えている。Bモード処理部は、エコーの振幅情報の映像化を行い、エコー信号からBモード超音波ラスタデータを生成する。」「画像生成部6は、Bモード処理部から出力された信号処理後のデータに対してスキャンコンバージョン処理を施すことで、被検体内の組織の形態を表すBモード画像データを生成する。」(【0021】?【0023】),「画像生成部6は、受信信号のうち基本波成分に基づいて生体組織画像データを生成する。」(【0031】)と記載されていることから,「Bモード画像」あるいは「基本波成分に基づく画像」を含むものといえる。
一方,引用発明において,「超音波検出タイプ」について「第1のタイプは第2のタイプとは異なって」いるもので「それらは,Bモード、高調波、基本波の検出タイプのいずれか2つである」ことから,「Bモード」あるいは「基本波」の「超音波検出タイプ」として「データを収集」し「データの関数として発生する」「画像」,「高調波」の「超音波検出タイプ」として「データを収集」し「データの関数として発生する」「画像」について,前者を「領域を表す第1のタイプのデータを収集」し「データの関数として発生する」「第1の画像」とし,後者を「領域を表す第2のタイプのデータを収集」し「データの関数として発生する」「第2の画像」とすることができるものである。
してみれば,引用発明の「Bモード」あるいは「基本波」の「超音波検出タイプ」として「領域を表す第1のタイプのデータを収集」し「データの関数として発生する」「第1の画像」は,補正発明の「被検体を超音波で撮影することで、前記被検体の生体組織が表された生体組織画像データ」「に基づく生体組織画像」に相当するといえる。また,引用発明の「高調波」の「超音波検出タイプ」として「領域を表す第2のタイプのデータデータを収集」し「データの関数として発生する」「第2の画像」と,補正発明の「高調波成分に基づき前記造影剤が表わされたハーモニック画像データ」「に基づくハーモニック画像」とは,「高調波成分に基づ」いた「画像データ」「に基づく画像」の点で共通するものといえる。

ウ 引用発明の「・領域を表す第1のタイプのデータを収集するステップ;・領域を表す第2のタイプのデータを収集するステップ」「を実施するプロセッサ」は,上記イに鑑み,補正発明の「生体組織画像データと、高調波成分に基づ」く「画像データとを、複数の超音波画像データとして取得する画像取得手段」に相当する。

エ 引用発明の「ディスプレイ」は補正発明の「表示手段」に相当し,引用発明の「領域を表す第1のタイプのデータを収集」し「データの関数として発生する」「第1の画像」及び「領域を表す第2のタイプのデータを収集」し「データの関数として発生する」「第2の画像」を「相互に隣接して表示する」ことは,上記イ及びウに鑑み,補正発明の「表示手段に対して、前記画像取得手段によって取得された超音波画像データに基づく複数の超音波画像として、前記生体組織画像データに基づく生体組織画像と前記高調波成分に基づいた画像データに基づく画像とを並べて表示させる」ことに相当する。

オ 引用発明の「・第1のマーク位置を第1の測定に対して第1の画像上で検出するステップ;そして・第1のマーク位置を第2の画像に反映するステップ」について,上記摘記(1-ケ)及び上記(1-キ)の「一方の画像32での測定は他方の画像34に反映される」との記載を参照するに,「第1のマーク位置」は「第1の画像」に重ねて表示されており,「第1のマーク位置を第2の画像に反映」したものも「第2の画像」に重ねて表示されており,「第1のマーク位置を第2の画像に反映」したものもは,摘記(1-カ)及び(1-キ)を参照するに,「第2の画像」において「第1のマーク」と相対的に同じ位置に表示されることであると認められる。
上記イより,引用発明の「第1の画像」及び「第2の画像」は「生体組織画像」及び「高調波成分に基づいた画像データに基づく画像」であり,引用発明の「第1のマーク」及び「第1のマーク位置を第2の画像に反映」したものは,補正発明の「第1マーカ」及び「第2マーカ」に相当するから,引用発明の「・第1のマーク位置を第1の測定に対して第1の画像上で検出するステップ;そして・第1のマーク位置を第2の画像に反映するステップ」「を実施するプロセッサ」は,補正発明の「前記生体組織画像に第1マーカを重ねて表示させ、さらに前記高調波成分に基づいた画像データに基づく画像において前記第1マーカと相対的に同じ位置に第2マーカを重ねて表示させる表示制御手段」に相当する。

してみれば,補正発明と引用発明とは,
(一致点)
被検体を超音波で撮影することで,前記被検体の生体組織が表された生体組織画像データと,高調波成分に基づいた画像データとを,複数の超音波画像データとして取得する画像取得手段と,
表示手段に対して,前記画像取得手段によって取得された超音波画像データに基づく複数の超音波画像として,前記生体組織画像データに基づく生体組織画像と前記高調波成分に基づいた画像データに基づく画像とを並べて表示させると共に,前記生体組織画像に第1マーカを重ねて表示させ,さらに前記高調波成分に基づいた画像データに基づく画像において前記第1マーカと相対的に同じ位置に第2マーカを重ねて表示させる表示制御手段と,
を有する超音波診断装置。」
の点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点)
超音波で撮影する被検体,及び,高調波成分に基づいた画像について,補正発明は「造影剤が注入された被検体」であり,「高調波成分に基づき前記造影剤が表わされたハーモニック画像」であるのに対し,引用発明では,被検体が造影剤が注入されたものかどうか,高調波成分に基づいた画像が造影剤が表わされたハーモニック画像であるかどうか不明である点。

(2)相違点に対する判断
引用例2の摘記(2-ア)?(2-ウ)及び引用例3の摘記(3-ア)?(3-イ)に記載されているように,操作性,診断結果の信頼性等を向上させることを目的として超音波画像を診断のために表示する超音波診断装置において,造影剤が注入された被検体を超音波で撮影し,基本波に基づくBモード画像と,高調波に基づく造影剤が表わされたハーモニック画像を得て,それらを並べて表示させるようにすることは,本出願前周知のことである。
そして,引用発明においても,摘記(1-ウ)の記載を参照するに,操作性,診断結果の信頼性等の向上が望まれるものであるから,引用発明に上記周知技術を適用して,被検体を造影剤が注入されたものとし,高調波成分に基づいた画像を「高調波成分に基づき造影剤が表わされたハーモニック画像」とすることは当業者が容易になし得ることである。
そして,本願明細書で記載している,
「【発明の効果】
【0014】
この発明によると、複数の超音波画像を並べて表示し、複数の超音波画像のそれぞれにおいて相対的に同じ位置に計測用マーカを重ねて表示することで、複数の超音波画像においてそれぞれ対応する位置を容易に特定することが可能となる。そのことにより、複数の超音波画像において、それぞれ対応する位置における計測対象を測定することが可能となる。」という補正発明の効果も,引用例1の記載事項及び上記周知技術を参照するに,格別顕著なものとはいえない。

(3)請求人の主張について
請求人は,審判請求書の請求の理由で,
「本願発明では、上記したように第1マーカを生体組織画像(Bモード画像)に表示させ、さらにその後ハーモニック画像に第2マーカを表示させる構成にしています。すなわち、生体組織画像を表示させた後に注視したい関心部位領域に第1マーカを表示させ、その後ハーモニック画像を表示させた後に第1マーカと相対的に同じ位置に第2マーカを表示させるといった制御が行われます。
引用例5に記載された発明は、そもそも生体組織画像とハーモニック画像を同時に表示させることを前提としていますので、たとえ引用例1に記載された発明を適用したとしても、本願発明のように生体組織画像を表示させた後に注視したい関心部位領域に第1マーカを表示させ、所定時間経過後にハーモニック画像を表示させ、その後に第1マーカと相対的に同じ位置に第2マーカを表示させるといった制御を行うことができません。」(下線は当審において付与した。)と主張している。
しかしながら,本願明細書には
「画像生成部6にて生成された生体組織画像データとハーモニック画像データとは、画像記憶部7に記憶される。表示制御部8は、画像生成部6から出力された生体組織画像データとハーモニック画像データとを受けて、生体組織画像データに基づく生体組織画像と、ハーモニック画像データに基づくハーモニック画像とを並べて同時に表示部12に表示させる。」(【0014】),「図15に示すように、表示制御部8は、基本波に基づく生体組織画像700と、高調波に基づくハーモニック画像710とを並べて同時に表示部12に表示させる。生体組織画像700には腫瘍701が表されており、ハーモニック画像710には腫瘍711が表されている。上述したように、操作者は操作部13を用いて、計測用マーカを所望の位置に移動させる。1例として、円形状の計測用マーカを用いる。表示制御部8は、表示部12に対して、生体組織画像700に円形状の第1計測用マーカ702を重ねて表示させ、ハーモニック画像710に円形状の第2計測用マーカ712を重ねて表示させる。上述したように、表示制御部8は、生体組織画像700とハーモニック画像710とにおいて、それぞれ相対的に同じ位置に、第1計測用マーカ702と第2計測用マーカ712とを表示させる。操作者は操作部13を用いて、第1計測用マーカ702を所望の位置に移動させ、マーカの大きさを任意の大きさに変える。例えば、操作者は操作部13を用いて、第1計測用マーカ702を腫瘍701の位置に移動させ、第1計測用マーカ702の大きさを変えて、第1計測用マーカ702によって腫瘍701を囲む。表示制御部8は、操作部13から出力された移動量に従って、腫瘍701を囲む第1計測用マーカ702を表示部12に表示させる。また、表示制御部8は、ハーモニック画像710において、第1計測用マーカ702と相対的に同じ位置に第2計測用マーカ712を表示させる。」(【0076】)と記載されており,本願明細書において請求人の主張するように,「生体組織画像を表示させた後に注視したい関心部位領域に第1マーカを表示させ、所定時間経過後にハーモニック画像を表示させ、その後に第1マーカと相対的に同じ位置に第2マーカを表示させる」態様は記載されていない。
してみれば,上記請求人の主張は,本願明細書の記載に基づかないものであるから,受け入れられるものではない。
加えていうに,補正発明の「前記生体組織画像データに基づく生体組織画像と前記ハーモニック画像データに基づくハーモニック画像とを並べて表示させると共に、前記生体組織画像に第1マーカを重ねて表示させ、さらに前記ハーモニック画像において前記第1マーカと相対的に同じ位置に第2マーカを重ねて表示させる」ことを,仮に請求人の上記主張のように解したとしても,引用例2の摘記(2-ウ)に「通常Bモードの断層像も常時同一モニタに表示されている。このため、造影剤投与前に関心部位を探し、設定する」,引用例3に(3-イ)に「造影剤流入前にあっては、主に基本波画像で組織形態を確認することができ、また造影剤流入後では、基本波画像とハーモニック画像との両方で造影効果を確認することができる。」と記載されているように,生体組織画像を表示させた後にハーモニック画像を表示させることも本出願前周知であることから,当業者が容易になし得たとの判断が覆るものではない。

(4)小括
したがって,補正発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 まとめ
以上のとおり,本件補正は,特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1?12に係る発明は,平成25年1月15日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。
「【請求項1】
造影剤が注入された被検体を超音波で撮影することで、前記被検体の生体組織が表された生体組織画像データと、前記造影剤が表わされた造影剤画像データとを、超音波画像データとして取得する画像取得手段と、
表示手段に対して、前記画像取得手段によって取得された複数の超音波画像データに基づく複数の超音波画像として、前記生体組織画像データに基づく生体組織画像と前記造影剤画像データに基づく造影剤画像とを並べて表示させ、かつ、マーカを、前記生体組織画像と前記造影剤画像とにおいて相対的に同じ位置に重ねて表示させる表示制御手段と、
を有することを特徴とする超音波診断装置。」

2 引用刊行物及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である上記引用例1?3の記載事項は,上記第2の「3 引用刊行物及びその記載事項」に記載したとおりである。

3 対比・判断
上記第2の「2 補正事項について」に記載したとおり,補正発明は,本願発明にさらに限定事項を追加したものであるから,本願発明は,補正発明から限定事項を省いた発明といえる。その補正発明が,前記第2の「4 対比・判断」に記載したとおり,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないから,その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり,審決する。
 
審理終結日 2014-11-26 
結審通知日 2014-12-02 
審決日 2014-12-18 
出願番号 特願2008-151675(P2008-151675)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮澤 浩  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 平田 佳規
三崎 仁
発明の名称 超音波診断装置、及び医用画像処理装置  
代理人 特許業務法人三澤特許事務所  
代理人 特許業務法人三澤特許事務所  

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