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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C10M 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C10M 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C10M |
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管理番号 | 1297107 |
審判番号 | 不服2013-20759 |
総通号数 | 183 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-03-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-10-25 |
確定日 | 2015-02-05 |
事件の表示 | 特願2009-257807「磨耗防止特性が改善された添加剤および潤滑剤処方物」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 6月24日出願公開、特開2010-138387〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成21年11月11日(パリ条約による優先権主張:平成20年12月9日、米国)の出願であって、平成24年6月21日付けで拒絶理由が通知され、同年10月4日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年6月18日付けで拒絶査定され、これに対して、同年10月25日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出されたものである。 2.平成25年10月25日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成25年10月25日付けの手続補正を却下する。 [理由] (1)補正の内容 平成25年10月25日付けの手続補正書により特許請求の範囲についてする補正(以下、「本件補正」という。)は、特許法第17条の2第1項第4号に掲げる場合の補正であって、次のとおり、本件補正前の請求項7を、請求項5の削除に伴い繰り上げるとともに、本件補正後の請求項6に補正することを含むものである。 本件補正前: 「 【請求項7】 潤滑粘度を有する基油成分、ならびにホスホロチオ酸の少なくとも1つの金属塩およびイオウ不含の無灰アルキルヒドロカルビルホスホネート化合物を含んで重量で0.25:1?1.0:1の範囲の、リンに対する金属の重量比をもたらす磨耗防止剤を含む、完全処方の潤滑剤組成物であって、実質的にモリブデンを欠き、その総重量に基づいて200?800重量ppmの範囲のリン含量を有する、ことを特徴とする潤滑剤組成物。」 本件補正後: 「 【請求項6】 潤滑粘度を有する基油成分、ならびに(a)ホスホロチオ酸の少なくとも1つの金属塩および(b)イオウ不含の無灰アルキルヒドロカルビルホスホネート化合物からなる磨耗防止剤を含んで成り、前記成分(a)と成分(b)とは重量で0.25:1?1.0:1の範囲の、リンに対する金属の重量比をもたらし、前記潤滑剤組成物中の(a)と(b)との重量比は0.33:1?6.25:1である、完全処方の潤滑剤組成物であって、実質的にモリブデンを欠き、その総重量に基づいて200?800重量ppmの範囲のリン含量を有する、ことを特徴とする潤滑剤組成物。」 (2)特許法第17条の2第5項所定の目的要件の検討 上記補正は、本件補正前の請求項7に記載した発明を特定するために必要な事項である「ホスホロチオ酸の少なくとも1つの金属塩」と「イオウ不含の無灰アルキルヒドロカルビルホスホネート化合物」の重量比をさらに限定するものであり、当該請求項に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものでもないから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (3)特許法第17条の2第6項所定の独立特許要件の検討 (3-1)本件補正発明 上記のとおり、本件補正前の請求項7についてする補正は、特許法第17条の2第5項第2号の場合に該当することから、本件補正後の請求項6に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について検討する。 本願補正発明は、本件補正後の請求項6に記載された事項により特定されるとおりのものであって、再掲すると、次のとおりである。 「 【請求項6】 潤滑粘度を有する基油成分、ならびに(a)ホスホロチオ酸の少なくとも1つの金属塩および(b)イオウ不含の無灰アルキルヒドロカルビルホスホネート化合物からなる磨耗防止剤を含んで成り、前記成分(a)と成分(b)とは重量で0.25:1?1.0:1の範囲の、リンに対する金属の重量比をもたらし、前記潤滑剤組成物中の(a)と(b)との重量比は0.33:1?6.25:1である、完全処方の潤滑剤組成物であって、実質的にモリブデンを欠き、その総重量に基づいて200?800重量ppmの範囲のリン含量を有する、ことを特徴とする潤滑剤組成物。」 (3-2)引用刊行物とその記載事項 原査定において引用文献1として既に引用されている、本願優先日前に頒布された特開2005-002215号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下のように記載されている。 摘記事項イ: 「【請求項1】 潤滑油基油に、(A)一般式(1)で表されるリン化合物およびそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種及び(B)セカンダリーアルキル基を有するジチオリン酸亜鉛を含有することを特徴とする内燃機関用潤滑油組成物。 【化1】 (一般式(1)においてR_(1)は炭化水素基(窒素および/または酸素を含有してもよい)、R_(2)およびR_(3)は、それぞれ個別に水素または炭素数1?30の炭化水素基(窒素および/または酸素を含有してもよい)を示す。)」 摘記事項ロ: 「【0006】 【発明が解決しようとする課題】 本発明は、以上のような事情に鑑み、ジチオリン酸亜鉛を低減しても耐摩耗性に極めて優れた内燃機関用潤滑油組成物を提供することであり、特に低リン低硫黄型の内燃機関用潤滑油を提供することを目的とする。 【0007】 【課題を解決するための手段】 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のリン化合物と特定のジチオリン酸亜鉛とを併用することで、それぞれを単独で使用した場合よりも相乗的に耐摩耗性を向上させ、内燃機関用潤滑油の低リン低硫黄化が実現できることを見出し、本発明を完成するに至った。」 摘記事項ハ: 【0036】 本発明の内燃機関用潤滑油組成物における(A)成分の含有量は特に制限されるものではないが、その下限値は、組成物全量基準で、リン元素換算量で、通常0.001質量%であり、好ましくは0.01質量%、より好ましくは0.02質量%であり、・・・・(A)成分の含有量を上記下限値以上とすることで、優れた極圧性、摩耗防止性を得ることができる。 ・・・ 【0044】 本発明の内燃機関用潤滑油組成物における(B)成分の含有量は特に制限されるものではないが、その下限値は、組成物全量基準で、リン元素換算量で、通常0.001質量%であり、好ましくは0.01質量%、より好ましくは0.02質量%であり、・・・・(B)成分の含有量を上記下限値以上とすることで、優れた極圧性、摩耗防止性を得ることができる。 ・・・ 【0046】 また、本発明における(A)成分と(B)成分の合計の含有量は特に制限されるものではないが、その下限値は、組成物全量基準で、リン元素換算量で、通常0.001質量%であり、好ましくは0.01質量%、より好ましくは0.02質量%であり、・・・・(A)成分および(B)成分の含有量を上記下限値以上とすることで、優れた極圧性、摩耗防止性を得ることができる。・・・」 摘記事項ニ: 「【0077】 本発明の潤滑油組成物には、その性能をさらに向上させるために、その目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている任意の添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、例えば、(A)成分及び(B)成分以外の摩耗防止剤、摩擦調整剤、粘度指数向上剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤、着色剤等の添加剤を挙げることができる。 【0078】 (A)成分および(B)成分以外の摩耗防止剤としては、例えば、(B)成分以外のジチオリン酸亜鉛(例えば、プライマリーアルキル基あるいはアリール基等を有するジチオリン酸亜鉛)、ジチオリン酸亜鉛以外のチオリン酸エステルの金属塩、(亜)リン酸エステル類、チオ(亜)リン酸エステル類、これらのアミン塩又は金属塩、β-ジチオホスホリル化プロピオン酸等リン含有カルボン酸化合物およびその金属塩又はその脂肪酸とのエステル、ジスルフィド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類、ジチオカルバミン酸亜鉛等の硫黄含有化合物等が挙げられ、通常、0.005?5質量%の範囲で配合することが可能であるが、本発明の潤滑油組成物においてはこれらのうち、硫黄含有化合物、すなわち、これら摩耗防止剤として使用される硫黄含有化合物の含有量が制限されるべきであり、例えば、硫黄元素換算で0.1質量%以下、好ましくは0.05質量%以下とすることが望ましく、実質的に含有しないことが特に好ましい。 【0079】 摩擦調整剤としては、例えば、ジチオカルバミン酸モリブデン、ジチオリン酸モリブデン、モリブデン-アミン錯体、モリブデン-コハク酸イミド錯体、二硫化モリブデン、炭素数6?30のアルキル基又はアルケニル基を有する脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪酸エステル、脂肪族エーテル、脂肪酸アミド、脂肪族アミン等及びこれらの混合物が挙げられる。これらの添加剤は組成物の低摩擦性能を付加できる点で有用である。 【0080】 粘度指数向上剤としては、具体的には、各種メタクリル酸エステルから選ばれる1種又は2種以上のモノマーの重合体若しくは共重合体又はその水添物などのいわゆる非分散型粘度指数向上剤、又はさらに窒素化合物を含む各種メタクリル酸エステルを共重合させたいわゆる分散型粘度指数向上剤、非分散型又は分散型エチレン-α-オレフィン共重合体(α-オレフィンとしてはプロピレン、1-ブテン、1-ペンテン等が例示できる。)若しくはその水素化物、ポリイソブチレン若しくはその水添物、スチレン-ジエン共重合体の水素化物、スチレン-無水マレイン酸エステル共重合体、ポリアルキルスチレン等が挙げられる。 【0081】 これら粘度指数向上剤の分子量は、せん断安定性を考慮して選定することが必要である。具体的には、粘度指数向上剤の数平均分子量は、例えば分散型及び非分散型ポリメタクリレートの場合では、通常5,000?1,000,000、好ましくは100,000?900,000のものが、ポリイソブチレン又はその水素化物の場合は通常800?5,000、好ましくは1,000?4,000のものが、エチレン-α-オレフィン共重合体又はその水素化物の場合は通常800?500,000、好ましくは3,000?200,000のものが用いられる。 【0082】 腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、及びイミダゾール系化合物等が挙げられる。 【0083】 防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、及び多価アルコールエステル等が挙げられる。 【0084】 抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、及びポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。 【0085】 金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4-チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4-チアジアゾリル-2,5-ビスジアルキルジチオカーバメート、2-(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、及びβ-(o-カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。 【0086】 消泡剤としては、例えば、シリコーン、フルオロシリコール、及びフルオロアルキルエーテル等が挙げられる。 【0087】 これらの添加剤を本発明の潤滑油組成物に含有させる場合には、その含有量は潤滑油組成物全量基準で、粘度指数向上剤では、0.1?20質量%、摩擦調整剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤ではそれぞれ0.005?5質量%、金属不活性化剤では0.005?1質量%、消泡剤では0.0005?1質量%の範囲で通常選ばれる。」 摘記事項ホ: 「【0092】 【実施例】 以下に本発明の内容を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。 【0093】 (実施例1および比較例1?3) 表1に示す組成の本発明の潤滑油組成物(実施例1)及び比較用の潤滑油組成物(比較例1?3)をそれぞれ調製した。得られた組成物について以下の(1)?(2)に示す性能評価試験を行い、得られた結果を表1に示した。 【0094】 【表1】 【0095】 (1)高速四球試験 ASTM D2783-88に準拠する高速四球試験において、室温、回転数1800rpm、荷重を徐々に加える条件で摩耗発生時の荷重(LNSL)を測定した。LNSLの数値(N)が高いほど摩耗防止性、極圧性に優れることを示す。 (2)ファレックス試験 ASTM D 3233に準拠するファレックス試験において、A法として、回転数290rpm、油温52℃における焼付き発生時の荷重(lbs)を測定した。また、B法として、回転数290rpm、油温80℃、250lbs×5分間のなじみ運転を行った後に徐々に荷重を高めていく条件で、焼付き発生時の荷重(lbs)を測定した。焼付き荷重が高いほど極圧性に優れることを示す。 【0096】 表1から明らかな通り、(A)及び(B)成分をそれぞれのリン元素換算での質量比を40:60の割合で併用し、組成物の硫黄含有量を0.07質量%、リン含有量を0.05質量%とした組成物(実施例1)は、(B)成分又は(A)成分を使用せず、リン含有量を0.05質量%とした組成物(比較例1、3)に比べ、摩耗防止性、極圧性に優れ、特にファレックス試験においては、相乗的に焼付き荷重が向上していることが分かる。また、実施例1の組成物における(A)成分の代わりにプライマリーアルキル基を有するジチオリン酸亜鉛を使用した場合(比較例2)と比べても格段の焼付き荷重を示すことが分かる。・・・」 (3-3)引用発明 引用文献1には、潤滑油基油に、(A)一般式(1)(式省略)で表されるリン化合物およびそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種及び(B)セカンダリーアルキル基を有するジチオリン酸亜鉛を含有することを特徴とする内燃機関用潤滑油組成物(摘記事項イ参照)が記載され、具体的に、実施例1(摘記事項ホ参照)として、次の成分組成の潤滑油組成物が示されている。 <実施例1として記載された潤滑油組成物の成分組成> (A)リン化合物A(オクタデシルホスホン酸ジメチルエステル)0.23重量%、 (B)sec-ZDTP(ジアルキルジチオリン酸亜鉛、アルキル基:sec-ブチル基又は4メチル2ペンチル基)0.41重量%、 (C)連鎖停止剤(4,4’-メチレンビス-2,6-ジターシャリーブチルフェノールおよびジアルキルジフェニルアミン)1.5重量%、 (D)無灰分散剤(ポリブテニルコハク酸イミド)4.5重量%、 (E)金属系清浄剤(Caサリシレート)3.0重量%、 その他添加剤(粘度指数向上剤(PMA、OCP)、消泡剤等を含む添加剤)4.0重量%、 潤滑油基油(水素化精製鉱油、動粘度@100℃:4.7mm^(2)/s)残部、 元素濃度: P 0.05重量%(500重量ppm)、 Zn 0.03重量%。 そうすると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「(A)一般式(1)(式省略)で表されるリン化合物である、オクタデシルホスホン酸ジメチルエステルが0.23重量%、 (B)セカンダリーアルキル基を有するジチオリン酸亜鉛である、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(アルキル基:sec-ブチル基又は4メチル2ペンチル基)が0.41重量%、 (C)連鎖停止剤である、4,4’-メチレンビス-2,6-ジターシャリーブチルフェノールおよびジアルキルジフェニルアミンが1.5重量%、 (D)無灰分散剤である、ポリブテニルコハク酸イミドが4.5重量%、 (E)金属系清浄剤である、Caサリシレートが3.0重量%、 さらに、粘度指数向上剤(PMA、OCP)、消泡剤等を含むその他添加剤が4.0重量%を含有し、 残部が、潤滑油基油である、水素化精製鉱油(動粘度@100℃:4.7mm^(2)/s)により構成される内燃機関用潤滑油組成物であって、 当該組成物中の、Pの元素濃度が0.05重量%(500重量ppm)、 Znの元素濃度が0.03重量%であるもの。」 (3-4)本願補正発明と引用発明との対比 引用発明における「(A)一般式(1)(式省略)で表されるリン化合物である、オクタデシルホスホン酸ジメチルエステル」、「(B)セカンダリーアルキル基を有するジチオリン酸亜鉛である、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(アルキル基:sec-ブチル基又は4メチル2ペンチル基)」及び「潤滑油基油である、水素化精製鉱油(動粘度@100℃:4.7mm^(2)/s)」は、それぞれ本願補正発明における「(b)イオウ不含の無灰アルキルヒドロカルビルホスホネート化合物」、「(a)ホスホロチオ酸の少なくとも1つの金属塩」及び「潤滑粘度を有する基油成分」に相当するものである。 また、引用文献1の上記摘記事項ロ、ハを参酌すると、引用発明における上記成分(A)と成分(B)は、耐摩耗性(磨耗防止性)を向上させるために添加されているものと解され、「磨耗防止剤」として機能するものといえる。 そして、引用発明における成分(B)と成分(A)の重量比(本件補正発明における「潤滑剤組成物中の(a)と(b)との重量比」に相当)は、「0.41重量%:0.23重量%」、すなわち、「1.78:1」であり、リンに対する亜鉛(本願補正発明における「金属」に相当)の重量比(本願補正発明における「リンに対する金属の重量比」に相当)は、「0.03重量%:0.05重量%」、すなわち、「0.6:1」であることが分かる。 そうすると、本願補正発明と引用発明とは、次の点で一致するものと認められる。 「潤滑粘度を有する基油成分、ならびに(a)ホスホロチオ酸の少なくとも1つの金属塩および(b)イオウ不含の無灰アルキルヒドロカルビルホスホネート化合物からなる磨耗防止剤を含んで成り、前記成分(a)と成分(b)とは重量で0.25:1?1.0:1の範囲内である0.6:1の、リンに対する金属の重量比をもたらし、前記潤滑剤組成物中の(a)と(b)との重量比は0.33:1?6.25:1の範囲内である1.78:1である、完全処方の潤滑剤組成物であって、その総重量に基づいて200?800重量ppmの範囲内である500重量ppmのリン含量を有する、潤滑剤組成物。」 そして、両者は、次の点で一応相違するといえる。 相違点:本願補正発明に係る潤滑剤組成物は、「実質的にモリブデンを欠き」と特定されているのに対して、引用発明はこの点の明示がない点。 (3-5)相違点の検討 (3-5-1)特許法第29条第1項第3号に該当するか否か 引用発明に係る潤滑剤組成物を構成する成分を仔細にみると、成分(A)?(E)及び潤滑油基油がモリブデンを含有しないことは明らかである。 また、引用発明における「粘度指数向上剤(PMA、OCP)、消泡剤等を含むその他添加剤」についてみると、当該「その他添加剤」に関しては、引用文献1の上記摘記事項ニに詳述されており、そこには、 「【0077】本発明の潤滑油組成物には、その性能をさらに向上させるために、その目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている任意の添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、例えば、(A)成分及び(B)成分以外の摩耗防止剤、摩擦調整剤、粘度指数向上剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤、着色剤等の添加剤を挙げることができる。」 と記載されるとともに、当該「任意の添加剤」のうち、モリブデンを含むものとしては、摩擦調整剤が挙げられており、具体的には、 「【0079】摩擦調整剤としては、例えば、ジチオカルバミン酸モリブデン、ジチオリン酸モリブデン、モリブデン-アミン錯体、モリブデン-コハク酸イミド錯体、二硫化モリブデン、炭素数6?30のアルキル基又はアルケニル基を有する脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪酸エステル、脂肪族エーテル、脂肪酸アミド、脂肪族アミン等及びこれらの混合物が挙げられる。これらの添加剤は組成物の低摩擦性能を付加できる点で有用である。」 と記載されている。 これらの記載を勘案すると、引用発明における上記「粘度指数向上剤(PMA、OCP)、消泡剤等を含むその他添加剤」は、「粘度指数向上剤」と「消泡剤」(これらはともに、摘記事項ニの記載からみて、モリブデンを含有しない成分である。)によりもたらされる作用を期待して、任意に添加された成分であって、「摩擦調整剤」との明示がない以上、これを積極的に含むものではないと解するのが相当である。 また、引用発明における当該「粘度指数向上剤(PMA、OCP)、消泡剤等を含むその他添加剤」は、その大半が「粘度指数向上剤」と「消泡剤」で構成され、この中に、摩擦調整剤、とりわけ、モリブデンを含有する摩擦調整剤(モリブデン摩擦調整剤)が存在するとしても、その含有量は、極微量であると解されることに加え、本願明細書の段落【0039】には、任意添加剤である摩擦調整剤成分に関し、「グリセリドを単独で、または他のモリブデン摩擦調整剤と組み合わせて使用することができる。」と記載されており、本願補正発明は、モリブデン摩擦調整剤の添加を完全に排除していないことを勘案すると、結局のところ、引用発明の成分組成は、本願補正発明の、実質的にモリブデンを欠く成分組成と何ら相違しないということができる。 加えて、審判請求人は、審判請求書(8頁)において、 「引用文献1の実施例には、拒絶査定の備考欄において指摘されているとおり、Zn対Pが0.6:1で、モリブデンを含まず、リン含量が500ppmで、S対Pが1.4:1である潤滑油組成物が耐摩耗性に優れることが示されている。しかし、本願発明のように、成分(b)を無灰の化合物に限定し、モリブデン含量をゼロに特定し、Zn対Pの重量比を『0.25:1?1.0:1』の範囲に画定し、リン含量を『200?800ppm』の範囲に画定し、加えて、成分(a)対成分(b)の重量比を『0.33:1?6.25:1』の範囲に画定した場合に、HFRR摩耗及びHFRR摩擦係数の両方について相剰的減少効果がもたらされることは、引用文献1には記載も示唆もされていない。」 と釈明し、引用文献1の実施例には、Zn対Pが0.6:1で、モリブデンを含まず、リン含量が500ppmである潤滑油組成物が示されていることを認めた上で、引用発明に対する有利な効果として、「HFRR摩耗及びHFRR摩擦係数の相剰的減少効果」を主張するが、上記のとおり、本願補正発明に係る潤滑剤組成物と引用発明に係る潤滑油組成物とは、その成分組成が何ら相違しないのであるから、両者が奏する作用効果も同様のものと解するのが相当であって、当該有利な効果に関する請求人の主張も採用できない。 したがって、本願補正発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (3-5-2)特許法第29条第2項の規定に違反するか否か さらに、引用発明における「粘度指数向上剤(PMA、OCP)、消泡剤等を含むその他添加剤」が、任意添加剤としてモリブデン摩擦調整剤を実質的(積極的)に含むものであるとして、上記相違点に係る技術的事項について検討しても、下記(i)?(iii)からみて、引用発明において、当該モリブデン摩擦調整剤を使用しないことを選択する程度のことは当業者にとって容易なことといえるし、引用発明には必須成分として、少なくとも成分(A)と成分(B)(本願補正発明における成分(b)と成分(a)に相当)とが併用添加されているのであるから、この2成分の存在により、本願補正発明が奏する「HFRR摩耗及びHFRR摩擦係数の相剰的減少効果」(当該2成分の併用添加により奏される効果)と同等の作用効果を奏すると考えるのが自然である。 (i)引用発明における「その他添加剤」は、上記のとおり、明確な添加目的の下、引用発明の性能をさらに向上させたい場合に任意に添加されるものであるから、引用発明に係る潤滑剤組成物に要望される性能によっては、モリブデン摩擦調整剤を使用しないという選択肢も当然にあり得ることであって、この程度の調整は、当業者の通常能力の発揮の範疇というべきであること、 (ii)上記した引用文献1の段落【0079】に、モリブデン摩擦調整剤として列記されているジチオカルバミン酸モリブデン等の有機モリブデン化合物は、高価である等の理由から、これを含有しない潤滑油組成物が望まれていること(例えば、特開2005-42070号公報の段落【0003】、特開2007-162021号公報の【0003】、特開2007-99814号公報の段落【0009】、特表2003-505533号公報の段落【0016】、国際公開第2008/123227号の[0023]など)、 (iii)上記した審判請求書における請求人の主張のとおり、本願明細書の【表4】などに示された「HFRR摩耗及びHFRR摩擦係数の相剰的減少効果」は、成分(a)と成分(b)の併用添加によるものと解され、モリブデンの不存在によるものとは認められないこと(モリブデンの不存在がこの効果に関与しているとはいえないこと)。 したがって、引用発明における「粘度指数向上剤(PMA、OCP)、消泡剤等を含むその他添加剤」が、任意添加剤としてモリブデン(モリブデン摩擦調整剤)を実質的(積極的)に含むものであるとしても、これを除き本願補正発明に想到することは当業者にとって容易なことであって、特段の阻害要因も見当たらないから、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (3-6)独立特許要件の検討の小括 以上の検討のとおり、本願補正発明は、引用発明と何ら相違しないか、当該引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (4)補正却下についてのまとめ 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 3.本願発明についての当審の判断 (1)本願発明 平成25年10月25日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし10に係る発明は、平成24年10月4日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項7に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、再掲すると次のとおりのものである。 「 【請求項7】 潤滑粘度を有する基油成分、ならびにホスホロチオ酸の少なくとも1つの金属塩およびイオウ不含の無灰アルキルヒドロカルビルホスホネート化合物を含んで重量で0.25:1?1.0:1の範囲の、リンに対する金属の重量比をもたらす磨耗防止剤を含む、完全処方の潤滑剤組成物であって、実質的にモリブデンを欠き、その総重量に基づいて200?800重量ppmの範囲のリン含量を有する、ことを特徴とする潤滑剤組成物。」 (2)原査定の拒絶理由 原査定の拒絶の理由は、「平成24年6月21日付け拒絶理由通知書に記載した理由1,2」、すなわち、本願発明は、下記引用文献1?3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないし、当該引用文献に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 <引用文献> 1.特開2005-002215号公報 (引用文献2、3は省略) (3)引用刊行物の記載事項 原査定の拒絶の理由において引用された引用文献1は、上記「2.(3-2)」における引用文献1であり、その記載事項についても、上記「2.(3-2)」に摘記したとおりである。 (4)引用発明 上記引用文献1の摘記事項から認定し得る引用発明は、上記「2.(3-3)」に記載したとおりのものである。 (5)対比・検討 上記「2.(1)、(2)」にて説示したとおり、本願補正発明(上述の本件補正後の発明)は、本願発明(上述の本件補正前の発明)を特定するために必要な事項である「ホスホロチオ酸の少なくとも1つの金属塩」と「イオウ不含の無灰アルキルヒドロカルビルホスホネート化合物」の重量比をさらに限定したものであるから、逆に、本願発明は、本願補正発明から上記限定事項を省いたものであるということができる。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「2.(3)」に記載したとおり、特許法第29条の規定により特許を受けることができないのであるから、本願発明も、同様の理由により、特許法第29条の規定により特許を受けることができないものである。 すなわち、本願発明と引用発明とは、先に相違点として挙げた技術的事項において一応相違し、その余の点で一致するところ、上記「2.(3-5-1)」のとおり、当該相違点は実質的なものとはいえないか、上記「2.(3-5-2)」のとおり、本願発明が具備する当該相違点に係る技術的事項は、当業者が容易に想到し得る事項にすぎないものであるから、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができない。 4.むすび 以上のとおりであるから、本願の請求項7に係る発明は、特許法第29条の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-08-26 |
結審通知日 | 2014-08-27 |
審決日 | 2014-09-22 |
出願番号 | 特願2009-257807(P2009-257807) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C10M)
P 1 8・ 575- Z (C10M) P 1 8・ 113- Z (C10M) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 坂井 哲也 |
特許庁審判長 |
山田 靖 |
特許庁審判官 |
菅野 芳男 日比野 隆治 |
発明の名称 | 磨耗防止特性が改善された添加剤および潤滑剤処方物 |
代理人 | 特許業務法人小田島特許事務所 |