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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C09J
審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 C09J
審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない。 C09J
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C09J
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 C09J
管理番号 1297124
審判番号 不服2014-67  
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-01-06 
確定日 2015-02-05 
事件の表示 特願2007-338182「粘着剤組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成21年7月16日出願公開、特開2009-155586〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成19年12月27日に出願された特許出願であって,平成24年9月25日付けで拒絶理由が通知され,同年12月3日に意見書とともに手続補正書が提出されたが,平成25年9月27日付けで拒絶査定がなされ,これに対して,平成26年1月6日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され,同年5月9日付けで前置報告がなされたものである。



第2 平成26年1月6日付けの手続補正に係る補正の却下の決定

[補正の却下の結論]
平成26年1月6日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成26年1月6日付けの手続補正(以下,「当審補正」という。)は,平成24年12月3日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の,
「【請求項1】
六フッ化リン酸イオンと,
ムラをよくし,表面抵抗を小さくし,かつ,帯電防止機能を向上させる低分子量成分とを含有することを特徴とする粘着剤組成物。
【請求項2】
イオン対と,
ムラをよくし,表面抵抗を小さくし,かつ,帯電防止機能を向上させる低分子量成分とを含有し,
前記イオン対のアニオンは六フッ化リン酸イオンであり,
前記低分子量成分は,二塩基脂肪酸エステル,マレイン酸エステル,トリメリット酸エステル,エポキシ化エステル,リン酸エステル,ホスホン酸エステル,フタル酸エステル,芳香族基及び環状アルキル基のうち少なくとも一方を2個以上含有する安息香酸エステル,芳香族基及び環状アルキル基のうち少なくとも一方を2個以上含有するリン酸からなる群より選択されることを特徴とする粘着剤組成物。
【請求項3】
イオン対と,
ムラをよくし,表面抵抗を小さくし,かつ,帯電防止機能を向上させる低分子量成分とを含有し,
前記イオン対のアニオンは六フッ化リン酸イオンであり,
前記低分子量成分は,ジメチルアジペート,ジイソブチルアジペート,ジブトキシエチルアジペート,ジ-(2-エチルヘキシル)アジペート,ジイソオクチルアジペート,ジイソデシルアジペート,オクチルデシルアジペート,ジ-(2-エチルヘキシル)アゼレート,ジイソオクチルアゼレート,ジイソブチルアゼレート,ジブチルセバケート,ジ-(2-エチルヘキシル)セバケート,ジイソオクチルセバケート,トリメリット酸イソデシルエステル,トリメリット酸オクチルエステル,トリメリット酸n-オクチルエステル,トリメリット酸イソノニル,トリラウリルホスフェート,トリステアリルホスフェート,トリ-(2-エチルヘキシル)ホスフェート,トリクレジルホスフェート,ジメチルフタレート,ジエチルフタレート,ジブチルフタレート,ジイソブチルフタレート,ジオクチルフタレート,ブチルオクチルフタレート,ジ-(2-エチルヘキシル)フタレート,ジイソオクチルフタレート,ジイソデシルフタレート,ジエチレングリコールジベンゾエート,ジプロピレングリコールジベンゾエート,ベンジルベンゾエート,1,4-シクロヘキサンジメタノールジベンゾエート,トリクレジルホスフェート,トリキシレニルホスフェート,クレジルジフェニルホスフェート,2-エチルヘキシルジフェニルホスフェートからなる群より選択されることを特徴とする粘着剤組成物。
【請求項4】
前記イオン対が,含窒素オニウム塩,含硫黄オニウム塩,及び含リンオニウム塩からなる群から選ばれた少なくとも1種以上である請求項3記載の粘着剤組成物。
【請求項5】
前記イオン対が,下記一般式(A)?(D)で表される1種以上のカチオンを含む請求項3記載の粘着剤組成物。
【化1】

[式(A)中のR1は,炭素数4から20の炭化水素基を表し,ヘテロ原子を含んでも良く,R2およびR3は,同一又は異なって,水素または炭素数1から16の炭化水素基を表し,ヘテロ原子を含んでも良い。但し,窒素原子が2重結合を含む場合,R3はない。]
[式(B)中のR4は,炭素数2から20の炭化水素基を表し,ヘテロ原子を含んでも良く,R5,R6,およびR7は,同一又は異なって,水素または炭素数1から16の炭化水素基を表し,ヘテロ原子を含んでも良い。]
[式(C)中のR8は,炭素数2から20の炭化水素基を表し,ヘテロ原子を含んでも良く,R9,R10,およびR11は,同一又は異なって,水素または炭素数1から16の炭化水素基を表し,ヘテロ原子を含んでも良い。]
[式(D)中のXは,窒素,硫黄,又はリン原子を表し,R12,R13,R14,およびR15は,同一又は異なって,炭素数1から20の炭化水素基を表し,ヘテロ原子を含んでも良い。但しXが硫黄原子の場合,R12はない。]
【請求項6】
前記イオン対のカチオンは,1-オクチル-2-メチルピリジニウム,1-オクチル-3-メチルピリジニウム,1-オクチル-4-メチルピリジニウム及び1-オクチルピリジニウムからなる群から選択された1つであることを特徴とする請求項3記載の粘着剤組成物。
【請求項7】
ベースとなるポリマーをさらに含有し,
前記ポリマーは,モノマー構造として,アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルを有することを特徴とする請求項3記載の粘着剤組成物。
【請求項8】
前記ポリマーは,モノマー構成としてブチルアクリレート及びフェノキシエチルアクリレートからなる群より選ばれた少なくとも1種からなることを特徴とする請求項7記載の粘着剤組成物。
【請求項9】
イオン対と,
ムラをよくし,表面抵抗を小さくし,かつ,帯電防止機能を向上させる低分子量成分とベースとなるポリマーと
を含有し,
前記イオン対のアニオンは六フッ化リン酸イオンであり,
前記イオン対のカチオンはジアリルメチルラウリルアンモニウムであり,
前記低分子量成分は,ジプロピレングリコールジベンゾエート又はベンジルベンゾエートであり,
前記ポリマーは,モノマー構成としてフェノキシエチルアクリレートからなる
粘着剤組成物。
【請求項10】
請求項1記載の粘着剤組成物を含有することを特徴とする粘着剤物品。
【請求項11】
請求項1記載の粘着剤組成物を含有することを特徴とする光学用粘着剤組成物。
【請求項12】
請求項1記載の粘着剤組成物によって物体を粘着させることを特徴とする粘着方法。」
を,
「【請求項1】
イオン対と,
ムラをよくし,表面抵抗を小さくし,かつ,帯電防止機能を向上させる低分子量成分とを含有し,
前記イオン対のアニオンが六フッ化リン酸イオンであり,
前記イオン対が,下記一般式(A)?(C)で表される1種以上のカチオンを含む粘着剤組成物。
【化1a】

[式(A)中のR1は,炭素数4から20の炭化水素基を表し,ヘテロ原子を含んでも良く,R2およびR3は,同一又は異なって,水素または炭素数1から16の炭化水素基を表し,ヘテロ原子を含んでも良い。但し,窒素原子が2重結合を含む場合,R3はない。]
[式(B)中のR4は,炭素数2から20の炭化水素基を表し,ヘテロ原子を含んでも良く,R5,R6,およびR7は,同一又は異なって,水素または炭素数1から16の炭化水素基を表し,ヘテロ原子を含んでも良い。]
[式(C)中のR8は,炭素数2から20の炭化水素基を表し,ヘテロ原子を含んでも良く,R9,R10,およびR11は,同一又は異なって,水素または炭素数1から16の炭化水素基を表し,ヘテロ原子を含んでも良い。]
【請求項2】
式(A)で表されるカチオンは,ピリジニウムカチオン,オクチルピペリジニウムカチオン,アリルピペリジニウムカチオン,ピロリジニウムカチオン,ピロリン骨格を有するカチオン及びピロール骨格を有するカチオンからなる群から選択された1つであり,
式(B)で表されるカチオンは,イミダゾリウムカチオン,オクチルイミダゾリウムカチオン,テトラヒドロピリミジニウムカチオン及びジヒドロピリミジニウムカチオンからなる群から選択された1つであり,
式(C)で表されるカチオンは,ピラゾリウムカチオン及びビラゾリニウムカチオンからなる群から選択された1つである
ことを特徴とする請求項1記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
式(A)で表されるカチオンは,1-オクチル-2-メチルピリジニウムカチオン,1-オクチル-3-メチルピリジニウムカチオン,1-オクチル-4-メチルピリジニウムカチオン,1-オクチルピリジニウムカチオン,2-エチルヘキシルピリジニウムカチオン,1-エチルピリジニウムカチオン,1-ブチルピリジニウムカチオン,1-へキシルピリジニウムカチオン,1-ブチル-3-メチルピリジニウムカチオン,1-ブチル-4-メチルピリジニウムカチオン,1-へキシル-3-メチルピリジニウムカチオン,1-ブチル-3,4-ジメチルピリジニウムカチオン,1,1-ジメチルピロリジニウムカチオン,1-エチル-1-メチルピロリジニウムカチオン,1-メチル-1-プロピルピロリジニウムカチオン,2-メチル-1-ピロリンカチオン,1-エチル-2-フェニルインドールカチオン,1,2-ジメチルインドールカチオン及び1-エチルカルバゾールカチオンからなる群から選択された1つであり,
式(B)で表されるカチオンは,1,3-ジメチルイミダゾリウムカチオン,1,3-ジエチルイミダゾリウムカチオン,1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン,1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン,1-へキシル-3-メチルイミダゾリウムカチオン,1-オクチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン,1-デシル-3-メチルイミダゾリウムカチオン,1-ドデシル-3-メチルイミダゾリウムカチオン,1-テトラデシル-3-メチルイミダゾリウムカチオン,1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムカチオン,1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムカチオン,1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムカチオン,1-へキシル-2,3-ジメチルイミダゾリウムカチオン,1,3-ジメチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリミジニウムカチオン,1,2,3-トリメチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリミジニウムカチオン,1,2,3,4-テトラメチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリミジニウムカチオン,1,2,3,5-テトラメチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリミジニウムカチオン,1,3-ジメチル-1,4-ジヒドロピリミジニウムカチオン,1,3-ジメチル-1,6-ジヒドロピリミジニウムカチオン,1,2,3-トリメチル-1,4-ジヒドロピリミジニウムカチオン,1,2,3-トリメチル-1,6-ジヒドロピリミジニウムカチオン,1,2,3,4-テトラメチル-1,4-ジヒドロピリミジニウムカチオン及び1,2,3,4-テトラメチル-1,6-ジヒドロピリミジニウムカチオンからなる群から選択された1つであり,
式(C)で表されるカチオンは,1-メチルピラゾリウムカチオン,3-メチルピラゾリウムカチオン及び1-エチル-2-メチルピラゾリニウムカチオンからなる群から選択された1つである
ことを特徴とする請求項1記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
前記イオン対のカチオンは,1-オクチル-3-メチルピリジニウム,1-オクチル-4-メチルピリジニウム,1-オクチルピリジニウム,1-エチル-3-メチルイミダゾリウム及び1-ブチルピリジニウムからなる群から選択された1つであることを特徴とする請求項1記載の粘着剤組成物。
【請求項5】
前記低分子量成分は,芳香族基および/または環状アルキル基を2個以上含有する化合物であることを特徴とする請求項1記載の粘着剤組成物。
【請求項6】
前記低分子量成分は,芳香族基を2個含有する化合物であることを特徴とする請求項1記載の粘着剤組成物。
【請求項7】
前記低分子量成分は,ジプロピレングリコールジベンゾエートであることを特徴とする請求項4記載の粘着剤組成物。
【請求項8】
前記低分子量成分は,ベンジルベンゾエートであることを特徴とする請求項4記載の粘着剤組成物。
【請求項9】
前記低分子量成分は,アジピン酸ジブトキシエチルであることを特徴とする請求項4記載の粘着剤組成物。
【請求項10】
イオン対と,
ムラをよくし,表面抵抗を小さくし,かつ,帯電防止機能を向上させる低分子量成分とベースとなるポリマーと
を含有し,
前記イオン対のアニオンは六フッ化リン酸イオンであり,
前記イオン対のカチオンは,1-オクチル-4-メチルピリジニウム,1-オクチルピリジニウム及び1-ブチルピリジニウムからなる群から選択された1つであり,
前記低分子量成分は,ジプロピレングリコールジベンゾエートである
ことを特徴とする粘着剤組成物。
【請求項11】
イオン対と,
ムラをよくし,表面抵抗を小さくし,かつ,帯電防止機能を向上させる低分子量成分と
ベースとなるポリマーと
を含有し,
前記イオン対のアニオンは六フッ化リン酸イオンであり,
前記イオン対のカチオンは1-オクチルピリジニウムであり,
前記低分子量成分は,ジプロピレングリコールジベンゾエートであり,
前記ポリマーは,モノマー構成として,アクリル酸ブチル,アクリル酸フェノキシエチル,アクリル酸メチル,アクリル酸,及び,アクリル酸2-ヒドロキシエチルからなる
ことを特徴とする粘着剤組成物。
【請求項12】
イオン対と,
ムラをよくし,表面抵抗を小さくし,かつ,帯電防止機能を向上させる低分子量成分と
ベースとなるポリマーと
を含有し,
前記イオン対のアニオンは六フッ化リン酸イオンであり,
前記イオン対のカチオンは1-オクチル-4-メチルピリジニウムであり,
前記低分子量成分は,ベンジルベンゾエートであり,
前記ポリマーは,モノマー構成として,アクリル酸ブチル,アクリル酸フェノキシエチル,アクリル酸メチル,アクリル酸,及び,アクリル酸2-ヒドロキシエチルからなる
ことを特徴とする粘着剤組成物。」
とする補正を含むものである。

2.補正の目的について
請求人は,審判請求書において,当審補正における補正前後の請求項の対応関係について特に主張していないことから,当審において以下のとおり判断した。
(1)補正後の請求項1?9は,補正前の請求項1に対応するものであると認められる。
そして,補正後の請求項2?4に係る発明は補正後の請求項1を引用しかつカチオンについて各々特定するものであり,補正後の請求項5及び6に係る発明は補正後の請求項1を引用しかつ低分子量成分について各々特定するものであり,さらに補正後の請求項7?9に係る発明は補正後の請求項4を引用しかつ低分子量成分について各々特定するものである。
そうすると,補正後の請求項1?9に係る発明は,それぞれ個々には,補正前の請求項1に係る発明を限定する関係にあるものの,請求項の数という観点からみたとき,この補正事項は実質的に請求項の数を増加させるものである。
してみると,この補正事項は,特許法第17条の2第5項各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しない。

(2)仮に,補正後の請求項4が,補正前の請求項6に対応するものであるとしても,補正後の請求項4における低分子量成分は,補正前の請求項6で特定された低分子量成分についての限定を削除するものであるから,当該補正は,補正前の請求項6において特定された低分子量成分の範囲を拡張するものである。また,補正後の請求項4におけるカチオンは,補正前の請求項6におけるカチオンに,さらに「1-エチル-3-メチルイミダゾリウム」及び「1-ブチルピリジニウム」を追加するものであるから,当該補正は,補正前の請求項6において特定されたカチオンの範囲を拡張するものである。
そうすると,この補正事項は,特許法第17条の2第5項各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しない。

(3)また仮に,補正後の請求項5,6が,補正前の請求項2,3に対応するものであるとしても,補正後の請求項5に係る「芳香族基及び/または環状アルキル基を2個以上含有する化合物」及び補正後の請求項6に係る「芳香族基を2個含有する化合物」については,補正前の請求項2,3において,当該化合物よりも狭い範囲の低分子量成分が特定されているにすぎないから,当該補正は,補正前の請求項2または3において特定された低分子量成分の範囲を拡張するものである。
そうすると,この補正事項は,特許法第17条の2第5項各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しない。

(4)また仮に,補正後の請求項7?9に係る発明が,補正前の請求項3に対応するものであるとしても,補正前の請求項3における低分子量成分として特定されていた「ジプロピレングリコールジベンゾエート」,「ベンジルベンゾエート」及び「ジブトキシエチルアジペート(アジピン酸ジブトキシエチル)」を新たに3つの請求項に分割するものであるから,当該補正は,実質的に請求項の数を増加するものである。
仮に,補正後の請求項9が,補正前の請求項9に対応するものであるとしても,補正前の請求項9においては,低分子量成分として「ジプロピレングリコールジベンゾエート又はベンジルベンゾエート」と特定されているのであって,「アジピン酸ジブトキシエチル」について特定されていないことから,補正前の請求項9において特定された低分子量成分の範囲を拡張するものである(さらに付言すると,補正前の請求項9は,イオン対のカチオンを「ジアリルメチルラウリルアンモニウム」に特定し、ポリマーのモノマー構成として「フェノキシエチルアクリレートからなる」と特定するものであるのに対して,補正後の請求項9では,それらの特定に関しても拡張するものである。)。
そうすると,この補正事項は,特許法第17条の2第5項各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しない。

(5)補正後の請求項10に係る発明は,ベースとなるポリマーを含有するものであることから,補正前の請求項7に対応するものであると認められるが,補正前の請求項7において,当該ポリマーのモノマー構成として「アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルを有する」との特定を削除するものであるから,当該補正は,補正前の請求項7において特定されたポリマーの範囲を拡張するものである。
そうすると,この補正事項は,特許法第17条の2第5項各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しない。

(6)補正後の請求項11及び12に係る発明は,補正前の請求項7に対応するものであると認められるが,補正前の請求項7における低分子量成分として特定されていた「イオン対のカチオン」と「低分子量成分」と「ポリマーのモノマー構成」の具体的な組み合わせを新たに2つの請求項に分割するものであるから,当該補正は,実質的に請求項の数を増加するものである(さらに付言すると,上記(5)で述べたとおり,補正前の請求項7は補正後の請求項10に対応するものであると認められることから,なおさら,当該補正は,実質的に請求項の数を増加するものである。)。
仮に,補正後の請求項11あるいは12が,補正前の請求項8あるいは9に対応するものであるとしても,補正前の請求項8あるいは9においては,ポリマーのモノマー構成として「ブチルアクリレート及びフェノキシエチルアクリレートからなる群より選ばれた少なくとも1種」あるいは「フェノキシエチルアクリレート」と特定されているのであって,「アクリル酸メチル,アクリル酸,及び,アクリル酸2-ヒドロキシエチル」について特定されていないことから,補正前の請求項8あるいは9において特定されたポリマーのモノマー構成の範囲を拡張するものである。
そうすると,この補正事項は,特許法第17条の2第5項各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しない。

(7)なお,補正後の請求項数が,補正前の請求項数と同じ12であるからといって,当審補正が実質的に請求項の数を増加する補正事項を包含するものであるのは,上述のとおりである。

3.むすび
以上のとおりであるから,当審補正は,特許法第17条の2第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。



第3 当審の判断

1.本願発明
上記のとおり,当審補正は却下されたので,本願の請求項1?12に係る発明は,平成24年12月3日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲並びに明細書及び図面(以下,併せて「本願明細書等」という。)の記載からみて,前記特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるとおりのものであり,その請求項2に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,以下のとおりのものである。

「イオン対と,
ムラをよくし,表面抵抗を小さくし,かつ,帯電防止機能を向上させる低分子量成分とを含有し,
前記イオン対のアニオンは六フッ化リン酸イオンであり,
前記低分子量成分は,二塩基脂肪酸エステル,マレイン酸エステル,トリメリット酸エステル,エポキシ化エステル,リン酸エステル,ホスホン酸エステル,フタル酸エステル,芳香族基及び環状アルキル基のうち少なくとも一方を2個以上含有する安息香酸エステル,芳香族基及び環状アルキル基のうち少なくとも一方を2個以上含有するリン酸からなる群より選択されることを特徴とする粘着剤組成物。」

2.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は,本願発明は,引用文献2(国際公開第2006/043794号)に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないというものを含むものである。

3.引用刊行物
刊行物:国際公開第2006/043794号(平成24年9月25日付け拒絶理由通知書における引用文献2。以下,「引用例」という。)

4.引用例の記載事項
以下の摘示は,引用例の対応する公表公報である特表2008-506833号公報(以下,「公表公報」という。)に依った。
摘示ア 「【請求項1】
アクリル系粘着剤組成物において,
a)アクリル系共重合体;
b)下記化学式1:
【化1】

[式中,R1及びR2は,それぞれ独立的に炭素数1?20のアルキル基またはアリル基を示し,R3は,水素またはメチル基を示して,nは,2?20の整数である]
で表される少なくとも一つ以上のエーテル結合を有したエステル系可塑剤;
c)アルカリ金属塩;及び
d)4級アンモニウム系塩;
を含むことを特徴とする,アクリル系粘着剤組成物。
【請求項8】
前記b)のエステル系可塑剤は,ジエチレングリコールジ-2-エチルヘキソネート,テトラエチレングリコールジ-2-エチルヘキソネート,ポリエチレングリコールジ-2-エチルヘキソネート,トリエチレングリコールジエチルブチレート,ポリエチレングリコールジエチルブチレート,ポリプロピレングリコールジエチルヘキソネート,トリエチレングリコールジベンゾネート,ポリエチレングリコールジベンゾネート,ポリプロピレングリコールジベンゾネート,及びポリエチレングリコール-2-エチルヘキソネートベンゾネートからなる群から1種以上選択されることを特徴とする,請求項1に記載のアクリル系粘着剤組成物。
【請求項10】
前記d)の4級アンモニウム系塩は,弱く配位するアニオンが含まれた4級アンモニウム系塩であって,テトラメチルアンモニウム,テトラエチルアンモニウム,テトラブチルアンモニウム,テトラヘキシルアンモニウムなどのカチオンと,パークロレート,テトラフルオロボレート,ヘキサフルオロフォスフェート,ベンゾエート,トリフルオロメタンスルホネート,テトラフェニルボレート,p-トルエンスルホネート,クロライド,フロライド,ブロマイド,ヨウ化物,カーボネートなどのアニオンとからそれぞれ選択されるイオンの組み合わせによりなる群から1種以上選択されることを特徴とする請求項1に記載のアクリル系粘着剤組成物。」(特許請求の範囲,請求項1,8及び10)

摘示イ 「【発明が解決しようとする課題】
上記のような従来の問題点を解決するために鋭意努力した結果,粘着剤に,分子中に少なくとも一つ以上のエーテル結合を有するエステル系可塑剤と,アルカリ金属塩と,4級アンモニウム系塩とを同時に使用する場合,相乗効果により帯電防止性能をさらに向上させることができて,静電気発生を十分抑えることができることを見出した。
この場合,分子中に少なくとも一つ以上のエーテル結合を有するエステル系可塑剤及びアルカリ金属塩のみを使用する場合に比べ,4級アンモニウム系塩を添加すると,耐久信頼性が向上するだけではなく,さらに向上された帯電防止性能を付与することができた。特に,弱く配位するアニオンが含まれた4級アンモニウム系塩の添加により,耐久信頼性に優れていながら,帯電防止性能に優れているアクリル系粘着剤組成物を提供する。」(段落[11]?[13],公表公報段落0011?0013)

摘示ウ 「[実施例1]
<アクリル系共重合体の製造>
窒素ガスを還流して,温度調節が容易になるように冷却装置を設けた1L反応器に,n-ブチルアクリレート(BA)97.7重量部,アクリル酸(AA)0.8重量部,ヒドロキシエチルメタアクリレート(2-HEMA)1.5重量部から構成される単量体混合物を投入した後,溶剤としてエチルアセテート(EAc)100重量部を投入した。その後,酸素を除去するために,窒素ガスを1時間パージングした後,62℃に維持した。これを均一にした後,反応開始剤として,エチルアセテートに50%の濃度に希釈したアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.03重量部を投入した。これを8時間反応し,アクリル系共重合体を製造した。
<配合過程>
上記製造されたアクリル系共重合体100重量部に対して,架橋剤としてイソシアネート系トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート付加物(TDI-1)0.5重量部,テトラブチルアンモニウムパークロレート0.4重量部,テトラエチレングリコールジ-2-エチルヘキソネート7.0重量部,過塩素酸ナトリウム0.04重量部を投入し,コーティング性を考慮して,適正の濃度に希釈し均一に混合した後,離型紙にコーティングして乾燥し,25ミクロンの均一な厚さの粘着層を得た。
<合板過程>
上記製造された粘着層を185ミクロン厚のヨード系偏光板に粘着加工した。得られた偏光板を適切な大きさに切断して評価に使用して,その結果を表2に示した。
[実施例2から4]
下記表1のように,実施例1の組成を基準に,各成分の一部を添加しないか部分添加して共重合する。また,粘着剤組成物の配合時,実施例1の組成を基準に,各成分の一部を添加しないか部分添加したことを除いては,前記実施例1と同様な方法により,アクリル系共重合体の製造,配合,合板過程を施した。その後,実施例1と同様な方法により,耐久信頼性,表面抵抗を評価して,その結果を表2に示した。
・・・
【表1】

前記表1において,略語は,次の通りである。
n-BA:n-ブチルアクリレート
EA:エチルアクリレート
AA:アクリル酸
2-HEMA:2-ヒドロキシエチルメタアクリレート
4-HBA:4-ヒドロキシブチルアクリレート
TBA-Pc:テトラブチルアンモニウムパークロレート
TEA-TS:テトラエチルアンモニウムp-トルエンスルホネート
TBA-HPF:テトラブチルアンモニウムヘキサフルオロフォスフェート
P-1:テトラエチレングリコールジ-2-エチルヘキソネート
P-2:ポリエチレングリコール(n=?10)ジ-2-エチルヘキソネート
LiClO_(4): 過塩素酸リチウム
NaClO_(4): 過塩素酸ナトリウム
【表2】

前記表2の結果から分かるように,本発明の実施例1から4の粘着剤組成物は,比較例1から5の粘着剤組成物に比べ,耐久信頼性に優れていると同時に帯電防止性能に優れている。」(段落[86]?[129],公表公報段落0064?0074)

5.引用例に記載された発明
引用例には,摘示アの請求項1から,次のとおりの発明(以下,「引用例発明」という。)が記載されているといえる。ここで,引用例の請求項1では,式の説明中「R1及びR2は,それぞれ独立的に炭素数1?20のアルキル基またはアリル基を示し」と記載されているが,請求項8や段落0040の記載からみて,明らかに「R1及びR2は,それぞれ独立的に炭素数1?20のアルキル基またはアリール基を示し」の誤記であると認められるから,以下のとおり認定する。

「アクリル系粘着剤組成物において,
a)アクリル系共重合体;
b)下記化学式1:
【化1】

[式中,R1及びR2は,それぞれ独立的に炭素数1?20のアルキル基またはアリール基を示し,R3は,水素またはメチル基を示して,nは,2?20の整数である]
で表される少なくとも一つ以上のエーテル結合を有したエステル系可塑剤;
c)アルカリ金属塩;及び
d)4級アンモニウム系塩;
を含む,アクリル系粘着剤組成物」

6.対比
本願発明と引用例発明とを対比する。
(1)イオン対について
引用例発明における「d)4級アンモニウム系塩」と本願発明における「イオン対」とを対比する。
引用例の請求項10には,「弱く配位するアニオンが含まれた4級アンモニウム系塩であって,テトラメチルアンモニウム,テトラエチルアンモニウム,テトラブチルアンモニウム,テトラヘキシルアンモニウムなどのカチオンと,パークロレート,テトラフルオロボレート,ヘキサフルオロフォスフェート,ベンゾエート,トリフルオロメタンスルホネート,テトラフェニルボレート,p-トルエンスルホネート,クロライド,フロライド,ブロマイド,ヨウ化物,カーボネートなどのアニオンとからそれぞれ選択されるイオンの組み合わせによりなる群から1種以上選択される」(摘示ア)と記載されているとおり,4級アンモニウム系塩として「ヘキサフルオロフォスフェート」の例示がある。
すなわち,引用例発明における「d)4級アンモニウム系塩」は「ヘキサフルオロフォスフェート」すなわち「イオン対のアニオンは六フッ化リン酸イオン」である態様を包含するものである。
したがって,引用例発明における「d)4級アンモニウム系塩」は,本願発明における「イオン対」であって「イオン対のアニオンは六フッ化リン酸イオン」であるものに相当する。

(2)低分子量成分について
引用例発明における「b)下記化学式1:

[式中,R1及びR2は,それぞれ独立的に炭素数1?20のアルキル基またはアリール基を示し,R3は,水素またはメチル基を示して,nは,2?20の整数である]で表される少なくとも一つ以上のエーテル結合を有したエステル系可塑剤」(以下、「エステル系可塑剤」という。)と,本願発明における「二塩基脂肪酸エステル,マレイン酸エステル,トリメリット酸エステル,エポキシ化エステル,リン酸エステル,ホスホン酸エステル,フタル酸エステル,芳香族基及び環状アルキル基のうち少なくとも一方を2個以上含有する安息香酸エステル,芳香族基及び環状アルキル基のうち少なくとも一方を2個以上含有するリン酸からなる群より選択される」「低分子量成分」(以下、「低分子量成分」という。)とを対比する。
引用例の請求項8には,「b)のエステル系可塑剤は,ジエチレングリコールジ-2-エチルヘキソネート,テトラエチレングリコールジ-2-エチルヘキソネート,ポリエチレングリコールジ-2-エチルヘキソネート,トリエチレングリコールジエチルブチレート,ポリエチレングリコールジエチルブチレート,ポリプロピレングリコールジエチルヘキソネート,トリエチレングリコールジベンゾネート,ポリエチレングリコールジベンゾネート,ポリプロピレングリコールジベンゾネート,及びポリエチレングリコール-2-エチルヘキソネートベンゾネートからなる群から1種以上選択される」(摘示ア)と記載されているとおり,エステル系可塑剤として「トリエチレングリコールジベンゾネート,ポリエチレングリコールジベンゾネート,ポリプロピレングリコールジベンゾネート」の例示がある。そして,これら「トリエチレングリコールジベンゾネート,ポリエチレングリコールジベンゾネート,ポリプロピレングリコールジベンゾネート」は,本願発明における「低分子量成分」に相当すると認められる。
また,引用例発明における化学式1において,R1及びR2が炭素数6のフェニル基を示し,R3が水素またはメチル基を示し,nが2で表されるものは,「ジエチレングリコールジベンゾネート,ジプロピレングリコールジベンゾネート」であって,これらは引用例発明における「エステル系可塑剤」に包含されるとともに,本願発明における「低分子量成分」にも相当することは明らかである。
そうすると,引用例発明における「エステル系可塑剤」は,「低分子量成分」である態様を包含するものといえる。
したがって,引用例発明における「エステル系可塑剤」は,本願発明における「低分子量成分」に相当する。

(3)アクリル系共重合体について
本願明細書等では,「他の第6の側面は,ベースとなるポリマーをさらに含有することを特徴とする請求項2記載の粘着剤組成物にある。・・・他の第7の側面は,前記ポリマーは,モノマー構造として,アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルを有することを特徴とする請求項6記載の粘着剤組成物にある。」(段落0013),「本実施形態の粘着剤,粘着剤組成物は,イオン液体などのイオン対,並びにベースとなるポリマー(ベースポリマー)を含有してなる。」(段落0045)及び「ベースポリマーは例えば以下のものでもよい。例としては,ベースポリマーとして,炭素数1?14のアルキル基を有するアクリレート及び/又はメタクリレートの1種または2種以上を主成分とするアクリル系ポリマーを含有するものを挙げることができる。」(段落0082)と記載されているとおり,本願発明においても「アクリル系共重合体」を包含するものであるといえる。
そうすると,引用例発明の「アクリル系粘着剤組成物」が「アクリル系共重合体」を含有してなることは,本願発明との相違点とはならない。

(4)してみると,本願発明と引用例発明との一致点及び相違点は,次のとおりのものであるといえる。

<一致点>
「イオン対と,
低分子量成分とを含有し,
前記イオン対のアニオンは六フッ化リン酸イオンであり,
前記低分子量成分は,二塩基脂肪酸エステル,マレイン酸エステル,トリメリット酸エステル,エポキシ化エステル,リン酸エステル,ホスホン酸エステル,フタル酸エステル,芳香族基及び環状アルキル基のうち少なくとも一方を2個以上含有する安息香酸エステル,芳香族基及び環状アルキル基のうち少なくとも一方を2個以上含有するリン酸からなる群より選択される,
粘着剤組成物。」
である点。

<相違点>
低分子量成分に関し,本願発明では,「ムラをよくし,表面抵抗を小さくし,かつ,帯電防止機能を向上させる」ことを発明特定事項として備えるものであるのに対して,引用例発明では,このような特定事項を有していない点。

7.相違点の判断
6.(3)で述べたとおり,引用例発明における「エステル系可塑剤」は,「低分子量成分」である態様を包含するものといえ,その場合,両者における成分は共通するものであるから,引用例発明における「エステル系可塑剤」も,当然に,「ムラをよくし,表面抵抗を小さくし,かつ,帯電防止機能を向上させる」ものであるといえる。
してみると,相違点は,本願発明と引用例発明との実質的な相違点ではない。

したがって,本願発明と引用例発明は同一であるから,本願発明は引用例に記載された発明である。



第4 むすび

以上のとおり,本願の請求項2に係る発明は,引用例に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
原査定の理由は妥当なものである。

したがって,他の請求項に係る発明についてさらに検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-11-27 
結審通知日 2014-12-02 
審決日 2014-12-15 
出願番号 特願2007-338182(P2007-338182)
審決分類 P 1 8・ 574- Z (C09J)
P 1 8・ 572- Z (C09J)
P 1 8・ 571- Z (C09J)
P 1 8・ 113- Z (C09J)
P 1 8・ 573- Z (C09J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲吉▼澤 英一木村 拓哉  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 小野寺 務
田口 昌浩
発明の名称 粘着剤組成物  
代理人 立石 琢也  

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