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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01F
管理番号 1297159
審判番号 不服2013-13916  
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-07-19 
確定日 2015-02-04 
事件の表示 特願2009-530441「検証を備える磁気流量計」拒絶査定不服審判事件〔平成20年4月10日国際公開、WO2008/042290、平成22年2月18日国内公表、特表2010-505121〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
この審判事件に関する出願(以下、「本件出願」という。)は、2006年(平成18年)9月29日にアメリカ合衆国でされた特許出願に基づくパリ条約の優先権を主張して平成19年9月28日にされた国際特許出願である。そして、平成24年3月28日付けで拒絶の理由が通知され、平成24年7月31日付け手続補正書により特許請求の範囲についての補正がされ、同日付け意見書(以下、単に「意見書」という。)が提出されたが、平成25年3月15日付けで拒絶査定がされた。査定の謄本は、同年同月19日に送達された。
これに対して、同年7月19日に拒絶査定不服審判が請求された。

2.本件出願に係る発明
本件出願の請求項1から20までのそれぞれに係る発明は、特許請求の範囲の請求項1から20までのそれぞれに記載された事項によって特定されるとおりのものである。特に、請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
プロセス流体の流れを受けるように配設され、駆動コイルと、少なくとも一つの検知電極とを含む磁気流管と、
駆動コイルに駆動信号を提供し、少なくとも一つの検知電極からの出力に基づいて、磁気流管を通るプロセス流体の流れを測定するように構成された、磁気流管に結合された測定回路と、
磁気流管に関連する複数の公称のパラメータの値を記憶する不揮発性メモリと、
測定回路によるプロセス流体の流れの測定とは別に、磁気流管に関連する複数のパラメータを測定し、測定されたパラメータと公称のパラメータの値との比較に基づいて、磁気流量計の動作に関する検証出力を応答的に提供するように配設された検証回路と、
を含む磁気流量計。」

3.原査定の拒絶の理由
本件発明に対する原査定の拒絶の理由は、概略以下のとおりである。

「本件発明は、本件出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物1に記載された発明に基づいて、本件出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1:特開2003-97986号公報」

4.刊行物1に記載された発明
(1)刊行物1の記載
刊行物1には、以下の記載がある。

ア.段落0001
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、導電性流体の流量等を測定する電磁流量計に関し、特に、測定管内が流体で満たされているか否かの空検出を行うとともに、検出電極に付着する絶縁物の有無の検出、測定する流体の導電率を測定する電磁流量計に関するものである。」

イ.段落0009
「【0009】本発明は上記の事情に鑑みなされたものであり、測定管内の絶縁物の付着、流体の導電率を検知するために交流信号を用い、定電流源の信号周波数として、励磁基本周波数の整数倍の周波数を用いるとともに、励磁周波数と付着検知回路の信号周波数を同期させ、電極の構造分散の影響を受けない周波数を選択し、さらに、電極インピーダンス測定回路を具備することで、励磁周波数近辺での電極インピーダンスを測定して、正確な電極インピーダンスを測定し、流体ノイズの影響を受けにくい、電極インピーダンス測定回路を実現し、流量信号測定回路と電極シンピーダンス測定回路が互いに影響し合わない正確な電極インピーダンスを測定することで、付着検知・流体液種判別が正確に行える電磁流量計を提供することを目的とする。」

ウ.段落0010
「【0010】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するための本発明は、以下の通りである。
(1)測定対象となる流体が流される測定管を備え、励磁回路により励磁コイルを駆動して前記流体に磁界を与え、前記測定管内を流れる流体の流量を測定する電磁流量計であって、前記測定管内を流れる流体の流量に応じた流量信号を検出する一対の検出電極と、流量測定時の基準電位となるアース電極と、前記検出電極と前記アース電極との間に診断信号を与える診断信号発生回路と、前記検出電極と前記アース電極との間の抵抗値を診断検出信号として検知する診断回路とを備えることを特徴とする電磁流量計。
…(略)…」

エ.段落0011から0014まで
「【0011】
【発明の実施の形態】(例1)図1に本発明の第1の実施例のブロック図を示す。この図1に示すように、電極(検出電極)A,Bには診断信号を発生する診断信号発生回路として、交流信号(診断信号)を発生するための交流信号発生回路3,9が接続され、また電極(検出電極)A,Bにはバッファ4,12が接続される。交流信号発生回路3,9には、電極A,Bに発生する診断信号を同期検波して、A/D変換するための電極抵抗信号A/D変換器5,8が接続される。CPU6にはクロック信号7を分周するための分周回路6aが設けられ、この分周回路6aからのタイミング信号が交流信号発生回路3,9及び励磁回路13へ出力される。
【0012】また、分周回路6aからのタイミング信号が診断検出タイミング信号となり、電極抵抗信号A/D変換器5,8に出力される。更に、バッファ4,12には差動増幅器10が接続され、その差動増幅器10には流量信号A/D変換器11が接続され、その出力はCPU6へと接続される。
【0013】本発明では、電極A,B-アース電極Z(電磁流量計にあっては、測定管Pに設置される、流量測定の基準電位となるアースリング等のアース電極部)間に、交流信号発生回路3,9から診断信号として交流信号を与え、電極A,B-アース電極Z間の抵抗に応じて電極A,Bに発生する診断信号を取り込み、同期検波して、電極抵抗信号A/D変換器5,8にてA/D変換し、その抵抗値より、空検知、電極A,Bへの絶縁物付着、流体の導電率の測定を行う。
【0014】そして、その動作は、図2に示すように、例えば、交流信号発生回路3,9として、定電流源(定電流回路15,17)を用いる場合には、交流の定電流値をIo、電極A,Bに現れる診断信号の電圧をVoとすれば、電極A,Bの交流抵抗Rは、R=Vo/Ioとして算出できる。この電極抵抗Rには、電極A,Bの絶縁物付着状態、空状態、流体導電率が反映されることとなる。」

オ.段落0019及び0020
「【0019】続いて、この流体導電率測定と付着検知の切り分け方法について説明する。まず、流体導電率測定に関しては、以下のように行う。流体抵抗(R)は、電極面積(S)、流体導電率(σ)に反比例する。具体的に式で表すと、R=k/S/σ(kは比例係数)となる。そのため、電極A,B面をきれいな状態とし、予め仕様上の最低導電率における流体抵抗を求めておく。そして、測定した流体抵抗Rがその値よりも小さいときは導電率測定範囲として取り扱う。流体導電率σに関しては、予め判明している電極面積Sと、比例係数kと、測定した流体抵抗Rの値より算出する。
【0020】次に、電極に対する絶縁物の付着検知に関しては、以下のように行う。前述した流体抵抗が導電率測定範囲の流体抵抗を越えたところで、検出電極に対する絶縁物付着状態とする。ここで、検出電極に対する異常/劣化状態を示す指標には、図1に示すバッファの入力インピーダンスに基づく。」

カ.段落0027から0029まで
「【0027】次に、測定に使用する周波数について説明する。診断回路部の診断タイミングの周波数は、図3(a),(b)にて説明したように、励磁周波数の整数倍の周波数とする。励磁電流及び流量信号に含まれる周波数成分は、励磁基本周波数とその奇数倍の高調波成分で構成される。このために、診断回路部の診断タイミングの周波数を励磁周波数の偶数倍の周波数にすることで、励磁電流、流量信号に原理的に影響を与えない診断回路を実現できる。
【0028】また、診断回路部の診断タイミングの周波数を奇数倍にした場合でも、流量信号のサンプリング期間を、診断信号の積分値がゼロになるような時間とすることで、診断回路の影響を受けない流量信号測定回路を実現できる。
【0029】ここで、この例1にあっては、励磁タイミングと、診断タイミングとを同期させる方式を採用する。この二つのタイミングを非同期とすると、2つの発振器が必要となり、それらの温度特性の違いから、周波数が偶数倍にならない可能性もあり、この周波数のずれにより、診断回路で使用する検出電圧が流量信号に影響を与えることがある。このため、例1では、同期式を採用する。この方式によれば、同一クロックから分周されたタイミング信号を使用するので、クロックの原振周波数が周囲温度により変わったとしても励磁周波数と診断周波数との同期は失われず、温度変動の影響を受けにくい診断回路、流量信号測定回路を実現することができる。」

キ.段落0034から0036まで
「【0034】次に、本発明にあって実際に使用される各信号のタイミングを図4から図8を用いて説明する。ここで、励磁タイミング信号は、測定管内の励磁コイルに励磁電流を与えるタイミング、励磁電流波形は、励磁状態を表わし、流量検出信号にも対応する信号波形、診断タイミング信号1?5はCPU6または分周回路6a等より発生するタイミングに対応して交流定電流回路5,8等から電極A,B-アース電極Zに交流電流を与えるタイミング、診断検出信号は電極A,B-アース電極Z間で得られた抵抗検出信号に対応する信号波形、診断正(または負)サンプリング信号1?5は診断検出信号を取り込んで信号処理するタイミングである。
【0035】ここで、電極A,Bから検出される診断検出信号を正部分と負部分とをサンプリング(同期検波)し、その差を取ることで、電極A,B-アース電極Z間の抵抗に応じて電極A,Bに発生する電圧を検出する。サンプリング間隔は1/4波サンプリングを行なっているが、半波サンプリングをしてもよい。半波サンプリングの場合、絶対値回路でDC化してDC電圧をA/D変換するようにしてもよい。
【0036】また、図4?図7は、励磁基本周波数に対して、診断回路部の診断周波数を偶数倍した例を示す。図4と図6は、診断回路の周波数を励磁周波数の2倍とした実施の形態を示す。流量信号のサンプリング時、正励磁時、負励磁時のそれぞれのサンプリングにあって本来検出すべき流量信号には診断信号も含まれ、その影響が出てしまうが、正負励磁時におけるそれぞれの流量信号の差をとることで、診断信号の影響をキャンセルすることができる。」

(2)刊行物1に記載された事項
ア.刊行物1には、導電性流体の流量を測定する電磁流量計であって、測定管内が流体で満たされているか否かの空検出を行うとともに、交流信号を用いて、検出電極に付着する絶縁物の有無の検出と、導電性流体の導電率の測定とを行う電磁流量計が記載されている(段落0001及び0009)。

イ.刊行物1に記載された電磁流量計は、測定対象となる流体が流される測定管Pと、励磁回路13により駆動されて流体に磁界を与える励磁コイルと、測定管P内を流れる流体の流量に応じた流量信号を検出する一対の検出電極A、Bと、流量測定時の基準電位となるアース電極Zとを備える(段落0010、0011及び0013並びに図1)。

ウ.検出電極A、Bにはバッファ4、12が接続される(段落0011及び図1)。バッファ4、12には差動増幅器10が接続され、差動増幅器10には流量信号A/D変換器11が接続され、流量信号A/D変換器11の出力はCPU6へと接続される(段落0012及び図1)。

エ.刊行物1に記載された電磁流量計は、さらに、検出電極A、Bとアース電極Zとの間に診断信号を与える診断信号発生回路を備える(段落0010)。
診断信号発生回路は、具体的には、交流信号を発生する交流信号発生回路3、9であり、検出電極A、Bに接続される(段落0011及び図1)。そして、交流信号発生回路3、9は、例えば定電流回路15、17である(段落0014)。

オ.診断信号発生回路としての交流信号発生回路3、9(定電流回路15、17)は、検出電極A、Bとアース電極Zとの間に診断信号としての交流信号を与える(段落0013)。この交流信号の定電流値をIoとし、検出電極A、Bに現れる診断信号の電圧をVoとすると、検出電極A、Bの交流抵抗RがR=Vo/Ioとして算出されるのであるから(段落0014)、検出電極A、Bに現れる診断信号の電圧Voは、検出電極A、Bとアース電極Zとの間の抵抗値に応じて発生する信号である。
検出電極A、Bに現れる診断信号の電圧Voは、バッファ4、12に接続された電極抵抗信号A/D変換器5、8によって同期検波され、A/D変換される(段落0011及び0013並びに図1)。
検出電極A、Bに現れる診断信号の電圧Voから電極抵抗Rが算出され(段落0014)、その抵抗値から、空検知、検出電極A、Bへの絶縁物付着の有無の検出、及び流体の導電率の測定が行われる(段落0013及び0014)。電極抵抗信号A/D変換器5、8は、CPU6に接続されるから(図1)、電極抵抗Rの算出と、その抵抗値からの空検知、絶縁物付着の有無の検出、及び導電率の測定とは、CPU6で行われると認められる。

カ.刊行物1に記載された電磁流量計は、さらに、検出電極A、Bとアース電極Zとの間の抵抗値を診断検出信号として検知する診断回路と備える(段落0010)。
上記オ.でみたように、検出電極A、Bに現れる診断信号の電圧Voは、検出電極A、Bとアース電極Zとの間の抵抗値に応じて発生する信号である。そして、バッファ4、12に接続された電極抵抗信号A/D変換器5、8によって同期検波され、A/D変換された後、CPU6に入力されて、電極抵抗Rの算出と、その抵抗値からの空検知、絶縁物付着の有無の検出、及び導電率の測定とに用いられる。
そうすると、検出電極A、Bとアース電極Zとの間の抵抗値を診断検出信号として検知する診断回路は、具体的には、電極抵抗信号A/D変換器5、8及びCPU6であると認められる。また、診断検出信号は、具体的には、検出電極A、Bに現れる診断信号の電圧Voであると認められる。

キ.刊行物1に記載された電磁流量計で流体の導電率を測定し、また、検出電極A、Bに付着する絶縁物の有無を検出するためには、あらかじめ、仕様上の最低導電率における流体抵抗を求めておく(段落0019)。
導電率と抵抗とは互いに反比例するから(段落0019)、これは、結局のところ、仕様上の最高流体抵抗を求めておくことにほかならない。

ク.測定した流体抵抗Rが仕様上の最低導電率における流体抵抗(仕様上の最高流体抵抗)より小さいときは、導電率測定範囲として扱われ、測定した流体抵抗Rから流体の導電率σが算出される(段落0019)。

ケ.測定した流体抵抗Rが導電率測定範囲の流体抵抗を越えると、検出電極A、Bに対する絶縁物付着状態とされる(段落0020)。
ここで、測定した流体抵抗Rとは、検出電極A、Bの交流抵抗Rのことであり、導電率測定範囲の流体抵抗とは、仕様上の最低導電率における流体抵抗(仕様上の最高流体抵抗)のことであるから、刊行物1に記載された電磁流量計においては、検出電極A、Bの交流抵抗Rが仕様上の最低導電率における流体抵抗(仕様上の最高流体抵抗)より大きくなると、検出電極A、Bに付着する絶縁物があると判断されることになる。

(3)刊行物1に記載された発明(引用発明)
上記(2)ア.からケ.までの事項を総合すると、刊行物1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「測定対象となる流体が流される測定管Pと、
励磁回路13により駆動されて流体に磁界を与える励磁コイルと、
測定管P内を流れる流体の流量に応じた流量信号を検出する一対の検出電極A、Bと、
流量測定時の基準電位となるアース電極Zと、
検出電極A、Bに接続されたバッファ4、12と、
バッファ4、12に接続された差動増幅器10と、
差動増幅器10に接続された流量信号A/D変換器11と、
流量信号A/D変換器11に接続されたCPU6と、
検出電極A、Bとアース電極Zとの間に診断信号としての交流信号Ioを与える交流信号発生回路3、9と、
バッファ4、12とCPU6との間に接続され、検出電極A、Bに現れる診断信号の電圧Voを同期検波し、A/D変換する電極抵抗信号A/D変換器5、8と、
を備える電磁流量計であって、
CPU6は、検出電極A、Bに現れる診断信号の電圧Voから検出電極A、Bの交流抵抗Rを算出し、交流抵抗Rが、あらかじめ求めておいた仕様上の最高流体抵抗より大きくなると、検出電極A、Bに付着する絶縁物があると判断する
電磁流量計。」

5.対比
本件発明と引用発明とを対比すると、以下のとおりである。

(1)引用発明の「測定対象となる流体が流される測定管P」、「励磁コイル」及び「一対の検出電極A、B」は、それぞれ、本件発明の「プロセス流体の流れを受けるように配設され」る「磁気流管」、「駆動コイル」及び「少なくとも一つの検知電極」に相当する。

(2)引用発明の「励磁コイル」は、「励磁回路13により駆動されて流体に磁界を与える」から、「測定対象となる流体が流される測定管P」に近接していることが明らかである。
また、引用発明の「一対の検出電極A、B」は、「アース電極Zとの間に診断信号としての交流信号Ioを与える」ものであり、「検出電極A、Bに現れる診断信号の電圧Voから」「あらかじめ求めておいた仕様上の最高流体抵抗」と比較される「検出電極A、Bの交流抵抗Rを算出」するものであるから、「測定管P」を流れる「測定対象となる流体」に接していると認められる。
したがって、引用発明の「測定対象となる流体が流される測定管P」、「励磁コイル」及び「一対の検出電極A、B」は、全体として、本件発明の「プロセス流体の流れを受けるように配設され、駆動コイルと、少なくとも一つの検知電極とを含む磁気流管」に相当する。

(3)引用発明は、「励磁コイル」が「励磁回路13により駆動されて流体に磁界を与える」から、本件発明の「駆動コイルに駆動信号を提供し」に相当する構成を備える。

(4)引用発明は、「一対の検出電極A、B」が「測定管P内を流れる流体の流量に応じた流量信号を検出する」から、本件発明の「少なくとも一つの検知電極からの出力に基づいて、磁気流管を通るプロセス流体の流れを測定する」に相当する構成を備える。

(5)引用発明の「流量測定時の基準電位となるアース電極Z」、「検出電極A、Bに接続されたバッファ4、12」、「バッファ4、12に接続された差動増幅器10」、「差動増幅器10に接続された流量信号A/D変換器11」及び「流量信号A/D変換器11に接続されたCPU6」は、全体として、「一対の検出電極A、B」が「検出する」「測定管P内を流れる流体の流量に応じた流量信号」から「測定管P内を流れる流体の流量」を測定する回路とみることができるから、本件発明の「磁気流管を通るプロセス流体の流れを測定するように構成された、磁気流管に結合された測定回路」に相当する。

(6)引用発明の「CPU6」が「検出電極A、Bに現れる診断信号の電圧Voから」「算出」する「検出電極A、Bの交流抵抗R」は、「検出電極A、Bに付着する絶縁物」の有無を判断するのに用いられるから、「検出電極A、B」に関連する量である。
上記(2)でみたように、引用発明の「測定対象となる流体が流される測定管P」、「励磁コイル」及び「一対の検出電極A、B」は、全体として、本件発明の「プロセス流体の流れを受けるように配設され、駆動コイルと、少なくとも一つの検知電極とを含む磁気流管」に相当するから、「検出電極A、B」に関連する量である「検出電極A、Bの交流抵抗R」は、本件発明の「磁気流管に関連する」「パラメータ」に相当する。
したがって、引用発明は、本件発明の「磁気流管に関連する」「パラメータを測定し」に相当する構成を備える。

(7)引用発明の「あらかじめ求めておいた仕様上の最高流体抵抗」は、本件発明の「磁気流管に関連する」「公称のパラメータの値」に相当する。

(8)引用発明は、「CPU6」が「交流抵抗Rが、あらかじめ求めておいた仕様上の最高流体抵抗より大きくなると、検出電極A、Bに付着する絶縁物があると判断する」から、本件発明の「測定されたパラメータと公称のパラメータの値との比較に基づいて、磁気流量計の動作に関する検証出力を」「提供する」に相当する構成を備える。

(9)引用発明は、「交流信号発生回路3、9」が「検出電極A、Bとアース電極Zとの間に診断信号としての交流信号Ioを与える」ことにより、それに応答して「検出電極A、Bに現れる診断信号の電圧Voから検出電極A、Bの交流抵抗Rを算出し」、それを用いて「検出電極A、Bに付着する絶縁物があると判断する」から、本件発明の「磁気流量計の動作に関する検証出力を応答的に提供する」に相当する構成を備える。

(10)引用発明の「交流信号発生回路3、9」、「バッファ4、12とCPU6との間に接続され、検出電極A、Bに現れる診断信号の電圧Voを同期検波し、A/D変換する電極抵抗信号A/D変換器5、8」及び「CPU6」は、全体として、「検出電極A、Bとアース電極Zとの間に診断信号としての交流信号Ioを与える」ことにより、それに応答して「検出電極A、Bに現れる診断信号の電圧Voから検出電極A、Bの交流抵抗Rを算出し、交流抵抗Rが、あらかじめ求めておいた仕様上の最高流体抵抗より大きくなると、検出電極A、Bに付着する絶縁物があると判断する」回路とみることができるから、本件発明の「磁気流管に関連する」「パラメータを測定し、測定されたパラメータと公称のパラメータの値との比較に基づいて、磁気流量計の動作に関する検証出力を応答的に提供する」「検証回路」に相当する。

(11)引用発明の「電磁流量計」は、本件発明の「磁気流量計」に相当する。

(12)以上のことをまとめると、本件発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

(一致点)
「プロセス流体の流れを受けるように配設され、駆動コイルと、少なくとも一つの検知電極とを含む磁気流管と、
駆動コイルに駆動信号を提供し、少なくとも一つの検知電極からの出力に基づいて、磁気流管を通るプロセス流体の流れを測定するように構成された、磁気流管に結合された測定回路と、
磁気流管に関連するパラメータを測定し、測定されたパラメータと公称のパラメータの値との比較に基づいて、磁気流量計の動作に関する検証出力を応答的に提供する検証回路と、
を含む磁気流量計。」

(相違点1)
本件発明は、「磁気流管に関連する」「パラメータ」を「複数」測定するのに対し、引用発明は、「検出電極A、Bの交流抵抗R」(本件発明の「磁気流管に関連する」「パラメータ」に相当する。)だけを測定する点。

(相違点2)
本件発明は、「磁気流管に関連する」「公称のパラメータの値を記憶する不揮発性メモリ」を含むのに対し、引用発明は、「あらかじめ求めておいた仕様上の最高流体抵抗」(本件発明の「磁気流管に関連する」「公称のパラメータの値」に相当する。)をどのように保持しているか明らかでない点。

(相違点3)
本件発明は、「検証回路」が「測定回路によるプロセス流体の流れの測定とは別に、」「配設された」ものであるのに対し、引用発明は、「CPU6」が「測定管P内を流れる流体の流量」を測定する回路(本件発明の「測定回路」に相当する。)と「検出電極A、Bに付着する絶縁物があると判断する」回路(本件発明の「検証回路」に相当する。)とに兼用されており、後者が前者とは別に配設されたものでない点。

6.判断
(1)相違点1について
本件出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であり、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物でもある特開2003-75239号公報(以下、「周知例1」という。)には、引用発明と同じ原理に基づく電磁流量計である電磁流量センサー10に自己診断部16を設け、自己診断部16において、コイル14の導通状態をチェックしたり、アンプ15の出力電圧が所定値になっているか否かをチェックしたりすることが記載されている(段落0013から0015まで)。
同じく本件出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であり、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物でもある特開2004-354205号公報(以下、「周知例2」という。)には、やはり引用発明と同じ原理に基づく電磁流量計において、正励磁判定用電流値IexPOS、負励磁判定用電流値IexNEG、及び流量演算用電流値Iexが、それぞれ設計範囲メモリ部20Aが記憶している設計範囲内にあるかどうかを判定して、励磁コイル14の断線や励磁回路15の異常を検知することが記載されている(段落0026から0028まで、0043から0047まで及び0058)。
引用発明と同じ原理に基づく電磁流量計において、励磁コイル(周知例1のコイル14、周知例2の励磁コイル14)の断線を検知する自己診断機能を設けることは、周知例1及び2のいずれにも記載されているから、本件出願の優先日前に当業者に周知の技術である。
引用発明に、励磁コイルの断線を検知する自己診断機能を付加することは、上記周知の技術の単なる適用にすぎず、その自己診断のための具体的な手法として、例えば周知例2に記載されているように、励磁コイルを流れる電流値を測定し、それをあらかじめメモリに記憶しておいた設計範囲と比較する手法を採用することは、当業者が適宜行い得る設計事項である。
そして、引用発明に上記周知の技術を適用したものは、検出電極A、Bの交流抵抗Rに加えて、励磁コイルを流れる電流値を測定することになるが、励磁コイルを流れる電流値は、本件発明にいう「磁気流管に関連する」「パラメータ」に該当すると認められるから、引用発明に上記周知の技術を適用したものは、「磁気流管に関連する」「パラメータ」を「複数」測定するという相違点1に係る構成を備えることが明らかである。

(2)相違点2について
引用発明は、「検出電極A、Bの交流抵抗R」を「あらかじめ求めておいた仕様上の最高流体抵抗」と比較し、その結果に基づいて「検出電極A、Bに付着する絶縁物があると判断する」ものであるが、一般に、測定値と比較される基準値を不揮発性メモリに記憶しておくことは、例示するまでもなく、周知慣用の技術にすぎない。
また、引用発明に上記周知の技術を適用したものは、励磁コイルを流れる電流値の設計範囲をあらかじめ記憶しておくメモリを備えており、そのメモリを不揮発性メモリとすることは、当業者が適宜行い得る事項であるから、相違点2に係る構成は、引用発明に上記周知の技術を適用することによっても得られるものである。

(3)相違点3について
引用発明において、「測定管P内を流れる流体の流量」を測定する回路及び「検出電極A、Bに付着する絶縁物があると判断する」回路の具体的な構成は、当業者が適宜変更し得る事項であって、両者を互いに独立のものとして、相違点1に係る構成とすることは、そのような変更の単なる結果にすぎない。

(4)判断のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明は、刊行物1に記載された発明(引用発明)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

7.請求人の主張について
(1)請求人は、相違点3に関し、意見書の2.(3)ア)の「<引用文献1との対比>」において、次のように主張する。

「しかし、補正後の本願発明は、プロセス流体の流れを測定するための測定回路と、流量計の動作を検証するための検証回路とを互いに独立に設ける構成又は方法となっています。このため、プロセス流体の流れの測定とは別に、磁気流管に関連する複数のパラメータを測定し、公称パラメータの値との比較に基づいて、磁気流量計の動作に関する検証を行うことができます。これにより、流量計を「停止させたり、流管を運用から取り除いたりするプロセスを必要とせず、個別のあるいはさらなる機器、又は試験を行うために訓練された作業員を必要としない」という作用効果を奏します(本願明細書の段落[0006])。
これに対し、引用文献1の段落[0019]に記載された構成又は方法は、その[図1]に示された単一CPU6によって流量測定の合間に行われるものであり、流量測定の中断及び遅延を生じさせます。」

請求人が主張するとおり、本件発明は、「停止させたり、流管を運用から取り除いたりするプロセスを必要とせず、別個のあるいはさらなる機器、又は試験を行うために訓練された作業員を必要としない。」(本件出願の明細書、段落0006)という効果を奏する。
ところが、本件出願の明細書には、「検証回路200を含むさまざまな構成要素を、流量計20の他の要素に統合させてもよい。たとえば、メモリ204を、流量計20の他の構成要素と共有させてもよい。同様に、試験経路202は、個別の構成要素によって形成されてもよく、又は他の構成要素、たとえばマイクロプロセッサ、増幅器、アナログ・ディジタル変換器、センサ等と共有であってもよい。出力回路206は、流量計20内部からの他の回路から独立した出力回路であってもよく、又は流量計内部の他の回路、たとえばマイクロプロセッサ等と共有であってもよい。」(同、段落0011)、「図4は、より詳細に示された試験回路202を示す簡略化されたブロック図である。試験回路202は、試験機能230及びセンサ232を含むものとして図示されている。試験機能230及びセンサ232は、流量計回路202に結合する。センサ232からの出力は、アナログ・ディジタル変換器236に提供され、アナログ・ディジタル変換器はマイクロプロセッサ238にディジタル出力信号を提供する。マイクロプロセッサ238はまた、試験機能230を制御するものとして図示されている。マイクロプロセッサ238は、スタンドアロン型マイクロプロセッサであってもよく、又は、たとえば図2に図示された測定回路154の一部であってもよい。マイクロプロセッサは、たとえばメモリ204に記憶された命令に従って動作してもよい。」(同、段落0014)と記載され、その上で、「本発明では、プロセス流体の流れの通常測定中に、磁気流量計の検証を行うことができ、流れ情報の出力を遮ることがない。一つの構成では、検証は、流量計の通常動作のバックグラウンドで行われる。」(同、段落0021)と記載されている。
そうすると、本件発明の上記の効果は、「検証回路200」に含まれる「試験回路202」の「マイクロプロセッサ238」が「測定回路154」の一部である場合にも奏されるものと認められる。すなわち、本件発明の上記の効果は、「検証回路」が「測定回路によるプロセス流体の流れの測定とは別に、」「配設された」ことによるものと認めることはできない。
そして、刊行物1の段落0027から0029まで及び0034から0036までの記載並びに図3から7までを参照すると、引用発明も、本件発明と同様の効果を奏すると認められる。
相違点3に係る構成によって、本件発明が格別の効果を奏すると認めることはできない。

(2)請求人は、刊行物1の記載に関し、審判請求書の「第3」2.(1)の「<文献1の記載不備>」において次のように主張する。

「…(略)…文献1には、「診断信号」について「前記検出電極と前記アース電極との間に診断信号を与える」(請求項1、段落[0010])という記載表現と、「電極A,Bに発生する診断信号」(段落[0011]、[0013]、[0037])という記載表現とが混在している。このため、文献1に記載された「診断信号」との用語が、「診断信号発生回路」で生成されて「前記検出電極と前記アース電極との間」に与えられる信号を意味するのか、又は「診断信号発生回路」で生成された信号が与えられたことによって「電極A,B」に発生する信号を意味するのか、いずれか一方に特定することができない。この点については、原査定をした審査官殿ご自身も、段落[0011]に明記された「電極A,Bに発生する診断信号」を、「電極A、Bに発生する信号」、「交流信号(診断信号)に応じて発生する信号」と言い換えており、「診断信号」という1つの用語によって、異なる2つの信号を区別することはできないのである。」

しかし、請求人の主張は、以下に述べるとおり、採用することができない。
交流信号発生回路3、9(定電流回路15、17)が、検出電極A、Bとアース電極Zとの間に、定電流値Ioの交流信号を診断信号として与えることは、刊行物1の段落0013及び0014に記載されているとおりである。このとき、検出電極A、Bに電圧Vo=R×Io(R:検出電極A、Bとアース電極Zとの間の抵抗)が生じることは、オームの法則として周知であるし、検出電極A、Bの交流抵抗RがR=Vo/Ioとして算出できる旨の記載(段落0014)とも整合する。さらに、検出電極A、Bの交流抵抗Rの算出に用いられる信号が、検出電極A、Bに発生する電圧Voであることは、段落0034から0036までの記載からも明らかである。
刊行物1に記載された「診断信号」が、診断信号発生回路としての交流信号発生回路3、9(定電流回路15、17)で生成されて検出電極A、Bとアース電極Zとの間に与えられる信号(定電流値Io)を意味するのか、それに応じて検出電極A、Bに発生する信号(電圧Vo)を意味するのかは、当業者であれば容易に区別することができる。
なお、請求人は、当審が平成26年8月27日付けで通知した審理の終結に対し、同年9月22日付け審理再開申立書を提出して審理の再開を申し立てた。そして、請求人は、申立の理由として刊行物1に関する事情を述べている。しかし、当審は、請求人が述べる事情によって審理を再開する必要はないと判断した。

8.むすび
以上に検討したとおり、本件発明は、刊行物1に記載された発明(引用発明)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-08-27 
結審通知日 2014-09-02 
審決日 2014-09-25 
出願番号 特願2009-530441(P2009-530441)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田邉 英治  
特許庁審判長 清水 稔
特許庁審判官 小林 紀史
中塚 直樹
発明の名称 検証を備える磁気流量計  
代理人 生川 芳徳  
代理人 津国 肇  
代理人 柴田 明夫  
代理人 小國 泰弘  
代理人 特許業務法人 津国  
代理人 田中 洋子  
代理人 伊藤 佐保子  
代理人 小澤 圭子  
代理人 三宅 俊男  

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