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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1297162
審判番号 不服2013-15178  
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-08-07 
確定日 2015-02-04 
事件の表示 特願2006-209458「互いに対して相対的な運動を行なう装置の各部分の間で信号を通信する方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 3月 1日出願公開、特開2007- 50245〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成18年8月1日(パリ条約による優先権主張2005年8月15日、米国)の出願であって、平成23年9月1日付けで拒絶理由が通知され、平成24年1月30日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされ、同年9月20日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年11月12日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされ、平成25年4月23日付けで同手続補正について補正の却下の決定がなされるとともに、同日付で拒絶査定がなされ、これに対して、同年8月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。


第2 平成25年8月7日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

平成25年8月7日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。


[理由]

1 本件補正について

本件補正により、特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成24年1月30日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載の、

「対象(22)の画像を取得するイメージング・システム(10)であって、
回転式ガントリ(12)と、
静止側電子系統(110)と、
前記回転式ガントリと共に回転する回転側電子系統(112)と、
静止部分(103)及び回転部分(105)の両方を有する磁心(126)を備えた磁気結合型回転変圧器(102)とを含み、
前記磁心(126)は第1の溝に配置された電力巻線と、前記第1の溝に配置されたデータ巻線を備え、
前記回転側電子系統は、前記回転変圧器の前記回転部分に電気的に且つ機械的に結合され、前記静止側電子系統は、前記回転変圧器の前記静止部分に電気的に且つ機械的に結合され、前記回転側電子系統及び前記静止側電子系統は、前記回転変圧器を横断して送信された電力とは異なる周波数の搬送周波数で変調されたデータを無線通信するように構成されている、イメージング・システム(10)。」


「対象(22)の画像を取得する計算機式断層写真法イメージング・システム(10)であって、
検出器アレイ(18)を備える回転式ガントリ(12)と、
静止側電子系統(110)と、
前記回転式ガントリと共に回転する回転側電子系統(112)と、
静止部分(103)及び回転部分(105)の両方を有する磁心(126)を備えた磁気結合型回転変圧器(102)とを含み、
前記磁心(126)は第1の溝に配置された電力巻線と、前記第1の溝に配置されたデータ巻線を備え、
前記回転側電子系統は、前記回転変圧器の前記回転部分に電気的に且つ機械的に結合され、前記静止側電子系統は、前記回転変圧器の前記静止部分に電気的に且つ機械的に結合され、前記回転側電子系統及び前記静止側電子系統は、前記回転変圧器を横断して送信された電力の周波数とは少なくとも二桁の大きさで異なる高い周波数の搬送周波数で変調されたデータを無線通信するように構成されており、前記データは、前記検出器アレイ(18)からの画像データを含んでいる、計算機式断層写真法イメージング・システム(10)。」
と補正された。(下線は補正箇所を示す。)

そして、この補正は、請求項1に記載された発明特定事項の「イメージング・システム(10)」を「計算機式断層写真法」によるものに特定し、「回転式ガントリ(12)」を「検出器アレイ(18)を備え」たものに特定し、「前記回転変圧器を横断して送信された電力とは異なる周波数の搬送周波数で変調されたデータ」の「搬送周波数」を「電力の周波数とは少なくとも二桁の大きさで異なる高い周波数」に特定し、「無線通信」される「データ」を「前記検出器アレイ(18)からの画像データを含んでいる」ものに特定する補正事項を含むものであり、当該補正事項は、特許請求の範囲のいわゆる限定的減縮を目的とする補正事項であるといえる。

よって、本件補正における請求項1に係る発明の補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる事項(特許請求の範囲のいわゆる限定的減縮)を目的とするものである。

2 独立特許要件についての検討

(1)そこで、次に、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反しないか)について検討する。

(2)引用例

ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平8-336521号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている(下線は当審において付加したものである。)。

(ア)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、被検体の診断部位にX線を照射しその透過X線像を検出して断層像を再構成し画像として表示するX線CT装置に関し、特に連続的に回転するスキャナ回転部に電源からX線管側へ電力を供給する手段を備えたものにおいて、該電力供給手段の保守点検を容易とすると共に、信頼性を向上させることができるX線CT装置に関する。」

(イ)「【0011】
【作用】このように構成されたX線CT装置は、スキャナ回転部において電源からX線管側へ電力を供給する電力供給手段として、第一の巻線と第二の巻線とを組み合わせてなる電磁誘導送電手段を設けたことにより、従来のスリップリングとブラシとの機械的な摺接によることなく、電磁誘導作用によって非接触で所要の電力を供給するように動作する。これにより、従来のような電力供給部分の摩耗や腐食を防止し、電力供給手段の保守点検を容易にすると共に信頼性を向上することができる。」

(ウ)「【0016】
【実施例】以下、本発明の実施例を添付図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明によるX線CT装置の実施例を示す全体構成のブロック図である。このX線CT装置は、被検体の診断部位にX線を放射し、その透過X線量分布を検出して、断層像を再構成し、画像として表示するもので、図1に示すように、電源1と、インバータ2と、高電圧変圧器3と、高電圧整流器4と、X線管5と、X線検出部7と、画像処理装置9と、画像表示装置10とを有し、上記電源1からX線管5側へ電力を供給する手段としてスキャナ回転部8に電磁誘導送電手段19を備え、さらにX線検出部7から画像処理装置9へ検出信号を送る手段としてスキャナ回転部8に設けられたスリップリング11cとブラシ12cとの組み合わせによる伝送手段を用いて成る。
【0017】上記電源1は、直流電圧を発生するもので、図1においては商用の交流電源13と、この交流電源13の電圧を所望の直流電圧に変換するコンバータ14と、このコンバータ14の出力電圧を平滑化するコンデンサ15とから成っている。なお、この電源1は直流電圧を発生するものであればよく、上記の構成に限らず、例えばバッテリであってもよい。インバータ2は、上記電源1から出力された直流電圧を高周波の交流に変換するものである。また、高電圧変圧器3は、上記インバータ2から出力された交流電圧を昇圧するものである。さらに、高電圧整流器4は、上記高電圧変圧器3の出力電圧を直流の高電圧に変換(整流)するものである。そして、以上の電源1とインバータ2と高電圧変圧器3と高電圧整流器4とで、X線高電圧装置が構成される。
【0018】X線管5は、上記高電圧整流器4から出力された直流高電圧を供給されて、被検体6に向けてX線を放射するものである。そして、この被検体6を透過したX線は、X線検出部7へ入射する。このX線検出部7は、上記X線管5から放射され被検体6を透過した透過X線量分布を検出すると共にその検出信号を増幅するもので、上記の透過X線量分布を検出する検出器16と、この検出器16からの検出信号を増幅するプリアンプ17とから成る。
【0019】また、画像処理装置9は、上記X線検出部7からの出力信号を入力して処理し、被検体6の診断部位の断層像を再構成するものである。さらに、画像表示装置10は、上記画像処理装置9からの出力信号を入力して断層像を表示するもので、例えばテレビモニタから成る。なお、図1において、符号18は、上記インバータ2の出力電圧を高電圧変圧器3の漏れインダクタンスとで共振を起こさせ十分な電力を得るための共振コンデンサである。
【0020】そして、上記高電圧変圧器3と高電圧整流器4とX線管5とX線検出部7とが、スキャナ回転部8の回転枠8aに搭載されており、上記X線管5とX線検出部7とが、被検体6を挟んで対向した状態で該被検体6の周りに回転するようになっている。なお、回転枠8aは、図8に示すと同様に、中心部に被検体挿入用の開口部19が形成された回転板8bを有し、この回転板8bの一側面には高電圧変圧器3と高電圧整流器4とX線管5とX線検出部7が搭載され、また回転枠8aの胴部8cの周りには検出信号伝送用のスリップリング11cが設けられている。スリップリング11cに対向してスキャナの固定枠(図示せず)にブラシ12cが設けられている。
【0021】ここで、本発明においては、図1に示すように、電源1からX線管5側へ電力を供給する手段としてスキャナの固定枠部分とスキャナ回転部8の回転枠8aとの間に電磁誘導送電手段19が設けられている。この電磁誘導送電手段19は電磁誘導作用によって非接触状態で所要の電力を供給するもので、その一端はインバータ2の出力側に接続され、他端は高電圧変圧器3の入力側に接続されている。この電磁誘導送電手段19は2つの巻線を組み合わせたものである。第一の巻線20aはインバータ2の出力側に接続され、かつスキャナの固定枠に配置されている。第二の巻線20bは高電圧変圧器3の入力側に接続され、かつ回転枠8a上に第一の巻線20aと対向して配置されている。」

(エ)「【0024】電磁誘導送電手段を上記の如く構成することにより、図1においてインバータ2から供給された交流電流が第一の巻線20aに流れると、図2(b)に示すように、対向する第一の巻線20a及び第二の巻線20b、及び対向する円弧形で断面がE字形の第一の鉄心24aと同じく円弧形で断面がE字形の第二の鉄心24bとで構成された外鉄型の変圧器のような構成において、磁気回路に磁束φが発生する。すると、磁束φに鎖交している第二の巻線20bに電圧が誘起され、この第二の巻線20bから図1に示す高電圧変圧器3に交流電力を供給することができる。」

(オ)「【0032】また、以上の説明では、第一の巻線20aと第二の巻線20bのターン数は同じとしたが、ターン数の比を変化させれば、インバータ2や高電圧変圧器3を含めた回路設計における自由度を増やすことができる。例えば、第二の巻線20bを第一の巻線20aよりも多く巻けば、電磁誘導送電手段19の出力側の電圧が入力側よりも高くなり、その分高電圧変圧器3の巻数比を小さくできる。その結果、高電圧変圧器3の小型化や漏れインダクタンス、あるいは浮遊容量を減少させることも可能となる。」

(カ)「【0036】また、図1においては、スキャナ回転部8のX線検出器7から検出信号を画像処理装置9へ送る手段は、図4(当審注:「図4」は「図7」の誤記と認める。)に示す従来例と同様にスリップリング11cとブラシ12cとを用いたものとしたが、これに限らず、上述の電磁誘導送電手段19と同様に、巻線20a,20bを組み合わせて電磁誘導作用を利用して伝送してもよいし、あるいは光,電波などを利用してもよい。」

(キ)【図1】




(ク)【図2】




(ケ)図2には、第一の巻線20a及び第二の巻線20bが、それぞれ第一の鉄心24a及び第二の鉄心24bの溝に配置されることが記載されている。

イ 引用例1に記載された発明の認定

よって、上記記載から、引用例1には、

「 被検体の診断部位にX線を放射し、その透過X線量分布を検出して、断層像を再構成し、画像として表示するもので、
電源1と、インバータ2と、高電圧変圧器3と、高電圧整流器4と、X線管5と、X線検出部7と、画像処理装置9と、画像表示装置10とを有し、上記電源1からX線管5側へ電力を供給する手段としてスキャナ回転部8に電磁誘導送電手段19を備え、
X線管5は、上記高電圧整流器4から出力された直流高電圧を供給されて、被検体6に向けてX線を放射するものであり、
この被検体6を透過したX線は、X線検出部7へ入射し、
このX線検出部7は、上記X線管5から放射され被検体6を透過した透過X線量分布を検出すると共にその検出信号を増幅するもので、上記の透過X線量分布を検出する検出器16と、この検出器16からの検出信号を増幅するプリアンプ17とから成り、
画像処理装置9は、上記X線検出部7からの出力信号を入力して処理し、被検体6の診断部位の断層像を再構成するものであり、
上記高電圧変圧器3と高電圧整流器4とX線管5とX線検出部7とが、スキャナ回転部8の回転枠8aに搭載されており、上記X線管5とX線検出部7とが、被検体6を挟んで対向した状態で該被検体6の周りに回転するようになっており、
電源1からX線管5側へ電力を供給する手段としてスキャナの固定枠部分とスキャナ回転部8の回転枠8aとの間に電磁誘導送電手段19が設けられており、
この電磁誘導送電手段19は2つの巻線を組み合わせたものであって、第一の巻線20a及び第二の巻線20bが、それぞれ第一の鉄心24a及び第二の鉄心24bの溝に配置されており、第一の巻線20aはインバータ2の出力側に接続され、かつスキャナの固定枠に配置され、第二の巻線20bは高電圧変圧器3の入力側に接続され、かつ回転枠8a上に第一の巻線20aと対向して配置されており、
第二の巻線20bを第一の巻線20aよりも多く巻くことにより、電磁誘導送電手段19の出力側の電圧を入力側よりも高くし、
スキャナ回転部8のX線検出器7から検出信号を画像処理装置9へ送る手段は、巻線を組み合わせて電磁誘導作用を利用して伝送するようにしたX線CT装置。」

の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

ウ 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である実願昭50-101226号(実開昭52-34248号)のマイクロフィルム(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている(下線は当審において付加したものである。)。

(ア)第2頁7行?第3頁9行
「 本考案は回転する装置に電力を供給し、また回転体から信号を送り返す固定-回転装置間の電力、信号伝達装置に関するものである。
回転する装置に電力を送り、また回転する装置から信号を送り返えす装置として、従来はスリップリング等の摩擦部分を持つような装置が一般的であつたが、しかし上記手段による方法にあつては、摩擦部分の経年変化があり、多年の使用に耐えられず、また回転装置の回転トルクが極めて弱い場合など摩擦によるトルクの減少が問題となり、さらに信号を伝送する場合、摩擦部分で発生する雑音と信号とのSN比が問題となり、多くの欠点を持つていた。
本考案は叙上の点に鑑みて成されたもので、その目的は、摩擦を起す接触部を持たず、電力と信号とを同一のトランスを介して送りおよび送り返すことができる固定-回転装置間の電力、信号伝達装置を提供するにある。」

(イ)第3頁12行?第4頁8行
「 第1、2図において、(1)は回転軸、(2)は該回転軸(1)に嵌挿されたつぼ型のコアにして、その内部に1次コイル(3)が捲回されている。(4)は上記回転軸(1)に嵌着され回転軸(1)と一体に回転するつぼ型のコアにして、その内部に2次コイル(5)が捲回されている。尚コア(2)と(4)は開口側が対向するように回転軸(1)に嵌挿され、あるいは嵌着されている。本考案では上記した様なつぼ型のコア(2)(4)を使用することにより、回転しても磁気抵抗の変化がなく、かつ磁路も短くなつて比較的磁気抵抗の上昇を押えることが可能となつた。」

(ウ)第4頁9行?第6頁14行
「 そして上記トランスを使用して固定部側から電力を供給し、回転部側からセンサー等で検出した信号を送り返す実施例を第3図と共に説明する。
(6)は電力を送るための発振器にして、例えば100KH_(Z)の発振周波数で発振している。(7)は増幅器にして、1次コイル(3)の1つの巻線(3a)に発振器(6)よりの信号を増幅して印加する。(8)は2次コイル(5)の1つの巻線(5a)に接続された整流回路にして、整流された直流電圧を後述する各回路に供給する。(9)は環境変化を検出するセンサーにして、抵抗値変化あるいは電圧、電流変化として検出する。(10)は該センサー(9)よりの情報を適当な電気信号(アナログまたはディジタル)に変換する変調器、(11)は該変調器(10)よりの信号を増幅し2次コイル(5)の他の巻線(5b)に印加する増幅器、(12)は1次コイル(3)の他の巻線(3b)に接続され電力輸送のための信号と変調器(10)よりの信号とを分離し、変調器(10)よりの信号のみを通過させるフィルター、(13)はフィルター(12)よりの信号よりセンサー(9)の信号に変換する復調器である。
而して固定部側の発振器(6)にて交流信号を作り、その信号を増幅器(7)で増幅し1次コイル(3)の巻線(3a)をドライブする。この信号を2次コイル(5)の巻線(5a)で受け整流回路(8)で整流安定化してセンサー(9)、変調器(10)および増幅器(11)に電力として供給する。
一方センサー(9)にて取えられた環境変化の情報は変調器(10)において適当な電気信号に変換された後に増幅器(11)で増幅し2次コイルの巻線(5b)に印加される。この情報は1次コイル(3)の巻線(3b)で取り出され固定部側においてフィルター(12)で電力輸送のための信号と選別され、次いで復調器(13)により逆変換が行われセンサー(9)の情報と同一の信号が得られるものである。」

(エ)第7頁6行?第8頁3行
「 そこでアナログ信号にて回転部側から固定部側に情報を伝送する場合において上記電送効率、信号のSN比を向上する方法について説明する。
情報を乗せるキャリー周波数と電源輸送用周波数を1桁ぐらい変えて、周波数によりインピーダンスの変化する素子を利用して電力の漏れ及び信号の減衰を防ぐ(巻線(3a)および巻線(5a)に直列にコンデンサを入れる)。実際には電源輸送に100KH_(Z)信号伝送に15KH_(Z)程度の周波数を使い発振器(6)および整流回路(8)のコイルと直列にコンデンサーを、変調-増幅用コイルとシリーズにインダクタンスを入れる事により漏えい電力減衰させ、SN比を向上できる。」

(オ)第1図




(カ)第2図




(キ)第3図




(ク)第1図及び第2図には、つぼ型のコア(2)及びつぼ型のコア(4)がそれぞれ一つの溝を有し、1次コイル(3)がつぼ型のコア(2)の溝に配置され、2次コイル(5)がつぼ型のコア(4)の溝に配置されていることが記載されている。

エ 引用例2に記載された発明の認定

よって、上記記載から、引用例2には、

「回転軸(1)に嵌挿され、その溝に1次コイル(3)が配置されているつぼ型のコア(2)、上記回転軸(1)に嵌着され回転軸(1)と一体に回転し、その溝に2次コイル(5)が配置されているつぼ型のコア(4)を有し、固定部側の発振器(6)にて交流信号を作り、その信号を増幅器(7)で増幅し1次コイル(3)の巻線(3a)をドライブし、この信号を2次コイル(5)の巻線(5a)で受け整流回路(8)で整流安定化してセンサー(9)、変調器(10)および増幅器(11)に電力として供給し、一方センサー(9)にて検出された環境変化の情報は変調器(10)において適当な電気信号に変換された後に増幅器(11)で増幅し2次コイルの巻線(5b)に印加され、この情報は1次コイル(3)の巻線(3b)で取り出されるようにした、回転する装置に電力を供給し、また回転体から信号を送り返す際の電力と信号とを同一のトランスを介して送りおよび送り返すことができる固定-回転装置間の電力、信号伝達装置。」

の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。

(3)本願補正発明と引用発明との対比

ア 対比

本願補正発明と引用発明とを対比する。

(ア)引用発明の「被検体」及び「X線CT装置」が、本願補正発明の「対象(22)」及び「計算機式断層写真法イメージング・システム(10)」にそれぞれ相当するから、引用発明の「被検体の診断部位にX線を放射し、その透過X線量分布を検出して、断層像を再構成し、画像として表示するもので」ある「X線CT装置」が、本願補正発明の「対象(22)の画像を取得する計算機式断層写真法イメージング・システム(10)」に相当する。

(イ)引用発明の「検出器16」は「透過X線量分布を検出する」ものであり、X線CT装置において透過X線量分布を検出するために検出器アレイを用いることは技術常識であるから、引用発明の「透過X線量分布を検出する検出器16」が本願補正発明の「検出器アレイ(18)」に相当し、引用発明の「回転枠8a」を有する「スキャナ回転部8」が本願補正発明の「回転式ガントリ(12)」に相当するから、引用発明の「透過X線量分布を検出する検出器16」を有する「X線検出部7」を「搭載」した「回転枠8a」を有する「スキャナ回転部8」が、本願補正発明の「検出器アレイ(18)を備える回転式ガントリ(12)」に相当する。

(ウ)引用発明の「電源1と、インバータ2と、」「画像処理装置9と、画像表示装置10」とは、「スキャナ」の「スキャナ回転部8」以外の部分に設けられていることは明らかであるから、本願補正発明の「静止側電子系統(110)」に相当する。

(エ)引用発明の「高電圧変圧器3と高電圧整流器4とX線管5とX線検出部7」とは、「スキャナ回転部8の回転枠8aに搭載されており」、「被検体6の周りに回転するようになって」いるものであるから、本願補正発明の「前記回転式ガントリと共に回転する回転側電子系統(112)」に相当する。

(オ)引用発明の「スキャナの固定枠部分とスキャナ回転部8の回転枠8aとの間に」設けられた「電磁誘導送電手段19」において、「第一の巻線20a」が「第一の鉄心24a」の「溝に配置されており」、「かつスキャナの固定枠に配置され」、「第二の巻線20b」が「第二の鉄心24bの溝に配置されており」、「かつ回転枠8a上に」「配置され」ていることから、「第一の鉄心24a」が「スキャナの固定枠」に配置され、「第二の鉄心24b」が「回転枠8a上に」配置されていることは明らかといえ、引用発明の「第一の鉄心24a」及びその「溝に配置され」た「第一の巻線20a」が本願補正発明の「磁心(126)」の静止部分(103)に相当し、引用発明の「第二の鉄心24b」及びその「溝に配置され」た「第二の巻線20b」が本願補正発明の「磁心(126)」の回転部分(105)に相当する。
また、引用発明の「電磁誘導送電手段19」は、「第二の巻線20bを第一の巻線20aよりも多く巻くことにより」「出力側の電圧を入力側よりも高くし」ていることから、変圧器としての機能を有しており、「第一の巻線20a」から「第二の巻線20b」への送電に磁気結合を利用していることは明らかであるから、本願補正発明の「磁気結合型回転変圧器(102)」に相当する。
してみると、引用発明の「第一の鉄心24a」及びその「溝に配置され」た「第一の巻線20a」が「スキャナの固定枠」に配置され、「第二の鉄心24b」及びその「溝に配置され」た「第二の巻線20b」が「回転枠8a上に」配置されており、「第二の巻線20bを第一の巻線20aよりも多く巻くことにより」「出力側の電圧を入力側よりも高くし」た「電磁誘導送電手段19」が、本願補正発明の「静止部分(103)及び回転部分(105)の両方を有する磁心(126)を備えた磁気結合型回転変圧器(102)」に相当する。

(カ)引用発明の「第一の鉄心24」の「溝」が本願補正発明の「第1の溝」に相当し、引用発明の「第一の巻線20a」が本願補正発明の「電力巻線」に相当するから、引用発明の「第一の鉄心24a」の「溝に」「第一の巻線20a」が「配置され」た構成が、本願補正発明の「前記磁心(126)は第1の溝に配置された電力巻線」「を備え」た構成に相当する。

(キ)引用発明の「スキャナ回転部8のX線検出器7から検出信号を画像処理装置9へ送る手段」は、「巻線を組み合わせて電磁誘導作用を利用」して「検出信号」を「伝送する」ものであるから、「スキャナの固定枠」側と「スキャナ回転部8」側とのそれぞれに配置された「巻線」を備えていることは明らかであり、引用発明の「スキャナ回転部8のX線検出器7から検出信号を画像処理装置9へ送る手段」において「スキャナの固定枠」側に配置されていることが明らかな「巻線」が、本願補正発明の「データ巻線」に相当する。

(ク)引用発明の「第二の鉄心24b」及びその「溝に配置され」た「第二の巻線20b」が本願補正発明の「前記回転変圧器の前記回転部分」に相当し、引用発明の「高電圧変圧器3」は「高電圧整流器4とX線管5とX線検出部7」と合わせて本願補正発明の「前記回転側電子系統」に相当するものであり、引用発明において共に回転枠8aに配置される「高電圧変圧器3」と「第二の鉄心24b」とが直接又は間接的に機械的に結合されていることは明らかであるから、引用発明の「高電圧変圧器3の入力側に」「第二の巻線20b」が「接続され」た構成が、本願補正発明の「前記回転側電子系統は、前記回転変圧器の前記回転部分に電気的に且つ機械的に結合され」た構成に相当する。

(ケ)引用発明の「第一の鉄心24a」及びその「溝に配置され」た「第一の巻線20a」が本願補正発明の「前記回転変圧器の前記静止部分」に相当し、引用発明の「インバータ2」は「電源1と、」「画像処理装置9と、画像表示装置10」と合わせて本願補正発明の「前記静止側電子系統」に相当するものであり、引用発明において共にスキャナの固定枠側に配置される「第一の鉄心24a」と「インバータ2」とが直接又は間接的に機械的に結合されていることは明らかであるから、引用発明の「インバータ2の出力側に」「第一の巻線20a」が「接続され」た構成が、本願補正発明の「前記静止側電子系統は、前記回転変圧器の前記静止部分に電気的に且つ機械的に結合され」た構成に相当する。

(コ)引用発明において、「スキャナ回転部8のX線検出器7から検出信号を画像処理装置9へ送る手段」は、「巻線を組み合わせて電磁誘導作用を利用して」「検出信号」を「伝送する」ものであるから、無線通信を行うものであることは明らかであり、「X線検出器7から」「画像処理装置9へ送る」「検出信号」が「検出器16」で検出した画像データを含んでいることも明らかな技術事項である。
してみると、引用発明の「スキャナ回転部8のX線検出器7から検出信号を画像処理装置9へ送る手段は、巻線を組み合わせて電磁誘導作用を利用して伝送するようにした」構成と、本願補正発明の「前記回転側電子系統及び前記静止側電子系統は、前記回転変圧器を横断して送信された電力の周波数とは少なくとも二桁の大きさで異なる高い周波数の搬送周波数で変調されたデータを無線通信するように構成されており、前記データは、前記検出器アレイ(18)からの画像データを含んでいる」構成とは、「前記回転側電子系統及び前記静止側電子系統は、データを無線通信するように構成されており、前記データは、前記検出器アレイ(18)からの画像データを含んでいる」構成である点において共通する。

イ 一致点

よって、本願補正発明と引用発明とは、

「 対象(22)の画像を取得する計算機式断層写真法イメージング・システム(10)であって、
検出器アレイ(18)を備える回転式ガントリ(12)と、
静止側電子系統(110)と、
前記回転式ガントリと共に回転する回転側電子系統(112)と、
静止部分(103)及び回転部分(105)の両方を有する磁心(126)を備えた磁気結合型回転変圧器(102)とを含み、
前記磁心(126)は第1の溝に配置された電力巻線を備え、
さらにデータ巻線を備え、
前記回転側電子系統は、前記回転変圧器の前記回転部分に電気的に且つ機械的に結合され、前記静止側電子系統は、前記回転変圧器の前記静止部分に電気的に且つ機械的に結合され、
前記回転側電子系統及び前記静止側電子系統は、データを無線通信するように構成されており、前記データは、前記検出器アレイ(18)からの画像データを含んでいる、計算機式断層写真法イメージング・システム(10)。」

の発明である点で一致し、次の2点で相違する。

ウ 相違点

(ア)相違点1
データ巻線が、本願補正発明においては、電力巻線と共に磁心(126)の第1の溝に配置されているのに対し、引用発明においては「スキャナの固定枠」側のどの部分に配置されているのかが不明である点。

(イ)相違点2
前記回転側電子系統及び前記静止側電子系統で無線通信するデータが、本願補正発明においては、前記回転変圧器を横断して送信された電力の周波数とは少なくとも二桁の大きさで異なる高い周波数の搬送周波数で変調されるのに対し、引用発明においてはどのような搬送周波数で変調されるのかが不明であると共に前記回転変圧器を横断して送信された電力の周波数も不明である点。

(4)当審の判断

ア 上記各相違点について検討する。

(ア)相違点1について
a 引用発明2において、つぼ型のコア(2)の溝に配置されている1次コイル(3)が巻線(3a)及び巻線(3b)を有し、つぼ型のコア(4)の溝に配置されている2次コイル(5)が巻線(5a)及び巻線(5b)を有していることから、1次コイル(3)の巻線(3a)及び巻線(3b)はつぼ型のコア(2)の同じ溝に配置されており、2次コイル(5)の巻線(5a)及び巻線(5b)はつぼ型のコア(4)の同じ溝に配置されているといえる。
ここで、相違点1に係る本願補正発明の構成と引用発明2とを対比すると、引用発明2の「1次コイル(3)の巻線(3a)」及び「1次コイル(3)の巻線(3b)」がそれぞれ相違点1に係る本願補正発明の構成における「電力巻線」及び「データ巻線」に相当し、引用発明2のつぼ型のコア(2)及びつぼ型のコア(4)が相違点1に係る本願補正発明の構成における磁心(126)に相当し、引用発明2のつぼ型のコア(2)の溝が相違点1に係る本願補正発明の構成における第1の溝に相当する。
してみると、引用発明2は、相違点1に係る本願補正発明の構成である「データ巻線が」「電力巻線と共に磁心(126)の第1の溝に配置されている」構成を備えている。

b 引用発明と引用発明2とは、いずれも固定-回転装置間において電力及びデータの伝達を行う点で共通するものであるから、引用発明において引用発明2が備える上記相違点1おける本願補正発明に係る構成を採用することに格別の技術的困難性も特段の阻害要因もなく、当該採用により上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(イ)相違点2について
a 電力及びデータのような複数の信号を空間を介して同時に無線送信する技術において、データの搬送周波数と電力の搬送周波数とを異ならせなければならないことは、その性質上当然必要となる条件であり、その際に、信号分離の容易性等を考慮して搬送周波数を設定することは、本願優先日当時において周知である(必要であれば、特開平11-16755号公報の段落【0047】を参照のこと。)。
また、情報量の多いデータを変調して送信する際に、転送速度等を考慮して高い搬送周波数により変調することは普通に行われている技術事項である。
そして、データを変調する周波数と電力の周波数とをどの程度異ならせるかは、得られる効果の程度や回路設計の容易性等を考慮して設定し得る設計事項であり、引用発明において、画像処理装置9へ送るX線検出器7の検出信号を、電磁誘導送電手段19によって送信される電力の周波数とは少なくとも二桁の大きさで異なる高い周波数の搬送周波数で変調することに、格別の技術的困難性も特段の阻害要因もない。

b してみると、引用発明において上記周知技術に基づいて画像処理装置9へ送るX線検出器7の検出信号を変調する搬送周波数及び電磁誘導送電手段19によって送信される電力の搬送周波数を設定し、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易に想到し得ることである。

イ 本願補正発明の奏する作用効果

本願補正発明において、電力巻線及びデータ巻線の配置とデータを変調する搬送周波との間に特異的な関連性があるとも、電力の周波数とデータを変調する搬送周波との差に臨界的意義があるとも認められない。
よって、本願補正発明によってもたらされる効果は、引用発明、引用発明2及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものである。

ウ まとめ

以上のとおりであり、本願補正発明は、引用発明、引用発明2及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(5)補正の却下の決定のむすび

したがって、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるということができないから、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。


第3 本願発明について

1 本願発明

平成25年8月7日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成24年1月30日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記第2[理由]1の記載参照。)

2 引用例

原査定の拒絶の理由に引用された引用例の記載事項及び引用発明については、上記第2[理由]2の(2)引用例に記載したとおりである。

3 対比・判断

上記第2[理由]1に記載したように、本願発明の「イメージング・システム(10)」を「計算機式断層写真法」によるものに特定し、「回転式ガントリ(12)」を「検出器アレイ(18)を備え」たものに特定し、「前記回転変圧器を横断して送信された電力とは異なる周波数の搬送周波数で変調されたデータ」の「搬送周波数」を「電力の周波数とは少なくとも二桁の大きさで異なる高い周波数」に特定し、「無線通信」される「データ」を「前記検出器アレイ(18)からの画像データを含んでいる」ものに特定して限定したものが本願補正発明である。

そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、本願発明をさらに限定したものに相当する本願補正発明が、上記第2[理由]2の(3)及び(4)において記載したとおり、引用発明、引用発明2及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用発明、引用発明2及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび

以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。


よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-08-25 
結審通知日 2014-08-26 
審決日 2014-09-24 
出願番号 特願2006-209458(P2006-209458)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 南川 泰裕  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 渡戸 正義
右▲高▼ 孝幸
発明の名称 互いに対して相対的な運動を行なう装置の各部分の間で信号を通信する方法及び装置  
代理人 黒川 俊久  
代理人 田中 拓人  
代理人 小倉 博  
代理人 荒川 聡志  

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