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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1297606
審判番号 不服2013-20352  
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-10-18 
確定日 2015-02-12 
事件の表示 特願2007-240122号「極紫外線(EUV)フォトマスクのエッチング方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 3月27日出願公開、特開2008- 72127号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成19年9月14日(パリ条約による優先権主張2006年9月15日、米国)の出願であって、平成22年9月13日付けで手続補正がなされ、平成24年2月20日付で拒絶理由が通知され、同年8月24日付で意見書が提出されたが、平成25年6月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年10月18日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、請求と同時に同時に手続補正がなされ、その後、平成26年1月8日付けで、審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ、同年7月11日付けで回答書が提出されたものである。

2.平成25年10月18日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成25年10月18日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「基板と、多材料層と、キャップ層と、多層型吸収層をこの順序で備えるフォトマスクを提供する工程と、多層型吸収層はバルク吸収層上に配置された自己マスク層を備え、自己マスク層はタンタルと酸素を含み、バルク吸収層はタンタルを含み基本的に酸素を含まず、
フッ素含有ガスを含む第1エッチング処理を用いて自己マスク層をエッチングする工程と、
少なくとも1つの塩素含有処理ガスを含む第2エッチング処理を用いてバルク吸収層をエッチングする工程を含み、バルク吸収層のエッチング速度は第2エッチング処理中の自己マスク層のエッチング速度よりも大きい極紫外線フォトマスクのエッチング方法。」
と補正された。

本件補正は、平成22年9月13日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「第1エッチング処理」について「フッ素含有ガスを含む第1エッチング処理」と限定し、「第2エッチング処理」について「少なくとも1つの塩素含有処理ガスを含む第2エッチング処理」と限定するものであり、この補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反しないか)について検討する。

(2)引用例
(a)引用例1
本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2006-237192号公報(以下「引用例1」という。)には、以下の技術事項が記載されている。(下線は当審で付した。)

記載事項ア
「【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造等に使用される露光用反射型マスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体産業において、半導体デバイスの微細化に伴い、極紫外(Extreme Ultra Violet:以下、EUVと呼称する)光を用いた露光技術であるEUVリソグラフィが有望視されている。なお、ここで、EUV光とは、軟X線領域又は真空紫外線領域の波長帯の光を指し、具体的には波長が0.2?100nm程度の光のことである。この、EUVリソグラフィにおいて用いられるマスクとしては、たとえば下記特許文献1に記載された露光用反射型マスクが提案されている。
このような反射型マスクは、基板上に露光光を反射する多層反射膜が形成され、該多層反射膜上に露光光を吸収する吸収体膜がパターン状に形成されたものである。露光機(パターン転写装置)に搭載された反射型マスクに入射した光は、吸収体膜のある部分では吸収され、吸収体膜のない部分では多層反射膜により反射された光が反射光学系を通して半導体基板上に転写される。
【0003】
また、下記特許文献2には、マスクパターンの検査精度の向上を図るため、EUV光等の短波長域の露光光の吸収体で構成する露光光吸収体層を下層とし、マスクパターンの検査に使用する検査光の吸収体で構成する低反射率層を上層とする少なくとも二層構造からなる吸収体膜を備えた反射型マスクが提案されている。
上記多層反射膜としては、例えば13?14nmのEUV光を反射するものとして、数nmの厚さのMoとSiを交互に40乃至60周期程度積層させたものなどが知られている。そして、反射率を高めるためには、屈折率の大きなMo膜を最上層とする方が望ましいが、Moは大気に触れると酸化されやすく、その結果、反射率が低下してしまうので、酸化防止のための保護膜として、例えばSi膜を最上層に設けることが行われている。
また、下記特許文献2には、多層反射膜と吸収体膜パターンとの間に、吸収体膜のエッチング時における多層反射膜表面の損傷を防止するため、バッファ膜が形成された反射型マスクについても記載されている。」

記載事項イ
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記反射型マスクは次のようにして製造される。
先ず、基板上に、多層反射膜と吸収体膜をこの順に形成した反射型マスクブランクを用意する。この反射型マスクブランクの吸収体膜上にレジスト層を形成し、パターン描画、現像を行って、所定のレジストパターンを形成する。
次に、上記レジストパターンをマスクとして、吸収体膜をエッチングして吸収体膜パターンを形成する。多層反射膜と吸収体膜との間に前記バッファ膜を設けた場合には、通常は、上述の吸収体膜パターンを形成後、露出したバッファ膜についても、吸収体膜パターンに従ってエッチングにより除去して、マスクの反射領域となる多層反射膜表面を露出させる。尚、バッファ膜を設けることにより、上述の吸収体膜のパターン形成時だけでなく、パターン修正時の多層反射膜へのダメージが防止されるため、吸収体膜のパターン形成やパターン修正が容易となるので好ましい。
以上のようにして反射型マスクが出来上がる。
【0006】
ところで、反射型マスクにおける吸収体膜としては、露光光である例えばEUV光を吸収する機能を有するもので、タンタル(Ta)単体又はTaを主成分とする材料が好ましく使用される。また、バッファ膜としては、吸収体膜がタンタル系の材質の場合、それとはエッチング特性の異なるクロム(Cr)を含む材料が好ましく使用される。
従来のクロム系バッファ膜の膜厚は、吸収体膜のパターン形成時やパターン修正時の多層反射膜へのダメージを防止する観点から、20?50nm程度であった。このような膜厚を有するクロム系バッファ膜、たとえば窒化クロム(CrN)膜を吸収体膜パターンに従って除去するため、ドライエッチングによりエッチングする際、パターンの周辺部が残渣として残りやすく、パターン転写の際に転写像に影響するという問題があった。もし、この残渣を完全に取り除くためにバッファ膜をオーバーエッチングすると、オーバーエッチング時間が長いほど下層の多層反射膜へのダメージが大きくなり反射率の低下が大きくなる。従って、残渣が出来るだけ残らないように、また仮に残渣として残ったとしても転写像に影響しないようにするためには、バッファ膜を薄膜化することが必要である。
【0007】
しかしながら、バッファ膜の膜厚を薄くした場合、吸収体膜のパターン形成時やパターン修正時の多層反射膜へのダメージを防止する機能が損われる。例えば、吸収体膜パターンの修正に集束イオンビーム(Focussed Ion Beam:FIB)を使用した場合、バッファ膜の膜厚が薄いと、イオンの打ち込みによって多層反射膜へダメージを与えてしまう。従って、バッファ膜の機能を考えた場合、バッファ膜の膜厚は厚い方が望ましく、上述の薄膜化を達成することは困難である。
【0008】
また、上記特許文献2に記載されているような、吸収体膜が、EUV光等の短波長域の露光光の吸収体で構成する露光光吸収体層を下層とし、マスクパターンの検査に使用する検査光の吸収体で構成する低反射率層を上層とする積層構成の場合、例えば、EUV光の吸収体であるTaBN層の上に、波長257nmの検査光に対して低反射化する目的でTaBO層を積層した吸収体膜をドライエッチングするときに、エッチング制御性の観点からは、上層と下層のエッチングレートは出来るだけ近い、即ち上層と下層のエッチングレート比が1に近いことが望ましい。しかしながら、従来単層のTa系吸収体膜のドライエッチングには一般的に塩素系のガスが用いられており、この塩素系ガスを用いて上述の積層構成の吸収体膜をドライエッチングした場合、TaBO層に対するTaBN層のエッチングレートが極めて大きく(TaBO層のエッチングレートに対して、TaBN層のエッチングレートは約20倍も大きい)、エッチング制御が非常に難しく、そのためパターン線幅の面内分布のばらつきが大きいという問題が生じる。さらに、塩素系ガスを用いた場合、吸収体膜の一部であるTaBO層のエッチングレートが小さいため、エッチングパラメーターとしての基板バイアスを高バイアス条件にする必要があり、吸収体膜をオーバーエッチングすると、バッファ膜へのダメージも大きくなる。従って、この観点からも、バッファ膜の膜厚は厚い方が望ましい。
尚、この場合、吸収体膜の各層で最適なエッチングガスを選択してドライエッチングする方法も考えられるが、製造工程が煩雑になり生産性が悪くなるという問題が生じる。
【0009】
以上説明したように、バッファ膜は、エッチング時の残渣による転写像への影響を無くす観点からは、膜厚は薄い方が望ましいが、吸収体膜、特に積層構成の吸収体膜のエッチング時や吸収体膜パターンの修正時の多層反射膜へのダメージを防止する観点からは、膜厚が厚い方が望ましく、そのため従来の反射型マスクの製造プロセスにおいては、いずれかを犠牲にせざるを得なかった。
そこで本発明の目的は、第一に、積層構成のタンタル系吸収体膜のエッチング制御性や面内均一性(パターン線幅、バッファ膜へのダメージの程度等)を改善した反射型マスクの製造方法を提供することであり、第二に、多層反射膜と吸収体膜との間に設けるクロム系バッファ膜を薄膜化することができる反射型マスクの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
(構成1)基板と、該基板上に形成された露光光を反射する多層反射膜と、該多層反射膜上に形成された露光光を吸収する吸収体膜とを有する反射型マスクブランクを準備し、前記吸収体膜上に、被転写体に対する転写パターンとなる吸収体膜パターンを形成するためのレジストパターンを形成し、該レジストパターンをマスクとして前記吸収体膜をエッチングする工程を含む吸収体膜パターン形成工程を有する反射型マスクの製造方法であって、前記吸収体膜が、極端紫外線領域を含む短波長域の露光光の吸収体で構成する露光光吸収体層を下層とし、マスクパターンの検査に使用する検査光の吸収体で構成する低反射率層を上層とする少なくとも二層からなり、前記上層及び下層は何れもタンタル(Ta)を主成分とする材料からなり、前記吸収体膜をエッチングする工程において、同一ドライエッチングガスを使用し、前記吸収体膜を構成する各層のエッチングレート比が0.1?10の範囲であることを特徴とする反射型マスクの製造方法である。
【0011】
構成1によれば、吸収体膜が、極端紫外線領域を含む短波長域の露光光の吸収体で構成する露光光吸収体層を下層とし、マスクパターンの検査に使用する検査光の吸収体で構成する低反射率層を上層とする少なくとも二層からなり、前記上層及び下層は何れもタンタル(Ta)を主成分とする材料からなり、このような積層構成からなる吸収体膜を同一エッチングガスを使用してドライエッチングしたときに、吸収体膜を構成する各層のエッチングレート比が0.1?10の範囲であることにより、積層構成のタンタル系吸収体膜のエッチング制御性を改善することができ、そのためパターン線幅やバッファ膜へのダメージの程度等の面内均一性を改善することができる。」

記載事項ウ
「【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施の形態により詳細に説明する。
図1は本発明の反射型マスクの製造方法に用いる反射型マスクブランクの断面図、図2は本発明により得られる反射型マスクの断面図である。また、図3は本発明の反射型マスクの製造方法に係る概略工程を示す断面図である。
本発明の反射型マスクの製造方法に用いる反射型マスクブランクは、図1に示すように構成されている。すなわち、基板11上に、順に、EUV領域を含む短波長域の露光光を反射する多層反射膜12、マスクパターン形成時及びマスクパターン修正時に該多層反射膜12を保護するバッファ膜13、及びEUV領域を含む短波長域の露光光を吸収する吸収体膜16を有してなり、この吸収体膜16は、本実施形態では下層をEUV領域を含む短波長域の露光光吸収体層14とし、上層をマスクパターンの検査に使用する検査光に対する低反射層15とした二層構造で構成された反射型マスクブランク1である。」

記載事項エ
「【0022】
バッファ膜13は、前述したように吸収体膜16にマスクパターンを形成する際に下層の多層反射膜12がエッチングによるダメージを受けないようにこれを保護することを目的として設けられる。したがってバッファ膜13の材料としては、吸収体膜16とエッチング特性の異なる、つまり吸収体膜16とのエッチング選択比が大きい材料が選択される。バッファ膜と吸収体膜のエッチング選択比は5以上、好ましくは10以上、さらに好ましくは20以上である。更に、低応力で、平滑性に優れた材料が好ましく、とくに0.3nmRms以下の平滑性を有していることが好ましい。このような観点から、バッファ膜を形成する材料は、微結晶あるいはアモルファス構造であることが好ましい。
本発明では、吸収体膜16の材料には、タンタル(Ta)を含む材料が用いられている。吸収体膜の材料にTa系の材料を用いた場合、バッファ膜としては、クロム(Cr)を含有する材料を用いるのが好ましい。例えば、Cr単体や、Crに窒素、酸素、炭素の少なくとも1つの元素が添加された材料が挙げられる。具体的には、窒化クロム(CrN)等である。
【0023】
バッファ膜13の膜厚は出来るだけ薄いことが望ましい。なぜなら、前述したように、バッファ膜を吸収体膜パターンに従ってエッチングにより除去する際に、残渣が出来るだけ残らないように、また仮に残渣として残ったとしても転写像に影響しないようにすることができるからである。また、バッファ膜の膜厚が薄いと、上述のようにパターン状に除去しなくても反射率低下を抑えることができる場合は、バッファ膜の除去工程を省くことができるからである。さらには、図2を参照すると明らかなように、バッファ膜13の膜厚が大きいと、多層反射膜12表面と吸収体膜16表面との高さの差が大きくなり、約5度程度の入射角を有するEUV露光の光路の関係からマスクパターンのエッジ部分がぼやけるという不具合が発生するためである。本発明においては、このバッファ膜13の膜厚は、2nm?10nmの範囲とするのが好ましい。このバッファ膜13の成膜は、マグネトロンスパッタ法、イオンビームスパッタ法など周知の成膜方法を用いて行うことができる。」

記載事項オ
「【実施例】
【0038】
以下、実施例により、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。
(実施例1)
使用する基板は、SiO_(2)-TiO_(2)系のガラス基板(6インチ角、厚さが6.3mm)である。この基板の熱膨張係数は0.2×10^(-7)/℃、ヤング率は67GPaである。そして、このガラス基板は機械研磨により、0.2nmRms以下の平滑な表面と、100nm以下の平坦度に形成した。
基板上に形成される多層反射膜は、13?14nmの露光光波長帯域に適した多層反射膜とするために、Mo膜/Si膜周期多層反射膜を採用した。即ち、多層反射膜は、MoターゲットとSiターゲットを使用し、イオンビームスパッタリングにより基板上に交互に積層して形成した。Si膜を4.2nm、Mo膜を2.8nm、これを一周期として、40周期積層した後、最後に保護膜としてSi膜を3.5nm成膜した。この多層反射膜に対し、13.5nmのEUV光を入射角6.0度で反射率を測定したところ、反射率は63.5%であった。
【0039】
次に、上述のようにして得られた多層反射膜付き基板の多層反射膜上に、バッファ膜を形成した。バッファ膜は、窒化クロム膜を10nmの厚さに形成した。クロム(Cr)ターゲットを用いて、スパッタガスとしてアルゴン(Ar)と窒素(N_(2))の混合ガスを用いてDCマグネトロンスパッタリング法によって成膜した。成膜されたCrNx膜において、窒素(N)は10at%(x=0.1)とした。
【0040】
次に、このバッファ膜上に、吸収体膜下層の露光光吸収体層として、TaとBとNを含む材料を65nmの厚さで形成した。即ち、Ta及びBを含むターゲットを用いて、アルゴン(Ar)に窒素(N_(2))を10体積%添加して、DCマグネトロンスパッタリング法によって成膜した。成膜したTaBN膜の組成比は、Taが80at%、Bが10at%、Nが10at%であった。
この露光光吸収体層の上にさらに低反射層として、TaとBとOを含む材料を15nmの厚さで形成した。即ち、Ta及びBを含むターゲットを用いて、アルゴン(Ar)に酸素(O_(2))を30体積%添加して、DCマグネトロンスパッタリング法によって成膜した。成膜したTaBO膜の組成比は、Taが40at%、Bが10at%、Oが50at%であった。尚、上記露光光吸収体層と低反射層の成膜は同一成膜室内で同一ターゲットを用い、ガスの種類を途中で切り換えて連続的に行った。
以上のようにして本実施例で使用する反射型マスクブランクを作製した。
【0041】
次に、この反射型マスクブランクを用いて、デザインルールが0.07μmの16Gbit-DRAM用のパターンを有するEUV露光用反射型マスクを以下のように作製した。
まず、上記反射型マスクブランク上に電子線描画用レジスト層(3000Å)を形成し、電子線描画と現像により所定のレジストパターンを形成した。
このレジストパターンをマスクとして、ICP(Inductively Coupled Plasma)型のドライエッチング装置を用いて、積層構成の吸収体膜をドライエッチングし、吸収体膜に転写パターンとなる吸収体膜パターンを形成した。このとき、エッチングガスとして、CHF_(3)ガスとArガスの混合ガスを使用し、CHF_(3)ガスとArガスの流量比、ドライエッチング時のガス圧、ICPパワー、バイアスを適宜調整して吸収体膜をドライエッチングした。吸収体膜をドライエッチングした際の、TaBO層のエッチングレートは141Å/分、TaBN層のエッチングレートは68Å/分であり、TaBN層に対するTaBO層のエッチングレート比(TaBO層のエッチングレート/TaBN層のエッチングレート)は2.07であった。また、レジスト層に対する吸収体膜のエッチング選択比は0.57、バッファ膜に対する吸収体膜のエッチング選択比は40以上であった。尚、吸収体膜のエッチング後のCrNバッファ膜の膜厚について調べたところ、膜損失は見られなった。
【0042】
残存するレジストパターンを酸素アッシングにより除去し、洗浄した後、形成された吸収体膜パターンを波長257nmの光を使用するマスク検査機によって検査した結果、エッチング不足欠陥(黒欠陥)が確認された。そこで、この検査結果に基づいて吸収体膜パターンの修正を行った。即ち、上記黒欠陥部分に電子ビームを照射して残留部分を除去した。尚、修正後のCrNバッファ膜の状態について原子間力顕微鏡(AFM)及び断面TEM観察を行ったところ、修正箇所におけるバッファ膜の膜厚は約1?2nm消失していた。
【0043】
次に、塩素(Cl_(2))と酸素(O_(2))の混合ガス(塩素(Cl_(2))と酸素(O_(2))の混合比(流量比)は8:2)を用いて、反射領域上(吸収体膜のパターンのない部分)のバッファ膜を吸収体膜のパターンに従ってドライエッチングして除去し、多層反射膜を露出させ、反射型マスクを得た。
上記マスク検査機を用いて、得られた反射型マスクの最終確認検査を行ったところ、デザインルールが0.07μmの16Gbit-DRAM用のパターンを設計通りに形成できていることが確認できた。また、反射領域におけるEUV光の反射率は、多層反射膜付き基板で測定した反射率と同じく63.5%であった。
【0044】
次に、得られた本実施例の反射型マスクを用いて、図4に示す半導体基板上へのEUV光によるパターン転写装置による露光転写を行った。
反射型マスクを搭載したパターン転写装置50は、レーザープラズマX線源32、縮小光学系33等から概略構成される。縮小光学系33は、X線反射ミラーを用いている。縮小光学系33により、反射型マスク20で反射されたパターンは通常1/4程度に縮小される。尚、露光波長として13?14nmの波長帯を使用するので、光路が真空中になるように予め設定した。
このような状態で、レーザープラズマX線源32から得られたEUV光を反射型マスク20に入射し、ここで反射された光を縮小光学系33を通してシリコンウエハ(レジスト層付き半導体基板)34上に転写した。
以上のようにして半導体基板上へのパターン転写を行ったところ、本実施例の反射型マスクの精度は70nmデザインルールの要求精度である16nm以下であることが確認できた。」

上記記載事項ウ、オの記載内容からして、引用例には、
「基板上に、順に、EUV領域を含む短波長域の露光光を反射するMo膜/Si膜周期多層反射膜、マスクパターン形成時及びマスクパターン修正時に該Mo膜/Si膜周期多層反射膜を保護するバッファ膜、及びEUV領域を含む短波長域の露光光を吸収する吸収体膜を有してなり、この吸収体膜は、下層をTaBN膜からなるEUV領域を含む短波長域の露光光吸収体層とし、上層をTaBO膜からなるマスクパターンの検査に使用する検査光に対する低反射層とした二層構造で構成された反射型マスクブランクを作製し、
この反射型マスクブランク上に電子線描画用レジスト層を形成し、電子線描画と現像により所定のレジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクとして、エッチングガスとしてCHF_(3)ガスとArガスの混合ガスを使用して、積層構成の吸収体膜をドライエッチングし、吸収体膜に転写パターンとなる吸収体膜パターンを形成し、EUV露光用反射型マスクを作製する方法。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(b)引用例2
本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2004-39884号公報(以下「引用例2」という。)には、以下の技術事項が記載されている。(下線は当審で付した。)

記載事項カ
「【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上述した吸収体層への転写パターンの形成においては、有機物質からなるレジストを使用するが、このようなレジストは一般にドライエッチング耐性が低く、吸収体層のパターン形成時にレジスト膜が損傷を受けるため、レジスト層は、ある一定以上の膜厚(通常500nmから800nm程度)が必要であった。
ところが、マスクに要求されるパターンの線幅が細くなると、このような厚いレジストに細いパターンを形成するのは、次の点で困難になってきた。
すなわち、第一にレジストの垂直方向の形状精度が取り難く、吸収体パターンの形状精度が悪化する。第二にエッチングガスがレジストパターンの細い通路に供給されにくく、又、エッチングにより発生したガスも滞留しやすいため、線幅の狭い部分でエッチングの反応が進みにくい。従って、線幅の広い部分と、狭い部分でのエッチング速度に差が出てしまい、マスク面内で均一なエッチングが行えない。
このような点から、従来の厚いレジストを使用すると、例えば、解像度0.1μm以下というような線幅の細いパターンの形成が困難であるという問題があった。
【0006】
一方、上述した吸収体層のパターンの検査においては、吸収体層が除去された部分に露出したバッファ層表面或いは、バッファ層が除去されて露出した多層反射膜表面と、吸収体層が残っている部分の吸収体層表面の間で上述した検査光による検査がなされることになる。
そのため、検査光の波長に対するバッファ層表面或いは多層反射膜表面と吸収体層表面との反射率の差が小さいと、検査時のコントラストが悪くなり、正確な検査が行えないという問題があった。
そこで、本発明は上述の課題を解決するために案出されたものであり、吸収体層に微細なパターンを形状精度よく形成でき、パターン検査において十分なコントラストが得られ、高精度のパターン転写が可能な反射型マスク及び反射型マスクブランクスを得る事を目的としたものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本出願人は、上記パターン検査時のコントラストの課題に対し、吸収体層を積層構造とし、その最上層をパターン検査に使用する光に対して反射率の低い材料からなる低反射層とする構成の反射型マスク及び反射型マスクブランクスを先に提案した(特願2002-108808)。
本発明者らは、この反射型マスクを更に改良し、上記低反射層に所定の特性を有する材料を使用することにより、低反射層に、それより下層の吸収体層にパターン形成をする際の無機エッチングマスク層の機能を兼ね備えることができることを見出した。そして、低反射層を薄い無機エッチングマスク層として機能させることにより、上記課題が解決できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明の反射型マスクブランクスは、基板と、該基板上に順次形成された、露光光を反射する多層反射膜及び露光光を吸収する吸収体層を備えた反射型マスクブランクスであって、前記吸収体層は、少なくとも最上層と、それ以外の下層とからなる積層構造となっており、前記最上層は、前記吸収体層に形成された吸収体層のパターンの検査に使用する検査波長の光に対する反射率が20%以下であり、かつ下層へのパターン形成の際のエッチング条件に対し耐性を有する無機材料で形成されていることを特徴とする。
また、本発明の反射型マスクブランクスは、基板と、基板上に順次形成された、露光光を反射する多層反射膜及び露光光を吸収する吸収体層を備えた反射型マスクブランクスであって、前記吸収体層は、少なくとも最上層と、それ以外の下層とからなる積層構造となっており、前記最上層は、前記吸収体層に形成された吸収体層のパターンの検査に使用する検査波長の光において、前記吸収体層の直下の層に対する下記の式で示されるコントラスト値が40%以上であり、かつ下層へのパターン形成の際のエッチング条件に対し耐性を有する無機材料で形成されていることを特徴とする。
(式)コントラスト値(%)=(R_(2)-R_(1))/(R_(2)+R_(1))×100
(ただし、R_(1)は検査波長の光に対する最上層表面の反射率、R_(2)は吸収体層直下の層表面の反射率)」

記載事項キ
「【0018】
以下、各層の材料の選択につき説明する。
まず、バッファ層がない場合には、最上層に求められる最低条件は、吸収体パターンの検査光に対して低反射率を有すること、吸収体層の下層のエッチング条件に耐性を有すること、及び最上層へのマスクパターン形成時のエッチング条件において下層がエッチングされない(下層が最上層のエッチング条件に耐性を有する)ことである。従って、まず、吸収体層の最上層と下層は、全く異なるエッチング特性を有しているものが好ましい。吸収体層の下層として、例えばTaを含む材料を使用した場合には、通常、塩素ガスを用いたドライエッチングでパターン形成されるため、最上層は、塩素エッチングに対して耐性を有する材料であり、かつTaを含む材料が耐性を有しているエッチング条件でエッチングが可能である材料から選択される。このような材料としては、例えば、Siを含む材料、Crを含む材料が挙げられる。このような材料のうち、吸収体層のパターン検査に用いる検査波長の光に対し、十分低い反射率を有する材料が選択され、例えば、SiON、金属とシリコンの合金の酸窒化物(例えばMoSiON)、クロムの酸化物(CrO),クロムの酸窒化物(CrON)等が用いられる。
また、吸収体層の下層として、Crを含む材料を使用した場合には、通常、塩素と酸素の混合ガスを用いたドライエッチングでパターン形成されるため、最上層は、塩素と酸素の混合ガスのエッチングに対して耐性を有する材料であり、かつCrを含む材料が耐性を有しているエッチング条件でエッチングが可能である材料から選択される。このような材料としては、例えば、Siを含む材料、Taを含む材料が挙げられる。このような材料のうち、吸収体層のパターン検査に用いる検査波長の光に対し、十分低い反射率を有する材料が選択され、例えば、SiON、金属とシリコンの合金の酸窒化物(例えばMoSiON)、タンタルの酸化物(TaO),タンタルの酸窒化物(TaON)、タンタルホウ素合金の酸化物(TaBO),タンタルホウ素合金の酸窒化物(TaBNO)、タンタルとシリコンの酸窒化物(TaSiON)等が用いられる。
【0019】
このように最上層として、金属又は合金(例えば、Siとの合金やBとの合金)の酸化物、窒化物、酸窒化物等が好ましく用いられる。最上層の材料は、上述した吸収体層下層とのエッチングの関係が満たされるよう、吸収体下層の材料との関係で選択すればよい。このうち、金属の酸化物、窒化物の場合、一般に、窒素又は酸素の量が多くなるほど、検査波長に対する反射率は低下するため、酸素又は窒素の量を調整することで、最上層の検査波長に対する反射率をある程度コントロールすることができる。又、金属とシリコンの合金の酸窒化物は、反射率が低い検査光の波長帯域が比較的広く、検査光の変更にも柔軟に対応できる点、膜厚の差による反射率の変化が小さい点で好ましい。
また、多層反射膜と吸収体層の間にバッファ層がある場合には、最上層には前述の条件のほかに、更に次の特性が求められる。すなわち、バッファ層にパターンを形成する際のエッチング条件に耐性を有することである。例えば、バッファ層にCrを含む材料を使用した場合、一般に、そのエッチングには、酸素と塩素を含むガスが用いられる。従って、吸収体層の最上層は、酸素と塩素の混合ガスに対する耐性を有する必要がある。このような材料としては例えば、Siを含む材料(金属とシリコンの合金の酸窒化物)、Zrを含む材料,Taを含む材料,Tiを含む材料等が挙げられる。具体的には、TaとZrの合金(TaZr),TaとZrの合金の窒化物(TaZrN),窒化チタン(TiN)やこれらの酸化物等が挙げられる。」

記載事項ク
「【0023】
次に、本実施形態の反射型マスクの製造工程及びパターンの検査につき、バッファ層を有する場合を例にとり説明する。
本実施形態の反射型マスクブランクスは、基板上に順次、多層反射膜、バッファ層、下層と最上層2層からなる吸収体層の各層を形成することで得られる。各層の材料及び形成方法については上述した通りである。以下、バッファ層がクロムを含む材料、吸収体層下層がTaを含む材料、吸収体層最上層がSiを含む材料の場合につき説明する。
上記のように得られた反射型マスクブランクスの吸収体層(最上層及び下層)に吸収体パターンを形成する。まず、吸収体層の最上層上にEB(電子線照射用)レジストを塗布し、ベーキングを行う。次に、EB描画機を用いて描画しこれを現像して、レジストにパターンを形成する。レジストとしては、EBレジスト以外に、化学増幅レジストを用いることができる。
次に、レジストパターンに従って、吸収体層の最上層にフッ素系ガス(SF_(6))を用いてエッチングを行い、最上層にエッチングマスクパターンを形成する。その後、熱濃硫酸を用いて最上層上のレジストを除去する。
更に、最上層に形成されたエッチングマスクパターンをマスクとして、吸収体層下層を塩素を用いてドライエッチングを行い、吸収体パターンを形成する。本発明では、厚さの薄い吸収体層最上層をエッチングマスクとして、吸収体層下層のパターニングを行うので、線幅の狭いパターンであっても形状精度よくパターニングを行うことができる。」

(3)対比
本願補正発明と引用発明を対比する。
(a)引用発明の「基板」、「Mo膜/Si膜周期多層反射膜」、「Mo膜/Si膜周期多層反射膜を保護するバッファ膜」、「二層構造で構成された」「吸収体膜」は、それぞれ本願補正発明の「基板」、「多材料層」、「キャップ層」、「多層型吸収層」に相当する。そうすると、引用発明の「基板上に、順に、EUV領域を含む短波長域の露光光を反射するMo膜/Si膜周期多層反射膜、マスクパターン形成時及びマスクパターン修正時に該Mo膜/Si膜周期多層反射膜を保護するバッファ膜、及びEUV領域を含む短波長域の露光光を吸収する吸収体膜を有してなり、この吸収体膜は、下層をTaBN膜からなるEUV領域を含む短波長域の露光光吸収体層とし、上層をTaBO膜からなるマスクパターンの検査に使用する検査光に対する低反射層とした二層構造で構成された反射型マスクブランクを作製」することは、本願補正発明の「基板と、多材料層と、キャップ層と、多層型吸収層をこの順序で備えるフォトマスクを提供する工程」に相当する。

(b)引用発明の「TaBN膜からなるEUV領域を含む短波長域の露光光吸収体層」は、タンタルを含み酸素を含まないから、本願補正発明の「タンタルを含み基本的に酸素を含ま」ない「バルク吸収層」に相当し、引用発明の「TaBO膜からなるマスクパターンの検査に使用する検査光に対する低反射層」は、タンタルと酸素を含んでいるから、本願補正発明の「タンタルと酸素を含」む「自己マスク層」に相当する。そうすると、引用発明の「この吸収体膜は、下層をTaBN膜からなるEUV領域を含む短波長域の露光光吸収体層とし、上層をTaBO膜からなるマスクパターンの検査に使用する検査光に対する低反射層とした二層構造で構成され」ていることは、本願補正発明の「多層型吸収層はバルク吸収層上に配置された自己マスク層を備え、自己マスク層はタンタルと酸素を含み、バルク吸収層はタンタルを含み基本的に酸素を含ま」ないことに相当する。

(c)引用発明の「この反射型マスクブランク上に電子線描画用レジスト層を形成し、電子線描画と現像により所定のレジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクとして、エッチングガスとしてCHF_(3)ガスとArガスの混合ガスを使用して、積層構成の吸収体膜をドライエッチングし、吸収体膜に転写パターンとなる吸収体膜パターンを形成する」ことと、本願補正発明の「フッ素含有ガスを含む第1エッチング処理を用いて自己マスク層をエッチングする工程と、少なくとも1つの塩素含有処理ガスを含む第2エッチング処理を用いてバルク吸収層をエッチングする工程を含」むことは、「エッチング処理を用いて多層型吸収層をエッチングする工程を含」む点で共通している。

(d)引用発明の「積層構成の吸収体膜をドライエッチングし、吸収体膜に転写パターンとなる吸収体膜パターンを形成し、EUV露光用反射型マスクを作製する方法」は、本願補正発明の「極紫外線フォトマスクのエッチング方法」に相当する。

上記(a)ないし(d)に記載したことからして、本願補正発明と引用発明は、
「基板と、多材料層と、キャップ層と、多層型吸収層をこの順序で備えるフォトマスクを提供する工程と、多層型吸収層はバルク吸収層上に配置された自己マスク層を備え、自己マスク層はタンタルと酸素を含み、バルク吸収層はタンタルを含み基本的に酸素を含まず、
エッチング処理を用いて多層型吸収層をエッチングする工程を含む、極紫外線フォトマスクのエッチング方法。」
である点で一致し、次の各点で相違する。

相違点
エッチング処理を用いて多層型吸収層をエッチングする工程が、本願補正発明では、フッ素含有ガスを含む第1エッチング処理を用いて自己マスク層をエッチングする工程と、少なくとも1つの塩素含有処理ガスを含む第2エッチング処理を用いてバルク吸収層をエッチングする工程を含み、バルク吸収層のエッチング速度は第2エッチング処理中の自己マスク層のエッチング速度よりも大きいのに対し、引用発明では、エッチングガスとしてCHF_(3)ガスとArガスの混合ガスを使用して、積層構成の吸収体膜をドライエッチングしている点。

(4)当審の判断
上記相違点について検討する。
引用例2には、吸収体層を積層構造とし、その最上層をパターン検査に使用する光に対して反射率の低い材料からなる低反射層とする構成の反射型マスクにおいて、低反射層に所定の特性を有する材料を使用し、低反射層を、それより下層の吸収体層にパターン形成をする際の無機エッチングマスク層として機能させることにより、線幅の狭いパターンであっても形状精度よくパターニングできることが記載(上記記載事項カ、ク参照)されており、最上層に求められる最低条件としては、吸収体パターンの検査光に対して低反射率を有すること、吸収体層の下層のエッチング条件に耐性を有すること、及び最上層へのマスクパターン形成時のエッチング条件において下層がエッチングされない(下層が最上層のエッチング条件に耐性を有する)ことが記載(上記記載事項キ参照)されている。そして、引用発明は、吸収体層を積層構造とし、その最上層をパターン検査に使用する光に対して反射率の低い材料からなる低反射層とする構成の反射型マスクに関する発明であるから、より線幅の狭いパターンであっても形状精度よくパターニングするために、引用発明の「吸収体膜」の最上層である「低反射層」を下層の吸収体層にパターン形成する際の無機エッチングマスク層として機能させることができるかどうかについて検討する。
まず、上記最上層に求められる最低条件の一つ目の条件「吸収体パターンの検査光に対して低反射率を有すること」については、引用発明の「低反射層」は、吸収体パターンの検査光に対して低反射率を有することは自明なことであるから上記一つ目の条件を満たしているといえる。次に二つ目の条件「吸収体層の下層のエッチング条件に耐性を有すること」については、引用例1には、「塩素系ガスを用いて上述の積層構成の吸収体膜をドライエッチングした場合、TaBO層に対するTaBN層のエッチングレートが極めて大きく(TaBO層のエッチングレートに対して、TaBN層のエッチングレートは約20倍も大きい)」(上記記載事項イの【0008】参照)ことが記載されているから、塩素系ガスを用いて引用発明の「TaBN膜からなる」「露光光吸収体層」をエッチングする場合には、引用発明の「TaBO膜からなる」「低反射層」は、「TaBN膜からなる」「露光光吸収体層」に比べてエッチング条件に耐性を有することは明らかであり、上記二つ目の条件を満たしているといえる。次に三つ目の条件「最上層へのマスクパターン形成時のエッチング条件において下層がエッチングされない(下層が最上層のエッチング条件に耐性を有する)こと」については、引用例1には、「エッチングガスとして、CHF_(3)ガスとArガスの混合ガスを使用し、CHF_(3)ガスとArガスの流量比、ドライエッチング時のガス圧、ICPパワー、バイアスを適宜調整して吸収体膜をドライエッチングした。吸収体膜をドライエッチングした際の、TaBO層のエッチングレートは141Å/分、TaBN層のエッチングレートは68Å/分であり、TaBN層に対するTaBO層のエッチングレート比(TaBO層のエッチングレート/TaBN層のエッチングレート)は2.07であった。」(上記記載事項オの【0041】参照)と記載されているから、CHF_(3)ガスとArガスの混合ガスを用いて引用発明の「TaBO膜からなる」「低反射層」をエッチングする場合には、引用発明の「TaBN膜からなる」「露光光吸収体層」は、「TaBO膜からなる」「低反射層」に比べてエッチング条件に耐性を有することは明らかであり、上記三つ目の条件を満たしているといえる。
そうすると、引用発明の「TaBO膜からなる」「低反射層」のエッチングにCHF_(3)ガスとArガスの混合ガスを用い、「TaBN膜からなる」「露光光吸収体層」のエッチングに塩素系ガスを用いた場合には、引用発明は引用例2に記載された最上層に求められる最低条件を満たしているといえるから、引用例2に接した当業者であれば、より線幅の狭いパターンであっても形状精度よくパターニングするために、引用発明の「TaBO膜からなる」「低反射層」をエッチングする際には、CHF_(3)ガスとArガスの混合ガスを使用してエッチングを行い、下層の「TaBN膜からなる」「露光光吸収体層」をエッチングする際には、塩素系ガスを用いてエッチングを行い、その際に「TaBO膜からなる」「低反射層」を無機エッチングマスク層として機能させるようにすることは当業者であれば容易になし得ることである。そして、引用発明の「TaBN膜からなる」「露光光吸収体層」を塩素系ガスを用いてエッチングする場合、引用発明の「TaBN膜からなる」「露光光吸収体層」のエッチングレートは「TaBO膜からなる」「低反射層」のエッチングレートより約20倍も大きいのであるから、引用発明の「TaBN膜からなる」「露光光吸収体層」のエッチング速度は、「TaBO膜からなる」「低反射層」のエッチング速度よりも大きいことは自明なことである。
したがって、上記相違点にかかる本願補正発明の発明特定事項を得ることは当業者であれば容易になし得ることである。
また、本願補正発明の効果は、引用発明、引用例1、2に記載された事項から予測し得る範囲内のものであり、格別のものとは認め難い。

なお、請求人は平成26年7月11日付けの回答書において、「引用文献1において、吸収体膜の各層を最適なエッチングガスを選択してドライエッチングする方法を用いなかったのは、微細パターンの形状精度を重視する代わりに、生産性を重視したためではなく、引用文献1に記載の方法を用いることにより、すでに所望の微細パターンの形状精度を達成できており、吸収体膜の各層を最適なエッチングガスを選択してドライエッチングすることによって、敢えて製造工程を煩雑にして生産性を悪くすることに何のメリットも無かったためである。したがって、引用文献1を知る当業者が、引用文献2に記載の技術を組み合わせて、タンタル系の多層型吸収層を有する極紫外線フォトマスクにおいて、上層の低反射率層を無機エッチングマスク層(自己マスク層)として用いるようにする動機は起こり得ない。」と主張しているが、引用発明は上層と下層からなる二層構造で構成された吸収体膜を同一エッチングガスを使用してドライエッチングするものであるため、上層と下層のエッチングレート比が大きすぎるとエッチング制御が難しく、上層と下層のエッチングレート比が1に近いことが望ましいものであるが(上記記載事項イの【0008】参照)、上層と下層のエッチングレート比を1に近い値としても、下層をエッチングする際には上層は同じ早さでエッチングされてしまうから、引用発明の「吸収体膜」の各層を最適なエッチングガスを選択してドライエッチングし、上層の低反射層を無機エッチングマスク層(自己マスク層)として用いた場合と比べると形状精度が悪くなることは明らかである。また、引用例1には、各層のエッチングレート比が0.1?10の範囲であればパターン線幅等へのダメージの程度を改善できることが記載されているが(上記記載事項イの【0010】、【0011】参照)、程度の差はあっても、上記範囲の上限値または下限値に近づくほどエッチングレート比が1に近い場合と比べてエッチング制御が難しくなり形状精度が劣ることは明らかである。したがって、引用発明の「吸収体膜」の各層を最適なエッチングガスを選択してドライエッチングし、上層の低反射層を無機エッチングマスク層(自己マスク層)として用いた方が微細パターンの形状精度がより高くなるというメリットがあることは明らかであるから、請求人の敢えて製造工程を煩雑にして生産性を悪くすることに何のメリットも無かったとの主張は採用することができない。

よって、本願補正発明は、引用発明及び引用例1、2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成22年9月13日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。

「基板と、多材料層と、キャップ層と、多層型吸収層をこの順序で備えるフォトマスクを提供する工程と、多層型吸収層はバルク吸収層上に配置された自己マスク層を備え、自己マスク層はタンタルと酸素を含み、バルク吸収層はタンタルを含み基本的に酸素を含まず、
第1エッチング処理を用いて自己マスク層をエッチングする工程と、
第1エッチング処理とは異なる第2エッチング処理を用いてバルク吸収層をエッチングする工程を含み、バルク吸収層のエッチング速度は第2エッチング処理中の自己マスク層のエッチング速度よりも大きい極紫外線フォトマスクのエッチング方法。」

4.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例の記載事項は、上記「2.」「(2)」に記載したとおりである。

5.対比・判断
本願発明は、上記「2.」で検討した本願補正発明の「第1エッチング処理」の限定事項である「フッ素ガスを含む」を省き、「第2エッチング処理」の限定事項である「少なくとも1つの塩素含有処理ガスを含む」を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「2.」「(4)」に記載したとおり、引用発明及び引用例1、2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び引用例1、2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用例1、2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-09-12 
結審通知日 2014-09-16 
審決日 2014-09-29 
出願番号 特願2007-240122(P2007-240122)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡戸 正義  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 土屋 知久
北川 清伸
発明の名称 極紫外線(EUV)フォトマスクのエッチング方法  
代理人 安齋 嘉章  

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