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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 D06F
管理番号 1297622
審判番号 不服2013-25311  
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-12-24 
確定日 2015-02-12 
事件の表示 特願2009-214495号「衣類乾燥機」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 3月31日出願公開、特開2011- 62297号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年9月16日の出願であって、平成25年5月17日付けで拒絶理由が通知され、同年7月19日に意見書及び手続補正書が提出され、同年9月20日付けで拒絶査定がされた。これに対し、同年12月24日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書の提出がなされたものである。


第2 平成25年12月24日付けの手続補正の補正却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成25年12月24日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、平成25年7月19日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1の
「衣類を収容して乾燥させる乾燥室と、この乾燥室内に供給する乾燥風を発生させる加熱手段及び送風ファンを有した乾燥風発生手段を備えた衣類乾燥機において、
前記加熱手段は、それぞれPTCヒータ素子を有するヒータユニットを隣接して複数個備え、これらヒータユニットはヒータユニットごとに通電が可能に構成され、
前記複数個のヒータユニットのうち少なくとも2個のヒータユニットは、通電初期の突入電流の大きさが異なっていて、
前記突入電流が異なる2個のヒータユニットを通電する場合、先に突入電流が大きい方のヒータユニットを通電し、所定時間後に突入電流が小さい方のヒータユニットを通電するようにしたことを特徴とする衣類乾燥機。」を
「衣類を収容して乾燥させる乾燥室と、この乾燥室内に供給する乾燥風を発生させる加熱手段及び送風ファンを有した乾燥風発生手段を備えた衣類乾燥機において、
前記加熱手段は、それぞれPTCヒータ素子を有するヒータユニットを熱伝達可能に隣接して複数個備え、これらヒータユニットはヒータユニットごとに通電が可能に構成され、
前記複数個のヒータユニットのうち少なくとも2個のヒータユニットは、通電初期の突入電流の大きさが異なっていて、
前記突入電流が異なる2個のヒータユニットを通電する場合、先に突入電流が大きい方のヒータユニットを通電し、所定時間後に突入電流が小さい方のヒータユニットを通電するようにしたことを特徴とする衣類乾燥機。」と補正した。(下線は、補正された箇所を示す。)

そして、この補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である隣接した複数個のヒータユニットについて、熱伝達可能であることの限定を付加するものであり、この補正により、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものでもないことは明らかである。

よって、本件補正における請求項1に係る発明の補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項(特許請求の範囲のいわゆる限定的減縮)を目的とするものである。

2 独立特許要件についての検討
(1)そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反しないか)について検討する。

(2)引用例
ア 引用例1
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭57-175397号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。)

(ア)「本発明は、例えば回転ドラム内にヒーターから得た加熱空気を送り込んで衣類を乾燥させる乾燥機のヒーター制御方法に関するものである。」(1頁左欄13行?15行)

(イ)「上記PTC素子は第1図に示すように乾燥機が運転する前、即ち電源投入前には外気温とほぼ同じで温度-抵抗値特性は図のA点付近の抵抗値であり、その後乾燥機が運転され充分安定した時点では図のC点付近の値となる。
しかし、その間にはPTC素子の抵抗値が最低となるB点を通過する。従つてB点付近では通常の運転時に比べて約3倍以上もの突入電流が流れ、消費電流の量もばかにならない。
・・・
本発明の目的は上記不都合を解消し、電源投入時のPTC素子への突入電流を抑え、無駄な消費電流を少なくし、その結果、ブレーカーが作動してしまつたり、ヒユーズがとんでしまつたりすることがなくなり、また同時に被乾燥物の種類や周囲温度若しくは乾燥効率等を考慮して乾燥機の温風温度を切り替えることができるので、適切な乾燥作業ができるようになる衣類乾燥機のヒーター制御方法を提供することにある。」(1頁左欄19行?2頁左上欄7行)

(ウ)「第2図は本発明方法に使用する回路図を示し、図中(2A),(2B),(2C),(2D)は交流電源(1)に対して相互に並列接続した正抵抗温度特性素子(PTC素子)であり、(3)は電源(1)とPTC素子(2A)?(2D)との間に挿入された電源投入用のスイツチである。
また、図中(4)は上記電源(1)にスイツチ(3)を介して接続したフアンであり、このフアン(4)はヒーターとしてのPTC素子(2A)?(2D)に風を送つて乾燥に用いる熱風を作り出す役割をなす。」(2頁左上欄18行?右上欄7行)

(エ)「さらに、電源(1)とPTC素子(2C)間に強,中,弱の3ポイントのうち、強,中の2ポイントが通電可能な接点スイツチ(9)を挿入し、また電源(1)とPTC素子(2D)間に、上記接点スイツチ(9)に連動し、強,中,弱の3ポイントのうち強の1ポイントのみが通電可能な接点スイツチ(9’)を挿入し、この接点スイツチ(9),(9’)で温度切替スイツチ(10)を構成する。」(2頁右上欄17行?左下欄4行)

(オ)「次に動作について説明すると、今、温度切替スイツチ(10)の接点スイツチ(9),(9’)を強のポイントにセツトして、電源投入用スイツチ(3)を閉じると、タイマー接点(6)及び(8)は開いていてPTC素子(2C),(2D)には通電されず、PTC素子(2A),(2B)のみに通電される。またフアン(4)が起動する。
さらに同時にタイマーリレー(5)に通電し、タイマーリレー(5)が始動してこの設定時間が経過するとタイマー接点(6)が閉じPTC素子(2C)とタイマーリレー(7)に通電する。
タイマーリレー(7)に通電してその設定時間が経過すると、タイマー接点(8)が閉じPTC素子(2D)に通電する。
このようにして、PTC素子(2A),(2B)と(2C)と(2D)とは3段階に時間を遅らせて通電を開始させることができるので、この間の全PTC素子(2A)?(2D)に流れる電流は第3図に示すようになり、このようにすればPTC素子(2A)?(2D)に一度に通電した場合に比較して電源投入時の総インピーダンスを高く保つことができる。」(2頁左下欄5行?右下欄4行)

(カ)「以上述べたように、本発明の衣類乾燥機のヒータ?制御方法は、ヒータ?としてPTC素子を用いた場合に電源投入時の突入電流を抑えられるので、無駄な消費電流が少くなり、またブレーカーが作動したりヒューズがとんだりする恐れがなくなるものである。
また、乾燥機の温風温度を切り替えることができるので、被乾燥物の種類や周囲温度若しくは乾燥効率等を考慮した適切な乾燥作業が可能となるものである。」(3頁左上欄6?15行)

(キ)上記(ア)、(ウ)、(オ)及び第2図の回路図から、回転ドラムに送り込む加熱空気を作るためのものであって、PTC素子(2A)と(2B)は電源投入用スイツチ(3)を閉じることで通電されるものであり、一体として通断電されるものであるから、一つのPTC素子とも見れる(以下一体のPTC素子として「PTC素子(2A)(2B)」という。)。
そして、第4図には、電源投入用スイツチ(3)がONしたとき(図中の「SWON」)のPTC素子(2A)(2B)の電流の変動値が、タイマー接点(6)がONしたとき(図中の「TM1ON」)のPTC素子(2C)又はタイマー接点(8)がONしたとき(図中の「TM2ON」)のPTC素子(2D)の電流の変動値より大きい点が看取できる。

イ 引用例1に記載された発明の認定
上記記載事項、上記第4図から看取できる事項及び第2図の記載を総合すると、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「ヒーターとしての正抵抗温度特性素子(PTC素子)(2A)?(2D)に風を送って乾燥に用いる熱風を作り出すファン(4)を有し、回転ドラム内のヒーターから得た加熱空気を送り込んで衣類を乾燥させる乾燥機において、
PTC素子(2A)(2B),(2C),(2D)は、交流電源(1)に対して相互に並列接続し、
電源投入用スイツチ(3)がONしたとき(図中の「SWON」)のPTC素子(2A)(2B)の電流の変動値は、タイマー接点(6)がONしたとき(図中の「TM1ON」)のPTC素子(2C)又はタイマー接点(8)がONしたとき(図中の「TM2ON」)のPTC素子(2D)の電流の変動値より大きく、
温度切替スイッチ(10)の接点スイッチ(9),(9’)を強のポイントにセットして、電源投入用スイッチ(3)を閉じると、タイマー接点(6)及び(8)は開いていてPTC素子(2C),(2D)には通電されず、PTC素子(2A)(2B)のみに通電され、ファン(4)が起動し、さらに同時にタイマーリレー(5)に通電し、タイマーリレー(5)が始動してこの設定時間が経過するとタイマー接点(6)が閉じPTC素子(2C)とタイマーリレー(7)に通電し、設定時間が経過すると、タイマー接点(8)が閉じPTC素子(2D)に通電する乾燥機。」

ウ 引用例2
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2000-271374号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、洗濯物を洗濯兼脱水槽内で脱水後、乾燥させることのできる洗濯乾燥機に関するものである。」

(イ)「【0004】ところで前記PTCヒータ11は、図4にも示すように、複数個例えば4個の半導体素子15a…、15b…を横に連続させて並べ、これらの半導体素子15aの両極に放熱板兼電極であるアルミニウムフィン16を接続するもので、従来は、このように横に連続させた半導体素子15a…,15b…を2段に接続し、2個の切り換えスイッチ17a,17bを設けて、一方の切り換えスイッチ17aを第1段の半導体素子15a…に、他方の切り換えスイッチ17bを第2段の半導体素子15b…にそれぞれ接続している。図中18は電源を示す。」

(ウ)「【0015】本発明で使用するPTCヒータ11も基本構成は従来と同様で、半導体素子21aの両極に放熱板兼電極であるアルミニウムフィン16を接続するものであり、横にそれぞれ3個ずつ連続させた半導体素子21a…,21b…,21cを3段に接続し、第1と第2の2個の切り換えスイッチ22a、22bを設けて、第1の切り換えスイッチ22aを上段に位置する第1段の半導体素子21a…に、第2の切り換えスイッチ22bを中段と下段に位置する第2段と第3段の半導体素子21b…,21c…にそれぞれ接続する。図中18は電源を示す。」

(エ)「 図1



(オ)「 図4



(3)本願補正発明と引用発明の対比
ア 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。

(ア)引用発明の「回転ドラム」は、その機能及び構造から本願補正発明の「衣類を収容して乾燥させる乾燥室」に相当し、以下同様にそれぞれ、「PTC素子(2A)?(2D)」及び「ヒーター」は「加熱手段」に、「乾燥機」は「衣類乾燥機」に相当する。

(イ)引用発明の「ヒーターとしてのPTC素子(2A)?(2D)に風を送って乾燥に用いる熱風を作り出すファン(4)を有し、回転ドラム内のヒーターから得た加熱空気を送り込んで衣類を乾燥させる乾燥機」は、「回転ドラム」と、「回転ドラム内」に「加熱空気を送り込んで衣類を乾燥させる」「ヒーターとしてのPTC素子(2A)?(2D)」と「ファン(4)」を有する「乾燥機」といえ、「ヒーターとしてのPTC素子(2A)?(2D)」と「ファン(4)」は本願補正発明の「乾燥風発生手段」に相応するから、引用発明の上記「乾燥機」は、本願補正発明の「衣類を収容して乾燥させる乾燥室と、この乾燥室内に供給する乾燥風を発生させる加熱手段及び送風ファンを有した乾燥風発生手段を備えた衣類乾燥機」に相当する。

(ウ)引用発明の「温度切替スイッチ(10)の接点スイッチ(9),(9’)を強のポイントにセットして、電源投入用スイッチ(3)を閉じると、タイマー接点(6)及び(8)は開いていてPTC素子(2C),(2D)には通電されず、PTC素子(2A)(2B)のみに通電され、ファン(4)が起動し、さらに同時にタイマーリレー(5)に通電し、タイマーリレー(5)が始動してこの設定時間が経過するとタイマー接点(6)が閉じPTC素子(2C)とタイマーリレー(7)に通電し、設定時間が経過すると、タイマー接点(8)が閉じPTC素子(2D)に通電する」ことは、「電源投入用スイッチ(3)を閉じると」、「PTC素子(2A)(2B)のみに通電され」、「タイマー接点(6)が閉じPTC素子(2C)・・・に通電し」、「タイマー接点(8)が閉じPTC素子(2D)に通電する」ものであるから、PTC素子(2A)(2B)、PTC素子(2C)及びPTC素子(2D)でそれぞれ通電が可能に構成されているといえ、PTC素子(2A)(2B)、PTC素子(2C)及びPTC素子(2D)はそれぞれヒータユニットといえるから、引用発明の「温度切替スイッチ(10)の接点スイッチ(9),(9’)を強のポイントにセットして、電源投入用スイッチ(3)を閉じると、タイマー接点(6)及び(8)は開いていてPTC素子(2C),(2D)には通電されず、PTC素子(2A)(2B)のみに通電され、ファン(4)が起動し、さらに同時にタイマーリレー(5)に通電し、タイマーリレー(5)が始動してこの設定時間が経過するとタイマー接点(6)が閉じPTC素子(2C)とタイマーリレー(7)に通電し、設定時間が経過すると、タイマー接点(8)が閉じPTC素子(2D)に通電する」ことと、本願補正発明の「前記加熱手段は、それぞれPTCヒータ素子を有するヒータユニットを熱伝達可能に隣接して複数個備え、これらヒータユニットはヒータユニットごとに通電が可能に構成され」ることとは、「前記加熱手段は、それぞれPTCヒータ素子を有するヒータユニットを複数個備え、これらヒータユニットはヒータユニットごとに通電が可能に構成され」ることの限りで一致する。

(エ)引用発明は、電源投入用スイツチ(3)がONしたときのPTC素子(2A)(2B)の電流の変動値、タイマー接点(6)がONしたときのPTC素子(2C)の電流の変動値及びタイマー接点(8)がONしたときのPTC素子(2D)の電流の変動値は、それぞれのPTC素子の通電初期の突入電流に対応するから、引用発明の「電源投入用スイツチ(3)がONしたとき(図中の「SWON」)のPTC素子(2A)(2B)の電流の変動値は、タイマー接点(6)がONしたとき(図中の「TM1ON」)のPTC素子(2C)又はタイマー接点(8)がONしたとき(図中の「TM2ON」)のPTC素子(2D)の電流の変動値より大きく」なっていることは、「PTC素子(2A)(2B)」のヒータユニットと「PTC素子(2C)」のヒータユニット又は「PTC素子(2D)」のヒータユニットとで通電初期の突入電流の大きさが異なっていることであるから、本願補正発明の「前記複数個のヒータユニットのうち少なくとも2個のヒータユニットは、通電初期の突入電流の大きさが異なってい」ることに相当する。

(オ)上記(ウ)及び(エ)のとおりであり、引用発明は、温度切替スイッチ(10)を強にセットした場合、PTC素子(2A)(2B)を通電し、タイマーが設定時間経過後に、PTC素子(2C)又はPTC素子(2D)が通電するから、引用発明の「電源投入用スイツチ(3)がONしたとき(図中の「SWON」)のPTC素子(2A)(2B)の電流の変動値は、タイマー接点(6)がONしたとき(図中の「TM1ON」)のPTC素子(2C)又はタイマー接点(8)がONしたとき(図中の「TM2ON」)のPTC素子(2D)の電流の変動値より大きく、温度切替スイッチ(10)の接点スイッチ(9),(9’)を強のポイントにセットして、電源投入用スイッチ(3)を閉じると、タイマー接点(6)及び(8)は開いていてPTC素子(2C),(2D)には通電されず、PTC素子(2A)(2B)のみに通電され、ファン(4)が起動し、さらに同時にタイマーリレー(5)に通電し、タイマーリレー(5)が始動してこの設定時間が経過するとタイマー接点(6)が閉じPTC素子(2C)とタイマーリレー(7)に通電し、設定時間が経過すると、タイマー接点(8)が閉じPTC素子(2D)に通電する」ことは、本願補正発明の「前記突入電流が異なる2個のヒータユニットを通電する場合、先に突入電流が大きい方のヒータユニットを通電し、所定時間後に突入電流が小さい方のヒータユニットを通電する」ことに相当する。

イ 一致点
したがって、両者は、
「衣類を収容して乾燥させる乾燥室と、この乾燥室内に供給する乾燥風を発生させる加熱手段及び送風ファンを有した乾燥風発生手段を備えた衣類乾燥機において、
前記加熱手段は、それぞれPTCヒータ素子を有するヒータユニットを複数個備え、これらヒータユニットはヒータユニットごとに通電が可能に構成され、
前記複数個のヒータユニットのうち少なくとも2個のヒータユニットは、通電初期の突入電流の大きさが異なっていて、
前記突入電流が異なる2個のヒータユニットを通電する場合、先に突入電流が大きい方のヒータユニットを通電し、所定時間後に突入電流が小さい方のヒータユニットを通電する衣類乾燥機。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

ウ 相違点
複数個のヒータユニットを、本願補正発明は、熱伝達可能に隣接して配置するのに対し、引用発明は、どのように配置するのか不明である点(以下「相違点」という。)。

(4)当審の判断
ア 相違点の検討
上記相違点について以下検討する。

引用例2には、洗濯乾燥機において、PTCヒータ11を「横に連続させた半導体素子15a…,15b…を2段に接続し、2個の切り換えスイッチ17a,17bを設け」ること、及び「横にそれぞれ3個ずつ連続させた半導体素子21a…,21b…,21cを3段に接続し、第1と第2の2個の切り換えスイッチ22a、22bを設け」ることが記載されている。そして、「横に連続させた半導体素子15a…,15b…」、「横にそれぞれ3個ずつ連続させた半導体素子21a…,21b…,21c」は、それぞれ一つのヒータユニットといえ、引用例2の「洗濯乾燥機」は、乾燥機能を有するから本願補正発明の「乾燥機」に相当し、同様に「PTCヒータ11」は「加熱手段」に相当するから、図1及び4の記載も参酌すると、引用例2には、乾燥機における加熱手段として、ヒータユニットを隣接して配置することが記載されているといえる。
引用例1には、PTC素子(2A)?(2D)の配置に関して具体的な記載はない。しかし、引用例1も引用例2と同様の衣類の乾燥機であり、被乾燥物の種類等を考慮して温風温度を切り替えるために温度切替スイッチ(10)で強、中、弱と切り替えてPTC素子(2A)?(2D)の通電を制御するものであるから、PTC素子(2A)?(2D)が、回転ドラム内へ加熱空気を送り込む同一の風路内に配置されていることは明らかであり、その位置も、スペース等を考慮して近い位置に隣接して配置することが一般的であると解され、特段の事情でも無い限り各PTC素子(2A)?(2D)間も断熱しない。
そうすると、引用発明の乾燥機において、加熱手段としての各PTC素子(2A)?(2D)は、引用発明2を参酌すれば、近い位置に隣接して配置することが一般的であると解されるから、上記相違点は単なる設計的事項に係るものといえる。
そして、各ヒータを隣接配置した場合、通常の構成であって、特段にヒータユニット間で断熱したものでもない限り、当然に熱伝達可能となる。

イ 本願補正発明の奏する作用効果
本願発明により奏されるとされる効果は、引用発明、引用例2に記載された技術的事項からみて格別なものとはいえない。

ウ まとめ
したがって、本願補正発明は、引用発明及び引用例2に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5) 小括
したがって、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3 むすび
以上のとおりであり、本件補正発明は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定により違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成25年12月24日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成25年7月19日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記「第2 平成25年12月24日付けの手続補正の補正却下の決定」の「1 本件補正について」の記載参照。)

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例の記載事項及び引用発明については、上記「第2 平成25年12月24日付けの手続補正の補正却下の決定」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(2)引用例」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、本願補正発明から、隣接した複数個のヒータユニットについて、熱伝達可能であることの限定を省いたものである。
そうすると、本願発明を特定するための事項をすべて含み、更に他の事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2 平成25年12月24日付けの手続補正の補正却下の決定」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(3)本願補正発明と引用発明の対比」及び「(4)当審の判断」に記載したとおりの引用発明及び引用例2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明及び引用例2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第6 まとめ
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-11-26 
結審通知日 2014-12-02 
審決日 2014-12-19 
出願番号 特願2009-214495(P2009-214495)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (D06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 杉山 健一齊藤 公志郎  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 森本 康正
佐々木 正章
発明の名称 衣類乾燥機  
代理人 特許業務法人 サトー国際特許事務所  
代理人 特許業務法人 サトー国際特許事務所  

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