• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B23K
管理番号 1297730
審判番号 不服2013-18721  
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-09-27 
確定日 2015-02-19 
事件の表示 特願2009- 35471「レール溶接部の冷却方法及びレール溶接継手」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 9月 2日出願公開、特開2010-188382〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本件出願は、平成21年2月18日の特許出願であって、平成24年10月17日付けで拒絶の理由が通知され、同年11月19日に意見書及び補正書が提出され、平成25年2月5日付けでさらに拒絶の理由が通知され、同年3月25日に意見書が提出されたが、同年7月3日付けで拒絶の査定がなされた。
そして、上記拒絶の査定を不服として、平成25年9月27日に本件審判の請求がなされると同時に明細書について手続補正がなされ、当審の同年12月13日付けの審尋に対して、平成26年1月30日に回答書が提出されたものである。

2 本件出願に係る発明の認定
本件出願の特許請求の範囲の請求項1ないし4に係る発明は、平成24年11月19日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められる。
そして、その請求項1に係る発明は、以下のとおりである。

「レールを溶接した後の当該溶接部の冷却方法において、前記溶接部の最高加熱温度がAc1点以上となるレール柱部の長手方向の領域を、柱部の温度がA3、AeもしくはAcm超のオーステナイト温度域からパーライトへの変態を完了するまでの少なくとも一部の温度範囲を、放冷を超え5℃/s以下の冷却速度で冷却し、前記溶接部のレール柱部全体がオーステナイトからパーライトへの変態を完了した後、前記溶接部の柱部の最高加熱温度がAc1点以上となるレール柱部の長手方向の領域を、放冷を超える冷却速度で、かつ、レール足部の冷却速度以上で冷却することを特徴とするレール溶接部の冷却方法。」(以下「本願発明」という)

3 刊行物
(1)刊行物の記載事項
これに対して、本件出願前日本国内において頒布された刊行物であって、原査定の拒絶の理由に引用された特開昭59-93838号公報(以下「刊行物」という)には、第1図及び第2図とともに、以下の事項が記載されている(下線は当審で付与)。

ア 「本発明はこの知見に基づいてなされたもので、その要旨は溶接終了後または加熱によりオーステナイト状態にあるレ-ル溶接部のレ-ル全体またはレ-ル頭部と腹部を、高圧の気体または含水気体によつてパーライト変態が終了するまで冷却して高強度化し、その後、急速冷却して圧縮残留応力を付与せしめてレール溶接部の耐破壊特性を向上しようとするものである。」(2ページ右上欄16行?左下欄3行)

イ 「本発明は溶接終了後自己保有熱または外部からの加熱によりAr_(1)変態点以上の温度にあるレール溶接部のレール全体またはレール頭部と腹部を、高圧の気体または含水気体によつてパーライト変態が終了するまで冷却し、その後急速冷却するレール溶接部の耐破壊特性向上法である。」(2ページ左下欄8?13行)

ウ 「本発明に於て、まず冷却開始前の温度をAr_(1)変態点以上に設定する理由は、被冷却部をオーステナイト状態から急冷してパーライト変態させ、微細パーライト組織を得て高強度化するためであり、そのためには冷却開始前にAr_(1)変態点以上に保つてオーステナイト状態とする必要がある。」(2ページ左下欄14?19行)

エ 「溶接後の自己保有熱を利用する場合には溶接後、熱影響部がオーステナイト状態にある間に冷却を開始しパーライト状態を生じさせればよい。
高圧の気体または含水気体によつてパーライト変態が終了するまで冷却するのは、これらの冷媒で冷却することによつて微細パーライト組織を得るためである。これらの冷媒より冷却速度の早い冷媒を用いると、マルテンサイトが発生して非加熱部は脆化し、逆に冷却速度の遅い冷媒を用いた場合、あるいは単なる空冷では、微細パーライト組織を得ることが出来ず、高強度化されない。」(2ページ右下欄16行?3ページ左上欄6行)

オ 「レール鋼としては、0.65?0.80%のCを含有し、共析鋼あるいは共析鋼に近い亜共析鋼であることが望ましいが、微細パーライト組織が得られれば特に成分を限定するものではない。」(3ページ左上欄10?13行)

カ 「パーライト変態終了後急速冷却する理由は、出来るだけ大きい圧縮残留応力を得るためである。」(3ページ左上欄14?15行)

キ 「AREA 136 1bの硬頭(微細パーライト処理)レールを用いて、フラツシユバツト溶接を行い、一たん室温まで冷却して余盛を#80グラインダーで研削,削除した。その後熱影響部を含むレール溶接部のレール全体をガス火焔により900℃に加熱した後、高圧の空気によりパーライト変態が終了する570℃位まで冷却し、その後水を噴出して室温まで急速冷却を行つた。」(3ページ右上欄8?15行)

(2)刊行物に記載された発明
上記摘記事項アないしキの記載を技術常識を考慮しながら本願発明に照らして整理すると、刊行物には以下の発明が記載されていると認められる。
「溶接終了後のレール溶接部の冷却方法において、前記溶接部の自己保有熱がAr_(1)変態点以上の温度となるレール全体の長手方向の領域を、熱影響部がオーステナイト状態にある間に高圧の気体または含水気体によってパーライト変態が終了するまで冷却し、オーステナイト状態にあるレ-ル溶接部のレ-ル全体のパーライト変態が終了した後、前記溶接部のレール全体の自己保有熱がAr_(1)変態点以上の温度となるレール全体の長手方向の領域を、水を噴出して急速冷却を行うレール溶接部の冷却方法。」(以下「刊行物発明」という)

4 対比
本願発明と刊行物発明とを対比する。
刊行物発明の「溶接終了後のレール溶接部の冷却方法」は、本願発明の「レールを溶接した後の当該溶接部の冷却方法」に相当する。
刊行物発明の「前記溶接部の自己保有熱がAr_(1)変態点以上の温度となる」という事項を、本願発明の「前記溶接部の最高加熱温度がAc1点以上となる」という事項と対比すると、刊行物発明の「Ar_(1)変態点」及び本願発明の「Ac1点」がオーステナイトに係る変態開始点であることから、「前記溶接部がオーステナイト相が含まれる温度以上となる」という事項で共通するものである。
刊行物発明の「レール全体」は、レールの「頭部」、「腹部」及び「底部」の全部を示すものであるから、本願発明の「レール柱部」を含むものである。
刊行物発明の「熱影響部がオーステナイト状態にある間に高圧の気体または含水気体によってパーライト変態が終了するまで冷却し」という事項を検討する。第1に「熱影響部がオーステナイト状態にある間」とは、鋼の平衡状態図を勘案して「温度がA3、AeもしくはAcm超のオーステナイト温度域」であることは、当業者には自明の事項である。第2に「パーライト変態が終了するまで」が「パーライトへの変態を完了するまで」を意味することも自明である。第3に「高圧の気体または含水気体によって冷却」することは、マルテンサイトが発生しないように微細パーライト組織を得るためであって、単なる空冷ではないことから(上記摘記事項エを参照)、本願発明の「少なくとも一部の温度範囲を、放冷を超え5℃/s以下の冷却速度で冷却」することと、「少なくとも一部の温度範囲を、放冷を超えマルテンサイトが発生しない程度の冷却速度で冷却」する点で共通する。したがって、刊行物発明の当該事項は、本願発明の「温度がA3、AeもしくはAcm超のオーステナイト温度域からパーライトへの変態を完了するまでの少なくとも一部の温度範囲を、放冷を超え5℃/s以下の冷却速度で冷却し」という事項と対比して、「温度がA3、AeもしくはAcm超のオーステナイト温度域からパーライトへの変態を完了するまでの少なくとも一部の温度範囲を、放冷を超えマルテンサイトが発生しない程度の冷却速度で冷却し」という事項が共通するものである。
刊行物発明の「オーステナイト状態にあるレ-ル溶接部のパーライト変態が終了した後」という事項は、本願発明の「溶接部がオーステナイトからパーライトへの変態を完了した後」に相当する。
刊行物発明の「レール全体の長手方向の領域を、水を噴出して急速冷却を行う」という事項について検討する。第1に「水を噴出して急速冷却を行う」ことが「放冷を超える冷却速度」になることは当業者には自明である。第2に、刊行物発明ではレール溶接部のレール全体(「頭部」、「腹部」及び「底部」)の長手方向の領域を冷却するものである(上記摘記事項キを参照)が、その場合、急速冷却においても「腹部」の冷却速度は「底部」の冷却速度と同等になるものと認められる。そして、本願発明は、「レール柱部の長手方向の領域を、レール足部の冷却速度以上で冷却する」(下線は当審で付与)ものであり、さらに、本願明細書の段落【0104】及び【0105】の記載事項にも、足部の冷却速度が柱部の冷却速度を超えないことが必要である旨説示されていることから、レール柱部の冷却速度とレール足部の冷却速度とが同等のものも含むものである。そうすると、刊行物発明の「腹部」及び「底部」が、本願発明の「柱部」及び「足部」に相当するから、刊行物発明は、「レール柱部の長手方向の領域を、レール足部の冷却速度で冷却する」という事項において、本願発明と一致しているというべきである。

そうすると、本願発明と刊行物発明とは、以下の点で一致している。
<一致点>
「レールを溶接した後の当該溶接部の冷却方法において、前記溶接部がオーステナイト相が含まれる温度以上となるレール柱部の長手方向の領域を、柱部の温度がA3、AeもしくはAcm超のオーステナイト温度域からパーライトへの変態を完了するまでの少なくとも一部の温度範囲を、放冷を超えマルテンサイトが発生しない程度の冷却速度で冷却し、前記溶接部のレール柱部全体がオーステナイトからパーライトへの変態を完了した後、前記溶接部の柱部がオーステナイト相が含まれる温度以上となるレール柱部の長手方向の領域を、放冷を超える冷却速度で、かつ、レール足部の冷却速度で冷却するレール溶接部の冷却方法。」
そして、本願発明と刊行物発明とは、以下の点で相違している。
<相違点1>
溶接部が「オーステナイト相が含まれる温度以上となる」ことについて、本願発明が「最高加熱温度がAc1点以上となる」ことであるのに対して、刊行物発明では「自己保有熱がAr_(1)変態点以上の温度となる」ことである点。
<相違点2>
オーステナイト温度域からパーライトへの変態を完了するまでのマルテンサイトが発生しない程度の冷却速度について、本願発明が「5℃/s以下」であるのに対し、刊行物発明では具体的な数値は不明である点。

5 判断
<相違点1>について検討する。
上記「4 対比」でも述べたように、本願発明の「Ac1点」は加熱過程での変態開始点で、刊行物発明の「Ar_(1)変態点」は冷却過程での変態開始点であって、どちらもオーステナイト相に係るものであり、「溶接部にオーステナイト相が含まれる温度以上となる」ことを示す指標を設定するという共通の技術思想に用いられている。
そうすると、両者は、変態開始点として加熱過程のものであるか、冷却過程のものであるかの違いはあっても、オーステナイト相に係る変態開始点としては技術常識であり、どちらを用いるかは必要に応じて適宜選択する事項に過ぎず、刊行物発明の冷却過程での「Ar_(1)変態点」を、加熱過程での変態開始点である「Ac1点」に代え、相違点1に係る本願発明のように構成することは、当業者であれば容易に想到し得るものと認められる。
次に、<相違点2>について検討する。
刊行物発明においても、オーステナイト温度域からパーライトへの変態を完了するまでの冷却速度を、本願発明と同様にマルテンサイトが発生しない程度のものにしており、その冷却速度の上限を5℃/s以下とすることも、技術常識を勘案して当業者が格別困難なく設定し得る設計変更に過ぎない。
そして、本願発明が奏する効果も、刊行物発明及び技術常識から、当業者が予測可能なものであって、格別なものではない。
したがって、本願発明は、刊行物発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 結論
上記のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2014-12-18 
結審通知日 2014-12-24 
審決日 2015-01-06 
出願番号 特願2009-35471(P2009-35471)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松本 公一  
特許庁審判長 石川 好文
特許庁審判官 栗田 雅弘
長屋 陽二郎
発明の名称 レール溶接部の冷却方法及びレール溶接継手  
代理人 柳瀬 睦肇  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ