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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B23K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B23K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B23K
管理番号 1297745
審判番号 不服2013-24320  
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-12-10 
確定日 2015-02-19 
事件の表示 特願2009-517894「燃料タンクの製造方法および燃料タンク」拒絶査定不服審判事件〔平成20年12月11日国際公開、WO2008/149924〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2008年6月5日を国際出願日(優先権主張 2007年6月7日、日本国)とする出願であって、平成24年5月17日付けで拒絶の理由が通知され、同年6月27日に意見書及び手続補正書が提出され、同年12月19日付けで拒絶の理由が通知され、平成25年2月19日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年9月4日付けで拒絶をすべき旨の査定がされた。当該査定を不服として、平成25年12月10日に本件審判が請求され、同時に手続補正書が提出された。

第2 平成25年12月10日付け手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成25年12月10日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1. 本件補正の内容
本件補正は、平成25年2月19日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲及び明細書を更に補正するものであって、特許請求の範囲の請求項1に関する補正を含むところ、補正前後の請求項1の記載は、補正箇所に下線を付して示すと、以下のとおりである。

[本件補正前]
「【請求項1】
シーム溶接の経路中に凹凸部分がある金属製の燃料タンクを、シーム溶接機を用いて製造する方法であって、
前記シーム溶接機として、一対の電極輪よりも溶接機本体側に前記燃料タンクとの干渉を避ける非干渉空間を設け、前記非干渉空間の、シーム溶接点からの深さ寸法dを、燃料タンクの前記凹凸部分の最大寸法Lmaxよりも大きく設定し、前記非干渉空間が、前記一対の電極輪よりも溶接機本体側において、電極輪間の位置から電極輪間の間隔を離間させる方向に広がっているものを用いて、
前記シーム溶接機に対して前記燃料タンクの相対位置を変化させながら前記シーム溶接を行ない、前記シーム溶接中の前記燃料タンクが前記非干渉空間に進入することを特徴とする燃料タンクの製造方法。」

[本件補正後]
「【請求項1】
シーム溶接の経路中に凹凸部分があって、断面視で溶接部の位置から両側に膨らんだ形状を有する金属製の燃料タンクを、シーム溶接機を用いて製造する方法であって、
前記シーム溶接機として、一対の電極輪よりも溶接機本体側に前記燃料タンクとの干渉を避ける非干渉空間を設け、前記非干渉空間の、シーム溶接点からの深さ寸法dを、燃料タンクの前記凹凸部分の最大寸法Lmaxよりも大きく設定し、前記非干渉空間が、前記一対の電極輪よりも溶接機本体側において、電極輪間の位置から電極輪間の間隔を離間させる両方向に広がっているものを用いて、
前記シーム溶接機に対して前記燃料タンクの相対位置を変化させながら前記シーム溶接を行ない、前記シーム溶接中に前記燃料タンクが前記非干渉空間内の前記電極輪間の位置から前記電極輪間を離間させる両方向の領域に進入することを特徴とする燃料タンクの製造方法。」

本件補正は、次の補正事項1ないし3から成るものである。
・補正事項1:本件補正前の「凹凸部分がある金属製の燃料タンク」を、本件補正により「凹凸部分があって、断面視で溶接部の位置から両側に膨らんだ形状を有する金属製の燃料タンク」と、「金属製の燃料タンク」の形状を「断面視で溶接部の位置から両側に膨らんだ形状を有する」ものと限定的に減縮した点。
・補正事項2:本件補正前の「前記非干渉空間が、前記一対の電極輪よりも溶接機本体側において、電極輪間の位置から電極輪間の間隔を離間させる方向に広がっているものを用いて」を、本件補正により「前記非干渉空間が、前記一対の電極輪よりも溶接機本体側において、電極輪間の位置から電極輪間の間隔を離間させる両方向に広がっているものを用いて」と、「非干渉空間」が「広がっている」方向を「両方向に」と限定的に減縮した点。
・補正事項3:本件補正前の「前記シーム溶接中の前記燃料タンクが前記非干渉空間に進入することを特徴とする」を、本件補正により「前記シーム溶接中に前記燃料タンクが前記非干渉空間内の前記電極輪間の位置から前記電極輪間を離間させる両方向の領域に進入することを特徴とする」と、「燃料タンク」が「非干渉空間に進入する」タイミングを「シーム溶接中に」と限定的に減縮し、かつ、「シーム溶接中の・・・燃料タンク」が進入する「非干渉空間」を、「非干渉空間内の前記電極輪間の位置から前記電極輪間を離間させる両方向の領域」と限定的に減縮した点。

そうすると、本件補正のうち特許請求の範囲の請求項1についてするものは、特許法第17条の2第5項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「補正発明」という。)が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)否かについて、以下に検討する。

2. 引用文献

(1) 引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平11-321752号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(1-ア)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動二輪車用の燃料タンクに関する。」

(1-イ)
「【0016】次に図7?10を参照して前記両接合フランジ2f,3fをシーム溶接するためのシーム溶接機の一実施例の構造を説明する。この溶接機Aの機枠4は、ベース台4aの一側部に立設された機枠本体4mと、その機枠本体4mの上部に片持ちで一体に支持されてベース台4aの上面と対向するよう水平に延びる支持フレーム4bとを備えており、この支持フレーム4bには、昇降可能な上部電極輪R_(U) と、この上部電極輪R_(U )が接離し得るように該上部電極輪R_(U) の下方に配置され且つ該上部電極輪R_(U )よりも小径に形成された昇降不能な下部電極輪R_(D) とが、次のようにして取付けられている。
【0017】前記支持フレーム4bの先端中央部には、昇降駆動手段としての伸縮シリンダ5のシリンダ部5cが上下方向に配置固定されており、そのシリンダ5のピストンロッド部5p下端には上部電極支持体6が一体的に保持される。この上部電極支持体6には水平な上部電極軸7が回転自在に嵌合支持されており、その軸7の先端に導電性材料よりなる大径の上部電極輪R_(U) が固着される。而してシリンダ5を伸縮作動させれば、その伸長・収縮に応じて上部電極支持体6や上部電極輪R_(U) を下降・上昇させて下部電極輪R_(D) に対し進退させることができる。
【0018】その上部電極軸7に対応して機枠本体4mには上部電極用の回転駆動装置M_(U)が配備されており、その駆動装置M_(U) は、モータ8_(U) と、そのモータ出力軸に連なる減速機構Rとを備える。その減速機構Rの出力軸Raが上部電極軸7の基端に対向しており、その両軸Ra,7間が、その間の上下方向相対変位を許容しつつその間を一体に連動回転させる回転連動機構Iを介して連動連結される。その回転連動機構Iは、図示例では一対のユニバーサルジョイントJ_(1) ,J_(2) と、その両ジョイントJ_(1 ),J_(2) 間を連結する連動軸9とを備えており、その連動軸9は、互いにスプライン嵌合して相対摺動可能且つ相対回転不能な一対の軸半体9_(1 ),9_(2) より構成される。而してモータ8_(U )を作動させると、その回転が減速機構R及び回転連動機構Iを経て上部電極軸7に減速して伝えられ、上部電極輪R_(U) をゆっくりと回転駆動することができる。」

(1-ウ)
「【0021】下部電極支持体11は全体が導電性材料より構成されており、その支持体11に形成した軸受孔11bには、同じく導電性材料より薄肉円筒状に形成された軸受メタル15を介して水平な下部電極軸16の中間部が回転自在に嵌合支持され、その軸16の、電極支持体11前面より延出する先端に下部電極輪R_(D) が複数のボルト17により固着される。この下部電極輪R_(D) や下部電極軸16も導電性材料で構成されており、従って下部電極輪R_(D) は、下部電極軸16、軸受メタル15及び下部電極支持体11を通して二次導体L_(D) と常時導通状態に置かれる。また下部電極支持体11や二次導体L_(D) の先端部13と、支持枠10との各間は、取付溝10aの内面をその全面に亘り覆う扁平な絶縁物等よりなる絶縁板18により常時絶縁状態に保持されており、したがって下部電極支持体11や軸受メタル15が導電体であっても、下部電極輪R_(D) と機枠4との間が短絡する恐れはない。
【0022】下部電極軸16の一側において支持枠10の後面にはモータ8_(D) が、下部電極輪R_(D) よりも上方において装着されており、このモータ8_(D) のモータ軸20と下部電極軸16との間に伝動機構としての減速歯車機構21が設けられ、従ってそのモータ8_(D )を作動させると、その回転が減速して下部電極軸16に伝えられて下部電極輪R_(D) をゆっくりと回転駆動することができ、その減速歯車機構21及びモータ8_(D) により下部電極用の回転駆動装置M_(D) が構成される。」

(1-エ)
「【0027】次にボディパネル2内の定位置にボトムプレート3をセットする。このセット作業に際しては、先ず、図11に示すように上下を逆にしたボディパネル2の内部空間に、そのパネル2の下端開口2aを通してボトムプレート3を前後左右に適当に傾けながら前半の内向き部分2fi,3fiより装入し、次いで吸盤等の保持具(図示せず)を用いてボトムプレート3を保持して、ボディパネル2の第1接合フランジ2fとボトムプレート3の第2接合フランジ3fとを全周に亘り重合させ、その重合状態を保持するようにボディパネル2にボトムプレート3を仮止めする。この仮止めに際しては、一般の溶接工程で被溶接物相互間を一時的に固定するために用いられる従来周知の仮止め手段、例えば接着、ろう接、スポット溶接等の接合手段を適宜採用可能であり、またクリップ等の結合具を使用してもよい。
【0028】次いで上記仮止め後の燃料タンク1を作業員が手で支えて、例えば図12の(B)に示すように燃料タンク1のボトムプレート3の凹み部3c内に下部電極輪R_(D) 及び下部電極支持体11を没入させ、その下部電極輪R_(D) の外周上端にボトムプレート3の第2接合フランジ3f(特に内向き部分3fi)下面を当てがう。しかる後に、伸縮シリンダ5を伸長作動させて上部電極支持体6を下降させることにより上部電極輪R_(U) をボディパネル2の第1接合フランジ2f(特に内向き部分2fi)上面に圧接させ、かくして、上,下部電極輪R_(U) ,R_(D) 間に両接合フランジ2f,3fの内向き部分2fi,3fi重合部を挟圧させることができる。
【0029】続いて上,下の回転駆動装置M_(U) ,M_(D) のモータ8_(U ),8_(D) を作動させて上,下部電極輪R_(U) ,R_(D )をそれらの外周速度が一致するよう同期回転駆動させると共に、電源装置Eから両導体L_(U) ,L_(D) を介し両電極輪R_(U) ,R_(D) に通電する。これに伴い、その上,下部電極輪R_(U) ,R_(D) の回転に応じて作業員が燃料タンク1の姿勢を三次元的に徐々に変化させながら同タンク1を両接合フランジ2f,3fの重合部(即ちボディパネル2の下端開口2aの開口縁)に沿って徐々に送り移動させることにより、その両電極輪R_(U ),R_(D) が対応する両接合フランジ2f,3f上を転動して、その両接合フランジ2f,3f相互をシーム溶接Wすることができる。こうしてシーム溶接Wが両接合フランジ2f,3fの全周に亘って行われると、ボディパネル2及びボトムプレート3相互の接合、従って燃料タンク1の組立が終了する。
【0030】而して上記シーム溶接過程で、例えば図3の(B)断面図で示される内向き部分2fi,3fiの溶接は図12の(B)で示すような作業姿勢で行えばよく、また図3の(C)断面図で示される捩れ部分2fs,3fsの溶接は図12の(C)で示すような作業姿勢で行えばよく、更に図3の(D)断面図で示される外向き部分2fo,3foの溶接は図12の(D)で示すような作業姿勢で行えばよく、更にまた図5に示される外向き部分2fo,3foの後端部2fo_(R) ,3fo_(R) の溶接は図12の(E)で示すような作業姿勢で行えばよく、更にまた図2の(A)断面図で示される内向き部分2fi,3fiの溶接は図12の(A)で示すような作業姿勢で行えばよい。尚、図示例では、シーム溶接の開始を図12の(B)で示す作業姿勢より開始したが、その開始姿勢は任意であり、図12の(A)?(E)の何れの作業姿勢から溶接を開始してもよい。
【0031】また図示例では、下部電極輪R_(D) は上部電極輪R_(U) よりも十分に小径に形成されていて下部電極輪R_(D) 自体の小型化が図られており、しかも下部電極軸16が薄肉円筒状の軸受メタル15を介して下部電極支持体11に支持されていて、下部電極支持体11と下部電極軸16(従って下部電極輪R_(D ))との間の導通が軸受メタル15を通して直接なされ、それだけ下部電極支持体11自体の構造簡素化と小型化が図られるため、その小型化された下部電極支持体11及び下部電極輪R_(D) をボトムプレート3の上向きの凹み部3c内に無理なく没入させることができる。しかもその下部電極支持体11が機枠4(支持フレーム4b)に上方より吊下支持されているため、下部電極輪R_(D) や下部電極支持体11の全側方および下側には十分広い溶接作業空間が確保され、作業員が燃料タンク1を手で支えて作業姿勢を変化させつつ送り移動させる時に該燃料タンク1が溶接機Aの各部に干渉する恐れがない。」

(1-オ)
上記摘記事項(1-エ)の「シーム溶接Wが両接合フランジ2f,3fの全周に亘って行われる」(段落【0029】)及び「上,下部電極輪R_(U) ,R_(D) 間に両接合フランジ2f,3fの内向き部分2fi,3fi重合部を挟圧させることができる」(段落【0028】)との記載から、「内向き部分fi,3fi」は、「シーム溶接W」される「2f,3fの全周」の経路上に存在し、かつ、【図11】から、「内向き部分2fi,3fi」が、凹凸部分を有する点看取できるから、引用文献1の「金属製の燃料タンク(1)」は、シーム溶接の経路中に凹凸部分がある、ということができる。



(1-カ)
【図12】の(A)には、「内向き部分2fi,3fi」をシーム溶接する際に、「燃料タンク(1)」一部が「下部電極輪R_(D)」よりも本体側となる図上右方向に存在するような配置を取ることが可能であることが看取でき、上記摘記事項(1-エ)の「下部電極輪R_(D) や下部電極支持体11の全側方および下側には十分広い溶接作業空間が確保され、作業員が燃料タンク1を手で支えて作業姿勢を変化させつつ送り移動させる時に該燃料タンク1が溶接機Aの各部に干渉する恐れがない。」(段落【0031】)との記載と考え合わせると、引用文献1の「シーム溶接機」においては、「燃料タンク(1)」との干渉を避けるための「非干渉空間」が設けられていて、かつ「非干渉空間」の、シーム溶接する点からの深さ寸法が、「燃料タンク(1)」の「内向き部分2fi,3fi」の凹部分の最大寸法よりも大きく設定されていることが理解できる。さらに「燃料タンク(1)」が、「内向き部分2fi,3fi」をシーム溶接時には、一対の「電極輪(R_(U),R_(D))」が離間する方向である下方向へも位置する点、【図12】の(A)から看取できるから、当該「非干渉空間」は、「電極輪(R_(U),R_(D))の位置から電極輪(RU,R_(D))の間隔を離間させる方向に広がっている」ということができ、かつ、シーム溶接中に「燃料タンク(1)」が当該非干渉空間内の、「電極輪(R_(U),R_(D))」の位置から「電極輪(R_(U),R_(D))」の間隔を離間させる方向の領域に進入することが理解できる。



(1-キ) 引用文献1記載発明
上記摘記事項(1-ア)ないし(1-エ)及び認定事項(1-オ)及び(1-カ)から、引用文献1記載の事項を技術常識を考慮して、補正発明に照らして整理すると、引用文献1には以下の発明(以下、「引用文献1記載発明」という。)が記載されていると認める。

「シーム溶接の経路中に凹凸部分がある金属製の燃料タンク(1)を、シーム溶接機(A)を用いて製造する方法であって、
前記シーム溶接機として、一対の電極輪(R_(U),R_(D))よりも機枠(4)側に前記燃料タンクとの干渉を避ける非干渉空間を設け、前記非干渉空間の、シーム溶接点からの深さ寸法を、燃料タンクの前記凹凸部分の最大寸法よりも大きく設定し、前記干渉空間が、前記一対の電極輪(R_(U),R_(D))よりも機枠(4)側において、電極輪(R_(U),R_(D))の位置から電極輪(R_(U),RD)の間隔を離間させる方向に広がっているものを用いて、
前記シーム溶接機(A)に対して前記燃料タンク(1)の相対位置を変化させながら前記シーム溶接を行ない、前記シーム溶接中に前記燃料タンク(1)が前記非干渉空間内の前記電極輪間の位置から前記電極輪間を離間させる方向の領域に進入する燃料タンクの製造方法。」

(2) 引用文献2
平成24年5月17日付け及び同年12月19日付け拒絶理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2003-21012号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(2-ア)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車に組み付けられる燃料タンク及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、燃料タンクを製造するには、図7に示すように金属板を絞って一対の容器1,1を形成し、それら各容器1,1の開口縁に形成したフランジ2,2を互いに重ねてシーム溶接を行っていた。即ち、図8に示すように、シーム溶接機に備えた一対のローラ付き電極3,3で、フランジ2,2を挟持し、その挟持部分の電気抵抗熱にてフランジ2,2同士を溶着させながら、その挟持部分をフランジ2,2に沿って移動するという処理を行っていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、燃料タンクとその隣接部品との間のデッドスペースを削減するために、図9に示すように、燃料タンクの側壁6に隣接部品(図示せず)に対応した凹部7を設けたい場合がある。しかしながら、上記した従来の製造方法では、凹部7の奥側でフランジ2を溶接する際に、同図に示すようにシーム溶接機のローラ3Aが、容器1の側壁6と干渉して、溶接を行えない事態が生じ得る。このため、燃料タンクの形状が制約されて、設計の自由度が低くなるという問題があった。また、別の問題として、従来は、燃料タンクを構成する金属板として、コスト面を重視したターンシート材を用いていたが、このターンシート材は鉛成分を含むため、環境問題の観点から鉛成分を含まない材料の検討が求められていた。」

(2-イ)
【図7】及び【図8】から、引用文献2がシーム溶接しようとする「燃料タンク」が断面視「フランジ(2,2)」から両側に膨らんだ形状を有する点が看取できる。また、【図9】には、「燃料タンク」の一対の「容器(1)」の「側壁(6)」の形状が「凹部(7)」において凹んでいる点が看取できるから、「凹部(7)」を基準にするならば、他の「側壁(6)」は凸となっているから、当該部分を「凸部」と呼ぶことができる。

【図7】



【図8】


【図9】


(2-ウ) 引用文献2記載事項
上記摘記事項(2-ア)及び認定事項(2-イ)から,引用文献2には以下の事項(以下,「引用文献2記載事項」という。)が記載されていると認める。

「シーム溶接の経路中に凹凸部分があって、断面視で溶接部の位置から両側に膨らんだ形状を有する金属製の燃料タンクを、シーム溶接機を用いて製造したいとの課題が存在し、一方シーム溶接する際には、シーム溶接機のローラ(3A)が、容器(1)の側壁(6)と干渉して、溶接を行えない事態が生じ得ること。」

(3) 引用文献3
平成24年5月17日付け及び同年12月19日付け拒絶理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平8-174227号公報(以下、「引用文献3」という。)には、図面ともに以下の事項が記載されている。

(3-ア)
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,溶接フランジが周囲に形成された自動車用燃料タンク等のワークの溶接フランジ等を自動的にシーム溶接するシーム溶接装置に関する。」

(3-イ)
「【0007】上記シーム溶接機2は,上下1対に構成された電極ローラ6,7によりワーク5の溶接部である溶接フランジを挟み,電極ローラ6,7の回転と共に電極ローラ6,7間に給電される溶接電流により溶接フランジを連続的にシーム溶接する。図示状態は溶接開始前の状態で,上方の電極ローラ6はシリンダ9により後退位置にあり,電極ローラ6,7間が離隔された状態にある。この状態からワーク5の溶接フランジが下方の電極ローラ7上に載置された後,シリンダ9により上電極ローラ6が下電極ローラ7側に進出駆動されると,電極ローラ6,7間で溶接フランジが挟持される。電極ローラ6,7は図示しない駆動源(第2の駆動源)により回転駆動されることにより,挟持した溶接フランジをシーム溶接しつつ順次送り出す。又,上記ロボット3は,本体部の図示は省略されているが,教示データに従ってロボットハンド4を移動及び回転させ,ロボットハンド4で把持したワーク5の溶接フランジを連続的に上記電極ローラ6,7間に送り込むように構成されている。本実施例では図3に示すような周囲に溶接フランジ5aが形成された自動車用燃料タンクをワーク5としてシーム溶接する例を示しており,ロボット3は該ワーク5の溶接フランジ5aの形状に対応した軌跡でロボットハンド4が移動及び回転する教示データにより,図示しない駆動源(第1の駆動源)により駆動される。」

(3-ウ)
断面視で「溶接フランジ(5a)」から両側に膨らんだ形状を有する「自動車用燃料タンクであるワーク(5)」をシーム溶接する「シーム溶接機(2)」において、「電極ローラ(6,7)」よりも図上右側の「シーム溶接機(2)」との間に、「電極ローラ(6,7)」間の位置から「電極ローラ(6,7)」間を離間させる両方向に拡がる空間が存在する点が、【図1】より看取できる。



3. 対比・判断

(1) 対比
補正発明と引用文献1記載発明とを対比すると、その機能及び作用からみて、引用文献1記載発明の「燃料タンク(1)」、「シーム溶接機(A)」、「電極輪(R_(U),R_(D))」、「機枠(4)」、「非干渉空間」は、それぞれ補正発明の「燃料タンク」、「シーム溶接機」、「電極輪」、「溶接機本体」、「非干渉空間」にそれぞれ相当する。
そうすると、補正発明と引用文献1記載発明は、以下の点で一致し、かつ、相違する。

ア. 一致点
「シーム溶接の経路中に凹凸部分があって、金属製の燃料タンクを、シーム溶接機を用いて製造する方法であって、
前記シーム溶接機として、一対の電極輪よりも溶接機本体側に前記燃料タンクとの干渉を避ける非干渉空間を設け、前記非干渉空間の、シーム溶接点からの深さ寸法dを、燃料タンクの前記凹凸部分の最大寸法Lmaxよりも大きく設定し、前記非干渉空間が、前記一対の電極輪よりも溶接機本体側において、電極輪間の位置から電極輪間の間隔を離間させる方向に広がっているものを用いて、
前記シーム溶接機に対して前記燃料タンクの相対位置を変化させながら前記シーム溶接を行ない、前記シーム溶接中に前記燃料タンクが前記非干渉空間内の前記電極輪間の位置から前記電極輪間を離間させる方向の領域に進入する燃料タンクの製造方法。」

イ. 相違点

(ア) 相違点1
補正発明の「金属タンク」は、「断面視で溶接部の位置から両側に膨らんだ形状を有する」ものであるのに対し、引用文献1記載発明の「燃料タンク(1)」はそのようなものではない点。

(イ) 相違点2
補正発明の「非干渉空間」は、「一対の電極輪よりも溶接機本体側において、電極輪間の位置から電極輪間の間隔を離間させる両方向に広がっているもの」であるのに対し、引用文献1記載発明の「非干渉空間」は、「電極輪間(R_(U),R_(D))の位置から電極輪(R_(U),R_(D))間の間隔を離間させる方向」に広がるものではあるものの、「両方向」であるかが不明である点。

(ウ) 相違点3
補正発明の「燃料タンク」は、「シーム溶接中」に「非干渉空間内の電極輪間の位置から前記電極輪間を離間させる両方向の領域に進入する」ものであるのに対し、引用文献1記載発明の「燃料タンク(1)」は、「シーム溶接中」に「非干渉空間内の電極輪(R_(U),R_(D))間の位置から前記電極輪(R_(U),R_(D))間を離間させる方向の領域に進入する」ものではあるものの、「両方向の領域」に進入するものであるかが不明である点。

(2) 相違点についての検討

ア. 相違点1について
上記引用文献2記載事項にあるように、「シーム溶接の経路中に凹凸部分があって、断面視で溶接部の位置から両側に膨らんだ形状を有する」「燃料タンク」を、シーム溶接を用いて製造したいとの課題が従来より存在し、一台のシーム溶接機で様々な形状のものに対応できるようにすることは、当業者にとって自明な課題である。そうすると、引用文献1記載発明においてシーム溶接しようとする「燃料タンク(1)」を、引用文献2記載事項の「燃料タンク」のように「シーム溶接の経路中に凹凸部分があって、断面視で溶接部の位置から両側に膨らんだ形状を有する」ものとすることは、上記自明な課題に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。

イ. 相違点2について
引用文献1の摘記事項(1-エ)の「下部電極輪R_(D) や下部電極支持体11の全側方および下側には十分広い溶接作業空間が確保され、作業員が燃料タンク1を手で支えて作業姿勢を変化させつつ送り移動させる時に該燃料タンク1が溶接機Aの各部に干渉する恐れがない。」との記載から、引用文献1記載発明においては、シーム溶接の経路中に凹凸部分があっても、非干渉空間を適切に設けることで、「燃料タンク(1)」が「溶接機A」の各部に干渉することを防げることが理解できる。ここで、上記ア.に記載したように、一台のシーム溶接機で様々な形状のものに対応できるようにすることは当業者にとって自明な課題であるから、当該課題を解決しようとして引用文献1記載発明の「シーム溶接機(A)」によって、引用文献2記載事項の「燃料タンク」をシーム溶接することを考えると、「ローラ付き電極(3,3)」が「凹部(7)」に位置する際には、「燃料タンク」が占める領域が、「一対の電極輪よりも溶接機本体側において、電極輪間の位置から電極輪間の間隔を離間させる両方向に広がっているもの」となることは、当業者にとって自明である。そして、引用文献3に記載された「シーム溶接機(2)」及び「電極ローラ(6,7)」は、それぞれ引用文献1記載発明の「シーム溶接機(A)」及び「電極輪(R_(U),R_(D))」に相当するから、上記認定事項(3-ウ)の「シーム溶接機(2)との間に、電極ローラ(6,7)間の位置から電極ローラ(6,7)間を離間させる両方向に広がる空間」は、「シーム溶接機(A)との間に、電極輪(R_(U),R_(D))間を離間させる両方向に広がる空間」と言い換えることができる。
ここで、シーム溶接機の各部の寸法形状をどのように定めるかは、当業者が必要に応じて適宜決定し得る設計上の事項であるから、上記認定事項(3-ウ)に記載された「空間」を引用文献2記載事項の「燃料タンク」がシーム溶接にて製造できるような「非干渉空間」として機能する寸法とすることに格別の困難性は認められない。
そうすると、引用文献1記載発明において、上記相違点2に係る構成を備えたものとすることは、上記ア.に記載した自明な課題にしたがって、引用文献2記載事項の「燃料タンク」を引用文献1記載発明の「シーム溶接機(A)」でシーム溶接しようとして、上記認定事項(3-ウ)の空間を、「非干渉空間」として機能するような寸法としつつ引用文献1記載発明の「シーム溶接機(A)」に設けることで、当業者が容易になし得たものである。

ウ. 相違点3について
上記引用文献2記載事項の「断面視で溶接部の位置から両側に膨らんだ形状を有する」「燃料タンク」を引用文献1記載発明の「シーム溶接(A)」にて製造したならば、シーム溶接中に、「非干渉空間内の電極輪(R_(U),R_(D))間の位置から前記電極輪(R_(U),R_(D))間を離間させる」両方に対して「進入」させることは、シーム溶接中の当該「燃料タンク」に対する「電極輪(R_(U),R_(D))」 の相対的な位置を考慮すれば当業者にとって自明である。
そうすると、引用文献1記載発明が、上記相違点3に係る構成を備えたものとすることは、上記ア.に記載した自明な課題を解決するために、引用文献1記載発明の「シーム溶接機(A)」で引用文献2記載事項の「燃料タンク」をシーム溶接しようとして、当該「燃料タンク」の断面形状から当然に求められる事項を、引用文献記載発明1に備えるようにしたにすぎず、格別の困難性は認められない。

(3) 小結
以上のとおりであるから、補正発明は、引用文献1記載発明並びに引用文献2及び3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、かつ、作用及び効果の点で格別なものを奏するとは認められない。
したがって、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4. むすび
上記3.で検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり、決定する。

第3 本願発明

1. 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし11に係る発明は、平成25年2月19日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし11にそれぞれ記載された事項により特定されるとおりのものと認めるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2の1.の[本件補正前]の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。

2. 引用文献
上記引用文献1には、上記第2の2.(1)の(1-キ)の引用文献1記載発明が記載されている。

3. 対比・判断
本願発明と引用文献1記載発明とを対比すると、引用文献1記載発明の「燃料タンク(1)」、「シーム溶接機(A)」、「電極輪(RU,RD)」、「機枠(4)」、「非干渉空間」は、それぞれ補正発明の「燃料タンク」、「シーム溶接機」、「電極輪」、「溶接機本体」、「非干渉空間」にそれぞれ相当する。
そうすると、本願発明と引用文献1記載発明は、以下の点で一致し、相違する点はない。

一致点
「シーム溶接の経路中に凹凸部分がある金属製の燃料タンクを、シーム溶接
機を用いて製造する方法であって、
前記シーム溶接機として、一対の電極輪よりも溶接機本体側に前記燃料タンクとの干渉を避ける非干渉空間を設け、前記非干渉空間の、シーム溶接点からの深さ寸法dを、燃料タンクの前記凹凸部分の最大寸法Lmaxよりも大きく設定し、前記非干渉空間が、前記一対の電極輪よりも溶接機本体側において、電極輪間の位置から電極輪間の間隔を離間させる方向に広がっているものを用いて、
前記シーム溶接機に対して前記燃料タンクの相対位置を変化させながら前記シーム溶接を行ない、前記シーム溶接中の前記燃料タンクが前記非干渉空間に進入する燃料タンクの製造方法。」

そうすると、本願発明は引用文献1に記載された発明である。

4. むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用文献1に記載された発明である。
したがって、本願発明は特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないから、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-12-12 
結審通知日 2014-12-16 
審決日 2015-01-06 
出願番号 特願2009-517894(P2009-517894)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B23K)
P 1 8・ 121- Z (B23K)
P 1 8・ 113- Z (B23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中島 昭浩  
特許庁審判長 長屋 陽二郎
特許庁審判官 久保 克彦
栗田 雅弘
発明の名称 燃料タンクの製造方法および燃料タンク  
代理人 勝俣 智夫  
代理人 高橋 詔男  
代理人 志賀 正武  
代理人 高橋 詔男  
代理人 増井 裕士  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 志賀 正武  
代理人 増井 裕士  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 勝俣 智夫  

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