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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1297763 |
審判番号 | 不服2014-9248 |
総通号数 | 184 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-04-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-05-19 |
確定日 | 2015-02-19 |
事件の表示 | 特願2010-200515「電力半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 3月22日出願公開、特開2012- 59857〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成22年9月8日に出願したものであって、手続の概要は以下のとおりである。 拒絶理由通知 :平成25年12月12日(起案日) 意見書 :平成26年 1月15日 手続補正 :平成26年 1月15日 拒絶査定 :平成26年 2月21日(起案日) 拒絶査定不服審判請求 :平成26年 5月19日 手続補正 :平成26年 5月19日 上申書 :平成26年 8月19日 2.本願発明 本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成26年5月19日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「 【請求項1】 ワイドバンドギャップ半導体で構成される電力半導体素子と、 前記電力半導体素子を自動車に設けられた取り付け面に取り付ける取り付け部材と、 前記電力半導体素子の温度を測定する温度センサーと、 を備える電力半導体装置であり、 前記取り付け部材は、 前記電力半導体素子の底面に当接する面を有する金属からなり、内部に冷媒が流れる流路が形成される放熱板と、 前記放熱板の前記電力半導体素子の底面に当接する面とは反対側の面に当接する絶縁手段と、 前記流路に冷媒を供給する冷媒供給手段と、 前記流路と前記冷媒供給手段とを接合する接合部と、を備え、 前記冷媒供給手段は空冷ファン又は蒸気圧縮冷凍機又は流体ポンプであって、前記温度センサーの測定温度に基づいて前記冷媒の供給量を制御し、 前記空冷ファンに対して前記冷媒は空気であり、前記蒸気圧縮冷凍機に対して前記冷媒はフロン系ガス又は炭酸ガスであり、前記流体ポンプに対して前記冷媒は液体であり、 前記冷媒供給手段の筐体が絶縁体で構成され、 前記絶縁手段は、前記放熱板とは反対側の面で前記取り付け面と当接し、前記電力半導体素子を前記取り付け面に対して絶縁する、 電力半導体装置。」 なお、請求項1は、補正前の請求項1を引用する請求項4を引用する請求項6を引用する請求項11を引用する請求項12を独立形式に書き替えたものである。 3.引用例 原査定の拒絶の理由に引用された特開2008-28163号公報(平成20年2月7日公開、以下「引用例」という。)には、図面と共に、以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。) (1)「【0001】 本発明は、各種インバータ等に使用されるパワーモジュール装置に関する。」 (2)「【0006】 本発明は、半導体チップに対する電気的絶縁状態を確保しつつこれを直接冷却して熱放散効果を高めることを目的とする。」 (3)「【0007】 本発明のパワーモジュール装置は、絶縁材料からなるベースに、導電性材料からなる放熱体が固定されるとともに、該放熱体の表面に導電性接合材を介して半導体チップが搭載され、該半導体チップの電流経路における一方の電極が前記導電性接合材を介して放熱体に電気的に接続状態とされていることを特徴とする。」 (4)「【0009】 前記放熱体として、内部に絶縁性流体が流通される冷媒管である構成とすることにより、この絶縁性流体の供給、排出に要する流体機器の電気絶縁の取り扱いを容易にすることができる。 また、前記放熱体として、導電性流体が流通される冷媒管であり、流路の内周面に絶縁被膜が形成されている構成とすることによっても、同様に、流体の取扱いを容易にすることができる。」 (5)「【0011】 また、本発明のパワーモジュール装置において、前記放熱体に、その内部流路に連通する循環路が接続されるとともに、該循環路の途中に、この循環路を遮断するように介在する絶縁性管と、該絶縁性管によって前記放熱体との間を絶縁状態とされたポンプとが設けられている構成としてもよい。 このような構成とすることにより、放熱体との間の電気的な絶縁状態を確保してポンプが取り付けられることになる。」 (6)「【0012】 本発明のパワーモジュール装置は、半導体チップを導電性接合材によって放熱体に直接接合することにより、半導体チップの熱を速やかに放熱体に伝達して、熱放散効果を高めているとともに、電流経路を形成する電極の一つを放熱体に接続して、その配線による発熱も抑制することができ、しかも、その放熱体を絶縁材料からなるベースを介して他の構造体に支持させることができるから、外部との絶縁を確保して、その取扱い性を高めることができる。」 (7)「【0013】 以下、本発明のパワーモジュール装置の実施形態について、図面に基づいて説明する。 (第1実施形態) 図1から図3は、第1実施形態のパワーモジュール装置を示しており、このパワーモジュール装置1は、半導体チップ2が例えばアルミニウム合金製の放熱体3の上に導電性グリース等の導電性接合材4を介して直接搭載されるとともに、この放熱体3が、内部に絶縁性流体が流通される冷媒管とされている構成である。この放熱体3としての冷媒管は、アルミニウム合金等の押し出し成形等により、比較的薄肉で扁平なブロック状に形成されるとともに、その幅方向に並んで複数の流路5が相互に平行に形成された構成とされている。また、図2に示すように、放熱体3は絶縁性材料からなるベース6上に固定されており、該ベース6には、半導体チップ2を上方から押圧する板状ばね部材からなる押圧部材7が設けられ、半導体チップ2と放熱体3とを密着させている。 【0014】 前記半導体チップ2は、本実施形態の例では電界効果型トランジスタであり、裏面にドレイン電極(図示略)が露出し、このドレイン電極が露出状態となっている裏面が導電性接合材4を介して放熱体3に接続されている。この導電性接合材4としては、例えば、グリースに銀、銅、ニッケル等からなる粉末状の金属フィラーを含有した導電性グリースが使用される。また、半導体チップ2の表面には、ソース電極8及びゲート電極9が露出しており、これらソース電極8、ゲート電極9及び放熱体3に外部接続用リード線11?13が接続されている。前記絶縁性流体としては、シリコーンオイル等の冷媒が使用される。 そして、図3に示すように、この放熱体3の両端に、ゴム、合成樹脂等の絶縁材料からなる絶縁性管15が循環路を形成するように接続され、この絶縁性管15の途中にポンプ16、熱交換器17等が設けられる。」 上記摘示事項及び図面の記載から以下のことがいえる。 (a)引用例には、「パワーモジュール装置」が記載されている(摘記事項(1))。 (b)「パワーモジュール装置」は、絶縁材料からなるベースに、導電性材料からなる放熱体が固定されるとともに、該放熱体の表面に導電性接合材を介して半導体チップが搭載されている(摘示事項(3))。 (c)放熱体は、内部に絶縁性流体が流通される冷媒管である(摘示事項(4))。 (d)「パワーモジュール装置」は、放熱体に、その内部流路に連通する循環路が接続されるとともに、該循環路の途中に、この循環路を遮断するように介在する絶縁性管と、該絶縁性管によって放熱体との間を絶縁状態とされたポンプとが設けられている(摘示事項(5))。 (e)放熱体は、絶縁材料からなるベースを介して他の構造体に支持される(摘示事項(6))。 (f)放熱体3は、アルミニウム合金製であり、比較的薄肉で扁平なブロック状に形成される(摘示事項(7))。 (g)絶縁性流体としては、シリコーンオイルが使用される(摘示事項(7))。 以上を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。 「絶縁材料からなるベースに、導電性材料からなる放熱体が固定されるとともに、該放熱体の表面に導電性接合材を介して半導体チップが搭載されているパワーモジュール装置であって、 放熱体は、内部に絶縁性流体が流通される冷媒管であり、 放熱体に、その内部流路に連通する循環路が接続されるとともに、該循環路の途中に、この循環路を遮断するように介在する絶縁性管と、該絶縁性管によって放熱体との間を絶縁状態とされたポンプとが設けられており、 放熱体は、絶縁材料からなるベースを介して他の構造体に支持され、 放熱体は、アルミニウム合金製であり、比較的薄肉で扁平なブロック状に形成され、 絶縁性流体としては、シリコーンオイルが使用されるパワーモジュール装置。」 4.対比 そこで、本願発明と引用発明とを対比する。 (1)電力半導体装置 引用発明の「パワーモジュール装置」は、「電力半導体装置」といえる。 (2)電力半導体素子 引用発明の「半導体チップ」は、パワーモジュール装置に搭載されているものであるから、「電力半導体素子」といえる。 もっとも、本願発明と引用発明とは、「電力半導体素子」について、本願発明は、「ワイドバンドギャップ半導体で構成される」のに対し、引用発明は、そのような特定がない点で相違する。 (3)取り付け部材 引用発明は、絶縁材料からなるベースに、導電性材料からなる放熱体が固定されるとともに、該放熱体の表面に導電性接合材を介して半導体チップが搭載されているとともに、放熱体は、絶縁材料からなるベースを介して他の構造体に支持されるから、ベース及び放熱体は「取り付け部材」といえる。 したがって、本願発明と引用発明とは、「前記電力半導体素子を取り付け面に取り付ける取り付け部材」を備える点で一致する。 もっとも、「取り付け面」について、本願発明は、「自動車に設けられた」ものであるのに対し、引用発明は、そのような特定がない点で相違する。 (4)温度センサー 本願発明と引用発明とは、本願発明は、「前記電力半導体素子の温度を測定する温度センサー」を備えるのに対し、引用発明は、そのような特定がない点で相違する。 (5)放熱板 引用発明の「アルミニウム合金」は、「金属」に含まれる。引用発明の「放熱体」は、比較的薄肉で扁平なブロック状に形成されるから、「放熱板」といえる。引用発明の「放熱体」は、放熱体の表面に導電性接合材を介して半導体チップが搭載されており、内部に絶縁性流体が流通される冷媒管である。 したがって、本願発明と引用発明とは、「取り付け部材」が、「前記電力半導体素子の底面に当接する面を有する金属からなり、内部に冷媒が流れる流路が形成される放熱板」を備える点で一致する。 (6)絶縁手段 引用発明の「ベース」は、絶縁材料からなり、導電性材料からなる放熱体が固定されるとともに、該放熱体の表面に導電性接合材を介して半導体チップが搭載されている。 したがって、本願発明と引用発明とは、「取り付け部材」が、「前記放熱板の前記電力半導体素子の底面に当接する面とは反対側の面に当接する絶縁手段」を備える点で一致する。 (7)冷媒供給手段 引用発明は、放熱体に、その内部流路に連通する循環路が接続されるとともに、該循環路の途中に、ポンプが設けられている。 したがって、本願発明と引用発明とは、「前記流路に冷媒を供給する冷媒供給手段」を備える点で一致する。 もっとも、本願発明は、「取り付け部材」が、「前記流路に冷媒を供給する冷媒供給手段」を備えるのに対し、引用発明は、「ポンプ」が「半導体チップ」を「他の構造体」に取り付ける機能を有するとはいえない点で相違する。 (8)接続部 引用発明は、放熱体に、その内部流路に連通する循環路が接続されるとともに、該循環路の途中に、この循環路を遮断するように介在する絶縁性管と、該絶縁性管によって放熱体との間を絶縁状態とされたポンプとが設けられている。 したがって、本願発明と引用発明とは、「前記流路と前記冷媒供給手段とを接合する接合部」を備える点で一致する。 もっとも、本願発明は、「取り付け部材」が、「前記流路と前記冷媒供給手段とを接合する接合部」を備えるのに対し、引用発明は、「絶縁性管」が「半導体チップ」を「他の構造体」に取り付ける機能を有するとはいえない点で相違する。 (9)冷媒供給手段の詳細 引用発明の「ポンプ」は、絶縁性流体を流通させるから、「流体ポンプ」といえる。 したがって、本願発明と引用発明とは、「前記冷媒供給手段は流体ポンプ」である点で一致する。 もっとも、本願発明は、「前記温度センサーの測定温度に基づいて前記冷媒の供給量を制御」するのに対し、引用発明は、そのような特定がない点で相違する。 (10)冷媒 引用発明の「シリコーンオイル」は「液体」に含まれる。 したがって、本願発明と引用発明とは、「前記流体ポンプに対して前記冷媒は液体」である点で一致する。 (11)冷媒供給手段の筐体 本願発明と引用発明とは、本願発明は、「前記冷媒供給手段の筐体が絶縁体で構成され」るのに対し、引用発明は、そのような特定がない点で相違する。 (12)絶縁手段の詳細 引用発明は、絶縁材料からなるベースに、導電性材料からなる放熱体が固定されるとともに、該放熱体の表面に導電性接合材を介して半導体チップが搭載されているとともに、放熱体は、絶縁材料からなるベースを介して他の構造体に支持される。 したがって、本願発明と引用発明とは、「前記絶縁手段は、前記放熱板とは反対側の面で前記取り付け面と当接し、前記電力半導体素子を前記取り付け面に対して絶縁する」点で一致する。 そうすると、本願発明と引用発明とは、次の点で一致する。 <一致点> 「電力半導体素子と、 前記電力半導体素子を取り付け面に取り付ける取り付け部材と、 を備える電力半導体装置であり、 前記取り付け部材は、 前記電力半導体素子の底面に当接する面を有する金属からなり、内部に冷媒が流れる流路が形成される放熱板と、 前記放熱板の前記電力半導体素子の底面に当接する面とは反対側の面に当接する絶縁手段と、を備え、 さらに、前記流路に冷媒を供給する冷媒供給手段と、 前記流路と前記冷媒供給手段とを接合する接合部と、を備え、 前記冷媒供給手段は流体ポンプであって、 前記流体ポンプに対して前記冷媒は液体であり、 前記絶縁手段は、前記放熱板とは反対側の面で前記取り付け面と当接し、前記電力半導体素子を前記取り付け面に対して絶縁する、 電力半導体装置。」の点。 そして、次の点で相違する。 <相違点> (1)「電力半導体素子」について、本願発明は、「ワイドバンドギャップ半導体で構成される」のに対し、引用発明は、そのような特定がない点。 (2)「取り付け面」について、本願発明は、「自動車に設けられた」ものであるのに対し、引用発明は、そのような特定がない点。 (3)本願発明は、「前記電力半導体素子の温度を測定する温度センサー」を備え、「前記温度センサーの測定温度に基づいて前記冷媒の供給量を制御」するのに対し、引用発明は、そのような特定がない点。 (4)本願発明は、「取り付け部材」が、「前記流路に冷媒を供給する冷媒供給手段」と、「前記流路と前記冷媒供給手段とを接合する接合部」と、を備えるのに対し、引用発明は、「ポンプ」と、「絶縁性管」と、が「半導体チップ」を「他の構造体」に取り付ける機能を有するとはいえない点。 (5)本願発明は、「前記冷媒供給手段の筐体が絶縁体で構成され」るのに対し、引用発明は、そのような特定がない点。 5.判断 上記各相違点について検討する。 相違点(1)、(2)について 自動車のパワーモジュール部に高温動作可能なワイドバンドギャップ半導体を用いることは周知である(例えば、特開2005-151712号公報の【0035】、【0036】、特開2005-353880号公報の【0020】?【0023】、特開2007-266435号公報の【0001】、【0002】参照)。 したがって、引用発明のパワーモジュール装置を自動車に適用して、半導体チップとして高温動作可能なワイドバンドギャップ半導体を採用し、取り付け面を自動車に設けられた取り付け面とすることは、当業者が容易に想到し得る。 相違点(3)について 半導体素子の温度を測定する温度センサーを設けて、温度センサーの測定温度に基づいて半導体素子を冷却する冷媒の供給量を制御することは周知である(例えば、特開平8-31997号公報、特開2005-5571号公報、特開2006-147924号公報の【0069】?【0074】参照)。 したがって、引用発明において、熱放散効果を高めるために(摘示事項(2))、半導体チップの温度を測定する温度センサーを設けて、温度センサーの測定温度に基づいて半導体チップを冷却する冷媒の供給量を制御することは、当業者が容易に想到し得る。 相違点(4)について 本願の明細書をみても、「冷媒供給手段」(ファン6)と、「接続部」(樹脂パイプ5)と、が「電力半導体素子」(半導体チップ1)を「取り付け面」(取り付け面4)に取り付ける機能を有するとは認められない。 したがって、相違点(4)は、実質的な相違点とはいえない。 相違点(5)について 引用発明は、循環路を形成する管を絶縁材料で構成することによって放熱体とポンプとの間を絶縁状態とするものである。ポンプの筐体を絶縁材料で構成することによっても放熱体とポンプとの間を絶縁状態とすることができることは明らかであるから、引用発明において、循環路を形成する管を絶縁材料で構成することに代えて、若しくは加えて、ポンプの筐体を絶縁材料で構成することは当業者が容易に想到し得る。 効果についてみても、上記構成の変更に伴って当然に予測される程度のことであって、格別顕著なものがあるとは認められない。 6.むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-12-16 |
結審通知日 | 2014-12-24 |
審決日 | 2015-01-06 |
出願番号 | 特願2010-200515(P2010-200515) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 石野 忠志、小山 和俊 |
特許庁審判長 |
丹治 彰 |
特許庁審判官 |
関谷 隆一 井上 信一 |
発明の名称 | 電力半導体装置 |
代理人 | 吉竹 英俊 |
代理人 | 有田 貴弘 |