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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1297812
審判番号 不服2013-22446  
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-11-15 
確定日 2015-02-18 
事件の表示 特願2009- 37160「メチシリン耐性ブドウ球菌の検出法,検出用試薬及び検出用キット」拒絶査定不服審判事件〔平成21年10月 1日出願公開,特開2009-222712〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成21年2月19日(優先権主張 平成20年2月21日)の出願であって,平成24年12月5日付けで拒絶理由が通知され,平成25年2月1日付けで意見書及び手続補正書が提出され,同年8月19日付けで拒絶査定がされたのに対し,同年11月15日に拒絶査定不服の審判請求がなされ,それと同時に手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
平成25年11月15日付けでなされた補正(下線は補正箇所である)は,請求項3において「ニワトリIgYが、蛍光標識したニワトリIgY」,請求項4において「メチシリン耐性ブドウ球菌が、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌」と補正するもので読点を追加するものであり,請求項8において「請求項6又は7に記載のメチシリン耐性ブドウ球菌検出用試薬」と補正するもので,請求項6の「・・・メチシリン耐性ブドウ球菌検出用試薬。」及び請求項7の「・・・請求項6に記載のメチシリン耐性ブドウ球菌検出用試薬。」の記載にならって記載したものであり,いずれも記載を明りょうにした程度のものであるから,特許法第17条の2第5項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものといえる。
してみれば,本願請求項1?8に係る発明は,上記平成25年11月15日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるものと認められるところ,そのうち請求項1に係る発明は,以下のとおりのものである。
「PBP2a(Penicillin-binding protein 2a)に対するニワトリIgYを用いることを特徴とする、メチシリン耐性ブドウ球菌の検出法。」(以下「本願発明」という。)

第3 引用刊行物及びその記載事項
(1)優先日前に公衆に利用可能とされ,原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第2007/069673号(以下「引用例1」という。)には,次の事項が記載されている。なお,以下の摘記事項において,下記の引用発明の認定,対比・判断に関連する箇所に下線を付与した。
(1-ア)「請求の範囲
[1]細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法であって、細胞壁合成酵素PBP2’を抗原抗体反応に基づくイムノクロマトグラフィー検出法を用いて検出することを特徴とする、細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法。
・・・
[17]細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌が多剤耐性ブドウ球菌である請求項1?16のいずれか1項に記載の細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌の検出方法。」(22?23頁)

(1-イ)「[0004]病原性菌として臨床的に重要である黄色ブドウ球菌のうち、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin-resistant Staphylococcus aureus)(MRSA)はメチシリンなどのペニシリン剤を初めとするβラクタム剤に耐性を示す黄色ブドウ球菌であるが、同時にアミノ配糖体剤、マクロライド剤などの多くの薬剤に耐性を示すものが多く、そのため臨床上は多剤耐性黄色ブドウ球菌(Multi-drug resistant Staphylococcus aureus)として取り扱われる。」

(1-ウ)「[0011]近年、純培養、分離培養、或いは臨床検体から直接に薬剤耐性機構の本体であるPBP2’をコードするmecA遺伝子をPCR法によって検出し、被検菌株におけるmecA遺伝子の保有状況をもって抗生物質耐性の鑑別を行う方法が開発された。しかし、mecA遺伝子の保有は必ずしも抗生物質耐性の発現を示しているとは限らず、遺伝子を保有しているにも関わらず耐性を獲得していない株が存在する。
[0012]一方、PBP2’の産生が多剤耐性を発現する上で重要な役割を担っていることは前述の通りであり、ブドウ球菌からPBP2’を検出することはその株が耐性を獲得しているか否かを知る有用な手段となり得る。
[0013]MRSAをはじめとする多剤耐性ブドウ球菌属菌が特異的に産生するPBP2’を抗原抗体反応に基づく免疫学的手段によって検出しようとする方法としては、ウエスタンブロット法、放射免疫測定法、スライドラテックス凝集法が知られている(特許文献1参照)。」

(1-エ)「[0066]特に偽陽性が懸念されるのは、黄色ブドウ球菌の細胞膜に存在するプロテインAである。プロテインAは免疫グロブリンGのFc部分に強い結合性をもつ。標識試薬と捕捉試薬にはPBP2’を特異的に認識する抗体を使用する。抗体は免疫グロブリンG、免疫グロブリンMなど特に種類は問わないが、免疫グロブリンGを使用する場合、Fc部分を除去した状態で使用し捕捉試薬部分では上記界面活性剤と組み合わせることで、プロテインAによる偽陽性を回避できる。Fc部分の除去は、ペプシンやパパインなどの既知の分解酵素を使用することで容易に行うことができる。」

(1-オ)「[0075]本発明の方法は、細胞壁合成酵素PBP2’を抗原として、これに対する抗体を用いた抗原抗体反応に基づく検出法である。従って、検体中に細胞壁合成酵素PBP2’が存在すれば本発明の方法で検出可能である。一般に、細胞壁合成酵素PBP2’は多剤耐性ブドウ球菌によって特異的に産生され、菌体内に特異的に存在すると考えられている。」

上記引用例1の記載事項を総合すると,引用例1には,以下の発明が記載されていると認められる。
「細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌である多剤耐性ブドウ球菌の検出方法であって,細胞壁合成酵素PBP2’を抗原抗体反応に基づくイムノクロマトグラフィー検出法を用いて検出する、細胞壁合成酵素PBP2’を産生する菌である多剤耐性ブドウ球菌の検出方法。」(以下「引用発明」という。)

(2)優先日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平9-211000号公報(以下「引用例2」という。)には,次の事項が記載されている。なお,下線は当審において付与した。
(2-ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】ニワトリ免疫グロブリンを抗体として用いることを特徴とする黄色ブドウ球菌の検出方法。」

(2-イ)「【0002】
【従来の技術】黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は、ヒトや動物に種々の疾患を惹起する病原性細菌の一種である。・・・又、黄色ブドウ球菌の一種であるMRSA(メシチリン耐性黄色ブドウ球菌)は、大きな社会問題となっている病院内感染症の原因菌である。」

(2-ウ)「【0011】以下、本発明を詳細に説明する。本発明は、黄色ブドウ球菌の検出法において、抗体としてニワトリ免疫グロブリン(以下「IgY」ともいう)を用いることを特徴としている。IgYは、哺乳動物から得られる抗体と異なり、黄色ブドウ球菌の産生するプロテインA及びGroup G Streptococciの産生するプロテインGと非免疫学的な結合をしないことが知られている。
【0012】従って、IgYを用いることにより、哺乳動物由来の抗体と非免疫学的に結合する物質や、それを生産する微生物等が混在している検体であっても、黄色ブドウ球菌を特異的に且つ高感度で検出することが可能となる。本発明のIgYとしては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれをも使用することができる。」


第4 対比・判断
1 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)本願発明の「PBP2a(Penicillin-binding protein 2a」は,本願明細書に「耐性化の原因遺伝子はこの領域にあるmecA遺伝子である。当該遺伝子は、細胞壁合成酵素として働くと考えられているPBP2a(あるいはPBP2’ともよばれる)タンパク質をコードしている。」(【0002】)と記載されているものであり,一方,引用発明の「細胞壁合成酵素PBP2’」は,引用例1の摘記(1-ウ)に記載のとおりのものであるから,引用発明の「細胞壁合成酵素PBP2’」は,本願発明の「PBP2a(Penicillin-binding protein 2a)」に相当する。

(2)引用例1の摘記(1-イ)によれば,「多剤耐性黄色ブドウ球菌」は「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌」の臨床上の名称であるとされ,このことからすれば,引用発明の「多剤耐性ブドウ球菌」は,本願発明の「メチシリン耐性ブドウ球菌」に相当する。

(3)引用発明の「細胞壁合成酵素PBP2’を抗原抗体反応に基づくイムノクロマトグラフィー検出法を用いて検出する」ことは,引用例1の摘記(1-オ)に「細胞壁合成酵素PBP2’を抗原として、これに対する抗体を用いた抗原抗体反応に基づく検出法である」と記載されているように,細胞壁合成酵素PBP2’に対する抗体を用いて検出を行うことである。一方,本願発明の「PBP2a(Penicillin-binding protein 2a)に対するニワトリIgYを用い」て「検出」することは,本願明細書に「本発明の検出法では、PBP2aに対するIgYとPBP2aとの間の抗原抗体反応を利用する。」(【0015】)と記載されているとおりである。
してみれば,引用発明の「「細胞壁合成酵素PBP2’を抗原抗体反応に基づくイムノクロマトグラフィー検出法を用いて検出する」ことと,本願発明の「「PBP2a(Penicillin-binding protein 2a)に対するニワトリIgYを用い」て「検出」することとは,「PBP2a(Penicillin-binding protein 2a)に対する抗体を用い」て「検出」する点において共通するものである。

したがって,本願発明と引用発明とは,
(一致点)
「PBP2a(Penicillin-binding protein 2a)に対する抗体を用いるメチシリン耐性ブドウ球菌の検出法。」
の点で一致し,以下の点で一応相違する。

(相違点)
抗体が,本願発明では「ニワトリIgY」と特定されているのに対し,引用発明ではそれに特定されていない点。

2 当審の判断
上記相違点について検討するに,引用例1の摘記(1-エ)には「特に偽陽性が懸念されるのは、黄色ブドウ球菌の細胞膜に存在するプロテインAである」と記載され,黄色ブドウ球菌の検出におけるプロテインAの存在による擬陽性の懸念が示されている。このことは,多剤耐性ブドウ球菌は引用例1の摘記(1-イ)のとおり黄色ブドウ球菌を含むものであるから,引用発明の多剤耐性ブドウ球菌の検出方法においても,懸念される事項であるといえる。一方,引用例2の摘記(2-ウ)には,ニワトリ免疫グロブリンであるIgY(本願発明の「ニワトリIgY」)は,哺乳動物から得られる抗体と異なり,黄色ブドウ球菌の産生するプロテインA及びプロテインGと非免疫学的な結合をしないことから,抗体としてIgYを用いることにより,哺乳動物由来の抗体と非免疫学的に結合する物質や,それを生産する微生物等が混在している検体であっても,黄色ブドウ球菌を特異的に且つ高感度で検出することが可能となることが記載されている。
してみれば,プロテインAの存在による擬陽性の懸念を回避するため,引用発明において,引用例2記載のプロテインAと非免疫学的な結合をすることがない「ニワトリIgY」を用いることで,本願発明のごとく構成することは当業者が容易になし得たことといえる。
そして,本願発明による効果についても,引用例1又は引用例2に記載されている事項に鑑みて,当業者が予期し得ない格別顕著なことは認められない。
したがって,本願発明は,引用発明及び引用例2に記載されている事項に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


なお,請求人は,審判請求書において,引用例1の[0066](摘記(1-エ))の記載について,「第1引用例は、Fc部分を除去した抗体の使用及び界面活性剤の併用という、具体的且つ特有の解決手段を提示しています。この記載に鑑みれば、第1引用例は上記問題に対して他の手段を試みる契機ないし動機を与えるものではありません。」と主張する。
しかしながら,引用例1の[0066]の文脈に照らせば,「特に偽陽性が懸念されるのは、黄色ブドウ球菌の細胞膜に存在するプロテインAである。プロテインAは免疫グロブリンGのFc部分に強い結合性をもつ。」と,免疫グロブリンGの課題を述べた後に「免疫グロブリンGを使用する場合、Fc部分を除去した状態で使用し捕捉試薬部分では上記界面活性剤と組み合わせることで、プロテインAによる偽陽性を回避できる。」と記載されているのだから,請求人の指摘する記載は免疫グロブリンGを使用する場合の解決手段を述べているにすぎず,IgYとは無関係な記載であって,阻害事由とはいえない。
また,請求人は,審判請求書において,「第1引用例の出願人はその出願時において、第2引用例及び第3引用例の記載内容を把握した上で独自の発明を開示していると理解するのが妥当です。第1引用例においてIgYへの言及がないことは、明示的ではないものの、IgYの使用をむしろ否定ないし排除していると考えるのが自然且つ合理的です。」と主張する。
しかしながら,引用例1には,IgYへの言及はないものの,引用発明には,抗体の種類は規定されておらず,かつ,引用例1の段落[0066](摘記(1-エ))に「抗体は免疫グロブリンG、免疫グロブリンMなど特に種類は問わない」と記載されているのだから,IgYを排除していないと理解するのが自然である。仮に,引用例1がIgYを排除していないとまでは言えないとしても,せいぜい,IgYを排除しているかしていないか不明である程度のことで,明確に排除していないのだから阻害事由にはならない。
加えて,そもそも引用例1に係る特許出願の出願時に,該特許出願の出願人が,該出願の前に知られていたプロテインAとの非特異的結合を防ぐ課題の解決手段をすべて記載する必要は無く,該特許出願の出願人が審査官の引用した「第2引用例及び第3引用例(当審注:審決における引用例2に相当)」を知っていたとしても、引用例1に記載する必要はない。
そうであるなら,引用例1において,審査官の引用した「第2引用例及び第3引用例」について言及がないことは何ら不自然なことではないのであるから,請求人が主張するように「IgYの使用をむしろ否定ないし排除してい」るとまでは言えず,阻害事由にはならない。


第5 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり,審決する。
 
審理終結日 2014-12-22 
結審通知日 2014-12-24 
審決日 2015-01-07 
出願番号 特願2009-37160(P2009-37160)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加々美 一恵  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 三崎 仁
郡山 順
発明の名称 メチシリン耐性ブドウ球菌の検出法、検出用試薬及び検出用キット  
代理人 萩野 幹治  

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